ペット品評会開催

■ショートシナリオ


担当:谷口舞

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月18日〜10月21日

リプレイ公開日:2005年10月28日

●オープニング

 それは、ある日のお茶会の出来事だった。
「ほーっほっほっほ! やっぱりウチのジョセフィーヌちゃんが一番ザマス!」
「まぁ、ずうずうしいお言葉! そんな子よりウチのカトリーヌちゃんの方が可愛いざます!」
 のんびりと庭の手入れをしていたドイル子爵は、妻達の金切り声を耳にし、大きく息を吐いた。
「やれやれ‥‥お茶ぐらい静かに楽しめないものなのか‥‥」
 どうやら、それぞれの愛犬の自慢話をしているようだ。どちらも、可愛がりすぎて見る影もなくブヨブヨに太った老犬を、さも絶世を誇る珍獣の用に自慢しあっている。
 意地っ張りな2人のことだ、自分の意見を押し通そうと必死である。
 きゃんきゃん騒ぐ妻とその友人達から視線を移し、子爵は自分の足元で寝ていた猫に話しかけた。
「お前が一番幸せものだな。誰からもうるさく言われず、自由気ままに生きていられる」
 言葉の意味を理解したのか、猫は少しだけ首を持ち上げて「にゃーん」と一鳴きした。
「ちょっとあなた! 聞いてくださる? あのメス豚、ウチのジョセフィーヌちゃんを醜い(みにくい)肉の固まりだっておっしゃられましたのよ! どうしましょう!」
「‥‥ふむ。なかなか鋭い指摘じゃないか‥‥」
「‥‥何かおっしゃられまして?」
「あ、いやいや。そうだな、それは問題だな‥‥なら、品評会でも開いたらどうだ? その中で一番だとでも評価されれば、お前の友達もそいつのことを認めざるを得なくなるだろうよ」
「あなたにしては良い提案じゃない。いいわ、その品評会開催しましょう。そして、ウチのジョセフィーヌちゃんが一番だっていうことをあのメス豚に知らしめてやるのよ、おーっほっほっほ!」

 それから数日後。
 冒険者ギルドの案内板に一枚のチラシが貼り出された。
 羊皮紙に記された上品な文字とサインに、また貴族の戯れが始まったな、と人々は呆れるようにそれを眺めていた。
「あなたのご自慢のペットを披露してみませんか? 我がペットこそが一番と思う人は是非ともご参加ください! ‥‥か。ペットを自慢し合ってどうするんだろうな?」
「さあ‥‥容姿と賢さの勝負をするみたいだな。自分じゃ特にしつけとかしたこと無いからなー」
 ただ、気になるのが誰でも参加できる割には、そこそこに賞金が高いことだ。
 審査するのは主催者でもあるドイル子爵は特に動物好きという話も聞かない。
 単なる暇つぶしとして、開催することにでもしたのだろうか?
「ま、遊びで参加してみるのも良いんじゃないか?」
 社交界の品評会ならば、お茶をたしなみながらというのが多い。
 ただで飯にありつける貴重な機会だと、優勝などより、食事目当てで参加する輩もいるようだ。
「参加するとなると、少しは着飾ってやらないとな。おい、喜べ! 今日はご馳走と身体を洗ってやるぞ」
 大好きなご飯と大嫌いなお風呂の提案に、彼の傍らにいた犬はなんとも言い難い表情で首を傾げるのだった。

●今回の参加者

 ea0655 シェリス・ファルナーヤ(20歳・♀・ジプシー・エルフ・イスパニア王国)
 ea2929 大隈 えれーな(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4885 ルディ・ヴォーロ(28歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 eb2509 フィーネイア・ダナール(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・インドゥーラ国)
 eb3087 ローガン・カーティス(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

