きゅらっぷらー

■ショートシナリオ&プロモート


担当:谷山灯夜

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 64 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月30日〜10月05日

リプレイ公開日:2008年10月09日

●オープニング

 月道による他国との交流の結果、それまでは未知であった商品や文化が行き交う機会が増えた。特にジャパンから送られる商品は目新しくエチゴヤを始めとする多くのジャパン商人がここ、キエフでも見かけることが増えてきた。
 そのような情勢の中、最近キエフに店を構えた女性商人がギルドに依頼を頼みに来た。

「ごめん下さいまし。冒険者さんに依頼を頼める、と言うのはこちらでよろしかったでしょうか?」

 受付が書き留めている羊皮紙から顔を上げると、そこには東洋系の顔に見える人物が立っていた。
 そこそこ流暢なゲルマン語だ。見たところまだ20歳前後にしか見えない。
 話を促し聞く間に受付はこの女性が噂に聞くジャパンから来た女性商人であることに気付く。
 彼女に関しては単身ジャパンからやって来て店を構えそれなりに繁盛をさせているという噂がまず聞こえてくる。そしてそれと同時に、支払いに関する事には渋いとかケチであるという噂も。
 
 だが。そうと分かっていても大抵の男は彼女に頼まれると「うん」と返事になってしまう、という締めが最後に付く。そしてこの日の受付は男性であった。
 
「はい、なんでしょうか?」
 おろおろと哀願するような彼女の漆黒の瞳に吸い込まれそうになり、いや、既に吸い込まれた受付は、優しく、優しく、彼女に話を促した。噂に違わぬ美貌、そして鈴のようとまで言われる声である。
「はい、実は先日の事なのです。品物の搬入に雇った方達が大層相撲を‥‥、あ、裸一貫‥‥、いえ、褌、くらいはつけておりますが、とにかく裸で行う格闘でございます。その格闘をするのに長けておりましたので、この地で興業を行う事にしたのでございますが‥‥」
「が、なんでしょう」
「その‥‥。給金の件で多少揉めまして。いえ、頂くおひねり‥‥あ、チップ、でしょうか、それは彼らに皆渡していたのですが、それと食事等々」
 
 話の流れを推察してみる。使っていた労働者がいて本来の仕事は荷物の運搬だった。だが彼等は余暇の遊びとして格闘の試合を行っていた。それにこの商人が目を付け興業に変えて入場料や飲食代で稼いでいた。
 なのに給金は搬入の仕事の分以外は渋った、というより出さなかった、と。

「で、依頼というのは?」
 大体、受付にも想像は付いたのだが一応確認を取ることにした。条件も想像は付いたのだが。
「はぁ、いなくなってしまった彼等を見つけ出してうちとこまで連れて来て欲しいのです。とりあえず、1人の居場所は判りました。なんでもここから南に行った村の池に棲みつき、夜な夜な畑を荒らしてるとかで、うちとしても心苦しくて、なんとか懲らしめるなり改心させるなり、うちとこまで引きずって来ては頂けないでしょうか」

 そして最後、さも当然のように「なるべく安くお願いします」の一言がやはり付け加えられた。
 さて、どうするか。
 おろおろと狼狽えて今にも崩れそうに見える依頼人に目をやりながら受付はちょっと思案をしてみる。
 格闘が得意で池に棲みついたというその相手は、ジャパンから来た河童、なのである。

●今回の参加者

 eb7758 リン・シュトラウス(31歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec0866 マティア・ブラックウェル(29歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ec5472 フル・シャーク(22歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 ec5594 クローシス・ガーラント(27歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

