千里の道も一歩から
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:7 G 47 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月17日〜12月27日
リプレイ公開日:2007年12月29日
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●オープニング
偉い人というのは、何かともったいぶる傾向があるものだと、冒険者ギルドの一人は言った。
別の一人は、それにしたって今更これはないだろうと、そうぼやいた。
別の偉い人が、
「でも、それが出来ないなら冒険者ギルドの取り分は狭くなるだけだから」
などと口にしたので、この依頼が出たと言うのは‥‥ただの噂だ。そう、ただの。
ゴーレムを作るには、まず素体というものが必要だ。素体にはいくつも種類があって、それによってゴーレムの強さがある程度決まってくる。素隊が木材か金属かだけではなく、金属なら種類によって歴然とした差が発生するものだ。
ちなみに、使用する素体の材料によって、ゴーレム一体に掛かる費用もたいそう変わってくる。同じ重さの鉄と銀の価値を考えれば、それも簡単に理解できるだろう。
なお、これらのゴーレムはもちろんウィルが開発したものだが、その中には『デク』という機体がある。これは分類ウッドゴーレム、初めて開発された有人ゴーレムとして歴史的な快挙だったが、現在ははや時代遅れの代物だ。
でも、誰かが壊したわけでなければ、作ったものはまだ存在していたりする。
そして、依頼は橋を架けること。
ゴーレム素体用の鉄鉱石を用立てる鉱山から、ウィルのゴーレム工房まで鉄を運ぶための街道の途中の橋が、現在落ちてしまっている。以前からよく揺れると言われていたが、どうも最初の工事が手抜きだったようだ。設計関係者は近隣の領主が手を尽くして捕らえ、現在取り調べの真っ最中である。
それはそれとして、問題は橋を架けなおさなくてはならないこと。ゴーレム工房拡張で多くの人手がそちらに取られている現在、橋の建設に掛けられる人数は少ない。効率よく、丈夫な橋を架けるには、『よく働き、力があり、出来れば足場なんか組まないで済む働き手がいれば幸い』と誰かが呟いたそうだ。
この条件に合致するかもしれないとして、話題に上ったのが『デク』である。『デク』だってゴーレムだから、鎧騎士がいないと動かないが、城勤めをするような人々がこういう仕事をしたがらなかったのか、冒険者ギルドに依頼としてやってきたのだ。
『デクを操り、橋建設工事に従事する者を募集』
ちなみにこれを掲示していたギルドの係員達の間でまことしやかに囁かれる噂が、
「今度、ゴーレム工房にギルド専用の部屋が出来るらしい」
ゴーレム工房内に、冒険者ギルドの部屋だけ出来たって役には立たないので、『中身』も付随しているかどうかが係員達の話題の的だ。もちろんそれに関係する人手やその他諸々も。
この依頼で冒険者ギルドの鎧騎士達がよい働きをすると、ギルドマスターとギルド総監がゴーレム工房に対するギルドの権利を声高に要求してくれる‥‥かも知れない。
●リプレイ本文
橋の架設工事現場では、監督が脂汗にまみれていた。
「鎧騎士さんが十人も来るんだと。もてなしの準備なんかしてねえが‥‥」
「仕事に来てくれるわけだから、もてなしはしなくてもいい‥‥はず。でも一番いい酒は取っておこうか」
役人も、心なしか顔が蒼褪めている。彼らは運が悪いことに、領主と側近以外に騎士がいない地域の出身で、鎧騎士は問答無用で偉い人である。
そんな彼らと作業員には、何らかの事情でやってくるのが九人で、うち二人が天界人と聞いても、慌てふためくばかりだ。ここに馬車で到着したのが、話題になっている九人である。自分の愛馬に騎乗しているのが複数いるのは騎士だから珍しくないとして、リューズ・ザジ(eb4197)はグリフォンでやってきていて、ティラ・アスヴォルト(eb4561)はユニコーンを連れている。ティラはなぜか自分の馬もいるのに、御者を務めていた。
だらだらと冷や汗と脂汗を流している監督と役人がその一行を出迎えたところ、馬車から最初にわらわらと降りてきたのは予想外に種類も雑多な犬の群れだった。それから物輪試(eb4163)と越野春陽(eb4578)の二人。他は自分の馬でやってきていた。
