荘園行きの護衛の募集

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月12日〜11月15日

リプレイ公開日:2007年11月22日

●オープニング

 冒険者ギルドマスターフロランスの、これほど不機嫌な顔付きは滅多に見られるものではない。
「それで? あなたのじいや達はこの依頼が出ることを知っているのですか?」
「大丈夫、言ってある」
 相手は金髪の青年だ。駆け出しの吟遊詩人のような服装だが、良く見ると生地と仕立てがとてもよい。かなり金が掛かった代物であろう。
「言ってあるだけで、反対されているのでは受けられませんよ」
「そんなことはない」
 フロランスがものすさまじく不機嫌そうなのと正反対に、青年は大変にご機嫌だ。
「ちゃんと皆様が承知しているのですね?」
「承知させてきた」
 この時に、様子を伺っていたギルドの係員の一人は『ぷちっ』という音を確かに聞いたと後に証言している。
「どうして、今この時期になのです? 今どういう依頼が出ているのか、理解しての所業とは思えませんよ」
「今を逃したら、この先何年かは足も向けられないだろうからね。この後は本腰を入れて妃を探すと約束したら、じいや達も渋々許してくれたよ。どうせお目付け役が誰か来るだろうが、大げさに行くのは嫌なので護衛を頼む」
「‥‥私の目を見て、もう一度同じことを言えたら、依頼を受けましょう」
「大げさに行くのは嫌なので、護衛を頼む」
「そこではなくて、花嫁探しのくだりです」
 青年が窓の外を見て、『ああ、雀が飛んでいる』などとほざいたので、係員達はその場から逃げ出した。後のことは、だから良く分からない。

 だがしかし、貴族の若様を荘園まで護衛する依頼が出たのは、それから程なくのことだった。
 若様の名前はブランシュ騎士団団長にあやかって、ヨシュアスという。
 パリでは結構良くある名前だ。


●今回の参加者

 ea3785 ゴールド・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea6536 リスター・ストーム(40歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 ea8820 デュランダル・アウローラ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9960 リュヴィア・グラナート(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb5761 刈萱 菫(35歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ローガン・カーティス(eb3087)/ 乱 雪華(eb5818)/ コルリス・フェネストラ(eb9459

●リプレイ本文

 貴族のウィリアムと聞いて、集められた冒険者が思ったことは人それぞれだ。
「さて、田舎者ゆえお名前からはご家名が分からぬのだが、いずれにしても失礼がないようにせねばな」
ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)が自らの知識のなさを嘆いているが、現われた『ヨシュアス』を見たリスター・ストーム(ea6536)は『知らないほうが幸せだよな』と思っていた。
 とはいえ、事情にうすうす勘付いている者は。
「ヨシュアス殿か。騎士団長殿と同じお名前だが、この国では良くある名前なのだろうか」
なんてリュヴィア・グラナート(ea9960)が口にし、しかめっ面のエルフのじいやが『あやかって名付ける親は多い』と返した時に、素直になるほどとは思えない。まあ、例外的に、
「にいちゃん、花嫁探してるって? この二人のねえちゃんたちはどう?」
常識の範疇ですら失礼千万なことをほざいたマート・セレスティア(ea3852)にはかなわない。挨拶しようとして、いきなり『この二人』と言われたリアナ・レジーネス(eb1421)と刈萱菫(eb5761)は唖然とした表情だ。マートはじいやに小言を食らっているはずだが、目線はヨシュアスが持参した明らかに食料が入っている籠に釘付け。
けれども、そんなことは序の口だった。気を取り直した女性陣が順々に挨拶をして、デュランダル・アウローラ(ea8820)が名乗った後に『どこかで見た顔だが』と言ったところで、ヘラクレイオスに『失礼な口を利くでない』と一喝された。デュランダルは慣れたもので表情一つ変えないが、何人かは声の大きさに驚いたようだ。
だが、それとてもじいやがゴールド・ストーム(ea3785)の装備の少なさに目を留めて、詰問するまでだ。ゴールドは荷物整理が面倒でバックパックは置いてきたと、割と素直に返答したものだから。
「必要なものはちゃんと持ってきているんだがなぁ」
「愚か者め! 日頃から必要な道具の管理もせぬで他人の世話が焼けると思うたかっ」
 がみがみと叱られている。それどころか、荘園までの道中、じいやは他人を守る立場の者の心得とやらをゴールドに教え込む気になったようで‥‥念のために用意していたとか言う自分の馬に乗って、セブンリーグブーツで進むゴールドの横にぴったりと着いている。
 ちなみにじいやの馬は、誰が見ても素晴らしい馬だった。
「そんなのに乗ってきたら、じいやもバレバレだろうに」
 リスターが呆れているが、気付かないほうが幸せだと何も言わなかった。
 そして、道中の周辺地域にも様々な畑が広がっていると聞いたリュヴィアは目の保養にセブンリーグでの移動を望み、護衛たるもの一人二人は側にいないとと菫とリアナが馬車に同乗することになった。
「その面白そうなものに、後で乗せてくれるなら分けてあげるよ」
 食べ物に釣られて、ババ・ヤガーの木臼での移動を放り出し、マートがじいやのためのはずだった席に収まっている。
 そうして、馬車の外を行っていた人々は、ゴールド以外は平穏無事に目的地まで辿り着いた。ゴールドは延々と説教尽くしだ。

