●リプレイ本文
出来事の始まりは、リア・エンデ(eb7706)さん。細いエルフの女の人です。吟遊詩人さんみたいだけど、この日持っていたのは大きな木材でした。
「橋を直している人に持っていけば、きっと喜んでもらえるのですよ〜」
リアさん、とても素敵な考えです。でも木材は重いので、よろよろ、ふらふらしています。
「橋が見えてきたのですよ〜。もうすぐなのです〜。はうっ」
よろふら、つるりがっくん。
「は〜〜う〜〜〜」
リアさんは足元を見ていなかったので、つるりと足が滑って、重い木材を持って踏ん張れなくて、セーヌ川に落ちてしまったのでした。ぼっちゃん。
どうやら、リアさんはあまり泳ぎが上手ではないようです。流されていく木材に掴まろうとして、川の中に沈んでいきました。また浮かんできて、木材に手を伸ばし、姿勢が崩れて川の中に‥‥
リアさんが、どんどん流れていくのです。
そんなリアさんの周りには、人がいっぱいいたのでした。なにしろパリの街の中。それにリアさんが素敵なことを考えていたので、お手伝いしようかなとお友達が集まっていたのです。
「あら? あんなところに溺れている人がって、大変、リアじゃない!」
お友達の一人目、シュネー・エーデルハイト(eb8175)さんは鍛冶屋さんの帰りでした。お若いですが、人間でナイトの女の人です。今日は武器や防具を預けてきました。すっかりいい気分で歩いていたシュネーさんでしたが、お友達のリアさんが溺れていてびっくり。これは早く助けに行かないと、リアさんが沈んでしまうかもしれません。
「ええと、確か服を着たまま泳ぐと危ないのよね。ええと、武器なんかもってのほかよ」
シュネーさんの言う通り、よっぽど泳ぎがうまいか、慣れた人でないと、服を着たまま泳ぐのは難しいのです。
でも、だからって服をさっと脱いでしまうのはどうなのでしょう。若い女性の薄物姿、周りの男の人達がざわざわしています。
シュネーさん、気にせずリアさん目掛けて川に飛び込んで‥‥
「あ、私、泳げないのよーっ!」
川岸でロープを取りに走っていたお兄さんが、思いっきり地面に突っ込みました。
今溺れている人、リアさんとシュネーさん。
お友達その二は、シフールのメッセンジャー、ステラ・シンクレア(eb9928)さんです。橋の修理のお手伝いで、やっぱりメッセンジャーをしていたのでしょう。
大きな水音がしたので振り返って、よくよく見たらこちらに来るはずだったリアさんが流されているのでびっくり。用件以外のことはあまりお話しない人なのに、お口があんぐり開いています。
しかも、シュネーさんまで溺れているとあっては、じっとしてはいられません。慌てて助けに行きました。
「今、助けます〜!」
「ステラ、ありがとう」
ステラさん、飛んでシュネーさんのところに向かいます。そちらのほうが近かったからです。
ところで、ステラさんはシフールです。シュネーさんの指を引っ張っても、もちろんどうにもなりません。
しかも。
「「ぎゃっ」」
悲鳴が二つ上がりました。ステラさんとシュネーさんです。リアさんが掴まったり、一緒にぐるぐる回転したり、手が離れてどちらかが沈んだりしている木材が流れてきて、シュネーさんにぶつかったからです。ちょっと痛い。すごくびっくり。
シュネーさん、ステラさんをぎゅっと握って、一緒に沈んでしまいました。
「いままさに〜、わたしがながれているのですよ〜〜」
リアさん、目がうつろ。
そして今、溺れているのはリアさんとシュネーさんとステラさんで三人です。仲良しお友達?
