おばちゃんの畑を守って! もう一回!
|
■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 3 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月25日〜09月30日
リプレイ公開日:2004年10月02日
|
●オープニング
冒険者ギルドの前に、荷馬車としか思えない代物が、しかしながら荷馬車なら普通は出さない速度でやってきたのは、この日の昼過ぎのことだった。しかも荷台には女の子が四人も乗っていた。
そして、冒険者ギルトの依頼受け付けのカウンターには。
「モンスターが出たのー!」
問題の荷馬車から転げ落ちるように飛び降りた四人の女の子がへばりつき、両手両足でカウンターを叩くは、足を踏み鳴らすはの大騒ぎを繰り広げていた。
あまりのことに受付にいたギルドの係員〜これまた女の子の最年長よりちょっと年かさなだけの少女だった〜は、呆然と立ち尽くしている。彼女が冒険者ギルドの係員に職を得て以来、こんな騒がしい客は初めてだ。
これほどの騒ぎだったので、建物中に声が届いたのだろう。奥から年配の女性が、様子を見に出て来てくれた。少女係員にしたら、天の助けかと思うような登場である。
ちなみに、この僅かな間に、四人の女の子〜よく見ると年下の二人は双子だ〜は、ギルドの中を右往左往し始めていた。今度は居合わせた冒険者に向かって、『モンスターが出た』と言い歩いている。しかも言いながら余計に興奮してきたと見えて、双子はべそべそ泣いていた。上の二人も泣き始めるまでもう少しといった様子だ。この頃になって、四人を連れてきたらしい男性がようやく中に入ってきたが、これまた慌てふためいていて、すぐには役に立ちそうにもない。
と、二つ手を打つ音がする。
「何があったのかしら。おばさんが聞いてあげるから、こちらにいらっしゃい。‥‥あなたはいいのよ」
あっという間に『五人』の女の子にしがみ付かれたギルド係員の女性は、後輩を容赦なく引っぺがすとカウンターの中に押しやった。その頃には別の係員も出てきて、カウンターの中に座っている。少女係員はその横の椅子に座って、まだ少し呆然としているようだ。
さて、びーびー泣いている女の子四人はしがみ付かせたままにして、女性係員が保護者であろう男性に話を促した。
それは、この日の午前中のこと。
若い叔母が所有している畑の作物を収穫に来た四人姉妹は、のんびりと野菜を畝から引っこ抜いていた。半ば遊びに来ているので、畑の管理と世話をしてくれている男性家族とは仕事の進み具合が違う。一応叔母に言われているから、男性家族の邪魔にならない場所で作業していた。
ところが、である。
「あ、それはあたしが抜くのにー‥‥あれ?」
四人で喧嘩にならないように作業の場所を決めていたはずが、長女の陣地に誰かが踏み込んだ。うつむいていた彼女の目の前で、誰かが野菜を勝手に抜いてしまったのだ。それで長女は文句を言ったが‥‥妹達はいくらか離れた場所で、それぞれの担当の畝から野菜を抜こうと奮戦しているところだった。
長女があれれと首を傾げていると、畝の横に積んでいた野菜がばたばたと崩れだした。四人姉妹が揃って『何事?』と思っていると、今度はその野菜がてんでばらばらの方向に飛んでいく。幾つかは四人姉妹めがけて飛んできた。
「「「「きゃーっ」」」」
この時はまだお上品だった悲鳴を聞きつけて、畑の管理を一任されている農夫の男性が飛んできた。この四人になにかあっては、所有者の叔母に顔向けが出来ない。
で、四人姉妹以外に誰の姿もないのに野菜が飛び回っているのを見て、質の悪い魔法使いかなにかが悪さをしているのだと考えた。
「誰だ、馬鹿なことをしているのは!」
この時、男性は作業に使っていた鍬を持っていた。振り回すつもりなどないが、一応威嚇でそれを肩の辺りまで持ち上げて、叫んだのだ。
すると。
「「「「ぎゃーっ!」」」」
あろうことか、鍬の柄が突然ぼきりと折れて、刃が付いたところが四人姉妹目掛けて飛んでいったのである。随分手前で落ちたが、それにしたって肝が冷えること、この上ない。
