はじめてのぼうけん
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■ショートシナリオ
担当:谷口舞
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月28日〜12月03日
リプレイ公開日:2004年12月07日
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●オープニング
その日、冒険者ギルドに1人の少年が駆け込んできた。
彼は大人達の脇をすり抜けながら受付のもとへ駆け寄ると、うんと背伸びをしてカウンターへちょこんと首を乗せた。
「坊や、どうかしたの?」
首を傾げながらも営業スマイルで話しかける受付係に、少年は大きな瞳を輝かせて言った。
「あのね、ぼくね、ぼうけんしゃになるの!」
「んー‥‥あなたがなるには、まだちょっと早いかな」
年はまだ7、8歳といった頃だろうか。冒険者として認められるには、まだ体格も知識も未熟すぎる。
だが、受付係の言葉に、彼は頬を膨らませて反論した。
「できるもん! ぼく、モンスターだってこわくないもん!」
「ほほう、元気な小僧だな。その威勢ならば、ゴブリン共も逃げていくだろうよ」
その時、丁度傍らにいた壮年の剣士がにんまりと笑みを浮かべた。
声のした方にくるりと振り向くと、少年は尊敬と憧れの眼差しで剣士に抱きついた。
「ね、ね、今から冒険にいくんだよね! 僕も一緒に連れてって!」
「残念だ。生憎と拙者達はこれから護衛の長旅に出るのだよ。少々危険な旅になる故、君を連れていくことはできんな」
「えー」
「しかし、お主‥‥ご両親から許可は頂いたのかね。勝手に冒険に出ては親御さんも心配されるぞ」
「‥‥パパとママはおしごとでいそがしいんだって。じぶんのことはじぶんできめなさいっていったんだ。だから、ぼくぼうけんしゃになるってきめたんだ!」
「ううむ‥‥しかし、冒険者になるにはまだ少し早いのではないのかね」
「はやくないもん!」
ならば、と剣士は懐の革袋を少年の眼前に差し出した。目を瞬かせながらそれを受け取る少年の頭を、剣士は優しく撫でてやる。
「少年よ。この金で冒険者を雇い、街の外へ冒険に出ていってみては如何かな。さすれば、冒険者たる者がどのような存在か良く分かるであろうよ」
キャメロットにほど近い街道ぞいを歩く程度ならば、そうそう魔物や賊にも出会わないはずだし、それほど危険はないだろう。冒険者ならともかく、一般庶民は街の外に出る機会など殆どない。街道を歩き、道中にある適当な広場で、簡単な魔法や剣技でも披露すれば、充分に満足してもらえるはずだ。
「一応、ご両親へはギルドの方から許可を取っておいて方が良いだろうな」
「そうですね‥‥坊や、お名前と住所を教えてもらえる?」
「ぼくアラン。アラン=パーカー。職人通りに住んでるんだ」
「パーカー‥‥ああ、あの靴屋さんの子ね」
受付係は書類に素早く必要事項を書き、少年に手渡した。
「はい、これを大切に持っていてね。街の外へ出る時必要になるの」
「はーい」
「‥‥夜になっても帰らぬとあれば、親御さんも心配されるだろう。日の暮れぬうちに必ず帰るのだぞ、約束できるかね?」
「うん、わかったー。おとこのやくそくだねっ」
「そうだ。約束をちゃんと守るのは冒険者として大切な心得だからな」
そう言って、剣士は少年の小さな両肩に手を乗せる。少年は大きく首を縦に振った。
「いいこと、坊や。今回は剣士さんの好意で連れてってもらえるみたいだけど、次はちゃんとギルドのお兄さんに認められた冒険者になってから来るのよ?」
「おいおい、拙者は今から仕事に行かねばならぬ。連れてはいけぬぞ」
「あ、そうでしたね。坊や、ちょっと待っててくれる? お姉さんが仲間を呼んで来てあげるからね」
「うん、まってるー!」
そう言って、少年は手近にあった椅子に駆けていった。
やれやれとひとつ息を吐き、受付係は冒険者達に声をかけていった。
「ねえ、新しい護衛の依頼が入ったんだけど‥‥受けてもらえるかしら?」
●リプレイ本文
その日の朝。開店準備をしていた靴屋のパーカーは、朝早い訪問者達にのんびりと挨拶をした。
「おはよーさん。すまんね、準備がまだ終わってないんだ。もうちょっとだけ待っておいてくれないか?」
「あ‥‥はい」
少し早すぎたかな、とルクス・シュラウヴェル(ea5001)は2階の窓を見上げた。丁度その時、鎧戸が開けられ、アランの元気な姿が現れた。
