【黙示録】屍の侵攻

■イベントシナリオ


担当:谷山灯夜

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 41 C

参加人数:19人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月13日〜12月13日

リプレイ公開日:2008年12月23日

●オープニング

「いよいよ動き出したという訳か」
 姿は大きな犬、そして鷹の翼を持つデビルが闇の中から姿を現す。名を「不和の種」と名乗る。かつて共に手を取り合っていた者たちを血で血を争う諍いに落した時に付けられた名であるが、殊の外気に入っている。
「大きな宴が始まろうとしているのだ。我らも歓待されるとしようか」
 配下の猫のようなデビルを招き行動の指示をする。
「地獄から来る軍勢を補助するため、霍乱を目的として動くように」
 汝らの力があれば道中で更に軍勢を増やすことも可能だろう、と告げ出撃を命じた。その上で隙あらば制圧する地を増やすべし、とも命じる。地に絶望と混沌が増えることは誰が行おうと喜ばしいことである。


 アンデッドの軍団が現れたという報告が冒険者ギルドに急報として届いた。20体以上のズゥンビやスカルウォリアーの集団が村を襲い、そして殺された村人はアンデットとして軍勢に加わってしまうらしい。進軍は遅々としているが5日後にキエフ近郊まで到達する予測が立てられている。もし進軍を止めることができないと、キエフの民もアンデットに襲われ、そしてアンデットに変えられる可能性もある。しかし、別世界から現れるデビルの侵攻に備えるためにキエフから大きく離れる訳にはいかない。その上、敵は大群が予想される。
「もし、手が空いていたら助けて欲しいの」
 キエフのギルドマスターは必死な面持ちで冒険者達に懇願した。

【状況説明】
 敵は猫のようなデビル、グリマルキン数体を頭としてそれに従属するアンデッドと共にキエフに向けて進軍しています。移動の速度を考えるとキエフの近郊に迫るのは5日後になります。正確な数は把握できていませんが、20体を下回ることがないと考えられております。デビルの進軍が伝えられるいま、更にアンデッドの軍隊に襲われ、その上更にアンデッドに変えられる事があれば人々がパニックを起こす事は必至です。なんとしても最終防衛線で食い止めてください。

【敵情報】
 最低でもズゥンビ20体を駆逐する戦力がなければ失敗です。明確には分からないですがデビルはグリマルキンのほかにグレムリン、クルード、インプが数対いる可能性もあります。陣形は最線がアンデット集団、後続にデビルが配置し、アンデッドが壁となり食い止めている間にデビルが魔法で攻撃を行う陣になります。

●今回の参加者

沖田 光(ea0029)/ 巴 渓(ea0167)/ ディアルト・ヘレス(ea2181)/ エクレール・ミストルティン(ea9687)/ エイジス・レーヴァティン(ea9907)/ ラザフォード・サークレット(eb0655)/ アレーナ・オレアリス(eb3532)/ セシリア・ティレット(eb4721)/ ロイ・クリスタロス(eb5473)/ エセ・アンリィ(eb5757)/ アクエリア・ルティス(eb7789)/ 篁 光夜(eb9547)/ アルバート・レオン(ec0195)/ ラファエル・シルフィード(ec0550)/ 燕海山 銀之介(ec4221)/ 狩野 幽路(ec4309)/ ミルファ・エルネージュ(ec4467)/ 鳴神 奏(ec5008)/ アイヤーシュ・サハル(ec5503

