【悪魔と悪辣】全てが闇に包まれる時

■ショートシナリオ


担当:谷山灯夜

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 80 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月17日〜12月22日

リプレイ公開日:2008年12月26日

●オープニング

 クリルが再び目覚めた時、自分がベッドの中にいる事に気が付いた。暫くベッドの中で混沌としている記憶の全てが夢であると思い安堵した。恐ろしい夢だった。クリルは主である醍醐屋みつに付き添いキエフの南方の町にある商会まで出かけた事から悪夢が始まった。
 デビルに従わない商店や商会に圧力が掛けられて来たために結束して商売を行いたい、という密書が届いた事からみつが直接出向くこととなった。今まで影で動いていたみつとは言え、デビルに知られている可能性も高くなっていたことから護衛も3人が付いての道中だった。
 護衛の名は新市、宗次、三恵と言い、親を戦で失い、同郷のみつに救われ共にロシアに渡って来た者たちであり、齢は同じかそれ以下であるみつを親のようにして従い、互いには義兄弟の契りを交わしているとの事であった。いつもは任務以外では寡黙な彼らではあったが、その境遇ゆえかデビルに家族と故郷を奪われたクリルにはとても優しく接してくれた。仕事のない時などジャパンに伝わる「コマ」と言うおもちゃを作ってくれたり甘いお菓子をくれたりした。だから、仕事とは言えクリルは楽しかったのである。親を失ってから、村を失ってからずっと楽しいと言う感情を忘れていた。だが主とは言え姉のようなみつや新市たちのような醍醐屋の従業員に囲まれて、少しずつその傷が癒されて行く感じがしていた。
 だが。商会からの帰り道に悪夢が再び襲って来たのだ。

 キエフへの帰路、前から歩いてくる旅の修道女がいた。段々近づいてくる修道女の顔が視線に入る。瞬間、クリルの足が止まりがくがくと震えた。時を同じくして新市、宗次、三恵はみつを囲むように展開する。
「え、エリン‥‥」
 クリルの口から忘れたくとも忘れられない仇敵の名が出る。その名を持つデビル、エリンこそ貧しいながらも平和で楽しかったクリルの村を消滅させた者である。消滅という言葉さえ足りない。優しかった村人の心に猜疑心の種を植え付け互いが互いを殺しあう村へと変貌させたデビルである。震える足を制し拳を強く握り締める。何をしている、仇は目の前にいるというのに。クリルの心が激しく動く。
 だが、その動きを制するようにエリンとクリルの間にみつが割って入って行った。
「待ち合わせをした覚えはおへんけど、ひょっとして待たせたかしら」
 にっこりと微笑むみつの目線は、だが凍てつく氷のように冷たい。
「ん。そうでもないけど、その言い方だと全てを分かっていて乗ってきた訳ね。という事はつまり、わたしを倒せる戦力がある、と」
 エリンが大仰に身振りをしながら答えると修道服の前のシンボルが揺れる。どこまでふざけたデビルかと憎しみが強く吹き上がる気がした。
「やってみないと分かりませんが、とりあえず武器は仰山持ってきているさかいに」
 新市たちは小刀を構えながら間合いを取る。隠している武器も含めて一斉にレミエラが5個の光点を作った。懐には予備の武器を持ち込んでいるようだ。
「なるほど。エボリューションとカオスフィールド、それにスタッキングは分かっていて対策してきた、と。さすがね」
 感動した素振りを見せながらエリンはみつに問いかける。
「思うんだけどあなた、利益とか目的のためには手段を選ばないひとなんでしょ。なのになんでこっちにつかないの? 人間側が負けるのは決まっているのに。あなたが来るならわたしは大歓迎なんだけどな」
「うちみたいな冗談もよう言えへんもんは、とてもじゃおへんけどお仲間になるのは難しいと違いますやろか」
 誘惑するエリン、そしてデビルの全てを馬鹿げた冗談と言い切るみつ。ふたりとも微笑んでいるが見えない炎が燃えている気がした。
「クリルさん、うちが3つ数えたら逃げなさい」
 小声が聞こえる。エリンから目を逸らさないみつがクリルの手をぎゅっと握っている。クリルは首を振る。みつを残し仇の前から逃げることなど出来るわけがない。しかし、みつは小さく首を振った。
「逃げてください。今だけうちを姉と思いどうか言う事を聞いて欲しい。必ず逃げて冒険者ギルドに助けを求めて」
 嫌だ、と言いたかった。しかしみつの手から、想いが伝わってくる。本当に僕の事を弟のように思ってくれている。それが分かったからだ。新市、宗次、三恵もクリルに頼むと言いたそうだった。
「いち、に、さん」
 新市たちが一斉にエリンに襲い掛かって行った。同時にクリルは走り抜けた。目の前に炎の壁が現れたが気にせず突き抜けた。後ろからは剣戟の音がする。しかし、頼まれた以上は果さなければならない。命に掛けて‥‥