「こちらの監督でいらっしゃいますか」
戦場でなかろうが、普段は労役で行われる仕事だろうが、ギルドから請けたからには自分達も作業員の一人と考えているエリーシャ・メロウ(eb4333)が、丁寧に問いかけたところ、監督達はどう返したものか慌てふためいてしまった。で、キース・ファラン(eb4324)が問い直す。
「監督だろ?」
こくこくと頷かれたので、今度はジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)が、
「しばらく一緒に仕事をさせてもらうので、よろしくね。色々教えてちょうだい」
と口にした。隣ではルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が、たまたま目が合った役人に会釈している。なんとなく双方動きががくがくしているのは、緊張気味だからだろうか。監督は口をパクパクさせているが、何か言いたいのか、それとも息継ぎなのか不明。
「見世物になった気分だ」
ライナス・フェンラン(eb4213)がげんなりと呟いた通りに、彼らを取り囲む作業員達の囲みで、実際の現場である川と河岸がまったく見えないほどの人垣が出来ていた。
デクはこの後フロートシップで運ばれてきて、近くの河岸が開けた場所に下ろされたが‥‥
「作業中の安全確認は徹底させてくれ」
物輪が不機嫌にも見える顔つきで監督や作業の班長達に念押しすることとなった。物珍しいと近くで動作を覗こうとする作業員が多数いたからだ。よって、事前の作業についての確認と相談は地道かつ熱心、丁寧にして念入りに行われることになったが、冒険者ギルドから派遣された九人全員が参加しなくても、決まったことが周知徹底されればよい。ここに来るまでの間に、彼らの中では話し合いがおおむねまとまっていたからだ。
このため、馬車に乗る人数が少なかったので荷物を積み込ませてもらったティラがライナスに手伝ってもらいながら、現場に程近い空き地にテントを張っていた。それも十張。途中から休憩に来た作業員達が手伝ってくれたが、三十枚もの毛布を見て、何に使うのかと尋ねてきた。
この時には、ティラは調理器具を五セットも積み上げて、運ぼうとしていたが。
「休憩用だ。この時期に寒いところで休んでも、身体に悪いからな。風向きにもよるが、二箇所で火を焚いて、ハーブティーでも淹れて、少しでも疲れを取らないと。人数がよく分からなかったが、これだけあれば休憩には足りるだろうか?」
どっさりと香草の束を積まれて、炊事担当の人々は代金の心配をしていたが、ティラはもちろん皆から徴収するつもりなどない。
鎧騎士というのは気前がいい人のようだと、勝手に思いこんだ人々の出来上がりだ。
そして、監督達との打ち合わせに出ていた面々は、作業の現場を確かめていた。物輪はアーチ状かと考えていたが、馬車が通るので平坦な橋だ。土台の柱が石造り、途中から木造なのが少しばかり変わっているが、他にもそういうところはある。
「上を軽くする工法だろうが接続部分がどういう造りか、心配だな」
「土台というには石の部分が中途半端に高い気もするけど、あれは水量の変化の関係? 接続部分の工法はよく説明してもらわないと、木材を運ぶのが仕事の中心よね?」
物輪と春陽が矢継ぎ早に、監督と技術者に作業工程から何から何まで、説明を求めている。他の人々が割ってはいる余地はない。この二人は天界人だが、かたや『娑婆での仕事を思い出す』と言う工事か機械工作の専門家、もう片方が今も設計士であるから、細かいところの相談は任せていたのだが‥‥
はっきり言って、この二人と技術者達以外には、何がなにやら分からない話が続いていた。途中で物輪が手近の荷物を紐で括って見せ、技術者達と何か理解しあっていたが、これもまたなんなのか不明。玉掛けって何? 鎧騎士一行は拝聴するのみだ。
ともかくも話がまとまり、ゴーレムでの仕事は橋板として渡す木材の運搬と設置と相成った。それ以外のところは経験が必要なので、あくまで補助。
そしてこれは事前に話し合っていたことだが、作業中の事故を起こさないために行動は日中のみ。ゴーレムにも稼動限界があることは事前によく周知しておき、交代は速やかに。稼動限界の個人差まで理解されるかは分からないが、ともかくも慣れない事をするので行動には余裕を持つことと申し合わせた内容などに加えて、エリーシャが、
