【死神の顔】巨大蜂の殲滅

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 48 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月03日〜05月10日

リプレイ公開日:2007年05月14日

●オープニング

 ラージビーというのは、一般的な蜂に比べれば巨大も巨大。モンスターの分類上インセクトと呼ばれるものは、大抵が普通の虫に比べれば異様に大きな身体を持つものだが。
「あれはなかなか見事だった。二月の再来というところだな」
 冒険者ギルドに珍しく出向いてきた御仁が、場違いに朗らかと思える笑い声を漏らした。
 全長一メートルの、肉食で毒をもつ蜂。通常のラージビーの倍という大きさは、確かに二月猛威を振るった巨大なブリットビートルのようで、本来笑い事ではない。
 ただ、現物を見るとあまりの大きさに苦笑してしまうという者は、何人かはいた。今回の依頼人代表も、そういう性格の御仁である。
「だが幸いにして、まだろくに被害が出ていない。この間に殲滅も出来よう」
「簡単におっしゃいますが、相手は地下洞窟らしい場所の中。そこも入り口が六つもあって、繋がっているのかどうかすら分からない有様ですよ。どうなさいます?」
「狭い入り口は、ホーリーフィールドで塞ぐというのはどうだ? ムーンフィールドのほうが時間が長いか」
「そういう方がおいでで、実行してくれるなら良いでしょうけれど」
 ギルドマスターにすげなくあしらわれて、依頼人代表は顎をさすっている。なんと言い返してやろうか考えていたのかもしれないが、結局は実務的な話に戻った。
「近隣の村に案内人は手配した。しかし実際に現場を見た者も一人くらいは欲しい。後の仕事は、我々と一緒に虫退治だ。どうせデビルも出てこようがな」
 毒消しは、アンチドートを使う者を複数同行させるから心配は要らないと豪儀に請け負ってくれた御仁は、最後に愚痴を零していった。
「この騒ぎをどうにかせんことには、うちの連中の一人も結婚せんような気がしてきたところだ。せめても陛下には年内にお相手を決めてもらいたいものだが‥‥イヴェットもいい加減に独り身でいる場合ではなかろうし、他の連中もまったく」
「‥‥そんな難題は受け付けません」
 ギルドマスターの返答は、取り付く島もなかった。


 単純なインセクト退治に繋がると思われた依頼から、通常の倍の大きさのラージビーが大量に育てられている場所が発見された。
 冒険者ギルドからの報告を受けた土地の領主は、そのままパリの王城に駆け込み、ブランシュ騎士団へと事情を訴えた。
 そうして。
 先行している偵察の者が、二月にリブラ村で発見されたブリットビートル同様の有様を確認。これにより、当該領地の騎士にブランシュ騎士団、近隣の騎士、神聖騎士を中心とする多数の応援と共に、問題のラージビー養殖場の焼却を図ることになった。
 今だ目撃はされていないが、当然デビルと一メートルのラージビーの反撃が予想されている。



・目的地
 徒歩一日半の森の中の地下に発見された、巨大化ラージビーの養殖場。

・状況
 入り口と思しき六ヶ所の穴から繋がる地下洞窟内に、大量の幼虫、蛹がおり、百匹前後の成虫が出入りしている。
 洞窟入り口は円形で、ほぼ垂直に地下二十メートル地点まで陥没している。入り口の直径は三メートルが一つ、四メートル半が二つ、五メートルが二つ、六メートルが一つ。いずれも数値は概算。
 また上記のうちの五メートル一つと六メートルは、穴の縁まで潅木などが茂っていて見通しも悪い。他は周辺が開けているが、それでも穴の周囲三メートル程度なので、いずれも足場が良いとは言えない。
 この地下洞窟同士が繋がっているのかは未確認。潜入した偵察の者によれば、いずれの穴も養殖場として利用されている。

・作戦予定
 焼却作戦は以下の二つのどちらかで行なわれる予定。

『六つ同時に焼却開始。各場所にて、逃亡、ないし反撃する勢力に対応』
 これの問題点は一箇所あたりの戦力が少なくなること。寄せ集め人員なので、完璧に連携を取ったり、いずこも均衡のとれた布陣が出来る可能性は低く、どこかが突破されることも考えられる。
 また、敵戦力が一箇所に集中した際の対応も難しい。

