史上最凶「黒い悪魔G」(プラス成分含有)
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■ショートシナリオ
担当:谷山灯夜
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:6 G 65 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月24日〜01月29日
リプレイ公開日:2009年02月02日
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●オープニング
「そういう事でしたらアンデッド退治の話がありますが」
冒険者ギルドに新規の依頼が無いか確認に来たあなたは、にこにこと微笑む受付の笑顔に出迎えられた。微笑みの中に頬がひくひくとさせる痙攣がある、ようにもなぜか見える。気のせいだろうか。遠くを見るとギルドマスターのウルスラ・マクシモアが柱の壁に隠れてこちらを様子を伺っている、気がする。
「貴族の依頼とあって報酬は抜群にいいんです! その上冒険者の皆さんにとって至れり尽くせりのサポートもあるんですよ。食事は豪華な料理をご用意して貰えるそうですし、寝室も豪勢な客間で暖かく眠る事ができます。可愛いペットも巨大なペットも丁重に預かってくれるそうですし、何より荷物が移動不能なほど重いちょっと‥‥な人でも戦闘時に戦えるなら馬車でお迎えに来るから、とまで言ってくれてます」
おかしい。明らかに条件が良すぎる。
「何を疑うのです? 別に強いアンデッドでは無いですよ。なのに報酬が豪華すぎる程豪華なんです。先着順なので早く契約を済ませた方がよろしいと思います。こんないい話は滅多に無いですよ」
そんな事はいいから。早く話せ。一体、何のズゥンビなんだ?
「なんでしょう、その目は。正体を知らないと戦えない、なんて言いませんよね、ね、ね?」
相手を知る事は冒険の基礎中の基礎だろ? それとも言いたくない程厄介な相手がズゥンビになったのか?
「そ、そ、そんな。わたしが何年ギルドの受付をやっていると思うのですか! 別になんとも思ってませんよ、ただの黒い虫のズゥンビですからっ! あ‥‥」
黒い虫? そしてその嫌悪感、って「あれ」かっ! ギルドマスターも柱の影から出てこないし。
‥‥あー、なんだ。ちょっと用事を思い出したんだ。至れり尽くせりの依頼を受けられないのは残念だけど帰らせて貰うよ。
「い、いや、ちょっとっ! 待って下さいっ、本当にあなたはい、いいんですか! 叩かれて潰れた状態で徘徊しているんですよ! もう死んでいるからロシアの冬でもかけずり回っているんですよ! 黒くて羽が生えてわさわさ出てくるなんてもう、インプやネルガルだけでもお腹一杯なんですからっ!」
と言うか、「潰れた」状態なら「潰した」ヤツがいるんだろうが。そいつらにやって貰えばいいんだろ!
「いやいやいやっ! あなたが今日ここに来たのは何かの縁。これは、そうです。『宿命』なんです! 星占いでもきっとそう言われます! というかお願い、なんでも言う事聞くから受けて。ここからすぐそこのお屋敷なんですぅっ!」
そんな悲しい宿命があるかは分からないが涙目の受付があなたの服を「がしっ」と掴んで離さない。依頼内容もさることながらこの受付自体も鬱陶しい。
さて、あなたはどうする?
