【悪魔と悪辣】Wille 闇を破る黎明

■ショートシナリオ


担当:谷山灯夜

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:01月04日〜01月09日

リプレイ公開日:2009年01月13日

●オープニング

 ここは真っ白な雪原。仰向けになりただ空を見上げる。このままでいれば凍死する事ができるのだろうか。ふと、そんな想いが頭を過ぎる。
「いっそ、死にたい」
 クリル・グストフの抱えた心の傷は想像を絶するものであった。父と母を同じ村の者に殺されて3ヶ月。やっと塞いだ心の傷はまた再び無惨な程にえぐられた。自分を引き取ってくれた人だった。厳しいながらも自分を可愛がり育ててくれた人だった。共に過ごした3ヶ月に、色々な事を教えて貰った。読み書きに計算、国の成り立ちや商売の仕方まで。クリルの住んでいた村をいつか再興したい、と言った時には優しく微笑んでくれた。
「みつお嬢さん‥‥。みつさん‥‥。なんで。なんでなの」
「僕に出会ったからだ。僕にさえ会わなければみつさんはデビルと戦おうとは思わなかったはずだ」
 もう1人の僕が僕を責め立てる。まだ幼さの残るクリルは心から血を流しながらも痛みから逃げる事を選ばなかった。
「みつさんが、新市さんたちが救ってくれた命‥‥」
 命とは、何と重い物なのだろう。重さに絶えられず目眩がしそうになる。動けない。でも動かないと‥‥。

「少年。ここで死ぬ気か」
 探していたぞ、と馬から降りると共に情けない者を諫めるような声がした。
「パーヴェルさん‥‥」
 声の主に気づき、慌てて姿勢を正す。パーヴェル・マクシモアがそこにいた。貴族の彼が自分のような平民を探すと言うのはあり得ない。ただパーヴェルもみつと縁のある一人であった事が二人を結びつける接点になっていた。
「死ぬ気なら止めはしないが、それでみつが喜ぶのかよく考えてみる事だな。もしみつの死に負い目を感じているのだとしたら、責任の取り方はもっと他の方法もあるだろう」
 冷たい目がクリルを射貫いた。
「醍醐屋から受け取ってきたお前宛の手紙だ。手紙くらい読めるのだろ?」
 但し読むなら覚悟をしてから読め、とパーヴェルは言い放った。
「それを盗み読みした訳ではないぞ。私も一通貰っているから内容が想像できるだけだ」
 クリルは、みつを感じられる物であるなら今はどんな物でも触れてみたいと思った。アンデッドに変えられてまで自分の道を貫き通したみつが、何を考え何を思い、そして何故死の道を選んだのか。それを知りたかった。震える指で書を開く。クリルが教えて貰った字体がそこにあった。

「拝啓 クリル・グストフ様
 今、この手紙を読まれている貴方は私の死を悲しんでくれているのでしょうか。もしそうでしたらまずはお詫びを申し上げます。しかし貴方には私の死に対し何の責任もありません。今、私の命を狙うのはエリンだけでは無いからです。筆が惜しいので知る範囲の事を手短に述べます。エリンはカークリノラースというデビルの配下として動いている事を突き止めました。しかし情報を集めるにつれカークリノラースに出会えば私の命も無い事を知りました。エリンを参謀とするカークリノラースは『不和の種』の字を持ってます。言霊で相手の心に殺人の衝動を植え込む強力なデビルです‥‥」

 クリルは驚愕した顔でパーヴェルを見つめた。クリルも知らなかった事実がそこにはあったからだ。つまりみつは護衛を頼んだ誰かに殺された事になるではないか。

「まずは私の業をお詫びします。貴方の考える通り新市、宗次、三恵の3人はこの事を知ってます。それでも万が一に賭けて彼らは同行を願い出ました。死ぬ時は一緒と。例え呪われたアンデッドに変えられたとしてもジャパンを離れた時から一緒の家族だと」

