素敵?なお茶会への招待〜されてませんけど

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:11月21日〜11月24日

リプレイ公開日:2006年12月02日

●オープニング

 パリの冒険者ギルドには、何人かの常連依頼人がいる。たいていはそれほど困りごとを抱えているわけではなく、自分の好みや欲求、時として趣味のために冒険者を雇う相応のお金持ちだ。少なくとも生活に困るような心配はしたことがない、財産なり実入りの良い仕事なりの持ち主である。
 その中の一人に、お茶会ウィザードと呼ばれる女性がいる。名前はアデラ。ほとんど毎月お茶会に来てくれる冒険者を募集し、その辺の雑草をむしって作った謎の雑草茶を飲ませようとしたりする若い女性だ。当人は何か目指しているものがあるのかもしれないが、結構迷惑な性癖の持ち主と言える。
 けれどもこのアデラのお茶会は、飲み食いさせてくれるものがいいからか、それともあまりのやりように一度参加すると見捨てられなくなるのか、毎回盛況だった。冒険者のおかげで同じ職場の男性と結婚が決まり、結婚式も無事開催できた、一風変わった常連さんである。
 けれども。

「流石に来ないねー」
「今月も来ないかもよ。この間、ご自宅にお呼ばれしてきたけど依頼に来るって言わなかったし」
「何であんた依頼人の家にお呼ばれしてるのよ」
「違う。旦那は俺の幼馴染だから。家族揃って呼ばれたの」
「‥‥それって男は肩身が狭そうだな」
「あちらは嫁さんに姪っ子が四人、うちも嫁さんに娘二人だから、もう大変さ」
「あらぁ賑やかでいいじゃない。女の子ばっかりなんて華やかよね」
「女には、そういうときの男の気持ちはわからねぇ」
「ま、今月もお茶会はきっとないってことで。来月はどうかなー」

 ある日、どういう話の流れだか、ギルドの係員達が仕事の合間にそんな噂をしていたのである。

 聞いてしまった冒険者が何かしでかしても、冒険者ギルドには関係がない。
 アデラの家に冒険者達が押しかけようが、噂を耳にして覗きに行こうが、無関係である。

●今回の参加者

 ea1763 アンジェット・デリカ(70歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea3776 サラフィル・ローズィット(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea4078 サーラ・カトレア(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea9960 リュヴィア・グラナート(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ガイアス・タンベル(ea7780)/ 羽鳥 助(ea8078)/ アルストロメイア・マハゴニー(ea9572)/ アルミューレ・リュミエール(eb8344

●リプレイ本文

 冒険者ギルドでお茶会ウィザードアデラの噂がされて数日後。
「おっはよー、お茶会開いておくれよ」
 マート・セレスティア(ea3852)がアデラの家の裏口から、そう挨拶しつつ飛び込んでいた。時間は早朝。どのくらい早いかと言えば、アデラが今まさにかまどの種火を起こそうとし、シルヴィが水汲み用の桶を抱えあげたところだ。
 だが、マーちゃんの突然の来訪に、二人はちょっと驚いただけだった。正面ではなく、台所がある裏口からやってきたって、ちょっと驚いただけ。
「あら、そういえばお茶会を久しくしていませんでしたわ」
「もー、おばちゃんってば忘れんぼなんだから」
「これから朝ごはんだね、おいらも食べてもいいよね」
 普通は良くないが、ここの家では全然平気。朝食前の目覚ましに貰った林檎を齧りつつ、マーちゃんは一応水汲みをしている。なぜなら、美味しいご飯のためには水汲みが必要だからだ。
 ジョリオは仕事場で夜警担当のため、この朝は不在であった。そしてアデラ達は、朝食が終わるとそれぞれに出掛けて行く。ルイザは疲れが取れない顔で、シルヴィは鼻歌交じりに、マリアとアンナは仲良く一緒にお出掛けだ。アデラも荷物を持って、
「お留守番、お願いしますわね」
 食欲魔人に後を託している。マーちゃん、幸せいっぱい。