 がばっとベッドから跳ね上がる。両手には火傷の痕があった。
「夢じゃない」
 急いで起き、部屋を出て行こうとした。その時見知った顔を目にする。そこには醍醐屋の面々がいた。商店を焼け出された従業員の彼らは、それでも動じる事無く皆集まり仮の店舗を開いていたのであった。目が覚め動転しているクリルを番頭の正助がなだめ、「一緒に冒険者ギルドへ行こう」と何も聞かずに手を引いてくれた。
「みつお嬢様から置き手紙で指示があってな」
 正助はそれだけしか言わなかった。みつは出かける前に事細かく指示をしていたらしい。
「お嬢様は、深謀遠慮の方ではあったが。なぜご相談してくれなかったのか。いや、もうよそう。今はお嬢様の描いた筋を完成させる事こそが、この正助がお嬢様に報いる最後のご奉公」
 途中から正助はクリルに分からない言葉を話していた。ジャパン語だと思うのだが。クリルの視線に気付き、正助はクリルの正面に屈み込み、そしてクリルの目を見据えた。
「クリルはん。あんたはんにして貰う仕事は。代われるものなら代わって上げたいがお嬢様の出された試練やさかい。あんたがきっちりと向き合わんといかん。例えあんたの心が砕けようともこれはあんたの仕事や。お気張りやす」
 クリルは唾を飲み込んだ。なにか大変な事が待っている。これ以上の悪夢などあるのだろうか‥‥

 一方、話はクリルが逃走した日に戻る。
「クリルさんを逃がすのも計算のうち、よね?」
 みつの問いにエリンが笑った。
「そうよ。あなた達には演じて貰いたい劇があるから」
「うちは演技が下手やさかい。思い通りに演じれないと」
 それが、悪辣のみつの最後の言葉だった。みつの腹には新市の小刀が突き刺さっている。一瞬で事態は変わってしまった。エリンと対峙していた新市に「何か」が耳元で囁き、新市は操られた。みつに襲い掛かり宗次、三恵と斬り合い、そのまま3人は果ててしまった。みつは護衛の手に掛かり死亡したのだ。
「不和の種様、ご助勢感謝申し上げます」
 エリンが「ご主人様」と呼んだ者に恭しく膝を付く。
「仲間が互いに争う姿を見せてくれるなら何でもするさ。では見せて貰おうか。最高の喜劇とやらを」
 二体のデビルは笑い続けた。

 そして今日に再び戻る。
「あら。まだ食べないの」
 エリンが不満そうに見つめているのは、かつて人であった者である。
「向こうの三人、じゃなくて三体は、ほら」
 その檻の中に人の子どもが押し込まれた。泣き叫ぶ子を三体の魔物が襲い掛かり肉を裂き血をすすっている。
「痛いはずよね。痛みを止めるには人を食べるしかないのに。まあいいわ。今日はあなたの仲間に合わせてあげるから、楽しみにしていてね」
 魔物が着ているジャパン服がかすかに動いた気がした。

