一番の敵は‥‥?
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:谷山灯夜
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 99 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:11月09日〜11月12日
リプレイ公開日:2008年11月17日
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●オープニング
ロシアにはルサールカと呼ばれるモンスターがいる。外見は美しき少女にして霧を集めて織り上げたが如き衣服を纏うと言い、全ての水の精霊魔法に通じているとも聞く。その口から発せられる甘美な歌声は聴く者を魅了し自らのいる場所へ誘うと言う。誘うその先は自らが死して眠る冷たい川底である。銀製や魔力を宿す武器、あるいは魔法でしか倒す事は能わず、一説には溺れ死んだ者の魂が彷徨い道連れを探しているのだとも伝えられている‥‥。
収穫祭も終わり寒風が吹き抜けるキエフは、そろそろ初雪が舞う季節へと変化している。秋の空は高く、寧ろそれがより一層寒さを感じさせる午後。一人の女が冒険者ギルドを訪れた。
「寒いものですから老朽化した蒸し風呂‥‥。こちらではバーニャとよぶのでしたね。その施設を購入したんですよ」
また来たのかと閉口しかけながらも顔には出さず、冒険者ギルドの担当は羊皮紙に筆を走らせる事に専念した。依頼主はジャパンの商人にして絶世の美女と名高い醍醐屋みつである。男性の受付はどうも無理な依頼を聞いてしまう傾向があるが、本日の担当は女性である。はっきり言って迷惑な客としか思えない。
「それでそのバーニャがどうされたのです? 思いの外維持費や経費がかかるとかそんなお話ですか」
と、受付は聞こうと思ったが後半は声に出すのを止めておいた。一応客は客である。
「経費は入場料や飲食代で稼げば良いのです。あ、聞いてませんでしたよね。そういう事ではなくて」
この女は読唇術も持っているのか。受付は羊皮紙から顔を上げずに依頼を纏める事に努める事に決めた。
みつがキエフのはずれのバーニャを買い取ったのは最近の事である。ロシアの蒸し風呂であるバーニャは、室内中央に炉を配置し、その上に石を置いて焼き、水を掛ける事で蒸気を発生させ浴びる風呂である。室内温度は高くはないが濃密な蒸気が出る事が特徴でもある。
みつが買い取ったバーニャは建物自体は老朽化が激しかったが蒸し風呂は地下に掘られ、更に井戸からの給水施設も配置され、炉に火さえ起こせば自動で蒸気が発生するという優れものであった。それにバーニャの外も地熱が高く、温泉もわき出していた。これもジャパン風の風呂に仕上げる事ができそうだ。バーニャの近くには緩やかに流れる川もあり、蒸し風呂や温泉で逆上せた体を引き締めるのに利用ができる。そして蒸し風呂であるバーニャ内部はもちろんのこと、バーニャの周辺は地面から立ち上る濃密な蒸気に包まれ視界が悪い。この事はかえって理想的だった。古くからバーニャは混浴で利用されて来た。それは伝統であるのだが男女が裸で入るのだ。湯治が必要な年寄りならともかく恥ずかしく思う者も多い。だがこの蒸気が相手の体をうっすらとではあるが隠すのだ。これならばロシアには少ない娯楽の一つとして売り出す事も可能だ。風呂に入れば喉も渇くだろうし商売の先も広がると言える。
しかしそれ程の施設なのになぜか今まで手つかずで放置されたままだったのである。所有者をいくら捜しても見つける事は出来なかった。地権者にあたる貴族は見つかったが施設の所有者がいない事情は分からないと言う。更にそんな建物があった事さえ初耳だとも言われた。
ここまで来ると何かの事情を抱えた物件なのかも知れない。そんな予感はしたがこれ程の設備を考えると多少のリスクは呑むべきと算盤が弾かれ建物の所有権を買い取ったのである。
改装中は特に問題は起こらなかった。だが、いざ使ってみると特定の条件下でのみ「それ」が現れるのが分かったのである。恐らく、所有者がいなくなった理由も「それ」にあるのだろう。
「その場に居合わせた皆さんが一斉に寒中水泳を始めた時は、うちも商売は長い方ですけど仰天させてもらいました」
話を聞く分には不穏そのものなのだが、みつはまるで滑稽話をしているかのように口元を抑えながら顛末を語った。
「男さんなら男さん、女さんなら女さんだけしか入っていない時には出てこないんですけど」
