素敵?なお茶会への招待〜バレンタインデー

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:02月09日〜02月12日

リプレイ公開日:2007年02月19日

●オープニング

 一月中旬から、ラングドック家ではある騒ぎが起きていた。
「ルイザは何が欲しい?」
「自分で作る」
「あら。じゃあシルヴィは?」
「今の季節の服はある」
「アンナは?」
「ルイザお姉ちゃんに作ってもらう」
「マリアは?」
「布地買って」
 冒険者ギルドでお茶会ウィザードと呼ばれるアデラが、四人の姪に『バレンタインデーに欲しい服』を尋ねているのだ。ちなみに条件は『アデラが作る』である。
 そして、姪達には徹底して『作らなくていい』と断言されていた。なにしろアデラはこれでもかというくらいに不器用なのだ。服なんか絶対に作れない。
 でもアデラはなぜか、今年のバレンタインデーには家族に手作りの品物を送ろうと決心してしまっていた。料理だけでありがたいよと夫のジョリオは言ったのだが、全然聞いちゃいない。彼女はかなり思い込みの強い人でもあった。
「何を作ったら喜んでもらえますかしら」
 よって、今日も今日とて冒険者ギルドに来て相談をしている。そんな相談事はギルドの仕事の範囲ではないが、彼女はついでにお茶会募集の依頼を出すので聞いてはもらえるのだ。
 当然係員の言うことは決まっている。
「今から準備するんだから、簡単なものを参加する冒険者に教えてもらえば」
 そういうわけで、今回のアデラのお茶会は『不器用さんでもバレンタインデーまでに簡単に作れる何かを準備する』ことが参加者に課されたお仕事である。

●今回の参加者

 ea3776 サラフィル・ローズィット(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea4078 サーラ・カトレア(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea9960 リュヴィア・グラナート(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb0116 アーデリカ・レイヨン(29歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ガイアス・タンベル(ea7780)/ バデル・ザラーム(ea9933)/ アニエス・グラン・クリュ(eb2949)/ 導 蛍石(eb9949

●リプレイ本文

 二月のお茶会は、大事件から始まった。
「ジョリオ兄ちゃん達がそんなに遠慮深いなんて知らなかったな。なあ、アデラ姉ちゃん、それならおいらの服を作っておくれよ」
 今回お茶会初体験のコルリス・フェネストラ(eb9459)も無事到着し、アデラがこともあろうに他人様にお茶を教えに行った席での参加者十野間空(eb2456)が同じ場にいたサーラ・カトレア(ea4078)の案内でアデラと久方振りの挨拶を済ませ、姪の四人姉妹と仲良しの娘と共にやってきて、今回は初めてみっちり三日間のお付き合いになるセレスト・グラン・クリュ(eb3537)が、まるで自分の家のように振る舞っているサラフィル・ローズィット(ea3776)、リュヴィア・グラナート(ea9960)、アーデリカ・レイヨン(eb0116)の三人に調味料などの場所を尋ねようかとしていた時だ。
 マート・セレスティア(ea3852)が言ったのである。
「おいら、着られれば色や形は気にしないよ。でも女の子の服は動きにくいし、嫌だな」
 他の七人と、手伝いに来たアニエスとガイアスとバデルはきちんと依頼内容を聞いている。『ぶきっちょアデラでも作れる、バレンタインデーの家族への贈り物を指南する』だ。服などとてもではないが布地の無駄になるだけだからと姪達がお断りした結果の依頼である。
 でも、ねだられちゃったアデラは上機嫌。三日の内には無理だが、なんとか頑張って来月くらいまでに春物をとか呟いている。寝惚けるなと我慢の限度が来て誰かが口走る前に、この家で最も裁縫技術に優れているルイザが身を乗り出した。
「男の子用の服って、まだあんまり作ったことないのよね。練習でいいなら作ってあげる」
 練習を他人に着て貰うのに偉そうな言い分だが、マーちゃんは全然気にしない。誰が作ってくれようが、着られればいいのだ。
 せっかくの要望を取られたアデラは残念そうだが、とりあえず問題は解決。
 しかし、コルリスと空も含めて全員が思った。
 それならせめて布地の代金は出しなさい、と。マーちゃんはすでに昨夜の残りらしいシチューを並々と盛った皿にパンを複数抱えている。

