素敵?なお茶会への招待 仮装しましょう!

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月17日〜09月22日

リプレイ公開日:2004年09月25日

●オープニング

 ギルドの入口で、鶏の鳴き声がした途端に、受付にいた女性は奥に逃げ込もうか考えた。ただし、彼女が鶏を嫌っているわけではない。
 嫌だったのは、鶏入りの籠を引きずるようにしてやって来た依頼人だ。
 もちろんギルド係員の彼女は分かっていた。どんな依頼人でも、きちんとお金を払ってくれる限りは飯の種。好きや嫌いで対応を変えていけないことくらい、よくよく承知している。
 でも‥‥
 この時の彼女の気持ちを、逐一書き記したとすればこうなる。

『ああ、どうしてあたしの当番の時ばっかり、名物な人達が来るのかしらっ。この人だって、今日で三回目なのに、あたしが二回も相手するわけ? くーっ。また新しいそうないい服着てて、羨ましいじゃないの。あら、でも袖口がほつれてるみたいだけど。いやいや、それよりあの鶏は何かしら。そこらで買い物して、わざわざ持ち込んで来たんじゃないでしょうね。後で掃除するのだってあたしなんだから、汚さないでほしいんだけど。はあ、みんなが受付は若い娘のほうが客も話しやすいとか言って、体よくあたしに押しつけるから、あたしがひどい目にあうんじゃないかしら。そう、そうよ! あたしだって、ギルドで一番若い娘だったのはこの間までなんだから、ここは気前良く後輩に道を譲って、あの時々敬語がすっ飛んじゃう子にどんどん当番回したら‥‥まずいような気もするわ。子供だと思って見くびられたら、冒険者ギルドの名折れだし。それになにより、今はあたしが当番なのよ。みんな、奥でお茶してて、まず出てこないんだからぁ』

 カウンターの影でぶつぶつ言っていた、受付の女性に声が掛かったのはこの時だ。
「すみませーん」
「お茶会ですね。今度は鶏買い付けたんですか?」
 久し振りに顔を見せたウィザードのアデラに対して、女性が百面相を元に戻して仕事の顔つきになる。そんな彼女をギルドの他の係員は『薄倖だねぇ』とからかって遊んでいるのだが、それはそれ、別の話。
 今は依頼の受付中である。だが。
「これは、先々月からうちで飼い始めた鶏が増えたんですの。それで」
「依頼の仲介料は、基本的に現金でお願いしてます」
「あらぁ、現物でも受け付けしてくださるって聞きましたのに。ほら、こんなに活きのいい鶏ですのよ?」
「宝石なんかならともかく、生きてるものは駄目です! それに、三羽とも全部、雄じゃありませんかっ」
「ばれてしまいましたわ」
 若鶏ともなれば、素人でも雌雄は一目で分かる。ばれないと思っているアデラが、この場合はおかしいのだ。
 けれども、この依頼人は現金の持ち合わせがないわけではない。今持っていなくても、確実にそこそこのお金を動かせると分かっているので、薄倖の受付嬢は無理矢理怒りを収めた。おしごと、お仕事、オシゴト、何事も生活のためだ。
 気を取り直して、今回のお茶会内容を尋ねる。
 すると。
「この間、お芝居を見に行きましたの。ジャパンの物語のはずが、フランクでしたかしら。なんだか変更があったんですけれど」
「ああ、アサギリ座。時々話題になってますねえ」
 この返事が、アデラにはことのほか耳に心地よかったらしい。そうでしょうと繰り返しながら、カウンターに身を乗り出してきた。
「仮装お茶会ですの」
「は?」
「ですから、色々綺麗に着飾って、出来ればそれぞれのお国の衣装など出していただいて、お集まりいただければ華やかだと思ったんですの」
 今回のお肉は鶏で、他の材料も基本的にアデラの費用持ちで買い整え、代わりに冒険者への謝礼は当日の飲食分とする。そんなお茶会の参加条件は綺麗に仮装してくること。
 冒険者が仮装って、どういう状態になるの? と思い悩んでいる受付嬢の様子など眼中になく、アデラは勝手に羊皮紙を取ると依頼書を書き始めた。憎らしいほどに達筆である。
「張ってくださいませ」
「仲介料は現金でお願いします」
 鶏の現物納品は受け付けませんと頑張られ、アデラは籠を引きずって一時退散した。しばらくして戻ってきたときには、さすがに籠はない。
「三本向こうの通りの酒場で、買ってくださいましたわ!」
 そんな、肉屋のギルドに怒られることするんじゃないと思った受付嬢だが、その酒場に納品に来ていた肉屋が買い取ってくれたと聞いて‥‥ようやく依頼書を張り出した。