 新婚家庭に招かれもせずに押しかけるのは野暮である。しかしながら、一般の新婚家庭と違ってアデラの家には姪が四人も同居しているし、もう結婚式から一ヶ月も経ったし、そもそも生活がちゃんと出来ているのか気になるし‥‥理由は色々で、この日に家を襲撃、もとい訪問した冒険者はマーちゃん一人ではなかった。
「あんたが帰ってきたら、コレが家の中でくつろいでいたって言うのかい」
「正しくは、台所で食料を漁っていた、かな。聞いていたからいいが」
 他人の家を訪問する人、それも多少なりと懐が温かい人の常として手土産持参だったアンジェット・デリカ(ea1763)は、昼間で大分ある頃合に玄関前に立った。家の中には帰ってきたばかりと思しき姿のジョリオと、両手で食べ物を抱えたマーちゃんがいて、二人で出迎えてくれる。何か間違っていた。
「まあ、腹も下していないようだし、血色もいいし、幸せそうだからいいとするかね」
 それでいいことにして、手土産のガチョウを勝手に裏庭に離しに行くデリ母さんも何かが違う。そもそも客が玄関から居間やら台所やらを横切って、裏庭の鶏小屋にすんなり辿り着く辺りがもう不自然だ。
 挙句に台所で、勝手に食材の吟味を始めていたが‥‥ジョリオは『よろしく』の一言で着替えに引っ込んでいる。まるで実家の母親が尋ねてきたような様子だった。
 続いてやってきたのはサラフィル・ローズィット(ea3776)とリュヴィア・グラナート(ea9960)、それに買出し要員などで連れまわされたアルストロメイアとガイアスの四人連れ。サラは焼き菓子の包みを、リュヴィアは色鮮やかな木の葉のついた枝や香草茶の材料を手土産にしている。この二人も礼儀正しく、玄関の扉を叩いたのだが、出迎えたのは家の者ではない。
「おや、偶然だな。やはり皆お茶会恋しいと見える」
「まあ‥‥お二人とも、早くにいらしていましたのね」
 家の中にいた三人の内、ジョリオに『我々を呼ぼうと思っていた頃合だろう』と満面の笑みで話し掛けたのがリュヴィア、先客に『誘ってくださればよかったのに』と微笑みかけたのがサラだ。なぜだか、どちらも怖いものを含んでいる。約一名、伝わっていないのもいるが‥‥なんとはなしに怖い。
 察するところ、『我々より早く来るなんてどういうことだ』という気持ちが、腹の中の奥深くにあるのだろう。本人達は意識していないかもしれないが。ましてやサラは自他共に認める、アデラのお師匠様である。
 それゆえ。
「アデラ様がお戻りになるまで待たせていただきましょう。せっかくですから、お夕飯の準備もいたしますわ。皆様、何か食べたいものは?」
「ジョリオ殿が食べたことがないものが良かろう。新妻は新しい料理を覚えるのに熱心になるというからな。様々な収穫もあったろうし、料理を覚えるのにいい時期だ」
 デリ母さんが賛同し、マーちゃんとガイアスが目を輝かせ、アルストロメイアがまた買出しだと思い、ジョリオが一言も言わないうちに、てきぱきとお茶会兼お食事会の準備が整えられていった。
 よって、お土産に新しいティーポットを抱えたサーラ・カトレア(ea4078)が昼過ぎに扉を叩いた時には。
「あらまあ、皆さんお揃いでしたのね」
「アデラ殿は不在だが、軽く昼を摘んでいたところだ。ご一緒しながら、帰りを待とう」
 家の者六名のうち、たった一人しか在宅でないのに、しかもそれが夜警勤務明けの入り婿なのに、当然のように飲食して寛いでいる人々がいたのだった。これがまた、違和感がない。
「殿方には、後程薪割りをお願いできますかしら。もう残りが少ないので、人手があるときにまとめてやっていただけると助かりますわね。マート様もですのよ?」
 塩が少なくなっているから買い物にも行かないといけないし、裏庭の畑の作物の中にはもう収穫しないと固くなるものもあったし、鶏小屋にガチョウが増えたから藁を入れてあげないと‥‥その他諸々。サラが仕切って、リュヴィアが役割り分担を決め、デリ母さんが発破をかけると、誰も逆らえない。でも流石にジョリオは仮眠している。
 とうとう家の者が見えない状態で、お茶会一派は『ごく普通に』活動を始めていた。
