【黙示録】抗う者 第二部隊
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■ショートシナリオ
担当:谷山灯夜
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 30 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月05日〜03月10日
リプレイ公開日:2009年03月15日
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●オープニング
キエフの居酒屋、スィリブロー。酔客の中でひっそりと卓を囲む集団の姿があった。決して乱れる事はなく粛々と杯を重ねて行く彼らに気を止める者はいない。一部の例外を除いては。
「カリン・ステバン‥‥さんですね。貴方に聞かせて貰いたい件があるのですが」
冒険者ギルドのマスターが集団に近づき会釈を行う。博識のギルドマスターは卓を囲む面々が表舞台に決して現れる事はないが錬金術や古代魔法語などに精通する面々である事をよく知っていた。その中でカリンは偏屈者としても名高いが魔道や軍事に関しても見識が高い事で著名な存在であった。ギルドマスターの問い掛けを無視するように杯を重ねるカリンであったが、ギルドマスターも構う事無く話を続ける。
「今回お願いしたいのはデビルの刺客として送り込まれたハルファスに関してなのです」
ギルドマスターはひとつ、咳ばらいをしてから次の言葉をどうにか紡いだ。
「カリンさんはハルファスに師事を受けた、とも伺っておりますので」
ギルドマスターの問い掛けに対し否定も肯定もしないでカリンは杯を重ね続けている。
「戦闘に協力して欲しいとは申しません。ただ策が欲しいのです。あのデビルを倒すだけの策が」
カリンは何も言わなかったが、懐から一枚の羊皮紙を取り出すとテーブルの上に広げた。
「弟子が師を越えようとする姿は、いつ見ても感動的な光景でもある」
卓についている面々の中から声があがる。特に嘲笑をしているようにも見えず至って真面目に感想を述べているようであった。
「ハルファスの打倒に向かってもらう人を募集しています」
翌日、冒険者ギルドではギルドマスター直々に冒険者の募集を行っていた。一度に複数の依頼が上げられている。
「ハルファスと見えるデビルの所在が判明しました。近日、キエフより軍が出立します。ロシアの諸侯もそれに呼応する形で出立の準備に入っています。合流は出立から二日後なのですが、途中積雪の多い山道を抜けるルートを通る必要があるようなのです。ハルファスが狙うとしたら、最も移動速度が遅くなるその地点だろうと作戦立案者は考えています。皆さんには3軍分かれてもらい、現れるハルファスの軍を少しずつ削って貰うだけです」
聞いていた冒険者は呆気に取られた。内容を聞けば聞くほどあまりに単純すぎしかも色んなことが大雑把にしか思えない。
「その前にハルファス、と言えば瞬間転移を敵に向けても仕掛けるデビルじゃなかったか。そんなヤツを相手にするのにこれで良いのか」
当然とも言える冒険者の言葉にギルドマスターは首を振る。
「それも想定済みの策がこれなんです。なぜならハルファスの使う瞬間転移の技は一日一度しか使えないという制約があるから」
ギルドマスターは驚愕の面持ちを見せる冒険者に、事も無く次の言葉を続けた。
「ハルファスは手駒を増やすために軍を壊滅させアンデットに変えるか、相手の精神支配を試みるかすると見られています。ひとつの軍だけなら護りの部隊に止められてハルファスまで剣が届かないかもしれない。2つの軍でもハルファスに向き合った時点で飛ばされるかもしれない」
ごくりと唾を飲みこむ冒険者に、ギルドマスターが策の全てを話す。
「だけど3つまで軍を分ければそこにハルファスはいると思います」
「キエフより軍隊が出立する事が確認されました。諸侯も呼応して軍を出すようです。数は千まで膨らむとみえます」
偵察に出ていたネルガルたちが帰還する。紅眼のハルファスは腕を組みながら次々と指示を出して行く。本体がある地獄の状況はハルファスにとっては予断が許さぬ状況へと変化しはじめている。
