素敵?なお茶会への招待〜本人多忙に付き

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月10日〜06月17日

リプレイ公開日:2007年06月18日

●オープニング

 冒険者ギルドではお茶会ウィザードで通る、アデラという女性がいる。
 確かにウィザードで、月道管理塔にお勤めし、昨年騎士の夫を迎えて、亡き兄夫婦の遺児である姪四人と暮らしている、小金持ちだ。なにしろ広い庭付きの家だけでなく、パリ郊外には畑まで持っているのだ。それで勤め先もいいところとなれば、それはもう生活には困らない。大金持ちではないが、立派な小金持ちである。
 代わりというかなんと言うか、失笑を禁じえないほどに変な雑草茶を作って、平然と他人に飲ませようとすることで冒険者ギルドでは有名なのだが、彼女はいいお客様でもあった。最近は二ヶ月に一度だが、定期的に『冒険者とお茶会をしたい』と依頼を出してくれるからだ。

 ある朝のこと。
「おばちゃん、お金をちょうだい」
「あらまあ、マリア。何が欲しいの?」
 本日も忙しく仕事に出かけようとしていたアデラの前に、姪の双子マリアとアンナが立ち塞がった。二人ともに手を突き出して、『金くれ』と態度でも示している。
「アンナもお買い物がしたいのね。でも無駄遣いは駄目よ?」
「冒険者ギルドで依頼を出すのよ。それに掛かるお金をちょうだい」
 アンナとマリアはウィザードの修行中だ。まだ八歳で、当然修行も発展途上。師匠は親の代からお世話になっている方だが、何かと忙しいので二人を毎日見てくれるわけではない。だからこの日の二人は、宿題をしに王宮図書館に出向く予定なのだが、ついでに冒険者ギルドに行きたいようだ。
 なぜなら。
「お茶会の依頼出してないでしょ!」
「約束したことはちゃんとしないと、またいきなりおうちに訪ねてきちゃうんだからね!」
「それでもいいけど、ちゃんと依頼しておけばご馳走が食べられるもの!」
「そうよ! おうちの事もしてくれるしねっ」
 アデラが冒険者を呼んでお茶会をするときは、ご馳走が並ぶ。更に冒険者には料理上手が多いのか、アデラが作れないような凝った料理もたくさん作ってもらえるのだ。双子が期待しているのは、それらしい。
 ついでにアデラと夫のジョリオが最近たいそう忙しく、双子を含む姪っ子四人と手分けしても、家のことが色々と行き届いていないのも子供心に思い悩んでいたらしい。それで人を使って何とかしようと思うあたりが、一般的な家庭の子供ではないが、まあ家は小金持ちだから。
「せっかくだから、ちゃんとお茶や畑のことを教えてもらって、困らないようにするのよ」
「鶏も増え過ぎちゃったから、なんとかしないとお隣のおばちゃんに怒られるしね」
「そうしたら、いつもの三日じゃ足りないわね」
「せめて一週間は通ってもらわないと」
 勝手に相談をまとめた二人は、一週間分の冒険者の食費の約束もアデラから取り付けて、意気揚々と出掛けていった。

 それ以前に、アデラと双子の会話が始まってから。
「あたしは料理が習いたいんだけどって、ちゃんと言っといて」
「食料庫のワインも酸っぱくなっちゃうから、飲んでくださいってお願いしないと駄目よ」
「行き帰りは気をつけるんだぞ。大人がたくさんいるところを通って、明るいうちに帰ってきなさい」
 やはりアデラの姪で、双子の姉であるルイザとシルヴィ、彼女達の叔父になるジョリオは、てきぱきと身支度をして、それぞれ仕事に向かっていった。
 そうして、アデラは。
「お茶会の日は、服や身の回りのものを白いものにしましょうねってお約束しましたのよ。お庭でお茶にしたほうがいいですわよね。ちょっと散らかしてますから、お片付けもよろしくってお願いしてきてくださいな」
 なんにも悩まずに、二人の姪に仲介料を手渡している。

