●リプレイ本文
●春爛漫
キエフに、遅い春がようやく到着した。街道の防風林の木々にには芽が吹き、真っ白だった大地も緑に黄色、赤の草花に彩られている。
「イースターが来ればいよいよ春。‥‥冬の上着の洗濯だの春の種まきだの、この後やる事は山ほどあるけど、やっぱり春はいいわ」
リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)は大きく背筋を伸ばしながら春の空気を胸一杯に吸い込み、竪琴を爪弾く。
ここはキエフの街の一角。数日前から開かれた春のお祭りは活況で、今はイースターに連なる期間を迎えより賑やかさを増していた。開催に当たり屋台の設営や調理、そして集客に尽力してくれた冒険者の活躍もあり口コミで人が絶えない。人が集まれば物が動く。物が動けば景気も上向き会話も弾む。そして芸事に通じている者は芸を披露したいと思うだろう。確かに僅かな間でしかないのかもしれない。だが、キエフの民はこの一時、地獄から襲撃してくるデビルの事を忘れたのも確かな事である。そしてそれは冒険者も同じであった。
のんびりと散策を楽しんでいるのはゴールド・ストーム(ea3785)である。普段の機敏さは微塵も感じさせない。
「最近やたらとデビルの話ばかりだからな。のんびりさせて貰うとするぜ」
ぶらぶらと歩きながら知人に会う度、手を上げて挨拶を交わして行く。
そこかしこにイースターエッグを配って歩く兎の着ぐるみの姿がある。たまごは復活の象徴であり、多産の兎は出産と繁栄を象徴する存在であるのだ。色を塗られた愛らしいたまごを配って歩く集団に、必然子どもたちが集まってくる。
「イースターおめでとう☆ ウサギのクリスおねーさんからだよ〜」
まるごとウサギさん+1を着込み春色の色彩で彩色したたまごを配っているのはクリス・ラインハルト(ea2004)嬢である。
「るんたった〜♪」
足取りも軽く、「うさぎさんステップ」と名付けたステップを踏み踏み音楽に合わせて歩いていく。お祭り会場を行き来する人の顔に笑顔が溢れる。子どもたちを引き連れながら歩いていると、銀色に輝く刀‥‥ではなく秋刀魚と目が合う。
ぱちくり。ごしごし。でも、サンマだ。
「お嬢さん、私にもたまごを下さいな‥‥。は? 通りすがりの秋刀魚ですが何か? ちなみにお嬢さんのこれからのご予定は?」
「むむっ、もしかして、お誘いを受けているのかな?」
ぷるぷるとぷりちーな尻尾を振る活きの良い秋刀魚がウサギさんと談笑している。ちなみに秋刀魚の中の人はキエフきっての苦労人にして縁の下の力持ち・ディアルト・ヘレス(ea2181)さんである。一見クリスさんをナンパしている風にも見えなくもないけど、実は苦労人らしく暗いこのご時世を一時でも民が忘れる事ができるように、お祭りの盛り上げに尽力されているのだ。実際、子どもたちは大はしゃぎである。
「嵐の前の静けさか、はたまた激戦の間の休息か。この先もこうして祭りを迎えたいものだな‥‥」
上級悪魔のアガリアレプトとの決戦を迎える前に気晴らしに、とお祭りにやってきたディグニス・ヘリオドール(eb0828)はさんまの姿をみて膠着する。
「あれは‥‥ディア‥‥」
知り合いのような気がするのだが、だがディグニスは頭を振る。きっと、気のせいだと思ったディグニスは回れ右をする。そうだ、人違いに違いない。そしてなんだかお邪魔したら悪いようだし。ディグニスは屋台の中に潜り込むと舌鼓を打つことに専念することにした。
「ふはははは!戦争ばっかりなこのご時勢であるが、こうして春を祝う祭を催すことができるのも何か良いことの前触れであるなぁ」
そこへ登場するは十字架‥‥ならぬ、「まるごとじゅうじか」を着込んだヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)である。新たなまるごとの登場に再び沸き上がる子どもたちを相手に、ヤングヴラドは「うむ」と頷きお説法を始める。