「ゲヘナの事が漏れるのは想定していたが、それにしても早過ぎだ」
不死身のモレク。神に抗いその戦斧で天使を砕き神を滅すとする猛将。天から落とされ暗黒の地獄へと封じられて以来、モレクと共に戦いに没頭する時間だけが悦びであった。
「強くない相手と戦うのは不快であるが、さりとてその剣がモレクに届く事を看過できるような我でもないらしい。我ながら驚く事だがな」
ハルファスは大まかな戦略目標を立てていた。地獄において大きく突出したモレクの陣はモレクの無敵の体があって初めて成り立つ戦術である。しかし戦略的には暴挙でありゲヘナの丘の情報を得た人間側が戦略的優位を握ってしまったのが今の現状である。
これを挽回するには地獄での行動だけでは不能であろう。だが地上でアンデットを量産し地獄に送り込めば挟撃の形を取ることができる。
「あるいは、間に合わないかも知れぬが」
多岐に渡る戦術眼と冷徹な戦略眼を持ち合わせているハルファスだからこそ持ちうる懸念とも言える。戦いに限らず最も悪い状況を想定してから計画を立てることが出来ない者は、いざというとき後手に回るのをハルファスは誰よりもよく知っている者であるからだ。
「襲撃は山道を抜けた直後、戦線が最大まで伸びきった地点で急襲。前面に壁となる部隊を配置し側方から挟撃する縦深陣をとる」
ハルファスは更に別の指示を付け加えた。
「人の側にもこれくらいまでは看破する者がいる可能性もある。策を練るとしたら高速移動での逆急襲だろうか。だが」
ハルファスは剣を大きく掲げると目の前に集まったデビルに宣言する。
「だが、こちらもそれに備えれば良いこと。寧ろ来るなら喜んで受け入れようではないか。デスハートンで魂を奪った後に我らの手駒として仕立て上げよう。あるいはアンデットとしてキエフに送り返すのも一興だ。人の側に、我らと対峙する覚悟があるか否かを今こそ問おう!」
応の声が上がる。ハルファスの用意した装備を手に取り、デビルは次々に飛び立っていく。
「そこのカークリノラース。字は『不和の種』だったか。お前が正面の指揮を執れ。役目は分かっているな。相手の動きをそこで足止めする事が第一義だ。充分に敵を引き付けた所で我が全ての人間を天空に弾き飛ばす」
はっ、と答えるデビルがいた。翼を生やした犬の姿に見えるそれは、天空に向かい飛び立つと同時にその姿を消してしまった。
「第二部隊として、皆さんにはロシア混成軍の正面に立つであろうデビルの軍を逆急襲して貰う事になります」
ギルドマスターは硬い表情のままで話を続けた。
「下級デビルの囲いを構わず突破し、内部で指揮を執っているデビルを撃って欲しいのです。中級クラスのデビルがいることも想定されます」
更にと話を続ける。
「先の地獄での戦いを覚えていますか? ディーテ砦の右門に向かった冒険者が壮絶な同士討ちを始めた件ですが。あれには心当たりがあるのです」
カークリノラースという名のデビルがロシアで暗躍している事をギルドマスターは集まった冒険者に告げる。
「透明のまま近付いては言霊で相手の心を支配するデビルです。今回の戦いに関わる誰であろうと、このデビルに心を蝕まれると大変な事になります」
第二陣の戦略目標にカークリノラースの撃破も加えられた。
「大変難しい戦いになると思いますが、よろしくお願いいたします」
●今回の参加者
ea2181 ディアルト・ヘレス(31歳・♂・テンプルナイト・人間・ノルマン王国)
ea6215 レティシア・シャンテヒルト(24歳・♀・陰陽師・人間・神聖ローマ帝国)
ea6738 ヴィクトル・アルビレオ(38歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
ea9285 ミュール・マードリック(32歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
eb0655 ラザフォード・サークレット(27歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
eb7789 アクエリア・ルティス(25歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
