【宝の地図】打ち捨てられた鉱山の奥底
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:9人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月17日〜01月27日
リプレイ公開日:2008年01月20日
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●オープニング
その老人は、皆が飲食と歓談を楽しんでいる酒場に突然現れた。
着古した上着に、履き潰す寸前の靴、使い古したバックパック。不似合いに小脇に抱えているのは真新しい羊皮紙の束だ。
「宝の地図はいらんかね?」
無遠慮に皆が歓談していたテーブルに割り込んで、いきなりの発言がこれだ。
「古い鉱山の奥にある宝を取りに行く奴はおらんか? 今なら宝の地図が一人銀貨五枚の大安売りじゃ。場所柄四名以上は集まらんと、危なくて売れんがね」
見れば猫背ではなく腰が曲がっていて大分背も低く見えるが、相手はエルフだ。軽く見積もって、百五十年から六十年は生きてきただろう。そういう人が言う『古い』はどれほどかと、興味を持って一人が問いかけてみると。
「細かい年数は忘れてしまったが、八十年位前かのう。鉄鉱山で、まだまだ鉄が取れるはずじゃったが、その当時の領主一族で跡目争いがあってな。跡継ぎ暗殺を企んだ連中が追い詰められて、その坑道の中に逃げたんじゃよ」
その鉱山には複数の入口があり、内部が繋がっていたので、逃げ込んだ側は別の出入り口から逃げるつもりだったのだろう。
けれども跡継ぎ側も後顧の憂いを完璧に絶ちたかったのか、それとも単なる考えなしか、暗殺首謀者達の逃げ込んだ出入り口以外を全て崩して塞ぎ、坑道内での追跡を行ったらしい。それまでドワーフ達が慎重に掘り進んでいた坑道で、暴挙と言わざる得ない対応だ。
そこまでしても、暗殺首謀者とその側近数名は発見できず、鉱山は閉鎖されて、たった一つになっていた出入り口も厳重に封鎖された。領主になった跡継ぎの決定も強引ながら、採掘に携わっていたドワーフ達もそんなところには二度と入りたくないと別の鉱山に移住を決めてしまったのだから再開のしようもなかったのだろう。
よって、その鉱山はまだまだ鉄が取れるはずながらも近くの街道が廃れていき、長らく放置されたままだ。当時の領主一族は八十年の間に衰退し、別の一族が領主になり、それがまた変わって、今は当時と何の関わりもない人間が治める地域となっている。
「宝はな、跡継ぎ暗殺を企んだ連中が抱えて逃げた金銀財宝じゃよ。実際に大金を持ち逃げしたのは事実だし、そのほかにも宝飾品など金目のものを幾つも奪っていきおった。おかげで追跡が厳しくてな。半分くらいは取り戻したが、残り半分はみつからなんだ連中と一緒に行方不明じゃ」
もはや持ち主はいないも同然だから、それをいただいたところで咎められることはない。そして鉱山閉鎖の理由だった裏切り者の死体が確認できて、それを現在の領主に報告すれば、鉄鉱山の再開もありえるだろう。そちらからの褒章まで望むのは欲が深いが、少なくとも罰せられることはない話だ。
「どうじゃ、宝の地図。坑道の入口から五十メートルまでは、きちんと判明しておるぞ」
ちょっとどころではなく心許ない地図だが、鉱山までの部分は完璧、かつ多少ずれがあるかもしれないが埋められた全ての出入り口の位置も分かるという。
そんな宝の地図を、買ってもよい人が四人以上いるだろうか?
