春のタイヘン
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■ショートシナリオ
担当:谷山灯夜
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:9人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月14日〜04月19日
リプレイ公開日:2009年04月22日
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●オープニング
「また、出たぞ!」
血相を変えて冒険者ギルドに飛びこんで来た男がいた。
「よし、話を聞く前に禁則事項だ。”G”は遠慮する」
間髪入れずに口を挟んだ受付。だが、男はもっと畏るべきものの出現を報告した。
「違う! 春になったら出てくるって言ったら、『アレ』しかないだろ!」
「『アレ』って、『アレ』かぁっ? 今度は何が出たんだ? リアキラなんとかか?」
「いやまて、随分と懐かしい話だな、それも」
一説によるとキエフは「その道」でキャメロットにも負けない、というより心から勝ちをキャメロットに譲りたいんだけど、どういう訳だか引けを取らない事態になる事がある。
特に危ないのは男性だ。春になったら男の一人歩きは現に禁物だ。迂闊な事態に巻き込まれると心に消えない傷を負う事がある。そのような男性が一人でも出ないように力を行使するのも冒険者の仕事であろう。勝手に決めるな。
「で。湖に出ているんだな、と」
受付はとっとと仕事を終わらせたい一心で筆を走らせる。所々イタズラ書きが走るのも精神衛生のために仕方がないことか。
「ああ、近付くと帰ってこないらしい。元々妖精の棲む湖という伝承はあったから妖精の仕業だと思ってみんなで見に行ったんだ。そしたら」
「派手な褌をしめて、水中で踊っている集団がいて。いなくなった男達も一緒に踊っているんだ、と」
依頼に来た男は、受付の前で机を両手で叩く。
「なあ、何とかしてくれよ。俺達にゃ、とても怖くて手出しができねえんだ。というか夢でうなされるし」
依頼主の話では、湖の側にいる楽士の演奏に合わせて、多彩というより毒々しい色の褌を纏った男達が泳いでいるそうだ。水中に潜り集団で輪を描いたり片足を上げたり、時に宙へと飛び上がったり。技術はもしかしたら凄いのかも知れないが、むしろ言おう、おぞましさが圧倒的だと。
「これ以上犠牲者が増えたり俺等の仲間の事も心配だけど‥‥。本当に妖精がいる湖だとしたら、あんなの毎日見させられたら逃げ出すか病になっちまう」
その時。近くで話を聞いていたアンドレイ・サヴィン(ez0155)が急に歩み寄ってくると懐から金貨を取り出して受付の前に置いた。
「聞かせて貰ったよ。ボクもそんな話、許せないよ!」
拳を握るアンドレイに受け付けが少し感動する。変なヤツだと思っていたけど案外義侠心に厚いようだ。
「褌は男の心だよ。服は派手でも良いけど褌は心の如く真っ白じゃなければ!」
あんたはどこの傾奇者ですか、と誰かが言ったような気がするけど。とりあえずちゃっちゃと退治して貰えれば嬉しい、な。
●リプレイ本文
その湖は街道を外れて森を抜けたすぐ先にありました。湖面はきらきらと輝き、どこからかぱしゃぱしゃと水音が弾ける音がしてきます。もうすっかり春。暖かな風に誘われたように色んな人が集まって来ています‥‥。
「あああ、実に、『春』ね……」
森を抜け湖を見渡せる絶景のポイントに立ち、こめかみを押さえてアンニュイな気分に浸っているのはリュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)さんである。なぜって? それは目の前で展開されている光景が全て、です。
確かに気温は暖かい。柔らかな日差しの中、裸で外を歩けるほどくらいは暖かい。しかし。しかし‥‥。
「なんでこんな所で皆さんは水中ダンスをしているの‥‥?」
