【繊細な指】王城見物引率

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月29日〜06月03日

リプレイ公開日:2007年06月08日

●オープニング

 聖霊降臨祭。
 ジーザス教の祝祭の一つで、教会ではミサが執り行われる。それは王城内にある教会も例外ではない。近郊の貴族の多くはこの日の前後にパリを訪れ、登城して様々な請願を行なったり、パリ市街のあちこちで知人友人との旧交を温めたりする。
 王城内でミサが執り行われる日には、収穫祭や聖誕祭のような賑わいはないが、王城の一部が開放されて、誰でも整えられた前庭などの景色を楽しむことが出来るのだ。大抵の人々はそういう景色の他に、誰か名のある人物を垣間見ることが出来ないか、城の貴婦人の姿でも眺められないかと、入ることが許された場所でのそぞろ歩きを楽しんでいる。
 そうして今年は、ノストラダムスが預言したと噂され、デビルが影響を与えている幾つかの事件で家を失い、いまだ住み慣れた土地に帰ることがままならない人々を国王陛下が城に招いて、開放される場所より少し奥まで見物させる催しがある。
 この催しは、パリ各所の教会から付き添いの人々が集められ、城内では騎士見習いを中心に案内役が組織されて、延べ百名ほどが招待されていた。中には年端も行かない子供や足が少し弱ったお年寄りも含まれている。これを三回に分けて、三十人余りずつ、騒動がないように案内して帰すのはなかなか大変なことだ。
「他に何事もなければ、私どもで十分かと思うのですが、どうもパリには最近物騒な動きがあるようで」
 あまりに災厄が続くので不満を持った人々が、王城が開放されるに乗じて、国王に直訴に及ぶのではないかとは、パリの各所で囁かれていることだ。内容も直訴から暴動まで、あまり穏便なものはない。
 王城には警備もいて、滅多なことはないだろうが、万が一ということもある。そんなことに巻き込まれて、ただでさえ故郷を離れて心細い生活をしている人々を不安にさせることがあってはならない。ましてや怪我でもさせてしまったら、その日からの生活がより大変になってしまう。
 王城までの送迎を担当することになった聖職者達は色々思い悩んだ末に、冒険者にもいる同輩達に協力を求めることにしたのである。災厄の際には何かと尽力してくれた人々がいてくれれば、皆心強いというものだ。
「そうしますと、募集するのは白クレリックの方だけですか?」
「いえいえ、ご協力いただけるのであればどなた様でも。黒の信徒の方でも、東方の方でも問題ありませんとも。差し支えなければ、その日の前後も何日かお手伝いいただける方をお願いします」
 教会も何かと物入りで、御礼は小額になってしまいますがとすまなそうにして、依頼人の代表者は帰っていった。
 確かに託された金貨銀貨は、かなり少なめである。

●今回の参加者

 ea1787 ウェルス・サルヴィウス(33歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 ea4078 サーラ・カトレア(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 eb3050 ミュウ・クィール(26歳・♀・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●事前準備はしっかりと
 毎年のことながら、担当する者もほとんどが毎年変わるので案内役一同は、たぶん緊張していた。けれど。
「あたし、お客様役なの!」
 パラだからとしても、見た目の年齢に比して大分子供っぽい口調でミュウ・クィール(eb3050)が主張したので、一気に緊張が消え失せていた。代わりに『この人、明日大丈夫だろうか』と心配している風情が漂ってくる。
 これはこちらの意図が全然伝わっていないなと思ったのは冒険者全員だが、大抵はこれでは当然とも了解している。しからば、説明するのみ。
「陛下の粋なお計らいには感服したが、教会から手伝いを頼まれた我らは王城には不案内じゃ」
 当日何かあっては困るので、事前にどこを巡るのかだけでも見せて欲しい。どんな場所かも教えてもらえれば重畳。生まれた国は違えど騎士同士であるヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)の言い分はすぐに通じて、先方も了承してくれた。
 翌日、城内を案内される人々には鳩の模様が入った布地を腕に巻かせることを、作ったセレスト・グラン・クリュ(eb3537)が実物を示して説明したり、こちらも引率用に作成した鳩が描かれた小旗をクリス・ラインハルト(ea2004)が見てもらったりしてから、実際に歩く範囲を見せてもらったのだが。
「この回廊はぜひ時間を掛けて見てほしいものです」
 ジーザス教の聖人の逸話が描かれた場所で、ウェルス・サルヴィウス(ea1787)がしみじみと口にしたものの、もうちょっと世俗的なサーラ・カトレア(ea4078)やクリス、ミュウはその手前のキラキラしい場所のほうが好みだったようだ。
「どちらものんびり歩いてもらえます。なにしろこちらから見えるあの回廊が、陛下もお通りになる教会への通り道ですから」
 災害の被災者が案内されるのは初めてでも、毎年見物人が訪れるから申し送りもされているようで、賓客が覗き見えるかもしれない場所はゆっくり歩くことになっているそうだ。荘厳な絵画も、麗しい細工物も両方楽しめるのはいいことなのだが。
「説明がわかんなーい!」
「もう少しゆっくり話していただければ、ありがたいわ」
 お互い一生懸命にやってはいるのだが、ミュウと騎士見習いの会話は、セレストはじめ他の人々が仲立ちしないとちゃんと通じていない様子がちらほら。
 結局ミュウとヘラクレイオスとサーラの三人が居残って、『子供にも分かる案内』になるまで騎士見習い達を付き合わせる羽目になった。当初の目的はちゃんと果たされているが何かが違うと、言わないまでも、ヘラクレイオスは思っている。

