この依頼、他言無用につき
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月15日〜09月22日
リプレイ公開日:2006年09月25日
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●オープニング
冒険者ギルドにやってきたのは、まあまあ有力な貴族の当主の次男坊で跡取り息子だった。名前はイヴァン・アルドスキーという。連れているのは物静か‥‥というのは間違っている、人見知り性格の著しい部下のユーリー・ジャジュチェンコだ。
九月に入り、夜には相当冷え込むようになったキエフの陽気に合わせて、イヴァンは仕立てのよろしい上着に、程々の厚みのマントを羽織っていた。ユーリーは気候と関係なく、年がら年中厚手のマントを羽織ってフードをすっぽり被っているが、さすがに室内なのでフードだけは下ろしている。
そんな彼ら、というかイヴァンの依頼は随分と人選にうるさいものだった。
「確認いたします。ハーフエルフで、黒髪、もしくはそれに近い暗色系の髪と目の色をした、体格のしっかりしている、四十代の女性を最低一名含む、十名前後の冒険者をご所望‥‥女性には恋人の振りをしていただきたいと、そういう内容で間違いありませんか?」
「ない。加えて、残りの冒険者には私の母の話し相手か、兄が手掛けている香草園の世話か、弟が管理している家畜類の世話をして欲しい。一番の仕事は、母の相手だろうな‥‥珍しいものが好きな人だから、危険のない生き物なら連れてきてもらえるとありがたい」
イヴァンの父の領地は、キエフから徒歩で軽く四日くらいは離れた地域にある。けれども開拓をその中間地点で行っていたり、登城したり、他の貴族との付き合いがあったりで、当主の父親は三人の息子を連れてここしばらくはキエフ近郊に逗留していた。キエフの街中ではないが、徒歩で半日ばかりの場所に、手ごろな屋敷があるのだそうだ。あくまでそこそこ有力貴族感覚の『手ごろ』なので、実際はけっこう大きいものだろう。
その屋敷に、近々当主夫人、つまりはイヴァン達兄弟の母親がやってくるのだ。イヴァンの縁談話を持って。
話を聞いているギルドの受付の記憶では、アルドスキー家は子供が八人ほどいて、息子は三人だ。残り五人は娘になるが、八人全員が同母の兄弟姉妹である。アルドスキー家の当主は貴族には珍しい愛妻家で、ハーフエルフの息子を早々にもうけたのを良いことに、側室は持っていない。
このハーフエルフの息子がイヴァンだが、彼も四十を過ぎて、そろそろ結婚してよい頃合になり、貴族らしく妻に迎えるのに適当な女性を探してはいるらしい。けれども母親は、あまり難しいことは考えずに、自分の好みのタイプの令嬢を探してきて、今回その縁談を勧めに来るのだ。
アルドスキー夫人がお好みの令嬢は、見るからに華奢で、歌舞音曲が得意、政治には一切口を挟まないし知識もないような、名門の生まれの娘だ。
しかし、当主とその跡取り息子が妻に望んでいるのは、外見も重要だが、当主の留守に屋敷を任せるに足る知識と知恵の持ち主で、使用人に目配りが出来、体が丈夫で、実家が自分達より権勢を誇らない家であることだった。妻の実家からの口出しなど、受けたくはないのである。ちなみに現在の当主夫人は、おおむねこの条件を備えた女傑である。
「大変ですのねぇ」
「母は自分や私の姉妹達とは雰囲気の違う、深窓の令嬢を迎えたいようだが、こちらはあいにくとそういう相手には興味がない。嘘でも妻に望む条件を備えた女性と付き合っていると見せれば、息子の好みを尊重してくれると思うのでね」
あいにくと現状身辺が綺麗なイヴァンは、仕方がないのでこれまでも何かと縁がある冒険者ギルドに恋人役の女性の手配を頼んだのである。腕を組んで歩いているところを、母親に目撃されるだけでよいそうだ。