●今回の参加者

 eb9212 蓬仙 霞(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec0713 シャロン・オブライエン(23歳・♀・パラディン・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec0843 雀尾 嵐淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●出発
 心に嫌な予感が溢れてくる。陽小明(ec3096)は冒険者ギルドに待機していたクリル・グストフに声を掛ける時、一瞬だけ逡巡してしまった。
「クリル、行けますか」
「はい、もちろんです」
 言葉には出さないがクリルの心中は小明にも伝わって来た。ロシアでも有数の商会となった醍醐屋。それを統括する女主人、醍醐屋みつ。クリルの立場であれば自分は一介の使用人に過ぎず、しかも雇われてから二月にも満たない新入りの従業員である。
 ただ、クリルを見つめるみつの目はそれだけではなかった事を小明はよく知っていたのである。まるで鉄のようにその本音を見せる事がないみつが、クリルと話す時だけ唯一ガードが下がる瞬間がある。まるで、弟と話をしているように。一度だけ小明はみつが何故デビルを調査し敵対する行動を取るのか疑問に思った事があった。金に汚いと評判の女主人がなぜ金にならない事に顔を突っ込むのかに疑念を抱いたからである。みつに同行しクリルの住んでいた村に向かったあの晩、みつは寝言で何かを言った。ジャパン語が分からない小明には聞き取れなかったが、寝顔であっても顔色を変えないまま吐き出された寝言は、何故か悔恨の慟哭のようにも聞こえた。
 シャロン・オブライエン(ec0713)がクリルに逃げ出す前のみつたちの状況を聞いた。デビルの話に及ぶとクリルは一度唇を固く結んだ。シャロンは今回の依頼に来る事ができなかった友人からクリルの身に起きた事やそれに関わっているデビルの事を聞いている。クリルの村だけではなくロシアの広範囲に渡り村々を破壊し続け住人の魂を奪い神の名を汚し冒険者への不信を広めたデビル。名を「エリン」と語るネルガルである。その姿さえ己が殺害した修道女の姿を奪ったものとも聞いていた。
 そのおぞましいデビルは人心を惑わす事に長け、特にジーザス教の教えを守る者に目をつけて魂を汚しては手の内に入れる事も聞いていた。高速詠唱で悪魔の魔法を操るネルガルにパラディンの力を振るおうと同行したのだが、クリルから話を聞くに大きな悪意を感じ始めていた。エリンは人心の撹乱を目的として行動し、戦闘では逃げる事に特化しているネルガルとシャロンは分析する。そのエリンが正面に現れ寧ろ戦闘を望んだとしたならば絶対に勝てる自信があったのだろう。そしてみつはそれを知っているからこそクリルを独りだけで逃げさせたのだろう。「導かれてここまで来い」とエリンが言っている気がする。これは罠だ、とシャロンは思った。舐めるな、とシャロンは思った。ネルガルは下級デビルと伝え聞く。その傲慢を粉砕して後悔させてみせる。
 ただどうしても気掛かりになるのはみつと、同行した護衛の今のことである。みつはこれまで散々とデビルの妨害をしてきたと友人から話を聞いた。そしてみつの存在を割り出すためだけに村一つを狙った事さえあったとも聞いていた。友人はみつに類が及ばないように慎重に行動したのにも関らず村に着いた時エリンはみつの名を知っていた。キエフはデビルに協力する人間も多い事を思い知ったと友人は憤り泣いていた。そこまでして捕らえたみつである。恐らくは拷問を受けた上で人質にされるだろう。
「クリル、何故キミの主人は狙われるのを知りながら外出したのかな」
 シャロンはそれが不思議だった。悪辣と呼ばれ奸智に長けた者が取る行動にしては軽率である。或いはみつにはどうしてもクリルを守る意味があったのか。聞く所に拠るとクリルは天使に予言を授けられた事もあるらしい。
「主人、はどうしても直接会って話をしなければいけないと言っておりました」
 それ以外の事は分からないとクリルは項垂れる。みつは口には出さなかったがエリンを追い詰めるための計画を練っていた事はよく知っていたのである。襲撃がエリンに関わったためであるのなら、みつを窮地に立たせたのは自分のせいだとクリルは思い続けていた。
「お初にお目にかかります。僧兵の雀尾嵐淡と申します」
 みつについての情報を集めていた雀尾嵐淡(ec0843)がクリルの肩に手を置いた。
「気休めを言える状況ではないが、あまり悪い方に考え込まない事だよ」
 嵐淡が優しく微笑むとクリルも精一杯に笑顔を作った。小明にはそれも痛々しく思える。
「みつさん、貴方の事だから策も用意しているのでしょうね。でも、こんなクリルを貴方は見たかったのですか。なぜ相談してくれなかったのですか」
 言葉には出さず小明はみつから贈られたローブを握り締めて思った。