混浴だから男女が一緒に入る事もある。湯着を纏っても体の線が出たり幾分かは透けるのだが、このバーニャなら湯気の幕でそれも隠される。大きく体を動かしたり湯気の先を見ようと思わない限り見える事はないから普通に入浴を楽しみ会話する分には恥ずかしさにも慣れてくる。そうこうしている内に一日の疲れを癒しながらの会話も弾むだろう。若干の気恥ずかしさが残ったとしても和気あいあいとした雰囲気も生まれる。
しかし、場が和やかになるとどこからともなく歌が聞こえてくるらしい。甘く心を蕩かすような歌声に誘われ、皆はバーニャから出て行き、近くを流れる川へと入っていく。体を冷やしに行ったのではない。引き込まれるように川の中へと進んでいくのである。まるで、自ら命を絶つように。歌に魅了されなかった数人が慌ててそれを阻止して難を逃れた。みつも止めた側だったらしい。さすがは‥‥と受付は思ったがそこで思考を止める事にした。
「川の中で立っているモンスターさんはべっぴんさんでしたよ。夜目に強い者の話ですと透けそうな服を着ているそうで、もう少しで見えそうとか言って騒いでいはりました。話が幽霊ならうちも興味がありますので詳しく聞いてみましたら小柄な体に似合わず出る所は結構出ている、とかで」
特にこの点を強調すると興味を惹く冒険者さんはいませんか? とみつは受付に話を振ってきた。わたしには分かりかねます、と受付は適当にあしらい本題に戻る。
「で、そのモンスターを追い払って欲しいというのが依頼ですね」
受付は顔を上げないまま依頼書を書いている。その依頼書を覗き込みながらみつは首を振った。
「半分正解ですがもう半分があります。バーニャに男女合わせて3人以上が入り、裸か薄衣のみを纏った上で楽しく会話している状況も作って欲しい、が加えられますね」
集まった冒険者が男さんばかりならうちが囮となります、とみつが申し出る。女さんばかりならうちとうちの知己の男性が入るとも付け加えた。
「それはそれは格好良いお人ですから、ご心配なく」
そんな変な所で心配する冒険者はいないだろうとも思うのだが。最後に受付は顔を上げてみつを問い質してみる。
「簡単そうに言っていらっしゃいますけど。本題とは別に難題が2つもあるんじゃありません?」
顔を上げぬまま受付はみつに問う。蒸気で視界が悪い上に防具も防寒着も着用しないで寒空の中に行く訳である。凍傷になる可能性もある。しかし、それを聞いたみつは少し思案したのち受付に向き合い逆に問い返してきた。
「あら、うちとは見解が微妙に異なりますね。うちは4つかと思っておりました」
だって裸の男女ですよ、とくすくすと笑いながら、みつは「よろしくお願いいたします」と頭を下げるのであった。
●今回の参加者
ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
ea9968 長里 雲水(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
eb0655 ラザフォード・サークレット(27歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)
eb4721 セシリア・ティレット(26歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
eb5076 シャリオラ・ハイアット(27歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
eb8588 ヴィクトリア・トルスタヤ(25歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)
eb9212 蓬仙 霞(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
●サポート参加者
フィニィ・フォルテン(
ea9114)/
アクエリア・ルティス(
eb7789)
●リプレイ本文
ロシアの寒さは厳しい。それを乗り切るための知恵として生まれたのが蒸し風呂、バーニャである。仕組みは炉の上で石を焼き、その石に水をかけることで大量の蒸気を作る。その蒸気を浴びることで身を暖めるのだ。
ルサールカと呼ばれるアンデットが現れるバーニャは川沿いに建てられていた。浴室は半地下に掘られている。入り口側に連結して男女別の更衣室がある。また川側にも火照った体を川の水で締めるために開かれた出口がある。
「蒸し風呂って入ってみたかったのよね☆」