『仮装お茶会に参加してくださる方を募集
 食事とお菓子などを用意したお茶会に、参加してくださる方を募集中です。
 参加条件は、当日仮装をしてきてくださること。どんな仮装でも結構ですが、異国風の衣装を特に希望します。
 現金報酬はありませんが、当日の飲食代は無料です。
 ぜひともお誘い合わせの上、ご参加くださいませ』

 そんなことが書いてある羊皮紙の下のほうに、『主催者アデラ女史のお茶で体調不良を起こしても、ギルドは一切関知しません』との但し書きが、いつの間にか書き添えてあった。
 
 とりあえず、またお茶会なのである。


●今回の参加者

 ea1803 ハルヒ・トコシエ(27歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea2564 イリア・アドミナル(21歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea3776 サラフィル・ローズィット(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea3826 サテラ・バッハ(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea3856 カルゼ・アルジス(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4071 藍 星花(29歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 ea5947 ニュイ・ブランシュ(18歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●『女性』のお支度には時間がいる!
「では、まいりますよーっ!」
 カルゼ・アルジス(ea3856)が引き釣った苦笑を浮かべている中、ハルヒ・トコシエ(ea1803)の奇妙に力の入った声が響いた。ハルヒの正面には、神妙な顔でエルフのニュイ・ブランシュ(ea5947)が座っている。正確には、周囲の女性陣に座るように無言の圧力を受けていた。
 場所はイリア・アドミナル(ea2564)が住んでいる部屋。そこに人間が二人、エルフが四人の合計六名の美女、美少女と、一人の人間の男性、それからエルフの一風変わった『美女予定』が詰め込まれている。もちろん自主的にだ。
「あら、こういう香料は初めて見たわ。ちょっと開けてみていいかしら」
 ニュイの顔をいろいろこね繰り回しているハルヒの化粧道具を、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)が興味深げに覗いている。部屋主のイリアも同様だ。ちなみにソフィアは季節感度外視の毛皮の厚着で、イリアはジャパンの浴衣。こちらも季節感はない。
 化粧用の筆を振るっているハルヒはエジプト辺りの雰囲気で、薄手の布を頭にかぶっているし、カルゼもフランク風の盛装。
「それでいいなら、買わなかったのに」
 カルゼと同国出身のサテラ・バッハ(ea3826)はビザンチンの裾回りが長いひらひらとした衣装で、ちょっとむっとしている。その様子を微笑ましいと眺めているサラフィル・ローズィット(ea3776)は、インドゥーラの雰囲気の衣装で、さきほどまで腰回りの布が解けないように苦心していたところ。
「あらでも、綺麗な服に着替えると気分も違うわよね」
 藍星花(ea4071)が故郷から持ち出してきた一張羅の袖口を直しながら、にっこりと上品に笑った。その姿からは、ここに来た時の『いい鴨がいたのに、誰だかの私有地で狩りはするなって言うのよ。いやねー』と鼻白んでいた様子は微塵も伺えなかった。
 そうして、ニュイの化粧が終わって‥‥
「さ、カルゼさん。先導してくださいませ!」
 それはもう朗らかにイリアに断言されたカルゼは、開き直ったような笑みを浮かべていた。
「じゃあ、荷物はサテラとソフィアのロバに乗せることにして‥‥はいはい、俺が引けばいいんだよね」
 ついでに途中の道で辻馬車を止めて、何事かと目を丸くしている御者に季節感も国柄も無視し、やたらと派手めの女性六人と女帝様一人を乗せてもらって、計八名は本日の目的地に到着した。
 お茶会の主催者アデラの家は、こともあろうに王宮前も月道管理塔前も通り過ぎたパリのはしっこ、冒険者街とは対角線上の遠方にあったので‥‥かれらは結構注目を集めた、かも知れない。