「こうして春が訪れるように、必ずやこの時代もよき方向へと向かってゆくのだ! ジーザスの復活を祝うとは、未来への希望を持ち続けることなのだ!」
分かり易く噛み砕かれた説法に、「おー」という声が上がる。その様子を見ながらフィニィ・フォルテン(ea9114)はくすくすと笑う。実はヤングヴラドが着込んでいる「まるごとじゅうじか」は「MMO愛ドル」の称号を持つまるごとコレクター、フィニィが貸与した物である。ちなみにMMOは「みんな まるごと おともだち」の略‥‥だったような気もするけど‥‥よくわかんない。そしてフィニィは「まるごとクマさん」を着込みたまごを配っている。
「ヤングヴラドさんは熱心な方ですね」
『ね?』
フィニィの言葉尻を真似しながらミスラのリュミィと水妖精のメリィが宙を舞う。クマの着ぐるみとリュミィ、メリィに惹かれ集まって来た子どもたちに手を引かれ一緒に遊ぶ事になったフィニィ。
「ウリの馬鹿。いいわ、私だって歌って来るものっ!」
突然、近くの屋台で声が上がったかと思うと、ヴェールに包まれた銀の髪を揺らしながらつかつかとフィニィたちの元へ歩み寄ってくる者がいた。ガブリエル・プリメーラ(ea1671)である。
「クリスさん、フィニィさん、歌を一曲歌いましょう!」
少し怒っているようにも見えるガブリエルにフィニィにクリスはこくこく、と頷く。実はガブリエル、一緒にお祭り来たウリエル・セグンド(ea1662)と甘い一時を過ごそうとしたのだが、肝心のウリエルは屋台のメニューに心惹かれている。
「じゃあ……プレーンと…はちみつと…」
折角ノルマンから来たからには、とロシアのブリヌイを満喫しているウリエル。その幸せそうな顔を見てガブリエルの頬がぷうっと膨れた。頭にうさ耳を付けてクリス、フィニィの中に入る。
「そ、それでは。皆さん、一緒に歌いましょう」『しょう☆』
一呼吸入れてから。期待を込めてこちらを見つめてくる子どもたちの前にして、想いを込めて歌を紡ぐ。
♪雪の下 春を待つ
耐えし花々 夢を見る
太陽の下 輝く様な
己の姿 夢を見る
雪が解け 春が来る
芽吹き花々 咲き誇れ
風に揺られ 微笑む様に
可憐な花よ 咲き誇れ♪
歌い終わると、わあっと歓声があがる。フィニィは少し照れたようにお辞儀をし、リュミィ、メリィは嬉しそうにフィニィの周りをくるくると回った。ぴょこんとステップを踏むクリス。ガブリエルはウリエルのいる方向を見た。
「お疲れ。ガブリエルが、弾いてる姿、好きだ。なんか‥‥安心する」
そして、護りたい。ウリエルの唇がそう動いているのをガブリエルははっきり見た。
「何よっ、そんな顔して見られたら‥‥。怒ってるの馬鹿みたいじゃない」
ガブリエルは再び頬を膨らませながら。ウリエルの元へと駆け寄った。
●春霞
夕暮れが近づく頃。足早に帰ろうとする子どもがいる一方でいつまでも着ぐるみの元を離れない子ども達もいる。たまごをちょうだいとせがんでいる子どももいる。
「これ、よさぬか」
ロシアの伝統的衣装に身を包んで立つ少女がいた。金の髪に透き通るような白い肌。顔立ちは幼く見えるが態度は威厳があるようにも尊大にも見える。
「喧嘩は、わしが許さぬのじゃ、わらべ達よ」
童顔に見えるが実は‥‥のニノン・サジュマン(ec5845)がブリヌイやその他諸々の食べ物の入った包みを抱えながら立っている。自分の背丈より僅かに小さな子ども達を前に、泣く者はなだめ喧嘩する者には諭しながらニノンは滔々とお説教を始めた。
この時間になると迷子も出るようだ。
「迷子の子供というのは何故ああも泣き叫ぶのでしょうか?」
お祭りの会場を行き交う人々の観察を行っていたヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588)が呟く。
