【黙示録】抗う者 第三部隊
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■ショートシナリオ
担当:谷山灯夜
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:5人
冒険期間:03月05日〜03月10日
リプレイ公開日:2009年03月15日
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●オープニング
キエフの居酒屋、スィリブロー。酔客の中でひっそりと卓を囲む集団の姿があった。決して乱れる事はなく粛々と杯を重ねて行く彼らに気を止める者はいない。一部の例外を除いては。
「カリン・ステバン‥‥さんですね。貴方に聞かせて貰いたい件があるのですが」
冒険者ギルドのマスターが集団に近づき会釈を行う。博識のギルドマスターは卓を囲む面々が表舞台に決して現れる事はないが錬金術や古代魔法語などに精通する面々である事をよく知っていた。その中でカリンは偏屈者としても名高いが魔道や軍事に関しても見識が高い事で著名な存在であった。ギルドマスターの問い掛けを無視するように杯を重ねるカリンであったが、ギルドマスターも構う事無く話を続ける。
「今回お願いしたいのはデビルの刺客として送り込まれたハルファスに関してなのです」
ギルドマスターはひとつ、咳ばらいをしてから次の言葉をどうにか紡いだ。
「カリンさんはハルファスに師事を受けた、とも伺っておりますので」
ギルドマスターの問い掛けに対し否定も肯定もしないでカリンは杯を重ね続けている。
「戦闘に協力して欲しいとは申しません。ただ策が欲しいのです。あのデビルを倒すだけの策が」
カリンは何も言わなかったが、懐から一枚の羊皮紙を取り出すとテーブルの上に広げた。
「弟子が師を越えようとする姿は、いつ見ても感動的な光景でもある」
卓についている面々の中から声があがる。特に嘲笑をしているようにも見えず至って真面目に感想を述べているようであった。
「ハルファスの打倒に向かってもらう人を募集しています」
翌日、冒険者ギルドではギルドマスター直々に冒険者の募集を行っていた。一度に複数の依頼が上げられている。
「ハルファスと見えるデビルの所在が判明しました。近日、キエフより軍が出立します。ロシアの諸侯もそれに呼応する形で出立の準備に入っています。合流は出立から二日後なのですが、途中積雪の多い山道を抜けるルートを通る必要があるようなのです。ハルファスが狙うとしたら、最も移動速度が遅くなるその地点だろうと作戦立案者は考えています。皆さんには3軍分かれてもらい、現れるハルファスの軍を少しずつ削って貰うだけです」
聞いていた冒険者は呆気に取られた。内容を聞けば聞くほどあまりに単純すぎしかも色んなことが大雑把にしか思えない。
「その前にハルファス、と言えば瞬間転移を敵に向けても仕掛けるデビルじゃなかったか。そんなヤツを相手にするのにこれで良いのか」
当然とも言える冒険者の言葉にギルドマスターは首を振る。
「それも想定済みの策がこれなんです。なぜならハルファスの使う瞬間転移の技は一日一度しか使えないという制約があるから」
ギルドマスターは驚愕の面持ちを見せる冒険者に、事も無く次の言葉を続けた。
「ハルファスは手駒を増やすために軍を壊滅させアンデットに変えるか、相手の精神支配を試みるかすると見られています。ひとつの軍だけなら護りの部隊に止められてハルファスまで剣が届かないかもしれない。2つの軍でもハルファスに向き合った時点で飛ばされるかもしれない」
ごくりと唾を飲みこむ冒険者に、ギルドマスターが策の全てを話す。
「だけど3つまで軍を分ければそこにハルファスはいると思います」
「キエフより軍隊が出立する事が確認されました。諸侯も呼応して軍を出すようです。数は千まで膨らむとみえます」
