開拓計画〜開拓番外

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月15日〜10月25日

リプレイ公開日:2007年10月25日

●オープニング

 ロシア王国では各所で開拓が進められている。特にキエフ公国ではキエフの人口過密解消のために開拓が推奨されていた。それによる悲喜こもごもは多数発生しているが、今年に入ってからは反乱その他諸々の騒動で開拓計画に遅れをきたしている場所が幾つもある。
 反乱にもその他の騒ぎにも多少距離を置いていたが、その後始末で人が駆り出される時に率先して王室への協力をしてきたので、資金繰りの面で予定を遅らせている開拓地を抱える貴族にアルドスキー家というところがあった。予定していた収益が上げられる時期が遅れるので、色々と不都合はあるのだが、王室からの信頼は金で簡単に買えるものではないから手に入れておけというのが当主の考えだ。
 そんな中でも、開拓用に開いた土地の切り株を掘り起こすなどの整地作業は少しずつ進めていたが、収穫祭だのなんだので人手が取れないこの時期が過ぎると冬が来る。流石に整地は冬には難しいので、最後に少し残った部分は来年に持ち越しかと思われていたのだが。
「お休みをいただけるのでしたら、その間に掘ってきます」
「一人でか?」
「いえ、天使様と一緒に」
 この家に仕える何人かの代官の一人、ユーリーが最後の作業に名乗りを上げたのだ。収穫祭時期には代官達にも交代で休みが与えられるので、その期間に開拓地に詰めるつもりらしい。
 本来は自宅に戻って家族と過ごすものだが、彼はエルフの夫婦の家に生まれたハーフエルフで、義父には嫌われ、母には家の面子を保てと要求されるばかりだった。家族仲がいいわけもなく、以前は人の顔色を窺って過ごしていたが、最近大変化を遂げた。現在は、はきはきした前向き一直線の青年だ。
 原因は『ノモロイの天使』像。ノロモイ村の善良な村人達が、ジャパンの埴輪なる焼き物の話に感銘を受けたのか、自分達で天使像を作った焼き物だ。通称名は、その恐ろしげな姿から『ノモロイの悪魔』という。
 余人の誰が見ても、『怖い、気持ち悪い、変、これってやっぱりデビル?』との感想を抱くのだが、ユーリーには『この天使様が勇気をくれた』と神々しく見えるようだ。日夜肌身離さず持ち歩き、何体も所有している。流石に通常サイズは持ち歩くのに不自由なので、もっぱら持ち歩きは小型版だが、どこで入手したものか布製のものまで所持していた。
 アルドスキー家の人々も大半はこれを嫌がったが、当主だけは『持ち歩くくらいはよかろう』と鷹揚に構えていた。この人だけは、『天使様』を見てもそれほど怖いとは思わないようだ。
 よって。
「そうか。だが天使を働かせるわけにはいかぬから、人手のことは自分で考えろ」
 部下の結構とんでもない発言を、さらりと流して休暇を許可した。

 それから数日して、ユーリーは冒険者ギルドにやってきたのである。
「一緒に木の切り株を掘り起こしてくれる方を募集してください」
「どちらの切り株を、どういう目的で掘られるのか、説明していただけますか?」
 あんまりにも簡潔に依頼内容を口にしたため、受付の女性ににっこりと尋ね返されている。

●今回の参加者

 ea3026 サラサ・フローライト(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea9740 イリーナ・リピンスキー(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec0700 アルトリーゼ・アルスター(22歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec1051 ウォルター・ガーラント(34歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ec1983 コンスタンツェ・フォン・ヴィルケ(24歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ec2843 ゼロス・フェンウィック(33歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