 アデラのお茶会。
 それは金銭的には無報酬だが、多少の労力と引き換えに人の家の台所で料理し放題、飲食し放題の依頼である。
 今回は、庭の畑の手入れと、最近やたらと増えた鶏の世話と処置と、それからお茶会の準備をすることが求められている。

●今回の参加者

 ea3776 サラフィル・ローズィット(24歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea4078 サーラ・カトレア(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 ea9960 リュヴィア・グラナート(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 依頼の初日、お茶会仲間のサラフィル・ローズィット(ea3776)、サーラ・カトレア(ea4078)、リュヴィア・グラナート(ea9960)、セレスト・グラン・クリュ(eb3537)がアデラの家を目指していた。
 今回お茶会二度目の、『ワイン飲んでください』に心惹かれたヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)も一緒だ。
 時間は、普通なら他人の家を訪ねる時間帯ではない。けれどもアデラの家の人々は、もう少しすると出掛けてしまうので、早めに出て来たのだ。
 それでも一行が目的地に着いたとき、ジョリオはすでに仕事に出向いていた。ルイザは仕事道具を小脇に抱え、アデラとシルヴィも似たような様子で、マリアとアンナは居間で書き物用の石板を布で包んでいるところだった。こちらもそう遠からず出掛けていくだろう。
 礼儀正しく挨拶を交わした一同は、素早く家の中の様子を確認しつつ、出掛けていく人々を気持ちよく見送った。ヘラクレイオスも初対面ではないし、他の面子は今更何をである。
「これはなかなか腕の振るい甲斐がありますわ」
「鶏さんが暴れているようですね」
「畑の雑草もはびこりだす季節だな」
「なんでも滞りなく進めないと、あっという間に同じ状況に戻ってしまうから‥‥」
 サラは汚くはないが、妙に雑然とした家の様子に闘志を刺激され、サーラは家の外から聞こえる鶏の鳴き声に耳をすませている。リュヴィアは前庭の様子から、畑もかなりのことになっているだろうと予測して、セレストも何から手をつけようかと考えていた。
「力仕事はなんでも任せてくれて構わんよ。労働の後のワインは、格別じゃからのう」
 ヘラクレイオスは、目的のものに思いをはせている。
 そんな彼以外が、ここでふと気付いた。
「しまった。食料庫!」
 セレストの号令ではないが、その一言に反応して、女性四人が家の中を突っ走る。目指すは台所横の食料庫だ。他に地下室もあるので、四人は的確に二手に分かれた。
 出遅れたヘラクレイオスは、セレストとリュヴィアが『何をしている』と叫んだ方向へ向かう。
 そこで見たのは。
「ここはおいらのものだからね。今回は全部食べていいんだから、渡さないよ。早いもの順さっ」
 両手に乾燥果物を持ち、食べ物が詰まった頬をねずみのように膨らませ、小さな体全体で『入るな』と食料庫の入口に頑張っているマート・セレスティア(ea3852)だった。家人に断りもなく、入り込んでいたらしい。
 壮絶な押し問答の末、マーちゃんはサーラが卵拾いをすると聞いて、庭に飛び出していった。一緒に拾って、もちろんその場で味わうつもりだ。
 残る四人の最初の仕事は、その食料庫の品物を片端から台所に運び出すことと、マーちゃん対策の朝食残り物を目立つところに出しておくことだった。
「この乾燥しちゃったパン、食べるかしら」
「置いておけば、迷わず口に入れるでしょう」
「ワインは勿体無いから、水だな」
 これだけ見れば、ヘラクレイオスもいつもの様子が分かろうというものである。ワインを隠しておくのは、彼も大賛成だ。
 その頃の裏庭では、
「ひゃっほーい」
 マーちゃんが当初の目的を忘れて鶏を追い回しており、その隙に卵拾いに勤しんでいるサーラがいた。