「見付けて貰おうという本能の表れかも知れませんが、無駄に体力を消費するだけだと思うのですが」
人の話を最後まで聞かない人は嫌いですよ、と言いつつも大泣きしている子どもを前にして「やれやれ」と思いながらその手を引き、親を捜して歩く。これで何回目だったろうか。
同じように親を捜してあげ続けていたリュシエンヌは屋台の中に逃げ込んだ。
「やっと一息つける〜。そこのニシン、ちょうだいな!」
黒パンに乗せて貰い、それを頬張る。これもひとつの春の風物詩だ。
「旬ってものが判る人とは話が合いそうだな」
文化の違う異国であっても違いはないのかもしれない、と調理を担当している田原右之助(ea6144)は思った。同じく調理を担当しているカルル・ゲラー(eb3530)と交代で休憩を取る間、ぶらっと散策してきた。愉快な踊りに楽曲の演奏を満喫しながら、彩色されたたまごを貰った。
「縁起物ってやつだな」
一方、料理を頬張人々の姿を楽しそうに眺めながら腕を振るっているカルルである。
「みんなしあわせだと、ぼくも幸せなきもちになれるんだよ〜♪ 新作『えんじぇるぷでぃんぐ』もどうぞだよ〜☆ 旬のにしんの酢漬けもどうぞ、だよ〜☆ あ、アンドレイおにいさーんっ」
ロシアの宮廷絵師・アンドレイ・サヴィン(ez0155)の姿てけてけ〜、っと駆け出し抱きつく。
「カルル君、今日も元気だねー」
絵を描くこと以外は全く、のアンドレイはご飯を食べさせてくれる人が大好きだ。
「お兄さん、お祭りを見にいこー☆」
カルルは右之助に後を任せてアンドレイと散策する。
「なんだかいっぱい人が集まっているね〜☆」
たくさんの人の手段の中に、踊るシャリン・シャラン(eb3232)の姿があった。まるで舞踏の神が降臨したかのように、妖艶な中に神秘的な雰囲気さえ感じ、魅了される。手拍子は鳴り止まず、いつしか一つの律動となり、アンコールに答えるようにシャリンの掛け声が響き渡る。
「フレア、アーシアいっくよ〜☆」
『『いっくよ〜☆』』
火霊のフレア、地妖精アーシアと共に、シャリンは春に再生する命を謳歌するようにいつまでも舞い続けていた。
「アンドレイさん、こんにちは、かな? こんばんはかな?」
灯され始めたたいまつに輝く銀の髪。それを結わえる虹色のリボンが揺れる。ジャパンの衣服である振袖に身を包んだティアラ・フォーリスト(ea7222)がぺこりとアンドレイに挨拶をした。子どもが大好きなティアラは日中、イースターエッグをプレゼントをして回り、時にヤングヴラドの説法にふむふむと頷きながら、ようやく一息ついたところであった。
「アンドレイさん、絵を見てもらえますか?」
お祭りの会場のそこかしこにある看板には、会場の設営を手伝ったティアラが描いたものが多い。識字率が高いとは言えないロシアでも一目で判る配慮がされている看板は、それ以上に色彩に溢れ見て楽しい看板であった。
「いやあ、素晴らしいよ、ティアラくん」
絵は感性でもあるけど描きたいと思う心の訴えでもあると思うよー、とアンドレイは力説する。その意味でティアラの描く絵は全ての者に対する優しさに溢れている。
夕日に傾く影が長くなった頃である今でもなお、イースターのたまごを配っている者もいた。
「じゃなかった。おりは令明なのじゃ。わんこの楽園を探してキエフまできたにょだワン♪ わんこDE握手会も次の回で終わりにゃのだワン。おっと、おさわりはソフトハグまでなのじゃ」
インタプリンティングリングを駆使して、相手が大人だろうと子どもだろうと、例え犬だろうとたまごを配り尻尾をふりふりしているのは「まるごとわんこ」を着込んだ鳳令明(eb3759)である。ちなみに家数軒分にもなりそうな荷物をどうやって会場に持ち込んだのは永遠の謎だ。求めに応じて手形‥‥ならぬ足形「にくにゅうたく」をサインのように布に押している。
「いつもこういう雰囲気だといいですね」