●お茶会のその前に‥‥
 八名がアデラの家の前に着いたとき、庭先では主催者殿が一人でテーブルを引っ張っているところだった。真っ白なワンピースに薄茶色の糸で幾何学模様が山程刺繍されているのが、どうやら仮装らしい。
 アデラは今回の参加者の中では一応年長だが、もちろん若い女性なので、どんな服装でも力仕事には向いていない。
 そして、着飾った女性陣プラス一名の目は、盛装でも男性用でいくらか飾りの少ないカルゼに集中した。これで行かなきゃ、後でなにされるか分からない感じだ。もちろん、行く。
 すると、今度はサラ、ソフィアが勝手知ったるなんとやらで、台所に向かう。星花も付き添いで‥‥やることは、お茶っ葉調査だ。
 だが。
「色々と、不穏な話は聞いたからね」
 星花が同じ話を聞いた人々の大半が同意する感想を漏らすと、サラとソフィアはふるふると首を横に振ったのだ。
「お料理は絶品ですよ」
「お茶も随分勉強したはずだから、きっと美味しいわ」
 椅子とテーブルの準備が出来たら、すぐにお茶会が始められるようにお手伝いしないとと盛り上がっている二人に、星花もそれなら大丈夫かなと思い直したが。
「あら、これは下剤になるから使わないようにって、あれほど言ったのに」
「これは飲んだら吐くってお知らせしなかったでしょうか」
「‥‥ちょっとぉ」
 若鶏の蒸し焼きやスープや色々が取り揃っていて、これなら鴨が取れても重なって大変だったかもと機嫌を上向かせていた星花は頭痛を起こしそうだった。
 当然、使ったら駄目な葉は選り分けて、後程教育的指導を行なうための参考資料に回された。ただし。
「今回は私も勉強して、ジャパンや華国、イギリスのお茶を作ってみましたの。味が本物に近いかどうか、分からないんですけど」
 本日はソフィアも結構挑戦的だった。
 栗菓子を披露しているサラはともかく、星花の頭痛は本格的になりつつある。

 準備に忙しく働くカルゼはさておいて。

 ニュイはちょっとばかり困っていた。仮装すればただ飯が食べ放題だと言うので、なんにも考えずに参加を決めた。なんだか評判のお茶会らしいが、評判なのは悪いことではあるまい。仮装も姉が勧めてくれた衣装が、他の参加者(女性限定)に好評だ。
 その衣装は何枚も重ねて動きにくいが、厚着になっている分、女装だという気恥ずかしさはない。ただ髪飾りが重いのと、ふくらはぎのあたりがすーすーする違和感が困る原因だった。髪飾りはどうにもならないが、足は座ったら気にならなくなってほしい。
 そうでないと、充実した飲み食いの時間が取れなくなってしまう。などと思っていると、不意に喉を掴まれた。ウィザードの彼はそうした気配に疎いが、さすがに喉だと振り払おうと腕が上がる。
 しかし、その頃には準備をカルゼに一任したアデラがイリアに向かって三歩の距離を跳ね戻っていた。
「ありましたわ、喉仏! 男の方ですのね!」
「そうでしょう? ハルヒさんの腕がいいんですよ」
 ロバ達から各自のお土産を下ろしていたハルヒが、照れ笑いを浮かべながら彼らのほうを見ていた。山盛りの香草を入れた籠を下ろしたところのサテラは、残った荷物をどうするんだと言いたげだが‥‥はしゃいでいる二人を止める気配はない。とりあえず、自分で持ち込んだ香草は運んでねと言い残して、先にようやく設置が終わったテーブルに向かっていってしまった。
 だがしかし、こんな慣れない服装でニュイだって力仕事はしたくない。しかも彼の土産は香草の根っ子付きだ。そんなものを運んだら、借りた衣装が汚れてしまうだろう。
 そんなわけで、少々疲れた表情で荷物運びにやってきたカルゼに、運んでと頼む。彼は嫌な顔はしないが、やはり戻ってきたサテラが厳しい表情になる。
「文句があるなら、宮殿へいらっしゃい!」
 姉から習った決め台詞をニュイが口にすると、ハルヒがぱちぱちと拍手をした。アデラとイリアは、きゃあきゃあと喜んでいる。
 お茶会まで、もう少しかかりそうだ。