 やがて夕刻。
 お土産に生姜を入手してきたアニエス・グラン・クリュ(eb2949)は、玄関でしばし呆然と立ち尽くした。アデラ達は冒険者ではないし、依頼もないけれど、でも友達とその家族に相談事をするのだから事前に日時を約束して訪問を‥‥とシフール便まで使って約束したのに、彼女より大人の人々がこの有様である。
「皆さん、いつからいらしていたんですか」
 肝心のシルヴィ達がちょっと遅くなっていたが、ジョリオが話を了解していて招きいれてくれたので上がりこんだアニエスの質問に、リュヴィアが事の仔細を語ってくれた。昼間は普通誰もいないのではないかと顔に出たアニエスには、最後に一言。
「友人を訪ねるのに理由はいらん。会いたくなったから来たんだ。まあ一応我々も、新婚家庭を訪ねるには時期というものを見計らったが?」
「そうなんだよー、たまにはアデラ姉ちゃんのまずいお茶を飲まないと、料理が美味しくないんだよ。毎日は嫌だけど」
 毎日アデラのお茶を飲んでいるジョリオを前に、あまりに失礼なマーちゃんの発言が続いた。リュヴィアも、他の面々も流石にこれには一瞬黙ったが、あくまで一瞬。ぽかりとやって、何事もなかったようにアニエスに茶を勧めたりしている。もちろんこれは、アデラが調合したお茶ではない。リュヴィアの自信作だ。
 そうしてのんびりしていると、アデラとシルヴィとマリアとアンナが帰ってきた。ルイザはこの時期なので、職場の工房に泊り込みらしい。で、彼女達が予定していない来客も大量発生していることを驚いたかといえば、朝と同じくちょっとだけ。
「やはりアデラ殿がいないと、盛り上がりに欠けるな」
「お台所の様子から、それほど家事もお困りではないように見受けました」
「聖夜祭用にガチョウを買って来たから、せいぜい太らせておおき」
「まあ、皆様ありがとうございます。このウサギさんも、聖夜祭用ですのね?」
 デリ母さんがペットの兎を慌てて取り戻したが、どうもこの家の住人は兎料理が好きらしい。他にも何人か、『違ったのか』と残念がっている様子の者がちらほらと。
 リュヴィアとサラは、サーラにお茶の淹れ方や料理のレシピを教えている。三人とも、まるで自宅のようなくつろぎ方だった。だらしないというのではなくて、のんびりしている。そのサーラのお土産のティーポットは、これまた聖夜祭用に戸棚の上に飾られた。それまでに壊れないことを祈るのみだ。
 ここで困るのは相談事に来たアニエスだが‥‥アデラは『他人』がいることに頓着しなかった。相談って何と尋ねられれば、居合わせる大半は人生経験豊富な助言者として申し分ない人々である。一部、食べることに邁進している一団がいるわけだが、そちらは除外。
 アニエスの悩み事は、聖夜祭の過ごし方。もうちょっと言うと、
「父の実家からは毎年お誘いがあります。贈り物も頂戴してますし、折を見て訪問しお礼も述べてますが‥‥」
 聖夜祭全部となれば、二週間ほど。祖父母の家であるアニエスはともかく、婚家の義理の両親と過ごすには母親が気疲れして大変ということらしい。アデラだって実感していてもおかしくはない話だが、シルヴィが。
「おじいちゃんとおばあちゃんのおうちでしょ。アニエスだけでもお出掛けしたらいいじゃない」
 マリアとアンナの双子も、いいないいなの合唱である。一緒に行きたいといわんばかりの様子だ。
 対して大人は母親の苦労が分かるのと、シルヴィ達の気分も察したりして、ちょっとばかり黙っている。でも一人だけ。
「ご馳走が出るんなら、おいらも行ってあげるけど。あ、アデラ姉ちゃん、聖夜祭もお茶会忘れたら駄目だよ」
「お茶会するんなら、アニエスも呼ぶのーっ」
「呼んでくれれば、もちろん来ますけれど」
 別の行き先が出来てほっとしているアニエスに、一言告げたのはジョリオだった。
「祖父母は普通先に逝くからね。会える時には出来るだけ顔を見せるほうがいいよ。‥‥でもまあ、二週間も実家に帰りたくないのは俺も同じだけど」
 惚気かと聞くついでに突っ込む気満載だった周囲は、次の台詞でちょっと気勢をそがれた。アデラがいつでも行くのにと、普通と違う反応だからだ。嫁姑関係が良好で何よりと思いきや、反動で実の息子は除け者扱いらしい。シルヴィ達にも、度々リボンやお菓子を持ってきてくれるそうだ。
