ドラゴンハウス建設
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:7人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月15日〜07月30日
リプレイ公開日:2007年07月24日
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●オープニング
狭くないが、古ぼけた厩舎に、疲れ果てた声が響いた。
「どうして、お前達はそんなにわがままなんだ。皆ちゃんと世話をしてくれているだろう」
風体卑しからぬ騎士の前には、彼と兄弟達の愛馬数頭とフィールドドラゴンが一頭。どちらも興奮気味に足を踏み鳴らしている。戦闘馬とフィールドドラゴンが騒ぎ立てるなど滅多にないことだが、なまじオーラテレパスで騎士と意思疎通が叶っているものだから、懸命の自己主張に勤しんでいるようだ。
彼らの主張は唯一つ。馬達はフィールドドラゴンと、フィールドドラゴンは馬達と、
『もう一緒に住みたくない』
と言い募っているのだ。
確かにいかに訓練されて勇猛果敢な性質とはいえ草食動物の馬と、思い切り肉食獣のフィールドドラゴンが同居しているのは、双方にとって好ましいことではないだろう。ただフィールドドラゴンは非常に温厚な性質で、食事の際には厩舎の外に出ることを厭わず、同居している馬や他の家畜は餌と見做していないので、かろうじて同居生活が叶っていたのだが、最近状況が変化した。
馬の数が増えたので、今までより少しばかり狭くなったのだ。すると馬達とフィールドドラゴンの仲は、ちょっと険悪になってきた。
狭い。もっと広いところがいい。
なまじ態度だけではなく、意思疎通が出来る相手がいたので、その主張がただいま爆発中。それぞれ個室が欲しいと訴えていた。馬達は、とりあえず自分達だけの厩舎をくれと騒いでいる。
「お前達は気性が荒いし、お前は見てくれが怖いから、快く引き受けてくれる大工が見付からないんだ」
建て直してはやりたいが、戦闘馬達はよほど馬の扱いに慣れた相手以外には従わず、威嚇行動を取るし、フィールドドラゴンは何もしなくても怖がられる。更にこちらも慣れない相手の言うことは聞かない。
よって、工事が入ってもどちらも作業の邪魔だ。あいにくと世話係は色々仕事を兼任していて、つききりで世話は出来なかった。
これが領内であれば、使用人も多数いるし、多少のことでは動じない大工のあてもある。が、キエフでそうした伝手がないので、困っていたのだが‥‥
「冒険者ギルドに頼んでみたらどう? あそこには大工もいるらしいよ。少なくともフィールドドラゴンで怖気づいたりしないだろうから」
兄の提案で、騎士は冒険者ギルドを訪ねることにした。
●リプレイ本文
これはまず、小屋の建設など覚束ない。
依頼を受けた全員が集まって、現地へ向かう前に顔合わせをした際に、ゼロス・フェンウィック(ec2843)はそう判断した。同様のことはエイル・ウィム(eb3055)、キリル・ファミーリヤ(eb5612)、イオタ・ファーレンハイト(ec2055)など、厩舎建設を中心に携わろうかと思っていた人々も同様だ。なにしろ本格的に建築を学んだものが一人もいない。
元々依頼人も今回完成させろといっていたわけではないし、まずはフィールドドラゴンや戦闘馬が近日別居を納得してくれる状況を作るのが先かと、しばし話し合って、ゼロスの発案で専門家に図面を引いてもらうことにした。
その話し合いの傍らで、馬やドラゴンの世話を主体とする予定のサラサ・フローライト(ea3026)、リュンヌ・シャンス(ea4104)、ユラ・ティアナ(ea8769)は、
「軍馬はまだしも、普通の馬や驢馬にはさぞ怖い同居だろうな」
サラサの一言で、今回問題になっている以外の同居動物達の苦労を思っていた。我が身に置き換えたら‥‥
七人全員、間違っても同様の事態には陥りたくないと思った。
まだ会っていない生き物の考えていることはさておいて。
