『預言者』の盾〜狂信の砦への道〜
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 86 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:03月04日〜03月11日
リプレイ公開日:2008年03月15日
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●オープニング
ノストラダムス捕縛の任が、延期の憂き目を見ている間に目標を移動させられてしまった。
挙げ句にまたぞろ狂信者達が集い来て、おそらくは国に反旗を翻そうと言うのだろう。
「ラルフ卿は動けませんでしょう。フェリクス卿とイヴェット殿に、さてあと一人か二人か」
灰色の剣帯に右手を添えて、にこやかに一堂を見回すエルフの男がいる。
「我が隊はいつでも出られる」
藍色のマント留めの房を揺らして、人間の青年が身を乗り出した。
「卿は先日陛下のお役に立ったばかり。手柄の独り占めはよくないな」
この中では年長の人間の男が、マント留めから解けた紫の紐を弄んで笑んだ。
「一隊では足りないでしょう。地元の事情に詳しい者には、近くの村の避難を任せ、我らで一戦交えるべきです」
宮廷でその名を知らぬものがないエルフの青年が、口にした。茶のマント留めは、肩から零れ落ちた金の髪の近くであまりに目立たない。
「ならば、赤分隊に任せてもらおうか。なんだ、不満か?」
あっさりと断言した赤いマント留めをするエルフの男性に、皆の視線が集中したが‥‥口を開けたのは、同族の男だった。
「お一人で、いいところを取ろうとなさるとは。若い者にも少しは譲るものでは?」
「貴殿はともかく、他は皆、これから陛下共々よき伴侶を得てもらわねばならぬ者ばかりだ」
周辺の何名かの視線が、その身分に似つかわしくなく宙を泳いだ。
「ここは年寄りに任せておけ」
「‥‥あなたが一番、長生きしそうだと思うのは、俺だけではないはずだな」
狂信者の集う城、そこに合流しようとする集団の進路を塞ぎ、相手の態度により平らげる任務を同輩達から取り上げたブランシュ騎士団赤分隊のギュスターヴ・オーレリーへの同輩の一人の感想は、常々宮中の人々にも囁かれることだった。
預言者と称されるノストラダムス、並びに彼を奉じる狂信者達、それらを操っていると思しきデビルの配下どもを捕らえ、倒すために、廃城へと向かう者達がいる。
彼らを支援するために、その廃城を目指す集団を途中で食い止めるための人員募集が、冒険者ギルドでも行われた。
●リプレイ本文
見渡す限りにのどかな丘陵が広がる地域で、土埃がもうもうと舞っている。
五十四騎の騎影と、六頭立ての大型馬車一両とが進軍を止めたのは、ここしばらく轍の跡が付いた様子もない、寂れた街道沿いだった。春ともなれば、周辺は牧草地になるそうだが、今は当然羊も山羊も見えはしない。
ぽつんぽつんと生えている木々の間を縫うようにして、フライングブルームに跨ったパラのマート・セレスティア(ea3852)と、自分の羽で飛んでいるシフールのアルフレッド・アーツ(ea2100)が戻ってきた。
「じいやさん、行って来たよー、百と八人いた」
「ほとんど見た目は人間で、シフールも少し‥‥でもデビルも‥‥混じっているようです」
マートは『ちゃんと数えた』と胸を張り、アルフレッドはディアルト・ヘレス(ea2181)に借りた石の中の蝶を返しながら、やや沈んだ表情で報告をしている。ディアルトには、そんなに近付いてと心配半分で注意を促されていた。
ここはパリを出発して一日半、問題の廃城まで徒歩で半日あまりの地点。ここより先に敵を進ませてはならぬと、ブランシュ騎士団赤分隊とコンコルド城、月道管理塔に詰める騎士、パリ近郊の騎士団からの応援に冒険者十名を含めた六十名がいた。騎馬が五十四なのはクレリックのウェルス・サルヴィウス(ea1787)とビショップのディアーナ・ユーリウス(ec0234)、マートとアルフレッドが馬車で、志士の楠木麻(ea8087)とナイトのアニエス・グラン・クリュ(eb2949)がグリフォンで移動してきたからだ。残る五十四名は、侍のグレン・アドミラル(eb9112)、神聖騎士のエルリック・キスリング(ea2037)、ナイとのヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)、テンプルナイトのディアルトも含めて、全員が戦闘に慣れた愛馬だった。
