【黙示録】悪魔の砦
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■ショートシナリオ＆プロモート担当：谷山灯夜 対応レベル：11〜ｌｖ 難易度：やや難 成功報酬：8 G 76 C 参加人数：8人 サポート参加人数：4人 冒険期間：12月01日〜12月06日 リプレイ公開日：2008年12月10日 |
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●オープニング
キエフの東側に広がる雪原。静寂と冷気が包む中、人が殴られ絶叫が響く。「さっさとはこべ、このうすのろめ！」
デビルが罵り、オークが殴り蹴り飛ばしながら泥と血にまみれた人々を使い土塁を積み上げさせている。使役されているのは近隣の村々から集められた人であった。皆、腕や脚の肉は裂け顔を腫れ上がらせ、手も足も酷いあかぎれに覆われてよたよたと歩き続けている。丸太を運び石を積み上げては冷たい泥を手ですくい隙間を補強し続けている。休む事などできない。ここでは死ぬまで直前まで働かせ続けるのだ。そしていよいよ動けなくなり手折れた時にはデビルが近付きその魂を抜き去っていく。激しい苦悶の表情と叫び声を上げながら体から白い玉が抜かれていく光景を、デビルやオークたちがわざと見せつける。親子で捕らえられた村人はもっと悲惨だった。両親が動けなくなるとオークの頭目たるオーグラがのっそりと現れ、目の前で子どもを生きたまま食べてしまうのである。そしてその両親の嘆き、怒り、絶望に染め上げられた魂はデビルが抜き取っていく。
ここは、地獄である。神に救いを求める事さえ皆、半日で断念する。自らの不幸と神を呪い、そして今日も何人かが死んでいく。積み上げられる石に血が染みこんでいく。悪魔の作る黒い砦が完成しつつあった。
その頃キエフではパーヴェル・マクシモアが独自に物資の流れを調査していた。北海からドニエプル河を通じ送られる塩、鉄鉱石、木材に関して記録を調べていく。先週発生した吹雪の影響で河は結氷して運輸は止まってしまったが、パーヴェルに密輸・密売に関する情報を流した醍醐屋みつは、既に相当の物資が蓄積されていると言っていた。では、それを何に使う？
「軍事拠点を造っている、と見て間違いはないだろう」
そうであるなら、それはどこに？
「吹雪、東から北東に渡る一帯が通行困難になっている‥‥」
これは推論でしかないが、あの吹雪にもデビルが関わっていたのではないか？ そして拠点を造っている途中に発見されたくないから吹雪で道を閉ざしたのではないか？ 母であるウルスラ・マクシモアから聞いた話によると、冒険者の中の数人が夢の中で予言を受けて吹雪の調査に向かったとも聞いていた。
「ならば、ドニエプル河の東から北へ向かう一帯。もしわたしが造るとしたら攻める側に足場の悪さを、守る側には高さの優位性を求めるな」
河周辺の地図を眺めながら見当をつけていく。
「恐らく、この周囲だろうと思うが、確認も含めて依頼とすべきだろう」
こうしてパーヴェルは冒険者ギルドに依頼を出す事にした。今回の目的は２つである。１つはデビルの軍事拠点を発見する事。現時点ではあるともないとも言えない。だが、仮にあるとしたらキエフの喉元とも言える箇所に拠点を造られたという由々しき問題に発展する。
もう１つは拠点があった場合の事である。最低でも作業が進む事を食い止めて欲しい。建設に奴隷となった人が使われているならその解放を行うなり、資材を消滅させるなりして貰いたいと思う。更に出来るのであれば拠点の破壊も行って欲しい。ただしその場合の失敗は許されない。拠点を造られている以上戦いの準備が進んでいる可能性は高いのである。徒にデビルを刺激した結果、思わぬ増援を呼び込まれる可能性もあるのだ。これらの内容を簡潔にまとめると、急ぎ馬を走らせた。
