はたらくひとたち
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:02月07日〜02月14日
リプレイ公開日:2008年02月18日
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●オープニング
女の子の名前はルイザさん。
将来有望なお針子さんでした。
でも、ルイザさんは今無職なのです。
ルイザさんは、今までお針子さんでした。立派な工房で、先生にも可愛がられていたのです。
ところがルイザさんの才能は、ドレスを縫うお裁縫より細かい刺繍に向いていました。それで先生が、仲良しの刺繍職人さんへ弟子入りできるようにしてくれたのです。
本当は二月から新しい先生のところで働くはずだったルイザさん。先生の親戚が突然怪我をして、先生がお見舞いに行くことになってしまったのでお仕事開始が遅れることになりました。
新しいお仕事は二十日から。でもそうしたら、ルイザさんはその間はお給料がないのです。
これは大変です。なにしろルイザさんのご両親はとっくに亡くなっていて、彼女は四人姉妹のお姉さん。可愛い妹達のためにも、日々働く必要があるのです。二十日間も遊んでいたら、一緒に住んでいる叔母さんが何を言うか分かりません。
そう、ルイザさんのご両親はそこそこお金を遺してくれていて、叔母さんも実は高給取りです。叔母さんにぞっこんの叔父さんなんて、身分も仕事もお給料もいいって具合。生活には困りません。
でもしかし、だからこそ困るのです。今まで一番お仕事が忙しかったルイザさんが、二十日間もお休みだと皆が知ったら‥‥
『お姉ちゃんが家にいる間に、旅行に行こう。見聞を広めに、遠いところー』
『わーい、旅行ー』
『やったー、遠いところー』
『あらぁ、いい考えですわね。じゃあ、お休みをなんとかしなくてはいけませんわ』
『‥‥行くのか?』
こんな具合に遊びに行く計画を立てるに違いありません。
ルイザさんの家族達は、困ったことにお金を使うときには徹底して使う悪癖があるのです。一応叔母さんはお金を貯めることも知ってますが、この人が使うときには大金を一番平気で払います。叔父さんはお金を大事に使いますが、叔母さんが決めたら逆らいません。
家族で出掛けたら、多分金貨の二十枚は飛んでいくでしょう。まあ、怖い。
家族の中では一番普通の金銭感覚のルイザさんは、だからお仕事をすることにしました。
しっかり貯め込んでいたお金を持って、まずは商人ギルドに出向きます。狙いはバレンタインパーティーに着飾って行きたい女の子達です。
商品は、お針子さん時代に工房から譲ってもらったはぎれで作り貯めた布製の装飾品です。造花や飾りリボン、そんなものが中心。
これを売る一週間だけのお店を開店するべく、商人ギルドのおじさんとお話して、小さいお店を借りました。単なる四角いお部屋です。入口を開けるとお店の奥まで全部見えます。一週間で、ギルドの仮鑑札と合わせて金貨二枚。
それから商品の追加を作り始めました。どれにも長いリボンをつけて、買ってくれた人にはお名前を刺繍するおまけ付きです。休んでいる間に腕がなまったらいけませんから、ルイザさんは働くのです。
けれども、ここで問題がありました。
店員さんがいないと、ルイザさん一人ではお店が回りません。
「手先の器用な人を紹介してください」
ルイザさんが、冒険者ギルドにやってきたのは、そんな理由からでした。
店員兼商品作成可能な、器用で人当たりが良くて、給料が歩合制でも働いてくれる『いい人』を募集なのです。
●リプレイ本文
依頼の初日こと、ルイザさんのお店の開店日当日。
朝一番にパトリアンナ・ケイジ(ea0346)さんは、思いました。
これは大変だ、と。
エイジ・シドリ(eb1875)さんは考えました。
また予想外に活発なお嬢さんだ、と。
ルイザさんの叔母さんのお友達、サラフィル・ローズィット(ea3776)は納得しました。
やっぱり言うと思いましたわ、と。
ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)さんも、妙に感心していました。
元気があるのはよいことだ、と。
娘さんとお友達と一緒のセレスト・グラン・クリュ(eb3537)さんは、溜息をつきました。
やっぱりこうなるんだわ、と。