馬上で報告を聞いた赤分隊のギュスターヴ・オーレリーが頷く間に、報告内容は馬上を巡って全体に伝わっていく。上空の二人にはアルフレッドから直接伝えられる。
「もっと分割して移動しているかと思ったけど、どうしてかしらね」
「‥‥こまめに扇動して、自分達に従うように暗示をかけているのではないでしょうか」
ディアーナが予想に反して、まとまって移動している敵を怪しんでいると、ウェルスが俯いたままで答えた。いつ移動するか判らないので、二人共に馬車の荷台に乗ったままだ。荷台には他に食料や怪我人用のポーション、手当てのための道具などが山積みされている。
その荷物の山に寄りかかって、ディアーナがウェルスの意見を検討していたようだが、マートとアルフレッドが戻ってきたので、気になる別働隊の有無を再確認していた。その点は二人とも良く確認したが、石の中の蝶にも反応はなく、デビルさえもが集団と行動を共にしているらしい。
現在地点までの敵集団の距離は、今の速度を維持すれば三時間程度。
この二つ向こうの丘が、ここより道に近くて、もう少し高い。街道沿いからの視線を遮る位置にある。
マートからのこの報告を吟味していた赤分隊の面々が、移動の合図を出した。先頭を切るように、麻のスモールホルスが飛んでいく。
「突撃にいい場所があれば、先制は‥‥僕みたいな外様にやらせてくれるかな」
すぐ後に世を乱す連中には魔法の一撃を食らわせてやろうと言う意気込みの麻がいるが、ブランシュ騎士団がいる場で他国人の自分がしゃしゃり出ていいものかといささか心配している。地上にいれば、ノルマンの貴族に仕えていても他国人のヘラクレイオスが『陣の端でも上々。よき土産話になろう』と笑ってみせたろうが、あいにくと声が聞こえる範囲ではない。志士であることは使える魔法と合わせて伝えてあるので、必要があれば呼ばれるだろう。
この頃、地上では移動する馬上で細かい作戦が練られていた。ディアルトは騎馬が分断される危険性を考慮していたが、さりとて騎士が地上に降りて馬と別々になっても全力が出せるとは限らず、布陣を練るよう言われていた。彼我の差は倍近いが、全てが徒歩であることを考えれば、騎兵の彼らが不利とも言えず。
テンプルナイトのディアルトは前線に立つことにしているが、神聖騎士のエルリックとクレリックのウェルスは救護を主にすることになっていた。応援が来るまで最大で一日半、多数の怪我人が予想される場で、幾らポーションの用意があろうと治癒の魔法は欠かせない。戦意を失くした投降者が出れば、それらの身柄を確保することも必要だろう。
もう一人、ビショップのディアーナも自力で身を守る術は限られているので、エルリックとウェルスと三人一組で移動する予定だ。三人共に、基本はデビルの発見や戦傷者の保護、いざと言う時には攻撃も行なうが、基本的には後方で支援する、この中ではいささか異色の一団だ。
空を飛ぶことで麻とアニエス、アルフレッドにマートも一組だが、こちらは魔法を使ったり、偵察を行ったりと状況で役割が異なるので、別行動の可能性もある。
前線で騎士団達と轡を並べるのは、グレンとディアルト、ヘラクレイオスの三名だ。三、四名一組で孤立はしないように動けと指示が出ているから、種族が異なる故に見える高さも異なる三人も一組だ。
「これだけ見えるものが違えば、互いに補え合えようて」
「‥‥なるほど。よろしくお願いいたします」
「出来るだけ散らすなとは、難しい注文だが」
ヘラクレイオスの軽口に、グレンが生真面目に頷いて会釈する横で、ディアルトが声を張り上げた。騎乗のこととて、そうでもしないと声が届かないからだ。おかげで周囲に相談は筒向けだが、今のところ石の中の蝶に反応はない。
揺れる馬車の中では、口数が少ないウェルスとアルフレッドに、ディアーナとマートが他愛もないことを話し掛け続けている。どちらも話さずにはいられないようだが、内容はこれからのこととはたいして関係がない。明日の朝には温かいものが食べられるだろうかとか、そんなことだ。