 クリルの心がずきんと痛んだ。家族。みつはあの3人を家族と選んだのだ。なら、何故自分も一緒に連れて行ってくれなかったのか。

「クリル。非道な女を許して下さい。いえ、許してとは申しません。ただ貴方の心が今、絶望に包まれているなら。お願いがあります。この苦しみが分かる貴方だからこそやり遂げてくれると信じて。私の命を対価に大きな商いをさせて下さい」

 所々に染みがあるのにクリルは気付いた。死を覚悟して書き残した物。それを託されたのは自分なのだという重責に目眩がしそうになるも耐えて読み進める。

「まずエリンについて。ネルガルはデビルの中では下級に位置する事も分かりましたがエリンはネルガルの中でも特殊です。人心の把握に長けており殺人を教唆するカークリノラースと一緒ではロシアは更に混沌とするでしょう」

「用心深いエリンは醍醐屋の探索網を忌々しく思っています。それは私を調べるためなら部下のデビルを何体使っても構わない作戦に出た事から分かりました」

 クリルは次の一文に打ちのめされた。

「ならば、醍醐屋が消え私が死ねばエリンはどうなるでしょう。今まで自由に動く事ができなかったのです。如何にデビルとは言え隙ができるはずです。自分の手で私を殺したなら尚更です」

「今ならエリンは無警戒で大規模な人狩りに出るでしょう。デビルは出世欲が高いと見えました」

 ここに一つの策を作りました、とみつの手紙は続いた。醍醐屋の資金を投じて一つの村を作った事、遠くから一人の司教をキエフに招いた事が書かれた上で畏るべき策がそこには書かれていた。

「私が作った村は、皆エリンの手に掛かり破壊された村の住人で作られてます。呼んだ司教はエリンの元の姿の修道女の祖父に当たります。皆、この策のためなら命は要らないと言ってくれた人達です」

 エリンは司教がキエフのできるだけ近くの村で司教を殺害するはずだから、とみつは預言をしていた。エリンが狙いやすいように黒の教義を信仰している村をキエフの近くに作ったのだとも書いている。

「襲うなら教会で行うのがエリンの性格です。村人は十重二十重に教会を囲み他のデビルと戦う事を辞しません。それでもエリンは貴方が信じる冒険者の皆さんで当たって下さい。二度は無い事をこの策に関わった全員が知ってます」

 クリルの目から涙が溢れた。できるなら自分の手でエリンを始末したいだろう。人々が託す想いの熱さを知ったのだ。

「教会にも仕掛けを用意してます。壁には抜け道や隠し扉を作り、天井には銀製の網や小麦粉など考えられる物は仕込んでおきましたので操作方法を冒険者の皆さんに教えて上げて下さい」

「最後になりますがエリンは確かに下級のデビルです。しかしロシアに通じているエリンを倒す事は意味の無い事ではありません。寧ろエリンが倒された事が伝わればデビルに傾きかけた人心を正す事ができます。そして。これ以上エリンの手で誰かの人生が狂わされないように」

 クリルの心の中に炎が宿る気がした。そして最後に「追伸‥‥」から始まる一文にクリルの目から溢れた滴が溢れ染みとなった。

「パーヴェルさん。ありがとうございます。僕は僕の為すべき事を為そうと思います」
 パーヴェルは頷きクリルを自らの馬に乗せた。向かうは冒険者ギルドである。みつが最後まで信じて想いを託した冒険者が集う場所である。

●今回の参加者

 ea8870 マカール・レオーノフ(27歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5076 シャリオラ・ハイアット(27歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb7789 アクエリア・ルティス(25歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec3096 陽 小明(37歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ec5511 妙道院 孔宣(38歳・♀・僧兵・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