『可能な限り陥没箇所を塞いで、特に蛹が多い場所をまず潰す』
 通常手段で穴を塞ぐことは無理。このため確実に内部の虫を逃がさない方策を取る必要がある。同時に敵勢力に突破されない強度も必要。
 短時間で塞ぐ方策でなければ、相手に迎撃の準備を整えられる可能性が高い。

●今回の参加者

 ea1787 ウェルス・サルヴィウス(33歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7504 ルーロ・ルロロ(63歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea9927 リリー・ストーム(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb3084 アリスティド・メシアン(28歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb6340 オルフェ・ラディアス(26歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb9459 コルリス・フェネストラ(30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

セレスト・グラン・クリュ(eb3537)/ 乱 雪華(eb5818)/ リスティア・レノン(eb9226

●リプレイ本文

 パリ出立前。
「今まで何の価値もないと思われていた場所は、金にならなかったって事だよ? そんなに都合よくなんでもは出て来ない」
 同業者を訪ねたオルフェ・ラディアス(eb6340)は、妙に晴れやかな笑顔で言われてしまった。今回の依頼で問題視されている洞穴の情報についてだが、確かに一理ある。
 ただし。
「なるほど。百人からの力じゃのう」
 全員が自分の足でただ歩く以外の移動手段があった中でも、最も先行したルーロ・ルロロ(ea7504)が見たのは、『陣地』を作り上げている人々だった。幾つか仲間との調整で生まれた要望を持っていく役目だったルーロだが、大抵はすでに準備済みである。
「ご指名の必要はなかったんじゃないのか?」
 苦笑したのは、ライラ・マグニフィセント(eb9243)。この巨大化したラージビーを発見した冒険者の一人だ。今回はその際より経験を積んでいる者に募集が為されたため、条件に唯一合致した彼女には当時の詳細な説明が期待されている。とはいえ、現地の様子が幾らか変わっているので、当人も悩むところが多い。
 一番の変化が、森の一部を切り拓いた陣地作成だが、こちらには冒険者の何人かが連れてきた馬も集められていた。どうしても荷物運びに馬がいるシフールのパール・エスタナトレーヒ(eb5314)は近くの村に預けねばならないかと考えていたが、ブランシュ騎士団赤分隊のギュスターヴは『危険な時に領民に手間を掛けさせるのは、最後の手段』という考えの持ち主らしい。
 彼女が要求点にあげていたソルフの実やアリスティド・メシアン(eb3084)などが必要物資とした除虫効果のある薬草類は用意されていたが、十分と言える量にはやはり足りない。同様にあらゆる人手が少しずつ不足気味で、木工の才能があるアニエス・グラン・クリュ(eb2949)、コルリス・フェネストラ(eb9459)は洞穴塞ぎの為の木材加工に到着直後から志願している。
 同じ頃には、リリー・ストーム(ea9927)とセイル・ファースト(eb8642)の新婚夫婦が、自分達の装備に邪魔にならないような体各所保護のための布地を探し出していた。このあたりは装備や体力、使用する者の役割で色々と使い勝手も異なるので、相当数をかき集めてきたらしい。
 ウェルス・サルヴィウス(ea1787)は自分用に先んじて、案内役にやってきている村人達の装備を整えてやっていた。その際に相手の顔をきちんと覚えて、デビルへの対策も忘れてはいない。