他の条件は、母親を騙すだけでは申し訳ないので楽しめるように相手をしてくれる者と、その来訪を知った途端に逃げ出す準備を始めた、まだ独身でやはり縁談を持ってこられそうな長男と、結婚して子供も複数もうけた後に正妻と別居しているのを愚痴られる三男の仕事の短期代行である。
「もし万が一にも、ご指定の条件を備えた女性が見付からなかったらいかがいたしましょう?」
「美容の心得がある者を手配して、ユーリーを女装させる」
「ぇー」
小声で悲鳴を上げたのは、突如名前を挙げられたユーリーだが、依頼人とギルド係員の両方から無視された。
「ご縁談というのは、大変なものですね」
「そう。血の繋がりはないか遠いに越したことはないし、生まれる子供のことを考えれば、条件は厳しくなる。そんな縁談でも、両親を見ると相手と相性がよければ悪くはないと考えるのだが」
そんな話は未来のこととして、今は偽物の恋人を募集なのである。
もちろん、アルドスキー夫人に知られないように。
●リプレイ本文
アルドスキー家の息子三人は、一見すると生まれ順と外見が見事に逆転している人々だった。イリーナ・リピンスキー(ea9740)の予想通りに、長男がエルフ、次男がハーフエルフ、三男が人間なのである。
貴族の縁談とはなんと面倒なものか、と思ったのは一人二人ではなかったが、息子達がそこそこ有力な貴族にしてはさばけた性格なので、まずは任される仕事の内容を確認することにした。
けれども、長男が何かいうより早く。
「あ、この草はかぶれる人がいるから注意しないとね」
「すみませんが、私の鉢植えもこちらに置かせていただいてよろしいでしょうか」
主に香草、薬草畑を担当予定のアナスタシア・オリヴァーレス(eb5669)とアディアール・アド(ea8737)は、しげしげと畑を眺めた後に口々に思うところを言い出した。リュンヌ・シャンス(ea4104)が黙っているのは礼儀とかそういうものではなく、単に彼女が無口だからだ。
「詳しい人が来てくれて助かるけれどね。こっそり毟って帰るのはなしにしてもらわないと」
長男殿が苦笑して言うのに、アディアールがどきどきした面持ちで。
「では、どれでしたらいただけるのでしょう?」
仕事をしに来たのか、趣味を楽しみに来たのか怪しげな台詞を吐いている。他の二人も尻馬に乗りはしなかったが、表情は『貰えるなら自分も』と語っていた。
かたや、家畜や乗用動物担当の三男のところでは。
真幌葉京士郎(ea3190)とマクシミリアン・リーマス(eb0311)の間で、サシャ・ラ・ファイエット(eb5300)が蒼くなっていた。両側の二人が支えるべきかと窺うと、どうも硬直している。真幌葉とマクシミリアンもちょっと驚いたので、サシャには刺激が強かったようだ。多分彼女は、自分の猫をはじめとする、今回の同行者達のペットのような可愛らしい動物の世話を期待していたのに違いない。真幌葉は小熊も飼っているが。
「我々のペットなどは、近付けたら大変なことになるのだろうな」
「そちらは熊もだからね。うちの雛は食べても何の足しにもならないと思うよ」
真幌葉とマクシミリアンが一応『よろしく』と目を合わせたのは、フィールドドラゴンだった。性質は同族の中でも特におとなしいと説明されても、ドラゴンである。ペットの類を食べられてしまわないように、注意は必要だろう。
サシャは別の囲いの中で飼われている大量の兎や山羊などを見て、ちょっと安心しているようだが、マクシミリアンと真幌葉はかえって心配になってしまった。
「あちらの彼女には言わずにおくけれど、あれは大半が餌だから」
二人の予想は、やはり当たっていた。
そうして依頼人の次男とその父親は、母親ないし夫人の相手をしてくれるガイン・ハイリロード(ea7487)、エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)、シオン・アークライト(eb0882)の三人に加えて、今回最重要な役を割り振られることになったイリーナと歓談していた。ついでに、今回の依頼内容は口外しないようにと、念押しされている。
