ラージビー捜索

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 87 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月19日〜04月25日

リプレイ公開日:2007年04月28日

●オープニング

 その日、シフールの家族が冒険者ギルドに飛び込んできた。
 しばらくすごい勢いで叫んでいたが、係員が時間を掛けて聞き出したところによると、
「でっかい蜂!」
 これに襲われたらしい。
 多分ラージビーだろうと、日々様々なモンスターの情報を取り扱う係員は思った。

 ただ、彼らの話で問題なのは。
「ラージビーなのは間違いないが、やたらとでかいようなことを言うし、巣は見てないのに大量に発生していたと断言するんだな」
 ラージビーとは、要するに巨大なスズメバチだ。肉食、毒あり、かなり危険。大きさは成虫で五十センチくらい。
 けれど『でっかい蜂』に襲われたシフールの家族は、ラージビーが彼らの体長をはるかに超える巨大さだったと主張している。それが近くに巣がある様子もないのに、大量に飛び回っているところに行き会ってしまい、命からがら逃げ出したそうだ。
 なお、彼らはこの危難をギルドに訴えには来たが、依頼はしていない。金銭が掛かると聞いて、すぐさまパリの街の衛視に訴え先を変えたそうだ。金銭的な余裕はなかったのか、もう二度と現場は通らないので退治してもらうための負担を避けたか、最初から行き先を間違えていたか。
 そうして巡り巡って、現場近くの領主から依頼が舞い込んでいる。

 依頼内容は、ラージビーの群れの巣の場所の特定と、最低一体のラージビーの死体の確保だ。何匹倒してもらってもいいのだが、一体以上を持ち帰ること。
 もとより巨大なモンスターではあるが、さらに巨大などと言われると色々と用心しなくてはならないのが、わざわざの依頼になった理由らしい。

●今回の参加者

 eb0518 ディジェ・ヤーヤ(32歳・♀・ジプシー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1875 エイジ・シドリ(28歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5527 セレン・アークランド(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec0669 国乃木 めい(62歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 ec0938 レヨン・ジュイエ(29歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ec1713 リスティア・バルテス(31歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1850 リンカ・ティニーブルー(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ヘルヴォール・ルディア(ea0828)/ ファル・ディア(ea7933)/ 玄間 北斗(eb2905

●リプレイ本文

 ラージビーには、黒っぽいものを良く襲う傾向があるらしい。当然自分達に向かってくるものには、たいそう攻撃的だ。
 そういう情報とおおまかな対処法を国乃木めい(ec0669)の見送りに来た玄間から仕入れた一行は、ディジェ・ヤーヤ(eb0518)の友人のヘルヴォールとファルからも幾つか知恵を借り、祝福を受けてパリを出発した。
 そうして各自の馬とセブンリーグブーツをやりくりして速度を合わせ、夕方には問題の泉から最も近い村まで到着している。ここから泉までは歩いて三時間程度。街道から少し外れていて、一度街道に戻って進み、途中でまたそれると問題の泉がある場所に着く。そんな場所なので旅人が通ることは稀だが、村人はたいした警戒もせずに一行を迎えてくれた。
 実はディジェにセレン・アークランド(eb5527)、リスティア・バルテス(ec1713)、リンカ・ティニーブルー(ec1850)と半数がハーフエルフだと分かれば村人の対応も違ったろうが、村人との話を請け負ったのがめいとレヨン・ジュイエ(ec0938)だったので、一晩村の敷地にテントを張ることと、彼らが目的を済ませてくるまでに馬を預かってもらう契約はすんなりとまとまった。
 この際に、村に対して馬の世話代を保存食や日用品で支払ったのだが、それには誰も文句はなかった。予想外の出費に懐が痛むことがあったとしても、馬を心配しつつのラージビー探しよりはよほどましだろう。
 更にエイジ・シドリ(eb1875)とライラ・マグニフィセント(eb9243)、リンカが中心になって、村人達から泉とその周辺、特に陥没した穴の話を聞くことも出来た。近くに村があると確かめて、道を急いできた甲斐があったというものである。地図などろくに見たこともない村人達の、口伝えでの森の様子と目印を聞き取って、自分達が分かるように記録をしたためるのはなかなか骨が折れる作業ではあったけれど。
 村人によると、陥没箇所は全部で六箇所。うち四つは穴の回りも少しばかり開けているので問題ないが、残る二箇所は縁まで潅木が茂っており、どこまでが安全かとても分かりにくい。村の猟師も、拾い物に出向く村人も、その穴のあたりには近付かないようにしているそうだ。
 ただし、その危険な穴は泉に近い二つである。他の穴にも近付かないようにしているが、度胸試しで一つを覗いた事のある若者達によれば、ほとんどまっすぐに二十メートルは落ち窪んでいるとか。誰も下りたことはないので詳細は不明ながら、六つの穴全てが円形に近い形でくぼんでいて、たいして広くない地域にあるので、昔から地下で繋がっているとは言われているそうだ。誰も確認していない、単なる噂だが。
 そう聞いただけで、レヨンとめいが表情を曇らせた。他にも何人か、難題になりそうだと思っていそうな顔がちらほらと。蜂の巣の場所を確認するのも依頼のうちだが、それらの穴の中だと確かめるのに多大な危険を伴うのが理由の一つ。
 もう一つは、地下に巣があるのなら、巨大な蜂というのが単なるラージビーではない可能性を指摘する意見が、彼らの中には幾つも出ていたことだ。流石に二月の騒動のような多数の虫を、今回の一行だけでどうにかすることは困難以前に絶対無理である。
 これは相当大変だと気を引き締めて、問題の泉近くへと彼らが出立したのは翌日の午前のことだった。ラージビー捕獲のために火を使うことを事前に断ったり、リンカが網を用意するのに少しばかり時間を取ったからだが、それでも徒歩で来ればちょうど現地に到着する頃合と重なるので、時間を有効に使ったことになるだろう。