 翌日の見学者達は、複数の教会に身を寄せていた。実際には教会が彼らを収容しているわけではなく、居場所を確かめて、日常の相談に乗っている。パリでの身元保証も、各教会が担っていた。
 ただし教会が出来るのはおおむねそこまでで、人々はあれこれ自立の道を探している。いずれは元いた場所に戻るとしても、村ではあまり遣うこともなかった金銭なしには生活が立ち行かないのだ。教会ごとに信者の口利きなどで、日銭稼ぎの仕事をしている者が多いらしい。
「一度お顔を拝見しておいたほうがと思いましたが、明日の朝で大丈夫でしょうか」
 教会の一つを訪ねたウェルスは、明日見学を予定している三十人の半数もいないのにいささか困っていた。この教会が世話している人々は全員が王城に出向くそうだが、あいにく子供と老人しかいない。
「せめてお名前を確かめさせていただきましょう」
 教会の人々から聞けば簡単なことなのだが、顔合わせも兼ねているのでウェルスは子供や老人から直接名前を聞くことにした。いない者については、老人に関係と合わせて尋ねればよい。三十人程度なら、その方が色々詳しいことも聞けるからと先ずは老人達と膝詰めで話をし出して‥‥他人の苦労話を途中で遮って自分の用を済ませることなど出来ない彼は、夕方になってもまだ老人達と話しこんでいた。
 対照的に、クリスは子供達にまとわり付かれている。行き先は違うところなのだが、彼女は子供達に印象付けようとミュウからまるごとわんこを借りて出掛けていた。迎えた教会の助祭がどう思ったかは分からない。でも子供達には大変な人気だった。
 クリスはバードだから、芸事に秀でているのは間違いないが、本来それは楽器の演奏や歌のほうだ。でも扱いは、明らかに大道芸人。声色を使い分けるあたりが、子供達には物珍しいらしい。
「いいですか。明日はこれをつけていないとお城からつまみ出されちゃいますよー。分かったかなー?」
「さんかいめー」
『む、お返事がないぞ。クリスお姉さんは困ってしまうのだ』
「はとさんー」
 こちらはこちらで、帰れなくなっている。クリスおねーさんは子供達の心をばっちりと掴んだようだ。
 別の方法で心を掴んだのが、セレストである。こちらは差し入れのお菓子に、子供達がうっとりしていた。彼女が尋ねた教会では、明日に合わせて避難してきた人々が食事会の準備をしていたので、それに参加しつつ翌日の注意事項など伝えている。ついでのように訊いているのが、生活で不便がないかだ。
 だが、日銭稼ぎが思うようにいかないとか、こんなに人が多いと息が詰まるとか、そういうこととは別に。
「甘言を弄して、若者を連れて行くなんて‥‥きな臭い話ね」
「かんげん? なんだい、それ」
 すでにもといた村の再建のためにほとんどの住人が帰ってしまった別の村の若者が何人も、仕事の紹介をしてくれた人から国王や貴族の悪口を吹き込まれて、粗暴な行いを繰り返していた。当人達が村に戻ったか、よく分からない。そんな話を聞いていた。
 言葉遣いについては、ちょっと反省しつつ、相手が不安にならないような説明を心掛けている。