ゼロスが代表で図面引きを頼んだ大工の親方は、現地の様子が分からないと図面の引きようもないと悩んだが、金払いはよさそうな貴族の館でもフィールドドラゴンのいるところに行くのは腰が引けるようだ。見たこともないのに、妙に恐ろしい生き物だと思っているらしい。
仕方がないので、ゼロスとエイルとが図面引きに必要な確認事項を説明してもらって、それを確かめたら知らせることにした。幸いサラサの友人が一日だけ手伝ってくれるので、確認事項も書いておけば届けてもらえる。親方が字の読める相手で何よりだ。
そうして少々時間は掛かったが、キエフを出発した一行は昼前には目的の場所に到着した。リュンヌとサラサ以外は馬を連れていて、サラサは自前の、リュンヌは借りたセブンリーグブーツで歩くよりは早く進めたからだ。それにリュンヌが何度か依頼で訪ねた場所なので、迷うこともない。
到着してみると、フィールドドラゴンが庭でのうのうと日向ぼっこの真っ最中だった。滅多にお目にかかれるものではない。
「よほど良く慣れているのだろうな」
「世話も良さそうですよ」
「贅沢を言うのも納得ね」
「普通は二メートル半と言うから、少し大きい? ペットで飼うには、なかなか手間の掛かる生き物かもね」
「‥‥ペット?」
キエフの冒険者街は変わった生き物が闊歩する場所で、多分フィールドドラゴンも誰かが飼っているだろうが、ナイトや神聖騎士のイオタ、キリル、エイルにはなかなか手に入らない騎乗動物という認識がある。更に珍しい生き物の幾つかがそうであるように、フィールドドラゴンは信頼した相手以外は乗せない頑固者だった。
よってユラの『ペットで飼う』にいささか首を傾げ、モンスターとして知識のあるリュンヌは珍しく思い切り不思議そうだった。
「道楽かどうかは聞いてみればいいだろう。いつまでも眺めていると、機嫌を損ねるぞ」
怪しい輩だと思って襲って来たら困ると、あまり心配はしていなさそうにサラサが口にして、すたすたと建物に向かっていった。けれどもその割に薬草園らしい場所の傍らで足が止まってしまい、イオタとキリルが来意を告げる羽目になっている。
ちなみに。
「あれは我が家の貴重な財産で、戦力だ。社交界で自慢も出来るし、以前に盗賊退治で活躍してな、以来領地ではあまり事件も起きない」
年に二百枚の金貨を食うものを、道楽で養えないと依頼人のトリスタが怪訝そうに説明してくれた。冒険者には何頭も珍しい生き物を飼っている者がいるとユラに聞いて、同種がいれば子供を産ませたいのだがと真剣に悩んでいる。あの大きさと顔で雌か、と何人かは思った。
こんな寒い土地で、温暖なところに住むのが普通だろうフィールドドラゴンが役に立つのかどうかは話だけでは不明なので、トリスタに引き合わせてもらう。この日は軍馬は二頭しかいなかったが、彼の父親と兄達が度々出入りするので、これより減ることはないそうだ。引き合わされた二頭は騎乗の心得がなくても分かる、気位の高そうな馬だった。
他人をどうやって判別しているかは分からないものの、念のためにサラサがテレパシーで全員の名前を教えたが、それは記憶していないだろう。判断基準が個々人より、主の敵か味方か、近くにいていい者かどうかというところに比重を置いているようだ。駄目と判断したら、多分蹴り殺す気持ちで向かってくるだろう。戦闘馬に共通する忠誠心ではあるが、確かに気性が荒い。気配だけで剣呑だ。
ドラゴンはもう少しのんびりした性格だが、あいにくともともとの性質が肉食で荒い。更に大きいので、気の弱い馬や驢馬は近付けられたものではなかった。ここで飼われているものは、生まれたときからの付き合いで程々に慣れているようだが‥‥危険なのはペットの猫と兎。生きたものは食べなくても、尻尾の一振りで殺される可能性がある。
「連れてくるな、こちらはドラゴンの世話と言ったのだから」
トリスタは冷たいが、小型愛玩動物の囲いは使用人が納屋に用意してくれた。彼らの馬や驢馬は厩舎に入れられないので、屋根だけテント用の布で葺いた囲いの下。
「では、さっそく計量を始めようか」
ゼロスが厩舎建設用地の確認をすると、一応ドラゴンにも宣言し、サラサが代理で伝えたところ。
『ここ、大きくね』
ドラゴンは、場所の指定をしてきた。それは、庭の中で一等地である。結局トリスタの指定で、もうちょっと別の場所になった。