その後もしばらくは畑の作物が勝手に抜ける、宙を飛ぶ、土があちこち掘り返されるといった事が続いて、とても男性の手には負えなくなってしまった。それで折れた鍬を回収し、慌てて四人姉妹を家に送りがてら、冒険者ギルドに不心得者を捕まえてくれるよう、依頼を出そうとしていたのだが‥‥
「お話の内容だと、魔法使いとは限りませんものね」
「はあ。来る途中でご主人の同僚の方に、それは本物の魔物の可能性もあると言われたものですから」
普通に生活していた農夫と四人姉妹は心底驚いて、先程の騒ぎになったらしい。四人姉妹は、まだ女性係員の腰にしがみついて、鼻をすすっている。
でもそんなことは関係なく、女性係員はてきぱきと仕事を進めていた。
「魔物でも魔法使いでも、質の悪い相手に違いありません。正体も分からないので、その分料金もかさみますが」
「はあ。ああ、でも、モンスター退治だと料金がどのくらいになるんでしょう」
「そうですねぇ、相場でこのくらいでしょうか」
そんな話をしていた時。
「うちの畑に、なんだか姿の見えない奴が入り込んでるんだっ。冒険者じゃあるまいな!」
血相を変えた、やはり農夫だろう服装の男性が一人、怒鳴り込んできた。すると受付に座っている男性職員が返して。
「そういう悪さをするのは犯罪者と言いまして、冒険者ではありませんよ。うちは善良な冒険者だけが出入りしてますから。でもそれ、そこでお話している内容と似てますねえ」
ひょうひょうとした様子で、男性と四人姉妹を指した。釣られて見やった農夫は、四人姉妹と男性を見て、少し気が静まったらしい。ついでに男性から事情を聞いて、自分の考えをちょっと反省したようだ。
ちなみに後から現れたのは、男性が管理を任されている二つの畑と隣り合わせの畑で働いている農夫だという。こちらは男性が管理している二つを合わせたよりもう少し広いらしい。被害範囲、一挙二倍だ。
「依頼人が増えると、お一人の費用負担は減りますよ」
「畑の作物を踏み荒らされると困るんですが、その辺は注意していただけますかね」
「収穫前にこれ以上荒らされたら、我々の食い扶持がなくなってしまう」
一人ずつ頼むより皆で頼んだほうが得と、にこやかな笑顔で契約書を出した女性係員は、二人の農夫の心配にごもっともと頷いた。
「その場合には、報酬から被害分を差っぴいていただいて結構です」
依頼人はこれで納得したが、居合わせた冒険者達は不満たらたらだったらしい。
ともかくも、『畑に現れる姿の見えないモンスターか不心得者を捕縛、または退治してほしい』、もしくは四人姉妹の言葉を借りて『おばちゃんの畑を守って! もう一回!』依頼は、冒険者募集へと話が進んだのである。
なお、この日の夕方。
「すみません。うちの姪達がまたお願いをしたそうで」
「こういう依頼の費用は、持ち主が出すのが当然でしょうから」
「まったく腹の立つ事件だ。よろしく頼みますよ」
四人姉妹の『おばちゃん』と畑の管理をしている男性が言うところの『ご主人』、ついでに隣の畑の所有者が連れ立ってやってきて、報酬を置いていった。
そして、次の日。
「なんだって、うちの畑まで。いえね、お隣が被害にあっていいとは言いません。でも夫に先立たれた老人の生活の糧にひどい話ですよ」
更にそのまた隣の畑を所有している老婦人が嘆きながら、ついでに長々と自分の人生について語りながら、依頼に加わっていった。
いつのまにやら、結構な報酬の依頼が出来上がりだ。
●リプレイ本文
八人の冒険者が問題の畑に出向いた時、畑の管理をしている男性二人の他に、四人姉妹もやってきていた。揃ってズボン姿で、冒険者を見付けて手を振っている。
「おばちゃーん、こっちー」
彼らの先頭は、植物になかなか詳しく、作物の説明をしながら歩いていたマリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)だった。たまたま十代半ばが多い今回の八人の中では、確かに年長だ。でも、おばちゃんと呼ばれるほどではない‥‥はず。
「あぁ、マリさん、そんなことをしては」