偵察に出ていたネルガルたちが帰還する。紅眼のハルファスは腕を組みながら次々と指示を出して行く。本体がある地獄の状況はハルファスにとっては予断が許さぬ状況へと変化しはじめている。
「ゲヘナの事が漏れるのは想定していたが、それにしても早過ぎだ」
不死身のモレク。神に抗いその戦斧で天使を砕き神を滅すとする猛将。天から落とされ暗黒の地獄へと封じられて以来、モレクと共に戦いに没頭する時間だけが悦びであった。
「強くない相手と戦うのは不快であるが、さりとてその剣がモレクに届く事を看過できるような我でもないらしい。我ながら驚く事だがな」
ハルファスは大まかな戦略目標を立てていた。地獄において大きく突出したモレクの陣はモレクの無敵の体があって初めて成り立つ戦術である。しかし戦略的には暴挙でありゲヘナの丘の情報を得た人間側が戦略的優位を握ってしまったのが今の現状である。
これを挽回するには地獄での行動だけでは不能であろう。だが地上でアンデットを量産し地獄に送り込めば挟撃の形を取ることができる。
「あるいは、間に合わないかも知れぬが」
多岐に渡る戦術眼と冷徹な戦略眼を持ち合わせているハルファスだからこそ持ちうる懸念とも言える。戦いに限らず最も悪い状況を想定してから計画を立てることが出来ない者は、いざというとき後手に回るのをハルファスは誰よりもよく知っている者であるからだ。
「襲撃は山道を抜けた直後、戦線が最大まで伸びきった地点で急襲。前面に壁となる部隊を配置し側方から挟撃する縦深陣をとる」
ハルファスは更に別の指示を付け加えた。
「人の側にもこれくらいまでは看破する者がいる可能性もある。策を練るとしたら高速移動での逆急襲だろうか。だが」
ハルファスは剣を大きく掲げると目の前に集まったデビルに宣言する。
「だが、こちらもそれに備えれば良いこと。寧ろ来るなら喜んで受け入れようではないか。デスハートンで魂を奪った後に我らの手駒として仕立て上げよう。あるいはアンデットとしてキエフに送り返すのも一興だ。人の側に、我らと対峙する覚悟があるか否かを今こそ問おう!」
応の声が上がる。ハルファスの用意した装備を手に取り、デビルは次々に飛び立っていく。
「さて」
ギルドマスターは集まった面々の顔を見ながら慎重に言葉を選ぼうとしていた。
「第三部隊の役目は言うまでもありません。少数精鋭による強行突破とハルファスの暗殺がその目的になります」
第一、第二部隊が交戦を開始した直後、ハルファスの率いる本隊を後方より急襲し、一挙に駆逐するという策。それは策とさえ言えなかった。
「発案者は言ってます。策でないからこそ策になる、と。この部隊を構成する方達の技量だけが成否に関わる因子になる、とも言っていました」
鍛えられた技、体躯や知恵、所持している武装、高速移動を可能とするペットに品々。それらが揃っていなければそもそもハルファスの前に立つことさえ覚束ない。揃った所で立てる権利を得たに過ぎず、卓越した剣技を持つハルファスと戦うのはまた別問題である。
「あらゆる艱難辛苦を乗り越えて。倒して見せて下さい」
ギルドマスターは丁重に頭を下げるのであった。
●今回の参加者
ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
eb4721 セシリア・ティレット(26歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
ec0038 イリーナ・ベーラヤ(32歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
ec0128 マグナス・ダイモス(29歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