セイル・ファースト(eb8642

●リプレイ本文

 村に到着したアクエリア・ルティス(eb7789)は言葉を失った。本当にどこにでもある村だという事にただ驚いたのだ。ここに至るまでの話は全て聞いた。「アクアさん」と彼女を呼んでいた微笑はすでにこの世にはない。何を考えているか分からない女性であったが不思議とアクアは彼女と馬があった。
「みつさん。泣いたわよ。こんな策を受け容れるほどわたしは大人じゃない」
 涙を拭う。
「でもわたしは冒険者。これが依頼なら必ず成功させる」
 先行してこの村に訪れたマカール・レオーノフ(ea8870)が村人と簡単な会話をしていた。マカールが武器の貸与を申し出たが村人は「それは持っていて欲しい」と辞退した。家から現れる村人が次々に魔法の弓やレミエラを装備した鎌、鍬を見せた。
「正確な数は分からない。ただ100は下らないと思う」
 デビルが100体付いてこようが絶対あんたたちの邪魔をさせないと村人は手を握る。アクアがその様子を見て思わず口を挟む。
「何故貴方たちまで戦うの! わたしはもうこれ以上誰にも死んで欲しくないのに!」
 アクアの絶叫に村人は何も答えないでいた。
「死んではなりません。これ以上、デビルによって命が失われるような事があってはならないのです」
 いつの間にか陽小明(ec3096)とシャリオラ・ハイアット(eb5076)が立っていた。小明は言葉少なに、アクアは熱心に、村人に命を大事にして、と願った。しかし村人は命を捨てに来た訳ではないからと微笑む。
「確かに俺たちはもう神を信じる事さえ出来ない。エリンが奪ったものは命よりも重いものだからだ」
 だから俺たちに構わず大願を成就して欲しい、と村人たちが言う。
「ただ、命は無駄にしない事は約束する。俺たちは戦って勝つ。そしていつか約束を果す。ひとりの少年がいずれ村を再興する。その時に力を貸して欲しい。それがあのジャパン人の願いだったからな」
「そのジャパン人にはわたしも縁があります。みつさん、ですね。一度お会いして面白い人だと思っていたのに残念です‥‥。ならばこの依頼を完遂しなければいけませんね」
 小明とシャリオラがアクアの肩にそれぞれ手を置く。
「アクエリアさん。わたしもネルガルとパリで戦ったことはありますが随分毛色が違うようですね。詳細を聞かせて頂けたら」
「自分もお願いしたい。
 ギルドの依頼を受けて急行してきたサクラ・フリューゲル(eb8317)と妙道院孔宣(ec5511)もそこにいた。
「アクア、でいいわ」
 納得はまだできない。しかし夜は司祭と共に村に訪れた。全ては動き出してしまった。後は成功を信じ進むしかない。

 今宵は雪降る静かな夜になった。司祭が厳かに説法を始める。
「世に大いなる災いが迫っています。七つの大罪を冠した黙示録の魔王が現れる予言が現実になろうとしています。しかし今こそ心を強く持ちましょう。七大罪は七元徳を裏切る偽りの力でしかありません。叡智、勇気、節制、正義、信仰、希望、慈悲。偉大な神の宝です。しかし、それに勝る大いなる力が私たちは持っています。それは屈する事のない意思、Willeです。仮にあなたの持つ七つの徳が大罪に穢され絶望の底に落とされたとしても強き意思だけは誰にも穢す事はできません」

 説法が始まった教会に近づく影があった。修道服を身に纏う女は6人の子供を連れてこの村を訪れた。薪割りを続けていた村人の一人が声をかけ会話になった。修道女は巡礼の旅の途中であると言う。連れの子は戦災孤児であると説明した。
「今日はデビルを払う祈りの儀式があると聞いて参りました。非才の身なれど司教と共に祈らせて頂きたく参じました」
「それは殊勝な。共に祈りましょう。しかしもう遅い。一人ずつになるが子供たちは村で預かろう。そちらは教会に泊まりなさい」
 薪を割っていた村人の目が微笑むと修道女は深々と礼を述べ子ども達に「いつも通りちゃんとするのよ」と諭し、教会へと向かって行く。村人の持つ斧に巻かれていた布の下、分厚い上着の中。光が輝いた事に修道女は気が付くことはなかった。