お友達三人目は、学者さんのエフェリア・シドリ(ec1862)さんでした。人間のお嬢さんです。やっぱり橋を直すお手伝いをしていました。まだお子様なので、あんまり力がいることは出来ませんが、色々頑張っていたようです。
ところが、そんなエフェリアさんも、お友達のお姉さん達が溺れているところを見てしまいました。しかも三人とも、何度も沈んだり浮かんだりしています。ステラさんはシュネーさんに掴まえられていますが、ぐったりしていて苦しそう。
エフェリアさんはいい子だから、当然『その手を離したら、ステラさんだけでも助かるのではないかしら』なんてことは考えません。
さあ、大変。助けに行かなくてはいけません。あんまり人前でお洋服を脱ぐものではありませんが、上着はバックパックの上に置いていきましょう。深呼吸して、そろそろと水に入ります。いきなり飛び込むと、体が驚いてしまうからです。
それから、泳いで三人のところへ。エフェリアさんは、犬掻きしか出来ませんが、一生懸命泳ぎますとも。
今溺れている人、リアさんとシュネーさんとステラさん。
助けに行こうとしている人、エフェリアさん。
岸の人達が思っていること。
「女の子が四人も溺れてる!」
彼女達は、仲良し四人組です。多分、きっと、そうなのです。
さて、セーヌ川の周りにはお友達でない人もいます。パラの吟遊詩人のリースス・レーニス(ea5886)さんは、お友達の男の子アルくんと一緒に、橋の修理のお手伝いに行く途中でした。リーススさんも、修理に使う木を持っています。
「だぁいじょぶだよっ、私結構力持ちなんだわっ、とっとっ」
アルくんが横ではらはらしていますが、リーススさんは女の人でパラだけど、まあまあちょっとは力持ちでした。きゃあきゃあ言いながら、木を運んでいたら、近くでリアさんが落っこちたのです。更に次々と、他の人達まで。
大変だーと言った途端に、リーススさんも大変なことに。よろよろふらふらして、川岸から足を滑らせてしまいました。アルくんが呼んでいますが、お返事が出来ません。だって水の中なんですもの。
アルくんとロバのかぽが無事でよかったなぁと思いながら、リーススさんは泳ごうとしましたが、大変、服が腕に張り付いて思った通りに動けません。じたばたしていたら、さっきまで運んでいた木が頭にごんっ。ものすごーく痛かったので、ぷくぷくと底の方に沈んでしまいました。そのまま動かなかったら、今度はちょっとずつ浮いてきます。
この時のリーススさんは服を脱ぐべきか、悩んでいたのでした。オトメノヤワハダは人様に見せるものではないと言われた気がいるので、ちょっと迷っています。でも、オトメノヤワハダってなに?
ぷくぷくしながら、リーススさんも流されていきます。
今溺れている人、リアさん、シュネーさん、ステラさん、リーススさん。
助けに行こうと思っている人、エフェリアさん。
他の人が思っている溺れている人の数、五人。
こんなすごい騒ぎは、もちろんあっという間に川の上にも下にも広がりました。そこには、セーヌ川に小船を出してお友達と釣りをしていたシャルク・ネネルザード(ea5384)さんもいます。ジャイアントの女の子、漁師さんです。きっと泳ぎが得意でしょう。
ただし、シャルクさん、今日はまるごとしゃーくを着ています。グレーマスカレードまで着けていました。真夏のパリは、全然涼しくないのですが、まるごとしゃーくを着て楽しそうです。
どのくらい楽しそうかというと。
「わたしはラ・セーヌのくろザメ! セーヌ川の平和はわたしがまもりますっ!」
そう叫んで、そのままどぶん。
シャルクさんは、もちろん泳ぎがとても得意。自信を持って飛び込みましたとも。
でもまるごと防寒着は、あんまり手足が自由にならないものが多いのです。そして水に入ると、もちろんとても重くなります。
あぁ、シャルクさんが餌を差し上げさせていただいているワニのマイケル様が、何を思ったのかじたばたしているシャルクさんの上に乗っかってしまいました。
「大変だっ、今度は怪しいのが変な生き物に食われた!」
まだ食べられてません。ただどんどん沈んでいくだけです。
今溺れている人、リアさん、シュネーさん、ステラさん、リーススさん。
助けに行ったのか、溺れにいったのか分からなくなってきた人、エフェリアさん、シャルクさん。
そろそろ誰か、沈んだままになってしまいそうです。
ここで救世主が現われました!
「ここは河童のおいらに任せてやっ! うさ丹、うま丹、そこでまっとってや」
河童の漁師、中丹(eb5231)さんです。河童さんはパリでは珍しいですが、泳ぎがとっても得意な人達です。緑色で、亀みたいな甲羅があって、嘴が黄色くとんがっていても、河童さんは人。知らない人が見ると、まあ色々と‥‥
怖い生き物に見えるかもしれません。誰かが慌てて、岸から中さんに石を投げています。マイケル様と同じ扱いです。さすがに珍しいので、知らない人もいっぱいでした。
「おほれてる人を助けようっちゅうおいらに、なにをするのや!」
「わあ、しゃべったぞ! あ、デビルの仲間だ!」
中さん、荷物の中からまるごとこあくまだけ間違えて持ってきてしまったようです。それを抱えてもすいすい泳げるのですから、河童さんはすごいのですが、岸の人達は石を投げるのを止めません。だって、何かなんだかもう分からないですもの。
しかも、マイケル様は中さんのほうに泳いでくるではありませんか!
中さんとマイケル様の戦いは、それはそれはすごいものだったのですが、おかげで石を投げたりする人の数ももっと増えてしまいました。当たらないけど、嬉しくないです。中さん、怒りのあまりに水の上を走っていたようないないような。
ただ今溺れている人、四人。溺れかけの人、二人。
戦っている人、一人。戦っているペット、ワニ。
今夜はうなされること、間違いなし!
そろそろ本格的に助けに行かないと、誰かがさよならしそうです。そんな時に飛んできたのが、人間の傭兵の男の人、ファイゼル・ヴァッファー(ea2554)さんでした。飛んでいるのはペガサスのアイリスちゃん。どうやらお散歩中らしいです。
「おお、なんだかとんでもないことになってるな」
呑気なことを言っている場合ではありません。もう今にも沈みそうな人が何人も。
「ええと、河童とワニは置いといて‥‥五人か」
すでに一人足りません。足りないのは誰?
