【幸福の刻】セーヌ川攻防

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 51 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月29日〜08月01日

リプレイ公開日:2007年08月08日

●オープニング

 パリに四方より敵が迫る。
 この状態で、新たな敵の存在が判明した。冒険者ギルドに助っ人を求めに来たのは、港を取り仕切るギルドの使いだ。
「こちらの姐さんに、とっときの腕がいい奴を借りて来いってさ」
「誰が姐さんだ、誰が。うちのギルドマスターはそんな呼び方は」
「似合うじゃねえか」
 冒険者ギルドの受付係は、反論出来なかった。

 それはさておき。
 パリの港は現在閉鎖中だ。篭城戦状態では、セーヌ川もパリに流れ込み、出て行く箇所はすべて封鎖される。故に港は機能していなかった。
 川の閉鎖は、両岸から水面の少し下に太い鎖を張り巡らせることで行なう。これにより船団の侵入を阻むわけだ。ただ両岸から鎖を渡しただけでは沈むので、適当な間隔をあけて鎖と筏を繋ぎ、適度な深度を保つようにしてあった。
 もしも中から打って出る時は、どちらかの岸の鎖を一時的に沈めるか、岸から離して道を開けるかして、味方の船が出て行く幅を確保する。今のところは鎖を張っただけで、船での対戦はないと見込まれていたのだが。
 セーヌ川を遡って、やってくる船団があるのだ。どこのものだか判然としないのは、それらの船が強奪されたものだからだ。船乗りは無理やり働かされているか、何らかの方法で言うことを聞かされているか。
 数は大型船が一隻、中型船が五隻から七隻。後者がはっきりしないのは、情報が二つ届いているからだが、多分途中で二隻増えて七隻になっているのだろうと港関係者は推測している。
「これが海賊辺りなら、両岸から叩きのめせばいいが、今回はパリの外で満足に動けない。それで城壁の辺りで激突する可能性が高いんで、戦える人を頼むよ」
「船上戦闘だろう? 慣れた奴が集まる保証はないが」
「そんなの、城壁から弓や魔法でびしばしやってもらってもいいし、大型船なら横付けすれば大変なのは飛び移るときだけだよ。中型船は普通十五人がせいぜいだから、船ごと壊したほうがいいかもしれないな」
「向こうにウィザードがいることも考慮すべきだろうな」
「船の扱いは俺らがやるから、必要ない。大事なのは、相手の船が壊せるか、乗っている奴を倒せる腕利きだ。俺らも海賊相手なら多少はやれるが、デビルが出たらどうにもならないんでね」
 船は強奪されたものだが、なにしろ状況が状況なので、盗まれた相手の損害には気を使わない。それは後で考えればいいことだ。
 まずは襲ってくる連中を叩きのめして、パリを守ることが先決である。

●今回の参加者

 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea4107 ラシュディア・バルトン(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea5766 ローサ・アルヴィート(27歳・♀・レンジャー・エルフ・イスパニア王国)
 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 ea7890 レオパルド・ブリツィ(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea9519 ロート・クロニクル(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb8942 柊 静夜(38歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

デニム・シュタインバーグ(eb0346)/ タケシ・ダイワ(eb0607)/ 護堂 熊夫(eb1964

●リプレイ本文

「ひゃっほーいっ」
「マート、自分まで火が付かないようにしてよっ」
 パリの目前で、川幅いっぱいを塞ぐように船首を巡らせた大型船の直前で、もう一隻が突撃してくる帆船に横面をぶつけている。挙げ句に、その三隻の周辺には、身動きままならなくなった中型船が四隻、岸に乗り上げたり、大型船同士に挟まれたりする状態で止まっていた。
 自ら船を当てていった二隻の船からは、矢避けの板を越えるように、中型船へと油と火矢が次々と投げ込まれ、打ち込まれている。全部揃って炎上するかもしれない危険な状況だ。
 その中で、帆柱に登っていたマート・セレスティア(ea3852)は歓声一声、敵中型船に乗り移っていた。背中には体と同じくらいの大きさの荷物を背負っているとは思えない。
 そういう危険なことを仲間がしているのに、ローサ・アルヴィート(ea5766)は迷いなく火矢を打ち込んでいた。当初の作戦では、これから直接相手と切り結ぶ御仁達が敵船に乗り移る手筈だったが、もはや忘れてしまったかのようだ。そもそもが、言葉遣いからしていつもより激しい。
 マートが帆柱から背中の荷物、そのほとんどが油壺であるが、それを次々と甲板へと投げ落とし、ローサは広がった油に文字通り火を入れる。木材の上に照明用の油でも、すぐには燃え広がらないが、マートは帆にも油を染み込ませていた。
 そこに、躊躇いなくローサが火矢を打ち込む。