「母も騙されてくれるのはせいぜい一月くらいのことだろうが、他所にまで『恋人役を雇った』と明確に知られるのはありがたくないのでね。使用人は皆知っているので、そちらまで誤魔化す必要はないが」
「それは、本気で騙す必要があると思っていないということだろうか」
物怖じしない物言いはイリーナだが、エルンストとシオンも同様のことを思っているのが表情に現れていた。ガインはゲルマン語がいささか覚束ないので、少し反応が遅れ気味だ。それでもエルンストに耳打ちされて、やはり不思議には思ったらしい。
一時的に騙すだけでいいなら、ここまでする必要はなさそうなのだが、イヴァンは正面から話し合うとかえってこじれると考えているらしい。これは父親も同様なので、夫人の性格への対応なのかもしれなかった。
そうでないなら、家の中の細かい事情は明かさないつもりなのだろうなと、ロシア出身のシオンとイリーナは思っている。彼女達もハーフエルフだが、いずこの家でもその出生のために一つ二つは秘め事があったりするものだからだ。この辺はガインやエルンストには分かりにくいだろうが、二人も何か事情があるのだな、くらいは察している。
「奥方は珍しいものがお好きだと聞いたが、こちらにも何かそうしたものを置かれておいでだろうか?」
自分達のことに踏み込ませぬ代わりに、他人のことも聞かない親子に、エルンストが尋ねている。話題を変える意味もあるし、夫人の自慢の種があれば知っておいたほうが会話相手としては適当だからだ。
そうして、厩の近くの大きな納屋だと思っていた建物に、フィールドドラゴンがいることを知らされ。
「どうりで、犬でも熊でも狐でもいいわけか」
ジャパン産の大型犬を連れてきたガインは、婦人に見せるのに大きすぎはしないかと気にしていたのだが‥‥それは取り越し苦労だったと実感していた。とはいえ、彼が連れてきたエレメンタリーフェアリーのほうが喜ばれることは想像に難くない。
シオンが呑気に『色々話が聞けるといいけど』と思っている傍らで、イリーナはみぞおちの辺りがきりきりしてきそうな気分と戦っていた。
そして翌日。造りは良いが、無駄に飾り立てた様子のない馬車を二台連ねて、噂の御方が到着したのである。
「まあ、イヴァン。縁談というものはね、伯が先方をお訪ねしてから、ご本人をお招きするものよ。イリーナ殿の親御に無礼だと怒られたら、伯にご迷惑ではないの」
冒険者一同も噂の女傑と挨拶をしたのだが、このきっぱりした物言いにはそれぞれの性格的に思うところがあり‥‥でも揃って、イリーナに同情的な態度になっていた。
さて。相互に行き来はあるものの、皆で手分けして仕事を始める。
動物担当のサシャ、真幌葉、マクシミリアンは。
「ええと、フィールドドラゴンの食べ物は肉類で、野生のものは人くらいまでの大きさのものは襲うこともある‥‥ご飯が足りているから、大丈夫ですよね」
真幌葉が『ロシア王国博物誌』を取り出したので、他の二人も興味津々で覗いたのだが、読めるのはサシャだけだった。仕方がないので男性二人はかいつまんで音読してもらっている。まずは最も重要かつ、真幌葉とマクシミリアンの知識が少々不足気味のフィールドドラゴンについてだ。
「腹が空くと、自分で訴えるくらいだから、問題はないだろうが」
「餌代だけで大変だと思うよ」
馬の世話ならそこらの本職にも負けない真幌葉と、動物全般が大好きなマクシミリアンは、どちらも冒険者として場数を踏んでいるので度胸の持ち合わせに不足はない。兎でも山羊でも鶏でも、餌として与えるのも平気だ。それが市場で買ったらどのくらい掛かるかと計算すると、なかなかすごいことになるのだが。
