吹雪の中へ

■ショートシナリオ&プロモート


担当:谷山灯夜

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月20日〜11月25日

リプレイ公開日:2008年11月29日

●オープニング

 夢を見た気がした。長く白い衣を纏い、背には白鳥のような羽を持つ存在が何かを伝えようとしている。
『閉ざされる』
『‥‥の勢力が世界を覆う』
『‥‥を狙っている。このままでは‥‥への侵攻を許す』
 断片的な文節が脳裏に伝わってくる。夢だと思っても目の前に立つ存在は奇妙に現実味を感じた。手には汗が滲む。これは、夢なのか、それとも現実なのか。
「一体、何の話でしょう。我らに何をして欲しいのですかっ」
 目の前の存在に訴えた。すると、目が覚めてしまった。寝汗が染みるベッドから起き上がる。激しい動悸を感じながら外の様子を確認したくてドアを開けた。
「雪?」
 空には雪が舞っていた。どこか遠くから飛んで来る雪。

「キエフに通じる道が大雪に見舞われて閉ざされたって言っているんです」
 翌日、冒険者ギルドに向かった冒険者は交易商や農民たちが悲痛の声を上げているのを目にした。突然、晴天が雲に覆われ雪が降る。かと思えばいきなりの吹雪が荒れて街道が閉ざされる、という事がこの数日に立て続けに起こっているそうだ。
 季節で雪が降ってもおかしくはないのだが、奇妙なのはキエフから東に向かう街道から始まり、そしてキエフを囲むように北東に向かい雪雲が移動していると言う事だ。まるで、雪雲では無く何者かが移動しているようにさえ思えると。
「どう考える?」
 昨夜奇妙な夢を見たという話をすると、数人が俺も、わたしも見た、と声を上げた。そして今日の話である。夢は予言であるのかもしれない。そしてこの大雪は何かの前兆なのかも知れない。だが予言や前兆だとしたらこれから何が起こると言うのか。ただ雪が降っているだけではないか。それにしては昨夜の夢はもっと深刻な話を伝えているように感じられたのだが。
「あんた達が様子を見に行ってくれるなら報酬は俺たちが出すよ。これ以上道が雪で埋まると、キエフは孤立とまでは言わないでも、移動に掛かる日数が倍以上掛かるようになるかも知れない。特に東の方角へ向かおうとすれば」
 その場に居合わせた交易商や農家たちが懐から財布を取り出し集めてギルドに提出した。こうして冒険者たちは大雪の元へ行くことにした。これから出発しようとする冒険者を心配そうに受付が声を掛ける。
「どうぞ気をつけて。吹雪と言えば最近クルードという水系魔法を操るデビルの退治依頼が相当数来ていましたから、もしかしたら今回の件もそれかも知れません。ただ、デビルだとしたら一体何故こんな事をしているのか分りません。何か嫌な予感がします。これから悪い事が起きそうな」
 そこまで話して受付は我に返り冒険者に謝罪する。
「変な事を言って申し訳ありません。そんな大げさな事ではないと思いますが、どうぞ充分にお気をつけて」
 変な事を言ったお詫びに、と受付はクルードについての情報を教えてくれた。それは、水系魔法を操り霧を吐き出すクルードには天敵がいる、ということ。
「霧を吐き出すためでしょうか。陽魔法に弱いんです」

●今回の参加者

 ec4140 ジョアン・シェーヌ(33歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec4491 ラムセス・ミンス(18歳・♂・ジプシー・ジャイアント・エジプト)
 ec4859 百鬼 白蓮(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec5023 ヴィタリー・チャイカ(36歳・♂・クレリック・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