 外から入る風に燭台の火が揺らめいた。教会の内部は不思議なほど静寂に満ちていることに修道女は気がついた。司祭が奥にいた。入り口の近くの席で祈りを捧げていた女が中に入って来た修道女に挨拶をしてから扉を閉めた。一瞬、外の様子を伺い「寒かったでしょう」と労いの声をかけた。
「こんな雪の中の訪問に感謝します。貴女もお祈りをどうぞ。さぁこちらへ」
 女は修道女を奥へと誘導した。一歩一歩を確かめるように。司教はゆっくりと声の方向を振り返る。その表情は変わらない。修道女を誘導する女に向かい大きく頷く。
 女はその瞳の奥に宿る憎しみと悲しみの色を見逃す事はなかった。女、即ちシャリオラは両手を合わせて祈りを捧げる。
「祈りましょう。神の裁きがデビルに下る事を!」
 シャリオラが大きな声を上げた。これが合図だった。
 ばたんと大きな音がした。この修道女こそがロシアの村々を潰して回ったデビル、ネルガルのエリンである。教会の外でその事を見破りシャリオラに合図を送った孔宣の姿があった。後ろの扉から飛び込みアクアと小明が隠し通路から現れ司祭と入れ替わる。それと同時に天蓋から輝く網が降り下りて来た。
「一体、これは」
 網の中で動きを取れずにいるエリンを見下ろすシャリオラ。瞳が冷たく光る。
「さて問題です。貴女は今どんな状況に置かれているでしょう?」
「全ては醍醐屋みつの立てた計画。デビルよ、全て彼女の掌の上だったのです」
 シャリオラ、小明と続けた言葉にエリンは初めて事態を察した。
「醍醐屋、みつ、と言ったか。そしてその名を口に出すお前らに見覚えがある。奴は自分が死すれば我が油断すると知り、そして我は奴の思惑通りに動いた、とでも言うのか」
 答えは聞かずとも取り囲む冒険者がその策を証明していた。冒険者の瞳に映る自分の姿に、エリンは自尊心の全てを崩壊させた。例えば。天使が自分よりも圧倒する徳を備えた人間に出会えば何を思うだろう? エリンは負けたのだ。それも正義と悪との戦いではない。悪魔が悪辣さで負けたのだ。しかもキエフに近いこの地での失態は即ロシア中に伝わる事になる。それはエリンこそが企てた策であった。自分の策さえみつは利用した事に気付いたエリン。悪意を持ち悪辣で勝るからこそのデビルである。エリンはデビルとしての存在をと価値を、たった一人の無力な女と、彼女が最後まで信じた冒険者によって消滅させられてしまったのである。
「うぉぉぉぉっ!」
 網の中で蠢いているのは既に修道女ではない。黒く醜いデビルであった。狡猾を武器にしていた姿はどこにもない。銀の網の中でもがき暴れている。
「忌まわしい網。銀ごときで真の我を捕らえるに能わずと知れ」
 何が起こったのか冒険者は瞬時に悟る事が出来なかった。黒い煙がエリンの体から噴出して来た。禍々しい煙の中で何かが起こりつつある。
「何が、起きているの」
 後衛に位置しているサクラの位置からはその光景がより鮮明に見えた。地獄に攻め入った冒険者が見た黒い煙が現世に出現したのである。この煙が現れるとデビルは守備力が上がると噂されている‥‥。
「貴方がた悪魔の本気とやらを、貴方がたが虫けらと侮ってる人の力で越えさせて頂きます‥‥。鏡月!」
 動かないエリンに孔宣のスマッシュが命中する。隙間を縫うようにシャリオラのブラックホーリーがエリンを捉える。
「反撃もしないのか」
 マカールのナイフの舞いがエリンを切り刻む。
「そっちが反撃しないならこっちは一気に行くぞ!」
 エヴォリューションの発動に備えて隠し持っていた本命の武器、コヴァスの剣に手を置く。会戦後僅か数秒で雌雄は決するように見え、アクアと小明も攻撃に加わろうとしたその時である。
『待って。あと数秒でエリンは仮の肉体から本体になるわ。本体なら』
 脳裏に声が響く。
『本体なら、デビルに本当の死を与える事が出来るの』
 アクアと小明は降ろそうとした武器を辛うじて止めた。なぜその声に従ってしまったのかは分からない。目の前には黒い霧を纏い、銀の網を破っていく。明らかに耐性が変化した事が分かった。
「本体の、力‥‥」
 地獄での戦いでは効果の低い魔法が通じない、銀や一部の魔法武器も効果が無くなったと報告が上がっていた。その力を現世にてエリンは召喚したと言うのか。
『大丈夫、何も恐れる事は無い。相手は正気を失っているわ。そしてあなた達なら勝てる』
 また脳裏に声が届く。確かに、と小明は判断した。長かった。このデビルとは本当に長く戦い続けた気がする。逃げる事に特化したデビル。追っても攻撃をカオスフィールドとエヴォリューションで無効化され結局は逃げられた。しかし今、このデビルは深手を負っている。精神的にも肉体的にも。小明は強化した龍叱爪を構えアクアに視線を送り、エリンの反撃を待つ。
 小明の視線を受けたアクアも、今までの全ての経緯が感情になり熱い滴と変わり頬を流れ落ちた。狂ったように尾で攻撃を繰り返すデビルに、宣言する。
『泣いて悔しがって。 これはみつさんの剣よ。 みつさんがあなたを殺すの』
 アクアの握る大天使の剣がエリンの脳天に直撃した。高速で何かを詠唱したように見えたが術式は失敗したようだ。マカールのコヴァスの剣がこの好機を逃すはずも無い。シャリオラのブラックホーリーの直撃で瀕死となったエリン。思い出したように尾を振るうも誰にも当てる事は出来なかった。小明と孔宣は僅かに動くだけで攻撃を回避しカウンターを撃ち込んだ。