●そうしてようやくお茶会
 今回のお茶会のメインは、若鶏の蒸し焼き。他にサラとカルゼが拾ってきた栗を使ったパンや菓子類、他にも色々な料理がいい匂いをさせてテーブルの上で存在を主張している。
 ちなみに給仕役はサラと星花とカルゼの三人だ。カルゼ、働きもの。でも毒見はしていない。
 その他にはテーブルの横でお湯がしゅんしゅんと音を立てて沸いており、テーブルに茶器が幾種類も取り揃えてあるのがお茶会らしい風情だ。今回は非常に香草類の差し入れが多かったので、まずはそちらの味見をしようということで、和やかにお茶会は始まった。
 微妙に、サテラが差し入れのお茶の内容をチェックしていたりもするのだが。
「あ〜、その辺りのお料理を一口ずつ。う〜ん、やっぱり二口ずつお願いします」
 最初に殊勝に挨拶をしていたイリアだが、現在数ある料理の攻略に頭を悩ませている。お茶を楽しむのがお茶会だが、これだけ料理や菓子が揃えば、お茶だけで満足しているわけにはいかない。浴衣の帯を、少し緩めに締めていたのを今更ながらに喜んでいるイリアだった。
 なお、その隣のソフィアは食べるより話をするのに夢中な様子。今はサテラが持ってきた香草茶について効能がどうとか語っているが、こと香草や薬草については彼女のうんちくを超える知識の持ち主は滅多にいないのではと誰もが思わされるくらいだ。
「でも、私はまだ達人のアデラさんの作られるような味に至らなくて‥‥お恥ずかしいわ」
 ただし、この認識だけは改めろと、何人かが思っていた。
 そんなことは馬耳東風に、料理を一心不乱に食べているニュイなどもいるわけだが。その横では、ハルヒがお茶を一口飲んでは考え深げにして、それからニュイの勢いに釣られたように、せっせと食事にも勤しんでいる。
「おいし〜ですぅ。服と一緒で、お茶も色々あるんですね〜」
 隣なのでニュイに話しかけたハルヒだが、無言で食べ続けているので、やや困惑気味。だが『お茶も色々』で反応したサラが、新しい茶葉をテーブルに運んできた。今度はソフィアが持参したものだ。
「さあ、試験いたしまょう。まずはお茶の淹れ方ですわ」
「あらぁ、今お話が盛り上がってましたのに」
 星花と化粧や髪飾り、もちろん各国衣装の話題で盛り上がっていたアデラが残念そうに言うが、サラは譲らない。星花も茶葉の種類を見て、故郷のそれとは違っても問題はなさそうだと察して、『試験』を勧めた。
 まあ、アデラにあれこれと故郷のことを問われれば、普通に応えていたのだが‥‥
 本物の『お茶』を淹れるには、貴族や富裕階級には作法というものがある。このお茶会ではそんな煩いことは言わないが、まあ、茶器をがしゃがしゃ鳴らさないくらいは礼儀のうちだ。なんてことは、先程ソフィアが言っていたけれど。
「まぁ、なんだかとっても上流のお茶会に来ているみたいです」
「ああいうの、極めるって言うんだよね」
「噂ほど、悪くはないんじゃないか?」
 イリアとハルヒとサテラが感心して呟き、サラとソフィアが絶句し、カルゼとニュイが素直に拍手などして、星花がおやと目を見張る程度に上品かつ優雅に、アデラはお茶を淹れてみせた。この場合、無作法なのは話し続けていたところだろう。
「ちょっと渋い香りだけど、色は綺麗だね」
 どうぞと茶器を差し出された星花がそう口にしたので、次々と茶器を手にした客人達は香りの確認に気を取られた。