それに、時々サシャが飛び上がるようなすごい鳴き声をあげたりする。
「お、今度は水か、それとも背中でも痒いのか。あれは腹が減った鳴き方ではないと思うぞ」
真幌葉がすっかり慣れて、フィールドドラゴンの厩舎に向かって行った。兎用の飼葉を抱えて、よろよろしていたサシャの荷物を担いでやったので、そちらに寄り道して厩舎を覗く。何か話しかけているが、意思疎通が出来ているのかは不明だ。
その頃のマクシミリアンは、サシャの飼い猫に『この先に行ってはいけません』を教えていた。サシャにも『悪いことをしたらちゃんと叱る』と教えてあるが、当人が忙しいので代理だ。
「気をつけないと、ドラゴンに食べられるからね」
サシャが聞いたら、それだけで失神しそうな注意だが、当然猫に理解できるものではない。動物は動物好きがわかるのか、遊んでくれとせがまれている。
そうかと思えば、イリーナは。
「ユーリー、ものははっきりと言え。どちらが井戸だ」
「ぁー」
「指し示すのではなく、声で示せ」
せっかくの礼服の裾が汚れそうな勢いで、別宅の周辺の森の一角にしゃがみこんでいた。目の前にはアルドスキー家の代官見習いユーリーがいる。イヴァンも一緒になって、ユーリーを構いつけていた。
恋人同士のお散歩のふりで歩いていた二人は、ユーリーが森の中に作っていた小さな村を発見していた。イヴァンの親指ほどの人なら住めそうな、けっこう良くできた家が並んでいるのだが、現在開拓中の村の計画表らしい。
途端に、さしたる話題もなく黙々と歩いていた二人は、示し合わせたかのようにその計画の話を始めている。ユーリーが一人で、礼服が汚れると心配していたようだ。
そして、問題のお方はといえば。
「有能だと褒めたつもりでも、あの方と同列にされたらたいていの妻は困ってしまうわねぇ。お目に留まって縁談など持ち込まれたら、それはそれは大変なことよ」
エルンストとガイン、シオンの三人と侍女数名に囲まれて、ご満悦だった。先程からガインのエレメンタラーフェアリーのライアは、しっかり手元に引き寄せたままである。絶対に高価だろうハンカチーフの上に座り込んでいるライアに、ガインもいささか心中穏やかではないのだが、『珍しいもの』を夫人が離す気配は欠片もない。
そんな様子を横目に、エルンストがイヴァンの縁談のことなど尋ねていて、そこから各公国のことに話題が向いたのだが‥‥彼とシオンはよく分かった。確かにこの人はたいしたお方である。明らかに国王派の物言いだが、その中でどういう立場か明言しない。唯一やんわりとでも嫌っている様子を見せたのが、エカテリーナ大公妃だが、この方はシオンの知識でも国王とも折り合いが悪いし、性格についての評判はあまりよろしくない。正しくは、影で相当悪い。
「‥‥なにか、ものすごい人の話を聞いた気がする」
「その理解は間違っていない。心配いらないぞ」
そんな話を、わざわざガインに噛んで含めるように教えなくてもいいのだが、ゲルマン語がたどたどしい相手に判るような言葉選びも出来るのだから、夫君に大事にされるのかとシオンなど感心していた。
もちろん珍しい物好きなので、シオンが持ち込んだジャパンの品物は侍女まで交えて品評会の如き有様になり、さすがにガインとエルンストは部屋の隅でワインをいただくことになった。こういうときの女性陣に下手な口を挟もうものなら、どんなしっぺ返しが来るか分からない。特にこの国の習慣にまだ疎いので、黙っているのが懸命だ。とはいえ、ガインは楽器や歌もよくするので、邪魔にならない程度の演奏はしている。ライアがハンカチーフを引っ掛けたままくるくると踊りだして、慌てさせられるのはもう少しあとだ。教えた時にちゃんとできない辺りが、なんともせつないものである。
そんなこんなしつつも、二人が理解したのは。
『いずこの女性は同じか』
『真理だな』
「着るんですか? え、化粧? 香り袋? え?」