それでも、目的の丘に到着するとマートとアルフレッドがまた飛び出して行き、しばらくして板に何か描き付けて戻ってきた。
「これ‥‥地図、です」
「ここがここ、敵までの地形がこんなで、こういう進み方。休憩してたから、まだ二時間は掛かるね」
アルフレッドが描いた地図に、マートが補足を加えている。相手の先ほどの進軍の様子も追加して、道の様子から横隊で進める人数まで割り出してあった。二人がかりの検討で、着眼点はよさそうだ。
この時には地上に降りたグリフォン二騎の麻とアニエスにも詳細な情報が伝えられて、進軍途中を狙って足止めを食らわせることにした。アニエスが刺激物を混ぜ込んだ水を降らせたらどうかと準備していたのだが、その水を何度も汲み上げる合間がかえって危ないと、移動中に冒険者のみならず、騎士も多数で砂礫を集めてくれた。麻とマートも手伝って、一巡降らせる予定だ。それ以上は反撃が予測されるので、一旦仲間のところに戻ってくるよう、ギュスターヴから厳命されている。
その後、足が止まったところで麻のグラビティーキャノンで戦意を削ぎ、ディアーナのディバングでデビルを燻し出すことになっていた。
麻はこの作戦に首を捻っていたが、赤分隊の一人に『騎士道を守るべきは、それを知る相手に対して。デビルは何をもっても滅すべきだろう?』と聞かされて、納得したようだ。グレンもいささか迷っていたようだが、後顧の憂いを失くすためにも敵は滅し、操られている者は捕らえると性根を据えたようだ。
「預言者とやらを、捕らえていてくれるといいのですが。こちらを通すわけにはいきませんな」
その意気だと、もう少し戦に慣れた人々は穏やかな、でも力強い言葉で応えている。
上空に現われたグリフォン二体に、地上ではあまり統率が取れているとは言い難い百余名がどよめいた。数名、皆を鼓舞するように声を上げている者がいるので、マートやアルフレッドが特徴を覚えて‥‥砂にまみれた姿で、もう一度覚え直す。
急旋回して、アニエスと麻が元来た方向に戻るのに続いて、マートがアルフレッドを抱えてフライングブルームの柄を巡らせた。運良く行きに攻撃されなかったから、敵の視力が回復しないうちに戻らないと魔法攻撃の標的だ。
予定の場所まで戻ったときには、丘の上に五十四騎が揃っていた。相手にしたら、突然砂を浴びせられて、ようやく視界が回復すると敵騎が打ち揃っていた光景に見えただろう。再びのどよめきには、多数の恐怖を含まれている。
その根源である五十四騎には、麻以外の三人が扇動していると思しき連中の特徴を伝えて回る。麻は彼らのほとんどを背後にして、呪文詠唱に入った。もしもの時のために、盾を構えた三名ほどが、彼女の傍らに控えている。
似たような光景はディアーナの周辺でも展開していた。こちらは騎士達の背後のため、エルリック以外の護衛はいない。
グラビティーキャノンの詠唱の後に、悲鳴と怒号と様々な音が交錯した。そこに馬蹄の音が混じるのは、
「姿を変えているモノが六体。最前に二体、右横端に一体、残りは真ん中に紛れててよ!」
ディアーナの広く響かせることを目的とした声が届いてからだ。さすがに言葉遣いまで繕っている余裕はない。
これを聞いて、五十四騎が丘陵を駆け下りていく。馬蹄の音に呑み込まれながら、二対の羽の音もしていた。ウェルスが低く続けている祈りの声は、間近の二人にも時折しか届かなかった。その二人も同様に聖句を唱えている。
思いのほか早く戦列を乱した敵に、ディアルトが凛とした声で告げる。
「今ここで心を改め、抵抗を止めればよし。あくまで抵抗するなら、デビルを信奉する者として成敗する!」
相手は大半が訓練された兵士ではないようで、訓練された戦闘馬多数に乗り込まれて武器を取り落としたりしているが、ディアルトの投降の呼びかけには反応した。
「なんでデビルだ、預言者様を助けに行くだけだ」
先の足止めでグリフィンは見たが、目前にいるうちの一部がブランシュ騎士団とは気付かないらしい男達が、視界も定かではないのに槍を振り回した。ディアルトがそれを避ければ、仲間に当たって一緒に転がる始末だ。
けれど。
「この言い様では騙されていることも気付かぬ愚か者か」
「いやいや、デビルが偽りの神の威光を振りかざしたのじゃろうて。お待ちの方々に、後程ゆるりとお話してもらわねばな」