そして、全ての元凶のマート・セレスティア(ea3852)さんは叫びました。
「なんでだよー、けち。ご飯代くらい出してくれよぅ」
負けないような大声で、ルイザさんが叫び返しました。
「マーちゃんにおなかいっぱい食べさせたら、お金は幾ら稼いでも足りないのよ!」
ルイザさんのお店は、初日から賑やかです。
お店の建物は、もともと物置だったお部屋なので窓がありません。ランタンはルイザさんがおうちと新しい先生のところからあるだけ借りてきたので、灯りはたくさんあります。でも、寒いのでした。
なにしろずっと使っていなかった物置ですから、朝も早くからお掃除しながら、ヘラクレイオスさんが煉瓦で炉を組もうかと言いました。あんまり寒いと、刺繍や名前の彫り込みだって、手がかじかんで出来ません。問題は、後で戻せるけど、勝手に煉瓦を積み上げたら怒られないかなーということです。
こういうときはサラさんが一緒がいいだろうと、二人で持ち主さんに尋ねに行ったルイザさんは、走って戻って来ました。なんだか力仕事があるそうです。となれば、エイジさんが張り切りました。ヘラクレイオスさんも、力仕事なら出掛けます。
そうして、しばらくして戻ってきた時には、厚い木の板で作った箱に灰を詰めたものを担いできたのでした。エイジさんとヘラクレイオスさんだと、二人で一緒には持てなかったようです。身長がちょっと違いますからね。
「これはまた、見た目がよい箱ですが‥‥どうして灰の入れ物に?」
お掃除していたパトリアンナさんが不思議そうに眺めながら、灰の細かさを調べています。もしかすると、これでお料理をしようと考えているかもしれません。お鍋の一つくらいは乗せられそうです。
知っている人がいるかどうかはわかりませんが、この箱はジャパンの暖炉の代わりで、火鉢と言うものらしいです。ジャパン人の話を聞いて、どこかのお店が作ってはみましたが、あんまり売れないので貸してもらいました。特別に、これの中で燃やす炭とやらも一緒。
「煤が出たら商品も汚れますから、こちらのほうがいいよと勧められましたの。宣伝を兼ねて使ってくれというお話でしたわ。‥‥ルイザちゃん、帳簿の前に使い方を説明しないと駄目ですわよ」
サラさんが話している間に、マーちゃんが勝手に火を熾しています。寒いですし、持っているパンを炙るのには火がなくては困ります。ランタンの灯りでは、どうにもパンは温まりません。
でも、見栄えがいいようにあちこちにランタンを吊るして、火鉢で炭を熾して、部屋の中に商品を並べる台と作業用の机を入れて、皆が中に入ったら、大分暖かくなりました。ぎゅうぎゅう詰めで狭いですけど。
ところでルイザさんはお店の名前も、全然考えていませんでした。だからお店の看板もありません。仕方がないので、扉を半分開いて中が見えるようにして、更に扉に商品の一部を飾って目立たせることにしました。
ルイザさんの商品は、たまに絹を使ったところもある髪飾りやブローチなどの布製品です。リボンも色々ありますが、お勤めしていた工房からお安く譲ってもらったので、長さはばらばらです。綺麗に巻きなおしておかないといけません。
セレストさんはお手伝いもしてもらって、花と葉を模した飾りのブローチなどのセットと、色々な飾りを通した編み紐のネックレスを準備しています。まだ作っているものもあるので、この後はおうちで作業だそうです。
ヘラクレイオスさんはジャパン風のカンザシなる髪飾りを作ってきました。木製ですが、ところどころに銀を張ってあったり、色石をはめ込んであったりするので、とっても手が込んでいます。
サラさんはたくさん用意した香りの良い香草で、匂い袋を作りました。布の袋はそんなに高価な材料ではありませんが、布や紐の色を何種類か、香り別で用意してあります。紐があるので鞄に吊るしたり出来ますし、刺繍するところもたくさんです。
エイジさんは動物や植物の形の髪飾りやブローチを作る予定です。材料はルイザさんよりヘラクレイオスさんに訊いた方が、お安く手に入るでしょう。作るのは丁寧に、他の人が植物が多いのでお魚を入れてみようと考えています。
パトリアンナさんは造花を束ねた髪飾りに、色々な果物の刺繍をしたリボンを持ってきていました。生のお花が使いたかったかもしれませんが、冬場なので手に入りません。綺麗な布製の造花で、華やかに作ってます。