以心 伝助(ea4744)/ アルンチムグ・トゥムルバータル(ea6999)/ リン・シュトラウス(eb7760

●リプレイ本文

 ゼロス・フェンウィック(ec2843)、エルフのウィザード。一見して冷静沈着と浮かびそうな男性である。今回の依頼人ユーリーが仕えるアルドスキー家のフィールドドラゴンのための厩舎建設に関わったことがある。
 ウォルター・ガーラント(ec1051)、人間のレンジャー。その職の割に身のこなしが優しげだが、割と体力がありそうな男性だ。この開拓地から木材を運び出す仕事を過去に請けており、ユーリーとは面識がある。
 イリーナ・リピンスキー(ea9740)、ハーフエルフの神聖騎士。黒の信徒らしく落ち着き払った様子だが、今回の依頼を受けた中ではもっともユーリーと縁が深い。つまりは噂の『ノモロイの天使』ともご縁があることになる。
 サラサ・フローライト(ea3026)、エルフのバード。楽師という割に愛想が足りないが、かなり巷に知られた人物である。ウォルターと同じく、フィールドドラゴン厩舎の建設を行なったことがある。
 コンスタンツェ・フォン・ヴィルケ(ec1983)、エルフのクレリック。白の信徒であるからというだけでは説明が出来ないほど、『愛』『信仰』『誠実』云々と口にしている。アルドスキー家とはこれまで縁がなく、故に『ノロモイの天使』との対面を楽しみにしている。
 サラサが友人に『別に危険物ではないから』とか助言だか励ましだかなんだか不明な言動に、歌まで使って力付けられつつ送り出されたにもかかわらず、『ノモロイの天使』または『悪魔』が道中あまり話題になることはなかった。口にすると、現実に登場すると思っていたからではないだろうが‥‥仮にそう考えて気にしないように務めていたとしても、相手はユーリーであった。
「割れ物はその辺りに出しておくな」
「一人だと寂しかったんです。しまってくるので、皆さんも荷物を下ろして休んでくださいね」
 予定より少し早めに開拓用地に到着した五人を迎えたのは、依頼人のユーリー。そして、
「火より作られた御遣いを模しただけあって、聖書のとおりに奇異とも見えるお姿ですのね」
 明らかにどこか方向性を間違えたコンスタンツェの感嘆の呟きと、
「天使様? あれが?」
 サラサのもっともな疑問を向けられた『天使様』だった。一番大きいのが二つ。
 速やかにしまってくれと、慎み深いのかどうか口にはしなかったが、ウォルターもゼロスも考えていたことだろう。それほど長時間対面したいものでもない。
 でも相変わらず、ユーリーは布製の天使様を首から提げている。こちらはまあ、見た目がまだましなので、サラサが『これみたいなものか』と自分の熊のぬいぐるみと見比べていた。
 ユーリーが『天使様』をしまっている間に、五人は女性用のテントを張り、荷物を解いて、夕飯の準備を始めた。合間に現場の様子も確認しておく。
 掘り起こす切り株は全部で十四、現地作業は六日の予定なのでそれほど厳しい日程ではない。あいにくと体力には恵まれない者もいるが、その分をカバーできるペットやゴーレムがいるからだ。
 それに、コンスタンツェも言っている。
「子供の頃に父に連れられてこの作業は見たことがありますのよ。ええ、見ただけで、実際に実行するのは今回が初めてですけれど、あの時も馬を使っていましたわ」
 ただし彼女が連れてきたのは驢馬。サラサも同様だ。馬はイリーナとウォルター、ゼロスの三人が連れていた。もちろんユーリーも連れていたが、
「この馬は力仕事用ではないので、僕が働きます」
 まったく働かせるつもりはない。イリーナが見たところ駿馬なので、扱いとしては正しいだろう。ただものをはっきりと言う態度は、以前と別人である。なかなか頼もしいような気もするが。
「それなら力をつけたほうがいいからな。これは今夜のうちに食べようか」
 サラサが道中で見付けてもいできた木の実を貰って喜んでいる姿は、ほとんど子供である。顔立ちが童顔ではないが可愛らしいので、余計にそんな印象。ゼロスも罠でも仕掛けてみようかと計画していたが、この日はイリーナが味付け肉を用意してきたので他に用意しなくても十分豪華な夕食になった。保存食だけよりは、当然ありがたい。
 食事の後はのんびり世間話‥‥とはいかず、どういう手順で作業を進めるか、その後木材の覆いをどうやって作るかなどの相談をしたのだが、詳しい者はいない。サラサのシャドウボムで切り株が上がらないかを試す以外は、地道に掘って、引っ張ることになった。覆いはウォルターの計画から、急勾配の屋根をつけるものになる。板は結構あったので、布覆いよりそちらのほうがすぐに作れるからだ。
 後は見張りの順番を決め、男女別でゆっくりと休んで、翌日に備えるのみである。流石にそろそろ、テントの中でも厚着に毛布か、寝袋がないと熟睡は出来かねる気候になってきた。今回はテントが四張りあるので、二張りずつ重ねて暖かさが逃げないようにして、外の音は聞こえにくいがまあまあ快適だった。