ペットの火妖精・フレアと一緒に踊り子の衣装を解いているのはシャリン・シャラン(eb3232)である。シフールである彼女の身長は40cmだが弾む胸に締まるウェストと男の目を釘付けにするボディの持ち主である。シャリンもそれは自覚しているが視線を集めるは踊り子の常なので恥かしさは感じない。急ぎ浴室へと入っていく。
ヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588)と蓬仙霞(eb9212)の両名も堂々としたもので、一糸も纏わずに隠しもせず、既に男たちが入っているはずの浴室に大きな胸を揺らしながら入ろうとしている。胸を隠しながら着衣を解くセシリア・ティレット(eb4721)は呆気に取られる。既婚者ではあるが育ちが良いセシリアとしては蒸気で見えないと聞かされていても男性がいる浴室に行く事など、例え湯着を纏ったとしても恥かしい。依頼でもなければこんな事はしなかったろう。
「裸に近い格好でないと現れないというのなら裸になれば良いだけの事でしょう 」
ヴィクトリアが不思議そうにセシリアを見つめる。
「そんなに恥かしがられるとボクも恥かしくなる」
逆に霞は急に意識をしてしまい、慌てて片手で胸を隠そうとするが大きい胸は手から溢れるようだ。対抗するようにシャリオラ・ハイアット(eb5076)が自慢のボディを強調する。
「聖職者として節制した生活をしているからこのウエストラインが保てるんです」
しかしシャリオラはそそくさと体に布を巻いてセシリアの背中に隠れ一緒に浴室へと向かって行ったのである。
湯気で見え辛いが浴室は案外広いようだ。壁には防水を施していると思えるランタンがあり、灯りの下にはぼんやりとベンチがあるのが見えてくる。
「ねえ、誰の胸がいちばんおっきいのかな?」
シャリンが女性陣に問いかける。
「胸なんて大きくても邪魔なだけだが」
これはヴィクトリア。
「胸‥‥邪魔、かも」
同意するのは霞。
「聖職者として肌は晒せませんが私は凄いともっぱらの噂です。何処で噂になっているかは秘密ですが」
これはシャリオラ。
「大きければいいというものでもないそうですよ。若さと形で勝負です」
セシリアの意見は人妻として意見を述べてみる。ただし聞こえない程の小声だが。
「あたいがみんなくらいおっきければ、あたいが一番だよね☆」
湯気の向こうからのんびりとした声が聞こえてきた。
「お嬢さん方と楽しくくっちゃべりながら蒸し風呂に入るってのも悪くねぇな」
湯気の向こうの声の主は長里雲水(ea9968)、ジャパンの浪人である。くつろいでいても背筋を伸ばしているのは性分である。
「けど蒸されるよか湯に浸かって落ち着きてぇって思うのも、やっぱジャパンの人間だからかねぇ」
雲水の横に座っている沖田光(ea0029)に同意を求めてみる。光も風呂を満喫し気軽に会話に応じているのだが、先刻より顔を下に向けている。
「容態が悪いのか?」
雲水やヴィクトリアが案じるも、光は大丈夫ですと笑顔で手を振る。
「すっ、すいません、こういうの慣れていないもので」
ちょっとだけのぼせたみたいです、と答えるのが精一杯だった。確かに、湯気で顔しか見えない。しかしだからこそ会話には敏感にならざるを得ない。シャリンたちの会話を聞いているだけでも頭がくらくらしそうな光であった。
「大きさについては覗いてみない事には評価はできないが」
唐突に湯気の向こうから声がした。頭にはラビットバンドをつけたままで沈着冷静に語るのは「生涯ウサミミ導師」の称号を持つラザフォード・サークレット(eb0655)、その人である。
覗く、という言葉に霞が反応し胸を両手で隠す。
「ああ、隠されるのであれば見ないぞ。隠されているならば覗いたりはせん!」
ラザフォードは二度、言った。二度言うところがあやしいぞ、とシャリンはサンレーザーでのお仕置きを考える。
「男の方は‥‥やっぱり胸が大きい女性の方が好きなんですか?」
湯気の向こうからシャリオラが光に声をかけてくる。私も興味があります、とヴィクトリアが雲水や光の元へ近づいてきた。緊張のあまり身動きができない光に気付かないまま、ヴィクトリアは脱衣所に置いてきたプラウリメーのロウソクの事について提言してみた。この魔法のロウソクに火を付けると、ロウソクの周囲は付けた時点での温度を保つのである。
「外へ持って行ったら寒くないと思いますが」
それを聞いたシャリオラは少し思案した後、難しいのではと答えた。
「確かに魔法の効果はありそうですが、蒸気で火が付かないような‥‥」
私を含めてナイスバディの人が多いから密着状態での移動には抵抗があります、との返答。