専門家の指示を守って、言われたとおりの測量をするだけなら、皆で力を合わせれば達成できる。しかし、図面が出来るまでに何日か掛かるし、考えてみれば庭の草地に建物を建てようというのだから、下準備も重要だ。
問題は、地面がまっすぐ平らが確認するのにも、集まった七人では技術が不足したりしていることだが、ここまで来たら少しずつでもやるしかない。なにしろ毎日、ドラゴンが庭に出てきて作業の進展具合を見守っている。
幸いなことに体長三メートルに少し足りない彼女は、人の建築作業の速度が遅いことなどさっぱり気付かず、かなりのご満悦であることだ。その調子で鶏三羽分の肉をあっという間に平らげているのを見たときには、キリルは自分の兎を絶対に見せないようにしようと誓っていた。
この建築関係を行なう四人は、まず草地をならすところから始めた。草は一通り抜いておかないと、万が一に伸びてくると土台を傷める。ちまちま抜くのは大変なので、風向きを確かめて、延焼しないようにした上で焼いてしまう。
後は、建物の内部になる場所を延々、延々と四人で突き固めている。柱が入りそうなところは避けて、平らにするだけと言えば言えたが、これがなかなか大変だ。イオタが以前とに家を建てているところで目撃した作業の見よう見まねだが、慣れないので力加減が難しく疲れやすい。エルフのゼロスはどうしても他の三人ほど長く作業できないが、致し方ないだろう。代わりに一度キエフに戻って、設計図面を取って来た。
その間も、他の三人は地面を突き固めている。最初に計れと言われたところが思いのほか広いので、ようやく終わったのは図面も届いて、次の作業が判明した頃だった。
次は、柱を立てるための穴を掘る。土台も必要なので、深く掘る。
四人がいささかげんなりした顔を見合わせたのも、仕方のないことだろう。上機嫌なのは相変わらずドラゴンだけだ。
さて、かたや馬とドラゴンの世話係はと言えば、こちらも手を焼かされていた。
「飼葉まで違うか。まあそんなものなのだろうな」
サラサは戦闘馬と荷役馬、驢馬の餌の違いを教えてもらい、山と用意された飼葉を配合している。それも馬によって好みがあって、細かいところで分量が違っていた。植物を弄れるのなら文句はないサラサも、こんな細かい好みにまで対応するとは考えておらず、ちょっと自分の驢馬を心配した。
ここで口が肥えて、キエフで手に入る餌が嫌だと言い出したらどうしよう、だ。幸いにして、彼女の相棒はそこまで我侭は言わなさそうであるが。
リュンヌも同様の作業のほかに、率先して驢馬や荷役馬のいる囲いの中の掃除などもしていた。戦闘馬は自分が将来も持つ予定がないせいか、それほど強い興味はないらしい。いずれ手に入れるかもしれない驢馬達の方が、世話の経験をしてみたいようだ。ドラゴンにも恐れ気なく近付けるので、別に戦闘馬が怖いわけではない。
ただ。
「ソフィアは元気かしら?」
トリスタの従妹のことを、彼の愛馬に尋ねてもきっと知らないだろう。人に対しては非常に無口なリュンヌは、動物相手だと少し話しかける。この問い掛けは巡り巡って、トリスタから『前よりよほど元気に本宅で暮らしている』と返事があった。当人はとても満足している。
ところがユラは満足とは程遠いところにいた。ドラゴンに乗れないのは残念だが、そのドラゴンも、他の馬も驢馬もすべて、彼女の世話を一度も嫌がったことはない。気位が高い戦闘馬達は態度が『なかなかやるじゃないか』と生意気なのに変わりないが、そんな風に認めるだけでも滅多にないことだと使用人達は感嘆していた。ユラも、そのくらいの力はあると自負していたので、それは良い。
けれども、そうとなったら戦闘馬達は。
「今日の走り込みはもう終わり。どうしてもと言うなら、私を乗せてもらいましょうか」
普段、主以外は使用人にいる騎士見習いの少年しか乗せない馬達は、主が多忙だと一頭ずつしか走れない。現在もその状況に変わりはないが、ユラのノワールか、イオタの戦闘馬と一緒に走り込みが出来るので、競争心がいたく刺激されるようだ。ノワールの負担などもちろん考えず、さあ行こうと四頭が順番に騒いだので、ユラはこめかみを押さえていた。頭痛がしそうだ。