 マーちゃん以外の人達が考えた、アデラでも作れそうな品物は幾つかあった。
 コルリスは木工が得意なので、簡単な細工物。大半は彼女が作って、仕上げの部分をアデラに任せるつもりだ。
 空は帆布に草花や端布を貼り付けて、春の光景を描く。あまり絵心がなくても、形になっているものを張るだけならそれほど難しいことはないはずだ。四葉のクローバーを誰かが作っておいて、入れればきっと見た目もよい。
 リュヴィア、サラ、セレスト、アーデリカは、『外に持ち出さない。人目に触れない』を合言葉に、香り袋や小物入れなどを勧めている。これならまっすぐ縫うだけだし、アデラの好きな香草も役に立つし、時間も掛からない。多分、きっと。
「アデラさんはどれがいいですか?」
 幾つか案が出たので、バレンタインデー用には何か一つに絞りましょうねと、アデラの不器用さを知らないわけではないサーラが尋ねた。他のものはまた来月以降に楽しめばいいと思っていたのだが、アデラはサーラとは考え方が異なっているようだ。
「一つをどのくらいの速さで仕上げたら、全部出来ますかしら」
 それは考え方が違うと、サーラでなくても思う。娘にくどいほどに念押しされたセレストと、まるっきり初対面だが普通に人を見る目のあるコルリスも、一度会った時に色々感じた記憶がある空も、ここで明確に理解した。
 これは気を付けないと駄目だ、と。
 あちこち手をつけた挙げ句に、一つも完成しない事態になることだけは、今皆が理解したのできっと避けられるだろう。
 とりあえず事前準備が必要な空とコルリスの案は翌日以降にすることにして、アデラはまず複数の先生のもとでお裁縫の時間となったのである。

 材料は、手回しのよいアーデリカが丈夫で見栄えも良い布に、それに適した針と糸を準備してくれていた。セレストはぶきっちょでも作業が進むように、小物入れや香り袋用に布地を裁断する目安になる型枠を持参している。アデラの隣には、最近生活全般のお師匠になりそうなサラがしっかりと座っていた。
「それじゃあ、作り方を説明するわよ? いい?」
 身を乗り出して聞くつもり満々のアデラに、セレストが方枠を使った布の裁ち方に始まり、袋状に縫う方法を細かく分かりやすく伝授している。サラも隣で頷いていた。その通りにやれば、何の問題もなく袋が縫えるはずだ。
 けれども。
 リュヴィアと空が、持参のものと家に保存してある乾燥植物から香り袋や飾りに適したものを選り分け、コルリスとサーラが女の子達と中に詰める木屑をまとめたり、皆で林檎の皮を刻んで干したりしている間に響いていたのは悲鳴に近い声だった。
「アデラ様、それでは縫い代が足りませんわ」
「どうしてそこで、刃物がぶれるの?」
 ちゃんと話を聞いていたはずではなかったのかと、セレストとサラが思って当然。アデラは真剣な顔で布地を切るのだが、まずまっすぐ裁てない。なぜか縫い代がたくさんあったり少なかったりしている。本人はものすごく慎重に切っているつもりらしいが、それはどうみても典型的ぶきっちょの所業。
「まっすぐですわね、まっすぐ」
 挙げ句に切り落とした布地を綺麗に四角にするため、更に小さく裁とうとする。それでは縫うところそのものがなくなってしまうと、サラとセレストに両手を押さえられた。まるで悪事を働いて取り押さえられた人のようである。
 仕方がないので、サラが布地を押さえている間に、セレストが待ち針を打つ場所を細かく指定して、アデラがあっちこっちの方向に針先が向いた状態でなんとかかんとか仕事をやり遂げてから、サラが改めて縫うところに色留めしないと落ちる染料で線を引いてやる。後はこの線に沿って、針を進めるだけだ。
 そのはずが。
「針さんのご機嫌が悪いんですのー」
 一針刺しては指を突付き、もう一針刺しては布地がずれて、仕事はまったくはかどらない。もちろんサラは覚えている、アデラが以前の編み物でも似たようなことを言っていたことを。
 いささか呆然としているセレストの横から様子を見たルイザが、『全然覚えないのね』と言っていたから、日頃やらないことは相変わらず身に付いていないようだ。
 その頃、食欲魔人マーちゃんは、台所で精神的に大変疲れる戦いを行なっている人々のためにお茶と軽食の準備に余念がないアーデリカと、兎肉攻防戦を繰り広げていた。彼が負けるのは、アーデリカがまずは彼のために咀嚼に時間が掛かって腹持ちもいいものを作りためておいたからだ。
「さ、次はこれを食べてもよろしいですよ。皆さんにもお茶の準備が出来ましたと知らせてあげてくださいませんか」
 子守の腕も相当のアーデリカ、対処方法さえ分かっていれば、マーちゃんにだって言うことを聞かせられる。お茶会で使うためのいい材料は隠しておいて、早く食べないと危険なものだけ使った料理なのは内緒だ。
 アデラの指先負傷度合いがひどいので、アーデリカの淹れたお茶で一服する。その後にはサラとセレストは女の子達に手伝わせて料理を始めた。ちょっと気分転換が必要だろう。
 この時は交代してアーデリカがアデラの様子を見ているが‥‥大まかに寸法を予想して注文した服地は、ルイザに渡そうと決めていただろう。せっかく彼女が家人の好みを検討して用意した布地が、十二分にあったはずなのに妙に小さくなっているからだ。
 そんな様子に、目をぱちくりとさせている空とコルリスに、リュヴィアは平然と。
「大事な家族のために手作りをしようという志が美しいのだ。それを手伝う依頼である以上、なんとかしてあげるのが我々の役目だろう?」
 そう言ってのけたが、普通はなかなか言えるものではない。
 結局サーラも含めた四人で、対応策を吟味することになった。
 一日目のアデラの作った品物。匂い袋一つ。結局まともな四角形にすらならず、歪な姿のそれは、ジョリオ用に決定した。リュヴィアが彼ならアデラの手作りは何でも喜ぶはずだと断言したからだ。ジョリオ当人は、この日は仕事で留守だった。