●リプレイ本文
「これだけの好待‥‥。まさかドラゴンのズゥンビじゃないでしょうね」
軍馬と戦闘馬を厩舎に預けながら神聖騎士のメグレズ・ファウンテン(eb5451)は屋敷の使用人たちに質問する。冒険者ギルドでも報酬や待遇の話をされるばかりで肝心の件、「それが何のズゥンビなのか」についてははっきりと教えられなかったのである。
「ウィザードのベアータと申します。ズゥンビ退治の依頼で参りました」
ベアータ・レジーネス(eb1422)が屋敷の主人への目通りを願っている。屋敷の執事長が現れ「生憎主人は所要に付き家人共々不在となっております」と礼儀正しく詫びを入れた。
「そうですか、それは残念です。ところで、私は一応グリフォンを連れてきてるんですが‥‥。お預けしても大丈夫なんでしょうかね」
連れて来たグリフォンのエフィジオはベアータによく懐いているペットとは言えジ・アースにおいては希少で、そして強靭なモンスターである。一般人で扱いに慣れている者がいるとは思えなかったのだが「確たる事は申せませんがグリフォンに戦って頂けるほどの相手ではありません。それにしても美しいグリフォンですね」と執事が丁重に厩舎へと導いて行った。
その手馴れた扱いにベアータは思わず感嘆する。その一部始終を見ていた執事長がベアータに近づき、恭しく「当家の執事たるもの、これくらいの事はできなくてどうしましょうか」と微笑を浮かべた。上質な黒の生地の執事服がひとつの様式美となっている。
「もしかして私よりも良い所の生まれな人たちなのかも?」
屋敷で会う使用人が貴族の心得を徹底的に身に付けている事をアクエリアス・ルティス(eb7789)は感じ取った。
冒険者ギルドに依頼を求めて行ったところアンデッド退治がありますよとだけ伝えられ、例によって待遇だけを説明する受付に「残念です、相手が不明では戦えませんか‥‥」と挑発としか思えない独り言に乗せられて。今、まんまとこの屋敷にいる。
「アクエリアス様のお部屋はこちらになります。御用がありましたら手を二度・・・」
「えっと、私は『アクア』で構わないわ」
「そうですか。ではアクア様のお部屋はこちらで。何か御用がありましたらお呼びください」
「そうね、あなたも『何が』出てくるかは言わないのでしょうからそれは聞かないことにするけど。とりあえずお茶をお願い。3つ‥‥、いえ、外にいる性悪な記録係の分も入れて4つかな」
皆を部屋に招き寄せ、記録係が口にしたのを確認した上でお茶を飲む事にした。用意されていたのは正しくイギリス風のお茶だった。「故郷の味は久しぶり」とメグレズ、そしてアクアは喜び、温かいスコーンに苔桃のジャムを塗って楽しむ。ベアータはカップで手を温めながら一応の手順について話を進めた。
お茶で体を温めた冒険者は、不安は付きまとうにしても確かめてみない事には前に進まないという結論に落ち着きズゥンビが現れるという場所に向かうことにした。二度、手を叩くと瞬時に執事がドアをノックし、入室の許可を求めて来た。
「ズゥンビが出ると言う場所に案内して欲しいのだけど」
メグレズの求めに執事は一礼すると、無言のまま前に進んで行く。大きな食堂を抜け、更にキッチンまで導かれる。調理師がひとりもいないキッチンの小さな扉を抜け、一度外に出る。10mほど先に大きな建物があった。この建物だけが無骨な石造りで実用性だけを求められ造られたように見える。ただ入り口の扉が異様だった。執拗なまで鎖と鍵を幾重にも掛けられ物々しいほどの封印が施されている。まるで地獄から来た悪魔が内部にいるような、そんな不穏な雰囲気さえ感じる。
「ここは何?」
アクアが執事に問いかけると「食品用の保存庫になります」と執事が答えた。
「ご存知のようにロシアは寒うございますからこのような建物も必要になります」
構造はどうなっているのかと言うベアータの質問に執事は見取り図を取り出し説明した。羊皮紙ではなく貴重な紙である所がさすがだとメグレズは感心する。見取り図によると外に見えているのが一階部分であり地下室がワインの貯蔵庫となっているようだ。
「では、わたくしはここで失礼致します。何卒よしなにお願いいたします」
執事はそれだけ言うと踵を反して屋敷へ戻って行った。随分と「よしなに」の部分が強調されていた事と、先刻まで執拗に付け加えていた「何かあれば呼び出して下さい」の一言が無かった事が気に掛かったが。
何か陰謀じみた不穏な気配を感じながらそれでもやる事はやらないと、という事になり。メグレズはデティクトアンデットを詠唱する。
「ズゥンビなのは間違いようね。大きさは1mほど。数はまっすぐ5m先に1体、それとその5m下の左右に1体ずつ、かな。それにしてもズゥンビにしては動きが速いような気がするんだけど‥‥」
冒険者が今まで見てきた経験で言えば足早なズゥンビなどいないはずである。