 問題の泉は、何事もなく、季節がよければここで野宿しても苦にならないだろうという場所だった。レンジャーのディジェ、エイジ、リンカの三人が調べてみても、ここ数日に大型動物が現れた気配もない。
 代わりに、この中ではモンスターに詳しいセレンを加えて確認しても、
「動物の気配がないな」
「ないわね」
「まったくだ」
「‥‥確かに」
「そんなに念入りに言ってくれなくてもいいわよ」
 ティアがやれやれといった調子で口にした通りに、『水場なのに動物の気配が途絶えている』と四人が念入りに請け負ってくれた。これにはめいやレヨンもどう動くかを考えこんでしまったが、ライラはあっさりと方策を見付けていた。
「じゃこの辺に巣があるって事だから、気を付けて探せばいいわけだ。でもまずは荷物を置く場所を見つけない駄目だろうな」
 あまりに前向き、または攻めに特化した性格だが、現状では間違ってはいない。ラージビーも水場を使用する可能性を考えて、少し離れた場所に荷物を置く。テントを張るには下生えを少し刈る必要があったが、それと薪集めを手分けして早めに済ませておく。
「テントの上に更に被せて、厚みを持たせておくのはどうでしょう」
 テントは人数より少し余裕があり、夜営の間も見張りがいることを考慮して、余った分で幕を二重にすることにした。レヨンがテントに余裕があるのを見て、思い付いたようだ。大きな蜂ならば、密な茂みの下に潜り込めば追っては来れないだろうとも考えている。
 ただし、セレンによると蜂により毒針を刺す以外にも毒液を辺りに噴霧する場合があるので、毛布を被ったほうがより適当かもしれない。いずれにせよ、それほどの接近を許さないのが一番だ。
「寄せ餌になるものがいればよかったのですが、泉の周囲であの様子ですから、まずは巣を突き止めるのが先決でしょう」
「そもそも蜂ってのは、どこに巣をかけるんだ。種類によるのか? 流石に大きさからして、そこらの木の上にってのは難しそうだがな」
 エイジが気にするのももっともで、体長五十センチ以上の蜂が木の上に土をこねた巣を掛けるとは考えにくい。うろも難しいだろう。
 となると、セレンの返答を待つまでもなく。
「そりゃあやっぱり、いかにも怪しい陥没の穴とやらじゃないのか?」
 ライラが皆が思っていることを代弁した。
「どうせ場所がはっきりしないと危ないし、調べにいくのは何人にする?」
 リンカもさっそく動き出そうとするが、今回の面子は離れるとあいにく相互の連絡手段がない。緊急事態に対処可能というには、編成もいささか不安があるところだ。
 結局、捜索も兼ねて四人ずつが付かず離れずの距離を保って、教えられた目印を探しながら森を歩くことにした。これまでの行程からして、この日は一番近い穴を確認して終わりというところだったろうが‥‥
 事はそれだけでは済まなかった。

