【かいこーさい】はしれっ すなはま!
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月04日〜11月09日
リプレイ公開日:2004年11月12日
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●オープニング
ドレスタットは、開港祭の真っ最中です。いろんな人が町や港で、楽しく過ごしているのでした。
でも、冒険者ギルドの皆さんは、お休みしないで働いています。だって、お客さんが来るんですもの。
「旗取り競争?」
今カウンターにいるのは、近くの村からやってきたお客さんです。ドレスタットにお祭り見物にやってきて、海賊退治のお話を聞きました。それはもうびっくりして、それから冒険者の人たちってすごいと思ったそうです。
ところで、旗取り競争って?
「うん。うちの村で、この時期に村はずれの砂浜で、若い男がやる競争だよ。うちは大抵の男は漁師でね。足腰は丈夫なもんさ」
そんな元気な男の人達が集まって、走りにくい砂浜で、かけっこをするのです。砂浜のこっちからあっちまで、元気に走って、ゴールに立っている旗を取った人が一番!
なんて、わかりやすい競争なんでしょう。
「簡単だけど、一位になるのは案外大変でね。スタートでどこに立つかや、走ってる最中にどうやって他の連中を蹴散らすかは、頭が回らないとダメだから。これで一位になると、村の娘達にもてるんだよ。だから結婚してない男だけ参加」
でも、この人は思ったんです。海賊を退治したりするような冒険者の人達なら、村の若い人達とは違う、すっごい競争になるだろうって。
それで、生まれて初めて、冒険者ギルドにやってきてみたのでした。
「それじゃ、あれですか。冒険者を集めて、その競争をやってほしいと言うことですか? なんかこう、美味しい話がないと、冒険者も集まりませんよ」
「祭りだからねえ。飯は食い放題。酒はあるだけなら飲んでもいい。あとはなあ‥‥ほんとは優勝した奴だけなんだが、冒険者の皆さんの競争で一位になったお人にも、特賞付きで」
特賞って、なんでしょう。ギルドの人が尋ねたら、お客さんは小さな声で言いました。
「村のオネエチャン達の祝福のキス。毎年、一位はもみくちゃだよ。後の宴会でも、周り中がオネエチャンたちでねぇ」
「女の人が優勝したら、どうします?」
ギルドの人にまた尋ねられて、お客さんは目をぱちくり。冒険者には女の人もたくさんいると聞いて、これまたびっくりです。
「そうかね。女の人もいるのかい。じゃあ、女の人だったら、お肌にいい料理を食べ放題で。あるんだよ、うちの村にはそういう料理が」
お金はないが、魚はたくさんあるとお客さんが言うので、この依頼を受けるとおなかがはちきれるくらいに魚料理が食べられそうです。かけっこだけで、そんなに飲み食いできたらいいかもしれません。
ギルドの人は『お祭りだからね』と言って、この依頼を羊皮紙に書いて、掲示板に張りました。
「かけっこで、危険もないし、集まるといいですね」
それから、お客さんにこう言ったら‥‥
「そうだねえ。でも、おととしは誰が一位かで喧嘩になって、腕の骨を追った馬鹿が三人も出て、その前の年は押し合いしているうちに、何人かが海に突き飛ばされて喧嘩になって、その他にも何かってえと喧嘩になるんだな。平和だったのは去年だけじゃないか? あはははは」
村の男の人は喧嘩っ早いようですが、冒険者の人達はどうでしょう?
●リプレイ本文
●みなさん、位置につきました。
「よーいっ、どんっ」
旗取り競争の始まりです!
七人の冒険者の皆さんが一斉に走り‥‥出していません。
『は、はにゃを打った‥‥』
大曽根萌葱さん(ea5077)が、スタート地点で転んでいます。鼻をぶつけたのが痛くて、まだ起き上がれません。
それからもう一人、多嘉村華宵さん(ea8167)もスタート地点で立ち尽くしています。いったいどうしたんでしょう?
『負けるもんかぁっ』
「やっぱり、ハンデ‥‥」
そんな二人を置き去りにして、今の先頭はボルト・レイヴンさん(ea7906)と源真結夏さん(ea7171)が争っているのでした。その後ろを走っているのがリセット・マーベリックさん(ea7400)とカルロス・ポルザンパルクさん(ea2049)です。みぃんな、砂浜は走りにくそう。
でも、ヴェガ・キュアノスさん(ea7463)が、走っている皆さんの中では一番つらそうなのでした。
「人選を間違えたのじゃ」
まだ五十メートルも走らないのに、もうごほごほしています。大丈夫でしょうか?