●当日はしゃんと
 王城は、国王陛下の家である。つまり他人のおうちなのだから、訪ねるときはきちんとして。
 セレストの解説が一番皆しっくりきたものと見え、見学当日最初の一団はそれぞれ身なりに気を配った様子が伺えた。配られた鳩の模様入りの布地も、分かりやすいところに着けている。
クリスが乳飲み子などは誰かが見ていたほうがいいのではないかと教会に打診していたが、赤ん坊も連れて行ってよいらしい。
「随分開放的なお城ですね。皆さん喜ぶでしょう」
 サーラはのんびりとしているが、この時期に大胆なことだと思う者がいないわけではない。しかしここは、ヘラクレイオスの言う『粋な計らいじゃ』と受け止めるのが一番だろう。
「みーんーなー、いっきますよー」
 絶対に案内役には見えないミュウが、元気に右手を振り上げた。わいわいと付いて歩くのは、身長が彼女と変わらない子供達だ。案内役の一人が先頭で、その後ろに旗を持ったクリスが続き、その後ろにミュウと子供達。大人はその後ろから、出来るだけ礼儀正しく入って行ったが‥‥あっという間に賑やかな一行になってしまった。
「向こうを歩いている方は、神聖騎士団の方々です。儀式の用意をしているのでしょう」
「神聖騎士様だと、奥様と知り合いじゃろうか?」
「残念だけれど、お友達ではないわねぇ」
 セレストが事前に『祖父母親戚が仕事場を見に来た気分で案内を』と念押ししておいたので、案内役達もなんとなく話し方がゆっくりと丁寧だ。昨日、ミュウに散々分からないと駄々をこねられたからではない、はずである。
『上に乗られては重いぞ。行儀よくしなさい』
 こっそりと木の枝に飛びついて、上からよく見ようとした子供が、クリスの声色で転げ落ちそうになっている。子供は案内役で一番背の高い人に抱え下ろされて、クリスに景気よくお尻を叩かれた。
「上から見下ろされたら、嬉しくないでしょう? 人にもそんなことはしてはいけませんよ。それにほら、こうした絵は見上げた時に一番よく見えるように描かれているのですからね」
 子沢山夫婦から幼児を二人も預かって、一人は背負い紐で背にくくり、もう一人は抱えているウェルスが、懇々と諭している。続いて壁の宗教画のどれが聖書のどういう場面かを話して聞かせているが、熱心に聴いているのは大人の方だ。締めくくりに案内役が、誰が描いたものだと解説した。宗教画家に明るくはない人々は、そういう説明が出来るウェルス達に尊敬の眼差しを向けている。
 子供達はなんでも楽しく解説してくれるクリスにまとわりついているが、場所により肩車してくれるヘラクレイオスに集中していた。惜しむらくは、ヘラクレイオスがドワーフで肩車してもらって伸び上がっても、見えないところはやはり見えない点だ。それにヘラクレイオスは自分でしっかり歩ける子供より、年少の子供優先なのでなかなか肩車の順番は回ってこない。まさかクリスに頼むわけにもいかないし、なによりクリスは旗手なのだ。これは騎士だったら名誉な役なのだとは、案内役から解説済み。
 セレストとウェルスは老人達が遅れないかどうかと目を配っていて、あれこれと話しかけてくるのも相手をしていた。あまり歩くのが遅れても次の順番の人々に迷惑となるので、適時そうと分からない程度に先を促したりする。
 サーラの周りに若い男性が多いのは、もちろんまったく気のせいなどではなく、華やかな雰囲気のある踊り手に皆よろめいているだけなのだが‥‥よろめかせているサーラ当人は周囲のそうした様子に頓着せずに、昨日の内に覚えておいた四方山ごとを話して聞かせていた。
 第一陣は、そんなところで平穏無事に送り返して、第二陣。先程はミサの準備で、正装した神聖騎士様を拝めたと喜んでいたのだが、今度はミサに参加する人々である。ひょっとすると貴人と会えるかもしれないと、案内されている人々は浮ついた雰囲気で、案内役達は緊張に満ち満ちている。冒険者達は、王城の正門方面に国王への直訴だか、華美に見える祭典への不満だかで人が集まっていると聞いて、周辺への警戒を強めていた。
 そのはずだったが。
「見付けたなのーっ。白いマントの人っ。あの人、偉い人だと思うの」
 一度巡った回廊のずっと先、そちらには入れないところを指差して、ミュウがうきうきと声を張り上げた。第一陣の子供達とは、庭の花が可愛いとか盛り上がっていたのが、今度は『偉い人発見』に興味を移していたらしい。もちろん案内していた人々は、説明も聞かずにわっと移動している。