 そして、このお茶会の作法には、お茶は全員で一斉に飲むと言うのがある。とりあえず最初の一口は。
「せーのっ」
 アデラの掛け声と共に、思わず茶を口に含んだもの多数。そして、素直に吐き出したのはニュイが最初だった。他はせっかくの衣装が気になって、慌てて飲み込んだ場合もある。
「渋いっ。別のにしてくれ。どうせなら、うまい茶が飲みたい」
 ごほごほとカルゼが声もなく咳き込んでいるのを横目に、ニュイは遠慮なく要求している。ソフィアが残念そうにしているが、やはり独学で華国の茶を再現するのは、彼女といえども難しかったようだ。けれども星花からこういう味のものもあると聞いて、なにやら新たな決意を固めているらしい。
 ここで、ではと立ち上がったのはサテラだ。先程は一つの植物だけで香草茶を楽しんだが、今度は効能を第一に体にいいものを作ってあげようと言うのだ。あっという間に作り終えて、勧めたのはアデラにだけ。
「主催者へのお礼ですよ」
 ものすごく、棒読みだった。もちろん、そんなお茶に挑戦するのはアデラだけ‥‥ではなく、ソフィアとサラ、勢いに巻き込まれたのか星花の四人である。そして。
「ちょっと酸っぱいけど、体が暖まりますわ」
「サテラさん、素晴らしいです」
「皆にも分けてあげるか」
「‥‥世に達人の数は多いのね」
 いつのまにか、アデラの作ったお茶の存在が忘れられているが、それでなくても今回は差し入れがたくさんある。わざわざ危険なことに挑戦したいと思わない人々は気付いてももちろん言わないし、そうでない人々は『達人』に教えを乞うのに忙しい。
 その間に、立派に成長期のニュイと姿だけだと今回唯一の男性のカルゼは、二人で協力して若鶏の蒸し焼きを切り分けていた。正確にはカルゼが切って、ニュイは皿を差し出すだけだが。
 もちろん二人はけちけちせず、その様子を眺めているハルヒとイリアにも切り分けた若鶏を渡している。さりげなく星花が要求してくるのにも、きちんとお応えした。
 残る四人が、お茶について熱く語ったり、語らされたりしている人々である。アデラ以外の三人はエルフなのだけれど。
 まあ、それは邪魔せずに、残った面子で美味しかったお茶葉を勝手に使わせてもらい、料理は語っている人々の分を残してせっせと食し、お楽しみの栗の菓子やパンは無言の圧力を飛び交わせて、なにはともあれ楽しい時間を過ごしたのだ。
 お茶について語っていた面々も、一人を除けばそれなりに充実した時間であったらしい。散々茶葉をあれこれ混ぜて、色々試飲していたようでもあるし。
 次は、もっと本格的に試験だと話し合っているのは、とりあえず一般人は聞かない振りをする。
 そうして、お茶会はやや変則的にでも、無地に終了するかに見えたのだが‥‥
「残ったのは持ち帰りで」
「「「「「ほしいーっ」」」」」
 この女帝様の一言に同意するお客人が多かったため、分配に手間取り、解散は随分と遅かった。
「はい、辻馬車が来たよ。荷物は持ってる? 早く乗ってね。お腹が苦しいとか言わない。お茶の配合考えるのは乗ってから。他の人もいるんだから」
 お茶会なので報酬は当初の予定通りなかったが、アデラが飲物でちょっとお腹の苦しいお茶仲間を心配して、ついでに遠くまで来てくれてありがとうの意味合いで、辻馬車代は往復分出してくれた。
 それがなかったら、誰も家まで歩いては帰れなかっただろう。それぞれの理由でもって‥‥