帰ってくるまでが冒険です!
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:谷山灯夜
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 76 C
参加人数:8人
サポート参加人数:5人
冒険期間:11月03日〜11月08日
リプレイ公開日:2008年11月12日
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●オープニング
「あともう少しで完成じゃの」
老人は丹精を込めて作った造形物の出来に満足していた。と、言っても彼は彫刻家でもなければ芸術家でもない。彼が造り上げたのは地下迷宮、ダンジョンであった。
ロシアには洞窟も多数ある。その中のひとつに目をつけ、罠を張り巡らせご苦労な事にモンスターまで配置をした。
何のため?
そう聞かれても趣味のためとしか言いようがない。最初はもちろん財宝を隠すつもりで作っていたのだが、いつしかダンジョンの完成度を上げる方向へ思考が向かったらしい。若い頃はウィザードとして知名度もあった老人は魔法やスクロールを駆使してここまで造り上げたのだ。
「ちょっと早いが祝杯を上げるのもよかろうて」
老魔道師は一番奥の部屋、つまり財宝を隠している部屋に入っていく。ここには食料や水の備蓄もあるしワインもたっぷりと用意している。彼は棚の上からとっておきのワインのボトルを取ろうとした。だが、手を伸ばそうにも届かない。仕方がないので棚の段に足をかけてボトルを取ろうとした。が。
がっしゃーんと激しい音が迷宮に鳴り響いた。
小一時間後にひとりの老人がそれ程大きくはない部屋の中で目を覚ます。一体、自分は何でこんな所で倒れているんだ?
それよりももっと恐ろしい事に気が付く。わしは一体、誰なのだ?
慌てて部屋から出て先に進むとそこには恐ろしいモンスターの影が見えた。牛の角を生やしているかに見える巨大な影。慌てて元の部屋にと戻っていく。
「わしは一体誰なのじゃ? そしてここはどこなのじゃ!」
そんな事があった数日後、冒険者ギルドに依頼を持ってきた青年がいた。レフ・カリンと名乗る青年は行方不明となった祖父の捜索を願い出た。
「で、なんでまたダンジョンの中にいると思うんですか?」
受付はあまりの依頼内容に困惑を隠せずにいる。
「う〜ん。何でかと言われても、そこに穴があるから、としか」
レフという青年は呑気そうに答えた。
「ステバンおじいちゃんもそこそこ名の通ったウィザードだから大事はないと思うんだけど、こんなに帰って来ない所をみると、罠が誤作動したかモンスターが暴れたかそれとも単純に帰り道が分からなくなったかのどれかだと思うんだけど」
老人一人がモンスターが徘徊するダンジョンの中に取り残されているという割に、レフは全く動じていないようにしか見えない。
「ちなみに、どんなダンジョンで、どんな罠があってどんなモンスターがいるんでしょうか?」
受付もあまりの話の流れに目眩を感じながらも仕事を進めて行こうとする。
「えっと、ダンジョンは襲い掛かる矢のトラップを突破しながら一番奥の部屋へと向かうんだけど、奥の部屋の手前にはミノタウロスがいるから。で、お約束だけどミノタウロスを倒してから奥の部屋に進んで扉を開くと、来た道が閉ざされてしまうんだ。これで別のルートを通らないといけなくなるんだ。これが結構くせ者でね。途中ジャンプか空を飛ばないと越える事が出来ない穴が開いていたり、その後でもゼラチナスキューブが徘徊していたりと、あれはおじいちゃんの作った最高傑作だね! ちなみに僕は行かないよ、だって行ったら命がないもの!」
ああ、兎にも角にもこういうマニアが作ったダンジョンなのね、と受付は溜息をついて依頼をまとめ上げた。とりあえず宝箱をどうこうする前に荷物として老人を担ぎ上げてこなければいけないんだろうな、とあまりにもロマンが少ない洞窟探検に他人事ながら気が滅入りそうになる受付であった。
●リプレイ本文
●鋭角の通路
「ダンジョン作りとは楽しいものなのだろうか」
当然過ぎる疑問を持ちながらジャパンの忍者、双海一刃(ea3947)が洞窟を利用したダンジョンを進んでいく。その傍らでハロルド・ブックマン(ec3272)が緻密な地図を書き上げていく。行きと帰りでは道が違うと事前に聞いてはいたが、何があるかは分からない。ましてやトラップだらけにモンスターも配置されていると説明を受けたダンジョンなのだ。