夜明け前、建設中の砦に訪問者が訪れた。砦の建設と守護に当たっているオーグラと言葉を交わす。その姿は大きな犬のように見えるが背中からは鷹の翼が生えている。
「あと数日もすれば完成のようだが。しかし神の使者が動いているとも聞く。最後まで油断無きよう」
「だれにむかっていっているきだ、『ふわのたね』よ。だがつれできたニンゲンのかずがおおいから、それにめんじてきょうはきいてやる」
「感謝する。だが異変があれば教えてくれ。我らがこの地を支配するために、今は万が一も許されないのだ」
それだけ言うと「不和の種」と呼ばれたそれは、翼を広げ闇の中に消えて行った。残されたオーグラは鼻息を荒くすると、まだ新たに連れて来られた人間のうち数人の首をもぎ取り鮮血に浸る内蔵を食べながら配下のオークに砦の建設を急がせた。
ここは、地獄である。差し込む光などあるはずもない。
●今回の参加者
ea0042 デュラン・ハイアット（33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国）ea3785 ゴールド・ストーム（23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国）
ea3947 双海 一刃（30歳・♂・忍者・人間・ジャパン）
ea4744 以心 伝助（34歳・♂・忍者・人間・ジャパン）
ea7242 リュー・スノウ（28歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国）
eb4721 セシリア・ティレット（26歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国）
eb5885 ルンルン・フレール（24歳・♀・忍者・ハーフエルフ・イスパニア王国）
ec0038 イリーナ・ベーラヤ（32歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国）
●サポート参加者
シルバー・ストーム（ea3651）／ フィニィ・フォルテン（ea9114）／ 飛 天龍（eb0010）／ キリル・ファミーリヤ（eb5612）●リプレイ本文
「悪魔如きが砦を建てるとはな。だが私の前では砂上の楼閣に過ぎん」テレスコープのスクロールを使いデュラン・ハイアット（ea0042）が遠視をする。
ここはキエフから遠くない雪原の中である。川が複雑に入り組む湿地帯に雪が降り積もっている。腰まではありそうな雪をかき分けて進むと凍っていない泥沼に足を捕られ、身動きが出来なくなることもあった。そんな沼地の奥、やや盛り上がった丘の上にその砦は築かれていた。遠視をしたデュランの目に石垣や木の柵、それに無理矢理働かされている人々の姿が映し出された。
「早く助けたいが、逸れば碌な結果にならないのが難しいところだな」
双海一刃（ea3947）が唇を噛み締め呟くと以心伝助（ea4744）もそれに同意する。
「めんどくせぇがお宝をゲットする為には下調べはしておかねぇとな‥‥」
悪びれたようにゴールド・ストーム（ea3785）が軽口を言うが、デュランから告げられた状況を聞く表情は真剣そのものだ。ルンルン・フレール（eb5885）も念入りに打ち合わせを交し合う。
日の出と共に霧が立ち込めてきた。ゴールド、一刃、伝助、ルンルンの４人が霧を味方に付け一斉に散開し砦へと向かっていく。足場の悪さを物ともせず４人は発見される事なく接近に成功する。個別に別れてそれぞれが独自に調査を開始した。捕らえられた村人の位置、見張りの待機場所に活動している時間。オークやインプ、グレムリンがたまに見張りに来るがゴールドや一刃、伝助からみれば見張りなどいないに等しかった。放つ体臭や足音、隠すことさえしない殺気を鋭敏に感じ取ると音を立てずに身を隠す。武器庫に保管庫、詰め所を発見し中の様子を探って行く。途中で何度もぼろぼろの姿となった人々を見た。今すぐ救助に向かいたい気持ちを必死に抑えた。唇を噛み締め、明日には必ず助けます、と心の中で詫びをする。それまでなんとか耐えて欲しい、と。