ec0140 アナスタシヤ・ベレゾフスキー(32歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ロシア王国)
●サポート参加者
ソムグル・レイツェーン(
eb1035)/
木下 茜(
eb5817)/
レア・クラウス(
eb8226)/
水之江 政清(
eb9679)/
ガルシア・マグナス(
ec0569)
●リプレイ本文
●逆急襲
ハルファスの率いる軍の攻撃を防衛する任についた第一部隊、第二部隊を信じ、冒険者は山道を大きく迂回するルートを進んで行く。
マグナス・ダイモス(ec0128)は隠密行動にレミエラが時として障害になる事を考慮し発光が見えないように試みる。
「体の前面に光点ができるから隠しきれないかもしれないけど‥‥」
「隠密はまず細心の注意。その意味では効果があると思う」
イグニス・ヴァリアント(ea4202)はギルドから渡された地図をマグナスに見せながら答える。雪山にも土地勘があるマグナスの案内によって移動時間は大幅に短縮できているようであった。
「何で今、現れたのかな」
フライングブルームに跨ったイリーナ・ベーラヤ(ec0038)が
「大人の女の直感、これは恋ね。モレクやゲヘナの丘がヤバい今だから、彼のために現世に進軍してきたんじゃない」
別に軽口で言っているつもりはない。女だから解る感覚だろうか。神聖騎士であるセシリア・ティレット(eb4721)でさえハルファスに過去戦ってきたデビルと比べ違和感を覚えていた。
「堕天使ハルファス‥‥、雰囲気が違うんですよね。人間くさいというか」
悩むような表情を見せるセシリアにアナスタシヤ・ベレゾフスキー(ec0140)が諭すように言う。
「第一部隊は敵を蹴散らしてくれよう。第二部隊は敵を突破して、ハルファスの元まで迫ってくれよう。ならばわしらはハルファスがどうであれ討つだけじゃ」
静かな雪山を音も立てずに移動する。魔法の絨毯やフライングブルーム、そしてフライによる飛行がそれを可能とした。移動に魔法力を使うために休息も万全を期した。
「向こうから激しい殺気を感じる」
真幌葉京士郎(ea3190)が皆の移動を制した。
「今、戦闘が始まったという感じだな。急ごう」
恐らくは第一、そして第二部隊が敵と衝突したのだろう。急ぎ山道を進んで行く。するとただ一人雪山の中で足を進める女がいた。春近いとは言え積雪の残る山に不釣合いな薄着。脚を大きく露出させたドレスに天使に間違う背中から伸びた羽。
見間違えるはずはない。ハルファスである。何があったのか。体は既に黒い瘴気に覆われている。しかも身に纏っているドレスは鮮血で染まっている。
「つまり、地獄から来たばかりの本体ってやつか」
イグニスの遠目が瞬時に分析する。目配せをすると冒険者は一斉に踊りこんだ。
●瘴気
「ゲヘナの丘は見つけられてしまいました。すなわちそれは貴女の愛する者が破られるということ。もう未練はないはずですよね、戦女神フィロス・アテネと剣を交えなさい!」
セシリアの構える氷の剣がハルファスに向けられる。強化された魔剣はあらゆる厄を斬り落す霊威を持っていた。だがハルファスは何ら動じる事もなく冷たい眼差しをセシリアに向ける。
「我と剣を交える、か。相手の力を量ってからの方が良いと思うが絶命する者に説教は無意味だな。地獄に堕ちたら語るが良い。黒鳩の剣に討たれたと聞けば獄卒鬼どもの扱いも変わるぞ」
ハルファスは自らの体に剣を突き立てる。黒い血が迸り剣に吸い込まれて行く。瞬間、何が起こったのか理解できなかった冒険者に僅かな隙ができた。ハルファスが剣を掲げると剣から別の瘴気が立ち上る。
「神の剣の前では、何をしても無駄」
セシリアの斬り込みをハルファスがその身で受ける。
「まさかエヴォリューション!?」