ここでようやく、萌葱さんが走り始めたようです。
●ちょっと前のお話です。
冒険者の皆さんの旗取り競争が始まる、少し前のことでした。村の若者の皆さんが、かけっこをしています。
皆さん、走っている最中に隣の人を突き飛ばしたり、足を引っかけたり、旗を最初に誰が取ったかで取り合って‥‥今年は旗がばらばらになってしまったのでした。仕方がないので、一番上を持っていた人が勝ちです。
なんだか、そんなに嬉しそうではなかったんですけれどね。
それから、村の人達が新しい旗を立てたり、砂浜をちょっと平らにしたりしている間に、冒険者の皆さんも準備をするのでした。
とりあえず皆さん、荷物はなんにも持っていません。結夏さんと萌葱さん、華宵さんはジャパンの服だと走りにくいので、村の人から借りた服に着替えています。
「歳の差を考えて、ハンデ‥‥は無理でしょうね」
普通は若い男の人しか参加しない競争なので、それは出来ないのです。ボルトさん、お悩み中。
そんなボルトさんの横では、リセットさんが別のことでくらくらしているのでした。
「おいしそうですぅ」
走る前にたくさん食べたら、お腹が痛くなってしまいます。だから冒険者の皆さんは、まだお祭りのご馳走にありつけません。だけど周りには美味しそうな匂いがいっぱいで、リセットさんは優勝したら食べられる、お魚料理にわくわくです。
でも、今だってお酒ならちょっとは飲めるのでした。だって寒いから。
だけどね。
「ウ〜、寒いな。早く始めようぜ」
ワインを四杯も飲んで、いきなり上半身は全部脱いでしまったカルロスさんに、びっくりしたのは冒険者の人の何人かだけでした。村の人はきゃーわー言いながら、なぜか大喜びです。
代わりに、萌葱さんが身仕度をして出てきたときには、お兄さんたちが『あ〜あ』と嘆いています。その分結夏さんに声援が集まっているみたい‥‥?
「まったく。お互いに良い退屈しのぎと言うところですか。ま‥‥得物を使うような大人げないことはしない余興なのでしょうね」
なんで自分が応援されるのか分からない結夏さんと、応援してと手を振っている萌葱さんに、華宵さんが『にっこり笑顔』で言いました。結夏さんは、更に訳が分かりません。
もう一つ、たまたま見てしまったヴェガさんの、『にやりん笑顔』の意味も、結夏さんには分からないのでした。
「幸運の呪いじゃ」
スタートの少し前、ヴェガさんがなにやら魔法をかけているのは全員が目撃しましたが、多分『グットラック』なんだろうなぁと、ほとんどの冒険者さんは納得したのです。
そうして、スタート。
●みなさん、走ってます。例外は一人。
スタートから一歩も動けない、それどころか身動きも出来ない華宵さんは、こう思っていました。
(「クレリックは要注意だと思ってましたが、コアギュレイトとは‥‥どうして私にっ」)
華宵さんは、スタートしてからボルトさんとヴェガさんに一発攻撃を決めておこうと思っていました。もちろん手加減しますとも。
だけど、まずは自分に『疾走の術』を掛けようと思っていたら、ヴェガさんの『コアギュレイト』にやられてしまったのでした。
「お兄ちゃん、どうしたね?」
村の人が心配して寄ってきましたが、お話もできません。
それから華宵さんは、よく間違えられますが、本当は『お姉ちゃん』です。
さて。
半分ほどまで先頭が走った競争は、まだ結夏さんとボルトさんが一位争いをしています。ボルトさんは走るのに一生懸命ですが、結夏さんは『しまったなぁ』なんて考えているのです。なんて余裕でしょう!