●リプレイ本文
宝の地図のお値段は、お一人様銀貨五枚。
物好きな冒険者は九人いたので、銀貨だったら四十五枚。老人の財布は見た目いい感じに膨れている。
「よし、では地図じゃな」
ほくほく顔のじい様は、大きな羊皮紙を取り出した。何人かがおかしいなと思ったのは、八十年前から埋まっている坑道の地図にしては羊皮紙が新しいことだが、
「しばし待っておれ、今書くでな」
この台詞に、皆ちょっと沈黙。
だがすぐに、
「信じられなーい。地図があるわけじゃないの」
あっけらかんと思ったままを叫んだのがラマーデ・エムイ(ec1984)。
「それ本物? 信じて大丈夫? 大丈夫って言って」
エルトウィン・クリストフ(ea9085)は夢のお値段銀貨五枚が、ここで夢にならないように必死。
「その地図そのものが、ある意味珍妙な品物だよね」
買い取ってから描かれる宝の地図なんてと、フェリーナ・フェタ(ea5066)も呆れ顔だ。
「宝の地図はアンティークが相場なのに‥‥」
月下部有里(eb4494)は初っ端から挫かれた古き良き物のイメージに、失笑気味。
「まさか我々をたばかったのではないでしょうね」
アルトリア・ペンドラゴン(ec4205)が冷徹な表情で口にしたが、じい様はご機嫌なままだ。図太い神経の持ち主らしい。
一応はすらすらと描き進めている地図は、鉱山の知識もあるローシュ・フラーム(ea3446)やマリア・タクーヌス(ec2412)などが見ても、不自然なところはない。鉱山の採掘の仕方にもよるが、地図としてはよく描けていた。
「ここ、綴り違いますよ」
途中、洞窟の入口の位置を書いていたじい様にシファ・ジェンマ(ec4322)が指摘するところもあったが、すらすらと描き進めて小一時間ほど。
宝の地図、出来上がりだ。
「じゃ、準備して行こうか!」
フォーリィ・クライト(eb0754)が元気に宣言したが、数名はやはり懐疑的だった。でもここまで来たら出発である。
そして三日後の昼頃、彼らは問題の鉱山に到着していた。少しばかり予定より早いのは、馬やセブンリーグブーツで先行できる人々が山の中の道を調べてくれたからだ。
しかし、早く着いたところですぐに坑道の中に入れるわけではない。そう、入口が閉鎖されているからだ。入口内側に大きな石を積み上げ、その外を板で押さえて打ちつけてあるが、さすがに板の部分は大分腐食している。内側の石積みが見えるのも、所々穴が開いているからだ。
そこからマリアとラマーデ、ローシュにエルトウィンが中を覗いて、出した結論が。
「仕方ないのう、この板切れを外して、全部下ろさねばな。丁寧に積み上げてあるわい」
これだった。力仕事であるが‥‥夢を買ったのは意外にもローシュ以外は女性。
「まったく、ロマンの分かる男がおらんから」
彼は道中このことで時々愚痴っぽくなっていたが、働くことが嫌な訳ではない。それだったらわざわざ槌など持ってこないのである。
もう一人の力仕事要員フォーリィと二人がかりで板をはがし、他の七人は、手分けして焚き火を起こしたり、テントを張ったり、ペット達の世話をしたりし始めた。行動し始めて三日目ともなれば、誰が何に向いているかくらいはそれぞれ承知している。
てきぱきと作業して、引っぺがした板切れも薪にし、石を下ろす作業もローシュとフォーリィが中心で進めたが、下ろした石はローシュから借りた手斧で太い枝を切り出してきたり、彼とエルトウィンが持っていたスコップを使って、
「てこの原理よ。下にスコップを入れて、ここに石を置いて」
有里の指導の下、ニ、三人がかりで邪魔にならない場所に転がしていた。たまに失敗して、皆の驢馬や馬が逃げ惑う騒ぎにもなっていたが。
日も暮れてから、やっと入口の確保に成功。もちろん全部綺麗に石を除けたのではなく、人が二人ほど入れる位の幅を確保して、他の石が落ちないように補強しただけだ。
「これは‥‥無理に入らず、明日は別の入口を開いたほうが安全かもしれないな」
ようやく開いた内部の様子を確かめるのに、火の付いた枝を投げ入れたら、すぐに消えてしまったのを見てマリアが提案した。皆疲れているのだが、これを見るとその方がいいような‥‥まずは明日、他の入口の様子を見て考えることにした。
フェリーナが保存食で作ってくれたスープが、染み渡るほどに美味しい夜だった。
そして翌日。
フェリーナとエルトウィン、シファの三人の先導で、時々シファが潅木の茂みに突っ込んでいたのは愛嬌として、他の出入り口を発見した一同は、そのうちの二つに通風孔程度の穴を開けるために働いた。これらの出入り口は魔法か何かで崩したようで、あまり大きな穴を開けたら崩落しそうだからだ。風さえ通ればいいので、一日がかりでなんとかかんとか。
ちなみにこの日、ペット達は揃って留守番をさせられていたのだが、皆が最初の出入り口のところに戻ってくると、ラマーデの子犬、オロが息も絶え絶えで彼女に飛びつき、その瞬間に粗相をした。