シャロン・アリア(eb3505

●リプレイ本文

●品評会会場にて
 珍しく朝から快晴の穏やかな日。
 夫人自慢の庭を使い開催されたガーデンパーティには、多くの人々が訪れていた。
 美しく着飾る女性達が優雅にお茶を楽しむ中、犬やら猫やらが元気に駆けずり回る。
 甘い香りのする草花に興味しんしんだったり、樹木になる果実を必死に取ろうと体当たりをしかける始末。
 まだ夫人はそのことに気付いていない。庭師と子爵はいつ夫人に気付かれるか気が気でなかった。
「あらあら、困った子が多いようですわね。パンチョ、ここで少し大人しくしていてくださいね。出番が参りましたら呼びに参りますわ」
 パーティ会場の傍にある厩舎へペットのロバを預けると、大隈えれーな(ea2929)は真っすぐに品評会主催である子爵の元へと訪れた。
「あ、えれーなだ。おーい、こっち空いてるよー!」
 相棒である鷹を肩に乗せたルディ・ヴォーロ(ea4885)が大きく手を振り呼びかける。
 気付くと、シェリス・ファルナーヤ(ea0655)とローガン・カーティス(eb3087)の姿もあった。お互いそれぞれの相棒達を紹介していたところのようだ。
「今丁度、馬について話してたところなんだ。確か、えれーなもロバを飼ってたろ? 大切にしてる点とか教えてやってくれないか?」
 そうですね‥‥と、木製の椅子を引き寄せながらえれーなは呟く。
 ペットの善し悪しはその体型を見ればすぐに分かる。肉付きや毛並み、何より顔つきの善し悪しで、飼い主がどれだけ愛しているかで大きく変わってくるのだ。
 慈しみを込めて接していれば、言葉は通じなくても心は通い合うことが出来る。ペットの世話をしてやると、不思議と相手の態度が分かるのだ。
 何を欲し、自分をどう思っているのか。
 えれーなは自分の体験を交えながら、従順な動物達の世話について話を交わした。
 冒険者にとって、ペットは下僕というより、頼もしい相棒に近い存在とも言える。そのため、子爵が時折もらす言葉に僅かながら苛立ちを覚えつつも、彼らは比較的穏やかに会話をすすめていた。
 ローガンの傍らで羽根を休めていた鷹が不意に顔を持ち上げた。
 入り口の門をじっとみつめ、ピィーッと鳴き声をあげる。
「どうした」
 視線の先に1匹の犬を連れた女性がいた。
 礼装に身を包み、辺りをやや警戒しながら歩いてくるフィーネイア・ダナール(eb2509)の姿に、ローガンは苦笑いを浮かべる。
 さすがに貴族達の集まる場所では、正体がばれては困るのだろう。生まれながらの宿命とはいえ大変だな、とローガンは人に聞かれぬように呟いた。
「どうかなされました?」
「いや、何でもない。それより、そろそろ品評会を始めないと日が暮れてしまうぞ?」
 空はもうすでに傾き始め、辺りは暗く成り始めている。
 この季節、イギリスの1日はとても短い。昼を少し過ぎたあたりから日が暮れ始め、教会の鐘が鳴る頃には夜の帳がキャメロットの街を覆い隠してしまう。
「ミーちゃん、めいっぱい踊って楽しみましょうね?」
 シェリスは膝元で丸くなっていた猫の喉を優しく撫でた。猫は嬉しそうにごろごろと喉を鳴らし、うっとりとした表情をみせる。
 子爵が壇上にあがると、自然に人々の視線が彼に集まった。
「えーと‥‥それではこれよりペット品評会を開催致します」
 礼儀程度の拍手がぱらぱらと沸き起こる。
 早速とばかりに、夫人は立ち上がり、旦那を押しのけて挨拶をはじめるのだった。

●曲芸披露
「それでは次に、ルディ・ヴォーロ氏と相棒のファーン君をご紹介致します。どうぞこちらへ」
「よし僕らの番だ、ファーンおいで!」
 ルディは右手で軽くコインを空へ弾き上げる。相棒の鷹は力強く空へ飛び上がったかと思うと、素早く空中でコインを口にくわえた。
「ほう‥‥さすがだな」
「鷹も優秀ですが、ルディさんの投げ方もお上手ですね」
 2人で行う曲芸は片方が優れているだけでは成功しない。お互いの呼吸と心配りが大切なのだ。
「早くも優勝候補現るってところかしら。私達も負けちゃいられないわよ、ミーちゃん」
 なー。
 早く踊りたいのか、猫はきょろきょろと辺りを見回し始めた。
「うん、良い子ね。もうすぐだから大人しくしていようね」
 まるで子をあやすようにシェリスは猫を胸に抱く。それをちょっぴり羨ましげに夫人の犬が見つめていた。
 ルディと相棒ファーンの織りなす曲芸が終わると、途端に拍手が沸き起こった。
「私が先に行かせてもらおう。こいつは‥‥日が落ちては充分に動けなくなるからな」
 ふわりとローブをひるがえし、ローガンはゆったりとした足取りで拍手の雨の中へと向かっていった。
 