実に率直な疑問を呈しているティアラ・フォーリスト(ea7222)さんでした。
「寒くないのかしら?」
「それは、キエフの春だから、としか言いようがないかもしれませんね‥‥」
ティアラさんの疑問に諦めのように答えてくれたのは緑のスカートふわりんの、銀の髪に青のリボンが可憐な美少女、ウィルシス・ブラックウェル(eb9726)さんです。フリルが揺れるスカートの裾を抑えてもじもじとする仕草がとってもぷりちーです。
「ちょっと、ウカちゃんったらかわいいすぎよ!」
真っ赤になって恥ずかしがるウィルシスさんに抱きつくのはこれまた美形なマティア・ブラックウェル(ec0866)さんです。ウィルシスさんとマティアさん、ふたりは家族なのですが、その関係は‥‥。
「キエフの風紀を乱す輩はこの私が許さん」
その時、上空から響き渡る声が。天空を駆ける影が過ぎったかと思えば、そこから誰かが地面目掛けてダイブして来るではありませんか。
「空より来たりて大地の力を身に纏い」
地面に衝突する、と思ったその瞬間。「彼」はさっと身を翻し足を下にして着地するではありませんか! そのまま膝、腰、背中、肩と巧みに身を屈めくるんと回転。そのまますっと立ち上がります。頭の上でラビットバンドがぴょこんと揺れ、溢れる笑顔に白い歯が輝かしい限りです。
「志を尊びて魔を薙ぎ払う。うさ耳のリュー、此処に惨状! ‥‥おっと、よしたまえリトス君」
びっくりする皆さんを余所に華麗なポーズを決めたのは重力の魔術師ことラザフォード・サークレット(eb0655)さんです。あまりに無茶な登場にペットのリトス君が抗議の拳を叩き込むという仲睦まじいコミュニケーションが皆さんを生暖かく微笑ませてくれます。ところでラザフォードさんの目の前には可憐な美少女と綺麗なお姉様が。女性を無碍にはできないラザフォードさんの行動はひとつしかないでしょう、多分。
「驚かせて済まなかった、レディ‥‥」
ところが、ウィルシスさんとマティアさん、なにやら顔が紅潮しております。照れているのかと思いきや。
「僕は」
「アタシは」
「男です!」「男よっ!」
思わず後ずさりしてしまうラザフォードさんです。実はマティアさんもウィルシスさんも外見は横に置いておくと正真正銘の男気溢れる男性なのでした。
「うーん。まずは湖にいる『いい男』を物色‥‥もとい、技レベルを見ておこうと思っていたんだけど。仲間がこれ程まで力強いとは!」
ひとり「うんうん」と頷き微笑んでいるのは桃代龍牙(ec5385)さんです。着込んでいる魔術師の護りから時折覗く肌が綺麗です。むだ毛処理は当然です。だってお外で肌をさらすこれからの季節、万にひとつのぬかりもありません。リュシエンヌさんやティアラさんは内心ひくひくとしていますけど龍牙さんはびくともしません。
「やあ、ご同輩。今日はいい天気だね〜」
画材一式抱えて呑気そうに登場したのはキエフの宮廷絵師ことアンドレイ・サヴィン(ez0155)さんです。集まった皆さんの様子を見て満足そうな様子です。
「みんなの熱いパッションを感じるよ。今日はいい絵が描けそうな予感がするよ」
既に何をしに来たのかさえ忘れているのが明確なアンドレイさんです。
「アンドレイ! 『アレ』って何っ? いいからここで正座っ、そして説明よ!」
真っ赤なお手手に握られている炎の剣・ティソーン+2が本気でアンドレイさんの顔に迫っています。
「えーと‥‥。こんにちは、アクア君。ご機嫌いかが、って雰囲気じゃない、ねぇ?」
わなわなと肩を揺らしているのは『実はいい所出のお嬢さま』なアクエリア・ルティス(eb7789)さん、通称アクアさんです。
「マーメイドと遊べる、って聞いてきたから泳ぐ用意もしてきたのにっ!」
余程張り切って来たのでしょう。既に褌姿のアクアさんは真っ赤になって怒っています。気の毒に水にざっぷりと濡れていたりもします。わなわなと怒りで肩が揺れる度に濡れる髪から落ちる水滴や胸を走る滴とか、激しく揺れるたわわな胸とか、まあセクシーなんですけど恋愛経験もその感情もない癖に裸だけは見慣れているアンドレイさんは至って普通です。
