素敵?なお茶会への招待〜結婚式は賑やかに

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:09月28日〜10月01日

リプレイ公開日:2006年10月07日

●オープニング

 結婚式をするので、そのあとの宴会を賑わせてくれる人を募集してください。
 依頼内容は、言うなればそれだけだった。
「あのね、吟遊詩人や大道芸人もギルドなり寄り合いなりあるんだから、そちらに頼んでくださいよ。別に冒険譚が聞きたいわけではないでしょう?」
 冒険者ギルドは冒険者ギルドであって、各種芸人の派遣手配は代行しません。そんなことをして、他所のギルドに睨まれるのは困ります。冒険者も兼ねる人々ならではの話を期待しているとか、現地までがけっこう遠いとかなら話は別だけれど‥‥
 そんな風に依頼人に言い聞かせている受付係も珍しいが、依頼人はめそめそしながらこう言い返した。
「だって、吟遊詩人さん達の所に行ったことがないんですもの」
 依頼人は、毎月冒険者ギルドにやってくる常連依頼人のアデラ。このたびめでたく結婚式をすることになって、その手伝いを先日もギルドで募集していったばかりだ。今回は続けての、芸人募集である。依頼理由が『吟遊詩人ギルドは行ったことがないから』では、吟遊詩人達もご不満を覚えるかもしれない。
 そういう揉め事は大変なのと、もう一つ理由があって、受付係は食い下がっているのだが、アデラはめそめそしているくせに、妙なところが手馴れていた。服の隠しから財布を取り出して、問答無用で仲介料を差し出したのだ。
「冒険者の皆さんにも、吟遊詩人さんや色々な方がいらっしゃいますでしょう。お声を掛けてくださいませね。仲介料は、このくらいでよろしいですかしら」
「あんたね、結婚式で物入りなんだから、そんなにほいほい依頼出すのは止めなさいって」
 受付係、実はアデラの婚約者の友人なので、これからの結婚生活の心配もしていたらしい。しかし。
「ジョリオさんに相談したら、そんなに心配だったらお願いしてきなさいって」
 婚約者のジョリオは、結婚式当日までめそめそされるくらいなら多少の出費はやむなしと諦めたらしい。それではもう、依頼を受けてしまった方がいいだろう。
「今回は冒険者ギルドで募集かけますけど、吟遊詩人でも軽業師でも大道芸人でも、それぞれの仲間内付き合いがありますからね。うちを通さない形の心付けも、ちゃんとしてあげてくださいよ」
「勉強になりましたわ」
 これで肩の荷が下りたとばかりに、晴れ晴れとした顔付きで、アデラは冒険者ギルドを後にした。
 あの調子で結婚して、その後は大丈夫なのかと心配するような様子である。が、それは新婚さんの問題なので、他人がどうこういうことではない。

 結婚式をするので、そのあとの宴会を賑わせてくれる人を募集してください。
 こういう依頼そのものは、別段珍しくないのである。

●今回の参加者

 ea1695 マリトゥエル・オーベルジーヌ(26歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea3338 アストレア・ユラン(28歳・♀・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea4335 マリオーネ・カォ(29歳・♂・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea4943 アリアドル・レイ(29歳・♂・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea5242 アフィマ・クレス(25歳・♀・ジプシー・人間・イスパニア王国)
 ea6480 シルヴィア・ベルルスコーニ(19歳・♀・ジプシー・シフール・ビザンチン帝国)
 ea7780 ガイアス・タンベル(36歳・♂・ナイト・パラ・イスパニア王国)

●サポート参加者

マグダレン・ヴィルルノワ(ea5803)/ 神哭月 凛(eb1987)/ ウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)/ アルマ・フォルトゥーナ(eb5667