一方、ルンルンは攻め入る時、そして退避のルートとする道の発見に努めた。ここが砦である以上、出陣に使われる道があるはずだ。発見は容易ではなかったが伝助の助成もあり硬い地面を徐々に見つけていく。それを繋いでいくと一本の道が見えてきた。
夜の闇に隠れ４人が宿営地に戻って来た。
「お怪我はありませんか。そして捕らわれている村人は」
待機していたリュー・スノウ（ea7242）が尋ねる。セシリア・ティレット（eb4721）とイリーナ・ベーラヤ（ec0038）も合流を果たし砦に侵入した仲間の話から砦の建築物に敵の配置、捕えられている人々の位置の説明を受けた。
「奴さん達が戦の準備を整えているのは間違いないっすね」
伝助が語る。キエフに近いこの砦が完成するとキエフを攻めるに容易くキエフの軍が進む時は退路を断たれる恐れがある。皆は口々にそうはさせるかと声を上げた。まずは捕えられている村人たちを救う。全てはそれからである。行動開始は未明の時刻と決めた。
「それじゃあ、俺は寝っから時間になったら起こしてくれ」
毛布に包まったままゴールドが寝息を立てた。皆もそれぞれに夜具の中にと入っていく。
夜が白み始めた時には既に、土地勘に優れた伝助と暗視が効くゴールドの誘導で砦への侵入路を進んでいた。伝助と一刃、ルンルンが砦の内部で工作を行うため、その姿を消した。狡賢く羽を持つデビルを残したままではいつ増援を呼びに行かれるか分からない。一刃は懐から酒を取り出すとまるでオークが忘れたように見せかけてグレムリンの近くに転がした。果たして、匂いで気が付いたグレムリンはこそこそとそれを持ち出すと詰め所の影へと消えて行った。監視として残っているデビルはインプだけである。
この様子を伝助、一刃、ルンルンの順に外で待つ仲間に伝えていく。セシリアのブレスセンサーのスクロールで周囲を警戒しつつ出来るだけ足音を忍ばせて皆は静かに砦の内部へと潜入した。建物の外に見えるのは４体のインプと６体のオークだけである。捕らわれた村人は砦の外壁を作っており、オークは詰まれた石垣の上で怒鳴り続けている。グレムリンは建物の影で酒を飲むことに夢中になっていた。
セシリアがエックスレイビジョンで建物の中を見回し、見たものをデュランに教えていく。
「オーク戦士が３、そしてオーグラが１体、という所か。リューは何か感じたか」
デティクトアンデットを使い周囲を探っているリューにデュランが声をかける。
「いえ、外にいるデビルで全部のようです」
援軍はいないようだ。冒険者たちは武器を構え直すと作戦を開始した。ずっとこの時を待ち続けていたセシリアは身軽な体で砦の中を駆け抜ける。そして刹那に詠唱を終えるとインプの一体を拘束し、次いで何が起きたか理解できないインプの一体に名刀「村雨丸」をその頭上に落とした。伝助もインプに向かい合い次々にダブルアタックで首を薙いでいく。
「増援なんて呼ばれちゃ堪りやせんからね‥‥。絶対逃がしやせん」
騒然とした気配に気が付き慌ててグレムリンが酒樽を手放したのはこの時だった。詰め所の影から侵入者の姿を確認すると慌てて姿を消し空に飛ぼうとする。
「逃しません！」
デティクトアンデットの力でデビルを捕捉しているリューの声が響く。
「そこです！」
慈愛神から授かった力、ホーリーが飛び去ろうとしているグレムリンを直撃した。墜ちそうになりながらもグレムリンは、それでも逃げる事に成功したと思った。大きく翼を動かそうとする。だが背中から激痛が走り落下を止めることができない。自らに羽根がない事を悟ったのは地面に叩きつけられた時である。傍らには両手に刀を構えた一刃が立っていた。
「お前達が為したことの報いを今、受けるがいい」
ぐっと、力を込めて両手の刀を突き刺した。