●邂逅
 クリルの足が止まった。雪に包まれた風景は激しい戦闘をそのままの形で留めていた。炎の壁があった事を雪の溶けた跡が証明している。大地を穿つ剣戟の跡もある。そして人が倒れたような跡が雪の上にはっきりと残っていた。そこには飛び散る血の跡と、雪を溶かし深く浸透している血の塊が残っていた。鮮血、とはこんな事なのだろう。雪に染みた血は紅の色を保っていた。
「くっ‥‥」
 間に合わなかったか、と言う言葉をシャロンは辛うじて飲み込む。この血の量では助かる見込みはない。
「みつ、お嬢様‥‥。そ、んな。うそ、ですよね」
 クリルは駆け出して行く。どこかに埋もれていないか必死に雪を掘り返した。
「お願いです、生きていてください。お願いです‥‥。僕を独りにしないで下さい!」
 哀願、だった。クリルの両親はエリンの謀略により同じ村に住んでいる村人の手に掛けられた。みつはクリルにとって主人ではあるが、家族のようにも思えていたのだ。
「みつお嬢様、みつさん、クリルです! どこにいるんですか!」
 必死に雪を掘るクリルの目に、何かが映った。平原の彼方に黒い影がある。4人、だ。
「みつさん! それに皆さん!」
 駆け出そうとするクリルの目の前に、小明が立ち塞がった。
「小明さん、あそこに、みつさんが! 見てください、こっちに向かってきます!」
 だが、小明は首を振った。目からは涙がこぼれている。シャロンは沈痛の表情を浮かべ嵐淡は静かに祈りを捧げた。
「デビルとはこんな存在であったか。ここまでするからこそ悪魔と言うのか」
 シャロンも信じたくはなかった。脚を引きずりながらこちらに向かって来る者は、明らかに生者ではなかった。アンデッド。生きる屍に変えられた哀れな存在。頭では理解できているのだ。それが、知人の知己ではなければ。
「オレはなんと説明すればいいのだ」
 本当に闘うのかとシャロンは呟いた。傍らに、ようやく事の次第を飲み込んだクリルがいた。
「闘いましょう」
 小明が静かに前へと進んで行った。
「貴方はこうなる事を分かった上で私達に救いを求めたのですか」
 無表情のまま小明が雪の中を進んで行く。
「私達は貴方の手駒ですか? そんな筋書きを選ぶしかなかったのですか?」
 小明の目から熱い滴がこぼれて落ちる。
「救いを求めるなら生きる事を諦めて欲しくはなかった」
 前に進む小明の横に嵐淡が並ぶ。
「‥‥然し、俺たちは救いを求められた。ならば救おう。最後までデビルと戦ったかの魂を」
 シャロンも大鎌を力を込めて握りしめた。
「キミの噂は聞いていた。こんな形で会う前に俺はキミたちと話がしたかったよ」
 そしてみつの前に立ち塞がる3人のアンデッドを、クリルは名で呼んだ。新市、宗次、三恵が彼らのかつての名であった。肉体の崩壊に苦しみながらも血に飢え血を求め、襲い掛かろうとしている。
 乱戦になりながらも冒険者の力はアンデッドを圧倒した。嵐淡のブラックホーリーが包み込みシャロンが鎌を振るう。次々と襲い掛かる新市、宗次、三恵のアンデッドは静かに、動きを止めた。
「本当に、これが貴方から受ける最後の依頼になるのですね」
 みつの前に、小明は静かに立っていた。涙が溢れた。美貌だけならキエフに勝る者はいないとまで言われたみつ。服には必要以上は金を掛けないらしく質素な装いであったがそれでも艶やかであった。それが破れたぼろからは乳房も腹も剥き出しになり、刃に切り裂かれ開いた肉が痛々しかった。受けた苦痛を分けて欲しかった。
 嵐淡がリードシンキングを試してみた。思考を持たないアンデッドに試すのは虚空に向かい放つようなものである。もし意志を持ち動くアンデットがいるのならそれが怨嗟で死んだレイスに他ならない。それでもここに集まった皆は、みつが「負けない」となぜか信じられたのである。あの悪辣が肉体的苦痛、精神的苦痛に負けるはずがない、と。
 唇が、静かに動いた、気がした。小明はその動きを読む。「ありがとう」と動いた気がした。嵐淡も何かを見た。それは魔法の失敗だったのかも知れない。ロシアに、出会った人たちに溢れるような感謝の気持ちを抱いているみつの心に、触れた気がした。
「もう貴方を縛る物はない。悪辣ではなく本当は優しいみつさんに戻ってお行きなさい。貴方を待っている人が天にいるのでしょう」
 拳に、熱い滴が落ちて濡らす。嵐淡のブラックホーリーが、シャロンの大鎌が、そして小明の拳が。みつを苦痛から解放した。