●リプレイ本文

 アデラの結婚式披露宴の賑やかしに招かれたはずの八人は、その前日に何人かの友人を含めて顔を合わせ、約半数が花嫁のアデラを知らないということに気付いた。披露宴の彩りだから、依頼を受けたのはほぼ全員が、吟遊詩人や楽士、大道芸人に踊り手などである。
 しかし、披露宴であるからには、多少なりとも依頼人達の様子を知っておいたほうが宴席に侍るのに良いという一般的な理由に加えて、今回の場合は知らないと大変なことになるかもしれない‥‥
「不思議な人なのよ。それはもう筋金入りの」
 マリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)が、他の人々にそう言い聞かせている。マート・セレスティア(ea3852)は『美味しいものたくさん食べさせてくれるんだ』とご機嫌に語っているが、彼の姿を見た準備のために雇われている冒険者達がパンを投げるように渡してきたところを見ると、その言葉だけを素直に信じるのはいささか問題だろう。発言には真実味のありそうなガイアス・タンベル(ea7780)は。
「一言ではとても説明できない人です」
 と言い、アフィマ・クレス(ea5242)が。
「ギルドの人に頼んで、報告書を見せてもらえばいいよ」
 と、アストレア・ユラン(ea3338)、マリオーネ・カォ(ea4335)、アリアドル・レイ(ea4943)、シルヴィア・ベルルスコーニ(ea6480)に希望する友人達を連れて行った。マリオーネはどこかからもそれなりに詳しい噂は聞いていたようだし、他の三人もある程度は耳にしたことがあったかもしれないが。
「「なるほど」」
 とマリオーネとアリアドルが頷いた。アストレアとシルヴィアは表情が乏しいが、色々納得はしたようだ。あいにくと、この日は当人とは挨拶程度しか出来なかったが、確かに『不思議な人』だったし。
 なによりアフィマが知りたがっていた『雑草茶』の作り方を、マーちゃんとマリとガイアスが『絶対に駄目』とか『不味いからやだ』というあたり、不安も残る。幸いなのは、当人ではない人達が料理や飲み物の手配をしていることだろうか。それと花婿は普通の人だったこと。
 準備の手伝いもちょっとして、後は自分達の準備と練習をして、この日は早めに解散となったのだった。一部、衣装が出来上がらないと連れと一緒に手を動かしている者や、台所に潜り込んで料理をしている者もいたけれど。一人だけ、台所からパンと一緒に叩き出されている。