●リプレイ本文
●誓約
「‥‥我らはある意味、ここで決着をつけるためのハルファス封じ込めの秘密兵器のようなものだな」
ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)が呟く。ロシアの各地から集結した混成軍には襲撃を察知した事を伝えた上で、行動を制約される山道での戦いを回避するように下がって貰う事にした。デビルが来るなら寧ろ幸いとする貴族の体面もあることから説得は難航する寸前ではあったが、ヴィクトルの名声もさることながらロシアの貴族社会で名が通っているディアルト・ヘレス(ea2181)の説得が効いた。あるいはミュール・マードリック(ea9285)や雨宮零(ea9527)の姿にざわつき、憧れの視線を向けている騎士もいた。魔法に傾倒している騎士はレティシア・シャンテヒルト(ea6215)の登場にざわついている。
「話には聞いていたけど、ロシアは本当に寒いのですね〜。でも、ベガに抱きついているとあったかい‥‥」
愛馬のペガサスに抱きついているのはアーシャ・イクティノス(eb6702)である。3月、そこかしこで雪渓もでき川の流れも見え始めたが寒さはまだ厳しい。ロシアの軍隊はあつい防寒着に覆われており、国それぞれだとアーシャは感じた。
先刻、第一部隊として作戦に参加する友と挨拶を交わしたアクアことアクエリア・ルティス(eb7789)がいた。冒険者ギルドに提示されていた依頼を見た時、アクアは驚愕した。この部隊に参加すると仇敵に出会えるらしい。なぜそんな事まで冒険者ギルドが知っているのかを聞いてみたところ、ギルドマスター肝煎りの案件である以外分からないとも言われた。
「そろそろレジストを付与して貰ってもいいかね」
振り向くと頭部で伸びるラビットバンドが揺れる。感覚を増幅させるアイテムだがそれが通り名になってしまった。ウサミミのリューことラザフォード・サークレット(eb0655)であった。それはさておき、今回の依頼では奇妙な事に作戦開始時間まで設定されていた。通常なら信じられる話でもないのだが、敬愛すべきギルドマスター、ウルスラ・マクシモアが開戦は午後3時と言うならそれ以外は在り得ないとラザフォードは信じる。やれやれと思いつつも皆も不思議とそれに疑いは持たなかった。ディアルトはロシア混成軍に向かい必ず護ると誓約を立て愛馬のペガサスとともにレジストデビルを詠唱して回った。陽は山陰に沈み始め、ギルドの情報が誠なら時刻も頃合いに思えた。
「行こう」
「行きましょう」
冒険者は向かって行く。強襲する敵に対し逆強襲するために。
●壁
それは、見た事もない光景だった。下級デビルのクルードやグルマルキン、リリスの集団が次々と消えて行くのである。何かが起こっているのは間違いがない。小隊を率いるネルガルの姿を見たレティシアがシャドウフィールドを詠唱しようと思った瞬間、それらは灰のように消えてしまった。敵をかく乱するためにライトニングアーマーを身に纏ったミュールも次々と姿を消して行くデビルに困惑する。
「何が起こっているの」
だが、疑問を持つ間はなかった。全てのデビルが黒い霧を纏いつつある。
「させるか!」
ラザフォードの達人グラビティーキャノンが地を走りデビルをなぎ倒す。その一撃を受けたデビルはそれだけで灰と変わってしまった。
「はっはっは、うさ耳のリューとは私の事だ」
高らかに宣言するラザフォードの目に黒い霧を纏いながら宙を飛び向かい来る6つの鎧が目に入った。直撃を受けたはずなのに小さな傷しかついていないように見える。
「来たぞ」
その声に反応するが早いか、レティシアの唇が一瞬で術式の詠唱を遂げる。
「もっとも近い指揮官に当たれ」
月の矢は、宙に浮く鎧を通り越して何もない空間に命中した。翼が生えた犬が現れるのと、恨みの眼を放つのと、黒い霧が湧き出すのとは全て同時の事であった。
「なぜいると分かった、とは敢えて聞かない」
先刻までいた地獄では最大級の不快な光景を見た。その分も人同士を戦わせてその血をすする事で憂さを晴らそうと人間界に来た矢先、その出鼻を挫かれた形になった。
「だが、我にこれだけの事をしてくれた報いは受けて貰おう」