 少し時間が遡って。
 敵船が城壁間近まで来ているとの報告に、迎え撃つ船に乗り込んだウィザードのエル・サーディミスト(ea1743)、ラシュディア・バルトン(ea4107)、ロート・クロニクル(ea9519)の三人が目標とする船を捜している。彼女や彼達が乗り込んだのは中型船、目標とするのも同程度の船だ。まずはこれらを魔法で撃沈して、相手の戦力減を狙う。
 ラシュディアとロートが、同じ船を狙って速やかに沈める方策を立てたので、エルも一緒に一隻ずつ確実に沈めていくことになった。あいにくとこの防衛線には、彼らと同等の魔法の使い手はいないので、ウィザードはいても城壁で最後の防衛線を担当している。
「乱戦になる前が勝負だ。相手にウィザードが少ないことを祈るべきか?」
「そんな暇があったら、詠唱したほうがいいんじゃねーの。頼む奴ばっかりじゃ、神様も手が足りなくて困るじゃん」
「みんなー、武器は後で返してよー。高いんだから、あげたら僕が生活出来なーい」
 エルの大声に、ラシュディアとロートが嘘だと突っ込んで、睨み返された頃になって、敵船の姿が彼らにも見えるようになっていた。大抵の魔法は目視が基本だ。
「操舵、気張って!」
 不安定な船の上、どんな反動が来るかわからないと注意を喚起したエルの声にかき消されていたが、ラシュディアとロートの詠唱が始まっていた。
 敵八隻。一隻でも少なくするためには、魔力は温存しなくてはならない。エルは第二の故郷と言う国がなくなるかどうかの瀬戸際だ。ソルフの実もポーションも惜しまないが、無駄遣いも出来ない。
 ライトニングサンダーボルトが二撃。
 まだ穴こそ開かなかったが、船は大きく傾いだ。その甲板から三人ほどが川に飛び込んだのは、船と共に拉致された船乗りだろう。
 彼らが狙い打たれることがないようにと、呪文を紡ごうとしたエルは船からの反撃がまったくないことに眉を寄せてもいた。
 自分達の魔法で速度を落とした船に、まるでなす術もないかのように次々と後続船がぶつかっていくのに、ロートとラシュディアも何かおかしいと感じていた。
 その理由が分かる前に、三人は中型船三隻を沈めていた。

 船上の敵の様子がおかしいと、船乗りから報告を受けたレオパルド・ブリツィ(ea7890)は敵を注視していたが、やがて困惑した表情を浮かべた。同様にしている柊静夜(eb8942)はまだ自分が見たものが事実かと疑う顔付きだが、二人ともヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)に促されて口にしたのは、同じ名前のモンスターだった。
 ただし、彼らが警戒していたデビルではない。
「船上はほとんどズゥンビだと思われます」
「五人くらい人がいて‥‥二人は船乗りの方だと思いますけれど、残りは騎士の方に見えます」
 対峙している先頭の中型船に、まるで詰め込まれるように乗っているのがズゥンビである。この報告にヘラクレイオスは一瞬だけ不審に思っている様子を覗かせたが、すぐにその表情を消し去った。同じ出身の少年とも青年とも言える年頃の後輩レオパルドと、ジャパンの侍とはいえ女性の静夜の目を疑わず、たいしたことではないように笑った。
「聞いたか、皆の衆。相手は魂がない者だ。斬って恨まれることはないゆえ、存分に腕前を見せよ!」
 酒の準備派万端じゃと、最後の一言が一番効いた様だが、敵が死人だと聞いて多少怯んでいた船乗り達も威勢のよさを取り戻した。彼らの乗る大型船の帆柱の上のほうからも、景気の良い声が降ってくる。中型船からの歓声は、五隻目が動きを止めたことに対するものだ。
「そろそろ対決ですわね。先陣はお任せくださいな。お手本をお見せしますよ」
「僕も、ドレスタットでドラゴンもデビルもお相手しましたからね」
 相手がズゥンビであれば、手加減は無用。もちろん油断大敵だが、冒険者達が後れを取ることはないだろう。船乗り達も複数で戦えば、相手が遅い分だけ勝機がある。
 問題はどこかにいるだろうズゥンビを操る黒幕と、数名乗っているらしい騎士、そして川に突き落としてもズゥンビは行動不能になるわけではないということだ。かえって川底をつたって、パリの街まで到達されては困る。その警戒強化のための伝令シフールが、ヘラクレイオスの下から飛んでいった。
 すでに中型船への魔法攻撃も止んでいる。
「ええい、この船が燃えてもかまわねえっ! 全部の船に火を掛けろ!」
 この場の責任者でもある大型船の船長が、がなり立てる。
 敵大型船との間に、残った中型船とその上のズゥンビ達を挟み込んで、操っているだろう人間諸共燃やしてしまえ。
 そんなある意味無謀だが、魔法の使い手がほとんどいない中で、何をしでかすか分からない相手と直接遣り合わずに済む命令が出たのは、拉致されていた船乗り達と同数の脱出者が確認されたからだ。その安否を確認している暇はない。
 突撃の号令は、ヘラクレイオスが掛けた。
「行くぞっ。我らに続け!」
 先頭を切って敵船に乗り込んだレオパルドに続き、船乗りが渡してくれた板の上を越えつつ、静夜がにこりと後背に向けて微笑みかけた。船を守る人々の士気はいや増していく。
「ひゃっほーいっ」
 その頭上を、戦闘とは思えない楽しげな掛け声が通り過ぎていく。それもすぐに、喚声に飲み込まれていった。