 結婚式当日の披露宴は、人の出入りがかなり激しいものだった。常時五十人から六十人くらいいるようだが、大人も子供も混じっている上に立食式で動き回るので、正確な人数は掴みにくい。
 この日集まった中で、演奏や歌をよくするのはアリアドルとアストレアとマリの三人だった。リュートとオカリナ、竪琴で奏でられる、賑やかでおめでたい気分を盛り上げる音楽の中を結婚式を済ませた新郎新婦が現れると、すでに乾杯は勝手に何度も済ませていたようなお客達から拍手が起こる。そのくらいはあちこちの結婚式で見られる光景だが。
「ジョリオにーちゃん、アデラねーちゃん、結婚おめでとう。おいらも美味しいものがたくさん食べられて嬉しいよ。これなら何度でも、二人で結婚式してほしいな」
 すでに両手に料理が山盛りの皿を持ち、顔には肉料理のソースをつけたマーちゃんが、テーブルの側から離れずに大声でお祝いを口にした。しばしあっけに取られた人々が、元気な子供がいると好意的に捉えて笑いに収めるのだが、冒険者達だけは知っている。あれがマーちゃんの本心だと。
「食いしん坊なんだから」
 マリオーネのこの発言も、相当好意的だ。昨日が初対面の人は『礼儀にうるさい人がいたら大変だった』とどきどきし、そうでない人は『食べることしか考えないのか』と一度は頭を押さえている。きっと本人は、『食べるためだけに来た、一応またお茶会に呼ばれるようにお祝いくらいは言おう』と思っているのだろう。その割に、皆がちゃんと着飾ってきたのに、普段の服装だが。
 ひたすら食べている人はとりあえずさておいて。
 最初はジョリオとアデラが囲まれてお祝いを言われ、挨拶を返すことが続くので、三人が軽やかだったり、ちょっと静かだったり、祝福の場に欠かせない曲だったりを演奏していた。三人で揃えたり、一人ずつにしたりだ。
「賑やかで良いですね。こういうところだと楽しいですよ」
「そうやね。おめでたい席がにぎやかなんは、いいことや」
 アリアドルは手を休めている間にちょっとワインを口にしながら、本当にうきうきと楽しそうだ。頬も緩みっぱなしで、この後はどこで喉を披露しようかと辺りを見回している。
 アストレアも表情はまだ緊張しているのかやや堅いが、羽根を羽ばたかせてふわふわと舞っていた。時々テーブルに目を向けるのは、前日に作った蒸し菓子の評判が気になるかららしい。まだ宴の始まりでそれほど手は伸ばされていないが、子供達が数人集まって、美味しそうに食べているのをみて安心したようだ。
 しかし、二人がうきうきとし、安心できたのはそこまでで。
「ねえ、この曲は知ってる? あたし一人だと音の幅が足りないんだけど」
 段々とお祝いを述べるお客も一巡したのか、談笑の輪が発生し、中には『この曲が聞きたい』と言って寄越す人も出て来た。実はこの三人にノルマン出身者は一人もいないのだが、全員腕前は相当なもの。『聞いた事がないので』などとは言わない。
 三人が個々に会場内に散るまでには、もう少しばかり時間が必要なようだ。
 となると、ちょっと手持ち無沙汰なのが踊り手のシルヴィアと大道芸人のマリオーネである。どちらもシフールで、演奏つきでの芸の披露を計画しているだけに、出番までは少し待たなくてはならない。かといって、動き回るのに食事をたらふく詰め込むなんてことも出来ず、ご馳走も眺めるだけだ。
「その衣装、良く似合うけど‥‥どうしてスカートなの?」
「え、余興。本物の女の子があの踊りするのは、ちょっとどきどきものだからー」
 シルヴィアは故郷のほうのちょっと色っぽい踊りを披露することにしているが、マリオーネは大道芸かたがた、足を振り上げる踊りをやる予定でいる。素足が見えない衣装を着ていても、確かになかなかシルヴィアではやる気にならないものだ。
 だがシルヴィアも大道芸は幾つか出来るし、マリオーネも仕込みは出来ているので、二人はほろ酔い気分になっている人達のところを巡って、まずは芸の披露をすることにした。
 変わった服装の二人を、興味深げに眺めている子供達がいることだし。
 子供達に囲まれているのは、彼らばかりではなく。
 道化を思わせる衣装で会場に乗り込んだアフィマは、相棒の人形アーシェンと一緒に寸劇を演じていた。劇場は長椅子の上、役者はアーシェンと指にはめた人形などだ。
『掛け声デ一斉二飲ムノカイ』
「もちろんですわ〜」
 腹話術と裏声での会話に、子供達は食い入るように見入っている。もちろん劇の巧みさが彼らをひきつけるのだが、それと共に、アーシェンの前に準備された『お茶』が人の飲むものとは思えない材料で淹れられたのを知っているせいもある。実際はそう見える小道具だが、飲んだら駄目と一生懸命訴えている子供もいた。
 何をしているのかと覗き込んだ大人達は、どうも心当たりがあるようで、笑いを堪えている。これは本日の主役より、子供達に配慮したものらしい。
 こちらは大人に囲まれたガイアスは、年配のお客から銀貨を一枚借りて、スカーフの中に消したり、取り出したりする手品をしている。預けた銀貨が、包んだだけのはずのスカーフの中から出てこずに、ほろ酔い気分が覚めたお客がスカーフを何度も改めて、首を捻った。どうなっているのかと、ガイアスにスカーフを返して、二度三度畳んで開くと、銀貨が出て来る。
「他にもう二つくらいしかできませんけど」
 それだけ出来ればたいしたものだと、褒め称えてくれるお客を前に、ガイアスは他の人々の売り込みも忘れなかった。自分の芸は趣味の範囲だが、その本職が何人も来ていることを彼は十分承知していたからだ。
 しかし。
「なんで食べないの?」
 マーちゃんが、今度は口の周りを魚の脂まみれにして話しかけてきた時には、どうしようかと悩んでしまった。目の前の同族が、軽業師のはずだと知っていたからだ。
 そうこうしている間にも、宴は続いて、どんどん皆が陽気になっていく。

