【黙示録】抗う者 第一部隊
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■ショートシナリオ
担当:谷山灯夜
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:03月06日〜03月11日
リプレイ公開日:2009年03月16日
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●オープニング
キエフの居酒屋、スィリブロー。酔客の中でひっそりと卓を囲む集団の姿があった。決して乱れる事はなく粛々と杯を重ねて行く彼らに気を止める者はいない。一部の例外を除いては。
「カリン・ステバン‥‥さんですね。貴方に聞かせて貰いたい件があるのですが」
冒険者ギルドのマスターが集団に近づき会釈を行う。博識のギルドマスターは卓を囲む面々が表舞台に決して現れる事はないが錬金術や古代魔法語などに精通する面々である事をよく知っていた。その中でカリンは偏屈者としても名高いが魔道や軍事に関しても見識が高い事で著名な存在であった。ギルドマスターの問い掛けを無視するように杯を重ねるカリンであったが、ギルドマスターも構う事無く話を続ける。
「今回お願いしたいのはデビルの刺客として送り込まれたハルファスに関してなのです」
ギルドマスターはひとつ、咳ばらいをしてから次の言葉をどうにか紡いだ。
「カリンさんはハルファスに師事を受けた、とも伺っておりますので」
ギルドマスターの問い掛けに対し否定も肯定もしないでカリンは杯を重ね続けている。
「戦闘に協力して欲しいとは申しません。ただ策が欲しいのです。あのデビルを倒すだけの策が」
カリンは何も言わなかったが、懐から一枚の羊皮紙を取り出すとテーブルの上に広げた。
「弟子が師を越えようとする姿は、いつ見ても感動的な光景でもある」
卓についている面々の中から声があがる。特に嘲笑をしているようにも見えず至って真面目に感想を述べているようであった。
「ハルファスの打倒に向かってもらう人を募集しています」
翌日、冒険者ギルドではギルドマスター直々に冒険者の募集を行っていた。一度に複数の依頼が上げられている。
「ハルファスと見えるデビルの所在が判明しました。近日、キエフより軍が出立します。ロシアの諸侯もそれに呼応する形で出立の準備に入っています。合流は出立から二日後なのですが、途中積雪の多い山道を抜けるルートを通る必要があるようなのです。ハルファスが狙うとしたら、最も移動速度が遅くなるその地点だろうと作戦立案者は考えています。皆さんには3軍分かれてもらい、現れるハルファスの軍を少しずつ削って貰うだけです」
聞いていた冒険者は呆気に取られた。内容を聞けば聞くほどあまりに単純すぎしかも色んなことが大雑把にしか思えない。
「その前にハルファス、と言えば瞬間転移を敵に向けても仕掛けるデビルじゃなかったか。そんなヤツを相手にするのにこれで良いのか」
当然とも言える冒険者の言葉にギルドマスターは首を振る。
「それも想定済みの策がこれなんです。なぜならハルファスの使う瞬間転移の技は一日一度しか使えないという制約があるから」
ギルドマスターは驚愕の面持ちを見せる冒険者に、事も無く次の言葉を続けた。
「ハルファスは手駒を増やすために軍を壊滅させアンデッドに変えるか、相手の精神支配を試みるかすると見られています。ひとつの軍だけなら護りの部隊に止められてハルファスまで剣が届かないかもしれない。2つの軍でもハルファスに向き合った時点で飛ばされるかもしれない」
ごくりと唾を飲みこむ冒険者に、ギルドマスターが策の全てを話す。
「だけど3つまで軍を分ければそこにハルファスはいると思います」
