暴走シフール【ぶらしふ団】
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■ショートシナリオ
担当:谷口舞
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月15日〜12月20日
リプレイ公開日:2005年12月26日
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●オープニング
イギリスのシフール達の間でひそかに囁かれていた悪の秘密集団‥‥そう、腕に『BS』の文字が書かれた黒い腕章を付けた、ブラックシフール団という奇妙な連中がいることを知っているだろうか?
かつてケンブリッジの夜を駆けていた彼らも、いつしか噂だけの存在となり、人々の頭からすっかり消えてなくなろうとしていた。
が。
彼らはまだ頑張っていた。
活動らしい活動は出来ていなかったが、活躍の場を狙いながら水面下で準備を行っていたのだ。
そして、今夜。ブラックシフール達は酒場に集まってきた。
「いよいよ僕達ブラックシフール団イギリス支部(勝手に命名)が活躍するときがきたのだ!」
「おー! ‥‥あ、おねぇさーん、エールと野草のキッシュおねがいー」
「こらーっ、ご飯はあとあと! 先に説明するから注文しちゃだめー」
「えー。お腹が空いてたら力でないもーん」
勝手に注文を始めるシフール達に、リーダー格らしいフリーウィル学生服姿のシフール少年は大きくため息をついた。
「よぉし、とっておき見せちゃうぞーっ。じゃじゃーん、これをみろっ!」
彼がとり出したのは一枚の大きなマントのような布だった。
真っ赤な生地に、蛇の刺繍(ししゅう)が施された、なかなか立派な代物である。
「ブラックシフール団の旗をついに手に入れたんだ!」
「‥‥黒い方がよくなーい?」
「いいのっ、赤くて派手な方が目立つだろ? 旗も手に入れた時だし、とりあえず朝市を駆け巡ろうと思う!」
「えー。朝寒いー」
「寒いくらい気合いで吹き飛ばすんだー!」
と。にぎやかに話を交わす仲間達を横目に、1人のシフールがこっそりその場から抜け出した。
彼が向かった先はイギリスの冒険者ギルドだった。
聖夜に向けて準備が忙しく、ギルドは多くの人であふれていた。その中を掻き分けるように飛び、彼は受付に滑り込む。
「た、大変だよ! 大事件が起こるよ!」
「あらあら、シフールさん落ち着いて。どうしたの?」
「落ち着いてる場合じゃないよ、港の朝市で大混乱が起こっちゃうよ!」
「ほう、それは興味深いな」
1人の騎士が話に割り込んできた。彼の姿を見て、ギルド員が「あら」と声をもらす。
「いつもしている赤いマント、今日はしてないんですね」
「あー‥‥なんか酒場で無くしたみたいなんだよ。探してるんだが、見つからなくてな」
「あのー。もしかして、そのマント。縁っこの方にきれいな刺繍とかしてるやつだったりする?」
「おお、少年、良く分かったな! ああ、そうだ。マントの端に我が輩の家紋である蛇の刺繍が入った素晴らしい一品だ」
「‥‥もしかしたら、それ見たことあるかも」
ぽつりと呟く彼の肩に、騎士は握りつぶさんばかりの勢いで手を乗せる。
「何処だ、何処で見た!」
「いたいたいたいたいーっ! えっと‥‥あのー。それじゃあ皆で協力してもらえる?」
シフールの彼はブラックシフール団の野望と、彼らが騎士のマントらしきものを持ってることを説明した。
「多分、言ってはいそうですかって返すような連中じゃないよ。だから、ちょっと無理やりに取り返すしかないんじゃないかな」
当日、彼らは旗を掲げて街を疾走するらしい。
行き当たりばったりな彼らのことだ。ルートのことなどみじんも考えていないだろう。
「‥‥ねえ、リーダーさんとかの好物ってわかる?」
「‥‥もしかしてお姉さん、餌で釣ろうとか思ってる? 僕達はそんなに‥‥うーん‥‥キッシュかな。卵とクリームをたっぷり使ってふんわり焼いたやつ」
「ふむ。それもひとつの案か」
果たして無事にマントを取り戻し、ブラックシフール団の暴走は止められるのだろうか。
楽しげに作戦を練る冒険者達を眺め、ちょっぴり不安に思うシフール君だった。
●リプレイ本文
●朝焼けをながめて
窓を開けると、肌を刺すような冷たい風が入り込んでくる。
外はわずかにだが白み始めていた。まだ街は朝霧のベッドに包まれて眠りについており、時折港へ向かう馬車の音が眠りの街にこだましている。
大きく伸びをして、アースハット・レッドペッパー(eb0131)は寝ぼけている身体に新鮮な空気を胸一杯に吸い込んだ。