 ところで馬車の中では、
「うわぁい、これ全部貰ってもいいの」
 マートが喜色満面で籠を我が物としていた。誰も全部とは言っていないが、彼の場合は『食べても良い』はそこにある食べ物全部を指す。
 そんなマートとは初対面のリアナと菫とヨシュアスは、パラの外見に子供っぽい仕草に騙されて、『まあ仕方あるまい』と思ってしまっている。
 なにより、ジャパン生まれの菫が会話に窮することがないようにと気を使ったリアナがバックパックから瀬戸内海図と百鬼夜行絵図を取り出して、珍しいものとしてヨシュアスに見せたのでそちらに気が向いたのもある。
「ヨシュアスさんはジャパンに行かれたことはおありですの?」
「ないが、ジャパン人には復興戦争の折に世話にもなった。‥‥こういう地図の書き方もあるのか」
 物珍しいと喜んでいるよりは、研究でもしているような目付きだが、ヨシュアスはリアナのジャパンでの経験や、菫がパリに来て驚いた事の話などに聞き入っている。時折口を挟むのだが、ジャパンについてもなかなか詳しく、会話は十二分に弾んでいると言えた。
 だが、この時に一番ヨシュアスが興味を示したのが、菫が髪結いで、叶うならリアナとリュヴィアの髪も手入れなどしてみたいのだとぽろりと口にしたときだ。
 まあ、リアナもリュヴィアも滅多にないことだし、それならやってもらおうと休憩の時に同意したので、そこでは格別問題は起きなかったが‥‥
 荘園に到着して、ヨシュアスがすさまじく高級そうな香油を小さいながらも一瓶、ぽんとくれたのには女性三人のみならず全員が驚いた。例外は一人。
 リアナが海図と絵図を差し上げたお礼か、それとも菫の技量に期待してか、単に物の価値を知らない馬鹿者か、その全部かで色々と応対の仕方も変わると考えたのも何人か。