ほとんど年齢の変わらないシャルロッテ・ブルームハルト(ea5180)が、姉妹の長女の頬を引っ張っているマリを止めようとするが、ちょっと迫力に欠けている。その妹カタリナは苦笑しているだけだ。
そして年齢順にティファル・ゲフェーリッヒ(ea6109)は『そないに怒らんでも』と言い、カルゼ・アルジス(ea3856)は『その通り』と頷き、ジェイラン・マルフィー(ea3000)は連れのまくると困惑した顔を見合わせ、シャラ・アティール(ea5034)は心の中でティファルと同じことを思っていた。
「うちのおばちゃんは、二十一だもん!」
そうして、長女がしつこく主張しているのを聞いたフィーナ・ロビン(ea0918)は、頭上を飛んでいるエル・カムラス(ea1559)と。
「ま、子供の言うことですし」
「でも子供だから、しつけは大事だよ」
などと言い合い、当の長女と、ついでに次女から睨まれていた。この二人は、長女と同年代だ。
とりあえず、マリとシャルロッテと姉妹に距離をおかせて、お仕事開始である。
本日、カルゼは大モテだ。姉妹がちょろちょろと後を着いてくるからである。彼は顔立ちがまだまだ少年なので、『おじちゃん』攻撃も喰らっていない。
そうして、畑の畔や用水路脇で、五人で細かい葉っぱを摘んでいる。本当は花を使って匂袋といきたいところだが、時期的に花は集めるのが難しかったようだ。
「‥‥くっつき虫。えへへ」
双子の片方が、彼の背中にこっそり忍び寄ったつもりで、服に刺の付いた草の実をくっつけていく。これで十五個目だ。数まで分かってしまうほど、カルゼには稚拙な悪戯なのだが‥‥この『くっつき虫』も後で使えるからいいやと、彼はせっせと草の葉を摘むことに熱中していた。
その頭に、双子のもう片方が穂のついた雑草で作った冠を被せようとしている。
カルゼの貴重な犠牲を得て、残る七人は着々と見えない魔物退治の準備を進めていた。具体的な畑の状態や、被害に遭ったときの様子などを確認し、ついでなので境界に植わっている栗の木の実は落としてしまう。これは管理人達がもう熟れているからと言ってくれたからだ。林檎はもう少ししないと、甘くならないらしい。
「後で焼いて、皆さんにご馳走しましょうかね。今年は豊作で、この間も冒険者の方がいらしたので分けて差し上げたんですよ」
ラスとジェイランの栗を集める手が、ちょっと早くなったかも知れない。
それはともかく。色々確認して、彼らは自分達の予測が間違ってはいないと考えた。
「怪我をさせるより驚かせる悪戯で、野菜の飛ぶ位置がこの辺」
シャラがちょうど自分の頭の上辺りで、掌を振ってみせる。管理人達は、まるで調子を合わせたように頷いた。
「なのに姿が見えない。グレムリン?」
マリが口にした名前に、事前にあれこれと調べてきた一同が同意を示した。名前だけではなんとも分からない様子の管理人達には、白クレリックのシャルロッテが説明する。
二人は可哀想なほどに蒼くなった。
グレムリンと言うデビルは人を騙してどうこうといった悪さより、今回のような直接的な悪戯を好む。なぜかビールが大好きで、その匂いに釣られて冒険者に捕まったことが何回もあるらしい。今回フィーナとカルゼが用意したのは、発泡酒だけれど。ラスがフィーナの樽を撫で擦って、自分も飲みたそうな顔をしているのは、この場では一応無視されていた。
彼らの作戦としては、この発泡酒とこれから作成する人型の鳥避けを罠にして、グリムリンをおびき出す。そして気配を感じたら、古い小麦粉や匂袋の中身を投げ付けて目印とし、一気に退治しようと言うものだ。
問題は。小麦粉が古くて駄目になるほど放っておく店はほとんどなく、ちょっとの量しか手に入らなかったのと、匂袋の中身もこれまた心許ないことだ‥‥が。
「発泡酒なら、この間のお詫びに買っておいたから、それを使っていいぞ」
「またあんたは、自分の大酒飲みを基準にして‥‥灰でいいなら、いくらでもありますよ」
あと虫除けの草を乾燥させたものが余っていると言いながら、管理人達は必要なものを惜しげもなく出してくれた。
「なあなあ、納屋に香草もいっぱい干してあったんや。あれ、茶にするとええんやわぁ」