「あっ、おばさんおはよー! いまいくねー!」
「‥‥おばっ!?」
アランの何気ないひとことに、ルクスは軽いショックを受けた。たしかにルクスの年ならば、そろそろ家の中に落ち着き、子の1人や2人出来ていてもおかしくない。やはり日頃の疲れが出てきてるのかな‥‥と、ルクスは何とはなしに頬に手を添える。
「わーいっ! ぼうけんだーっ、ぼうけーん! おばさん、はやくいこーよー!」
「‥‥アラン殿。私にはルクス・シュラヴェルという名がある。ルクス、と呼んでもらえないだろうか。それに、旅の仲間ならば、名で呼びあう方が自然だろう?」
「うん、わかった。ルクス、よろしくね!」
「ああ。よろしく」
ルクスと同伴していたカノ・ジヨ(ea6914)は両親に挨拶を兼ねた日程の確認をしていた。大事な息子を預かるのだ。信頼おける態度を示せば相手も安心するだろう。
「それでは、いって参りますね」
「‥‥息子をどうぞよろしくお願いします」
母親らしき女性はそう言って深々と頭を下げた。
広場で待ち合わせていた仲間と合流し、予定通り一行は街道を回るコースへと移動した。
途中、エチゴヤの前で店頭に並べられた商品を眺める冒険者を見つけ、アランが歩みをとめた。
「‥‥ねえ、あのおにいちゃんたちはなにをみてるの?」
アランは傍らにいたガディス・ロイ・ルシエール(ea8789)の裾を引っ張りながら問いかけた。ガディスはフードを少しあげ、彼らの手もとを見つめて頷いた。
「ああ、あれはリカバーポーションだね。これを飲めば傷がすぐ治る便利なものだよ。旅に出るときとか、何個か買って持っていくんだよ」
旅に必要な道具はそれだけではない。その他にも携帯食である保存食のこと、遺跡探検に必要なランタンやロープ類、長期に渡る旅の共として必要な寝袋や毛布など、基本的な道具のことを解説する。
「買わなくちゃいけないの?」
「今は必要ないかな。今日は危険な旅じゃないしね」
下手に荷物を多くしては、便利なものも足かせとしかならない。準備も大切だが、体力に余裕をもって、身軽でいることも大切なことである。
ガディスの説明にアランは首をかしげつつも、なるほど、とつぶやいた。
「はーじーめーの、いーっぽ!」
イドラ・エス・ツェペリ(ea8807)に手をつながれ、アランは大きく足を開いて門をくぐり抜けた。
初めて見る外の世界。街とは違う雰囲気に、アランは見るもの全てに興味を示していた。
馬車のわだちにアランが転ばぬよう気をつけながら歩き、目的地である広場までゆっくりと歩いていく。途中、冒険での体験談を交えながら、アランの体力と気力に注意しつつ、一行はのんびりと街道の旅を楽しんでいた。
今日は幸いにもよく晴れており、馬車の通りも少ない。それでも、全くの安全を保障されている訳ではない。最後尾をつとめるカノは周囲を充分警戒して歩いていた。
「カノはどうしてもりをみてるの?」
「森にはね、こわーい魔物やお化けがいっぱいいるんだよ。もちろん、森にあるのはそれだけじゃない、物語に出てくる不思議な妖精やお宝だってあるんだけどね。そういった、森にある不思議な者達は時々森の世界から抜け出して、外に出てきちゃうんだ。うっかり出てきて、僕達をおどかしたりしないかをカノさんは注意しているんだよ」
リン・ティニア(ea2593)はにこりとほほえみながら言う。さすがに本職であるためか、アランに分かりやすい言葉を選んではなすのも仲間のうちの誰より上手だ。
「この丘を越えた辺りで少し休憩しましょうね」
「そのあと、イドラがけんのしゅぎょうをおしえてくれるんだよね!」
「ええ、そうですよ」
イドラは穏やかな表情でアランを見下ろした。その表情は、こうして対等に話が出来ることに、少なからず彼女自身喜びを感じているようにも見えた。
「ぼうけんしゃってどんなごはんたべてるの? きっとすっごいごちそうなんだろうなぁ」
楽しげに言うアランを横目に見て、ルクスはイドラにささやいた。
「‥‥食事、本当にあれでいくのか?」
「‥‥冒険者の体験をするのなら、あれが一番良いって皆で決めたじゃないですか‥‥」
「それはそうなんだが、こうも期待されると少し、な‥‥」
「良いのですよ。料理の味も含めての体験なんですし、冒険者を目指すならば知っておいた方が良い味ですからね」
イドラは少し含み笑いを浮かべながら静かにそう言った。
丘を越えると、そこは開けた広場になっていた。以前、ここに貴族の屋敷があったのだが、一時期を境に一族は没落し、今ではその名残を見せる跡だけが残されていた。