「いや、足早という程ではないの。でも、これがズゥンビなら生前はもの凄く素早い生き物になるような‥‥? でも1mの体長でとなるとシフールくらいしか思いつかないのだけど」
「念のため私も確かめてみましょうか」
ベアータはバイブレーションセンサーのスクロールを取り出し、それを広げた。
「‥‥数は3つで合ってますね。ただ、この動き、どこかで感知した事があるような‥‥」
ベアータのモンスター知識が「何か」に触れた気がした。が、理性よりも感情がそれを思い出させるのをあるいは拒否させたのかも知れない。
「確かにズゥンビにしては動きが速いというより速すぎますね。『よたよた』というより『がさごそ』というか。そんな不快な音が伝わって来ます」
「実はアンデッドじゃなくて、相手がネルガルやインプとかじゃないのよね」
その手の類と戦うことになぜか縁があるアクアが尋ねた。
「足は6本あるみたいだけど」
「地面を這いずり回るネルガルがいるなら、そうかも」
速攻で否定するメグレズとベアータではあった。ただ、中にいる物はそれよりもっと凶悪な気がするのは否定できなかった。
皆で顔を見合わせる。とりあえずドラゴンズゥンビがいない事だけは判った訳だからと手渡された鍵を使い入り口の封印を解除して行く。全てを外し中に入る。外の冷気が温かな蔵へと流れ込んで行くのを感じる。内部の空気はまるで嘘のように温かく湿っていたのだ。その冷気の流れに反応したのか。「がさがさがさ」と何かが動く音がした。姿は見えない。腐敗した臭いが蔵の中に満ちていてそれが更に不快感を増大させた。アンデッド戦では珍しい話ではないので冒険者は慣れているはずなのだが。
「外に逃げないように」
ベアータが高速で詠唱を完了させる。ライトニングトラップを入り口の手前に完成させたのだ。続いてバイブレーションセンサーを再び使い位置を特定した。
「どうもこの音には怖気を感じるのですが」
その音の発生源を取り囲むようにライトニングトラップを設置した。
「オーラパワー、掛けるね」
アクアが自分の所有する大天使の剣とメグレズの持つデュランダルに付与する。
「じゃあ、行きましょうか」
ゆっくりと前に進むメグレズとアクア。気配を感じ取ったのか、倒すべく相手、ズゥンビは先頭にいるメグレズに飛びかかろうとして動いた。その刹那、ベアータの用意したライトニングトラップが発動する! 激しい電撃に光るズゥンビの正体を目の前で見たふたりの女性は‥‥。
目の前で撃ち落されたそれは羽が生えて6本の脚にはびっしり(検閲により削除)、中身が外に(検閲により削除)であったのだ。しかも汚臭が著しく激しい。
絶叫。そして逃げ惑う足音。
蔵の中だけではなく執事達の控え室まで響き渡り、執事達は神の名を唱え冒険者に幸いあれと願う。
「ちょっ、まっ、なによこれぇっ!? ズゥンビ? い、いや、そういう問題じゃなくてっ!」
「見えません。私には黒くてつぶれたアレのズゥンビなど何も見えません!」
一瞬にして戦意を打ち砕く光景を直視したふたりは涙を流しているようにさえみえる。ベアータは必死に意識を建て直すと、ぽんと手を叩き冷静さを装う。そしてどうしても思い出せなかったズゥンビの正体に納得した。
「な、なるほど。ある意味最凶なズゥンビですね」
それでも依頼は完遂せねばならない。意を決して武器を構え(以下数行を検閲により削除しました 冒険者ギルド)
5分後。
「や、やったわよ。これで文句はないんでしょ、記録係!」
まだ地下が残ってます。
「やれば良いわけね!」
地下室の奥から絶叫がこだまする。
「ホーリーフィールド、コアギュレイト! そして撃刀、落岩!」
「アグラベイション! ライトニングトラップ! そして消えて無くなれ、アイスブリザードっ!」
「あんたたちを倒すのに傷一つ負わないわ、というか負わせないでっ! オーラエリベイション!」
激しい爆音と閃光。そして数分後に訪れた真の静寂。冒険者は成し遂げたのであった。
ご苦労様でした。
「何かありました? もう記憶から消去したから語る事はないですよ」
「聖水、聖水‥‥。全部、清めないと‥‥」
ベアータ、そしてメグレズが地下室から帰還してくる。遅れること数分。剣を引きずりながらえぐえぐと泣いてアクアが帰還し、依頼は『無事』完了した。
屋敷を出る時に執事達が全員集まり涙を浮かべてお礼を述べた。お土産と称し宝石と保存食を手渡すというより押し付けた。この保存食ってまさか、と言い掛けた冒険者を制し深い意味はないと答えた。「でもどうしても想像して食べる事ができないので」と涙を見せる給仕の言葉が真実なのだろう。
「じゃあ、この宝石はなに?」
問うメグレズとアクアに対し、ベアータだけはなんとなく答が判った気がしたのだ。袋の中に入っているのは全て黒光りする宝石だけだったから。