 なにしろ白いマントといえば、ブランシュ騎士団だ。遠目でも拝んでおかねばならない。
 その前後で、誰かが不穏ないし無礼な動きをしないかと様子を見守っていた冒険者五名は、人々が『ご領主様がいるよ』と安堵したように言うのを聞きつつ、騎士見習い達が今にも膝を付いての最敬礼になりそうなのも目撃し、それぞれ対応を考えている。
「エルフでブランシュ騎士団員で、日本刀をお持ちで、茶のマント留めとなると‥‥何人もおいでかも知れんが、わしもお一人は名前を存じておるよ」
 ブランシュ騎士団員は八つの分隊それぞれが、隊の色を決めてマント留めなどにあしらうのだと教えてやりつつ、ヘラクレイオスが髭をしごいた。態度を決めかねているようだが、先方はこちらの姿を認めて近付いて来ている。まずは礼儀正しく、皆にも頭を下げさせた。
 そしてそこまで来ると、セレストにも相手の名前が分かった。他の四人は、『もしかすると』だ。でも名前が分からない『ご領主様』の言葉で、誰にでも分かるようになった。
「こちらはヨシュアス・レイン様、ブランシュ騎士団長様だ。騎士団長様も国王様も皆のことを気にしてくれていて、今まで何回も相談に乗っていただいているのだ」
 また皆のところにも立ち寄って説明するから、困ったことがあればその時に。そう言う『ご領主様』は、クリスやウェルス、セレストが見たところそんなに気の回るお方ではなさそうだ。それでも皆を安心させられることが言えるのは、多分に騎士団や王城の文官など復興に携わる者から細かい支援を受けているのかもしれない。もしくは、領主が言わねば今後に差し支えるとして、厳しくそうさせられているのか。
 案内役達は見習いだからという以前に、復興関係のことは『領地の方から説明がある』と棒読みしていたが、ちょっと安堵したところを見るとこちらも言わされていた気配が濃厚だ。ミュウのように、『うわぁい、すごい人』と喜んでいる人々は、細かいところまでは気にしていないのだけれど。ミュウなど、子供に紛れてヨシュアスに頭を撫でてもらっている。
 何を見物したのか、そこまでのことはすっかり頭から抜けてしまったような人々が、それでも大きな失礼もなく騎士団長一同を見送って、ほんの僅か後。
 教会に繋がる道の方から、騒動の気配が伝わってきた。明らかに捕り物調の声が交わされて、騎士見習い達がそちらに向かい掛けた途端に途切れている。
「あちらは当代一の腕前の皆様でしょう。私共はこの方々を無事送り出すのが仕事と考えますが」
 浮き足立った騎士見習い達が、ウェルスの言葉に顔を見合わせて、確かにその通りだと頷いた。急に歩みの止まった彼らに、何も気付かない人々が首を傾げている。
「皆さーん、うっとりして転ばないようにしましょうねー」
 クリスが旗を振りつつ、一番前を歩き出した。そのすぐ後ろで、転んでしまったミュウがサーラに抱き起こされているので、思わず笑ってしまった者が何人も。
 一番後ろは騎士見習い、中程をセレストやヘラクレイオス、ウェルスが周囲に目を配りつつ予定されていたところを回り終えて、第二陣は夢見心地で帰っていった。
 第三陣が来る前に、最近の災厄は政が悪いからだと不満を募らせた地方貴族が、騎士団長の姿を認めて刃物を抜いたための騒動だったと六名も聞かされたが、そういう愚かな行動で何が変わるのかと思っている。
 ただ。
「慈愛の母の言葉を受けられない王は紛い物だなどと口走ったそうで‥‥」
 もう絶対に許せないと、そんな表情で口にした騎士見習いの少年には、表情を和らげてもらうのにあれこれと持ちえる技能を披露したりもしていた。
 第三陣は、ミサの後にそぞろ歩く貴婦人を多数眺め、時々声を掛けられて、目を丸くしたまま帰っている。

●祭りの後
 煌びやかな世界を垣間見ても、それを妬むほどひねくれていない人々は、一昨日と同じ生活に戻っていた。珍しいものを見て、パリも悪くはないところだと思っているようだ。領主も様子を見に来てくれて、安心したのもあるだろう。
 そういう様子が続くようにと、皆色々と出来ることを手伝っている。
 すっかり子供に懐かれたウェルスは子守、裁縫が得意なセレストは繕い物、ヘラクレイオスは鍛冶の腕を活かして生活用具を整え、クリスとサーラとミュウは料理や片付けに勤しんでいる。
 バードだと言ったクリスが、何か弾いてみせてとねだられて、それにサーラとミュウが卓越した踊りを合わせたのが、人々にはもう一ついい思い出になったことだろう。