そのまさかをハルファスは使って見せたのだ。セシリアの剣がハルファスに命中する。ハルファスを挟んでセシリアの反対方向から攻撃を仕掛けるマグナスの攻撃も命中する。強化された魔剣の霊威は一撃で相手に深刻なダメージを与えるはずであった。それなのに手ごたえの少なさに、二人は焦りを覚える。しかも最初の一撃は確かに効いたようだが次の攻撃からは全くダメージを与えていないことを感覚的に掴んでいた。
「危ない!」
ハルファスの翼を斬ろうとしていたイグニスが二人の間に潜り込み、ハルファスの剣を辛うじて受け流す。ハルファスへ攻撃を当てる事は容易でないが、かわすだけなら何とかなりそうだとイグニスは見切った。
「戦略ではどうか知らんが、戦術で劣る気は毛頭ない」
しかし、本体の力を呼び寄せたハルファスに自分が手に持つ武器が効かない事をイグニスは感覚で悟る。ならば、と味方の攻撃を一撃でも多く当てる機会を増やすためにイグニスは回避を続けた。その言葉が終わると同時に石の壁がハルファスを取囲んでいく。スクロールを手にしたアナスタシアが召還したものだ。アッシュエージェンシーのスクロールを取り出すと、灰から産まれた代理人を移動させ、ハルファスの動きを牽制する。
「驚いたわ。貴方、魔法を使うタイプだったのね」
剣技の数々を予想していたイリーナが少しだけ驚愕していた。だが、デビルとの戦いに身を投じ続けて来た経験が体を動かした。
「堕天使じゃなければ友達になれたかも」
イリーナは思わず口にしてしまう。纏う服と言い、智に傾くデビルにしては主に追随するのを超えて思慕の情が行動原則になっている事と言い、矛盾だらけの存在に見えるからだ。
「だけど」
イリーナは構えた剣を撃ち込む。
「滅させて貰います」
カオススレイヤーがハルファスの持つ黒鳩の剣に命中する。カオススレイヤーの魔力と黒鳩の剣の魔力のぶつかり合い、周囲に衝撃波が走る。黒鳩の剣は折れる事は無かった。だが剣から血の刻印が、そしてハルファスを包み込んでいた瘴気は消えていた。もしやと思いイリーナは返す刀でハルファスに剣を撃ち込んだ。
撃ち込まれた腹部から黒い鮮血が飛び散る。セシリア、マグナスの攻撃は決して無効化されていない事を冒険者はようやく確信した。想像でしかないが、ダメージを弱める防御効果を持つ剣だったのだろう。しかしカオスを祓う魔剣と衝突する事で恐らく、その効果が相殺されたとしか思えなかった。
イグニスの合図に京士郎がソニックブームで答える。
「伊達に烈風の名は持っていない」
ハルファスの体がぐらっと傾いた。だが、致命傷を与えるには足りなかった。
ハルファスの口が高速で動く。黒いもやが湧き上がり、セシリアの胸目掛けて何かの力が襲い掛かってきた。がレジストデビルに護られている身には特段変化が起こらなかった。ハルファスが魔法を使った事でマグナスは生れたエネルギーを利用しパラスプリントで跳躍する。瞬間転移を果しハルファスの首元に狙いをつけた一撃を見舞うがエボリューションで護られた体に同じ剣は傷を付けることはなかった。
「小癪だな」
ハルファスは紅の眼を細めて呟く。
「が、戦術としては間違っていない」
魔法を封じられた形になり、再びハルファスは剣を構え斬り込んで来た。6人に囲まれ黒い血を流しながらもエボリューションで守られ決して倒れない。
「それだけの力がありながら、なんで自分から戦わなかったの」
イリーナが問う。モレクが放った刺客は町に火を放つなど災害を起こしている。しかしハルファスの行った事と言えば地獄において軍を率い、地上においては部下に仕事をさせるだけである。
「何故堕ちたのか」
アナスタシアもそれが疑問だった。
「貴女、モレクに恋をして一緒に堕天使となったのではないですか?」
セシリアが問いかけた時、ハルファスはまさに苦笑という顔を見せた。しかし剣の動きは止まる事がない。
●至る道
「この修羅場で質問か。馬鹿げていると思うが命賭けて問う覚悟は嫌いではないな」