 洞穴を泉に近い、または蛹の数の少ないところから塞いでいき、フリーズフィールドで中の蜂の動きを鈍らせ、その上に蓋を被せて、アイスコフィンで固定。蛹が多いところから集中して火攻めにしたらどうかというのが、パールとルーロの案をだいたい合わせた内容だ。必要ならホーリーフィールドで蜂の出入りを塞いで、こちらからは攻撃を仕掛けるといったものも含まれている。
 これについて、厳密には蓋ではなく網を重ねて広げることで洞穴の入り口を塞ぐつもりでいた騎士団指揮下の工作部隊とウィザード数名が『アイスコフィンで凍らせたら、かえって落ちるのではないか』と言い出した。また洞穴同士が繋がっていた場合、湯気が立つと視界が遮られることも考えられ、フリーズフィールドを多用する方向性になった。当然、アイスコフィンは使わなくとも、網は張り巡らせる。
 ならば突破されそうになったらホーリーフィールドでと、ウェルスはどの洞穴を塞ぐか確認していたが、白クレリックも複数名参加しており、これに人手不足の心配はない。
 問題は、洞穴を塞ぐ際に攻撃されないことだが、コルリスが持参した蜂比礼で成虫の蜂が少ないところは動きを牽制し、穴塞ぎに必要な人数が向かう。リリーとセイルが、アニエスがドワーフの技術者達と網を張るための杭を打ち込む作業に護衛として付き添って、
「死神の顔とやらを拝んでやろうとは思ったけどな」
「聞いてた話より増えてるじゃない。ま、あなたと一緒ならどこでもいいけど」
 偵察専任のシフールが『成虫と蛹が共に少ない』と報告していた穴でも、二十数匹の成虫を目撃して軽くぼやいていた。フリーズフィールドにさらされた成虫は洞穴の下のほうに降りていき、作業そのものはあまり危険を感じずに済んだが、これで火攻めを行なうと活性化する可能性もある。
「これなら手伝えます。これは他のところに運んでください」
 コルリスは蜂の反応に蜂比礼を偵察のシフールに託して他の洞穴に向かう人々に運んでもらい、アニエスとともに作業に勤しみだした。アニエスがこの中では小柄で、体重も軽いことを活かして洞穴の周辺の土壌を潅木の茂みの中まで確かめて、杭を打つ位置を技術者達と決めていく。幸い土壌に極端に脆いところはなく、複数の杭が速やかに打ち込まれていった。
 この間、リリーとセイルはすでに行動が鈍った蜂より、その増殖に関わっているだろうデビルを警戒していたが、泉に最も近いこの洞穴は予定通りに塞がれた。警戒は騎士団とその配下のウィザードなど数名があたる事になっている。
 同様に洞穴を塞ぎに向かったアリスティド、ウェルス、ライラ、オルフェの四人は全員が技術者の護衛役だった。ライラはアリスティドに通りやすいところを示してもらいつつ道案内も兼ねている。そうしてウェルスとオルフェは、蜂とデビルの警戒を行なっていた。
「確かに動物がいた気配がないから、テレパシーの相手もいないな。除虫の薬草だけじゃ効果は当てに出来ないか」
「寒いと動かないと聞きますから、魔法は効果的でしょう」
 アリスティドも度々石の中の蝶を確かめ、デビルの気配を探っている。オルフェとの会話で格別作戦を隠していないのは、周辺にいればどこかしらで聞き耳を立てているに違いないので引き寄せる狙いもある。
 それが効果があったものかどうか。
「ラージビーまで利用しようとは、本当に‥‥」
 最初に気配を感じたのは、石の中の蝶を持つアリスティドだ。合図を受けてそれぞれの武器にそっと手をやったオルフェやライラ達護衛にではなく、ウェルスが下草を払うのに持たされていた長い杖が折られた。ウェルスは一瞬、何かの弾みで折れたかと口を閉じたが、ライラやオルフェなどが見ると誰かに折られたのは明白である。
 そうして彼らと、同行している騎士団関係者はそれにすぐに気が付くだけの知識や経験を持ち合わせていた。
 きっと姿を隠してくるのがいると考えていたアリスティドが、ムーンアローを放つ。それが何もないように見える場所に当たった後に、ウェルスが技術者達のためにホーリーフィールドを張り巡らせている。
「勝手が分かっている人達だと、こっちもやりやすいもんだ」
 ライラが苦笑混じりに呟いて、何も言わないうちにウェルスの周囲に固まった技術者達とデビルの合間に入る。一体だけとは限らないが、あいにくと今この時には数まで確認できる者が含まれていなかった。
 洞穴を塞いでも、そういう確認が出来る者の配置は確実にしてもらわないと駄目だろうとウェルスが思案した間に、数名に追われた一体のグレムリンが塵となったが‥‥アリスティドの石の中の蝶は他にもデビルがいたことを示していた。
 ムーンアローを放っても、相手の姿が確認できないと追いかけることは困難だ。ましてや枝葉の茂った季節である。
 冒険者が加わっていなかった洞穴塞ぎの一団にもデビルの襲撃があって、洞穴に被せられる網は数がある限り増やされることになった。