ここに至り俄かに砦の中は混戦の状況を呈してきた。インプ、グレムリンを倒された事に気が付いたオークが襲い掛かってきたのである。詰め所からも鈍い足音を立て巨体のオーク戦士が、そしてそれ以上に大きな体躯のオーグラが現れた。視線を先に向けると状況が分からず怯えている村人が石垣の下で互いに抱き合い震えていた。
『なんだおまえらは』
冒険者を見回しオーグラが恫喝する。
『ニンゲンがなにをしにきたかはしらねえが、めんどうだ。みなごろしだ』
大きな声に反応しオーク戦士が冒険者に襲い掛かる。そしてオークは捕えた村人へと武器を向けた。
「させない！」
ルンルンが印を結ぶと煙と共に村人とオークの間に巨大な蛙が現れた。村人に襲い掛かろうとしていたオークは突如現れた大ガマに武器を向けるも攻撃を与えることは出来ない。そして突風が吹き荒れ、村人が遠くに吹き飛ばされた。オークの攻撃を受けそうになる村人たちを半ば強引ではあるがデュランがストームの力で引き離したのである。
「何人死のうが私の知った事ではないが、折角だから助けてやろう」
仲間たちがその物言いに「ぐっ」と親指を立てる。
「べ、別に彼らの為にやっているわけではないぞ！ 何となく気が向いたからだ」
照れ隠しをしている訳でもないだろうがオークしかいなくなった砦にデュランの攻撃は苛烈を極めた。仲間の間隙を縫いライトニングサンダーボルトを詠唱し続ける。まるで巨大な嵐に巻き込まれたようになす術もなくオークたちは体力を削られていった。それでも生き残ったオーク戦士が術士であるデュランやリューに狙いをつけて巨大な槌を振り回し向かって来た。高速詠唱のライトニングサンダーボルトとホーリーが交錯するも、致命傷まで僅かに及ばない。槌を振りかざし襲い掛かろうとしたその時。冷たい空気を切り裂くような音が聞こえたかと思うと、デュランの目の前のオーク戦士が倒れた。彼方に村人を保護しながら大弓を構えているゴールドの姿が見える。
「シュリケーン！」
ルンルンの放つアイスチャクラがもう一体のオーク戦士に止めを刺した。
「安心して背中を預ける事ができるわ」
華の香りが漂う騎士が最後に残ったオーグラと向き合っていた。
「あなた達の悪業は今、ここで尽きたわ」
ウガシンの剣の切っ先を向け、イリーナは宣言する。
『なにをなまいきをいうか、このおんな』
オーグラは大きな槌の重さを加えた一撃をイリーナに向けて放った。ぐしゃっとした感触が槌から伝わる。はずだった。
だがイリーナは構えた盾を僅かに動かすだけでオーグラのスマッシュを受け流し、崩れた体勢にカウンターを撃ち込んだ。
「ぐっ‥‥」
イリーナの頭上から悶絶の声が聞こえる。動きが止まったオーグラに今度はイリーナのスマッシュが炸裂した。一撃を加えるごとに肉は裂かれ骨は砕かれていく。それでも最後まで向かって来るオーグラに皆の攻撃が集中し遂にオーグラは絶命した。
「完全に破壊しよう」
激しかった戦闘のあと息を継ぎながらデュランが提言した。伝助、一刃、ゴールド、リュー、ルンルンが村人をキエフまで連れて行くことになり、デュランとセシリア、イリーナは砦に残る。
イリーナのバーストアタックで建物が削られ、セシリアのグラビティーキャノンとファイヤーボムが炎の柱を産む。そこにデュランのストームが吹き荒れ、砦は炎に呑み込まれていった。
「あんなに派手にやって大丈夫かな」
後ろを見やったルンルンが汗をかいている。
「追撃が来てもさすがに足止めされるんじゃねぇか」
ゴールドも苦笑するしかない。砦の崩壊はすぐにデビルの知るところになるかも知れない。だが村人はリューが既に傷を癒し伝助と一刃が持参した食料で体力を回復している。そしてルンルンの調べた道を抜けて今、キエフは目の前である。
「奴等に一泡吹かせることが出来たな」
一刃は砦のあった方向に手を合わせる。皆もそれに倣いリューが祈りを捧げた。かの地に眠る同胞の無念を胸に刻み、デビルの侵略からロシアを守ると誓う冒険者達であった。
