逃げ出したペットを探せ!
|
■ショートシナリオ
担当:谷口舞
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:08月12日〜08月17日
リプレイ公開日:2005年08月20日
|
●オープニング
小鳥のさえずりが心地よい、朗らかな朝。
昨夜から続いていた雨も止み、彼は気持ちの良い青空に大きく背伸びをした。
ふと、外から荷馬車の音に気付き、彼は窓から外を眺めた。
「何だありゃ? 一杯材木なんか運んで‥‥あの丘の方向だと、ジェームスさんの家だな‥‥」
馬車は何台も丘へと続いていた。
何事だろうと後をついていった彼は思わず驚きの声をあげる。
ジェームスの家の壁にぽっかりと大きな穴が開いていたのだ。大人1人がゆうに通れる大きさだ。どうやら中から壊されたようで、庭に壁の破片が散乱していた。
「‥‥ジェームスさん‥‥また何か変なことをしでかしたな?」
錬金術師であるジェームスは、とかく変人であると村で噂がたっている。
家に開いた壁も、どうせ妙な実験でも仕出かしてしまった結果のものなのだろう、そう考え彼はきびすを返そうとした。
その時、近くの草むらからガサリと大きな音が聞こえた。
何の音だろうと覗き込み、彼はそのまま草むらの奥へと引きずり込まれていった。
―――――――――――――
「‥‥というわけで、どうにか探しだしてもらえませんですかね〜」
へらへらと愛想笑いをしながら、ジェームスと名乗る男性はギルド員に言った。
「ペットの捜索ということですが、そのペットの特徴を教えて頂けますでしょうか。捕まえるにしても、特徴が分からないことにはどうしようもありませんからね」
「ああ〜、そうですね〜‥‥ええ〜っと」
ジェームスは一枚の似顔絵が描かれた羊皮紙を差し出した。
そこに描かれていたのは一匹の蛇だった。浅黒いウロコに不気味な丸い斑模様を持ち、金色の瞳がぎょろりとこちらを睨みつけてきている。
表情をわずかに引きつらせながら、ギルド員は確認するようにジェームスを見上げた。
「あの‥‥もしかして‥‥‥」
「ええ、はい。可愛いでしょ〜、蛇のビーン君です。ちょっと目を放した隙に壁の穴から逃げちゃいましてね〜。かまれたら大変なので、捕まえて欲しいのですよ」
この種の蛇は基本的に小動物を餌とする。だが、不意に近づかれたりなど、身に危険が及ぼされると人を噛むことがある。彼らの体内にある毒は大人でも死に至る危険があるのだ。
「私はちょっと家の修理をしなくてはならないので、探してる暇がないのですよ。いや〜、お恥ずかしい話をしてすみません〜」
軽やかに笑うジェームス。彼の笑顔を見ていると、ことの重大さが全くと言っていいほど感じられない。
「‥‥とにかく、早急に手を打たなければいけませんね。村人が被害にあわれていなければ良いのですが‥‥」
「う〜ん‥‥そういえば、鍛冶屋のアルベン君が薮で蛇に噛まれた、なんて言ってましたね〜。私のビーン君の仕業じゃなければ良いのですが〜‥‥」
他人事のように告げるジェームスとは対象に、ギルド員は顔を青ざめさせた。
「‥‥すでに人を噛んでいる恐れもある‥‥のですね。ジェームスさん、場合によっては蛇を退治しなくてはなりません。それでもよろしいでしょうか?」
「あの〜‥‥出来れば‥‥殺さないでください‥‥大切な友達ですから〜‥‥」
「‥‥分かりました。出来る限り生け捕るよう、伝えておきましょう」
●リプレイ本文
●蛇をつかまえ茂みのなかへ
「‥‥晩ご飯げっと」
草むらに潜ませていた罠を徐に取り出し、橘木香(eb3173)は少しだけ満足な笑みを浮かべた。
罠の中に閉じこめられていた蛇と似顔絵を見比べ、ふむりと大きく頷く。
「‥‥煮て食べるのと焼いて食べるのと、どちらが美味しいでしょうか‥‥?」
「そうですね‥‥‥って、た‥‥食べるなんてそんな‥‥自分は遠慮させてもらいます‥‥」
大きく首を振り、壬鞳維(ea9098)はとんでもないと強く否定した。
「そうですか‥‥生はちょっと身体に悪い気がするんですが‥‥」
「いえ、食べませんから」
鞳維のツッコミも何処吹く風。木香はあれやこれやと調理法を想像していた。
「実際料理するのは俺なんだろうなぁ‥‥」
苦笑いを浮かべながら、レヴィ・ノア・ローレンス(eb1468)が呟く。
蛇を調理するなんて、どう考えてもゲテモノ料理の類い。作るのはともかく一体誰が食べるというのだろうか‥‥
「しかし、全然ビーン君とやらは捕まらないなぁ。やっぱり餌が悪いのではないか?」
ユラヴィカ・ジルヴェ・ナザル(eb1149)がひとつため息をつきながら言った。
やはり干し肉では食いつきが悪いようだ。ユラヴィカは飼い主への挨拶がてら餌の調達へと向かっていった。
「そう言えば、見舞いにいった連中がそろそろ戻ってくる頃だな。特に大事がないと良いのだが‥‥」
先日、蛇に噛まれたらしい鍛冶屋の少年を見舞いに、ジークリンデ・ケリン(eb3225)が別行動で動いていた。
今夜には見舞いも終えて宿へ戻ってくるだろう。
ジールリンデの話も聞くため、罠を仕掛け直した後、一同は一旦宿へ戻ることにした。
●蛇料理をたんのうあれ(!?)
