●リプレイ本文
●じゅんびをしましょう!
盗賊団に襲われている村にやってきた冒険者の人達は、全部で五人でした。そのうち三人は女の人。
神聖騎士のカーシャ・ライヴェン(eb5662)さんはなかなか頼りになりそうですが、でも剣より弓が得意だそうです。
白クレリックのマイア・アルバトフ(eb8120)さんは頑張る気持ちに満ち満ちていますが、なにしろクレリックさんです。
ウィザードのマリエッタ・ミモザ(ec1110)さんは杖を持っていますが、これは盗賊団の人を叩くのではなくて、重いものを担いで歩くための必需品です。
村の皆さん、なんとなく心配そう。
でも日本刀を持っていて、剣術教師だという阿倍野貫一(ec1071)さんを見て、少し安心したみたいです。
それにハーフエルフで黒クレリックのヴァイナ・レヴミール(eb0826)はきっとすごい魔法を使うに違いないと考えました。
だけどこの二人だって、峰打ちだけで相手が改心するような素敵な技や、当てると大いなる父への信仰心が増えに増えまくるような魔法は使えません。そんなことを期待されると困るのですが、村の人達は考えています。
『五人だけで悪い奴らが倒せるくらいに、この人達は強いんだ!』
さあ、お仕事しましょう。
まずはカーシャさんが村の皆さんにお願いします。
「今回は人手も少なく、分の悪い賭けとなってしまいますが」
村の皆さんは思います。大丈夫、だってすっごい冒険者さん達がいるから。
「盗賊団にわざと荷物を盗ませようかと思います」
あれれ?
「申し訳ありませんが、お許しください」
でも本当に盗まれちゃったり、倉庫が壊されたりすると、村の皆さんはとっても困ります。特に食べるものが少なくなっていて、色々心細いんだけど‥‥
そんな皆さんのために、マリエッタさんと阿倍野さんとマイアさんが差し入れをしました。保存食や発泡酒です。これをわざと重くした袋に詰めて、盗賊団の動きを鈍らせようという作戦です。
「そんな風にして、相手が動きにくいようにしてもいいかな?」
マイアさんが教会の人にしてはざっくばらんにお話しすると、村の皆さんは納得しました。白の神聖騎士のカーシャさんも頑張ってくれると言いましたし、なんたって黒クレリックのヴァイナさんが見張りのお手伝いをしようとした村の人に言ったのです。
「我々も魔法を使う。相手を間違えることはないが、巻き込むわけにはいかないので大丈夫だ」
このかっこいい台詞。よほどの冒険者さんでないと言えないに決まっています。村の皆さんは大喜び、若い娘さん達は浮かれていますが、ここで一つ問題が。
「ええと、この辺をもうちょっとこうしたらなんとかなるでしょうか」
「マリエッタ殿、それはどうもおかしいだよ」
盗賊に盗ませる袋を重くしようとしているマリエッタさんと阿倍野さんが、村の皆さんに借りた古道具などを前に困っています。重くするなら金属が一番と、色々工夫しているのですが‥‥専門のお勉強をしたわけではないのと、こんなこと滅多にしないのとで思った通りにならないのです。いかにも金物が入っている袋では、盗賊団も盗んでくれません。
マイアさんも入ってあれこれ試していたのですが、どうにも金属ではうまくいかないので、あんまりごつごつしていない石で代用することにしたのでした。鍛冶師の人がいたら手伝ってくれたでしょうけれど、時々隣村から来てくれるだけなのだそうです。
その間に、ヴァイナさんとカーシャさんは倉庫の周りを見て回って、皆で隠れるのによさそうな場所と魔法を使ったら危ないところを確かめていました。二人ともハーフエルフさんでカーシャさんは若い女の人、ヴァイナさんは独身らしいので、案内の人はどきどきしていましたが‥‥実はカーシャさん、お若くてもお母さんです。勿論ヴァイナさんだって、お見合いに来ているのではありません。
一生懸命お仕事している姿に、また村の皆さんはしびれてしまうのでした。冒険者の人って、真面目で素敵。やっぱりいつも人助けをしている人達は違います。
ところで、マリエッタさんが大きな氷が欲しいって言っていたけど、いったい何に使うのでしょう? 村の皆さん、不思議に思いながら、大きなつららをいっぱい切ってくれました。
さあ、準備は完了です!