●不死鳥降臨?
 イギリスは霧の夜の街とは誰が言いはじめたのだろうか。
 いつのまにか辺りは暗くなり、霧がかかり始めてきていた。
 壇上ではローガンが自慢の鷹を紹介している。エルフ特有の細い腕にとまる鷹は何と映えることだろうか。決して見目は美しいほうではない、だが、野性味あふれる姿はまさに森の狩人と呼ぶにふさわしい鳥である。
「失礼致します。危ないですので、もう少しお下がりください」
 従者達がいそいそと会場のあちこちに薪がはいった鉄籠を設置しはじめた。薪に火をつけると少し霧がかった庭園が明るく照らし出される。
 火が灯されたことを確認し、ローガンは意識を集中させた。彼の身体が赤く輝き、彼の周りに不可視の力が集まり始める。
「深淵に猛りし業火は、久遠の輝きを以て我が手で戯れる。森の狩人よ、焦熱に抱かれ舞い上がらん!」
 ローガンの周りにあったかがり火が大きく膨らんだ。ごうっと音をあげて、腕にとまっている鷹の周りに集まり出す。
 まばたき程の時間であった。悠然と火をまとい雄々しく翼を広げるその姿は、まるで火の精霊を彷彿とさせた。一瞬にして火は宙にかき消え、霧に溶け込むように火の粉が辺りに舞い散った。
「‥‥指輪の加護があっても、さすがにきつかったか」
 自分はともかく、相棒の鷹にはそれが限界だった。
 獣にとって火は天敵。人でも絶対の安全がなければ触れる勇気すら湧かぬだろう。
「思いきったことするなぁ‥‥」
 素直な感想をルディがもらす。耐火の術が無い状態であれほど近くに火を集めては、恐らく相当な熱を肌で浴びたはずだ。表情こそ変えていないが、熱による痛みで鷹をとまらせているのは苦痛であろう。
「さあ、ミーちゃん。次は私達よ、頑張りましょうね」
 軽やかな足取りでシェリスは舞台へと向かう。と、ふと脚を止めて、フィーネリアに手を差し伸べた。
「良ければ歌ってもらえない? リズムがなくちゃ踊れないもの」
 フィーネリアは返事の代わりに、彼女の手を握りしめた。
「思いきり楽しい詩をお願いね」
「ええ、分かったわ」
 2人は顔を見合わせながら艶やかに微笑んだ。

●ジプシーダンス
 ステップを踏む度、揺れる影。燃え盛る炎に彩られ、シェリスは手を打ち鳴らしながら舞い踊る。
 ふわりふわりと揺れる衣装に飛びついているのは彼女の愛しい友達、白猫のミーだ。その後ろをついて回ってるのはフィーネリアが連れてきたコリー犬アリオト。彼は踊っているというより、興奮して飛び跳ねているという印象の方が強い。
 南の地域を彷彿とさせる情熱的な踊りに合わせて、フィーネリアが故郷の詩を歌う。
 かがり火の炎と、聞き慣れぬ異国の詩と、情熱的な踊り(とこっけいな動物達の踊り)に、観客達はすっかり魅了されていた。
「まるで精霊が踊っているようだな‥‥」
 普段、クールなローガンですらシェリスの舞いに釘付けになっていた。
 踊りが終わると、観客全員が立ち上がり、盛大な拍手が沸き起こる。
 まだ踊り足りないのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねるコリー犬を抱き、フィーネリアはお疲れさまと優しく頭を撫でてやった。
「えー‥‥素晴らしい踊りを披露して下さったお2人に、もう一度盛大な拍手を!」
 降り注がれる拍手と声援に向かい、踊り子と歌い手はゆっくりと一礼した。
 
●ロバの取り扱い
「さて、それでは次のかたどうぞ!」
 案内に導かれ、えれーなとロバが壇上にあがると、途端貴族達からざわめきの声があがった。
「‥‥ロバ‥‥ですか」
「あれもペットなんですの?」
 彼らは馬やロバは移動する際の足替わり、道具のひとつと見ている者が多いようだ。それゆえにまさかペットでロバが紹介されるとは思ってもみなかったのだろう。
「‥‥立派なものだな。毎日手入れしてなければ、あのたてがみと毛づやは作り出せないな」
 わざと大きな声でローガンが告げた。
「そ、そうね。あの立派な足はどんな荷物だって運べるわ」
「うん。そうだそうだ」
 冒険者達の言葉に、ざわめいていた貴族達も「そうだな」と頷きあう。
 ようやく落ち着いたところで、えれーなはペットのパンチョの紹介を始めた。
「ロバは私達の友であり、頼れる仲間であり、とても従順なしもべでもあります。どうでしょう、この毛並みと愛らしい瞳! 一般家庭でも安心出来る大きさ! どれをとっても素晴らしいペットで‥‥」
「あっ、こら!」
 人々の足元をすり抜けて、魚を口にくわえた白猫と夫人の犬が飛び出してきた。
 突然の出来事にパンチョは少しびっくりするものの、傍にいる主人に迷惑をかけてはいけない、とすぐさまえれーなの傍らで落ち着いた。
「あらあらあら! ジョセフィーヌちゃん! おいたはだめでしょ!」
 ペットに負けない程の、豊満な肉を揺らして夫人は愛犬の後を追う。
 一時呆然とする中、えれーなはひとつ咳を払い、改めて一礼した。

 その後、庭に逃げ込んだ夫人の愛犬の捜索に手間取ってしまい、結局品評会は中途半端な結果となってしまった。
 その中でも、一番印象に残っていたという踊り子と歌い手達のダンスに、子爵は金一封を捧げることとしたようだ。
「うーん、とはいえ、半分に分けるには中途半端な額なのよね」
「折角だからぱーっと使っちゃう?」
「そうね。皆で飲んじゃいましょうか」
「わーいっ!」
 暮れ始めたイギリスの夕日を背に。
 一行は馴染みの酒場へと向かっていった。