 どうでもいいが荘園には、
「あいつらはなんだ?」
「本職の護衛じゃね?」
「後ろ暗い事情で素性を隠しているわけでなし、我々も護衛の本分を全うするだけだ」
 説教からようやく解放されたゴールドが眉をしかめ、リスターは楽が出来ると伸びをし、デュランダルが生真面目に口にしたように、いかにも護衛らしき人々の姿が散見された。人騒がせな視察だと、ヨシュアスの素性をおおむね正確に察している三人は考えている。
 素直に貴族の若君の視察護衛だと思っているヘラクレイオスは、『過保護な父親でもいるのだろう』とあまり難しくは考えず、ヨシュアスが荘園の監督から色々と報告を受けている横に控えていた。こうした農園の経営の心得はないが、開拓はしたことがあるので、まるきり話が分からないといったこともない。
 まあ、じいやから荘園の建物配置などの説明を受け、護衛仕事を全うすべく見回りの順序など決めていたら、一人足りなくなっていた。
「ひゃっほーっ!」
「あれはなんですかな?」
「うーん、世話人がくれるものなら食べてもいいと言ったら走り出したよ」
 おなかすいたを連発して、マートが荘園内を走り回っている。あれだけ食べて普通はありえない言動だが、最初にリュヴィアとヘラクレイオスが反応した。この二人は、マートが食欲魔人だと経験で思い知っている。
 だが、まさかここでいきなり魔法は放てず、じいやに断りを入れていたところ、ゴールドが弓矢を取り上げた。
「せっかく持ってきたウィリアムだ。腕前を披露させてもらおうじゃないか」
 ウィリアムは弓の名前。ついでに、
「このマントはオウサマの愛用品と同じだってさ。ちょっと洒落てみた」
 にやりと人を食った笑みを浮かべて、きりりと弦を引き絞り‥‥
 何のためらいもなく、マートに向けて矢を放った。ジグザグと走っている行き先を予想した軌跡は、マートの足元にがっちりと突き立ち、ころりと転がしている。ただその直後に絶妙の間合いで跳ね起きたが。
 連れ戻して来いとじいやが怒るので、リュヴィアが迎えには行ったのだが、彼女自身が途中の香草園で立ち止まってしまった。けれどもそれは香草の生え具合に異常を見付けたからで、結局はゴールドが犬二頭と共に追い掛け回し、連れ戻している。
 だが、少しするとまたうろうろし始め、今度は家畜小屋の前で豚を吟味している。挙げ句に言い出したのが、
「アデラねーちゃんの豚はそろそろ食べられるようになったかな。あ、アデラねーちゃんも、美味しい豚を飼ってるんだよ」
 前後の説明なしの食欲談義。ヨシュアスもじいやも何のことだか判らない。ここでまたリュヴィアとヘラクレイオスが出てきて、仕方がないので解説を。
 月道勤務のウィザードが発案して、預言災害から復興途中の村で家畜を飼ってもらうことで収入を得られるように支援の手を差し伸べたと言えば、とても大人の説明だ。もちろん二人とも分別のある大人なので、きちんと分かり易く、いい説明をしたのだが、ヘラクレイオスが一言付け加えた。
「ここだけの話、養豚にはブランシュ騎士団の偉い人も出資しておるそうじゃよ」
「イヴだな」
 ヘラクレイオスは一瞬で名前が当てられたので多少驚いたが、縁戚でもあろうかと詳細は尋ねなかった。自分の無知をさらして、ドレスタットの更に向こうブレダの地の領主に恥を掻かせるわけにはいかない。リュヴィアも少しは興味があったが、それよりもっとここの植物に興味津々だったので、こちらもあまり気にしなかった。ここの畑は素晴らしい。
「その発案者の友人は香草茶も研究しているのだが、こちらには何か独自の配合などは伝わっていないものだろうか。是非とも参考のために憶えて帰りたいのだが」
 そうでなくても、普段飲んでいるもので珍しい茶がありそうだと、ヨシュアスに尋ねてみたリュヴィアだが、生憎とヨシュアスはそうしたことは臣下任せらしい。代わりに畑に立ち入る許可を貰い、皆に断っていそいそと向かっていった。
 護衛といっても、荘園内だと互いに顔見知りで怪しい者が入り込む余地もなく、一人二人がヨシュアスの近くに交代でいることとして、他は案外と羽を伸ばしていた。
 でも夜間の見回りは、交代で怠らないことに決定している。
 なのに。
「女性の真の姿を知るのにふさわしい方法、それは」
 などと、リスターがヨシュアスに、ぶっちゃけ『女性部屋を覗きに行こう』と誘いをかけたのは夕食の後だ。菫がリアナとリュヴィアを飾り立ててくれると大量にお湯を用意したりしていて、今頃は揃って美容術を楽しんでいることだろう。
「子供の頃にやったことがある」
「よしっ! 今から俺達は相棒で戦友だ」
 ヨシュアスが意外な答えを返し、リスターが満足げに頷いて、二人は部屋から出て、人目をはばかりながら歩き出した。その間、ヨシュアスは『子供の頃に誰かに誘われて付いていったら、それが実は覗きで捕まり、従姉に尻を叩かれた』話を語っている。これを聞いて思い留まるのが人の道だが、リスターは違っていた。
「尻叩きか。たまにはそういう関係もいいが、基本的に女性は我々男がリードするものだ。多くの女の良さを知ってこそ、人生の楽しみも増すというもの。結婚して、妻は愛しているが、その分多くの女性とお近付きになる機会が失われて‥‥」
 じいやでなくても、デュランダルやヘラクレイオスが聞いたら、『依頼人に何を愚かな事を聞かせているか』と叱られそうな熱弁を振るっている。小声で。
 ヨシュアスは『ふーん』と聞いているのだが、彼は姿を隠すつもりがない。リスターも話に夢中になって、この時の見回り当番だったデュランダルとゴールドに見付かった。
「散歩だ」
「嘘付け。この先はあの三人の部屋じゃねえか」
「リスターが、結婚について語っていたところだよ。別に疚しいことはない」
 リスターが誤魔化し、ゴールドに突っ込まれ、ヨシュアスがしれっと発言して、デュランダルが『嫁探しか』と突っ込んだ。昼間にマートがあれだけ言えば、もう周知の事実である。
「貴族にとって結婚は責務だと教えられたが、責務だけで伴侶を選ぶのもぞっとしない話だな」
 デュランダルが意外なことを口にした。あまり恋愛にうつつを抜かす性格には見えないからだが、続けて『恋愛至上主義に走る傾向が多い冒険者もどうかと思う』と口にしたので、さもありなんと聞いていた三人は思ったが、ここで彼はヨシュアスに尋ねた。
 結婚に求めているもの。
「跡取り。少しは甘やかなものが欲しいと思うが、これがなかなか」
 なぜか男四人で夜の軒下、あれこれやと話し出していた。ゴールドはどうでもいいと思っているのだが、離れようとするとリスターが絡んで引き止める。デュランダルとヨシュアスは、同じ話を行ったり来たり。
 しばらく後、女性三人はマート以外がヘラクレイオスとじいやにしこたま怒られているのに気付いたが、すぐ楽しい時間に戻っていった。