「後方から、一気に逃げ切りが良かったんだけど」
ついつい負けず嫌いの血が騒いで、一位争いに乗り込んでしまった結夏さんの後ろを、カルロスさんとリセットさんが、せっせと走ってきています。ちょっと遅れてヴェガさんは、村の人達が座っているちょっと前を、やはりせっせと走っていました。
村の少年達が、綺麗なエルフのお姉様にくらくらしているようです。
「んっきゃあっ」
萌葱さん、本日三回目のすってんころりん。
「さらしが‥‥」
走るときに邪魔な胸を押さえていたさらしがほどけてきて‥‥仕方がないので、そのまま走ります。砂まみれです。
「おにいちゃーん」
立ち尽くしている華宵さんは、女の人です。
●そうして、ゴールは!
「俺が取ったのだ!」
「私です!」
旗は、カルロスさんとリセットさんが握り締めています。引っ張りあってリセットさんが力負けしているので、ボルトさんが『まあまあ』と言いながら、真ん中を押さえました。結夏さんはリセットさんが転ばないように、後ろから彼女を抱えています。
「なんじゃ、揃って砂まみれで」
全部で六回転んで、顔にも砂が付いている萌葱さんも合わせて、ヴェガさん以外にゴールまで到着した冒険者の皆さんは、あちこちに砂をいっぱい付けています。ヴェガさん一人だけ、綺麗なまんま。
こんなことになったのは、ゴールのちょっと手前で、ボルトさんが転んだからでした。あんまり疲れて、足がもつれてしまったのです。しかも、結夏さんが転んだボルトさんにつまづいてしまうおまけ付き!
その途端に、カルロスさんとリセットさんが、今までより三割増し早く走り始めました。一度カルロスさんが、リセットさんを弾き飛ばしそうに近付いたのですが、リセットさんがひょいっと避けたので‥‥二人は一緒に旗に飛びついて、旗の布地のこっちとそっちを握り締めているのです。
やがて、村長さんが来て言いました。
「わざわざ来てくれたんだし、両方優勝でよかろう。おねえさん達が、待ち兼ねてるし」
リセットさんもカルロスさんも、ちょっと納得できない様子でしたけど‥‥
「大人げない真似をしてぇっ!」
「おお、わしの見立て違いでもなかったのう」
ようやっと魔法の効果が切れた華宵さんが、『疾走の術』でゴールまで飛び込んできたので、うやむやになりました。
華宵さんのあまりの速さに、村の人達は拍手しています。
「わざわざ最後に盛り上げるために、ああして立ってたのかね。たいしたもんだ」
村長さんのおかしな勘違いに、華宵さんも怒る気がなくなったようです。それに村長さん、いいお酒出してくれるって言ったし。
「ふむ。宴会が延びても、皆が困るな」
「お魚が待ってるね!」
まだ旗を握っていた二人が手を離したので、これから宴会になるのです。
●そうして、モテモテの宴会です。
ボルトさんは思っていました。
何年振りかで全力疾走をした本日、こともあろうに人様を巻き込んで転んでしまったので、すみっこでお手伝いをしようって。
「おじさまぁ、はい、あ〜んして」
「きゃー、また赤くなったーっ」
でも周りには、若いお嬢さん達が何人も集まって、ボルトさんのお世話をしようとするのです。困ってしまうと、手を叩いて大笑い。
海の近くの女の人は、みんな、こんなにおおらかなんでしょうか。‥‥と、ボルトさんはお嬢さん達がどぼどぼ注いでくれるワインの大きな杯を覗いて、また困っています。
ボルドさんは、結局四着だったんですが。
同点一着のリセットさんは、ほんわか幸せ気分を味わっていました。女性の優勝者用の特製お魚料理は六種類もあって、とても一人では食べ切れません。
「ほかの人にも分けてあげたいんです」
最初にそう言っておいたから、萌葱さんと結夏さん、もちろんちゃっかりヴェガさんが、同じ料理を食べています。
お魚の煮こごりは、見た目がすごかったけれど、結夏さんがえいとスプーンを突っ込んで食べてみたら美味しいことが分かりました。
その間にも、おじいちゃんがやってきて、
「エルフの娘っこを見たのも、ジャパンのお人を見たのも、久し振りじゃ。ほっほっ」
と笑いながら、みんなと握手をしていきました。それはもう、念入りに。
たまに、その手に頬擦りなんかしちゃって。
「じぃじい〜」
結夏さんが、拳を握っていますが‥‥おじいちゃんだったので、いなくなるまで怒るのは我慢していたようです。その後におばちゃんがやってきて、『もう、あのおじいちゃんはねぇ。八十にもなって』と言いながら、新しい料理を置いていってくれました。
「八十か。わしより二つばかり年上かのう」
口調だけならそうかも知れないけれど、見た目は若くてお上品なヴェガさんが言うと、変な冗談のようです。人間のおじいちゃんとエルフのヴェガさんだから、別におかしなことはありませんが。
「ふふふ、おもしろいおじいちゃんです。わたしも、なにかおもしろいことをしますね」
新しい料理を食べていた萌葱さんが、はっと振り返った先では、リセットさんがふらりと立ち上がるところでした。さっき、ワインのリンゴ果汁割りを大きな器一杯に貰ったのが、全部なくなっています。
それって、もしや酔っ払い?