●夢
「お花畑‥‥」
 みつが目を覚ますと雪原は一面の花で覆われていた。
「うち、雪の中にいたはずやけど」
 不思議に思いながら探索する。ここは見知らぬ土地でありながらなぜか懐かしい場所に思えた。
「みなさんはどないしたんやろ」
 覚悟を皆で決めた事とは言え勝ち目のない戦いに同行してくれた3人は、と探す。遠くに誰かがいる。クリルだ。逃げないで何をしているのか、と思い慌ててみつは走る。近付くにつれ見えてくるクリルは、髪の毛も瞳も漆黒である事に気が付いた。
「そ、そんな‥‥」
 だって、うち、戦に巻き込まれた時。あんたの手を放したさかい、あんたうちの目の前で殺されたはずや。なんで、なんでいるの?
「ようやく会えたね。お姉ちゃん」
 クリルではなかった。十年前にジャパンで亡くなった弟の荘介がそこにいたのだ。デビルにたぶらかされているのかも知れない。だがみつはそれでも荘介をきつく抱きしめる。間違いはない。忘れた事さえない髪の柔らかさをみつは感じていた。
「うち、死んだのやね」
 みつの問いに荘介は何も答えなかった。それでも分かった。
「うち、多くの人を欺いて利用して来たのに。あんたと会えるとは思わへんかった」
「お姉ちゃんは頑張ったでしょ」
 荘介がみつの体を指差す。みつは自分の体が鎧に纏われているのを今初めて気が付いた。
「おねえちゃん、重かったでしょ。もう、脱いで良いんだよ」
 荘介の指が触れた瞬間、覆われていた鎧が音を立てて崩れる。そして羽となり天に舞った。着込んでいた鎧の名は「悪辣」と言った。みつは、ようやくみつに戻る事が出来たのだ。
「荘介。いつかあなたの弟を紹介するわ」
 そしてもし出会えるのなら。守ってくれた多くの冒険者にお礼を言いたいとみつは思った。悪辣のみつではない。ただのみつとして、友達になりたくて‥‥。
「クリル、後は頼みます。そしていつかまた」
 みつと荘介は手を繋ぎ歩き出した。


「可哀想に。どんな夢を見ているのだろう」
 全てが終わった後小明は気絶したクリルを抱えている。クリルの目からは涙が溢れている。なぜこんな少年がこれ程の悲しみを背負わなければいけないのか。嵐淡がみつを美しいままに化粧を施し弔った。
「宗派は異なりますがお赦し下さい」
 シャロンは目頭を押さえながら黙祷をする。最後に小明がローブをみつに掛けて上げた。
「心の内を僅かなりと明かして欲しかった‥‥。生きている内に」
 独りで決めて独りでデビルと戦い独りで行ってしまうなんて。
「なぜ頼ってくれなかったのですか」
 小明はみつの目を閉じ、優しく顔を撫でた。


「醍醐屋は瓦解、と。これでこっちも動き易くなったわ」
 エリンの元に情報が飛びこんでいた。デビルを祓い神の力を讃えるために高僧がキエフに向かっている。その高僧を捕らえ殺害すれば神の権威は落ちるだろう。
「場所は、キエフに近いほどいいわ」
 何をしようと冒険者が間に合う事もないだろう。最近開墾された村を高僧が通る事も聞いていた。
「では、襲撃はそこで」

 だがデビルであっても知る由も無い事がある。一人の女が命を賭けて作った巨大な計画は神さえも驚嘆させる物であった。デビルを葬るために村さえ作り上げる者がいようとは誰が考えるか。生前最後の悪辣の罠に、今、デビルが掛かろうとしていた。