ナスリー・ムハンナド(ec1877)/ ヨハン・アルバー(ec4314)/ ジルベール・ダリエ(ec5609

●リプレイ本文

●新雪を進み
「恐ろしい積雪だな・・・開拓村などが完全に孤立する前に元凶を何とかしないと」
 キエフを出立して2日目の夜になる。腰の下まで埋まる雪をスコップで除けながらヴィタリー・チャイカ(ec5023)が前に進んでいる。幸い今は雲はまだ遠くにあり、空には月が見えるのでランタン無しでも前に進むことが出来るのだが雪原と言うものはそれだけで脅威である。何しろ見渡す限り真っ白な積雪の表情だけが続くのである。しかしロシアの生まれであるヴィタリーにとっては見慣れている光景でもあった。風の作る紋様を目安に巧みに方向を割り出し前に進んでいく。百鬼白蓮(ec4859)やラムセス・ミンス(ec4491)はさすがと思いながら警戒しながらヴィタリーの後ろを追って行った。2頭のボルゾイを引き連れながらジョアン・シェーヌ(ec4140)も雪をかき分けて行く。
「ひひっ。‥‥寒い。洒落にならんぐらい寒いねい」
 とっとと依頼を終わらせたいねぃと呟くジョアンに対し熱砂の国のエジプト出身であるラムセスには雪自体が珍しいらしい。
「雪です、凄く凄くいっぱいデス、雪達磨さんとか作ってみたいデス」
 一歩間違えば死に繋がりそうなこの状況でもラムセスに余裕があるのは出発前に暦道暦を用い託宣した卦のためであろうか。漠然としたものではあるが悪い卦は出てはいなかった。時折月と星を見て現在地を割り出しては進む方向を修正していく。星を読み風の流れを感じ取れるラムセスの存在はメンバーにとっても貴重だった。
 一方、隠密行動を生業とする忍びの血のためだろうか。白蓮は雪の吹き溜まりを見かける度に手にしたレイピアを突き刺していった。厳寒のこの季節にモンスターが潜んでいるとは思えないが細心の注意は必要である。そしてそれは出発前の夜に見た夢と無関係ではない。
「大雪に曰くあり気な夢、そして悪魔が出現する可能性か‥‥。何やら非常に暗示的にて候な」
 ヴィタリーのラッセルを補助し雪を除けながらではあるがつい独り言が出る。ロシアの冬に雪は珍しくは無いことはヴィタリーは勿論、他の面々も当然知ってはいるのだが今回は別だった。出発前に見た断片的な夢も気になる。どうしてもはっきりとは思い出せない夢であったが何かを食い止めて欲しいという嘆願にも聞こえた。もし、夢で啓示を受けていたのであるとしたらこの先には何があるのか。