●どろぼうがきたっ!
誰もが知っていることですが、ロシアの冬は寒いのです。それはもうとっても寒い。もう三月になったからって、安心してはいけません。なにしろロシアの北の方では、雲が凍って七色に光るって言うんですからただ事ではありません。
ちなみに、本当に雲が凍っているのかは分かりませんが、村の皆さんは信じているようです。昼間にマリエッタさんと阿倍野さんに、楽しそうに教えてくれました。このお二人はロシアの生まれではないので、教え甲斐があるのです。お二人が、言われたことをどこまで信じたのかは謎ではあります。
それはさておき、そんな寒い寒い冬の夜。五人の冒険者さんは、分担して共同倉庫の見張りをしていました。盗賊団は、そろそろやってくる頃合なのです。うたた寝なんてもってのほか。死んでしまいます。
寒くて寒くて、冒険者さん達が『早く来ないかな』と思っていると‥‥
来ました、怪しい人影! 村の皆さんには絶対に出てこないようにって言ってありますから、あれは盗賊団に違いありません。だってほら、共同倉庫に入っていきました。
「まったく、何時の世も盗賊って言うのは性質が悪いものね」
堂々と倉庫に入っていくのを見て、マイアさんがものすご〜く怒っています。なにか『一発ぶん殴ってやればいいのよ』って聞こえましたが、マイアさんは白クレリック。きっと他の人達の空耳に違いありません。多分、きっと、そうだといいなぁ。
さてさて、盗賊団は倉庫から、いかにも重そうな袋を手に出てきました。お酒の樽を抱えている人もいます。どちらもあんまり重たいので、足元に用心しながら出てきました。って、まるで周りを警戒していないなんて、盗賊団のくせに生意気ではないですか。
そんなのは。
「たとえ風の精霊様が許しても、この美女仮面が許しません!」
カーシャさん、ではなくて正義の美女仮面クラースヌゥィさんの叫びに、盗賊団の一人がつるりん。びっくりして転んでしまいました。他の盗賊の人も、目をぱちくり。だって、クラースヌゥィさん、いつの間にか顔の上半分を隠すような仮面をつけています。それでは美人かどうかは、盗賊団の皆さんは分からないことでしょう。分からなくっても、勿論かまいやしないのですけれどね。
でも、いち早くびっくりから離脱した、一人だけ荷物を持っていない人がむにゃむにゃと何かを唱え始めました。この人がきっと敵のウィザードです。街の皆さん相手の冒険譚では、ものすごく強くて、卑怯で、悪いことばっかりしていて、たまに美形だったりしますが、今回の敵ウィザードはあんまり強くなさそうです。なんだか、ひょろひょろっとしていますし。
なにより、一瞬で魔法が唱えられない人は、ヴァイナさんの敵ではありません。ヴァイナさんは、むにゃむにゃ唱えなくても魔法が使えるからです。
今も、盗賊の持っている大きな剣を壊してやろうと間合いを計っていたのですが、敵のウィザードが魔法を使いそうなのでそちらを狙うことにしました。使う魔法はディストロイです。これは、当たるととっても痛い魔法なのでした。
それはもう、思わず吹っ飛んでしまうくらいに。
「痛いかい? ま、痛くしたんだけどね‥‥?」
なんだかヴァイナさんのほうが悪い人みたいに見える気がしますが、それは間違いに違いありません。そう、世の中にはこういう正義の味方もいるのです。街の娯楽演劇の、陰のある美形主人公とかそういう人は、きっと今のヴァイナさんみたいな人なのでしょう。
そうして、盗賊団の人達がびっくり、あたふたしていると、今度は上から何かが降ってきました。冬だから雪? いいえ、つららではありませんか。
「卑怯者なんかに、負けるものですか!」
確かにマリエッタさん、卑怯な盗賊には負けていません。でも『ババ・ヤガーの空飛ぶ木臼』に乗って、つららを何本を抱えたマリエッタさんは、なんだかふらふらしています。もしかすると寒かったり、つららが重かったり、落ちないようにするのが大変だったりするのでしょうか‥‥?