「叔母さんつー人の趣味らしいぜ。見応えあったじゃん、な、まくるちゃん」
その手伝いをしたティファルとジェイランの報告に、これまた何人かが過敏に反応したようだが‥‥それはそれ。
つまり彼らの依頼人は土地持ちの多分お金持ちで、目の前にいるのはその使用人さんだった。太っ腹で、大変喜ばしいことであろう。
カルゼが双子に引っ付かれながら戻ってきた。『くっつき虫』その他を虫除け草と混ぜ込んで、古い小麦粉や灰と一緒に詰めた袋を人数分用意、畑の回りに鳴子をぶら下げて、更に管理人の服を棒にまとわせて適当な帽子付きの頭をくくったところで、準備は万全‥‥
「うわ〜、お酒がぁっ」
ラスを酒樽から剥がして、これで本当に準備万端だ。
四人姉妹が一緒にいると言い出したら、とても困る。なにしろお邪魔虫だし‥‥いや、危険だから。
心の中では色々と考えていたジェイランだが、さすがに姉妹も恐い思いをする気にはならなかったようだ。
「おいらとまくるちゃんに任せておくじゃん」
ジェイランが力強く請け負ったのもあって、栗を抱えて管理人の住んでいる家に向かっていく。あれを焼いておいてくれると嬉しいなと彼が思ったのは、仕事の後にまくるに美味しいものを食べさせてあげたいからだ。決して自分の食欲ばかりのことではない。
そんな彼らが見張っているのは、姉妹の叔母の畑だった。今のところ、異常なし。
空は、時々重い雲が通る曇り空。雨は降らないが、夕暮れには降りだすだろう‥‥と、昨日から膝の痛い老婦人が言っていたらしい。
「そういうわけで、空の具合は俺の魔法じゃないんだな。下手にいじらなくてもいい天気でよかった」
その分魔力が温存できて、非常に有り難い。なんてことを言いながら、ようやく四人姉妹から離れたカルゼは、マリから灰と草の詰まった袋以外に小さな皮袋を受け取った。
「口は開かないで。ものすごい匂いがするんだから」
香草を煮出して、本当は煮出し汁をものすごく薄めて使う化粧品を、マリはちょっとだけ薄めたものを持ってきていた。これをグリムリンにぶつけてやろうと言うわけだ。
ただし、気を付けないと先に自分達の鼻が利かなくなってしまうので、取り扱いはいささか面倒。
そんな二つの袋を握り締め、彼らがいるのはジェイラン達の隣の畑だ。現在、鳴子も発泡酒も人型鳥避けも、いずれも異常なし。
一番広い畑には、シャラとフィーナが頑張っている。
「姿が見えないのって、厄介だよね」
シャラが畑に張り巡らされた鳴子を眺めつつ、えいやと伸びをした。今回の唯一のファイターである彼女は、じっとしているのが大変なのかも知れない。
その横で、フィーナは自分の作戦を検証し直していた。
「これだけこれ見よがしにしておけば、絶対にいたずらに来ると思いましたのに」
彼女は発泡酒以外にもあれこれ仕掛けておけば、怪しいと思ってもグリムリンが来るに違いないと考えていた。ついでに発泡酒を飲んでいる振りをしたら完璧と計画は良かったが、鳴子の設置に熱が入るあまりに発泡酒を置いた場所に近付けなくなっている。
シャラがいっそ踏み込んで、こちらが先に騒いでみるかと腰を上げかけたが‥‥まだ、なんら異常はない。
老婦人所有の畑は、シャルロッテとカタリナの姉妹が見張っている。当初はシャルロッテの魔法でグレムリンの居場所を探す予定だったが、デビルとアンデッドは別ものだと気付いたので、仕方なく単純な見張りに移行している。
もちろんたまには見回るが、最初にやってみたら『いかにも見回りでござい』な雰囲気になってしまったので、畑の脇に座っていた。シャルロッテが緊張のあまり、キョロキョロとしているのが今も問題だ。
対して悠然と構えたカタリナの手には、もちろん灰や小麦粉の入った袋があるが、今のところは異常なし。
ところが。
「なんや、うちらって、いかにも雇われ冒険者の見回りやわ」
これじゃ出てこないよねと、からからと笑っているティファルの頭上を、ラスが指をくわえて飛んでいる。ティファルがせっせと歩いているのに比べ、ラスの飛び方はいかにも力がない。まるで食事を抜いたかのような姿だが‥‥彼の場合、目の前の酒が飲めないのは心理的な拷問にも等しいのだ。