●青の世界
 夜になってからどれくらい時間が経過した後だろう。空が急に雪雲に覆われたかと思うと吹雪が吹き付けてきた。ジョアンのボルゾイ達が警戒のうなり声を上げる。ヴィタリーが指にはめた石の中の蝶を見る。宝石の中で蝶は緩やかに舞を始めた。間違いはない。この先にはデビルが存在する。空には雪雲があり、その下には猛吹雪が吹き荒れているのにも関わらず、そこだけがぼんやりと霧が掛かっている。非常に不自然な天気が混在していた。キエフの近郊に多数出現するようになった、水魔法を操るクルードである可能性が益々高まった。
「おじさんに聞いたとおりのデビルなら、おっきな鼠で霧を吐いて尻尾が鞭みたいデス」
 その霧は相手の視界を奪うが、クルードはその霧の中でも自由に動けるらしいとも伝え聞く。
「さてさて、中に入る準備をするとしますかねい」
 ジョアンが小剣を構えると片手で詠唱を行いインフラビジョンを全員に掛けていった。目に見えていた白一色だった雪の世界が冷たい青へと染められていく。準備を整えるとジョアンとヴィタリー、ラムセスに白蓮と二手に分かれて吹雪を挟撃するように動いて行った。
 ジョアンとヴィタリーが息を殺して待機していると吹雪の彼方から鹿の鳴き声が一度聞こえた気がした。申し合わせていた合図を声色を使える白蓮が送ったのである。呼応して一斉に飛び出す。全てが青に見える世界で大きな何かの影が見えた気がした。3体だろうか。しかし相手もこちらの姿は充分に捕捉できていたらしい。3体の内2体が何かを呟いていた。そして魔法の詠唱が完成してしまう。ヴィタリーに、そしてラムセスと白蓮に向かい吹雪、いやアイスストームが飛んできた。直撃を受けた白蓮は軽い傷を負う。しかし白蓮はその傷を物ともせず跳躍すると青い雪原に蠢動するデビルの影に向かい進んで行った。
「ミンス殿の元には行かせぬ」
 ラムセスへ向かっていくクルードの間に割り込むと攻撃を避け続け、ラムセスの詠唱が終わるのを待ち続けた。
「百鬼さん、お待たせしましたデス」
 インフラビジョンの影響下にある瞳にそれは真紅の閃光となり映る。ラムセスの放ったサンレーザーが霧を貫く。それは太陽の輝き。そしてそれこそがクルードが最も苦手とするものであった。まるで恐怖に身を縛られたかのように動くことも能わず直撃を受ける。だが。
「やはり一回でしとめれないデスか」
 それでも一発では止めをさせるまでの威力はなかった。再びラムセスが詠唱に入る。その間白蓮は2体のクルードを牽制し続けた。
 一方ヴィタリーはジョアンからフレイムエリベイションの援護を受けて残りの1体と戦い続けた。ブラックホーリーでダメージを与え続けていた。詠唱をしている間はクルードからの攻撃を一方的に受けるが装備に守られたヴィタリーも踏みとどまっている。勝負は拮抗していたが攻撃がジョアンへ向けられた時点で作戦を変えた。3体のクルードの位置を冷静に測る。そして携帯していたマジッククリスタルを掲げ封印されている魔法を解放する。青く光る雪原に重力の波が走り抜けた。雪原を自由に動いていたクルード達は大きな力に叩きつけられたように転倒する。白蓮がこの隙を逃すはずは無かった。倒れている1体に二度、レイピアを突き刺す。そして転倒から立ち上がろうとしているクルードの背中にも剣が刺さる。
 残った一体にもラムセスの放ったサンレーザーが直撃した。3体の中でも中心に位置していたこのクルードがレインコントロールで天候を変えていたのではと4人は推察した。瀕死になりながら逃走を図るも、ジョアンのボルゾイに行く手を阻まれたクルードを捕らえた。
「お前達の目的は何だ? 自分の意思でやっている訳ではないだろう。答えろ」
 ヴィタリーが問う。傍らには白蓮が身構えラムセスはいつでも詠唱ができる準備をしている。ジョアンもボルゾイの頭を撫でながら視線を決して切らすことはない。皆それぞれに手傷を負っているが、それでもあと一撃は容易に刺す事ができる。
「ひひひ、素直に言った方がいいぞ」
 ジョアンが不敵に笑ってみせる。醜い鼠の顔を持つクルードが一度顔を下げ、そして冒険者を見回した。
「我に恭順を求めるか」
 嫌な笑い方をするとクルードはその牙を向けて叫んだ。
「家畜に求められて恭順を示す主がどこの世界にいる。汝らが下級デビルと呼ぶ我らであっても家畜に与する卑は持たぬ」
 そこまで言うとクルードは自らの胸を爪で貫いた。驚く冒険者を前にして末期の言葉を呪いのように残す。
「この地は既に我らが物と決まったのだ。知らぬは汝らだけである。我に力なく今汝らの前に屈し、目的は途上で未完のままだが」
 静かに、そしてまるで最初から存在しなかったかのようにクルードは消えて行く。冒険者たちは声も出せずそれを見送るだけであった。利己心の強いとされるデビルが自死を選ぶこと。それが何より心胆を寒くした。いったい、この国に何が起ころうとしているのだ。何か巨大な動きを感じるもそれが何であるのかが全く見えない。実際の寒さよりも心を縛られるような思いにその場を動けない冒険者。いつしか暗雲は飛び散り、そして東の空が赤く燃え上がる。まるで血のように。
 しかし。それでも差し込む陽光が世界を包み込む時。冒険者は確かにその声を聞いたのだ。
「予言のひとつは回避された。心から礼を申し上げる」
 羽音が後ろで聞こえた気がした。一斉に振り返るもそこにはただ、美しく光る樹氷があるだけであった。