「あら、それは‥‥息子さんはお嫁さんを連れてきてくれれば、後は構っている場合ではないということですかしらね」
 多分そういうことだが、そんなにはっきり言ったらジョリオがへこむ。サーラは悪気はないようで、楽しいご両親ですのねと笑っていた。賛同して笑っている人々も込みで、ジョリオには魔物か何かに見えたかもしれないが、別にアデラが困っていなければいいと言う人ばかりだ。仕方がない。
 ついでに聖夜祭の話が出たところで、リュヴィアが言い出した。去年はアデラがマフラーを編んだのだが、きっとまた今年も何か作りたいのだろうから手伝いに来てあげる。下手をすると月に二回もお茶会を開けそうな『お話』だった。
「ガチョウの丸焼きーっ」
 要望はさておき、確かに昨年はこの中ではサラが大変な苦労をしてアデラのマフラーを編ませたのだが、この申し出にはアデラが凍りついた。ジョリオもシルヴィもマリアもアンナも、じとーっとアデラを眺めている。
「シルヴィ?」
「なにかありましたの?」
 アニエスとサーラが首を傾げ、マーちゃん達はお茶を啜り、リュヴィアとサラとデリ母さんが勘付いた。
「何か作っておいでですわね。さ、見て差し上げますからお出しくださいな」
「こ、今年はルイザに習って頑張ってますのよぅ」
 この台詞を聞いた瞬間、皆が思った。
 本当に頑張っているかもしれないが、結果が費やした時間や努力や根気に追いついているとは限らない。絶対に、そうとは限らない。
 だって、アデラの場合にはそういうことばかりだからだ。案の定。
「一ヶ月でこれだけ。マフラーになるには、一年がかりだな」
 昨年作った『淀んだ沼の腐った藻の色』マフラーは穴だらけだったが、そのことにようやくこの秋に気付いたアデラは、解いて編みなおすことにしたそうだ。なにゆえこの色をまた使おうと思ったかは、ちょっと余人には理解できない。
 そんな色のマフラーを使っていたジョリオには、アニエスとサーラが尊敬の、デリ母さんが同情の眼差しを向けていた。ルイザは散々『新しいのを買え』と叫んでいたようだが、根気が尽きて編み物を教えていたそうだ。はっきりきっぱり苦行である。
 なにしろ一ヶ月もかけて、ようやくアニエスの人差し指の長さ。リュヴィアの言うとおりに、一年掛ければマフラーになるかもしれない。
「毛糸が編み直しのし過ぎで、やせ細ってますわ‥‥切れそう」
 サラの指摘の通りに、途中で切れ切れにならなければ。
 ちなみにアデラと四人姉妹は、冒険者有志が編んでくれた付け心地と色が素敵なマフラーをちゃんと持っている。今年も問題なく使えている。問題はジョリオのものだけだ。
「編もうと思うだけいいのか、もうちょっと別のもので満足させるべきなのか。あんたが幸せなら、あたしらが口を挟むことじゃないんだけどね」
「おじちゃん、ルイザお姉ちゃんの作ったマフラーしてる」
「すっごく濃い青いの。えっと、紺色よ」
 一年かかっても、とりあえずジョリオが風邪を引くことはなさそうだ。けれども、そんなことでは納得しない人が何人かいて。
「おいらは美味しいものが食べられればいいんだよ」
 一名はさておいて、夕食後から先生方による編み物教育が始まった。サーラとアニエスは、それを横目に聖夜祭のための飾りをシルヴィ達と作っている。
 翌日はたまたまお休みのアデラを朝から椅子に座らせて、延々、延々と編み物。アデラが働かなくても、家のことは先生方がやってくれるので安心だ。
「アデラ様!」
「毛糸がもう駄目かも知れんな」
「あのー、お庭を掃いておきます」
「鶏の餌やりをしましたわ」
「ごーはーんー」
 手伝わない一名を除いて、皆のおかげで家の中はぴかぴかになったが、なんとはなしにかしましい。賑やかというより、かしましい。
「そのうちに子供が生まれるとしたら、男の子がいいねぇ。これじゃ肩身が狭いだろう」
「それはうちの親に言って‥‥」
 マフラーか出来上がりそうなので、来月のお茶会は、新年を一緒に迎えることになりそうである。