「キエフより軍隊が出立する事が確認されました。諸侯も呼応して軍を出すようです。数は千まで膨らむとみえます」
偵察に出ていたネルガルたちが帰還する。紅眼のハルファスは腕を組みながら次々と指示を出して行く。本体がある地獄の状況はハルファスにとっては予断が許さぬ状況へと変化しはじめている。
「ゲヘナの事が漏れるのは想定していたが、それにしても早過ぎだ」
不死身のモレク。神に抗いその戦斧で天使を砕き神を滅すとする猛将。天から落とされ暗黒の地獄へと封じられて以来、モレクと共に戦いに没頭する時間だけが悦びであった。
「強くない相手と戦うのは不快であるが、さりとてその剣がモレクに届く事を看過できるような我でもないらしい。我ながら驚く事だがな」
ハルファスは大まかな戦略目標を立てていた。地獄において大きく突出したモレクの陣はモレクの無敵の体があって初めて成り立つ戦術である。しかし戦略的には暴挙でありゲヘナの丘の情報を得た人間側が戦略的優位を握ってしまったのが今の現状である。
これを挽回するには地獄での行動だけでは不能であろう。だが地上でアンデッドを量産し地獄に送り込めば挟撃の形を取ることができる。
「あるいは、間に合わないかも知れぬが」
多岐に渡る戦術眼と冷徹な戦略眼を持ち合わせているハルファスだからこそ持ちうる懸念とも言える。戦いに限らず最も悪い状況を想定してから計画を立てることが出来ない者は、いざというとき後手に回るのをハルファスは誰よりもよく知っている者であるからだ。
「襲撃は山道を抜けた直後、戦線が最大まで伸びきった地点で急襲。前面に壁となる部隊を配置し側方から挟撃する縦深陣をとる」
ハルファスは更に別の指示を付け加えた。
「人の側にもこれくらいまでは看破する者がいる可能性もある。策を練るとしたら高速移動での逆急襲だろうか。だが」
ハルファスは剣を大きく掲げると目の前に集まったデビルに宣言する。
「だが、こちらもそれに備えれば良いこと。寧ろ来るなら喜んで受け入れようではないか。デスハートンで魂を奪った後に我らの手駒として仕立て上げよう。あるいはアンデッドとしてキエフに送り返すのも一興だ。人の側に、我らと対峙する覚悟があるか否かを今こそ問おう!」
応の声が上がる。ハルファスの用意した装備を手に取り、デビルは次々に飛び立っていく。
「健闘を祈念いたします」
ギルドマスターに見送られ出立する第一陣であった。戦略目標はロシア混成軍とハルファスの軍が衝突する時に現れるだろう敵機動部隊の排除である。少人数で機動的に動くことで敵に発見される事無く近付き敵部隊の一角を穿つ事が作戦である。
「空からの攻撃が十分想定されるようです。作戦立案者が言うには第一陣はハルファスと直接戦う事は無いそうですが敵の出鼻を挫き軍を分断させる戦略的意義があるそうです」
黎明が差し込む早朝。デビルの目が届かない陽の光が差し込む時間を見計らい冒険者はキエフを後にする。頑張って下さい、とギルドマスターや一部のキエフの住人が手を振って見送った。
●リプレイ本文
さすがにロシアは寒いと集結した冒険者達は思った。 シャクリローゼ・ライラ(ea2762)とティアラ・フォーリスト(ea7222)が互いが吐く白い息を見て笑いあった。それでもロシア人は暖かくなったと感じる事を聞いて何かの冗談かと思った。
「こちらの方向だろう」
狩猟を得手とし山道に通じている レイア・アローネ(eb8106)が道案内をしている。森の道に通じているシャクリローゼと共に交替で道案内を続けてきた。
「ふははははは! とうとう魔の名将ハルファスとの決戦であるか! しかも軍を3段構えにし、策を巡らすとは、面白いのだ〜。そうであろ? レイアどの」