 遂に終わりを迎えた。エリンの体は崩壊し始めた。まるで風に吹かれた埃のように。
「終わりと思うな。我に苦戦する人間が勝てるはずも無い」
 最期の足掻きだった。だがそれさえも無駄に終わる。
『絶望を与えるデビル、エリン。貴方にわたしから最期の贈り物を』
 月が輝きを増したように見えた瞬間だった。教会に何者かが現れていた。美しい顔、ジャパン服を身に纏う姿に声。それは確かに失ったはずのものだった。
「ア、アルテイラ‥‥」
『月道を乱し災厄を撒いたお前達と戦う事を今宵決めた。お前の主はわたしよりも強いか考えて。絶望しなさい』
 その言葉と時を同じくして教会の外から歓声とエリンの連れて来たインプたちの断末魔の声が聞こえて来た。外に飛び出したサクラが見たのは埃となって消えて行く6体のインプの姿であった。
 エリンは、真の意味で絶望して。埃となり消えて行った。

 ジャパン服が揺れる。アルテイラと呼ばれた存在はそしてマカール、サクラ、孔宣に頭を下げる。シャリオラの前でにっこりと微笑みを浮かべる。そしてアクアに向き合い流れ落ちる涙を袖で拭う。
『人である貴方達が見せてくれた意思。わたしは忘れません』
 アルテイラが感謝を述べる。最後に小明に向きあう。
『貴方の武器に。そして‥‥』
 小明にはアルテイラの口がジャパン語で「友になりたい」と動いて見えた。「もっとも、巧く演じる事が出来るかは分かりませんが」とアルテイラは微笑みを浮かべる。

 キエフから離れる事、馬で一週間ほどの距離。クリルは武装キャラバンの一員として村を回っていた。商売を行いながら負傷者の救出や物資の移送、それにデビルの退治を請け負っている。いつかあの人と約束した誓いを果すために。
 クリルは大切にしまっていた手紙を取り出しもう一度読む。
『追伸。クリルさん、自惚れですがわたしは現世で行う使命を貴方から頂けたと感謝しています。死したわたしの心に水を注いでくれたのは貴方でした。天がわたしの罪業を許すならわたしは天で貴方が来るのを。いつまでも弟と待っております。でも急いで来ないで下さいね。貴方は、貴方の為すべき事を為してから。わたし達に自慢して下さい』
『人は絶望に落とされる存在なのかもしれません。でも意思だけは、あらゆる暗闇を破る黎明になれると信じて。 慈悲の徳を持つ貴方に みつ拝』
 手紙を懐にしまう。訪問先の村が見えた。クリルは大きな声で挨拶を述べる。
「わたしはクリル・ミツ・グストフと申します。お困りの事はございませんか」

【悪魔と悪辣】 了