地獄から本体を召喚するのに掛かる時間は10秒。黙示録の戦い、地獄へと向かった冒険者が分析の結果として出された数字である。
「何が報い!? ふざけるんじゃないわよ、カークリノラース、いや、『不和の種』」
後方から絶叫する者がいる。レティシアから貸与された金槌「ミョルニル」を手にした彼女はまっすぐに突進して行く。私的な感情を持って戦いに望んではいけない。でもこの激情を抑える事はできない。カークリノラースがアクアから奪ったものはあまりに大きすぎたから。しかしその突進は終結してきた鎧がまともに受けて阻まれた。
「いいぞ、その激情。どうやら私が憎いようだな。そうだ、殺意を漲らせろ。殺せ、すべてを殺し尽くせ」
カークリノラースが言霊を操る。耳を傾けると確かに心地よい。
「なるほど。その精神を操る技、確かにお見事です」
レティシアが感心した素振りで、しかし冷たい視線をカークリノラースに向ける。
「余興を見せて貰ったが芸が雑だ。いささか飽いたな」
あくびをする仕草を見せてからラザフォードが印を結ぶ。
「‥‥滅びろ。ここはお前たちの来るべきところではない」
正邪を問わず、対峙したものを切り裂く事から嵐の名を持つ剛剣、テンペストを構えたミュールが何者もいないように鎧の集団の中を歩いてくる。
「みんなで一緒に〜」
アーシャの手には聖剣ライオンハートが握られている。例え中級クラスのデビルでもその前からは退くと伝えられる輝きが剣に満ちる。
「とっつげきー!」
それまで傲慢な雰囲気さえ見せていたカークリノラースは、自分の技が効かないことに動揺を始めた。
「なぜお前達に言霊が通じない。なぜお前達は殺しあうことをしない」
今までならどんな人間でも言葉一つで操る事ができた。愛、信頼、友情がどれ程意味のない物なのか見せるのは心躍る光景でありとあらゆる快楽に勝る快感であった。それが今日は通じない。こんな時はどうすれば良いのか。参謀役として傍らにいたネルガルなら答を教えてくれるかも知れないが、奴は既に灰となり消滅してしまっている。
「理由はただひとつです。『相手が悪かったですね』」
ディアルトとレティシアが纏わせたレジストデビルが既に戦いの趨勢を決定していたのだ。それに気がつかなかったカークリノラースに向けて空からディアルトの日本刀「炎舞」が振り下ろされる。爪を振り上げ受けようとするもディアルトの剣がざっくりとその身を裂いた。そこへヴィクトルのブラックホーリーが命中し追い討ちをかける。
「カ、カオスフィールド、いや、エヴォリューション‥‥」
だが、既に傷を大きくしたカークリノラースが術式を成功させる事はできなくなっていた。
「この一刃、受けるもかわすも貴方次第です。当たれば‥‥僕の勝ちだ」
バーストアタックで鎧を破壊しているアーシャと共に、鎧を灰へと変えていた零がカークリノラースの前に立つとルギエヴィートの大剣を命中させた。苦悶の声をあげるカークリノラースを見つめる黒と紅の瞳は相手の力を見切っていた。
このデビルは特殊能力に依存しすぎてそれ以外に特出した力を持ち合わせていないと。爪や牙の攻撃も稚拙であり魔法の技も刹那には対応できないようだ。その上戦法も大雑把である。
「あとは譲るよ」
そう言いたそうな皆の目に頷くとアクアは金槌から剣へと持ち直す。炎を纏った剣を掲げ弱ったデビルに向けて大きく振り下ろした。
「醍醐屋みつ、そしておまえが操った三人の子供の仇!」
それまで何とか保っていた体が、霧散して行く。この悪魔に繋がる一群にどれだけの血が流れ、人の心の中の一番大切な物が汚されたのだろう。灰に向かいアクアは何度も何度も剣を叩きつけた。でも。本当に望むものは永遠にアクアの元に帰って来る事は無い。
●凶刃を望めば
「望まれた成果は得たが」
どうする、とミュールは聞かなかった。テンペストを握るとデビルの軍が出現した方向へ歩を進めた。想像でしかないが地獄で戦闘があり、結果人間の軍によりデビルは討たれた後でロシアに本体を召喚したのであろう。それが開戦時に起こった不思議な現象だったのかもしれない。
鎧はラザフォードの魔法とアーシャのバーストアタック、零のポイントアタックにより粉々に砕かれた。作戦自体は悪くない。実際破壊には時間が掛かるはずだったが、指揮官に即応性が無かったことと集結した冒険者の力量が戦果を明確に分けた。