興奮を隠すことなくレイアに声をかけるのはヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)である。
「う、うむ。そうだな。誰が考えたかは分からないが中々のものだ、と思う」
ヤングヴラドに食料を分けてもらった手前、レイアは今回どうもばつが悪い。傍らでは日高瑞雲(eb5295)が広げた空飛ぶ絨毯に乗っている。絨毯が空を飛ぶ事さえ不思議な光景であるのに筋骨隆々の瑞雲が乗ると更に奇妙な違和感がある。だが乗り心地は良い。同乗させてもらった火射半十郎(eb3241)は絨毯の乗り心地に感心しながら瑞雲と語り合う。
「日高殿。私も依頼は久しぶりなのですが、今回は助かりました」
半十郎の謝辞を同郷人同士、水臭い事を言わないでくれと断り瑞雲もジャパン語の会話を楽しむ。
「俺もロシアは初めてだが、場合が場合だ、観光って訳にも行くまい」
絨毯の上で瑞雲は懐手をしながら胡坐をかいて思案する。冒険者ギルドには進軍している軍に「疫病をばら撒くハエ悪魔がいるらしいので念の為警戒を」の旨を伝えて欲しいと頼んでみたが、説得は今から早馬を出してもそちらの到着後になりますが、と言われた事が気にかかった。
「俺、あまりゲルマン語は巧くないし、貴族相手だろ」
困ったようにぽりぽりと腹をかく瑞雲。フライングブルームに跨ったままその会話を聞いていたルメリア・アドミナル(ea8594)が穏やかに微笑んだ。
「ロシア混成部隊の方たちにお会いしましたらわたくしが説得しますわ。大きな被害が出るような事は絶対にさせません」
「余も協力するのだ〜。貴族相手なら任せて欲しいのだ」
居心地の良いパーティーだと陽小明(ec3096)は思う。深刻な依頼でも笑いは決して絶えない。宿営時に聞こえてくるシャクリローゼの竪琴の音に耳を傾けそっと目を瞑る。懐かしい光景が脳裏に浮かび体の疲れを癒してくれた。
冒険者ギルドが想定していた時間よりも早くロシア混成軍に追いついた。そこには第二部隊の面々の姿も見えた。まずは説得しなければ、と思ったが話は第二部隊の面々が通してくれていたらしい。担当する戦地に向かう第二部隊に激励を送ると笑顔で応えられた。小明は友人の姿を見かけ挨拶を交わす。友が狙うは共通の怨敵である。だが誰かが傷つく事を喜ぶような「あの人」ではないと念を押す。怨敵が命を奪った人は、戦いで誰かが傷つくのを見ることを何よりも嫌う人であった。
「ユニ、敵がどこにいるか教えて貰えます?」
日が完全に山陰に隠れてしまう前にシャクリローゼは同伴している陽妖精のミスラ、ユニに尋ねる。
「ます?」
言葉尻を復唱したのちユニはサンワードで太陽に問う。こくんと頷きユニはシャクリローゼのガウンを引き、暗い谷の彼方に向けて指を差す。
「敵がいるようよ」
時を同じくして空を飛び索敵に向かっていたヤングヴラドと瑞雲が帰還する。
「敵がやってくるよ。小隊くらいの編成でたくさん」
ヤングヴラドの報告に瑞雲は率直な感想を漏らす。
「黒い煙を纏って来やがったぜ。こっちの大軍を攻めるんだからもっと来ると思っていたんだが案外少ないように感じたぜ。伏兵の可能性も考えるか」
瑞雲の予測は尤もだが、これには訳がある。人間界の仮の体がロシア混成軍を襲わんと進軍している最中、地獄での戦いでハルファスの軍は多大な損害を出していた。
そんな事は知らない冒険者であったがデビル襲撃の報を聞き、それぞれの得物を手に取り構える。陽の位置を考えると間もなく午後3時を迎えるだろう。今回は作戦立案者がいるらしいと聞いていたが襲撃時刻までなぜ予測できるのか考えると背筋が寒くなる。だが今はそれどころではない。横に長く展開しているはずだったロシア混成軍は、先に進んでいた部隊が戻ってくる事で密集隊形になり、更に盾を構え迎撃姿勢をとっている。輜重は歩兵に囲まれるようにして隠れている。冒険者と混成軍は開戦前に迎撃態勢を取ることができた。これが戦況を大きく冒険者側を優位にする。