ハルファスの攻撃の間に入り込むイグニスや、イリーナ、マグナスが攻撃を受け流しセシリアはレジストデビルを付与し続ける。どこか一箇所が破れるだけで冒険者の負けが決定するような緊張感が漲る。ハルファスは戦いの中にいる事に愉悦を感じているらしい。
「セシリア、と言ったか。汝に問うが例えば人間にアンデッドスレイヤーを撃ち込めばダメージは大きくなるか」
話が見えないが、セシリアの口は思わず否と動く。
「何故だ。アンデッドも元は人間だった者もいるだろう」
馬鹿げた質問をするハルファスの真意が掴めない。が、目の前にいるのは人に戦の知恵を授け続けて来たデビルである事を思い出し、これが何かの暗示になっている事に皆は思いを馳せる。
「‥‥何が言いたい。元が天使であってもデビルは違う存在、とでも言いたいのか」
マグナスが問いかける。
「なぜ教える。なぜ人が有利に立つように仕向ける」
ハルファスの口元が歪む。髪を振り乱し、いかにも楽しそうに笑いながら剣を振り回し襲い掛かってくる。
「なぜ、か。それは汝らが強さを求めるからだ。そして現にこの一ヶ月で見違えるほど強くなった。我と戦う資格を得るまでな」
ハルファスの紅の瞳が爛々と輝く。
「強くなれば上を目指すが必然。我らは神に造反したと言われる。が、今の汝らも同じであろう。強い者とは戦いたいのだ」
「汝らは強き者がいなければ必ず飢えを感じる。そして最後に神と戦うことを志向する。それが世界を破滅させる事になってもその欲求には勝てまい。我にはそれが見えるだけだ」
その時であった。後方からハルファスを目掛け波状の攻撃が命中した。苦しい戦いを乗り切った第二部隊がそこに駆け付けてきたのだ。永劫にも思われた戦いの天秤は遂に冒険者へと大きく傾く。
「‥‥戯言はそこまでだ、ハルファス。覚悟!」
生じた隙。それを京士郎は最大限に活かした。剣を地面に刺して拳にオーラの力を宿す。同時にアナスタシアも呼吸を合わせて動く。今まで与えていない攻撃ならエヴォリューションは無効化できない。クーリングにより冷気を纏わせた拳をそっと繰り出す。
京士郎とアナスタシアの攻撃を当てるためにイグニスとイリーナが牽制を行う。セシリアがボォルトフロムザブルーのスクロールを広げる。天と地から生ずる電撃がハルファスに襲い掛かる。それは本体の力を召喚したハルファスにとって影響を与えるレベルを持ち合わせていなかったが牽制には充分すぎるほどであった。
アナスタシアから送られる冷気がハルファスに致命的な一撃を与えた。それと同時に京士郎はオーラマックスを詠唱し左右の拳を叩き込む。打撃巻き上げた風が止まった時、ハルファスの体は霧のように崩れ始めていた。ハルファスの最期であった。
「モレクのいない世界に我が留まる気はない。しかし死と破滅のハルファスとして予言を残そう」
彼方から第一部隊の面々もやってくる。終結した冒険者を見つめながら淡々とハルファスは語る。
「黒鳩の剣はくれてやる。他の武装も用意すれば良かったな。それを使い全てのデビルを滅せよ」
正対する京士郎の足元に剣を突き刺すとハルファスは心の底から楽しそうに笑った。
「デビルを滅ぼした汝らは敵に飢える。飢えを満たすため汝らは神にその刃を向ける。たとえ汝らが神を撃たなくとも汝らの子孫は我やモレクに成り代わり神を撃つ。死と破滅のハルファスが残した遺産を用いてな。地表を破壊し全ての人間を殺すのだ。我にはそれがありありと見える。汝らの子孫は我を超える。神を否定し、或いは神の名を用いて人を殺し神を殺すのだ。そして世界の全てを破滅する力を生み出すのに千年も要すまい」
ハルファスはしわがれた声で笑って見せた。
「ならば我がここで尽きる事に悔いは無い」
「嘘、です。私達の子孫が神と戦うなんて、ありえない!」
セシリアが否定の声を上げる。
「そうか」
ハルファスは口元に妖しい笑みを浮かべながら反論を受け止める。そして、遂に消えてしまった。
ハルファスが残した言葉は真であるのか、人心惑わせる偽であるのか。今を生きる冒険者には判らなかった。