いままさに、はしはおちているのです

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月12日〜05月15日

リプレイ公開日:2007年05月21日

●オープニング

 ある冒険者さん達が、お仕事を終えてキエフに帰ろうとしていました。
 通っているのは、ぼろぼろになったつり橋です。
 時々下が見えますが、気にしてはいけません。気にしたら怖いですからね。
 下の川はざあざあと流れていて、百メートルくらい先で姿が消えています。きっと滝があるのでしょう。来る時に見た滝は、この川と繋がっているのかも。
 そんなことを考えていた時のことです。

 ぶちっ、ぶちぶちぶちっ、がらがらがら

 なんだかすごい音がしました。
 まさかと思って振り返ると‥‥

 今まさに、橋は落ちているのです!



●今回の参加者

 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb4859 イリスフィーナ・ファフニール(17歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb5763 ジュラ・オ・コネル(23歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7789 アクエリア・ルティス(25歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8120 マイア・アルバトフ(32歳・♀・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 eb8684 イルコフスキー・ネフコス(36歳・♂・クレリック・パラ・ロシア王国)
 ec0860 ユーリィ・マーガッヅ(32歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ec1051 ウォルター・ガーラント(34歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ec1110 マリエッタ・ミモザ(33歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 そのつり橋を渡っている冒険者さん達は、お仕事の帰りでした。
 でもどんなお仕事だったのかは分かりません。
 だって‥‥
 シフールのアルフレッド・アーツ(ea2100)さんは石を幾つも抱えていて、バックパックの中身はなんだか不明ですが、お空が飛べない状態です。他の人達と一緒に歩くの、とっても大変そう。
 人間の以心 伝助(ea4744)さんはアルフレッドさんを気にしながら歩いています。こちらはなんとなく軽装です。ペットのエレメンタラーフェアリーがふよふよと近くを飛んでいて、鷹は肩に止まっています。今ぶちっと切れたのは、鼻緒。まあ縁起が悪い。
 ハーフエルフのイリスフィーナ・ファフニール(eb4859)さんは、保存食を抱えています。バックパックに入れないなんて、おなかがすいているのかもしれません。毛糸の手袋と靴下をしているので、寒がりさんでもあるようです。
 その後ろを歩いているのは、巨大なこっこさんでした。器用に荷物がたくさん入っていそうなバックパックを翼に引っ掛けています。更にペットらしいきらきらと鷲をつれていますが、どうやら中身はジュラ・オ・コネル(eb5763)さんみたいです。ハーフエルフだったような、まるごと大好き生物だったような。
 エルフのマイア・アルバトフ(eb8120)さんは、普通の服装です。お荷物も割と普通そう。実は寝袋と毛布と保存食しか入っていません。クレリックさんなのに、聖書はどうしたのでしょうか。
 同じクレリックでパラのイルコフスキー・ネフコス(eb8684)さんは、結構たくさんの荷物を持っていました。ぼろぼろの橋を見て、なんだか喜んでいます。ものすごく楽しそうです。
 それと反対にクールな感じなのが、エルフのユーリィ・マーガッヅ(ec0860)さん。なぜかランタンを下げて、反対の手に油の入れ物を抱えています。バックパックもあるので、とても重そうです。
 人間のウォルター・ガーラント(ec1051)は、それに比べるととっても身軽な様子です。もしかすると一番荷物が少ないかもしれません。バックパックもスカスカなようで、一体なんのお仕事をしてきたのか謎めいています。
 この中では結構重装備なのは、マリエッタ・ミモザ(ec1110)さんでした。人間のウィザードさんなのに、ライトシールドを持っています。そして何より、バックパックからはみ出している木材は、一体なんなのでしょう。
 お仕事帰りの冒険者さん。でもどんなお仕事をしてきたのか、見ただけでは謎のこの人達は、つり橋の中ほどに差し掛かっていました。
 と。その時です!
「ふふん、今回も簡単な依頼だったけど‥‥この落ちそうな橋はどうにかならないかしら。高いし、落ちそうで怖いじゃない」
「あははー、わくわくするよね。ほらほら」
「止めてください。僕、今飛べませんからっ」
 イリスフィーナさんが恐々下を覗いて言ったのに、イルコフスキーさんは面白がって跳ね始めました。一番大変なのは、体の小さいアルフレッドさんです。
 だってなにしろ、ぼろい橋ですから、今にも落ちそうに揺れるのです。しかも簡単には収まりません。マリエッタさんのにこにこ笑顔が固まっているような気もします。
 ほら、今も!