「はーい、かけっこでーす。捕まえた人に、ちゅーしてあげまーす」
きゃーとか、わーとか、村の人がワイワイ騒いでいる向こうで、ボルトさんが『酔って走るのは危険でーす』と叫んでいますが、リセットさんには聞こえません。
そうして、近くにいる人達は。
「余興じゃ。やらせておけ。その間にわしはその皿をこちらに寄せてほしいの」
「じゃあ、こっちと交換ね。キミは?」
「そのスープが美味しいよね」
優勝した人用のはずのお料理を食べています。だってリセットさん、食べてもいいって言ってたし。かたや、走るぞーと気合いを入れていたリセットさんでしたが‥‥
いきなり横から押しやられてきた男の子の集団に、ぺちゃんと押しつぶされたのでした。押しやったのは、村のお嬢さん達です。
「おじさまー。これでお仲間も安全よぉ」
「おまえらー、自分達だけ楽しみやがってー」
村のお兄さんとお嬢さん達がきいきい喧嘩を始めましたが、冒険者の人達はボルトさん以外は気にしません。リセットさんも男の子達のほっぺにちゅーしてから、縄ひょうなど出してきて、投げてみせています。
でも酔っているから、本当はえいやとひょうを投げたら、鞭がピッて戻ってくるみたいに手元に引き寄せられるのに、よいしょよいしょと縄を手繰っています。かっこ悪いです。
その間に、他の人達がせっせとお料理を食べているのでした。もちろん、がっついたりしませんけれど。
そんな姿を眺めて、華宵さんはのんびりと食事をしていました。華宵さんの周りには、同じ位の年頃の、きれいに着飾ったお姉さん達がいっぱいです。
スタートの前にヴェガさんにしてやられてしまった華宵さんですが、最後の『疾走の術』がお姉さん達に受けて、色々お世話を焼いてもらっているのでした。
「ワインでしょ、エールでしょ、果汁でしょ、どれが飲みたい?」
「ワイン、新酒? へえ、じゃあそれ」
他の人達より、いいものを飲んでいるかも知れません。かけっこの時にはいいことがなかった華宵さんですが、今が楽しいのでかけっこのことは忘れることにしたのです。
だって、おいしいものを食べるには、ご機嫌なほうがいいに決まっています。
ところで、優勝したもう一人は‥‥
「ほれ、これはわしが作ったのじゃよ」
「なんじゃ、若いのに元気のない」
「‥‥だから、村長が『おねえさん』って言ったでしょ」
こちらも優勝した村の若い人が、かちーんと固まったカルロスさんに、気の毒そうに教えてくれました。カルロスさんには聞こえているのでしょうか?
二人の周りには、村でも一等賞が争えるくらいの年齢の『おねえさん』達がいーっぱい。
「料理と酒は一番美味しいですから」
ほんとですよと言われても、カルロスさんは悲しいのです。自分だって、ボルトさんみたいに若いお嬢さんとお話したい。
でもだけど、この村のかけっこは、優勝すると女の人にもてるけど、その前に『おばあちゃま』達をご接待するのがお約束なんだそうです。
「飲まずにやっていられるかーっ!」
「そうなんですよっ、飲みましょう!」
これこれとおばあちゃま達に言われつつ、カルロスさんはお酒をいーっぱい飲み始めました。
そうして次の日、村には頭が痛くて気分が悪い人が、これまたいーっぱい出るのでした。
毎年、そんなお祭りなんですって。