「キミ達は‥‥何度も走れません。後は散歩です」
荷役馬と驢馬は、元々走る脚力に期待されない分、毎日リュンヌやサラサに引かれて散歩しているだけなので、ユラは一定時間以上は戦闘馬も人が乗らなくても出来る訓練法で鍛えている。だがサラサが通訳に入ると、我侭の雨嵐だ。
話が通じるサラサもだが、態度で大体気分が分かるユラは、言うことを聞かない連中に手を焼いていた。
気持ちが分かりすぎるのも、考えものかもしれない。
依頼人であるところのトリスタは、建設の完成見込みが立たない状況でも苦情は言わなかった。ついでに設計図面の代金も支払っている。
「夏場は、窓を開ければ十分しのげるらしいからな。冬場の対策はこれだけ考えてくれれば足りるだろう」
煙突は金属製だと火傷したら困るとゼロスと相談しつつ、作業の進行状態を確認していたトリスタは結局領地から大工を呼ぶことにしたらしい。ドラゴン達も落ち着いて、他人を威嚇しなくなったので、今なら頼めると考えたようだ。その引継ぎの日にはいないからと、ゼロスに頼んでいる。
実はゼロスも図面を書いてくれた親方に一度現地を見て欲しいと頼んでみたのだが、強硬に辞退されたので引継ぎが出来れば肩の荷が下りる。もう少し進められれば良かったが、一軒家を建てるのと同等の工程はちょっとどころではなく厳しかった。
キリルは作業の合間にはなかなか近寄る時間もなかったドラゴンに興味津々で、一度などトリスタに頼み込んで厩舎で寝かせてもらったことがある。翌日、皆に感想を聞かれた彼は、明らかに寝不足の顔でこう言った。
「深夜まで、尻尾で突付き回されました‥‥おかげで心行くまで眺められましたが」
隣で寝たいなんていう者は今までいなかったので、囲いの横にいるキリルをドラゴンも興味津々触っていたらしい、足が届かないので、尻尾で。
それでよほど観察出来たらしく、キリルはドラゴンの形を板から彫り抜いていた。
エイルはかなり一生懸命に作業に取り組んでいたが、一度サラサを挟んでドラゴンから新しい厩舎の要望を聞き取っていた。広くて個室で、冬は暖かいこと。あまり要望はなかったが、外から見て立派なのがいいかどうかと尋ねたところ、『簡単』と返ってきた。質実剛健がお好みらしいと聞いて、基本的に機能美を好むエイルは好みの一致にほくそえんでいる。彼女が書き上げた完成予想図は、キリルの作品と共に大工に引き継がれることになった。
そうして、依頼の最終日。
前日に大工への引継ぎも追え、作業の後始末も済ませたのが昼前。少しばかり時間の余裕があるとなって、不意にリュンヌが明後日の方向を見て口にした。
「一度草原を駆けたら、気持ちがいいだろうと思ったけれど」
「そう言えば、走るところは見たことがないな」
サラサが視線を追いかけた先には、ドラゴンが日向ぼっこ中。その先に厩舎なのでリュンヌが馬とドラゴンのどちらに乗ってみたかったのかは分からないが、ユラが最初に反応した。
「ノワールも、一頭ずつと走るのでなければ負けないと思うのだけれど」
負担が大きいから何度も走り負けたのだと、これは多分事実だろうことを言う。この日はたまたまトリスタと、彼より年下に見える種族違いの兄二人が在宅で。
「走らせてみる?」
この場の誰よりも年下に見えるが、実際は五十歳くらいになっているはずの長兄がユラをけしかけた。たまには全力で走らせ、競わせるのも大事だと、ドラゴンまで出すことになって、希望者で一巡り走ることになったのだが‥‥
ドラゴンの体力を考慮して、重石代わりにトリスタの後ろに乗せられたリュンヌが下りてから、一言も口を開かなかった。もとが無口な性質の上、あまり表情も動かさないので周囲は気持ちを掴みかねたが、ものすごい咆哮に加え、同輩の戦闘馬達とのすさまじい威嚇しあいは眺めていた人々の肝も少なからず冷やしたので、少し心配されていた。顔色はいいので、まあ一応は大丈夫だったのだろう。
ちなみに駆け比べは、ぶっちぎりでユラとノワールが勝っていた。次がイオタだ。
「珍しいものを見られて満足です」
「迫力があったな」
キリルとゼロスが話し込んでいる横では、エイルが見たものを描きとめるべく、板と炭を手にしていた。