 ぶちっ、ぶちぶちぶちっ!

「な、なぜ壊れるのであるかなっ」
 ユーリィさんがびっくり仰天、大きな声で言いました。その間にもどんどん橋は崩れていきます。
 みなさん、どうなってしまうのでしょう?

「うわー、落ちちゃうよー」
 イルコフスキーさんが悲鳴を上げています。誰のせいでこんなことになったのか、胸に手を当てて考えなさいと誰かが言う暇はありません。
 だって見てください。早くもアルフレッドさんは、つり橋の穴から下に転げ落ちようとしているではありません。
 更に、です。
「きゃああああぁぁぁぁぁーっ」
 イリスフィーナさんが、周囲に響き渡る悲鳴を上げて、アルフレッドさんより先に落ちていきました。やっぱりおなかがすいていて、足が踏ん張れなかったのかもしれません。
 伝助さんは、音が聞こえたと同時に後ろを振り返りました。橋が崩れているのを見て、とっさにつり橋を吊っている縄の中で、一番丈夫そうなところを掴んでいます。ペットはとっくに伝助さんを置いて、お空でした。なんだか切ないかも。
 そんな切ない伝助さんの横で、ジュラさんがなにやら両手を開いていました。まるごとこっこ姿なので、まるで飛んでいるようです。でももちろん飛べるわけがないので、ひゅーっと落ちていきました。
 ジュラさんが、心の中で『僕はまるごとこっこを着ている! だ、か、らっ! 飛べる!』と思っていたことは誰にも分かりません。誰にも分からないほうが、ジュラさんのためにはよかったかもしれないのですけれど。でも飛んでいる鳥のように姿勢を決めていたことは、大抵の人が見てしまいました。
 次々と落下していくみなさんが、それを後々まで覚えていられるかどうかはまだ謎です。
 落下している人の一人、マリエッタさんは思っていました。もうすぐロシアを出て、イギリスに行くはずのマリエッタさんです。なのに、今は落ちています。
 落ちながら、昔はウィザードなのに魔法が使えなくて辛かったなーとか、それでも闘技場で勝ち進んだりしたなーとか、最初に受けた依頼では魔法の使い方を学んだなーとか、いろんなことを思い起こしています。なんだか笑顔なのは、きっと楽しいことをたくさん思い出しているからでしょう。きっと依頼であった人達が、みなさんいい人だったからに違いありません。
 でも、笑顔のお目々がうるうるしていたのは、楽しい思い出よりも今落ちているせいではないでしょうか。間違っても、ストームを使って浮き上がれないかとちょっと思ったけど、高速詠唱が使えないし、結局この魔法では助からないからではないでしょう。
 そしてマイアさんも考えています。
「ああ、私は落ちるのね」
 呟いちゃったりしていますが、その通り、落ちています。今までの八十年を越える人生の中で、橋が崩れて落ちるなんて初めての体験なのです。そうそうあちこちのつり橋が落ちては大変ですが、今まさに彼女は落ちているところ。
「まあ長い人生、こういうことがあってもいでしょう。わかったわ、落ちましょう」
 もう落ちてます。落下中です。
「でも風邪は嫌よ」
 橋から落ちていくだけの時間に、マイアさんはどうしてこんなに色々考えているのでしょうか。マリエッタさんもです。
 その頃、ユーリィさんはあわあわしながら、どっぽーんしていました。なんだか落ちるまでに魔法の呪文を唱えていたようなのですが、その途中で水面に辿りついてしまいました。元々高速詠唱の技能がないので、何をしたところで魔法は使えません。
 それを生暖かい目で見送ったマイアさんと、遠くを見詰めているマリエッタさんが、ばっしゃーんと落ちて、沈んでいきました。三人とも、なんだか浮かんでこない気配‥‥
 ところで、ウォルターさんはというと。
「アルフレッドさんは、こちらのロープをお願いします。伝助さん、大丈夫ですか」
 伝助さんのように、落ちていく橋のロープを掴んで、宙ぶらりんになっていました。だけど同じロープに二人も掴まっているので、ぎしぎしいっています。今にも千切れて落ちてしまいそう。
 でもきっと大丈夫。なぜなら伝助さんがアルフレッドさんを捕まえているからです。アルフレッドさんは慌てて荷物を放り出して、普通に飛べるようになりました。なんだか金をまいていたようですが、きっと錯覚です。
 次はウォルターさんが苦労してバックパックから取り出したロープを握って、パタパタと飛んでいくのです。それを上の木にぐるりと回して、二人のところに戻ってくれば、ウォルターさんと伝助さんは他の人たちを助けに行けることでしょう。
 下を見れば、パックパックを抱えてどんぶらこと流されている最中のイルコフスキーさんが見えます。もう一つの白い塊は、きっとジュラさんでしょう。って、他の人達はどこ?