 燃え上がった中型船の上で、人型の松明が燃えている。厄介なのはそれだけでは動きが止まらず、甲板上を右往左往していることだ。
「うひゃー、びっくりした。燃えるなぁ」
 中型船一隻、ほとんどローサと二人だけで炎上させたとは思えないマートが、ロープを伝って自分の船に戻ってきた。ローサはせっせと用意された矢を射尽くす勢いでズゥンビ達が倒れるまではと弦を引き絞っている。弓手は皆同様だが、剣を持つ人々はそうはいかない。ズゥンビの一部が這い上がってこようと自船に引き摺りあげて、止めを刺すほかは、この周辺の人々は類焼を防ぐのに忙しい。
「マート、やり過ぎかも‥‥そういうことはすぐに言いなさいよっ、キミ、伝令!」
 船が燃え落ちたら、それはそれでズゥンビも含めて後始末が大変だと怒られるかもしれない。ローサはマートに油壺を持たせすぎたと少しばかり後悔しているが、船上には三割程度人が乗っている。こちらは火に巻かれてくれればよいので、微妙なところだ。実際、彼らはかなり重装備で、一目で戦場の熟練と分かる趣だからなおのこと。
 ローサが慌てたのは、その姿を帆柱からとはいえ誰より間近に見たマートが『ノルマンの紋章に似てた』と口にしたからだ。マートはノルマンの生まれだそうだから、紋章を見間違えることはないだろう。
 その紋章に似たものを、敵船の者が身に付けていたなんて、とんでもないことだ。細かいことはよく分からなくても、ローサがマートを急かしたのは間違っていない。
 その頃、敵船に乗り込んだレオパルドとヘラクレイオスの二人は、これは何の企みかと思案をめぐらせていた。どちらもズゥンビを退治しながらの行動なので、ただひたすらに考え込む訳にはいかないが、このズゥンビを操っていると思しき男性騎士の身に着けた鎧には、国王その人とよく似た紋章が刻み込まれていた。顔は知らないが、人品卑しからぬ雰囲気があることも間違いはない。
 やがて気付いたのは、レオパルドが先だ。公爵と聞いて、ヘラクレイオスもようやく思い出している。
「ほう、この国の者には見えぬが、よく学んでおるようだな」
 いささか童顔のレオパルドに、相手は年長者がよくする口調で語り掛けた。まだ剣を抜かないのは、レオパルドを格下と見ているか、少し離れた位置で舵への着火を防いでいる人の部下を信頼しているからか。
「ビザンチン帝国より参りました、レオナルド・ブリツィ。ドレスタットに長くおりましたが、最近パリに移り、こちらの騎士団とご縁があって此度ははせ参じました」
「ブレダ騎士団が一、ヘラクレイオス・ニケフォロス。生まれは同じくビザンチンにて」
 遠方から来て、わざわざ陛下のために戦うかと、その発言には悪意は感じられなかった。奇妙に懐かしそうな響きがあって、二人の様子に異変を感じて走り寄ってきた静夜を見ると、それが決定的になる。ジャパン人かと、まるで違う服装の彼女を見て口にするのは、太刀筋に覚えでもあったのだろうか。
 その表情が苦笑に変わったのは、一度は口調を改めていたヘラクレイオスの言葉を聞いたからだ。
「どなたが相手でも、手を抜くわけにはいかぬな。わし等の不首尾は、此方の姐さんの面子に関わるからのう」
 何か口の中で呟いた騎士が、打ち掛かったヘラクレイオスの斧を、抜いた剣でがっちりと受け止めた。ドワーフの力技を受け止めるのだから相当の膂力だが、さすがに長く刃を交える気はないらしい。なにより従う騎士達がその場に割って入った。此方はレオパルドと静夜が相手をする。
「また邪魔をしてくれるな、冒険者」
 何がまただか三人にはよく分からない上に、静夜は相手の身分も知らなかったが、問い返すには不向きな状態である。冒険者というからには、ギルドが何か掴んでいるだろうと深くも考えなかった。騎士達は老齢に差し掛かる一歩手前に見えたが、経験と技量が年齢を補うのか、それなりにやるのだ。単なる三対三なら冒険者側の勝ちだが、ズゥンビがうろうろしている中では同格でやりあえてしまう。