 宴の間、アフィマとマリは、それぞれの得意分野でアデラとジョリオの馴れ初めなどを披露したのだが、お客の大半が知っていたのでちょっとだけ残念だった。だが思う。
 こんな話を知っていて、それでも祝ってやろうと思うのだから、なんて豪気な人々だろうかと。だいだいアデラと同じ職場で働いているなんて聞くと、一体どういう様子なのかと尋ねてみたくなったり。
 実際に聞いてみたら、案外普通だった。花嫁への遠慮があったのではないかと、ちょっと思わなくもない。
 アストレアとマリオーネとシルヴィアのシフール三人は、皆がワインでいい気持ちになってきたあたりで踊りだした。昨日と今朝早くに練習した甲斐があって、どちらの踊りもアストレアの演奏とよく合い、小さな体が跳ねるように動き回る様子はたくさんの拍手を浴びた。どちらかというとシルヴィアの踊りに拍手が多いのは、男性から好評だったためだろう。
 マリオーネはひとしきり踊ってから、かつらを外して放り上げたので、男性陣にぶーぶー言われていた。スカートをはがれそうになって、慌てて逃げ回り、アストレアとシルヴィアがおろおろとする一幕もあったが、こちらの女性二人は同族のお客が助け出し、シフール用の食器が揃った一角に案内してもらっていた。
 マーちゃんは、ひたすらに食べ続けているが、アデラやジョリオの親族への挨拶だけはちゃんとしていた。ついでに軽やかな身のこなしで、美味しいものを逃さない妙技を披露している。
 アリアドルは延々、ひたすら、ずーっと、アフィマの劇に音楽を添えたり、人が踊るのに歌も添えたり、お客の要望に応えたり、報告書と人から聞いた話で構成して語りを披露したりしていた。その間終始にこにこしていたが、途中から視線がうつろになってきたようだ。
 宴の終わりごろに、ガイアスが木に吊るした玉へ石を投げて、割ってみせる芸を披露した。見事に一撃で割れた玉の中には、細いが色とりどりのリボンと一本幅広のリボンに『結婚おめでとう』の文字が。
 幸いにして、集まったお客の大半は読み書きが達者な人々だったので、この趣向はとても評判がよろしく、皆を満足させたのである。
 けれども、お客達が満足して帰った後には、疲れ果てた彼らがテーブルに突っ伏したり、木の長椅子の上で横になったりしているのが見られた。
 そのままだと病気になるので、新婚さんの家だが台所や納屋、居間の片隅を借りて眠り込んだ者も出た。別口で呼ばれた冒険者の何人かも、片付けがと言いつつ、お仲間である。

 そうして翌朝。
「皆、早く起きなきゃ駄目だよ」
 昨日の大食がなかったかのようにすっきりした顔で、台所に引き上げられたご馳走の数々をつまみ食いしているマーちゃんが、それほど遅くなく起きてきた何人かを出迎えた。彼は片付けを手伝おうとか殊勝なことを考えたのではなく、単に『残り物をおなかに片付け』ているのだ。多分きっと、台所にお泊りした一人。
「あ、俺も食べたい。昨日はちょっとしか食べられなかったし」
 寝癖ぼさぼさの頭をぽりぽりかきつつ、マリオーネもつまみ食い仲間に入ってしまった。片付けをしようとしている人々がいるのだが、まだ寝ぼけているのか気付いていない。
 かと思えば、最後にちょっとだけお祝いだからと貰ったワインで沈没したシルヴィアが、なんともいえない顔付きで現れる。別に台所に用があるのではなく、しっかり目が覚めていないようだ。こちらは眠気覚ましに、アデラのお師匠さまが淹れてくれたお茶を貰っている。
 食べることには結構未練のあったガイアスは、台所になかなか現れず、何かと思えば寝不足のためか鼻血を出して、宴会の冷菓用に設えられていたフリーズフィールドの張られたテントで布を冷やして、鼻に当てていた。げっそりしているのは、もしかすると二日酔いかもしれない。最後にジョリオの友人達に捕まって、しこたま飲まされていたようだ。
 なんとか自宅に帰っていた様子のアストレアとマリが片付けを手伝おうかとやってきた頃合には、有志による果物奪い合いが起きており、それとは別に、疲れた体を休めるのにふさわしい食事をしている人々もいた。こちらも果物が多いのは、疲れが早く取れるようにだろう。もちろん二人もご相伴に預かるというか、預からされた。この後こき使うのだから、しっかり食べてもらわないと、と思われたのかもしれない。
 楽士だが。夕べは歌も披露する羽目になった二人には、蜂蜜たっぷりの香草茶。もちろんアデラが淹れたものではない。
 もうちょっと遅れて顔を出したアフィマは、皆にお礼を言って回っていたアデラに念願の雑草茶の淹れ方を伝授してもらう約束を取り付けたが、周りからはやめておけと耳が痛くなるほど言われた。面白そうなのにと口にしたので、以降は言われなくなったが。
 それがいいのか悪いのかは、後日の判断であろう。
 居間の片隅に運び込まれて、死んだように眠っていたアリアドルが目を覚ましたのは。
「来月のお茶会も待ってるよー。後これ、あっためて」
 台所から聞こえる大声の要求が、耳に入ったからだった。目を開けると、アデラの姪達が『大丈夫?』と覗き込んでいるところ。相当熟睡していたものらしい。
「あらまあ、起こしてしまいましたかしら。ちょうどお昼で、また色々手の込んだものがありますから、お食事になさいませんか」
 他人の新妻に気遣ってもらうのは申し訳なかったが、見ればその夫は悟りきった顔付きで、昨日の宴の後片付けをしているところだった。
 そういうお二人らしいと、納得した者がたくさん‥‥