 この頃、見えなくなっている人達は。
 イリスフィーナさんは、背中のバックパックもいつもより重いので、川面に顔を向けて流されていました。上から見えないのは、水面より下を流れさているからです。なんだか目の前を流れあがっていく泡が綺麗に見えますが、どんどん目がかすんでいくような‥‥人はそれを、意識がなくなっていくと言うのです。
 でも、イリスフィーナさんには見えていました。川面の上のほうで、自分を見詰めている小さな影が。そんなわけで。
 ぐわしっ。
 伝助さんのペットのフェアリーちゃんは、水の中に引きずり込まれてしまったのです。イリスフィーナさん、体中にローブがまきついてほとんど動けないのに、こんなときだけ素早かったのでした。
 そして。
(まあ、これも人生よね‥‥)
 流されながら、悟りきったことを考えているのはマイアさんでした。そんなことを考えていたら、慈愛の母が可哀想に思ったのか、水面に顔が出ました。相変わらず流されていますけれど、なんとか息が出来るようになっています。
 もうすぐ滝なんですけれどね。
「うわーっ、た、滝がすぐそこまでっ。あ、マイアさんではないかっ」
 いつものクールな様子はどこへやらなのは、同じ場所で浮かんできたユーリィさんです。二人が一緒に浮かんだのは、とっても仲良しだからではなく、そのあたりで流れが変わって沈んでいたものが浮かびやすいからでしょう。結局、二人とも服が絡まって大変でちっとも泳げはしないのでした。
 そもそもたいして泳げないなんて事は、
「どうせ波の無い湖でだって、大して泳げないのだもの。こんな川で泳げるわけがないのよね。母もここで助けてくれてもいいのに」
「泳げないのは確かだがっ、だからと言って‥‥うわーっ」
「あらまあ、ユーリィさんったらお茶目な、がぼっ」
 あったようです。そうして二人とも、何か悟ったようにまた同じあたりで沈んでいきました。
 ユーリィさんの足だけが、なぜか水面から突き出されていて、そのまま流れていきます。上半身が上がってこないのは、誰かに捕まえられているからかもしれません。
 ジュラさんは、まるごとこっこが空気を一杯に含んで、ずっと水面上を流れています。どんぶらこ、どんぶらこ。
 だけど、まるごとこっこの顔が出る部分は、最初の時から水につかったままなのです。ジュラさん、ぴくりとも動きません。ずっと流されていきます。
「助けてー、滝だよう」
 叫んでいるのは、やっぱり流されているイルコフスキーさんでした。

 助けを求める声を聞いて、黙っていられないのが伝助さんです。まだロープはちゃんと結べていませんが、早く助けに行かないと他の人達が滝から落ちてしまいます。
「ウォルターさん、アルフレッドさん、上から回り込んでくだせえ。あっしは」
 沈んでいる人達を助けに行きますと、勇敢に飛び込んだ伝助さん。でも、だけど。
「うわーっ」
「どうしてこうなるー!」
 えいと反動をつけて伝助さんが飛び込んだときに、ロープが揺れました。そうしたらロープを支えていた杭がすっぽりと抜けてしまったのです。ロープを握っていたウォルターさんとアルフレッドさん、二人とも引き摺られてどっぽーん。
 結局全員落ちてしまいました。
 ものすごく短い時間なのに、どうしてこんなに色々なことが起きるのでしょう。冒険者の皆さんは、いつだって冒険の真っ最中なのです。多分、きっとね。
 九人の冒険者さん達は、そのまま滝からどばどば落ちていったのでした。