令明を取り囲む犬の群れに交じり、もふもふされているウォルター・ガーラント(ec1051)の姿も見え隠れする。ロシアの犬は概ね大きく毛脚も長いので包まれると温かい。令明や犬の飼い主達とペットについて語り合った。
「む。これ何使ってるのかしら‥‥お嬢さん、教えてくれないかな? あ、そこの花売りのお嬢さんっ、そのお花は何っ!」
ノルマンからやって来たユリゼ・ファルアート(ea3502)には、見る物全てが珍しい。特に珍しいハーブティーと花々には興味が尽きない。
「あ。これはユキヤナギ‥‥」
花売りが手にする籠にはユリゼが好きなユキヤナギの花があった。枝全体に咲き誇る、雪のように白い五弁の花びらが夕暮れの中で揺れていた。
●春の宵
「そこな宮廷絵師。一寸拠っていかぬか?」
うさ耳が頭で揺れている。大きく開いて見える背中。そして胸の谷間を強調するドレスに身を包んでお祭りを手伝っているセクシーなメイドはアレーナ・オレアリス(eb3532)。
「この地方ではうさぎの格好をすると聞いた。まぁ郷に入らば郷に従えともいうし、こういう趣向も悪くない」
どこで情報が錯綜したのだろう。日中からこのスタイルで手伝っていたとアレーナは事もなく言いのけたが、訪れた家族連れの家庭内不和の原因にならなければ良いな、と少しだけ思ったりもする。
もう少し先に進んで行く。酒場が連なる隅に、何やら怪しげな雰囲気を醸す一角があった。
「いらっしゃいませ」
ランプの明かりに照らされ、太陽のブランシェットに散りばめられた宝石が輝く。手元のタロットを繰り、訪れる人の相談に乗っているのはシャクリローゼ・ライラ(ea2762)である。
「恋愛運ですか? ‥‥朝一番の太陽光を浴びると健康になります、と。あら? ‥‥健康な方と巡り合える、と出ました、です!」
何だか別の意味でも妖しい雰囲気が漂っている。
「ティアラも恋愛運、見てもらおうかな‥‥」
そうっと、テントの中を覗き込むティアラたち、乙女の姿がある。
「あ、いたいた、アンドレイさん」
そぞろ歩きをしているアンドレイの元にオルフェ・ラディアス(eb6340)が駆け寄ってきた。「なかなかの情報屋」と噂されるほどのオルフェは各国の文化・風習への見識を高める事に余念がない。
「キエフの風土や歴史について教えて下さいよ」
さすがは冒険者と言える。巻物を取り出し伝聞を記帳していく。アンドレイもそれに応え、ロシアを揺るがした、「Bride War」と語られる大事件について、マリンスキー城から見た話を始めた。
「ガブリエルさんの歌、素晴らしかったです」
夫を伴いながら、ガブリエルの座る卓へとついたシェアト・レフロージュ(ea3869)の姿があった。ロシアの夜は春とは言え寒い。夫、ラファエル・クアルト(ea8898)に寄り添いながら愛猫・イチゴを膝に乗せる。躊躇う事もなく。共に時間を刻む事が心地よいのは夫婦の特権かも、とシェアトは思う。一方、蝋燭の炎に映し出されたシェアトを見ながらラファエルも寄り添える今を大事にしたいと思う。
「せっかくの雰囲気なのだし、今度は私の為にだけに歌って‥‥シェアト」
ロシアの夜。そして春。ふたりの脳裏に過ぎるのはハーフエルフが差別されないと伝え聞くロシアを目指し、ノルマンを出て行ったバードの親子の事である。この空の下のどこかにいるのだろうか、と思う。だが、今は目の前の大切な人を大事にしたいと思った。
「何処がより良いかなんて‥‥皆が居る所、ですよね」
冷えた体をラファエルの腕に包み込んで貰いながら、シェアトは小声で呟いてみた。
月は地表に光を注ぎながらも春の霞の中にその姿を隠している。会場にほど近い丘の上。春霞に揺れる街の灯をみながらジルベール・ダリエ(ec5609)はラヴィサフィア・フォルミナム(ec5629)に目を瞑らせると後ろに回り込む。手の中で銀の鎖が光る。そっと首飾り「聖なる守り」を後ろから回して止める。それは、ラヴィの胸の上で守護の輝きを放った。