 行動を共にして一日半程度。ディジェが基本的に楽天家で、ハーフエルフの特性で男性を近付けないが、同性にはなかなか目配りの利く性格なのは、全員が知っていた。
 その彼女が、これほど表情を曇らせて、困惑し、今にも帰ろうと言い出しそうな様子になったのは、何人かには予想外も甚だしい。
「これはもう虫って呼んだら駄目よ。刺されたら、確実に死ぬわね」
 虫じゃ話も通じないし、話が通じる相手が出てきたらかえって厄介。でもいる気配濃厚。
 ディジェがそう断言したのは、一つ目の穴を見付けて、リンカが近付いた際に羽音らしいものを聞き付けたことに始まる。目的地がここで、蜂が出入りするのが確認されれば、通り道にしていそうなあたりに罠を仕掛けることも出来て、依頼も早くに果たせるかもしれない。そんな淡い期待があったのだが、元々目が利いて、テレスコープを使えるディジェなら内部が覗けはしないかと夕暮れ間近の森を這い進んだ彼女は、護衛で付き添ったライラの腕に爪を立て兼ねない勢いで戻ってきていた。
 そのライラも、格別耳が優れているわけではないのに羽音はしっかりと聞き取っている。
「二月の巨大昆虫の再来かしらね。正面切って相手取るのは、命取りだわ」
「馬は置いてきてよかったね。鳴き声に引き寄せられたりしたら大変だったよ」
 半ばこういう事態も予想していためいが肝の据わった態度でいるのに対して、ティアは両手をこすり合わせつつ報告を聞いている。
 穴の中に、巨大な蜂が幼虫や蛹込みでいる。それも蛹の幾つかは穴の壁部分に掘られた部屋にはまり込んでいて、成虫が世話をしていた。
 こんな報告を聞けば、めいを始め、それぞれに毒消しも用意しているといっても、なかなか落ち着いてはいられない。それでもエイジが周辺を調べて回ったのだが、ラージビーの食べ残しなどは見当たらなかった。そうしたものは穴の下に落ちているのか、それとも。
「食い物もいらないやばい生き物かどうかは、捕まえてみれば分かるか。下手にいぶして刺激するのは危険な気がするが、どうだ?」
 エイジの問い掛けに、セレンが固い表情で頷いている。
 大きさも一メートル前後。通常のラージビーの倍の大きさのそれが、モンスターとして知られた存在であるとは、セレンでなくても思っていない。
 夜間に活発に稼動する蜂はいない。そういう常識が通用する相手であることを願いつつ、この日は全員テントを張った場所まで戻った。燻りだし用に集めておいた生木の枝は、テントの上の枝に絡ませて、蜂避けにしておく。
「デビルの警戒はするので、それで手が足りなければポーションを使ってね」
 めいの申し出に、礼の言葉はいずれもやれやれと言った様子だった。

 翌日。
 早朝に泉へ一メートルの蜂が水を吸いに出てきたのを確認したエイジがレヨンとセレン、リンカと共に木の間に網を巡らせていた。網で捕らえる案はリンカが道具と共に提供し、そうしたことに手馴れたエイジを手伝ってセレンとレヨンが網を張り巡らせている。リンカは見張りだ。傍らに予備の矢を背負わされた愛犬がいる。
 もとより最初からそういう方針ではあったが、彼らはとうに今回の依頼を『巣の特定と死体の確保』のみに定めていた。残念だがこの面子で先走っても、全滅するか、他に被害を広げるかしかない。巨大な昆虫を養殖しているとしか思えぬ場所を見付けたのなら、冒険者ギルドとしかるべきところに詳細を報告するのが役割というものだ。
 そのためには網を的確に仕掛けて、更に一匹が掛かったら即座に仕留めないといけない。他の蜂に異常が伝わって、更にどこかにいるだろうデビルにも勘付かれては元も子もないからだ。無事に帰りつけるかどうかも怪しくなってしまう。
「別に会いたくもないが、デビルらしいのは見ないな」
 矢を指で弄んでいるリンカが、誰にともなく口にした。デビルは姿を消すものもいるから、見張りも神経を使うがここに来る前から『怪しい』と予想されていたこともあって、落ち着き払っている。それは他の三人にも言えることだ。
「蜂はブリットビートルと違って、成虫が幼虫や蛹の世話をしますから‥‥付ききりでなくても大丈夫と思っているのかもしれません」
「後は他にも巣があって、そちらに行っている可能性がありますよ。皆さん、ご無事でしょうか」
 隠し事はしないらしいレヨンが、セレンの推測に更に嬉しくないことを重ねた。なにしろ穴は六つ。古くからあるとは聞いたが、有益なら全部使うものだろう。
「俺達、絶対にかっこ悪いな」
 白っぽい布ですっぽりと頭を覆い、更に毛布を被って伏せたエイジが冗談交じりに言ったが、あいにくと隣のセレンは笑ってくれなかった。彼女は愛想が良いほうではないので、エイジが良く話しかけるが応答も最低限だ。また話し込んでいる場合でもない。
 じりじりと、蜂が来るのを待ち続ける時間は、誰にとっても長かった。