いいえ、冒険者の人達はすっごく強いのです。まさか寒いとか、重いとか、今にも落ちそうなんてことがあるはずはありません。ふらふらしているように見えるのは、きっと魔法に当たらないための用心です。マリエッタさんはウィザード、魔法にも詳しいのでしょう。
この間にも、つららがどんどん落ちてきて、地面に当たって砕けるとばらばらと周りに欠片が飛び散ります。欠片に当たると痛いのです。ましてやつららがぐさっと当たってしまったら‥‥それに世にも恐ろしいことになるでしょう。盗賊団の人達も、荷物を放り出して右に左に逃げ回っています。
だけど、この攻撃の間は冒険者の人達もなかなか近付けません。だって当たったら怪我をしてしまいます。マイアさんが治してくれることになっていますが、盗賊団の人達をどうにかしないうちに怪我をしたら、色々と大変になってしまうでしょう。
そうはいっても、もちろん冒険者の人達ものんびり眺めていたわけではありません。阿倍野さんは盗賊団の人達が逃げ回っている間に、すぐ近くまで行っていました。つららがなくなって、上からの攻撃がなくなった途端に、日本刀を抜いてずんばらりん。
「痛い思いをして頂くでがんす!」
だって、村の皆さんにひどいことをした盗賊団の人達です。手加減している場合ではありません。あちこち怪我をしていても、中には武器を振り回す盗賊だっているのです。
負けちゃいられません。ウィザードの人を峰打ち、飛び掛ってきた盗賊を肘打ち、目の前に転がり出てきた盗賊は蹴飛ばし、大活躍です。続いて、よろよろやってきた盗賊も、吹っ飛んできた盗賊も、次々と蹴ったり殴ったり、武器を取り上げたり壊したり‥‥
盗賊団の人達も、一生懸命攻撃しようとするのですが、なかなかうまく行きません。ウィザードの人も魔法がちゃんと発動しないみたいです。
それはやっぱり、
「天使の弓矢で、あなたのハートを狙い撃ち!」
カーシャさん、ではなくて美女仮面さんも、ここぞとばかりに弓で盗賊団の人の手足をぷすぷす矢で刺しまくったり、
「邪魔だね、少し黙れよ」
ヴァイナさんが、普段よりうんと怖いけど、ちょっとかっこいい感じで敵のウィザードにもう一度魔法を食らわせたり、
「狙うなら、私を狙いなさい!」
マリエッタさんが木臼から飛び降りてきて、杖を振り回しながら叫んだので、そちらに盗賊の一人が向かったところ、
「問題ないわよ。我らの母だって許してくれるわ」
マイアさんがホーリーの魔法でぷちっと痛くして、その前に張っておいたホーリーフィールドの中で拳を握ったり、
「動かない方が得でがんす」
そんなことをしていたので、阿倍野さんの前に来る前に、盗賊団の何人かはあちこち痛くしていたからです。特にウィザードの人。
ここで阿倍野さんにこう言われたら、盗賊団の人達もすっかりおとなしくなってしまったのでした。
さあ、縛り上げてしまいましょう!
●あとしまつをしましょう
村を襲った盗賊団は、無事に全員捕まりました。後はお役人につき出して、牢屋に入れてもらうのです。
その前に、冒険者の人達は阿倍野さんの提案で、盗賊団に白状させたアジトに行って、そこにあったものを全部持って帰ってきました。ほとんど村から盗まれたものですから、持ち主に返すのです。
最初は盗賊団の人達もアジトの場所は言いたくなさそうでしたが、マリエッタさんのテキカクな観察と、マイアさんのヤサシイ説得と、カーシャさんのステキなしつけのおかげで、いつの間にか素直になったのでした。
それを見て、ヴァイナさんは大いなる父にお祈りし、阿倍野さんは合掌し、村の皆さんはびっくりしたのですが、荷物が戻ってきたので、みんな揃って幸せ気分です。盗賊団の人達以外。
本当は戻ってきた荷物は、取られた荷物の半分もないのですが、村の皆さんは大喜びで冒険者の人達に色々美味しいものを作ってくれました。保存食も、他のものと混ぜてあったかくして食べると美味しいのです。
なにより、村の皆さんが嬉しそうなのがたまりません。いいことをするって、なんて気持ちがよいのでしょう。
そうして、五人の冒険者は、村の皆さんに見送られて、楽しい気分でキエフに帰ったのでした。
めでたし、めでたし。