「効果があっても難しいですか」
ヴィクトリアが残念そうな声を上げた、その時である。その歌声は響いて来た。精神よりむしろ体を揺さぶり響く旋律と歌声が出口の扉を抜けて届いてくるようだ。甘いささやきにも聞こえる歌に冒険者は必死の抵抗を試みるも次第に意識が朦朧としていく。自分が何をしていて何をしようとしているのかも忘れて行く。そして歌が来る方向へ、川へと向かって足を進めてしまう。
「皆さん、気をしっかり!」
「そっちは川です!」
正気を保てたのはセシリアとヴィクトリアの2名のみだった。出て行こうとする皆にすがりつき引きずり倒す。外に飛び出した者を追い扉の中へと押し込んで外側から押し続けた。そしてどれ程の時間が経ったかはわからないが、急に扉の向こうが静かになった。突然、バーニャの奥から悲鳴が上がった。
「こ、こっちを見ないでください!」
「私の裸を見たら‥‥死んだ後にアンデッドとして甦らせますよ !」
セシリアとヴィクトリアが慌てて扉を開けようとした時、光とシャリオラの慌てふためく声が聞こえて来た。どうやら皆は正気に戻ったようだ。ほっと安堵した後で、今夜はひとまず撤収することに決めた。改めて作戦を練り直し勝負を挑むことにする。
次の晩、あえて同じ状況を冒険者は作り出した。ただ、シャリンだけは空からの偵察に務めることにした。ルサールカの呼び声に抵抗するには闘気で跳ね返すしかない。光とヴィクトリアがその言い伝えを思い出すことに成功した。闘気と聞いてシャリンは敵との間合いを保つ戦術を取ることに決めたのである。それに空から見れば蒸気の薄いところから皆とルサールカの位置関係も見やすい。
作戦は決まった。そして今宵再び戦いに挑む。今度は誰かが魅了されたとしても残った者だけでルサールカと戦闘をすることに決めた。夜になり再びバーニャに入る冒険者たち。シャリンは外で念のために裸のまま静かに時を待つ。無理矢理ではあったが努めて楽しく会話をしてみた。するとやはり歌声が川から流れて来た。光、そして霞が魅了されてしまった。ゆらゆらと歩き出し冬の川に入ろうとする彼らの横を皆口々にごめん、必ず助ける、と言葉を掛け通り過ぎてゆく。
「あっちだよ!」
空からシャリンの声が響く。地面から吹き出る蒸気に遮られるのは敵もこちらも一緒である。しかし、シャリンの指示で冒険者たちは俄然有利になった。雲水とセシリア、霞が身を切るような川を渡って行く。当てずっぽうのようなアイスブリザードが蒸気の向こうから放たれた。それでも運悪く霞が巻き込まれ飛ばされてしまったようだ。ヴィクトリアはブラックホールのスクロールを広げて念じる。続いてコンフュージョンのスクロールも広げた。果たして効果があったのか、アイスブリザードが再び襲って来るも今度は完全に違う方向へ軌跡を描いた。そしてラザフォード、ヴィクトリア、それにシャリオラらが川岸から魔法の攻撃で援護を行う。シャリンも空中から陽光を蓄えたレミエラの力を使いサンレーザーを撃つ。
雲水とセシリア冷たい水の中を進んでいく。霧のように透けるドレスを身に纏うルサールカがアイスチャクラを構えると雲水に向けて投げつけて来た。しかし雲水は冷静にアイスチャクラを薙ぐ。
「サービス満点のべっぴんさんにゃ悪ぃが 」
一気に間合いを詰める。刹那、神速の太刀が一閃する。
「おぼれさせてまで憩いの邪魔するようなのはご退場願わねぇとな!」
セシリアも片手で槍を構え突進する。シャリオラのブラックホーリーとラザフォードのグラビティキャノンがそれに呼応し援護する。水飛沫を上げ、霧のような体を突き抜けた。まさに霧散して行くルサールカはその瞬間だけ安堵の顔を浮かべたように見えた。縛り付けていた何かから漸く開放されたように。
バーニャの主にして依頼主である醍醐屋の女主人が密着する肌襦袢を纏い中へと入って来た。凍傷になりかけた光と霞に治療薬を手渡し労う。
「も、もう大丈夫ですから離れて頂けないでしょうか」
光の声は哀願に近い。女主人は出て行く前に炉で焼く石に、何かを乗せて行った。すると浴室は甘く豊かな香りが充満する。
「もしやこれは、お茶か?」
雲水が尋ねると、その通りだと言う。貴族さんが来た時のためにご用意してます、と言われた。そう言えば先刻貴族風の男が立っていたがあれは客だろうか。
「客と言うより男女の仲、かも」
これはシャリンの女としての勘。聞いたセシリアはなるほどと思った。私も旦那に髪が纏った香りを楽しんで貰おう、と別の意味で。
無事開店のお礼にと福袋と書かれた袋を渡され、冒険者は帰路に着くのであった。