 この頃。
 めいとティア、ディジェにライラの四人は村で聞いた二番目に近い穴を目指していた。蜂を捕らえる必要があっても、それに八人で掛かりきりになる必要はない。更に残る五つの穴も確認するべきだと、大方の意見が一致を見たので、今日は仕方なく二手に分かれたのだ。こちらもほぼ全身を淡い色でまとめ、最低限に荷物に毛布を担いでいる。クレリックが二人いるので、ポーションは毒消しに限定して持参していた。
「見付けても手出しできないなんて、すっごい悔しいな」
 目の前に出てきたら全部叩き切りたいとでも言い出しかねない勢いで、ライラがそんなことを口にした。それでも警戒して小声だ。間を詰めて移動しているので、それで十分際語尾のティアにも声が届く。
「私はセブンリーグブーツが役に立たないのが腹立たしいわ」
 二番手のディジェは、前方を透かし見て、目印を探しながら不満を漏らした。
 足場の悪い森の中、いずれも森歩きに慣れていない四人なので、先頭のライラが下生えを踏み分けたところを他の三人が続いている。そんな歩き方では、セブンリーグブーツを揃えたとしても、街道を歩くような速度は期待出来なかった。もちろん馬も役に立たないので、預かってもらったのは正解だったろう。少なくとも心配の種が一つ減る。四人以外に同行しているのはめいの愛犬のみだ。
 めいは言葉少なに、辺りに目を配っていた。巨大な蜂が発見されてからずっとこの調子だが、元から割と多弁な他の三人に比べれば物静かな性格なので不思議には思われていなかった。それに体力はあるほうだが、さすがに年齢的にこんな長距離の移動は厳しいのだろう。
 実は彼女は、蜂の毒が巷に広がっている預言書の内容から推測される鉱毒の成分を含んでいるのではないかと警戒して、毒消しも二種類持参しているのだが‥‥こればかりは確かめてみないと分からないので、無闇と口にはしていなかった。出来れば確認しておきたい気持ちもある。その方法を色々と考えているところでもあった。
 そして、目的地で。
「洒落にならないわね。これはもう、全部いると思ったほうがいいわよ。もう一つ回れそう? 近いのがあったでしょ?」
 用心のためにソルフの実を手放さないティアが、手を出せないことに悔しがっているディジェやライラを促した。二箇所目の穴も同様に、少数の成虫が幼虫と蛹の世話をしている。残っているのが少数でも、実際の数は不明だ。まだそれほど数が揃っていないのが、不幸中の幸いとティアは前向きに断言したが。

 ただ、この日の夕暮れを過ぎて、半ば道に迷いそうになりつつテントの場所まで戻った捜索の四人は、蜂を捕らえた際にエイジとリンカが毒液を浴びせられてあわやという状況だったことを知らされた。幸いなことに、毒消しは鉱物のものでなくても普通に効いたそうだ。
 そうして彼らの前には、一メートルもある蜂の死骸が鎮座していた。
 また。
 残りの日数を費やして六つすべての穴を調べ終えた八人は、全部の穴で巨大蜂が確認された報告を携えて、出来うる限りの速度でパリへと戻って行ったのだった。