 さて、本来仕事はたくさんある。
 その中の一つにして、もっとも重要かもしれない『ご近所付き合い』の手助けに立候補したのはサーラだった。彼女はパリでは相当知られた踊り手だが、相手がそれを知っているとは限らない。ついでに隣人がどういう人かをアデラ達に尋ねるのも忘れていた。
 よって、相手がよほど変わり者ではない限りはこの服装で大丈夫という、セレスト作成の白い簡素なドレスに帽子を被り、手土産の卵を持って出掛けた。
 サーラは物腰が丁寧な上、職業柄身のこなしが軽いし姿勢もよい。口調も丁寧かつ冷静で、もちろん隣人にはアデラの代理として日頃の鶏のご迷惑をお詫びして、手土産も押し付けがましいことなく渡すのに成功した。
 ところが。
「最近は二月に一度くらいですけれど、アデラさんのお招きを皆さんも楽しみにしています。ここしばらくお忙しいようなので、お手伝いをすることになりましたけれど」
「あらまあ、そうなの。あのおうちはね」
 サーラは用件を果たしたが、帰れなかった。彼女も早くに察したが、お隣はおしゃべり好きだ。先程、彼女達が繰り広げていた鶏との騒動も聞こえていて、男の子の声は誰かしらとか、根掘り葉掘り尋ねられていた。返事をする暇もないほど、相手が喋り捲るので、サーラは自然と無口になっているが‥‥
 彼女は半日ほど、『どうして戻ってこないのか』と心配されていた。

 この頃、隣人に噂されていたマーちゃんは、そんなことなど露知らず。
「このパン、ちょっと固いよ」
「じゃあ、鶏にあげますか?」
「いいよ、おいらが食べるから、お代わりは美味しいのちょうだい」
 台所の隅で、傷みかけ食材の消費に勤めていた。

 邪魔者がいない隙に、庭で立ち働いていたのはセレストだ。食材整理は他に任せて、雄鶏の捕獲中である。二羽も残してあればいいと言われているので、結構な数が捕獲対象だが‥‥下手なモンスターより捕まえにくい。小さいし、飛び跳ねるし、相手により突付いたり蹴ったりと攻撃もしてくる。皮手袋を用意してこなかったら、相当痛い目を見ていたことだろう。
 途中で庭の隅に一羽ずつ追い込むこつを飲み込んで、用意されていた籠に全部追い込んで、今度は肉屋に担いでいかなくてはならないが‥‥それはヘラクレイオスが担当してくれた。

 この時、お茶会のご馳走になるべく残された雄鶏一羽は、誰が絞めるかちょっと問題になりかけたのだが、
「これ、料理になるの? 鶏はね、首を落とすんだよ」
 外見に似合わぬことをさらりと口にして、マーちゃんがすぱんとやってくれた。ご馳走になるものには、情け容赦がない。
 食材に早変わりした鶏は、サラやセレストによって捌かれている。

 初日を水遣りで潰したリュヴィアは、二日目には双子を前に香草の摘み方を教えていた。
「これは葉が枝分かれしているところを摘む。そちらは葉っぱだけ摘むんだ。他のところをお茶にすると、渋いものが出来上がるぞ」
「おばちゃんが、時々失敗してる」
 本当に時々かと思わなくもないが、アデラのお茶指導は集中してやらないと駄目なので、やってもかなり駄目だという考えは振り捨てて、まずは双子に基本的なことを教える。摘み方の他には、もちろん世話の仕方だ。なんでも、水をたっぷりやればいいというものではない。
「この辺りは、地面が乾燥したら湿らせる程度に水遣りをする。そこは天気がいいならたっぷりやらないとすぐに萎れてしまうからな」
 幸いにして、マリアもアンナも飲み込みがよく、叔母の二の舞は避けられそうだ。リュヴィアはそれが大変に喜ばしいことだと思いつつ、なんとなく寂しさも感じている。
「今度、おばちゃんにお願いして、あたし達がお茶会してあげるね」
 こう言われて、真夏になったら暑さに負けないような料理とお茶で一席と考えていたリュヴィアだが、にこやかに答えていた。
「それは楽しみだ。何が出てくるかな」
 日差し避けの帽子が大半を隠してくれたが、彼女はかなり笑み崩れていた。