「さて、と。そろそろ行くとするか」
軽くパンをひとかじりして身支度を整えると、アースハットはゆったりとした足取りで部屋の扉を開けた。
●朝市
港の一角では朝市が開かれている。
無論、組合などに決められたものではなく、船乗りと商人とが個人的に売買していたものが大きくなったものなのだそうだ。
そのためか市で売られているものの殆どが船で運ばれた商品や長旅をする船乗り達のための保存食である。昨今は新鮮な果実やすぐに食べられる料理を売る店も増えてきており、ますます賑わいをみせているようだ。
一口サイズのパイをかじりながら、フォーレ・ネーヴ(eb2093)と藤村凪(eb3310)は街道に並ぶ露店を眺めてまわっていた。
「面白いモンが色々売ってはりますなぁ」
物珍しそうに見回す凪にフォーレはくすりと笑みをもらして言った。
「ジャパンにもこういう市はないの?」
「もちろんあるで。ジャパンの朝市とかやとお漬物や野菜なんかが中心やね。今の時期やと、そろそろ年越しの豆やら飾りを買うお客でごったかえす頃やね」
1年の締めくくりという大きな祭りをひかえ、その準備のために朝市をはじめ各地で市が開かれる。
長い雪の季節を迎えると、雪の少ない大都市はともかく農村は完全に雪に覆われてしまう。そのため早いうちから冬ごもりの準備を整えるのだ。
ふと、見覚えのある顔を見つけてフォーレは露店前で話し合っている男女に声をかけた。
呼びかけられた彼らは少し驚いた表情をみせるも、すぐさま笑顔で2人を迎えた。
「何してるの?」
「ええ。明後日1日だけこちらにお店を開くことになりましたので、その打ち合わせをしていたのです」
楽しげな様子でフィーネ・オレアリス(eb3529)は笑顔を浮かべた。
その奥で真剣に話しあっているのは田原右之助(ea6144)とこの場所の責任者のようである。調理、つまり火を使うために防火の対策や食料の仕入れの確認をしておかなければならない。特にもし火事になった場合、自分達だけではなく他の者達にも被害が及ぶのだ。
「お2人は見回りですか?」
「うん、どんなお店があるかとかちゃんと見ておかないとね」
いざ敵(?)を追いかけるとなると、地理に疎くては容易に捕まえることが出来ない。事前調査が大切だ。
「お2人も朝食がまだでしたら良ければ右さん特製のパイを食べていきませんか?」
フィーネが差し出してきたのは試食用にと事前に作ってきた野草入りのキッシュだ。
冷めてしまっているが、このタイプのものは冷えていても美味しい。早速、2人がそれを頂こうとした瞬間。
「いただきぃっ!」
一陣の風が吹いたと思うと、皿ごとシフールがキッシュを掠めとっていった。
腕には黒い腕章が付けられている。ブラックシフール団だ。
「わーい、ごちそうみーっつけたーっ」
「シフールさん、それはあなた方のものじゃありませんよ。食べたければまた明後日いらっしゃい、焼きたての美味しいキッシュをご馳走いたしますよ」
慌てることなく冷静に声をかけるフィーネ。シフールはぴたりと動きをとめると、キラキラした笑顔で本当かと問いかけてきた。
「ええ、お約束致します。ですからそれはこのお2人に返して上げてください」
「はーい」
シフールは素直に皿を返すと、また来ることを約束して空へと飛び上がっていった。
呆気に取られていた一同だったが、はたりと彼を捕まえておけばよかったのではないかと気付く。
「いいえ、まずは安心させてお店に来てもらうようにしないと行けません」
穏やかに言うフィーネ。
「でも、もし来なかったら‥‥?」
「奴らなら来るだろ。食い意地だけは人並み以上だからな」
そのためにも腕を振るってとびきりの料理をつくらなくては、と右之助は不敵な笑みをもらす。
食事をしながら雑談を交わしていると、ようやくアースハットの姿がみえた。
手には紙袋がちゃっかり握られている。何をしていたのかと問いかける仲間達に彼はあくまで市を見て回っていただけだと答えた。
「植木屋のおやじとつい話こんじまったよ。お、いいもの食ってるじゃないか」
「残念、アースハットさんの分はないよ」
「ふーん。じゃあ俺は予約をしておくか。マスター、とびきりのやつを当日おごってくれよ」
「それよか、その袋の中身は一体何やの? 植木?」
「いいや、うちで腹空かせてる奴らへの土産だ」
魚の卸市場でもらったという干物が入っていた。食べられないことはないが、商品には出来ない品なのだそうだ。
それだけでなく、アースハットは何人かブラックシフール団らしいシフールが飛び回っていたことを報告した。