「敵は既に手負いのようだ。いまここでハルファスを討つ」
ミュールの言葉に皆も同調する。第三部隊の策を成就させるために囮となることも承服する戦いになる。結果がどうなるのかは誰にも分からない。
「美脚に目にもの見せてくれる」
ラザフォードの宣言には皆で一応突っ込んでみた。
ざくざくと雪を踏みしめ歩く。第三部隊は隠密性を駆使して近づく以上、こちらは注目をさせないといけない。遭遇は突然だった。森を散策する精霊のような姿に、皆一応に息と唾を飲み込む。
「これが‥‥あのハルファス? 話には聞いていたけど、まるで天使のような」
アーシャの呟きは冒険者が共有するところだろう。アクアだけは敵愾心を持ったようだが、そこはさすがに元天使というべきか。人を魅了させる容姿を持っている。
遠くで剣を構える冒険者の姿を見据えた後、ハルファスは後ろから来る気配に漸く気が付いたような素振りを見せた。
「こちらが逆に挟撃されたか」
ハルファスに付き従っているのは僅かに2体のデビルであった。一体はネルガルでありもう一体は空に浮かんでいる剣であった。先の鎧と対になるデビルであろうか。
「この我と戦いたいのか」
遠くからでも紅の瞳には圧す力がある。カークリノラースとは段違いの格を感じた。冒険者はその問いに頷く。
「そうか。だが我はひとり、汝らは二方向。求めに応ずるなら結論はひとつだな」
ハルファスはネルガルに何かを命じ、自分もそれに力を加えた。冒険者には何が起こったかは分からなかった。それはネルガルの変身能力とハルファスのトランスフォーム、そしてさらにネルガルのレジストゴッドが融合した結果の作業であるのだが、その行為はひとつの結果を生む。
「ハルファスが、2体‥‥」
血に染まった剣を持つハルファスが髪を後ろになびかせてから踵を返す。自分を滅するために動く部隊と対じするために。同時にもう一体のハルファスがこちらに向かって来る。瞬間転移をさせられる事はなかった。しかし相手は想像もしなかった手段で応じてきた。向かって来るハルファスの姿のネルガルが、突然消えてしまった。驚愕する冒険者に空から剣戟が襲ってくる
●透明のハルファス
「ネルガルの透明化ですか!」
しかし、ネルガルの格闘能力は高くないなのに、と辛うじて受けた零が絶句する。相手の力量はそれを遥かに凌駕している。
「まさか本当にハルファスを写し身するとは。だがしかし」
ラザフォードが空間に向かって叫ぶ。
「なぜ姿を見せぬ!」
一瞬、場の空気が変わった気がした。
「隠れているなら出て貰うだけ」
レティシアがムーンアローを撃つ。だが意外と近い空間に命中したそれを見てミュールとディアルトが急ぎ駆け寄る。
「なんとかしなければな」
剣戟が鳴る音までは隠す事はできない。その方向に向かってヴィクトルは解呪の呪文を唱える。だが、最後にハルファスがかけた魔法がなかなか解けない。それは人が知らない術である。デビルが神と戦うために生み出した防御の術であり、その前に神聖魔法の使い手は‥‥
「おかしいですね。手応えが変です」
ディアルトが首を傾げる。いつもの通り剣がダメージを与えない。それは相手が透明だからという問題ではなかった。いつしか標的はアクアへと移り、アクアに夥しい切り傷が浮かんでいる。レティシアの打ち込むムーンアローを目標として零とミュールが向かい、アーシャが突進する。
神経をすり減らすような戦いは、ネルガルを倒した時集結した。手に握られていたデビルソードが宙から攻撃してきたがレジストゴットが解除されたデビルソードはディアルトとヴィクトルにより葬られた。
「急ごう、第三部隊の元へ」
皆一応に頷き、ハルファスが向かった先へと駆け出す。第三部隊は想定していなかったハルファスの魔法で苦戦していた。だが解除の魔法を有する第二部隊、そしてやってくる第一部隊の包囲を前にして、ハルファスは遂に膝を付き灰となる。。
「汝ら、あるいは汝らの子孫は必ず敵を求めて神を討つ。我が遺産を使って」
それがハルファスの最後の言葉であった。
暗雲はまだ晴れない。ハルファスの言葉が真であるか偽であるか。力を求め精進する事を神は定めて我らを産んだという。ならば神を超えようとするのは必然だ。ハルファスは言い残した言葉が耳から離れることはなかった。