「ジルベールさま‥‥」
感極まるラヴィの目が潤んでいる。
「なぁ、ラヴィ。俺な‥」
ラヴィは息をする事さえできず、ただジルベールの言葉を待つ。
「いや‥まだ言わんとこ。また、今度な」
少し照れたようなジルベールの背中を見つめるラヴィ。心の中でそっと「ラヴィが素敵なレディになるまで、もう少しだけ、待っていて下さいませね?」と訴える。そう、ジルベールが世界に導いてくれた。ジルベールがいて、励ましてくれるから。ラヴィの心に勇気を与えてくれるのはジルベールさまなんです‥‥。
ラヴィは胸の高鳴りを抑え込みながら、ジルベールと共に街の灯りを見つめ続けていた。
「ラヴィはまだ小さいですけれど必ず素敵な女性になって支えられるようになりますから‥‥」
小声で、そっと呟いてみる。
「俺は一目惚れだった。貴女は覚えていないだろうが‥‥」
天馬が月の下を駆ける。
セルシウス・エルダー(ec0222)が駆るペガサス・エーリュシオンはアーシャ・イクティノス(eb6702)を乗せて天を駆け抜けた。
日中はアーシャが剣舞の大道芸の中に飛びこみ大立ち回りをして、アーシャが大いにはしゃぎ、セルシウスが都度突っ込んでいた。まるで子どものように、ふたりは笑い合った。しかし夜はふたりを大人へと変える。セルシウスはアーシャと初めて会った二年前、一瞬で心を奪われた事を吐露した。そして当時アーシャには想い人がいたために、恋慕の情を封印していた事も。
「セラ‥‥」
アーシャはセルシウスから贈られたシルクのドレスとレイピアにそっと手を触れる。
「俺の家では、妻になる女性に服と武具を贈る慣わしで」
照れながら差し出してくれたセラの顔を、一生忘れないだろうとアーシャは思う。そっと、セルシウスの背中に頬を寄せる。夜の闇の中、街の灯りはあまりに優しい。まるでふたりを祝す華燭のようにも思える。
「セラ。すべてが終わったら、一緒に暮らそうね」
アーシャの言葉にセルシウスは改めて生涯の愛を誓った。
「聖夜祭以来ですね」
すらっとした長身が篝火の中で影となり揺れる。
「これは、オリガ君。お久しぶりだよ」
食事の時以外は宮廷に引きこもっているアンドレイは会う知人会う知人に頭を下げて出不精を詫びていた。オリガ・アルトゥール(eb5706)はその姿に笑い、アンドレイもつられて笑う。
「また、踊って貰えますか。折角ですし今宵も共に楽しみましょう」
アンドレイは急ぎナプキンで手の汚れを落とすと腕を前に差し出して、あの日と同じように非礼を詫びた。
「申し訳ありません。先にレディからお誘いを頂くとは、重ね重ねサヴィン家の名誉を汚す行為。不束者なれど」
誰かが奏でる音色に自然と体を任せる。大きくステップを踏むと影が揺れ、長いオリガの金の髪が星の煌めきのように輝く。
「こんな時間を過ごすのは随分と久しぶりな気がします。戦いばかりの日々で少々疲れました。‥‥偶には誰かの腕の中にもたれかかるというのもいいものですね。また、次に会うときも踊ってもらえますか? 楽しみにしておきますね♪ 」
「勿体なきお言葉、ありがとうございます。不肖の身でよろしければいつでもお誘い下さい」
共に踊り共に笑い合った。いつしか踊るペアも増えている。長く続いたお祭りも終わりの時を迎えていた。命を燃やすように共に手を取り合い肩を組み、歌い合い、踊り合う。皆が幸せそうにする笑顔を見ながら右之助は包丁の手を休め、故郷に残した想い人の事を考える。帰った時には今夜の話を聞かせてみようとも思う。
「きっと明日も。この幸せが続くように」
明日はまたデビルと戦う日々が始まるのかもしれない。だが幸せに包まれる人々の笑顔がいつまでも消える事がないように。祈りを込めてシェリル・オレアリス(eb4803)はその光景をいついつまでも目に焼き付けていた。