 網を張り終えて、そこからほぼ一日が経過してから、六つの洞穴にフリーズフィールドが使用された。大きさに合わせて、二重三重に効果範囲も変えられている。時間は夜明け前と、まだ巣から成虫が外に出ない時間帯を選んでいた。
 そうして、大量の油が洞穴に投げ入れられると、続いて火のついた薪の束が放り込まれた。冒険者十名は貴重な戦力なので、この作業は技術者と騎士見習い達が行なっている。デビル、インセクトに影響があるアイテム類は、持ち主が了解しているものは騎士団が集めた物と同時に、やはり直接戦闘に関わらない者が使用していた。
「穴が繋がっているか事前に分からなかったのが、残念ですわね。その分危険かもしれませんけれど」
「無茶はするなよ。お前は俺が護るからな」
「最前線は一人で特出するとほとんど帰ってこないからな。仲良くやってくれ」
 蜂が飛び出してきそうな洞穴の最も近い場所で、リリーとセイルがほんの何秒か、新婚らしい甘い雰囲気を醸し出していたところ、ギュスターヴが傍らを通り抜け様に言い置いていった。ほんの一日二日のことでも、ギュスターヴが前線によく出て来るのは皆が承知している。分隊長らしからぬ行動を取ることは、一度一緒に戦線に立つと嫌でも分かることらしい。
 ただ、今回ばかりは動きを妨げる厚さと裾の長さがあるブランシュ騎士団正装マントは外して別のものにしたらいいのにと、リリーもセイルも、同じく前線配置のパールもルーロも思っていた。騎士団員は白でも正装用ではないマント姿になっていたが、意見しに行かされたのはアニエスだ。理由は今回参加の中で最年少で、何かと目を掛けられていることにある。
「パールさん、コルリスさん、ご一緒してください」
「ええ。分隊長自らデビル寄せになろうとは、無茶をなさるお方です」
「誰だって指揮官を狙いますから、他人を代理で置かないのは悪いことではありませんよ」
 結果は、ルーロが魔法、リリーとセイルが素晴らしい連携で、火のついた洞穴から飛び出した少数の成虫に他の人々と共に対応し、いずれもたいした時間も掛けずに退治している間に、コルリスも含めた三人があれやこれやと激を飛ばしている分隊長の周辺警戒を行なっていた。コルリスは鳴弦の弓を構えて、デビルが出た時の攻撃阻害を狙っている。
 この三人共に、指揮官護衛が前線にいるのはおかしいとか、そもそも自分達が担当するのも不自然だとは思っているのだが、騎士団員達はそんな素振りの一つもなく、割り振られた仕事についている。
 おかしいだろうと思ったところで、探知役が呼子を吹き鳴らした。