「お帰り‥‥その様子だと、罠にはかかってくれなかったようだな」
ジェームスの家から戻ってきたソフィア・ハートランド(eb2288)は、一同の姿をみるなり苦笑いを浮かべた。
「‥‥晩ご飯食べる?」
「いや遠慮しておく」
差し出された、得体のしれない(形状からして、恐らく蛇であろう)焼き物をソフィアは即効で却下した。
断られては仕方ないと、木香はひとりでもぐもぐし始める。
「‥‥意外といけるかも‥‥」
程よい焼き加減でじっくりと焼かれた蛇は、皮がカラリとしていて淡泊な味わいだ。
団子状にしてスープに放り込んだ物もなかなかの美味らしい。
材料が材料なだけに、宿の厨房を借りて調理するわけにはいかないので、食べたいのなら現地で調理するしかないだろう。
「俺の故郷でも‥‥薬としてスープにする料理があるな‥‥作ったのなら食べるか‥‥」
ぱくりとアザート・イヲ・マズナ(eb2628)は、蛇の焼き物を口に運んだ。
数秒固まった後、徐にぽいと焼き物を放り出した。
「焦げてる‥‥不味い‥‥」
「そっ、それより! それぞれ報告をしませんか? ジークリンデさんやソフィアさん方の話も聞いておきたいです」
話をそらすかのように、鞳維はあわてて言った。
「ああ、俺も聴きたいな。結局‥‥アルベンを噛んだのは『ビーン君』だったのか?」
「残念ながらはっきりとは答えられません。噛まれたアルベンさんも驚いてすぐに逃げ出してしまわれたそうで、蛇が『ビーン君』だったかまでは覚えていないそうです」
薮からいきなり襲われたのだ。仕方のない話だろう。
特に命に別状はない様子だったが、念のため解毒剤を渡して、安静にするよう伝えたとジークリンデは言う。
「明日は私も探索に協力致しますわ。ただひたすら罠をはって待つだけでは『ビーン君』は捕まらないでしょうしね」
「ああ、助かるよ。何せ、罠を見張ってる奴が居眠りしてくれるんで、いつ捕まったのかすら分からないからな」
ちらり‥‥とレヴィは木香を横目に見る。
当の本人は素知らぬ様子で、もぐもぐと蛇料理の残りをかじっていた。
ちゃんと任務はこなしているが、どちらかというとぼーっとしている場面が多いため、こういった待つことの多い任務では、一瞬の気の緩みが目立ってしまっているのかもしれない。
視線に気付き、木香はきょとんと首を傾げた。
「うんまあ‥‥怒る気も失せてきたんで、宜しく頼むわ」
ぽむりとジークリンデの肩を叩き、レヴィはひとつ息を吐いた。
「その罠のことだが、良い物をもらってきたぞ」
そう言ってユラヴィカは小さな箱を近くのテーブルに乗せた。丈夫な木箱の中で何かがカサカサうごめいている。
怪訝な表情で見守る一同。ユラヴィカは心配ない、とほんの少しだけ木箱の箱をずらした。
箱のすき間から小さな顔がひょっこり飛び出る。
野良ネズミの子供といったところか。まだ大人には成りきっていない小さな身体と大きな瞳で辺りを見回し、懸命に鼻をひくひくさせて外の気配を伺っていた。
「‥‥えーと、もしかして‥‥」
「ビーンの好物だそうだ。特にこの位の活きのいい奴が大好きなんだそうだ」
さすがは肉食動物。子供の半分ほどもある大きさの彼なら、この程度のネズミは一飲みだろう。
「自分の作った餌では‥‥だめ、ですか?」
さすがに可哀相と思えてきたのか、鞳維が恐る恐る問いかけた。
その罠でも悪くはない、が‥‥やはりもっと効果的な手段をとるべきだとユラヴィカは反論する。
「そうですが‥‥あ、それなら‥‥そのネズミはおびき寄せる素材として使って、実際の餌は別の物をというのはどうです?」
「うーん‥‥まあ、それでも別に構わない。作る側に任せるよ」
たとえ好物の餌とはいえ、まだ生きている動物を使うのは忍びないと思っただろうか。
慣れれば単なる餌として扱えるものの、愛くるしい顔を目の当たりにしてしまうと、どうしても情が湧いてしまうものだ。
鞳維が可哀相と思うのも無理はないだろう。
「しかし、生きた餌が好物とはな‥‥ますますもって厄介だな」