彼らの前から、シオンが着せ替えのために引きずり出されていったけれど、もちろんどうしてやることも出来ない。結局二人は席を外して、厩舎や畑の仲間達にロシアの冬の過ごし方など教えてもらうことになった。
簡潔にいえば、準備のない者は簡単に凍死できる。そういう話。
ところで、畑はとても静かだった。
何しろ全員が植物を世話するのに必要な知識があるし、畑の植物は動物と違って鳴いたり動いたりしない。時々何かが聞こえるのは、アディアールが植物と何か話していたり、アンナがサシャを手伝って牧草を刈ったりしているからだ。
薬草は仕事で、毒草は趣味。
要注意のものの世話は、繊細かつ大胆に。
そんな二人は、それぞれの新年と経験と知識の教えるところに従って、楽しく仕事をしている。畑がなかなか大きいので世話のし甲斐もあるというものだ。
もう一人のリュンヌは、自分が落ち着ける先を求めるのと同時に、霜が降りそうだと聞いて納屋で夜に火を使うための準備をしていた。畑のところどころで火を焚いて、霜の害を防ぐらしい。基本が猟師のリュンヌには、目新しい知識である。いつか自分の気に入った森で暮らす時のために、そういう知識は蓄えておかなくてはいけない。
ちなみにこの話は、ロシア生まれのアンナには普通のことだったが、後で聞いたアディアールは目を輝かせて、アンナに教えを請うていた。教師の心得があるアンナも、専門とは違うが随分詳しく教えている。
そうやって交流していたところに、夫人がお出ましになり、こう言った。
「シオンを湯浴みさせたいので、特に香りの良い香草を選んでちょうだい。息子には私が断るから、出来るだけたくさんね。他にも何かいいものがあれば」
納屋の入口で様子を見ていたリュンヌは、人付き合いが苦手なので近寄らなかった。夫人が気付いて手招いたのだが、対応に困っている様子に気付いて、苦笑している。アディアールとアンナはそんなことにも気付かず、この機会とばかりにめぼしい香草類を夫人の許可を得て収穫していた。必要量より多いのは、自分達でどうこうするためだろう。
ただし、その代わりに。
「この二人は連れて行きますからね。用があれば、いつでも言いなさい」
と、夫人に連れ去られてしまった。アディアールは香草の説明に、アンナは途中でサシャも一緒に身柄確保されて、夫人の侍女がシオンを弄り倒している部屋へ引きずり込まれた。部屋では、どこにしまってあったのか、夫人が若い頃か、娘達のものらしい衣装がどっさりと‥‥
翌日から、動物の世話は真幌葉とマクシミリアンとガインが、畑の世話はエルンストとアディアールとリュンヌが、夫人の着せ替え遊びにはサシャとアンナとシオンが、主に付き合わされることになっていた。最後の役割は、どうもサシャを他の皆が構い倒す騒ぎになっていた節もある。
この状況に、夫人が夫や息子達が側にいない分、その妻には相手をして欲しいのだと察したエルンストがイヴァンに希望通りの妻を貰えば丸く収まるのではないかと耳打ちしたのだが、当人は『好みからまったく外れている妻を貰うのは、相手を不幸にするから嫌だ』と言ってのけた。間違ってはいないが、鬱憤晴らしで度々こんな騒ぎに巻き込まれるのは、冒険者とて御免である。いや、一部楽しんでいる人々もいるわけだが。
「早々に母御と話をつけて、母御の望みも叶える方法を探すべきだろうな。その程度のことを怠っては、新たな世界の住人にはなれぬぞ」
「‥‥イリーナ殿、奥方になれそう」
さすがに一週間も少人数で顔をつき合わせていると慣れるのか、最終日にイヴァンにとくとくと言い聞かせていたイリーナに対して、ユーリーが尊敬の眼差しを向けていた。向けられた側は、よほどイヴァンが好みではないらしく、それは嫌そうな顔をしている‥‥と、この二人以外の冒険者とイヴァン本人も思った。
まあ、奥方は縁談を潰されたことも気にならないほどにご機嫌だったので、依頼そのものは問題なく終了したのであった。