 翌日、キエフを出てから三日目から本格的に作業が開始されたが、やること自体はとても地味だ。皆で自分に適した道具を持ち、切り株の下を掘る。二体のゴーレムも掘る。全部で二つから三つの切り株で同時に作業が進行し、全体がゆらゆらするくらいに掘れたら、今度は長い棒を切り株の下に突っ込んで、持ち上げる。
 これは棒の反対端に体重をかけるとよかろうと、当初はストーンゴーレムに体重を掛けさせたが棒がみしみし言った。仕方がないので、ウッドゴーレムにしたらなかなか良かったようだ。一つ目が順調に持ち上がったところを馬二頭で牽いて、地面からはがしていく。多少の根は残しておいても良いので、ウォルターとユーリーが斧で切る。馬の手綱は持ち主が誰かに関わらず、イリーナが握っていた。
 そういう作業を延々と繰り返す中で、サラサとゼロスは木の種類から根の方向が横と縦のどちらに広がるかなど見定めたりして、それぞれ非力なところは補う働きを見せている。縦に深く根を張る木は掘るのも大変なので、暗くなってからシャドウボムで始末できるか確かめるのに使おうと、計画もしていた。魔法のことは、基本的にこの二人任せになる。
 もう一人魔法の使い手にコンスタンツェがいるのだが、こちらはクレリックだし、なにより。
「そこに鍬を入れても、うまくはいかないぞ」
 ゼロスに度々同じことを注意されるが、熱意がある割に行動がずれていて、なかなか結果が出ていない。サラサが掘る場所を指定したら、そこだけ延々と掘り返していたので、シャドウボムを試すのはその切り株となった。切り株の周りではなく、下を掘り続けた根性だけは誉められるかもしれない。
 実はウォルターのストーンゴーレムも、ゼロスのウッドゴーレムも、時々指示しても今ひとつの働きのことがあったのだが、似たような雰囲気を持っていなくもない。
「この作業がもうなくても、見極めは出来るように少し訓練したほうがいいでしょう。それでなければ、出来る人材を欠かさないこと。現場監督には色々と必要ですよ」
 ウォルターは、性質だけならコンスタンツェに似ていなくもないユーリーに、こまごまと作業手順と、他のことも教えていた。素直に聞いているので、ぜひとも頭の中に残って欲しいものだと少々心配しないでもない。あまりに素直すぎて、ちょっと心配になるのだ。
 そうやって抜いた切り株は、適当に積んでいいかというとそうでもなく、根の部分を切り落としてから、所定の場所まで運ばなくてはならない。幸いなのは、その所定の場所が切り株から十メートルから十五メートルくらいしか離れていないことだ。
「これは全部薪用に割ってしまったらどうだ? その方が後日使いやすかろう?」
「雪が降る前に、質がいいものは別の人が取りに来ますから。家具なんかに使う予定です」
 イリーナに尋ねられて、ユーリーは懐から覚書を取り出して返事をしている。木の種類で取り扱いが違うので、ゼロスとサラサに見てもらおうと思いついたようだ。ついでに同じく懐から布製天使様を出して、こっくりと頷いて見せている。そこだけ見ると奇妙だが、布製なだけイリーナには目に優しい光景だ。ちなみにこの布製天使様は、彼女の作である。
 布製天使様と見詰め合っている、ある意味奇妙な態度のユーリーを見て、イリーナは以前からの懸念が首をもたげていた。ユーリーがノモロイの天使に逃避しているのではないかと考えていたが、この前向きっぷりはまさしくその通りなのだろうか。サラサが熊のぬいぐるみを大事に持参したのと同様に、あれば安心だが、それがなければ昼も夜もないという様子ではない。
「ユーリー、その天使は貴殿に力を貸してくれるのか? 私は勝手ながら、もしや泣き言や愚痴を聞かせているのではないかと思ったことがあるのだが」
 正確には、そうしたことばかりして依存しているのではないかと心配していたのだが。
「ぐ、ぐ、愚痴は聞いていただくかも‥‥最近になって、母が急に見合いしろと言うので、思わず愚痴っぽくなったりして。で、でも僕、今回はちゃんとイヴァン様にも相談して、母には手紙を書いたんです。今のところ、お見合いは考えてませんって」
 顔を見るときっと怒られるから、初めて実家に帰るのを止めてしまいましたと、ユーリーは妙に緊縛感溢れる引き攣り笑顔を浮かべていた。イリーナは初めてユーリーが我を通した話を聞いて、かなり認識を改めたのだが、そのことで口を開こうとしたところ。
 気付くとサラサとコンスタンツェが、片方は落ち着き払った様子、もう片方はそわそわした様子で、二人の様子を眺めていた。なにやら用があるらしい。
「馬が一頭、足が痛いと言っている。特に見た目はなんともないが」
 そういうことなら神聖騎士とナイトの二人に尋ねに来るのは当然だ。しかし、サラサはそれで終わりだが、馬を心配してついてきたコンスタンツェはユーリーの言葉は聞こえていたようで。
「家庭を作るのもジーザス教徒の務めですわ。今のそのおつもりがなくても、ご自分のお相手を見つける努力は怠ってはいけません」
 滔々と始めた。彼女は度々こういうことをやらかしては、我に返ることを繰り返している。これでも相当ましとは、ウォルターが思わず漏らした一言だ。
「すまなかったな、ユーリー」
「つまらないことをお話しました」
 何がましだか良く分からない二人だが、実家の話はそこまでになった。天使様の話も、この時はここまで。