 そんな光景とは関係なく。
「これ、まだ食べられないなぁ」
 木苺の木を眺めて、指をくわえているマーちゃんの姿があった。
 彼は今とても真剣に、いつ来たら木苺が熟しているだろうかと考えている。

 亡父の友人が定期的に届けてくれるけれど飲みきれないと、アデラが口にしたワインは六樽ほどあった。うち二樽が相当風味も飛んでいる、古ワイン一歩手前。
 一日目、二日目と、隣人勘違いの『パラのお子さん』にきーきー言われつつ、ヘラクレイオスは心置きなく夕暮れには力仕事後の手酌を楽しんでいた。家中の刃物は全部研ぎ、農機具は片端から手入れをし、手入れ方法も双子とちょっと顔を出したジョリオに説明した。あった丸太はすべて薪にし、三日目はとうとう物置の修繕までしてしまう。明日はルイザが仕事先の刃物を持ってくるので、それを研いでやる約束だ。
「ワインの風味が変わるのも、主の思し召しであろうし、古ワインにも味わい方がある。じゃがやはり、せっかくのお恵みはそのまま頂くのが主の思し召しに叶うというものじゃ」
 これで明日も気持ちよく働けると、用意された肴をつまみつつのヘラクレイオスの気分よさ気な独り言は、皆もその通りだと思ったものだが‥‥
「あれは飲んでよかったのか?」
「アデラ様は、全部空になっても構わないと」
 幾ら皆で飲んだとはいえ、今ヘラクレイオスが手をつけているのが三樽目、それも半分はなくなっているという事実の前に、なんとも言えない空気が流れてはいた。

「これはおいらのワインだからね」
 六樽あるなら、一つは自分の。他の人のは、皆親切だから分けてくれる。
 とても勝手な考えで、マーちゃんはまだ手が付けられていない樽の一つに自分の名前を書き込んでいた。

 セレストのもう一つの仕事は、ルイザに料理を教えてやることだ。サラも手が空いていればやってくれるが、こちらはマリアとアンナへのお茶の指導に忙しい。
 それで二人で持て成し用のパンや鶏料理を作るついでに、どうしてお針子になろうと思ったのかを尋ねてみたら、一言『好きだから』と返ってきた。亡くなった人も含めて家族に裁縫が得意な人はいないのだが、ルイザだけは好きだし、相当器用だったらしい。
「確かに、親御さんがウィザードだからって、仕事を継がなければならないわけではないものねぇ。シルヴィちゃんもバードだし」
「好きでやってるからいいの。あたしは料理上手のお針子になって、玉の輿を目指すわ」
 ませた女の子の言動に、セレストがやや振り回され気味。母親ではあるが、よその子供相手は勝手が違うらしい。
 セレストの指導の下、将来のお料理上手は、とりあえずお料理上手への道、見習いから始めている。

 万年子供のマーちゃんは、料理用に用意された山羊乳を、現在がぶ飲み中。
 追い回されるまで、あとちょっと。

 この家の女主人であるアデラのお師匠様サラは、六日間というものとても忙しかった。この家の事を、もしかしたらアデラ以上に知り尽くしている彼女は、毎日十二人分の食事の支度を取り仕切り、家中の掃除の手順を指示し、お茶会の用意も担っている。
 そして現在の悩み事が。
「アデラ様、貴女がそれでは、他の人達に示しが付きませんでしょうに」
 この日は遅出だというアデラが、家の中の見違えるような変わり振りに感激した後、翌日のお茶会用はこれにしようと引っ張り出してきた衣装である。発案者はリュヴィアだが、アデラも『白いものを身に着ける』と条件に出したはずが、すっかり忘れ果てて緑色の服を示したのだ。この調子では、四人姉妹も服のことは忘れ果てている可能性がある。
「お召し物は選んでおきますから、早くお仕事にお出掛けください」
 家主を送り出し、その部屋に入って、何の躊躇いもなく衣装戸棚から今の季節を取り出したサラを、他の人々はそれほど不思議にも思わない。サラはジョリオ以外の全員分でそれをしたので、しまいには女性四人が揃って、翌日の家主家族の着るものを選んでしまっていた。
 もちろんお茶の用意も万端、翌日の料理用どころかしばらく困らないだけの鮮度がよい食料を買い出してきて、それをきちんと食料庫に収めたサラの新たな悩み事は、
「見付からないようにしませんと」
 食欲魔人対策だった。これは難問だ。