「いやあ、アクア君。褌はやっぱり白だよねー!」
妙に陽気な宮廷絵師はアクアさんの目の前で脱衣してしまいます。割合がっしりした体躯に真っ白な褌が風になびいています。
「きゃあああああっ!」
顔に紅葉の跡を盛大に刻みつけると、ティアラさんに抱きつきアクアさんはすんすんと泣きだしまいました。ティアラさんは「よしよし」とアクアさんをなだめますが、目線を下げると視界に飛びこむアクアさんの谷間とかにちょっぴりセンチな気分です。アクアさんをなだめ、鼻血を出して倒れているアンドレイさんをそっと介抱します。
「アンドレイさんは白褌が正義だったんだね‥‥。女の子が付けるレースの褌とか、どう思う?」
ティアラさんは美しいおみ足をちらっとブーツから出してみましたがアンドレイさんは気絶したまま目を覚ましません。
「よし、俺が介抱しよう」
がばっと着衣を脱ぎ出した龍牙さんを、一応みんなで止めてみました。これ以上踏み込むと記録が消滅しそうですから。
「むぅ‥‥。久々の里帰りのキエフでしたが、これはタイヘンな状況でわっ」
路の着物に着流し、かんざしと見た目も涼やかな装いのクリス・ラインハルト(ea2004)さんはどきどきしながら水中の変態さんたちよりも仲間の皆さんの成り行きを見守っております。
「確か依頼は『湖に現れる変な人たちを何とかして欲しい』だったと思うのですが‥‥」
目の前に展開される光景を見る分にはどちらを退治すべきか少し悩むところかも知れません。
「あのね。くーさん、皆さん。まずはご飯にしませんか〜」
クリスさんの着流しをくいくいと引っ張り、にぱっと笑うカルル・ゲラー(eb3530)さんがそこにいらっしゃいます。
「えっとね、鮭のおにぎりに梅干のおにぎり、そして季節のデザートもあるんだよ☆」
水中で踊る変態さんたちを遠くから眺めながらカルルさんはおにぎりにぱくつきます。お鍋の中の味噌汁もいい香り。腹が減ってはなんとやら、なのでみんな集まって食事をする事にしました。
「いいお天気ね。みんなで春にちなんだ歌でも作りましょうか」
リュシエンヌさんの提案にクリスさん、ウィルシスさんの吟遊詩人さんらは大歓迎です。
「じゃあ、まずは僕から‥‥」
「待て待てっ!」
ウィルシスさんが竪琴を爪弾こうとした時、湖からツッコミが入りました。アレと幽霊は無視されるのが一番嫌いだと言われる由縁でしょうか。水中で踊るおじさん‥‥もとい。マーメイド・キエフを指揮している楽士さんです。胸毛で覆われた厚い胸板に光る滴がセクスィーと評せるのでしょうか。と手足に付けた鈴で演奏しているようです。
「我らマーメイド・キエフの演舞を生暖かい眼差しで見るだけでも不愉快なのに、今度は存在さえ無視する気か!」
ざばざばと水中からおじ‥‥じゃなくてマーメイドさんらが登場します。がばっとポージングをしたマーメイドたち。暑苦しさと寒気を同時に感じるという貴重な経験をした皆さんは思わず目線を下に下げるのですが、胸を伝わり褌から滴り落ちる水滴がまたなんとも言えずビミョーな光景です。
うぷ、と言いそうになりながら必死で堪えたリュシエンヌさん。率直な感想をペットのスズナさんに目線を合わせると「さん、はい」の掛け声でぶつけてみました。
「‥‥っ、ってことで。はあ、すっきりした」
心地よいほどの「率直な感想」をぶつけてリュシエンヌさんは満足です。
「おのれ、言わせておけばしゃあしゃあと」
ぱちん、と指先を鳴らすのを合図に、筋骨隆々なマーメイド・キエフの皆さんが襲い掛かってきました。標的は主にマティアさんと龍牙さんです。
「なーにーがっ、マーメイドよっ、マーマンでもお世辞なくらいだって言うのっ!」
捨て身になったアクアさんが飛びこんで行きました。
「小娘、貴様ら如きの防御力。我らが肉体美の前に無力だわ」