 依頼主の店、醍醐屋はキエフの中心から離れた位置にあった。
 店内へと通され依頼主である店主と会った時、確かに言われるだけはある美貌だとリン・シュトラウス(eb7758)は思った。挨拶と謝辞を聞いて感じたのだが、この女に「ありがとう」と繰り返されると確かに耳に心地よく、男女に関係なくつい必要以上の仕事をしてしまうのも分かる気がした。
 みつと名乗る女店主は支えていないと倒れてしまいそうな人に見える。
「繊細な方ね、見た目は」
 胸の中で呟いた。みつは、この外面を最大限に利用して巧く人を誘導しているのだろう。リンにとって素直に依頼を受ける事ができない理由はそこにあった。まず話の主導権をこちらが取ろうと話を振ってみる。
「みつさんも一緒に村へ行きませんか」
 その方がお金も掛からないし、とリンは提案する。店内から見える通りでリンを待つマティア・ブラックウェル(ec0866)を指差し、彼も一緒ですからと付け加えた。みつも美しいのは認めるが、美貌ならマティアも劣りはしない。
「キエフで高名なトルバドゥールさんたちとご一緒なんて」
 思ってもいなかった反応が返ってくる。なぜ知っているのか訪ねると人の噂は気に掛けておりますとの答が返ってきた。
 ところで、とみつは話を切り出す。4人と聞いていたけど他の方は、と訪ねられリンは返答に窮する。未だ見えないとなると遅刻をしてしまったのだろう。
「困りましたね。遅刻された方をこれ以上待てませんし、わたしにも同行して欲しいと仰るし」
 リンは室内の空気が寒くなっていくのを感じたが、みつは再び穏やかな微笑みを浮かべた。
「よろしいです。キエフの詩人と同行ならば寧ろ光栄でもあります。その上安くなるとのご提案なので、その意気を汲んで依頼は継続とさせて頂きます」
 そして遅れた人は店の手伝いをして貰い報酬は減額でどうでしょう、と提示してきた。
 やられた、とリンは思った。相手が商人ならこの手の話術は冒険者が及ばない事に気が付いたのだ。しかしリンはひとつの計画を胸に秘めここにいる。感情を抑えそれを了承した。
 店を出る前に中を見回すと、黒絹で織られた褌があった。無駄に豪奢と思えるその品を見て密かにほくそ笑み、リンはそれを購入するのであった。
 道中は穏やかだった。みつが用立てた2台の馬車にリンのペット、精霊龍の更紗と更衣はそれぞれ分かれて乗った。みつの用立てと聞いて嫌な気分はしたが、ペットの火妖精、デメテルが面白そうに乗るのでマティアも仕方がなく同乗する。
「経緯はともかく、シュトーちゃんとの旅なら楽しいわね」
 マティアはリンの事をそう呼んだ。リンには同名の妹がいるので姉の方をシュトーと呼ぶようにしている。
「そうですね。旅先で見かけた景色を詩にできると楽しいのですが」
 その時ある事をリンは思いだした。
「確かマティアさんのお誕生日がもうすぐですよね」
「覚えていてくれたの? シュトーちゃんはお誕生日は過ぎてしまっていたわね。遅くなったけどおめでとう」
 ありがとうございます、とリンも喜ぶ。とても良い気分である。視界から依頼主を外してしまえば、だが。

 村に到着する頃には日も傾いていた。
 宿泊先として用意して貰った二階建ての納屋にリンとマティアは通される。案内をしてくれた村人の、目の下の隈が痛々しい。
 倒れそうな男性に安心していてとマティアは宣言した。依頼主は確かに悪いが河童・更泉もここまでして良いはずはない。ここはひとつビシっと雷を落とさなければ。勿論依頼主にもである。
 一方でリンは慣れないジャパン語を駆使し看板を作っている。
「わたしは おはなしがあります」
 木の板に筆を走らせた。
「わたしは あいたいです さらいずみさんに あした おひる」
 ジャパンの文法はよく判らないけど国によって変わるものではないだろう。確認のためジャパン語がもっと上手なマティアに見せた。マティアは微妙な顔をするも「意味は通じるわね」と答えた。早速池の傍に立てに行く事にする。
 照明をふたりとも持っていなかったが今夜は月が明るい。マティアの視力とリンの聴力を使いどうにか池に辿り着くと看板を立てた。
 その時。少し離れた草むらの中から何かの音が聞こえた。
 マティアさん、あそこ」
 暗闇へ指を向けるリン。マティアにはうっすらと何かが見えた。
「ちょっとアンタ、更泉ちゃん! そこにいるんでしょ!」
 一度だけ草むらが揺れ、再び静寂が訪れる。
「アタシ達、話は聞いているのよ。怒る理由も分かる。けれど村に迷惑を掛けちゃいけないわ!」
 とにかく話がしたい。マティアは誠心誠意を込めて草むらに声を張り上げた。だが何の返事もない。沈黙の間が続いた後、音の主は池に向かい逃走した。
「分かっては貰えないようね」
 マティアは魔法の詠唱を開始する。音の主は池の手前まで逃げているのが闇の中にかすかに見える。
 その影が池に逃げ切ろうとした瞬間、大きく転倒する音がリンの耳に聞こえた。
「成功みたい!」
 マティアのグリーンワードに呼応した草たちが、更泉の足を掴んだのである。
「次、いくわよ!」
 今度はグラビティキャノンを放つ。再び音を立て倒れる更泉の影。マティアは一気に片を付けようと再度詠唱を開始する。
 しかし更泉は倒れたままで体に何かをさすり付けるとその場から走り出し、小さく音を立てて暗い池の中に消えてしまった。
 ふたりも急いで池まで走ったが誰もいなかった。
 最後の一押しが足りないようね」
 マティアは考え込む。リンも手詰まりを感じていた。瞬間で完治できる薬を持つ相手を屈服させるには僅かに力が足りない気がする。その僅かの差が、実はかなり大きい。
 旅の疲れもあるし、今夜は一旦帰って休む事にした。案ずる事も多いが干し草の甘い香りに包まれふたりは眠りへと誘われた。
 次の日、小鳥の鳴き声で目が覚めた。外に出ると抜けるように青い空が広がっている。雲は高く、刈り取り前の小麦やライ麦の穂は朝日を受けて黄金色に輝いていた。美しい景色に少しだけ気分も前向きになる。身の回りを整えるとふたりは池へと向かった。
 立てて置いた看板に果たして反応はあるかと探してみる。看板の裏には「応」とのみ書かれていた。