「私達は騎士ではありますが、現場で気遣われても支障が出るでしょう。どうぞ作業員が増えたと思って、同じように扱ってください」
と言ったところに、ようやっと場の雰囲気に慣れてきたルエラが、
「私達も新入りだしね」
そう付け加えたので、班長達はほっと一息。そして監督は、
「そう言ってくれると有り難い。上品な言葉遣いは疲れるしよ。じゃ、姉ちゃん達、よろしく頼むや」
ここまでだって、丁寧にしようとしていたが、上品という言葉とは縁遠い言葉遣いだったのだが、いきなりものすごく砕けていた。
「人は悪くないのだろうが‥‥せめて名前で呼び分けてもらわないとな」
リューズが呟いたとおりに、兄ちゃん姉ちゃんでは誰が呼ばれたのだか分からない。変なところで前途多難かもしれないと、少しばかり心配になった者が一人二人‥‥もっとかも。
作業の一日目は、現場の確認と作業内容の説明で明け暮れた。説明は冒険者代表と監督、技術者の間で交わされた相談を冒険者全員にと、更に作業員全体に行うのとで時間を掛けた。どちらもやったことがない新しい仕事なので、どうしても時間が掛かった部分もある。
後はデクの動作確認だ。
「あなた達は反応がいい子だし、きっとうまくやれるわ。力を貸してちょうだいね」
「耐久力は少し低いが、今回は戦うわけではないから十分役に立ってくれるな」
ジャクリーンとリューズがぽんぽんとデクを叩いて、身軽に乗り込んでいく。動作確認とはいえ、川の水深がどのくらいかも確かめておきたいから足元にはいつも以上に気を使う。なんだか遠方から拍手が上がっているが、さすがに手を振ったりはしない。
なにしろ手抜き工事で橋が落ちたのだし、この工事が終わらないと鉱山からの品物だけでなく近隣の人々もぐるりと迂回する道を通って大変だと聞いている。あまり浮ついたところは見せられないと、この二人ばかりではなく思っている。
乗るのが六人、動きを見て作業再確認をするのが二人、ライナスが余って、順番が来るまでは作業員達にゴーレムの動きを説明していた。声を張り上げてのなかなかの重労働だ。
ただしやっているのは、川に点在する昔橋代わりだった大きな平たい石を踏んで、足場が安全かを確かめたり、長い板を二体で持ち上げてみたり。流れが緩やかで足をすくわれることはないが、濡れているのでは神経を使うから、まずは大きな石の上に板を乗せて、足場代わりにすることになった。
これをリューズとジャクリーンが行って、安定しているかどうか乗ってみるのがキースの乗り込んだデク。先の二人は両端でいざと言うとき助けに行くべく身構えている。本人達は当然真剣だが、見た目の派手さはまったくなかった。見ている人々は、案外地味な代物だと思ってきた様子。
そんな注視の中で、一通りの作業を終えてみれば、それでもやんやの喝采だ。キースが無邪気に手を振り返し、どっと笑いが沸いている。
そのおかげかどうか、ティラが準備してきたテントの場所に大して疲れてもいないのに全員連れて行かれ、やはりティラが買ってきた香草でお茶を淹れてくれた。蜂蜜はルエラの提供だ。ルエラは天界の栄養ドリンクと蜂蜜のお湯割りを準備するつもりだったが、現場で煮炊きしていると聞いて温かいものは出来るだけ温かくと思っていたが、なにしろ人数が多すぎる。
「自分達だけでは申し訳ないと思ったが、蜂蜜は役に立つようでよかった」
たくさんはないのだがと言うルエラも、鎧騎士は気前のいい人説を押し上げている。今回に限るなら、きっと間違ってはいないだろう。栄養ドリンクは出したら見世物決定なので、しまいこんだままだ。
このあと食事の際にどう見ても特別にいい酒を持って来た様子にエリーシャが辞退し、それなら全員で飲めばとキースが口を挟み、作業員達がそわそわしたのだが、翌日の作業を考えたリューズが大きい仕事が一区切り付いたときにお祝いにしようと提案して、酒樽は再びしまいこまれた。
酒樽目当てに目の色が変わる冒険者はいなかったが、作業員は多数いたようた。それに予想外に妙齢の女性が多数で張り切ったのもかなりの人数。
ちなみに見張りの必要もなく就寝した注目の人々の大半は、ペットを同輩と挟んで暖を取る無駄のなさで、彼らのやる気を更に押し上げたらしい。