「行きましょう」
ルメリアが詠唱を開始する。術式の完成と共に電撃が迸り、それは扇の形に開く。遥か300mを越えて届いた電撃の中にいた全てのデビルは、阿鼻叫喚の声をあげて一瞬で消滅してしまう。
「こっちの方はティアラに任せて! 力いっぱい吹き飛ばすわよー!」
ティアラは想いを込めて大地の精霊に要請しその力を解放する。
「大地よ、吾に力を与え賜え。ロシアのみんなをアンデッドになんか絶対させないよ」
茶の色の光に包まれたティアラが指を伸ばすと黒い帯状の直線がベルゼビュートフライの集団に襲い掛かる。浮力を失った蝿たちはそのまま地面に叩き落された。
「お願い、ネフィ」
シャクリローゼはランプから召喚したネフリテスこと風神ジニールにお願いをする。4mの巨体をもつネフリテスは、しかしさすがは風の神である。瞬時に空に舞い上がるとストームで敵を撃ち、空を飛ぶアクババの翼に向けてウィンドスラッシュを飛ばした。
「そろそろ私達の出番でしょうかね」
半十郎は魔法が放たれるごとに黒い炎となって浮かぶ壁を見て取った。どうやらこちらの魔法を防ぐために障壁を作りながらの接近を開始したらしい。魔法の詠唱をベルゼビュートフライに命じているようなアクババに狙いを定め、そして矢を放つ。魔弓「ジャガーノート」から射出された銀の矢はまだ術式が完成する前の空間を突き抜けてアクババに命中する。事前にヤングヴラドが付与してくれたブレッシングがその輝きに更なる光を加えてくれた。
それでも絶命までに至らなかったアクババは半十郎に怒号を浴びせつつ天空から降りてくる。半十郎は慌てることなく次の矢を番えそれを放つ。更に次の矢を番えた。それを今まさに襲いかかろうとするアクババの爪と爪の間を抜くように放つ。アクババは「どさ」と地上に落下し雪の上に黒い染みをつけた後、まるで灰か霧のように粉々に崩れて消えてしまった。
歓声を上げることなく半十郎は次の標的に狙いをつける。とにかく、守護しなければいけない範囲が広い。これでも密集して狭まったのだがそれでも3百メートル以上の範囲になる。ルメリアの電撃でかなりのベルゼビュートフライは墜とされたが5体ずつで編成された部隊は幅広く展開されていた。
敵は高速で飛行できるデビルを編隊として編成し、長い陣形になっているロシア混成軍を一度に複数地点で襲撃する一撃離脱戦法を考えていたようだ。
「あーっ、ほんとにうるせえ蝿どもだぜ」
爆音が鳴り響く。瑞雲が放つ一撃は巨大な衝撃波となりベルゼビュートフライとそれを率いるアクババを飲み込んだ。カオスフィールドの壁を縫いながらの接近に成功しつつあった一群だが衝撃波をまともに受けると同時に黒い霧となり霧散していく。
時を同じくしてレイアのソードボンバーが鳴り響く。性急な接近をしていたアクババが傷を負いベルゼビュートフライは瀕死になってその動きが緩慢になるがそれでも動きを止めることはなかった。まるで何かに取り憑かれているように。明確な殺意を持ってデビルたちは口から霧を吐き出した。芽吹いたばかりの木の芽が溶け腐るのを見たロシア混成軍として駆りだされた歩兵は恐慌する。普段は農民なのだから仕方がない。レイアの放つソニックブームが一体一体と落して行くが数体のベルゼビュートフライが抜けてロシア軍に接近する。
だがそれを許すまいと飛び込む影があった。小明である。ベルゼビュートフライの吐き出した酸の毒霧がその身を焼くが構うことなく突き進む。
「これしきの痛み、あの人が受けた痛みに比べれば!」