「モンスターが守る財宝‥‥。お身内が相続できるかも怪しいですね」
愛らしい表情から発せられる言葉が辛辣に聞こえるのは気のせいだろうか。セフィナ・プランティエ(ea8539)がハロルドの補佐を努めながら率直な感想を漏らす。出発前に今回の依頼主にて遺産の相続人になるだろうレフ・カリンに会った。感想で言えばとても冒険に向いていない。ステバンがもし遺産を相続させようとした場合、どうやってレフに迷宮を突破させる気なのだろう。更に言えばステバンに出会った時、要らぬ混乱を起こさぬようにレフから一筆を貰ったのだが、その際執拗に口説かれた事も気に障っていた。レフはどう見ても自分より年下である。なのにレフはセフィナを年下のように見ていたのである。
「毒矢に落とし穴にどこからかモンスター。 帰る前提で作ってないでしょ、これ」
セフィナに同意するのは同じくレフに口説かれたもう一人、清楚で可憐な神聖騎士、セシリア・ティレット(eb4721)である。
「こっちが順路だ」
ランタンを手に先行するまるごとこっこさんが皆に呼びかける。
「ジュラさん、双海さんが罠を解除した後で進まないと危ないですよ」
まるごとこっこさんごと中の人、ジュラ・オ・コネル(eb5763)の肩を陰守森写歩朗(eb7208)が抑えてみた。
「そういうことは早めに言いたまえ 」
すごすごと後ろに下がるこっこさん。ほぼ同時に一刃が皆の動きを制する。やや前屈みにならないと進めない道になり、足元が悪くなってきた地点で何かを見つけたのだ。目を凝らしてみるがほとんどの者は何があるかもわからない。一刃が空中に手をかざし、見えない何かに沿うように手を動かす。
「もう大丈夫だ」
迂闊に前に進むと張られた糸が引かれ、矢が発射される仕組みになっていると一刃が説明した。果たして通路の両側を照らすと岩に隠れた陰から金属の輝きが僅かに見える。
「さすがに大したものだな」
馬若飛(ec3237)が感嘆の声を上げる。一刃のサポートとして罠の解除に回るつもりでいたが、瞬時に的確に指を動かす一刃の技に思わず見とれてしまった。
「もう何も起こらないようですね」
パーティーの後方で警戒に当たっていた雨宮零(ea9527)も万が一に備え掲げていた盾をそっと降ろす。まずは第一の関門を突破したようだ。
そのままゆっくりと狭い通路を進んでいくと突然道が広くなり、岩肌が天然の物から人の手が加わった物へと変化したことに気付いた。さっきまでが自然の洞窟のままにして敢えて偽装していたようにも思える。行き止まりがあったり迷路のような構造だったが五感に強い者や隠密、戦場工作に長けている者が多いため、迷う事無く突破することができた。
「似たような趣味持った知人はいるなぁ」
明らかに玄室と思われる前で若飛が呟く。
「しかし、魔物とかまで設置するとは凄ぇ。どうやったんだろな」
いかなる魔法なのか灯りが点っている。灯りの元には大きな扉があり、その先から何かの気配を感じ取る。恐らく話に聞いていたミノタウロスが中にいるはずだ。皆に目配せを行い武装を整える。いち、に、さんっ、で皆が一斉に玄室に飛び込んだ。
先頭に位置するジュラの前でレミエラが輝き光点を結ぶ。瞬間、空気を切り裂き突進してくる者がいた。ジュラが手にした紅に輝く霊刀を目指しミノタウロスが向かって来る。ぶつかる、と思った瞬間ジュラの姿は消え、ミノタウロスは体を崩して転倒する。
「今だ!」
若飛、森写歩朗、一刃、零が一斉にミノタウロスにそれぞれの武器を振り下ろした。だがさすがにミノタウロスの防御は硬い。血を流しながらも巨大な斧を振り上げ立ち上がろうとする。だが突然ミノタウロスは硬直し動きを止めてしまう。
「間に合いましたね」
セシリアが唱えたコアギュレイトがミノタウロスを拘束した。
「わりぃがこれでとどめだ」
若飛の日本刀がミノタウロスの腹を薙いだ。元々は村を襲っていたモンスターを捕まえて迷宮に配置したとレフからは聞いている。迷宮から逃げた場合の事もあるしレフの許可も得ている。
「この鍵が怪しそうです」
森写歩朗がミノタウロスの横に落ちている鍵を見つけた。ミノタウロスのいる玄室の奥にある部屋が最深部と聞いている。ステバン老人はその部屋にいるのか。
●丸の通路
先にあった円形の玄室で鍵に合いそうな鍵穴を見つけた冒険者たちは、静かに鍵を回す。どこにも扉がないのが不思議だったが謎は解けた。なんと壁の一部と床が動き出しのである。90度回転したところで床は動きを止めた。目の前にはそれ程大きくはない部屋があり、後ろには通路が延びている。
「驚きましたね」