とりあえず物輪とキースとライナス以外。彼らは何をしたところで感心されるだけである。懸想されても困るだろうし。
この翌日からは、地道な作業が始まった。四人ないし五人がデクに乗り、監督の指示の元に人では何人寄っても持ち上がらないような建材を持ち上げる。最初は傷んだ土台を直す石、次は巨大な木材だ。作業そのものは日頃からやっているような動作だが、あいにくとゴーレムでこんなことは普通していない。ちょっとばかり時間が掛かるし、時折物輪と春陽が走り回って、指示が変わったりもするが、その時はきちんと手順も確かめてから動き出す。
時々リューズが上空から作業の確認をするためにグリフォンを飛ばすが、彼女一人で見ても分からないから一度監督を同乗させた。下りて来た時には二人とも苦しそうだったので、二度目はない。監督は高いところを飛んで怖く、リューズはしがみ付かれて苦しかったようだ。
作業の合間にエリーシャが皆の馬の世話を一手にやっていたところには、荷役用の馬を連れた若い衆がうろうろし、世話の仕方を習って喜んでいる。彼女は気付いてないが、普通荷役馬の世話を任されるなら知っていて当然のことまで訊いていたのは、会話の切っ掛けだろう。
似たようなことは、香草茶の淹れ方を教えていたティラでもあった。こちらはメイに修行に出ていた時のことを延々と尋ねられている。話も珍しいが、当人と話をするのも楽しいと言った感じだが、ティラは案外毒舌なのでたまにしょぼくれている作業員がいたりもした。
キースはどういうわけか、他の人々とは扱いが違っていて、班長達が怒ろうが作業員達はついつい小突いたりしている。皆、まるで弟と遊んでいるような様子だ。実は彼がもうすぐ三十だなどと、言っても誰も信じないだろう。キースはからかわれると、素直に興奮して騒ぐが後を引かないので楽しい。よく働くから皆に可愛がられてもいた。
ジャクリーンは反対にかっちりとした雰囲気が近付きがたいのか、あまり人の輪の中にはいなかったが、鉱山のことばかりを気にしない態度が班長達には好ましく映ったようだ。この辺りは春陽とエリーシャにも通じるが、ジャクリーンが話してみれば気取ったところなどない相手なので‥‥班長達は自分達だけがその会話を楽しんでいたとも言う。ゆっくりゴーレムの話など聞いて、ジャクリーンが不思議に思うほどのご満悦だ。
実は作業員も班長達も、この時とばかりに聞いた珍しい話を新年の席で家族に話してやらねばなんて考えているのだが、ゴーレムが珍しいはずもない九人にはあまり通じなかった。相手が喜んでいるのは分かるから、悪い気はしないのだが。
ルエラは食事の世話も手伝って、皆にこまごまと声掛けをしていた。酒が過ぎないようにとか、早く寝たほうがいいとか、そんなことだ。なかなか休憩できないときは魔法瓶で温かい飲み物を配り歩いていた。鎧騎士は気前がいい上に、偉ぶらない人達だと率先して歩き回る姿にありがたく思っている作業員も少なくない。
妙に作業員の中に混じることが多かった、つまりは肉体労働に駆り出されていたライナスが聞いたのはそういう話で、前国王の頃を引き合いに出されると耳が痛いところもあるが、今度の橋はきっと丈夫なものが架かるだろうと肩を叩かれれば嬉しいものだ。デクで足を滑らせたのを何度言われても、まあそれはそれ。ちょっと悔しいが事実だけに仕方がない。
ところで、春陽は監督に気に入られていた。
「うちには息子が二人いるんだが、どうだ、会ってみないか」
結構はた迷惑な気に入られ方だ。春陽がどう応えていたのかは、よく分からない。当人も説明しなかった。
同様に気に入られていた物輪は、これまた嫁さんのあてはないのか、うちの村に年頃の娘がと言い続けられ、最後のほうは憔悴していた。これまた異様に、仕事の時は元気なのに、監督と話すと憔悴していた‥‥
毎日、デクで普段はやらない仕事を続け、重量のある資材を運び終え、デク用に渡した仮設の板橋を片付けて、
「それもそのうちに別のものに転用するだろうから、その時に都合がいいところに運んでおこう」
資源は有用に使わないといけないと物輪が最後まで気を使い、変わらず嫁さんが攻撃を喰らっていたが、日程中にこなせる仕事は当初の予定通りに最終日までに終えていた。
後は帰るだけなのだが‥‥
「抜け殻?」
誰とは言わないが、一人馬車の床に横たわっていたらしい。