ファイゼルさんが気付いたのは、全員が女の子だということでした。それはもう、助けなくてはいけません。男の人だって、もし溺れていたら当然助けますけどね。
「女の子相手は、気合が入るぜっ」
でも取り出したのは、釣竿。
「いやー、人の自慢の髪にーっ!」
危ない女の子をかっこよく吊り上げようとしたけれど、髪の毛を引っ張ってしまいました。再挑戦です。一度でへこたれるようでは、傭兵さんは務まらないのです。
「だーめー、オトメノヤワハダー」
誰ですか、そこで覗き込んだのは。もいっかい、挑戦。
「た、旅は道連れですぅ!」
垂らした釣り糸に、一人が掴まりました。エルフの女の子です。つられて人間、シフール、また人間、パラと続きました。釣り糸です。
ぎゃあという悲鳴がして、ファイゼルさんがアイリスちゃんから転げ落ちました。川にどっぽんかと思いきや、くろザメさんの上にべしょ。一緒にぶくぶく‥‥
マイケル様がやってきます。糸が絡んで、一緒くたになっている人達のところにやってきます。背後から猛烈な勢いで追いかけてくるのは、河童の中さん。ファイゼルさん、女の子に囲まれて、嬉しがっている場合ではありません。
しかも、マイケル様を止めようとしたシュネーさんが、自分の腕を噛ませてでも皆を守ろうと右腕を差し出しました。その腕は、リアさんと繋いでいる手です。
リアさんは避けようとしてまた沈んでしまい、リアさんの反対の手を掴んでいたエフェリアさんがマイケル様の前に押し出され、シュネーさんのもう片方の手に捕まったままのステラさんがグエッと悲鳴をあげました。あぶなーいと言って、リーススさんが暴れたので‥‥
「まてっ、俺かっ!」
マイケル様はファイゼルさんの服をがぶり。服でよかったのです。ようやく浮かんできたシャルクさんが、マイケル様を止めてくれました。
しっちゃかめっちゃかになっている人、七人。
ようやくちゃんと助け始められた人、一人、二人、いっぱい。
皆さんがセーヌ川で色々している短い間に、川岸ではもちろん『女の子達を助ける』ために動いている人達がいました。その中にドワーフで鍛冶師で騎士のおじさん、ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)さんもいます。橋の修理のお手伝いにはせ参じたら、こんな大変なことになっていたのでした。
それでもヘラクレイオスさんは、河童さんを知っていました。だから中さんが助けに飛び込んだとき、これでまずは一安心と思いました。河童さんが溺れるなんて、そんなことありえません。
だから、溺れている人達を間違いなく引っ張りあげられるようにとロープを用意して、木材を一本くくりつけ、中さんが岸まで戻らなくてもいいように、溺れた人を引っ張りあげる仕掛けを作りました。手先は器用なので、ちょちょいのちょいです。
ところが、それを終えて見てみると、なんと川にはマイケル様!
「ぬぅ、これは一大事。よし、皆の衆、あの河童の御仁がモンスターを引き付けてくれている間に、我らはあちらに回って皆を助けよう。こらっ、あれは河童といって、立派な旅人じゃ!」
興奮して石を投げたりする人達を鎮めるのに、ちょっと時間が掛かってしまいました。これは大変と、泳ぎの得意なヘラクレイオスさんは自分が飛び込むことにします。そうしている間に、助ける人数が一人増えていたりしますが、騎士様だから文句は言いません。後でき・び・し・く注意はするかもしれないけれど。
ヘラクレイオスさんが泳ぎながら押していった木材に、中さんが一人ずつ溺れていた人を掴まらせます。シャルクさんとエフェリアさんはなんだか嬉しくなさそうですが、そんな場合ではありません。
岸でお兄さん達が縄を引いてくれて、順番に皆さんが助けられていきます。
リアさん、目がとってもうつろ。
シュネーさん、とっても寒そう。
ステラさん、体中が痛そう。
リーススさん、お魚の世界にはいけませんでした。
エフェリアさん、実は溺れていません。
シャルクさん、頑張れば泳げたつもり。
ファイゼルさん、
「いやー、目の保養だな」
いらんこと言い。
中さん、
「緑のこあくま、うふ〜ん」
こっそりまるごとこあくまを着て川から顔を出し。
ヘラクレイオスさんから、
「ファイゼル殿、中丹殿、ここに座られい」
お説教。
女の人達は、お兄さん達が毛布も着替えも貸してくれて、何でもお世話してくれたので、夕方には元気になりました。
だから全員、橋の修理のお手伝いで恩返しです。
ファイゼルさんと中さんは、反省のためのお手伝い。
ヘラクレイオスさんがロープを取るときに馬から落としたワインを返してくれなかったセーヌ川は、今日は平和です。