「偵察というよりは子供のおつかい、という雰囲気だったけどな。でも落ち着かない感じで辺りをうろうろしてたぜ」
「ルートを確認していたんじゃないかな。場所は分かる?」
事前にチェック出来れば、こちらも敵を捕まえやすい。指差し確認程度であったが、アースハットはどの辺で見かけたかを告げる。
「‥‥見事に食べ物関係の店側を通ってるね」
「だから言っただろ、子供のおつかいだって」
少々不安も残るが、捕まえるのならやはり右之助とフィーネの店に寄ってきた所を一気にせめるのが得策だろう。
なるべく他の客に迷惑がかからないよう、その点だけは気をつけなくてはならない。
「相手のペースに巻き込まれければ問題ないだろうな。ま、頑張っていこうぜ」
●捕獲作戦
その日。朝市ではいつも以上の賑わいをみせていた。
1日だけ開かれるという喫茶店の噂は既に市場の人々の耳にはいっており、興味しんしんに集まってきたのだろう。
美味い料理と美人給仕を一目見ようと集まってきていた彼らを、ウェイトレス姿のフィーネは丁寧に対応していた。
「お待たせ致しました。鳥の包み焼きとシチューになります」
香ばしいパイの香りは店の外にまで漂ってきており、通りすがる人々は皆、足を止めて中の様子を眺めていた。
我らが暴れん坊、ブラックシフール団の一同もその例にもれず、犬の背にまたがり市場に颯爽(さっそう)と訪れたはいいものの、そのまま暴走することなく、美味しい香りに引き寄せられるように店の前に集まり出した。
「いいにおーい」
「僕、お腹すいてきたー‥‥」
その様子を眺めていた凪がぽつりと呟く。
「ほんまに寄ってきおったわ」
「もう少し警戒するとおもったんだけどね‥‥」
あきれ顔でフォーレもじっと彼らの様子を眺めていた。
人数自体は問題なかったが、いかんせん人通りが多い。やはり彼らを捕まえるとなると、1人づつ確実に捕まえて行く方がいいだろう。
団員の中のほぼ中央に、赤いマントを掲げたシフールがいる。彼が恐らくボスだろう。まずは彼から捕まえようと、凪とフォーレは互いに顔を見合わせ、人混みの中へそっと紛れていった。
●飛び出し注意
「お、頑張ってるな」
少し遅れて喫茶店に訪れたアースハットは店前の騒ぎを見つけ、にやりと笑みをもらした。
不意に人影からシフールが飛び出してきた。すかさず、アースハットは空いている手で印を結び力ある言葉を放つ。
「地に戒められしもの、汝全ての束縛より解き放たれる」
アースハットの脇にあった立て看板がふわりと舞い上がった。
突然目の前に立ちはだかる壁に気付かず、シフールは勢い良く、看板に派手な音を立ててぶつかった。
「きゅ〜‥‥お星さまがちってる〜‥‥」
ぱたりと地面に落ちたシフールを摘み上げ、アースハットはそのまま騒ぎのもとへと向かっていった。
●反省のあとのごちそう
「さあ、観念するんだ」
さすがにこれ以上店前で暴れては迷惑になると、アースハットは捕まえたシフール達を裏手へ移動させた。
身動きが出来ないよう縄でまとめて縛り上げられた彼らはむすりと頬を膨らまして自分達の周りにいる者達を睨み上げる。
「大騒ぎしたい気持ちは分かるけど、場所を考えようね。皆が迷惑するんだよ」
「迷惑させるのが、僕達のブラックシフール団の役目なんだっ!」
「でも、それをしたら美味しいキッシュは食べられないよ。どっちがいい?」
「う‥‥」
その時、何気なくアースハットがマントを拾い上げたのに気付き、リーダー役のシフールが暴れ出した。
「だめー! それは僕らの大切なものなのー! もってっちゃだめーっ!」
「こいつはちゃんと持ち主がいるんだ。そうだな‥‥こいつと交換、というのはどうだ」
そういってアースハットは懐から桃色の地に青い文字が刺繍された布を取り出した。怪訝そうな目で見守る女性陣をよそに、彼はいたって真面目な様子でリーダーの前に差し出す。
「こいつならこのマントに負けない派手さはあると思うぞ。マントよりずっと軽いし、何より旗にするには丁度良い長さもある」
「うーん‥‥赤いのも捨て難いけど‥‥大きな模様があるほうが目立っていいかなぁ‥‥」
「なら、成立だな」
これ以上縛りつけておく必要もない、とシフール達の縄をといてやる。
そのままにしておくわけにはいかないと犬を近くの柱に縛りつけた後、凪がにこやかに微笑みかけた。
「まだ朝ご飯食べてへんやろ? 美味しいきっしゅ食べていこか」
「わーい! 食べるたべるー!」
「ほんに子供みたいに元気やねー」
元気に飛び立つ彼らの後ろ姿をながめ、のんびりとそう呟いた。