脳裏に浮かぶはアンデッドへと変えられてしまった友人。その笑顔をもう見ることはできない。もう一人の友、第二部隊で戦っている彼女はきっとこの無念を晴らすために元凶のデビルを討ってくれるだろう。それを成就させるためなら我が身が傷つく事での痛みなど小明にはない。
「みんな、凄いのだ。余も負けてはいられないのだ」
天馬に跨ったヤングヴラドが日本刀「無明」と聖なる盾「ブリトヴェン」を構えて輜重隊を襲撃しようとしていた群の中に飛び込んで行く。敵の前へと向かうも何も無かったはずの空間が突如黒い炎に変わる。
「それがどうしたと言いたいね」
黒い炎の壁を通り抜ける時、ちりちりと焼ける痛みが走るがヤングヴラドは寧ろ笑いが止まらなかった。
「姑息な防御壁ごとき、余の前では薄紙一枚の意味しか持たないのだ」
カオスフィールドの空間の中、アクババに断罪の剣が振り下ろされる。受けた痛みに怒り狂うアクババの爪を難なくブリトヴェンで受けると一刀両断し、更に周囲を飛び回るベルゼビュートフライに返す刀を撃った。
いつしか空は暗雲に覆われていた。それは凶事の予兆ではない。轟音と共に貫かれる電撃の矢。風の精霊が結集して生み出す破邪の雷撃がデビルを撃つ。ルメリアが召喚したヘブンリィライトニングが戦場を掃射した。
悪魔の屍骸は砕け散り、そして黒い霧へと変化する。厚い残雪が暗黒の色に一瞬染まる。それが元の白さを取り戻した時、戦いは終わった。
「ティアラ、他の部隊のみんなが気になるんだけど」
皆も同調し、伏兵の存在がないかを確認した後に軍の先頭へ向かう。デビルの襲撃は失敗に終わったが、小明が受けた傷を見ると、作戦が成功した時の被害の大きさが思い知らされた。
「恐るべき作戦だったと余は思うのだ」
貴族の嗜みとして兵法にも精通しているヤングヴラドが首肯する。その立案者はこの先にいる。自由奔放な策を編み、何よりも人が知る全ての軍事軍略はそのデビルが伝えたとも言われる。
ハルファス。死と破滅を司るデビルの侯爵にして名将である。それでも直接対決している第三部隊は必ず勝っていると皆は信じて合流すべく進軍を開始した。
そして。戦いは終結した。粉になり霧となったハルファスは、最期に呪詛のような予言を残して消えてしまった。ハルファスの遺産。例えハルファスを倒して滅しても、人は戦争を起こし互いに相克する。その時ハルファスが残した軍略、戦術を用い互いの血を流す。それこそハルファスの残した遺産である。そして力を追い求める人は、遂に敵を求めて神を撃つとまでハルファスは予言した。何よりハルファスの遺産を、人は放棄する事などできない‥‥。一同に会した冒険者は、勝ち戦なのに重い空気に支配されてしまった。
「アルテイラ。ハルファスの言葉は真でしょうか」
小明が雲の切れ間から覗く月に向かい問いかける。いつしか傍らに立っている者がいた。ジャパン服を身に纏い無表情でハルファスが消えた空間を見ていた月精霊は、静かに言葉を紡いだ。
「真と思えば真。偽と思えば偽、ですね」
アルテイラは淡々と言葉を紡ぐ。
「人族の欲望は恐ろしい物。欲望に飲み込まれ求めるまま動けば待っているのは全ての破壊と消滅」
汗が滲む拳を握る小明に、アルテイラはにっこりと微笑んだ。
「しかしこの世界を美しいと思えるのは、この世に人族しかいないのも真なのです。利害を超えて。無関係の者のために傷つき、そして涙するのも人族だけ」
欲望と仁愛が混ざり合う人族の心は度し難く、故に愛しいとアルテイラは悪びれたように言い放ち、再び姿を消してしまった。
「私を美しいと思う、真っ当な心を貴方達が持てるように努めるとします」
そうすれば貴方達はデビルの思うようにはならないし、私達精霊も貴方達と友でいる事が適いますでしょう。月の中からアルテイラの笑い声が聞こえて来た。