「やだぁ、なにしてるのよ、めっ」
叱られてもひいひい鳴いているのが変だなと思えば、ペット番をおおせつかったフォーリィのイーグルドラゴンパピー、ロロは主に背中を向けて遠くを眺めている。ローシュのドンキィ、フェリーナのエルネスト、エルトウィンのろばちゃん、マリアと有里のも含めて五頭の驢馬と、アルトリアの駿馬は、揃いも揃って足元を掘り返していた。何か神経質になっていたようだ。平然としているのは、フォーリィの戦闘馬、ドラグノフだけ。
「あ、ロロはあんたのこと齧ったりしないわよ〜」
ふと気付いたフォーリィがオロに言い聞かせているが、餌をくれれば誰にでも尻尾を振る子犬のこと、ドラゴンに食い殺されると思っていたのだろうか。それがよそに行かないように見張っていたロロは、まだ遠くを眺めている。
その背中に哀愁を感じたのは、一人二人ではない。自分の馬や驢馬に髪や服を齧られたのも。
さて、五日目。燃えさしを投げ込んでも、今度はしばらく燃えていたのを確かめて、一同は用心しいしい内部に入り込んだ。最初の五十メートルは地図があるとはいえ、それがどう変化しているのかも分からないので、皆目を凝らしている。
ちなみに先頭は前衛担当のフォーリィと、異常察知のためのエルトウィン、二列目にランタンを持ったシファに地図を広げたマリア、三列目がランタン担当で有里、とうとう子犬を連れてくる羽目になったラマーデ、四列目がアルトリアとフェリーナでどちらもランタン持参、片方しか点けていないのは、油の節約と追加のときに明かりが減らないようにとの用心だ。ローシュはメイフェのたまっころを連れて、最後尾。
オロがいる時点で、内部に何かがいても不意打ちは出来ないが、ロロが態度で、お守りを拒否したから同伴。お互いに昨日は苦しかったらしい。まあ、普通の生き物はいないはずだし。
そして、オロが鳴いている間は空気も大丈夫よねと考えている誰かがいるかもしれないが、彼女達と彼は今のところ順調に進んでいた。崩落の危険がないか、万が一にも八十年生き延びた罠がないかを確かめながらだから、ゆっくりゆっくり地道に進む。
「前方なんにもなーし。もしも狂化しちゃったら、殴り倒してね」
「異常なしだね。そういう話は先にしてよ」
「明かりの位置は今のままでいいですか」
「この辺りはまだ鉱石が出たわけではないな」
「クリエイトエアーはあるけど‥‥やっぱり空気が悪いわね」
「オロ、ちょっと静かにしなさーい!」
「騒ぎすぎではありませんか」
「そろそろ油足すから、一度止まってね」
「‥‥娘っ子ばかりじゃと、賑やかだな」
二時間十メートル、十時間で五十メートル、五日目は地図にある通路を全部確認したところで終わった。壁も肉眼に、魔法に、手触りに、坑道の強度の計算までして調べた結果、ここまでは隠し部屋も隠し通路もないことが判明した。
坑道にそんなものがあったら、それはそれでどんな場所だか。
でも、いまだにアトランティス出身者以外は思っている。
ここ、幽霊が出そう、と。
アトランティス出身者は、『幽霊って何? カオスの魔物とどう違うの?』と悩んでいた。
六日目。
「さ、本日も張り切って行きましょ!」
本日掛け声をかけたのはエルトウィンだ。小声で『お化けはいませんように』と呟いている。人には苦手なものが一つくらいはあるものだ。
けれども、本日も先頭のフォーリィは、昨日の異常のなさに退屈極まってきたのか、
「なんかもう、なんか出ないかしら」
などど口にしている。ローシュも手応えのなさにご機嫌が今ひとつで、
「いっそ、中にいる化け物の餌にするために騙されたとかどうかな」
本当にあったら困るような思い付きを口にしていた。おかげで有里にまとめて怒られている。なにしろ、
「ほらほら、今日は地図もない通路なんだから、油断大敵よ」
その通りである。そこにも連れて行かれるオロは相変わらずきゅいきゅい鳴いているが、ラマーデと一緒なのでご機嫌だ。ラマーデは飛び出さないようにオロの身体を袋に入れながら、
「大声で吠えたら、天井が落ちるかもしれないから、静かにね」
なんて言い聞かせているが、彼女の声のほうが明らかに大きいのは皆黙っている。この程度で崩れるなら、昨日の内に落ちているだろうし。
一応、フェリーナとシファはランタンに油を足して、更に急ごしらえの松明も用意して、その荷物を皆に配分していたりするのだが。ついでに中で食べる食料は、フェリーナとアルトリアが冷めても食べやすいように手を加えて、これまた配分している。重いものは力がある人、それほどでもないものは力もそれほどでもない人。
「油は皆で一つずつ持たないと、何かあったときに壊れたらいけないよね」
「では私はこちらと一つずつ持ちましょう」
「皆さん、荷物がまとめ終わりましたよ」