 二日目。
 普段ならこの日にお茶会なのだが、とてもそれどころではないので相変わらずアデラがぶきっちょ振りを披露しまくっている。
 前日の相談で、コルリスと空は手を組むことにしていた。コルリスが額縁を作り、空がその中に飾る品物で手作りが必要なものを準備する。実際には他の人にも助けてもらうのだが、昨日無駄に切られた布地を集めたり、色糸を拾ったりするのは彼の役目だ。
「お部屋に飾れるような額縁を作りますから、最後に色を塗ってくださいませんか」
「染料は用意しましたから。こちらの幸運のしるしも色々検討してみたんです」
 コルリスは、世話焼きだった。昨日も女の子達の要望に応えて、小物作りの実演をしてあげていたくらいだ。当然出来上がった品物は、全部あげてしまっている。
 空も他人の分まで後始末に奔走する性格だった。挙げ句にアデラにちょっと勢いが似ているような気がしなくもない女性と恋仲で、彼女がお茶を教えてもらった恩があるから一生懸命。
 そんな二人に、アデラが喜ぶならたいていなんでもできることはやってあげるリュヴィアと、アデラが全部なんとかやり遂げるんだと暴走しそう、かつ木工用端物なんか持たせたら流血の大惨事と心配なサーラが加わって、『アデラにも出来て、満足させられるもの』を考え抜いたのだ。かなり簡単、でも形はそれなりのものが多分出来る、はず。
 リュヴィアは本日、アデラと一緒になって裁縫をしているので、かえって無駄にやる気を煽り立てているような気もするが。
 ともかくコルリスが懸命に作った額縁は、四葉のクローバーの浮彫を四隅に散らしている。これは空の考えたことで、額縁の中の出来栄えが多少あれでも、幸運の印が入っていれば形になるからだ。これで贈る相手の幸せを祈る、バレンタインデーにふさわしいものにもなっただろう。
 ちなみにアデラがやるのは、額縁の四葉のクローバーの色塗りと、その中に色味が良い植物や糸、端布を張って模様を描くことだ。絵心のある人がいなくても、そのくらいは皆も考えれば難しくないだろう。アデラだって、ただ張るくらいはなんとか‥‥
 そう思ったのだが。
 この日も台所と居間を行き来しながら、せっせとアデラの裁縫の様子を見ていたサラとアーデリカとセレストは、小麦粉を煮て作った糊を眺めて思っていた。使いすぎ、と。
「アデラ殿、そこまで張ったのなら、いっそ全面色糸を張ってみるのはどうだ? そのほうが見た目も楽しいと思うが」
「‥‥それがよろしいかもしれません」
「色が塗りなおせるように、一度塗りつぶさせてください」
 リュヴィアは相変わらず楽しそうだが、空とコルリスは顔が引きつっていた。彼らの心中に、『慣れないことはするものではない』との思いが湧き起こっても不思議ではないし、それは大抵の人に共通したのでセレストが尋ねてみたところ。
「お義母様が、バレンタインデーには手作りが一番ですよって。ああ、いつもおうちのことも手伝ってくださるから、お義母様にも何か作って贈らなくては」
 サラとリュヴィアとアーデリカが三者三様に、この日は在宅していたジョリオから聞き出したところ、彼の母親は手仕事大好き主婦で、息子も嫁も仕事で日により昼夜関係なく留守にする家を心配してちょくちょくやってくるとか。兎の皮も剥いでくれる、たいした人である。
 その姑に刺激されて、アデラは手作りに目覚めたらしい。でもそんな主婦に贈れる物など、当然作れてはいないわけで。
「おばちゃん、心配しなくてもおばあちゃんにはあたしがエプロンを作るから」
「あたしも、これに色塗って、可愛いの作って渡してあげよ」
「じゃ、あたし達は香り袋ー」
「中身が違うのにしようね」
 姪の四人が、アデラが全然作れない品物を手に手に、贈り物の割り振りを決定している。確かに彼女達のほうが、よほど見所はあるのだが‥‥それでもアデラは同居の家族には贈り物をあげたいわけで。
「お片付けの心配もいりませんので、ジョリオ様とご一緒に作られたらいかがでしょう。張るのはジョリオ様で、アデラ様は考える役では?」
 手際よく蔓を使って籠を編んでいたアーデリカが提案し、少なくともアデラよりは絵心のあるジョリオのおかげで、額縁は何度も塗り直さずに済んだし、集めた色糸がなくならないうちになんとか贈り物の体裁が整いそうである。
 ちなみにアデラは籠も作りたくなったようだが、当然サラとセレストに止められている。なにしろ香り袋に限定して作った袋が、まだ三つしか出来ていないのだ。後二つ、なんとしても作ってもらわないと、姪四人の間で押し付け合いになるのが目に浮かぶ。取り合いではないのが、なんともはや。
 そうして、この日のマーちゃんは干し魚を香ばしく焼いたものに、内臓肉と根菜の煮込み、当然山ほどのパンに林檎のお菓子などを食べながら、明日は兎が二羽も食べられるとうっとりしていた。勿論兎は、彼一人のために用意されたものではない。
 そんな様子を、空とコルリスが物珍しげに眺めていた。