「おぬしもそろそろ待つことを覚えてはどうじゃ。空腹は最高のソースと言うぞ」
「やだーいやだーい。そんなことしたら、おいら、死んじまうよ!」
 男性陣は、過去に限りなく交わされ、今だどうにもならぬ問題に触れつつ、ヘラクレイオスだけがお茶会の準備でテーブルなどを出していた。

 そうして、お茶会当日である。
 この日の条件は、全員が白いものを身につけること。上から下まで白くなくてもいいのだが、サラは普段からそんな感じに加えて、いつもは彩りにしているリボンも白っぽく。
 サーラはセレストに貰ったドレスが、そのまま使用できている。手袋を白で合わせて、ちょっと格式が高いお招きのような様子だ。
 リュヴィアは真っ白とはせず、緑基調に白を合わせた服装で、雪玉のようなものを連れているのは多分白いからだろう。冷たいので触ると気持ちもよい。
 セレストは白い上着に青いスカーフを合わせているが、手にしているのは銀のトレイ。当然白っぽいが、本来の用途以外に『当たると痛い』と有名な代物だ。
 ヘラクレイオスは騎士の略装に白い手袋を合わせて、礼儀正しくやってきた。でも懐から取り出したのが漆塗りの酒器。残っている樽は一つ半だが、それが楽しみなのだろう。
 マートはいつもと同じ姿。いつものように手にはデザートナイフを携え、仮にそんなものがなくても、どうせやることは変わらない。
 迎えるアデラ達は、ジョリオが準礼装程度の白地に緑の縁取りがされた上着を着ている以外は、皆、選んでもらったものを着ている。リボンを追加したルイザ以外、ものの見事に選んでもらったものを、言われた通りに着て出てきた。
「本日の料理は、ワインに合うものを頼んでおいたが、お茶会なのでもちろんお茶も楽しまねばな」
 お茶の葉の選定は、相変わらず厳しいリュヴィとサラがアデラの用意した『干からびた危険な雑草』を排除しているが、『口に入れても害はない』ものは残されている。基準がヘラクレイオスには分からないのだが、他の人々は気にしないので、彼も気にしない。ワインのほうが、彼の主目的だし。
 幸い、今回は習ったことを披露したい双子がお茶の準備をやることになり、変な雑草は使われないまま終わりそうだ。アデラも姪の成長を喜んでいる。
「本人も成長してくれれば‥‥」
「それは夫の役目でしょう」
 ジョリオの泣き言は、セレストに切って捨てられ、リュヴィアに生暖かく見守られ、サラに深々と溜息をつかれた。
「あの畑があって、この有様では」
 サラも困ったようなことは言うが、害がないからと雑草を残したのも彼女である。
 ジョリオはサーラに話題の転換を求めてたが、彼女はルイザと共に、セレストに習って作った燻製をアデラに供している真っ最中。まるで気付いてはいなかった。
 そうして、一番頼りになりそうな、もう一人の騎士殿は。
「ワインは皆で楽しむものじゃ!」
「おいらの! 飲んだら駄目!」
 酒好き魔人と化していて、何の助けにもならない。
「ジョリオ殿、このお茶は爽やかな味がするぞ」
 雑草を残したもう一人のリュヴィアが、無闇ににこにことしながら、本当に爽やかですっとするお茶を勧めている。
 それを飲んでもすっとしない人を一人含んで、お茶会はいつも通りに、和やかに進んでいるのだった。