地図の先を検討しているマリアが一番重い荷物を背負おうとしたりしていたが、ローシュと荷物を交換して、本日も出発だ。昨日調べた通路のうち、一番下に向かっているものを選んで、一気に十五分で下りる。そこからまた、ゆっくり確認しながらが始まったが‥‥
「崩落ですか。‥‥これは衝撃で落ちたと思いますが」
罠もなさそうだからと確認してもらい、先頭に出たマリアが首を捻る。ラマーデとローシュも同様に、これは梁が腐ったからとか、地盤が緩んだものではなかろうと判断した。多分だが、魔法をぶつけて崩したのである。坑道の三分の二まで埋まっていて、上の瓦礫を少し除けたら向こう側に小柄なものは入れそうだが、エルトウィンが言うには。
「何か、金属音がするんだけど。向こう側」
それでフォーリィに、シファが担ぎ上げてもらって覗いてみると、
「あの‥‥骨が綺麗に揃って、装備をつけて、瓦礫を叩いてますけど」
そんなものが見えた。
「わーい、幽霊だ。なんていうんだっけ?」
誰がそんな歓声をあげたかはさておき、天界もジ・アースなる世界から来た者達は素早かった。何だそれはなどとは言わず、速やかに戦闘体勢に入っている。地球とアトランティスの生まれは、それはつまりカオスの魔物かと一拍おいて、それからそれぞれ身構えた。
「戦うとなったら、念のため空気は入れ替えないとね」
有里のクリエイトエアーが発動するころには、ローシュが慎重に瓦礫の山を崩していた。カオスの魔物がいると知って、放置したら後日どんな災厄が起きるか分からないし、なによりこの状況だとそのうちに弾みで出てきてしまう可能性がある。埋め戻すよりは、掘って後顧の憂いは滅す。
ただ、察しがいい者は八十年前に反乱を企てた者達が見付からなかったわけだと、納得していたりしたが。どれほどの恨みがあったか知らないが、坑道の向こうに生き埋めにして、入り口も塞いで、放置したわけだ、多分。
なお、小一時間も駆けて向こう側への攻撃が可能になるころには、カオスの魔物が四体ほどいるのも判明していて、完全な分業体勢を持って、十分な明かりの中で迎え撃つことに成功した一同は。
「手応えがないよう」
フォーリィが嘆く結果に終わっていた。戦闘時に狂化しやすいハーフエルフが、その暇もなく終わってしまったわけだ。ある意味ありがたい。
その崩落場所を用心しいしい越えて、その先に行くと、皆が持っていたような装備だっただろうものが置いてあった。大部分は朽ちているが、もちろん金銀の輝きを放っているものも残っていて、金貨銀貨が幾らかと、装飾品が五つほど。小振りだが紋章などが入っているところをみれば、それなりの品物だったのかもしれない。
けれど。
「おそらく魔法の品物ではないな。宝石も中程度」
金銀部分がくすんでいたりして、そんな鑑定結果を女性達にそれが欲しいというものがいたかと言えば‥‥先ほどまでカオスの魔物とご一緒していたいわく付きだ。
「さすがにちょっと、嫌よね」
有里の言い分が、皆の気分を代弁していた。それに。
「場所を変えて、ご飯にしたらどうかしら〜」
「あれはしばらく無理じゃない」
「先に食べちゃう?」
「それは失礼ですよ」
「困りましたね、聞こえてないみたいですよ」
フェリーナ、エルトウィン、フォーリィ、アルトリア、シファがやれやれと眺めている先では、ローシュ、マリア、ラマーデが宝の山を見つけた喜びを語り合っていた。彼と彼女達の話を聞いていると、この鉱山は今も十二分に鉱石を掘り出せるだろうというのだ。すぐ先が行き止まりだが、その先に有望な鉱脈があるらしい。
酒があったら酒盛りになりそうな勢いだったが、実はまだそこに骨がばらばらと転がっているので、この日は外に戻って、金貨銀貨を磨いて過ごすことにした。一部、語り続けている人々がいたが。
この翌日、別の坑道も二箇所ほど一部崩落があったものの、なかなかしっかりした状態であることを確かめ、一行は現在の領主に報告して、ぜひ再開を検討してもらおうと相談しながら来た道を三日掛けて戻ったのだが。
「おお、帰ってきたか。よしよし、どうだったか聞かせてもらおうかのう」
じい様は彼らと出会った酒場の前に、椅子を出して座っていた。店主には、勝手に宴会だと告げている。挙げ句に知り合いだという商人まで連れていて、宝飾品の買取まで担っていた。値段はまあまあ、けして悪くない。
しかし、何があるのかまで知っているようなその態度が、気に掛かるのだが。
「この店にはいい酒があるんじゃよ」
この一言で、皆の予想通りにローシュが、予想外にアルトリアが陥落し、肴に出てきた一品にフェリーナが篭絡され、とりあえずの宴会となったのである。報告会にはなっていない。まあ、後程報告書はギルドと領主に出しておくことにして。
宴会をしても、夢の値段の数倍のお金が残るので、皆、美味しいものに舌鼓を打つことにしたのだった。