 それでも逃げ場もない以上、いずれは自分達が有利になると踏んで、三人は刃を交えていた。こうしたズゥンビを操るからにはデビルの関与も疑われ、それを知るには生け捕っての尋問も必要だと、なまじ互角以上にやりあう技量があったので考えてしまったのだ。時間にすればたいした長さではなく、油断とも言えないが、頭上を騒々しい羽音が飛び交うとなれば話は別だった。
 敵大型船に突っ込んだ三人が、親玉らしい敵と交戦中。そう知ったウィザードの三人は、屋台の駄菓子のようにソルフの実を噛んで飲み込みつつ船縁に走っていた。エルが駆けつけた時にはまだ三人がズゥンビが徘徊する中で戦っているところだ。何合も打ち合ううちに互いに離れてしまい、範囲魔法はいささか危険な状態になっている。
「ごめん、他の船は任せたっ」
 止せと聞こえたが、エルは甲板から伸びた板を渡って敵船に乗り込んでいた。ズゥンビが近付いてくるが、飛んできた雷に打ち据えられている。
「この礼は後で払えよ!」
 なんとも心強いロートの声を背中に受けて、また別方向にもラシュディアが雷を打って道を作ってくれたのを幸いに、自分の魔法を放つに向いた場所へと急ぐ。連れていたジュエリーキャットのツァイには、帆に火をかけるように頼みつつ。
 だが。
「前方、敵船一隻! デビル多数!」
 上がっていた煙で多少視界を遮られていたとしても、それだけでこの近くまで気付かなかったのはあまりに怪しい、更に見た目も真っ黒の帆船がセーヌ川を遡ってきた。異様に足が早いのは、大量のデビルが船から伸びた紐に縛られて、それを引かされているからだ。黒い船はロートとラシュディアの攻撃を並み居るデビルを盾にすることで凌いで、相当近くまで来た。
『お迎えよ』
 なんのだと、誰もが言いたくなるような言葉が、幼女ではないかと思われる可愛らしい声で告げられた。それは明らかに風の魔法を使っている。
「エル、何でもいい、止めろ!」
 異変に気付いたラシュディアが叫ぶが、エルの魔法ではヘラクレイオスも巻き込んでしまう。ローサが放った矢が狙いたがわず、公爵と呼ばれた騎士を船縁から黒い船に押しやろうとしていた騎士を射たが、相手は目的を達した。
 追いすがった静夜とヘラクレイオスの刃を背で受けて、抵抗する主を黒い船から飛んできたデビル達目掛けて落とすことに。
 挙げ句、わあっと群がるように押し寄せてきたインプが彼らの自由を奪っている間に、黒い船はまた動き出していた。明らかにインプ達は捨て駒で、はなから交戦するつもりはないのだろう。インプ達も船がある程度離れると、必死になって逃げていった。それでも大半は、魔法と刃と矢とで堕ちていたが、デビルは死ぬと形が残らないのでどれだけ倒したのかは数えようもない。
 ズゥンビは数えられたかもしれないが、誰もそこまではしなかった。出来なかったというのが、正しい。

 さすがにデビル相手には手の出しようがなく、ラシュディアが放ったヘキサグラム・タリスマンを使用してポーション類の防衛に努めたマートが、城壁防衛を担当していた人々に引っ張り上げられた仲間達にポーションを配っている。それだけでは足りなくて、皆自分の物を出して、挙げ句に人にまで譲っている状態だが、ソルフの実だけは手持ちを消費しなくても済んでいた。
 ズゥンビについては、川に落ちて、城壁で警戒していた人々の張った網に囚われたのもいたが、パリへの侵入はない。デビルは城壁前で反逆者を回収した際に現われただけで、この近辺ではほかに出没はしなかった。
 けれど。
「あの人、なんだったの?」
 ローサの問い掛けに静夜とエル、ロートとラシュディアは答える知識を持たず、マートは気にした様子もない。
 レオパルドとヘラクレイオスは、むっつりと黙り込んで、再度の問い掛けを態度で拒んでいた。

 セーヌ川を遡っての侵攻はこの一度きりで、疲れた身体を十分に休める余裕もなく警戒に当たった人々も、四日目には気の済むまで眠ることが出来た。
 黒い船の話は、聞くことがなかったけれど。