 この日の夜に月が出たので、ランタンの明かりを足してサラサの魔法を試したが、
「魔力が尽きるほうが早いかもしれないな。どうしても抜けないか、馬達に牽かせるのが厳しいときに使ってもらったほうが良さそうだ」
 打撃力不足か、そもそも用法が違うのか、狙ったほどの効果がないので、ゼロスが普通の手段で進めようかと話をまとめていた。魔力が尽きると休息も相応に必要だし、今のところ何もなさそうだが緊急時に困ることもありえる。なによりサラサの場合はテレパシーで力仕事に当たる動物達の様子を確かめてもらわねばならないので、これ以上に頼ることは利益にならないと判断したようだ。
 ことが魔法のことだけに、彼の意見は皆に受け入れられて、作業二日目からまた地味な状態に戻っている。この内容で派手なことがあっては事件だから、誰も不満はない。幸いにして、保存食を元にしていても、温かくて美味しいものが食べられていることだし。
「ユーリー、作業に率先して加わるのもいいことですが、あなたは代官ですから全体の統制を取ることを念頭において行動してください。‥‥分かりましたか?」
 どちらかと言えば人の話は聞くほうで、あまり率先して口を開くほうではないウォルターが度々ユーリーにこまごまとした指導を与えているが、これまた素直に頷かれすぎて困惑している。以前よりぽやっとしているところは減ったが、でもまだ心配といったところ。
 とはいえ、コンスタンツェではないが『自ら仕事をしようとは素晴らしい』ということで、厳しいことは言わないでいる。この辺りはゼロスも同じで、時々当人が気付かないことを教えてやりつつ、やはり作業は地味だ。派手にやりようがない。
 それでも地道な行動が着実に実を結んで、とうとう切り株が全部片付き、いよいよ木材に覆いをする段まで来た。
 また穴を掘って、柱を立て、横木を渡して、板を打ちつける。板は片端が下がり、もう片方が横木に固定されて、斜めだ。あまり端を下げると雪で埋もれて不具合が出そうなので、どの辺りの位置にするかで全員が頭を悩ませたが‥‥考えても答えが出ないので、板の長さで無理のないところにした。
「力をあわせても労働は、気持ちの良いものですわ」
「そうか。それは良かったな」
「いやー、素晴らしい気分です」
 一通りの作業が終わって喜ぶコンスタンツェとユーリーの間に挟まれてしまったサラサが、少しばかり普段より無愛想に拍車が掛かっていたとしても、ゼロスもウォルターも責めはしなかった。気分は良く分かる。イリーナは一足先に食事の支度で抜けていたので知らないが、コンスタンツェとユーリーは最後の釘打ちに二人掛かりでサラサ一人の倍も時間が掛かったのである。
「食事の支度が出来た。どうかしたか?」
 なんでもないと首を横に振った三人と、手伝うと名乗り出た二人。それは毎度の光景になっていたが‥‥三人は思っていた。
 手伝うはずが大抵しっちゃかめっちゃかにしてしまう二人に、どうして自分達は怒らずにいるのだろうかと。イリーナも多少はそういうことを考えているだろう。
「目的は果たしたのでよしとするか」
「もう少し成長してほしかったものですが」
 多分、言われている二人以外に共通するのは、こんな気分だろう。
 だが綺麗に整地された開拓用地は、次の春からはきっと人が移り住んで、発展していくだろうと期待させるに十分の状態になっていた。