●リプレイ本文

 キエフの街からそれ程離れてはいない高台に集結した冒険者。その数、19名。この場所が最終防衛線となる。冒険者ギルドに寄せられた報告によるとデビル、そしてアンデットの集団がまっすぐキエフに向かって来ると言う。しかも途中で村を襲いながらアンデットの数を増やしていると言う報告まであるらしい。「キエフまで来るのを待つのではなくこちらから撃って出るべき」と主張する者もいない訳ではなかった。だが状況がそれを許さなかった。いま、キエフに限らず世界は大変な事になっている。
 突如、今まで何もなかった場所からデビルの軍勢が現れ襲い掛かる事件が多発していた。どこかから進軍してくるならまだしも、今まで何もなかった空間から一瞬でデビルの大軍勢が現れる事さえ報告されている。その原因を調べている者の報告が次々とあがり検討が重ねられた結果、デビルは地獄から続く月道の出口をこちらの世界に出現させる事ができるのでは、という考察が導き出された。つまり、デビルはどこに大軍勢で現れても不思議ではないのである。
 そのような情勢の中、キエフの東に位置する暗黒の国から出撃してきたデビルは何を考えて行動をしているのか。デビルなどの考えなど類推したくもないが、あるいはデビルにも縄張り意識や勢力争いがあるのかも知れない。
「姿が見えた。間もなくここに到達するだろう。アンデッドの集団は矢のような陣形を組んで進んでいる。デビルたちはその後ろにいるようだ」
 舞い降りてくるペガサス。その背に跨り手綱を取るのはテンプルナイトのディアルト・へレスである。
「数は多いけどこれだけの人数がいれば安心して見ていられますね」
 再びペガサスの手綱を引くとディアルトは天へと駆け上がった。そしてディアルトの言葉通り夕暮れの迫る中、白一面が広がる雪原の彼方から黒い影が現れる。
「あれが全部アンデッドだと言うの‥‥」
 怨嗟の表情でまっすぐキエフに向かって歩いて来る彼らも、かつては我らの同胞だった。永久の眠りから覚まされた者もいれば普通の生活を奪われアンデッドに変えられた者もいる。それを思う時、アクエリア・ルティスの気は重い。
「こんな悪趣味な真似、許せない‥‥!」
 大天使の剣をもう一度握りなおした。
「行きましょう」
 沖田光が促す。憎むべきはデビルたちだがまずは盾として使われている死者たちの魂を解放してあげなくては。雪原を走りぬけ一気に間合いを詰める。100m、50m、30m‥‥。
「これ以上先には、一歩たりとも進ませません! 燃え上がれ、僕の精霊力よ!」
 沖田が結ぶ印に呼応して炎の気が集中し、それが敵集団の中央へと撃ち込まれる。ファイヤーボムの爆裂が開戦の合図となった。
「屍の群れとは、美しくないですね」
 狩野幽路が思わず口にする。
「しかし。もうこれ以上犠牲者は増やしません」
「十握剣」アンデッドスレイヤーを片手に最前線へと向かっていった。自らの役目を後衛の術師の護りと決めた幽路はズゥンビの前で得物を大上段に構えるとその哀れな死体へと大きく振り下ろした。殴り込むように飛びこんで来た幽路に襲いかかる無数のズゥンビの爪や牙。だが魔法の効果によって守られた幽路に傷一つ付けさせる事が出来なかった。
「んじゃ、僕もちょっくらホンキ出していこうかね〜」
 にこにこと笑顔を絶やさないままエイジス・レーヴァティンが戦場を駆け抜ける。そのまま敵の軍勢の側面に回り込み、そこで除霊の鈴を鳴らした。人には分からなくともアンデットには抗しがたい音色が戦場に響いた。ズゥンビと化した者たちは鈴の音に導かれてエイジスの方向へと向かい始める。
「今回の依頼、受けては見たけどよ‥‥。なんか、すんげー強そうな顔ぶれ揃っちゃって。こっちは初依頼で何が出来るかもわかんねーし。とはいえ、重要な依頼だ。足だけは引っ張りたきゃねーな」
 アイヤーシュ・サハルは今回が初陣となる。周りを見回すと思いもよらず高名な冒険者が集まっており、緊張しない方が無理であった。近くにいるジャパンの戦士が「落ち着こう」と声を掛けてくれた。
「僕は志士の鳴神奏といいます。どうぞよろしく」