 さて、翌朝。
 リスターが美辞麗句を並べているが、割愛。ゴールドは軽く拍手を、デュランダルとヘラクレイオスとじいやが礼儀正しく賛辞を寄越したのは、菫が髪を結い上げた二人に対してだ。前日の冒険者然とした雰囲気が一変、良家の令嬢になっている。リュヴィアは凛々しい顔立ちだが、それを活かしてなお艶っぽい雰囲気まで作っていた。マートも食べる手を止めた出来栄えである。
「服が用意できなくて残念でしたわ。もっと素敵にして差し上げられましたのに」
「いい。これ以上されたら、仕事にならない‥‥というより、自分ではないようで驚いた」
「手も自分の手とは思えませんもの」
 入念に手入れされた髪と肌に驚いたのは本人達もで、いささか呆然とした様子だ。これでは畑仕事には入れてもらえないとか、護衛仕事でこんなに目立ってもと言い出し、菫に身なりに気を使わなくてはいけませんとたしなめられている。
 気を使うという話は突き抜けていると男性陣は思ったが、口に出さないのが礼儀だ。後はヨシュアスが多少なりと反応しているかどうかだが、当人は何で髪を結んでいるのだろうとか、何か違うところを気にしていた。
 最終的に女性三人とヨシュアスの会話は、香油の使い心地や香りについてになってしまい、じいやがこめかみを揉み解しているのを男性陣は眺めている。
 その後は前日同様に、荘園内の様子の見回りや帳簿の確認をしているヨシュアスに交代で付き添って、一部は趣味に走る時間を持って、一日を過ごしていた。

 ヨシュアスをパリまで送り届ける三日目。前日に延々と『のんびりしたい』だの『もう一日いたい』と繰り返していたヨシュアスのことだから、きっとごねるに違いないと一人を除いた冒険者は考えていた。
「ふんじばってつれて帰ろうぜ」
「お前がやってくれよな」
 ごねたら縛って馬車に放り込みたいゴールドと、二日酔いでサボりたいリスター、ずっと食べ続けのマートはさておき、双方の間に会話はないがヘラクレイオスとデュランダルは『自分の責任を理解していれば帰るだろう』と同じことを考えていた。
 女性三人は多少説得もしないといけないだろうかと構えていたが、朝の挨拶を受けたヨシュアスはどこからか届いたらしい書面を片手にしつつ、こう口にした。
「まだ乗せてもらってなかったから、あの木臼で帰ろうか」
「なるほど。あれは早いから、そうと決まればすぐ用意して、パリに急ごう」
 普通は反対すべきところで、リュヴィアが『良し分かった』と言い、ヨシュアスは虚を突かれた表情で黙ってしまった。リアナと菫は、『殿方はああいうものがお好きだから』と相談したわけでもないのに急かしまくり。
 当然ヨシュアスが木臼に乗ることはじいやとマートが承知せず、それとばかりに馬車に皆から放り込まれたヨシュアスは、せめてお茶を飲んでから帰りたかったと繰り返していたが、
「にいちゃん、いきなり仕事か。大変だね」
 コンコルド城に帰っていった。
 ああやっぱりと思った人と、あれと思った人が半々。