マーちゃんは、パトリアンナサンの刺繍を見て、美味しそうだなとうっとりしています。何にも持ってきていませんし、作る予定もありません。だって、他の人達はものすごく上手だけど、マーちゃんは全然上手じゃないからです。毎日店番のつもり。
「毎日店番がいてくれたらありがたいと思うが‥‥食費だけでいいと言っているし‥‥でも問題なのか?」
エイジさんがルイザさんに優しく尋ねたところ、力いっぱい頷かれてしまいました。サラさんとセレストさんとヘラクレイオスさん達にもです。
パトリアンナさんとエイジさんはちょっとびっくりしましたけれど、一番びっくりしたのはルイザさんがマーちゃんの荷物から保存食を取り出して、ご飯用ですとサラさんに渡してしまったことでした。
「ご飯でしたら、私も作れますよ。たくさんあったほうが良さそうですから、こき使ってくださいな」
パトリアンナさんが言ってくれたので、誰よりもマーちゃんが嬉しそうでした。
とりあえず、初日は昼前から開店です。色々と心配なので、サラさんとヘラクレイオスさんが店員さんをすることになりました。パトリアンナさんはご飯作り、エイジさんとセレストさん達は商品作り、マーちゃんはお店番おまけ。
ところでルイザさんも誰も、宣伝のことは考えていませんでしたね。
初日、宣伝もしていませんので、最初はお店はがらがらでした。
「せっかくのお休みですのに、お店を借りて働くなんて、ルイザちゃんは偉いですわねぇ」
「勤勉は美徳じゃよ。今のうちからこれだけしっかりしておれば、よき奥方になれようて」
サラさんとヘラクレイオスさんに誉められて、ルイザさんはてへっと笑っていましたが、ヘラクレイオスさんの『我が心の星にはなかなか及ばぬじゃろうがな』というのろけは聞かなかった振りをしています。サラさんはにこにこ。
ところが、しばらくするとお店の前が賑やかになって来ました。三人で扉をでっかく開けてみたら、マーちゃんが軽業のご披露をしているところでした。
「だってさー、財布持ってこなかったから、お金がないんだよー」
マーちゃん、普段は軽業師。お金がない時は、真面目にお仕事をするのです。飛んだりはねたり、遊んでいるように見えてもお仕事です。
それで人が立ち止まったので、お店も目立ってきました。綺麗なものがいっぱい飾り付けてあるし、お店番が人間のルイザさんにエルフのサラさん、ドワーフのヘラクレイオスさんにパラのマーちゃんです。
何のお店と訊かれて、ルイザさんは胸を張って言いました。
「女の人を綺麗にする飾りがいっぱいなの! リボンもあるし、お名前も刺繍しますよ!」
ドワーフさんは木工品専門ですと付け加えたら、皆が納得していました。ヘラクレイオスさんも刺繍をしろといわれても困ります。
お店の扉を全開にして、厚着でもこもこした人達にどんどん入ってもらって、お店は少しずつ混雑してきました。刺繍するサラさんとルイザさんは大変です。
でも、店員さんをするマーちゃんとヘラクレイオスさんはもっと大変でした。だって、店員さんなんて、初めてするのですから。
一日目はお財布と相談して、見るだけの人が半分以上でしたが、次の日はお財布の中身を補充して出直してきてくれた人がいて、商品は少しずつ売れています。
三日目、店員さんはヘラクレイオスさんにマーちゃん、セレストさんの三人です。他の人は、自分の商品を作ったり、頼まれた刺繍をしたりと別の場所で大忙し。なぜって、
「その服に合わせるのなら、この色がいいけれど、もう少し華やかにしたいのよね。リボンを追加する?」
セレストさんもですが、相談されたら嫌とは言えないサラさんが、お客さんの服の手直しを引き受けてしまったからです。セレストさんは積極的に相談に乗るので、お仕事はどんどん増えています。
お店番はヘラクレイオスさんがして、マーちゃんは一応呼び込みです。今はセレストさんもルイザさんも大忙し。
「見習いに入ったら勝手に仕事請けられないから、名簿は作ってないのよ。今度の先生は、おばちゃんみたいなちょっとお金持ちにお客が多いから、それを引き継げると嬉しいんだけど」
忙しくても口は動くのが女の人なのか、ルイザさんとセレストさんは将来のお話などしていましたが、ルイザさんの目指すところは『ちょっとお金持ちが毎日着てくれる服』だそうです。
四日目、お店番にやってきたパトリアンナさんが、見事な刺繍をしながら、そのお話を聞いて。