冬のイギリスは日の入りが早く、広場に到着した頃にはわずかにだが傾きはじめていた。暗くならないうちに帰るには、あまり長居は出来ない。
ルクスは集めてきた薪に火をつけて、保存食である干し肉を軽くいぶし始めた。
「そのままだとさすがに食べづらいからな。こうすれば肉も柔らかくなって美味しいだろうよ」
「なんかへんなにおいがするー」
「味より保存性を重視したものだ。多少の匂いと味は我慢してくれ」
受け取った干し肉をアランはおそるおそる口に運ぶ。途端、渋い顔をさせて非難の声を上げた。
「すごくかたいし、にがいー」
「‥‥煮込んだ方が良かったかな」
「東の方だと香辛料をかけたりして食べる方法もあるらしいね」
苦笑しながらリンは干し肉をかじる。
「ぼうけんしゃってこういうのたべられなくちゃだめなのー?」
「好き嫌いせず、何でも食べることは大切だよ。食事を毎日取って丈夫な体を作らないと、お姫さまを助けにいけないよ」
「うー‥‥ぼく、がんばる」
「いい子だ。その言葉を忘れずにいなさい。どのような職においても、健全な体は大切だからな」
体力なくては出来ないことは多い。冒険者を目指すものならば、尚更、健全な肉体づくりは大切である。
「では、休憩の間に、私のとっておきの技を披露しちゃうね」
カノはアランの目の前に降り立ち、胸にさげていたネックレスを掲げた。
神に捧げる言葉を唱えると、カノの体がゆっくりと白い光に包まれていく。
「優しく清らかなりし聖なる母よ、その慈悲を持って彷徨いし者達を正しき道へとお導き下さい‥‥」
カノはすぐそばにあった塀のがれきを指差した。カノを包んでいた光はまっすぐにがれきへと飛び、一瞬にして覆いかぶさった。
だが、光はがれきに亀裂を走らせただけで、煙のように飛散し消えていった。
「いまの‥‥もしかしてマホウ!?」
「聖なる母の力を借りて悪い人をやっつける技よ。魔物をやっつける時に有効なの」
「ふーん。ぼく、いいこにしてるからあたってもだいじょうぶだね!」
「きっとそうね。試してみる?」
「こらこら、怪我をさせる危険を作ってどうするんだ」
眉をひそめるルクス。無論打つつもりは無い、とカノはふわりとアランの頭に飛び乗った。
「私達の任務はアラン君の護衛だもの、ね」
傍らにいたリンはいきなり話を振られて目を瞬かせた。自分も魔術を披露しようとしていただけに、少し返事に困りつつも、同意の言葉を返す。
「きけんじゃないもん、ぼくだってつよいんだぞー!」
アランは腰に下げていた棒切れを抜き、大きく振り回した。苦笑しながらそれを片手で受け止め、イドラは静かに告げた。
「たとえ棒であろうとも、無闇に振り回すものではないわよ‥‥いいでしょう、私が剣技を教えてあげます」
「そろそろ帰ってくる頃だねぇ‥‥」
店の外を何度も気にしながら、靴屋のパーカーは大きく息を吐いた。
経験豊かな専門家と一緒の旅だ。きっと無事に帰ってくるだろう‥‥そう信じてはいるのだが、やはり彼も人の親、心配なことには変わりない。
カラン、と扉のベルが鳴った。彼は慌てて入り口を見やる。
「ただいま戻りました」
アランをおぶさったルクスの姿にパーカーは目を見張った。大丈夫、と言葉を添えて、ルクスはパーカーにアランを手渡した。
「遊び疲れて眠っただけだ。よほど楽しかったようだな」
「最後の最後まで迷惑をかけやがって‥‥今日一日おつきあいしてもらって、ありがとうございました」
「私達も新鮮で楽しかったよ。それに、良い靴屋と知り合いになれたことだしな‥‥今度は客として寄らせてもらうよ」
「そうですか、こちらも楽しみにお待ちしております」
深々と頭を下げるパーカー。
きびすを返してルクスは街の喧噪へと戻っていった。
「お疲れさまでした」
外で待っていた一行に、ルクスは軽く手を挙げて返事をする。
「さすがは騎士様だね、こういう役目が実にお似合いだよ」
リンの言葉にルクスはひとつ息を吐き出す。
「まあ、ガディス殿やイドラ殿に頼むわけにはいかぬからな‥‥」
ちらり、とルクスは2人を見やる。
彼らの中に流れる血は一見しただけでは分からない。
だが、用心に超したことはない。忌みなる種と接触したと知れば、両親に余計な不安を与えるだけだ。
「さて、任務完了の報告をギルドにしてきましょ」
「ああ‥‥そうだな」
今頃きっと彼は、両親の見守られながら、夢の中で今日の冒険を繰り返しているのだろう。
「またいつか、今度は冒険者として会えるといいね」
鎧戸が下ろされた窓辺を見上げ、リンはそう言葉を紡ぎ上げた。