零が呆れたようにも聞こえる声をあげた。
「誰?」
室内からおびえた声がする。突然現れた8人に驚いている老人がそこにいた。
「ステバン・カリンさんですか?」
落ち着かせるように零が問いかける。お孫さんから頼まれてあなたの捜索に来ました。一緒に帰って貰えないでしょうかと老魔道師に頼んでみる。
「わしに孫? それにステバンというのがわしの名なのか」
がくがくと震えながら老人は話す。なぜこんな所に閉じ込められたのか分からないが助けてくれ、礼なら懐にあった金貨を全てあげるから、それにこんなものを見つけたと老人は宝石を差し出す。きっと悪い魔法使いのアジトに違いない、恐ろしいことじゃと老人はしがみ付いてくる。特に女性陣に。
確かにレフから聞いた通りの老人なのだが。記憶を失っているのでは、という事に冒険者たちもようやく分かった。ハロルドはレフから預かった依頼書もレフの幻影も見せたが不思議な顔をされるだけであった。所々怪我を負っているステバンをセフィナが治療した。妙に手を握られるのが嫌ではあったが急に記憶が戻って暴れだすよりはましだと思うようにした。
冒険者たちはステバンを落ち着かせると少し休息をとった。ステバンがワインも勧めるので受け取るが飲まずに懐に入れた。
「この酒、なんだか邪悪だ」
ぼそっとジュラが呟く。老魔道師ステバンが溜め込んでいたのは魅酒「ロマンス」という、飲ませた相手に自分を素敵に見えさせる酒であったからだ。
「何に使うのでしょうね」
セフィナが一瞬冷ややかな視線を送る。確かに、孫を見ると老人の素行も納得は出来る。
●四角の通路
帰り道はより慎重に進むことにした。一刃は刀の鞘で地面を探りながら進んでいく。所々に隠された落とし穴は容易に発見できた。穴は深そうだが大きくはないので零と若飛が穴の両脇に立ちステバンを越えさせ、あとは皆で飛び越えた。
順調に進んでいくと広い鍾乳洞のような場所に出た。警戒しつつもランタンに照らされる光景を眺めながらしばらく道沿いに進むと、道の先に断崖が現れた。先に道があるのだが5mほどの空間がある。底を覗くとかなりの深さがある。だが、事前に話を聞いていた冒険者は慌てなかった。用意してあったロープや縄梯子、布切れ、それに毛布などを取り出す。
「ふっ、そのロープを貸したまえ。にわとりのぼくが飛んで向こう側までロープをかけよう」
ツッコミを期待するジュラの横を魔法の箒ベゾムに跨ったセフィナが飛び立ち、断崖にロープを渡した。一方でハロルドが魔法で水を作り、それを操り渡したロープに這わせる。更にクーリングとアイスコフィンを使う。いつしかロープと水は強固な氷の橋へと変貌した。毛布を置いて慎重に前に進む。
鍾乳洞を抜けると迷宮は再び人工の通路へと変わった。よくこんな物を作れるものだと一同はパーティーの中央で守られているステバンに呆れたような視線を向ける。突然先行していた一刃が動きを止めた。出口らしい扉の前に何かがいる。灯りに照らされると光を反射するが姿は見えない。まるで通路いっぱいの空気か水の塊が動いているようにも見える。話に聞いていたゼラチナスキューブであろう。武器を一斉に構えた冒険者たちの前でレミエラが光点を結び強く輝く。
ゼラチナスキューブはジュラのレミエラに惹かれて迫ってくる。森写歩朗は砂を巻き上げキューブにかけるとスクロールを広げクリスタルソードを作り出す。遠距離からソニックブームで応戦する。一刃も忍者刀からソニックブームを放ちジュラを飲み込もうとするキューブを牽制する。一方ジュラも巧みに攻撃を交わしながら間合いを取り鋭刃を撃つ。隣で若飛も日本刀による斬撃を与え続けた。耐久力の高いキューブも傷を受けるたびに動きが鈍くなって行く。その隙をハロルドは見逃さなかった。手にした鞭をキューブに巻き付ける。そして素早く魔法・クーリングの詠唱を完成させた。鞭に埋められたレミエラが輝き生み出された冷気をキューブの一部を破壊した。
「これで最後です」
零の日本刀がキューブを貫く。キューブの形はぐずぐずと崩れた。これでようやく帰る事ができる。ジュラは老人が風邪を引かないようにまるごとを着せてあげた。
冒険者ギルドに老人を送り冒険は終了し、ハロルドは事の顛末を日記に記す。それから数日後、冒険者ギルドに荷物が届いた。同封された手紙には洞窟内の荷物を送らせて頂いた事、そして必ず丁重にお礼をする事が書かれていた。それを伝え聞きロープからぼろ布まで返却を受けた冒険者たちは老魔導師ステバンの記憶が戻った事を知ったのだ。いずれ、もっと厄介な迷宮に招待されるだろうという予感と共に。