ほぼ放し飼いにしていたという点からも、ビーン君はほぼ野性に近いといっていいだろう。
生け捕りはなかなかに難易な話のようだ。
「それとさ、蛇なんてみんな似たり寄ったりだ‥‥ろ? 何か特徴とか教えてもらってねぇか?」
「ああ、そういえば‥‥腹に模様を入れているそうだ。首輪や服はすぐに脱いでしまうので、見た目で分かるよう、白い腹に彫り物を入れてると言っていたな」
くびれのない胴体に布を巻き付けるのは難しい話だ。模様を付けているなら、少しは分かり易いかもしれない。
「まぁ、帰る前に罠もはっておいたし、あとは行動あるのみだ。とりあえず早く寝るとするか!」
「そうだな‥‥もう既に、眠っちゃってる奴もいるみたいだが、な」
一同が座るテーブルの隅で木香はすやすやと寝息を立てている。
ソフィアは木香をそっと抱き上げ、エールの追加注文をしている仲間達に告げた。
「私が部屋に運んでおくよ。皆もあまり飲んでないで、さっさと寝なよ。明日また早いんだからさ」
●蛇捕獲作戦
早朝。冒険者達は罠をしかけた森へと向かっていた。
「確かこの辺りにしかけておいたんだが‥‥」
レヴィは薮をかき分け、昨日置いておいた罠を探し始めた。
イヲもそれにならい、慎重に辺りの気配を探りつつ薮の中へと入っていく。
「‥‥木香‥‥どの辺に置いた‥‥?」
「んーとですね、多分その辺ですよー」
かなり無責任ぎみに木香は答える。
「待って下さい。その奥に‥‥大きな気配があります」
ジークリンデが一同を制した。
少し離れた薮が不気味にガサガサと揺れ始めた。
いつでも逃げられるよう構えながら、鞳維はゆっくりと茂みに歩み寄った。
「‥‥来ます!」
ジークリンデの声が上がると同時に、薮から大きな蛇が飛び出してきた。
「なっ‥‥! 思ったよりでかいな‥‥!」
「見てください、お腹の所に線が入ってます。もしかして‥‥あれがビーン君なのではないですか!?」
丁度、蛇の腹にあたる中腹部から背にかけて、ぐるりと1本線が引かれている。
絵の具かなにかで塗りたくられたのだろう。その部分だけ妙に浮きだっていた。
「ちょっと‥‥あの付け方は可哀相ですねぇ‥‥」
「ほらそこ! ぼんやりしてないでください!」
鞳維は素早く後ろへさがり、テントの布を網代わりに薮へ被せる。
ヘビをそこへ追い込んだ後、上から押さえつける寸法だ。
「ほら‥‥餌だ」
首に紐を付けたネズミをユラヴィカが放り投げる。
あたふたと辺りを暴れ回るネズミに気付き、蛇はゆっくりとした動作で標的をネズミに変えた。
「いいぞ‥‥よし、今だ!」
男2人がかりで布地ごとに蛇を押さえつける。
最初は何が起こったか分からず暴れていたが、次第に観念したのか、蛇は布地の下で大人しくなった。
「さて、と‥‥これを運べばいいだけだな‥‥」
「ところで、これどうやって運ぶんですか?」
ソフィアの鋭い指摘に一同の手が止まる。
「えーっと‥‥首に縄でも縛る?」
「いや、さすがにそれは無理だろう‥‥」
「あの錬金術師に来てもらえばいんじゃねぇの? 忙しいっつったって、そんなに遠くないんだ。捕まえてやっただけでも感謝してもらわねぇとな」
まずは一安心、とレヴィは大きく伸びをする。
とにかく生け捕りに出来たのだから充分だろう、と。
事件からしばらくの間。不思議なことに、ジェームスの家周辺で蛇の見かけなくなっていた。
村の人々はジェームスがまた何か仕出かしたのではないかと噂を立てていた。
腹を割かれ、丸焦げに焼かれた蛇の死体を子供達が見つけたのは、それから数日してのことだった。
「そういえば、ソフィアさん‥‥は、何しにジェームスの家に行ったんだ?」
ぽつりと問いかけたイヲに、ソフィアは目を瞬かせた。
「ああ。ビーン君がどんな姿をしてるか、聞きにいっただけだよ。まあ、あとあれは外れだね」
「外れ‥‥?」
「それにしても、あんな立派な蛇を見てたら蛇柄の鞄が欲しくなったな。誰か作ってもらえないか?」
「‥‥遠慮しておく‥‥」