でも、今いいことを思いついた。
「そうか。僕があのお酒を飲めば、酒好きのグレムリンは奪いに来るはずだよね!」
「そりゃ、酒好きの言い分や‥‥って、一人で行くもんやないやろっ」
突如元気を回復したラスが、たまたま近かった一番大きな畑の酒樽に、ものすごい勢いで取り付いた。すかさず中に手を突っ込んで、両掌で掬った発泡酒を口に運ぶ。大分気が抜けていても、とにかくお酒。
「うわぁ、仕事中の一杯は格別だぁ」
演技でもなんでもない一言が出た途端に、追いかけてきたティファルと、シャラ、フィールの前で鳴子ががんがん鳴り出した。そしてその鳴子本体が引き抜かれて、ラス目掛けて飛んでいく。
それも、二カ所から。
「お酒に、土が入るー!」
ラスが叫んだ時には、他の畑にいた人々も一番大きな畑の現場を目掛けて走り寄ってきたところだった。途中、畔を蹴り崩したとか、畝を避けているうちに出遅れたとかはあったにせよ。
多数の小袋が飛んだおかげで、ラスまで粉まみれになっているが、彼は発泡酒が死守出来たので満面の笑みだった‥‥
粉入り、液体入りの小袋多数を投げ付けられて、グレムリンであろうと目されていた標的の姿がおぼろに判別されるようになった。毛だらけの体に、背中には羽根、たぶんグレムリンに間違いはないだろう。
となれば、あとは分担通り。カルゼとジェイランがアイスチャクラの呪文を唱える。それが無事発動すれば、カルゼは本人が、ジェイランのはまくるが受け取って、攻撃に入る。
その頃には拳を握り締めて気合い入れ中のシャルロッテの前で、シャラがカタリナにオーラパワーを掛けてもらって、ちゃきちゃきとグレムリンを殴ったり斬ったりしに行く。頃合を見て、ホーリーが発動予定だ。
バード仲間のマリとラスが、早くもムーンアローを飛ばせているところを、フィーナはメロディーで応援するかどうか考えている。なにかこう、この二人の攻撃の迫力には、フィーナは付いていけなかった。
まあお酒のためだし、冒険者と『あれ』が間違われると腹も立つし‥‥マリは他にも理由があるかも知れないし。
畑の中、しかも鳴子を張ったロープが畝の間を巡っている足場の悪さ、ついでにグレムリンは飛ぶので始末が悪いなどなど、様々に悪条件はあったのだが、魔法の使い手が片手の指では足りないくらいいるとあれば、冒険者に有利に戦いは進んだ。
必ず当たるムーンアロー、その直後に襲ってくるアイスチャクラ、地面すれすれに落ちると容赦なく殴られ、しまいには‥‥
「ほんまの天の裁きや〜」
ティファルの高らかな宣言の後、上空から雷が落ち、それとは別にシャルロッテの白魔法も発動した。
こうして、依頼は完了する。
とはいえ。
「怪我してるー!」
首尾よくデビル退治が出来たと知らせに行ったラスが、二の腕を指して言われたとか、よく見たら一人幾つかは痣や擦り傷があったとか、たまには流血している場合もなどと驚いたこともあるのだが、仮にもデビルを相手でそれで済むなら良かったとシャルロッテが胸をなで下ろしている。グレムリンだって、何も一方的に殴られていたわけではないのだ、多分。かなり混乱していたのは間違いなかろうが。
そして、お楽しみの時間!
ラスは余った発泡酒で溺れそう。幸せ。
ジェイランとまくるは焼き栗をどちらが剥くかで、肩を寄せあっている。二人の世界。
ティファルは納屋の香草から好きなのを選ばせてもらい、お茶で和んでいる。
カルゼは右手でお茶を飲み、左手で焼き栗を剥く器用さで、また双子を虜にしている。
シャラも両手それぞれで栗が剥けると実践したら、次女に山盛りの栗を差し出された。
フィーナは、その山盛りの栗を奪って、カルゼの前に出し、自分も剥いてもらっている。
そうして。
「そういうことを言うのは、どの口かしらねぇ?」
「あぁ、マリさん、そんなことをしては」
朝方も見たような光景が、マリと姉妹の長女、それからシャルロッテの間で繰り広げられている。妹は、やっぱり苦笑するのみ。
だけど全員、美味しい栗とパン、野菜の煮込みを食べてから、お腹一杯でパリに戻ったのは一緒。
一人だけ酔っ払いがいたけれど。