これほどの事態ならば、相手が騙されていても手加減など出来まいと思っていたグレンだが、彼我の力量に差がありすぎて息の根を止めずとも打ち倒すことが出来ていた。それほどの力の差を見ても向かってくる妄信に対しては怒りを感じるが、ヘラクレイオスが言うようにまず悪いのはデビルで、本人達の心の弱さは白の聖職者達が正してやるべきことだろう。
ヘラクレイオスもディアルトも、向かってくる中の寄せ集めた兵力は背後を取られないように連携しているから十分にあしらっているが、いまだデビルの姿は見ていない。
更に人数は半分でも騎士の突撃に恐れをなして、逃げ散ろうとしている人々がいるのを押し留める術はなかった。そのあたりは上空警戒の麻とアニエス、アルフレッドの役目だ。後は騎士から数名、そうした人々を捕らえる任に当たる者がいる。
よって、前線に立つならば指揮官や悪魔崇拝者を見付け、倒すべきだが、見た目で分かるものではない。そのせいでしばらく雑兵の相手が主になっていた三人に、合図を送ってきたのはアルフレッドだった。ほぼ同時にアニエスが砂礫を投げつけ、麻がグラビティーキャノンを打ち込んだあたりに、一人と一体が平然と立っていた。
そこに向けて鐙を蹴ったのは冒険者達の他にも数騎。馬の足元で蹴られた人々の悲鳴が交錯するが、一人はともかく、一体は翼を持つデビル。彼らが優先すべきは、一度の迷いであろうともデビルに加担した者の安全よりは、デビルの殲滅だ。
一度、名前も定かではない黒いもやと共に発する魔法が皆を襲ったが、それぞれに構えた盾を揺るがせ、少しばかりのダメージは気力で振り払って、迫る。愛馬達は皆の意図に的確に従って、流血しても足を止めなかった。
肉薄してしまえば、一人と一体はさほどの敵ではない。デビルを上空に逃がさないようにするのが、少しばかり気苦労を伴うだけだ。
上空では、逃げ出そうとする一団を麻とアルフレッド、アニエスにスモールホルスで追ったところ、その中の数名から予想外に激烈な反撃を受けた。単なる槍であっても、防具の薄いアルフレッドと麻では正面に立つのが危険な力量だ。挙げ句に、姿を表したデビルが二体。
彼女達がここにいるのは下で見ていても明白だが、さて助けが来るまでに三人でどこまで踏みこたえられるかと思いを巡らせる。なにしろ敵味方だけではなく、デビルを見て何が起きたかと震える人々が混じっているのだ。下手に魔法も打てない。
と、居丈高にデビルが向かってきて、不意に何かに弾かれた。
「聖なる母の慈悲は道を見失ったものにも等しい。私達の同胞に、それ以上の危害を与えるのは許しませんわよ。そこの不心得者、速やかに投降しなさい」
箒を担いだマートに扇動されて、ディアーナとエルリック、ウェルスが姿を見せる。驚いたことにエルリック以外は徒歩だ。
「私達も、デビルと戦う方法は心得ているわ」
マートが借り物のヘキサグラム・タリスマンを持って、数歩下がった。ほぼ同時に麻が一瞬で呪文を唱え、アニエスが駆ける。馬蹄の音はエルリックの愛馬で、それらの勢いに戦意が失せた男達の悲鳴が重なる。アルフレッドはスモールホルスと共に、上空に逃げる敵がいれば攻撃しようと待ち構えていた。
「何を言われて、この先に向かおうとしていたのかを、聞かせてください。あなた方が聞いた話と、私達が知る話とは、おそらくどこかが違っているのでしょう」
ただ一人、まるで戦場とは違う場所にいるかのように、でもデビルが乱戦を抜けてきたら一番危ない場所に自らを置いて、ウェルスが倒れている人々に話し掛けていた。ディアーナはホーリーフィールドを一つ張って、そこに人々を集めている。
赤分隊が一体、それ以外の騎士達が二体、冒険者が三体のデビルを討ち取って、九十一名を捕虜とし、十七名の戦士とウィザード、人々を扇動していた者を平らげて、一同はとりあえずの作戦終了とした。
「いつでもやり直すときが一番大変なのだがな」
ウェルスはじめ、白の聖職者達が自らの治療は後回しで皆の看護にあたる姿に、ギュスターヴはポーションを騎士と冒険者に、ソルフの実を聖職者達に回す事で支援とした。
「なあ、これ、おいらの分もあるかなぁ」
荷馬車から食料を下ろしているマートは、同じ仕事に従事している他の冒険者達に、それは悲しそうに問い掛けていた。
彼が皆から、『怪我人が優先』と諭されるのは、この直後だ。