本当はやせ我慢です。でもヘンタイとしてここは引けません。むしろ快感だと言わんばかりに厚い胸板を曝して攻撃を受け続けます。そんな愉快な皆さんの指先が、アクアさんからクリスさん、そしてティアラさんへと移動しました。
ぷっちん。
何かが弾けたような音が聞こえてきます。
「ちゃんとあるもん! これから育つの! うわーん」
「ティ、ティアラさん? えと、とりあえずボクの歌を聴くのです〜」
重力波が炸裂し轟音を立てマーメイドたちは宙に浮き上がります。。
「ここは天国か‥‥?」
クリスさんの合図で即興を合わせるリュシエンヌさんとウィルシスさん。3人が奏でる妙なる調べに正気を取り戻したマーメイド、もといおじさん達は地に落ちる束の間だけ天に昇る気分を味わいました。一部のおじさん達は「逃げようとしたら職場の人や家族を招待するぞ」と楽しい告知をされていたので、これ幸いとばかり一直線にお家に帰って行きました。
「おまえ達、なんてことを。未成熟なロシア文化に彩りを加えようとする我らの道を阻む者は」
許さないと言おうとしたんだろうな、とうさ耳のリューさんとリュシエンヌさんは思いました。敵の楽士の魔法はラザフォードさんがブラックホールで吸い取り、精神力もリュシエンヌさんがこっそり削っていたのです。ぱくぱくと鮒のように口を動かす楽士さん。
「動くなっ、こいつがどうなっても構わないのか」
窮地に立たされた楽士さんは可憐な美少女の手を引きます。
「やめて下さいっ! 兄さんっ助けて!」
リボンを揺らしながら必死に抵抗する美少女‥‥風のウィルシスさん。履き慣れないスカートで動きが取れす、ちらちらと顕わになる綺麗な足がちょぴりセクスィーです。
「あンた。いや貴様。私の弟に手を出して無事で済むと思うなよ」
ぞく、と楽士さんの背筋に悪寒が走りました。遠くで美少女のお兄さん、マティアさんが鬼の形相で立っております。
「地面とキスをなさい!」
グラビティーキャノンが炸裂しど派手に地面に何度も楽士さんはキスを繰り返しました。
「あんた達が何をしようとしているのか分からないし分かりたくないけど、本当の芸術とはこうよ!」
マティアさんががばっと着衣を脱ぎます。光沢を放つ黒絹の褌が漢らしさ満点です。マティアさんの黒の褌が揺れる足下でぐったりしている楽士へ向かい「てけてけー」とカルルさんが飛び出していきました。
「マーメイドって人魚のなかでも若い女性のことをゆ〜んだよ〜。ちゃんと勉強しないとダメだよ〜」
カルルさんは天使のような微笑みを浮かべてなでなでしています。
「それから〜、家で家族が泣いてるよ〜」
ぽろん、とクリスさん、リュシエンヌさん、ウィルシスさんが楽器を爪弾き本日は終了です。
「おっと、こっちにも救命が必要な人がいるな」
そうでした。龍牙さんはまだ溺れた男性達を助けに行っています。助けた男性を岸に引き上げて顔を覗き込みます。龍牙さんの髪から落ちる滴がきらきらと輝き、なんだかそこに素敵空間が形成されています。
「俺が肌で温めてあげるからな」
元気になったら迷惑にならない場所で一緒に踊ろう、と龍牙さん。
「もう迷惑を掛けないようにするよ」
お詫びの印として異国のフンドーシを手渡された龍牙さんを始めとする皆さん。
「本当にこれで良かったのかしら?」
ちょっぴりリュシエンヌさんは複雑そうです。
「本当に湖の精霊がいるなら散々な想いをさせただろうな」
うさ耳を外したラザフォードさんが「お詫びだ」と指輪にマントを置いていきます。気品に溢れた一品はいかにも精霊が喜びそう。
「そろそろ帰ろう、リトス」
ラザフォードさんがリトスさんを呼びますがリトスさんはなかなか帰ってきません。実はリトスさんはお話に夢中になっていたのです。
「人間って、変?」
「人間界、面白い?」
言葉にすればそんな感じ。
「お礼、嬉しい。でも」
「あの人、リトスいる。別の人についてく」
「だからそれ。返して、あげて」
リトスさんが指輪、そしてマントをラザフォードさんのバックパックに戻した時、誰かの置いてあったバックパックに忍ぶふたつの影がありました。