 滝の下でのこと。
 滝の下には、滝つぼがあります。そのほとりには、なぜか氷付けの巨大こっこが!
「だって、びっくりしたのよ。目が覚めたら、いきなり目の前に巨大に白いものが覆いかぶさっていたんだもの。一番効果的な魔法を使うわよ、もちろん」
 イリスフィーナさんが熱烈主張しています。氷付けになっているのは、まるごとこっこを着ているジュネさんです。
 多分、滝つぼまで流されたイリスフィーナさんは気を失っていて、一緒に流されてきたジュラさんに起こされたのでしょう。ジュラさんは相変わらずまるごとさんなので、びっくりしたイリスフィーナさんが凍らせてしまったのでした。
 だって他の魔法は使えないんだもんなんてことは、もちろんイリスフィーナさんは言いませんとも。そんなのかっこ悪いですからね。
 そんな氷漬けこっこの側では、ウォルターさんがせっせと焚き火の用意をしています。早く暖まらないと、皆で風邪を引いてしまうからです。
「寒い、滅茶苦茶寒いです。今月はキャメロットに移るつもりで、色々手続きしているのにっ」
「だから早く上がるように言ったでしょう。足場を心配しなくても、引っ張りあげられましたのに」
 マリエッタさんががたがた震えながら、焚き付けにする枝を拾っています。ウォルターさんが心配していますが、マリエッタさんは滝つぼで安全に上がれる場所はどこかと騒いで、なかなか水から出てこなかったのです。それは寒いでしょう。ウォルターさんに引っ張りあげて貰えばよかったのです。
 とはいえ、マリエッタさんがすぐには上がれなかったのは、大人の事情なのでした。ウォルターさんだって、そのときの姿を見ていたら、鼻から大量出血だったかもしれません。
「私、将来は橋の建設を勉強して、落ちない橋を作ります」
 マリエッタさんの決意は、かなり個人的な事情によるのでした。でも危ない橋は遠回りすればいいので、本当に立派な橋作りの人になるかはまだ未定。ウォルターさんはうんうんと聞いています。
 そうして、ちょっとは怪我をした人がいるのでマイアさんとイルコフスキーさんがせっせとリカバーの魔法で治してあげていました。二人ともすっかり疲れ果てているのですが、慈愛の母の使徒ですから頑張って働くのです。心の中で、これは大いなる父の試練みたいだけど、どうして自分達が受けなきゃ駄目なのかなーとか、こんなことなら最初から黒の使徒になっていたほうがよかったかもーとか考えているのは内緒。
 だけど。
「風邪を引いたらいけないので、リカバーをかけてもらえるかな」
 こんな魔法使いとは思えない間違いをしちゃったユーリィさんには、懇々と慈愛の母の教えと奇跡を教えてあげるのでした。ユーリィさんは冗談だと言いますが、どう見たって本気で言っていたからです。
 もしかしたら冗談だったかもしれないけど、そういうことにしておきましょう。もう言い聞かせちゃったし。
 ところで、誰か足りませんよね。
「ひーっ、ようやく見付かったでやんすよ。やっぱり軽いから、下のほうまで流されてやした」
 伝助さんが、伸びちゃっているアルフレッドさんを連れて戻ってきました。って、さっき、その辺をふよふよ飛んでいたのは誰? あれ、アルフレッドさんじゃなかったの? と、皆さんがびっくり仰天していると。
 水でふやけて、全部さっさと食べないと駄目になってしまった保存食や、あちこち破けて使えなくなってしまった道具類の山を見張っているらしいペットさん達の中に、フェアリーちゃんがしっかりといたのでした。もしかして、疲れていたから見間違えていたかも?
 ま、全員揃ったから良いことにしましょう。
 後はキエフに帰るだけです。