 お茶会の料理は、兎一羽に刻んだ香草をまぶし、かまどでじっくり焼いたもの。もう一羽は細かく叩いて香草を混ぜ込んでパイに仕上げた。ソースは豆のものと、木苺を蜂蜜で漬けたものを使った二種類。豆や根菜を煮たり蒸したりして付け合せ、卵と葉物野菜の料理に、パンもどっさり数種類、他にもこまごまと料理が並び、お菓子もたっぷり用意されているのが匂いで分かる。
 このために二日も我慢していたんだと言いたげに、でも何にも我慢していたように見えないマーちゃんが、両手にナイフを握り締めて、兎に一番近いところに陣取った。両脇を空とジョリオで固めさせられたが、彼らには迷惑なことだろう。間違いなく蹴られる。とはいえ、空がそれを体験するのはこれからだ。
 セレストやサラが腕を振るった料理の解説を始める前に、一人食べ始めてしまったが、アーデリカがその前に山程焼いた肉を積んだ。たぶん干し肉を戻して味付けしたもの。おかげで、どんな料理があるのか、コルリスにもちゃんと分かった。食べたいものは早く取らないと駄目だと教えてくれたのは、マーちゃん達の正面に陣取る姪っ子達だ。コルリスも何か演奏でもして、お茶会らしい彩り‥‥は、十分おなかが満足してからのほうがいいだろう。演奏があれば、サーラが踊ってくれるだろうが。
 お茶の葉はリュヴィアが用意していたが、淹れるのはやっぱりアデラで。
 この三日間で一応の目的が果たせる数の品物を作り上げることはしたアデラは、おかげで妙に浮かれていて。
「皆さん、本当に、大変ですね‥‥」
 空やセレストは賢明にも口を噤んだが、コルリスが思わずジョリオ達に涙目で話しかけるような代物が出てきてしまった。
 他の人々は慣れているので、何も言わない。