 アイヤーシュと奏は互いに手を握り合い、自らの得物であるナイフに小太刀を構える。見れば見るほど圧倒される程の大群である。しかし、引く訳にはいかない。自分たちの後ろにはキエフの民がいるのである。2人でごくりと唾を飲み込みアンデッドの集団に向かい走ろうとしたその時、アイヤーシュの握るナイフに、奏の握る小太刀に魔法の輝きが宿った。2人は更に驚く。何もない雪原から人が現れたのである。カモフラージュ用に設営されたトーチカが其処彼処に作られていた事を知らなかったのである。戦場工作を得意とする篁光夜の仕事であった。
「武道家、篁・光夜だ。よろしくな」
 篁は自らの拳にもオーラパワーを漲らせ、敵の集団の中へと入って行く。2人は目で追うも光夜の動きは敵のみならず味方さえ幻惑するように変幻自在に動き、現れては消え、隙を見ては相手の喉元に奥義「龍飛翔」が飛ぶ。
 縦横に動く前線の活躍で後衛の術師達は余裕を持って効果的に魔法を撃つ事ができた。
「さぁ‥‥地に伏し、滅べ!魔の者よ‥‥!」
 彼方より声がする。顔が真剣な分だけ頭を飾るラビットバンドが目立つ。だが当人は「否」と言うだろう。イロモノではないと。ラザフォード・サークレットの放つグラビティーキャノンがズゥンビを目掛けて襲い掛かった。地を割くような激しい揺れに脚を取られ、身体を地面へと激しく撃ち付けられる。
「骸骨よ、頭蓋骨どころか兜すら割る『兜割り』受けてみよ!」
 一方、スカルウォーリアーの集団の中で燕海山銀之介が十手「兜割り」を振るっていた。アンデッドの中では手ごわい者たちではあったが、機動力を確保したままで魔力を宿した十手を振るう銀之介には通じなかった。
 アンデッドの数は予想を遥かに越えて50体まで増えていた。その後ろに控え魔法を撃ち応戦するデビルもグリマルキンだけではなく醜いインプやネズミの様なクルードの姿も見える。しかし冒険者の張った前線も想定以上に強力であった。
「我流。【氷拳】ロイ・クリスタロス‥‥参る」
 更に戦線の中へと飛び込む者が続々と現れる。拳を構え白銀の篭手でアンデッドを薙倒していくのは水のウィザードのロイである。我流で磨いた技とは言え達人の域にいるロイにとって接近戦こそ望むところである。ズゥンビに護られるようにして影から魔法を撃っていたインプを捉えたロイはその首を掴み極めたままでクーリングを発動する。
「知っているか? ‥‥酷い凍傷にかかるとな、寧ろ死ぬほど熱いのさ」
 インプの首筋に、冷気の塊が注ぎ込まれて行った。
 冒険者とアンデッドの集団は激しくぶつかり合いながらも徐々に穴が開いて行った。エイジスの鈴の音に引き寄せられて敵前線が崩壊した事も大きい。デビルたちは予測もしていなかった苦戦に困惑しつつあった。
 今回命じられたのはキエフ周辺で動乱を起こす事である。この軍事行動で冒険者を引き寄せて地獄のあの方達に恩を売っておく、と言うのが筋書きでもあった。その為には我らが例え全滅したとしても構わないというのも言い付かっている。それは別に問題がない。我らはここで肉体を消滅してもただ地獄へ戻るだけである。
しかし、なのである。50体を超えるアンデッドを配して軍事行動を起こしておきながら相手に一つの傷さえ与えることさえできないのは。これはかなり問題だ。5体のグリマルキンは今や猫の形態から黒豹の姿へと変身を終えている。緊張に身を震わせながら最後の選択を決めて手下のクルード、インプにもその命を下す。
「本体の力、使うべき」
「地獄に戻ってもデビルの名を汚した我らに生きる道はない。死して名を取れ」
 変身したグリマルキンの呼応に応じてデビルは一斉に動きを止めた。1秒、2秒‥‥、と時が流れる。
「なにをする気だ!」
 オーラエリベイションの加護を受けながらコルムの槍を振るい、前線での盾役に徹していたアルバート・レオンが異変に気付いた。立ち塞がるズゥンビを貫いては止めを差し、静止しているインプをなぎ払っていった。
「アルバートさん、援護します!」
 清楚にして可憐な声が戦場に響き渡る。後方から援護を続けていたセシリア・ティレットが撃ったグラビティーキャノンがアルバートの間をすり抜け静止したままのインプを次々と倒していった。ラファエル・シルフィードも持てる全ての力を使いライトニングサンダーボルトで援護の魔法を送り続けていた。
「次、行きます!」