「それはつまり、冒険者も商売相手ということですね。では、今のうちにマドモアゼルには美味しいものをご馳走して、将来はたくさんおまけしていただきましょう」
にぱっと笑って、なんだかすごいことを言いました。確かに冒険者さん達はお金持ちが多くて、いいお洋服を着ているので、ルイザさんもなるほどと頷いています。
でも、パトリアンナさんがわざと言わなかったことを、ルイザさんはちゃんと覚えていました。そう、食費はマーちゃんから取り上げた保存食と新巻鮭と、このお店の売上げから出ているのです。美味しくしてくれているのはパトリアンナさん達ですから、ちょっとはおまけしてもらえるかもしれませんけれど。
それにパトリアンナさんほどの腕前だと、別におまけしてもらわなくても自分で何でも作れそうなのですが、『人に作ってもらうのが楽しい事もあるのですよ』と言っています。
ところで。
「居残りですか。私、何か失礼でも?」
パトリアンナさん、夜食作りの居残り決定です。他の人達は、お仕事三昧。
五日目は、もうお客さん以外とお話している暇もないくらいに、皆が忙しかったのでした。マーちゃん以外。
お店が予想以上に順調な六日目。新規商品の追加がありました。エイジさんの木製ブローチ、リボン付きです。ヘラクレイオスさんのカンザシと合わせて、『見えるところに名前がないと見栄えが』という声にお答えして、長いリボンをつけてあります。
「名前は裏に彫ればと思ったが、それでは駄目らしいな。女心は難しい」
葉っぱの形のブローチを磨きながら、エイジさんはぼやいています。でもお店にお客さんが来ると、すぐに応対に出てくれるのでした。説明が時々やたらと細かいけれど、でも親切で優しい応対なので、大抵の女の子は楽しそうです。エイジさんは若い男の人なので、誉められると嬉しいのでしょう。
エイジさんも、浮かれたりはしませんけれど、なんだかとっても楽しそう。お客さんが若い女の子だと、特に親切です。‥‥あれ?
「ルイザも、きちんと休まないと駄目だぞ。お姉さん方に怒られてしまう」
ルイザさんにも親切なので、いいことにしておきましょう。他の女の人達にも親切なことですし。
だけど、時々男女二人連れで来る女の人にも親切にして、男の人に睨まれているのは‥‥エイジさんは気付かないようです。それと、髪の結いあげ方まで相談に乗ってあげて、お客さんが延々とお店にい続けているのも、ちょっと大変かも。
だけど、他の人達は刺繍で忙しくて、店員さんをしてくれるのはエイジさんとヘラクレイオスさんとマーちゃんだけなので、頑張ってもらわないといけないのでした。
二日間もお店でお話しっぱなしだったので、エイジさんは七日目の夕方にはちょっと声が枯れていたようです。他の二人は、とってもマイペースだったので大丈夫。
そして、他の人達は肩がゴリゴリ音をさせるくらいに、頑張って働いて、疲れ果てていたのでした。
でもしかし。
「片付けたら、打ち上げだよ。ご馳走だね!」
全然自分で作らない人が、そう主張しています。
確かに、商品はほとんど売れたので、お祝いしてもいいでしょう。残りはルイザさんが、バレンタインパーティーのプレゼント用にお買い上げです。
「アデラ様の家族だけありますわね」
「そんなに金払いのいい女性なのか?」
「聞いたところでは、趣味に費用を惜しまない方だそうですよ」
ルイザさんの叔母さんのことを知らないエイジさんとパトリアンナさんは、サラさんが感心半分、やれやれ半分の気持ちの横で、なんとなく感心していました。まあ、手伝いの大半が知っている人達だったとはいえ、ちゃんと商人ギルドに冒険者ギルドと交渉して、一週間でもお店をやったのですから、誉めてあげていいでしょう。もちろんエイジさんは、誉めていますとも。
そして、パトリアンナさんとサラさんとセレストさんが腕を振るったお料理を、片付けた後だから随分夜遅くになってしまいましたが、皆でお店が無事に終わったお祝いに食べたのでした。
「おいらのー」
「たくさんあるじゃろうに、相変わらず忙しいの」
マーちゃんがテーブルの上に乗ってご馳走を食べようとするのを止めるのが、この七日間で一番大変だったようです。
ところでお給料ですが、
「全員分の材料費の支払い分でしょ、これがギルドに収めた分で、こっちが燃料費と道具の借り賃で、食費を差し引いて、それから商品の販売分の代金を加味して、一人ずつ金額違います。お疲れ様でした」
お一人様以外には、少しずつ出たようです。