 ほぼ同時に二つの穴を火攻めにしようとなって、冒険者の四名がもう片方の中間から後衛に配置されていた。オルフェは剣より使い慣れないが、相手が飛ぶことも考え合わせて弓を手にしている。ライラは剣を構えているが、後衛の護衛も務まる位置に布陣していた。アリスティド、ウェルスは魔法の効果範囲ぎりぎりの位置で、蜂やデビルに対抗可能な状態をすぐに作れるように待機する。
 この他に騎士団員始め、様々な技能を持つ人々が蜂を迎え撃つ態勢を整えていたが、こちらの穴では蜂はほとんど飛び出してこなかった。事前に張り巡らせたフリーズフィールドで動きが鈍ったところに合わせて、彼らが配置されたのとは洞穴円周の反対側から、地勢を崩さないものを選んであるとはいえ、範囲魔法が幾つも穴に吸い込まれていく。
「他の穴から飛び出している報告もなし。これなら蜂は退治できるだろうな」
「出来なかったら大変です。それに」
 デビルが出て来たら、向かい側の魔力が気になるとライラとオルフェが会話していた矢先に、探知役が呼子を決められた手順で吹き鳴らした。続いてアリスティドがムーンアローを瞬時に発動させ、ウェルスはそれが洞穴内に向かわないのを見てからホーリーフィールドを洞穴入り口に展開した。
 人を護るのがウェルスの一番の目的だが、デビルが蜂を操るようなことがあってはならないので、蜂暴走の予防策として検討されていた方策を転用している。その近くに着いたのは、ライラだ。
「一体二体ではないし、姿を隠す力はないようだ。地の方、よろしく頼む」
 炎の音に負けない朗々とした声は、バードのアリスティド。インプの群れを見て取り、プラントコントロールの使い手達に足場の確保と、相手の飛行の邪魔とを依頼している。返事はないが、それはすでに皆が詠唱に入っているからだった。
 ウェルスはじめ、数名のクレリックが彼らとデビルとの戦闘に入る冒険者、騎士達の間にホーリーフィールドを展開した。効果時間があるため、一度に何箇所もの安全地帯は用意できないが、戦う術をほとんど持たない技術者達の近くにはウィザードが控えている。村人はそもそもこの作戦には参加せず避難したので、恐慌状態に陥るような者はいなかった。
 インプの群れは、冒険者やウィザードでも連携すれば厳しい相手とはならない。今回はなにしろ襲撃を予想していて、戦力も十分だからだ。そしてブランシュ騎士団員は当然、正面から向き合っても滅多なことでは押される事もなかった。
 ただ。
「だから、目立ちすぎると言ったろうにっ」
 すっかり敬語も忘れたライラが、赤分隊の隊長副官に毒づいた。目印の意味もあって、ギュスターヴと副官の二人だけは白い正装用のマントを外していない。それを目掛けて、インプが集団で攻勢を掛けたのだ。毒づいても責められるどころか、相手から詫びの一言を引き出している。
 彼女達はまだ知らないが、もう一つの洞穴付近でもギュスターヴが集中的に狙われていた。当然その周辺に人が寄って、武器と魔法が向けられ、それでもマントを外さないことに苛立った者が立場に関係なく何人かいたのだが。
「予測されたとおりに、デビルはブランシュ騎士団の皆様の印を知っているのでしょう。正装の際はご注意ください」
 蜂は黒いものを狙うと言われたが、デビルは白いマントを着ける者の中で、もっとも地位が高そうな相手を狙っていたことが誰の目にも明らかだった一戦の後、また皆の無言の圧力でギュスターヴの前に押し出されたアニエスが物申すことになった。
 冒険者でも、アニエス一人に限らずコルリスやパール、リリーといった仕える相手は色々だが騎士の地位にある者は、デビルがブランシュ騎士団を狙うために必要な情報は持っているのだろうと判断したが、ノルマン出身のもう人のリリーの夫はイギリス出身で、結局アニエスに前面に立ってもらうことになったのである。言われた側も今回は確認を取ったようなもので、まったくだと頷いていたが。
 そんなことはあったが、洞穴のうち五つは繋がっているのが煙で確認されたが蜂の成虫を逃がすことはなく、蛹の大半も煙にまかれて弱っていたところをすべて退治できた。その確認に手間取ったものの、デビルの襲撃も一度のみで、全体としての怪我人は少ない。
 デビルだけは数体撃ちもらしがあったのを気にかけつつ、撤退となった日、ふとルーロがぼやいた。
「すっかり善良な冒険者じゃわい」
 これを『人聞きが悪いなあ』くらいで笑って済ませた裏のルーロを知らない者は良いが、彼がどういう技能の持ち主かを知っていた者は、騎士団に聞かれていないかと動悸を激しくしていたらしい。
 ともあれ、巨大蜂を殲滅した彼らは、拘束されることもなく無事にパリに帰り着いている。