 続いて詠唱を終えたラファエルが詠唱を終えた瞬間、焦点を合わせるため見た光景は一変していた。グリマルキンが「本体の力」と命じてから10秒が経った時、デビルの体には黒い霧が現れ巻きついて行くのがはっきりと見えた。そして初級で詠唱されたラファエルの魔法は、最弱のデビルであるインプの体に当たったのにも関わらず何のダメージも与えなかったのである。
「本体の、力?」
 動揺しながらも魔力をより上の領域まで高める。難しい詠唱をどうにか纏めて遠距離から電撃を撃った。すると今度はインプもダメージを受けた。
「魔力を強めれば効果があるのですね。じゃあ次はわたしの番でしょうか。悪しき者たち‥‥。これ以上の侵攻は許しません。凍って!」
 ミルファ・エルネージュの放つアイスコフィンが一体のグリマルキンを補足した。抵抗に失敗したのだろう。グリマルキンは一瞬にして作られた氷の棺へと閉じこめられてしまった。
 好機と捉えたエセ・アンリィが、目の前の光景に動きを止めたグリマルキンに一撃を喰らわせる。だが、何か奇妙な光景が目の前で展開された。確実に止めを刺したグリマルキンがバラバラと体を崩壊させ塵のように飛び散ったのである。闘技場に戦場と常に戦いの中に身を置いて磨きを掛けてきたエセの勘。それが何かを伝えた。
「『本体の力』って言いやがったな。つまり、だ。今まで我らが戦っていたのは仮の姿だった訳だ。そして本体は実はもっと強い。だが‥‥」
 それを聞いていたアクアが剣を構え直した
「だが、その力を使っても負けたなら本当に死んでしまうのね。だからアンタたちは今までこの力を使わなかった!」
 。振り返れば今まで何度デビルに絶望を与えられた人々を見てきた事だろう。今度は、私達がデビルに絶望を与える番だ。
「アンタたちも‥‥。私の『友達』を苦しめた連中よね、覚悟なさい。今こそ、その報いを受ける時よ!」
 エセとアクアは突進していった。アルバートも槍を縦横に振るい続ける。
「思ったよりも酷い状況みたい、と思ったけど希望も在る訳ね。じゃあ、ここはお姉さんも頑張んなきゃって思うんだ」
 破魔の大剣・デュランダルを二度大きく振ってアレーナ・オレアリスはグリマルキンに向かい突進して行った。
「その身体は魔法武器でも弾くみたいね。でもデュランダルの味はどうかしら?」
 光点を作るレミエラの輝きを受けながらアレーナはグリマルキンの首を刎ね飛ばした。
「しっかりと味わってよね」
 怪我をした者の治療に当たりながら支援のオーラパワーを付与し続けていた巴渓は状況の変化を捉えデビルの退路を絶つために回り込む。
「低レベルの魔法や一部の魔法武器が効かなくなっていたのはそのせいだったのかい。理屈が分かったのなら簡単だ。ならば自慢の拳をくれてやる!」
 最初は圧倒されていた数でも冒険者が圧倒しつつあった。戦場を上から見ながら作戦を優位に進める事に専念していたディアルトも戦線に加わる。
「みんな、面白いことが分かったよ!」
 スカーレットドレスがひらりと舞う。真紅の色に身を固め縄ひょうを撃っていたエクレール・ミストルティンが声を上げた。
「武器にバーニングソードを掛けると効果があるよ。これ、魔法の武器にかけるとどうなるのかな」
 一瞬、デビルたちが動揺したように見えた。
「あ、その動揺。つまりあんた達にするとより効果が増す、訳ね」
「では私が試して見ましょうか」
 エクレールが気が付いた事はもしかしたら気のせいだったかも知れない。しかしセシリアは試してみた。「戦乙女の剣+1」にバーニングソードのスクロールを使ってみる。知られたくは無い事を知られたような顔をしたグリマルキンが一体、そこにいた。
「元々の剣で充分倒せますけど動揺するのは何故ですか? つまり、あなたの雇い主の倒し方を私が実践しているのでしょうか‥‥」
「聞きたい事はみんな聞いたようですしそろそろ潮時ですね。‥‥滅しなさい。今まで行ってきた暴虐の報いを受けるために!」
 光がファイヤーバードを詠唱した。戦場に巨大な鳳が舞い上がる。そして呼応するように分散していた冒険者が一つに集約する。
「この世界と人々の笑顔は、僕達が守りきります!」

 巨大な閃光がキエフからも見ることができた。アンデッド、それにデビルの襲撃に怯えていたキエフの民はその光に畏れを感じながらも美しい輝きに感動を覚えていた。
 じっと息をこらし様子を伺っている皆が見たもの。
 それはキエフを護るために集まった19人の戦士たちの凱旋であった。