 今日で結着がつくから、とリンはみつを呼び出した。マティアも合流し3人で池に向かうとこちらに向けた視線に気付く。不意に池の中からジャパン語で話しかけてきたのは無論更泉だった。
「昨日は痛かったぜ。あれはもうご免だ」
 更泉が池から這い上がり縁に立つ。そして結着を相撲でつけないか、と言いだした。
「そっちが勝てば降参する。俺が勝てば逃げるのを見逃せ」
 勝手な言い分だが手詰まりの今は寧ろ助かる。そしてリンにとっては願ってもない話だった。
「更泉さんの相手はみつさんが適任だと思います」
 挙手をすると、リンはみつを更泉の前に押し出そうとする。
 そして仲良くなれば良いと思います!」
 隠し持っていた黒絹の褌を差し出しみつににじり寄る。ちょっと待って、とみつはふらつき倒れてしまう。襦袢がはだけ、真っ白な足が顕わになり艶めかしい。
 リンは軽い興奮を覚え、「革命の始まりですよ」と内心で宣言し勢いのまま相撲を取らせようとする。
 だがいつの間にか現れていた村人が周りを囲んでいるのに気付いた。その視線はかなり冷たい。更にみつの口元が薄く微笑むのを見てリンは気付く。この状況では自分が悪く見えるではないか。
 その時、目を背けていたマティアがもう分かったわよとリンから褌を取り、そして納屋へと向かった。再び納屋から出て来たその姿に村人は老若男女問わず感嘆の声を漏らした。
 白の肌に揺れる金の髪、そしてきりりとした黒の褌の組合せがとても美しい。
 みつを睨み、マティアは「雇い主である貴女の、商売人としての怠慢が招いた事なのよ!」ときつく言い放った。さすがのみつも圧倒され、素直に村人に、そしてふたりと河童に頭を下げた。
「マティアさんにそんな格好までさせて申し訳ないです」
 リンは反省するも望外の展開に心が弾んだ。どんな姿でもマティアは絵になると思う。
「シュトーちゃんにジャッジをして貰っていいわね?」
「俺は構わないぜ。掛け声を頼む」
 リンは更泉に教えて貰った通りに開始の合図を告げる。
「はっけよい、のこった!」
 こうして勝負が始まった。更泉が仕掛けるもマティアはそれを巧みにかわす。防戦一方だがじっとマティアは耐え続けた。
「必殺の、かわずがけ!」
 勢いに任せ大技を繰り出す更泉はマティアを後頭部から落とそうと技を掛けた。だがマティアは刹那にそれを回避し足をかけた。逆に更泉の頭が地面へと落ち、そのまま倒れて動けなくなる。
 慌ててマティアとリンが体を探ると、葉に包まれた薬を見つける事ができた。頭や体に塗り込むと更泉は目を開いた。と同時に正座をするとふたりに、そして村人へと詫びを入れた。
「兄さん、いや兄貴。本当にお強い」
 更泉がマティアの手を取って語り出す。前頭筆頭の俺に勝ったんだ、今日から兄貴が筆頭だな、と勝手に話を進めていく。
「そんな称号なんて要らないしアタシを兄と呼ばないで!」
 抗議するマティアに構わず今度はリンに向かい「あんたも名行司だな」とこっちでも意味不明な称号で呼ぶ。
 抵抗するふたりに置いたまま詫びをさせて貰うと言い残し、更泉は池に潜った。逃げた、と皆が思ったが魚を抱えて戻る姿を見て歓声を上げた。
 大鍋を用意して火にかけ煮込む。暫くすると良い香りが辺りに立ち込めた。
 村人を交えての宴会が始まった。
 ふたりが誕生日を迎えた事を聞き出した者が祝杯を上げ、それが広がり何度も唱和される。リンが歌いマティアは詩を奏し、更泉も村の安寧を祈願して四股を踏んだ。