●リプレイ本文
●Gとは!
それは見てはいけないものなのです。
けれどもある日突然に現われます。
黒くて、かさこそ動いて、素早くて、時に飛んだりして‥‥
一匹見れば、その家には三十匹はいると言います。言われます。
G。時としてカオスの魔物より恐ろしいその生き物は、呼んではいけません。
呼べば出てくるのです。だからGで十分。
そう言っているのに、誰ですか、ご○ぶりなんて口にしたのは。
ごき○りなんて言ったら‥‥
あぁ、奴が来ています。
奴の足音が聞こえるのです。
かそこそ かさこそ ごそごそごそっ‥‥
●やられちまった人
それはある日のことでした。
一週間あまりのお船に乗るお仕事を終えた木下陽一(eb9419)さんは、お昼近くになってから、目が覚めました。お仕事の合間ですから、たまには朝寝坊してもいいのです。
「う〜ん、もう昼ぐらいかな? 太陽がないと時間が分かりにくいけど‥‥腹減ったなぁ」
ごきごきっ、べきんっ、ぐきりっ。
なんだか首が外れてしまいそうな音がしましたが、木下さんのお仕事で凝りに凝った筋肉がべきぼきいっているだけです。この程度では死にません。首が折られたときと似たような音がしましたが、木下さんは生きてます。
首をぐるぐるして、両手を上げて伸びもして、更に大きなあくびなんかもしちゃって、ようやく木下さんは身支度に取り掛かりました。
身支度をして、お財布を持った木下さん、おうちを出て歩き始めました。ご飯はどうしたかって? 作るのも面倒なので、屋台に食べに行くのです。お仕事帰りで、おうちには何もありゃしません。
「屋台はもうちょっと先かぁ。今日は何にしよう」
どうやら大体毎日、屋台でご飯を食されているようです。きっと行き付けの屋台があるのでしょう。
お天気のいい日、のんびりゆっくり、おなかがすいているから全力疾走なんか出来やしません。屋台は逃げないので、ぽてぽて歩いて、ご飯を目指します。
そんな、のどかな時間のことでした。
どっかーん!
どか、べき、どさどさ、ばったん。
今度は木下さんの凝り固まった首が出す音ではありません。何か別の音です。
「うぅ〜わぁ〜っ!」
これは、いままさに瓦礫に埋もれていく木下さんの悲鳴です。
●巻き込まれちまった人
この日、錬金術師のシュタール・アイゼナッハ(ea9387)さんは、お友達のトシナミさんと、お散歩をしていました。別に日課ではありません。
「このところ籠もりきりで、体がこわばってしまってのう。たまには散歩でもしなければと思ったが‥‥一人ではなくてよかったよ」
どうやらシュタールさん、研究熱心のあまりにおうちで座り詰めで、腰が少々痛いようです。それでお散歩を思い立ちましたが、なにしろ研究熱心なので目的もなく歩くのは苦手みたい。トシナミさんと世間話をしながら、てくてくと道を歩いておりました。
ちなみにお友達のトシナミさんはシフールさんなので、ふよふよ飛んでいます。
「最近はあまり依頼を受けずに、色々作ったりしておってな。出来上がったものを届けに行くくらいしか動かないでいると、よくないのう」
「そりゃそうじゃ。一人で考えるばかりでは、いい知恵も湧くまい。たまには仕事を休むのも大事じゃ」
なんとはなしにじじむさ‥‥いえいえ、含蓄に満ち満ちた会話ですが、二人ともゆうったりお話しするので、どっちがどっちなんだ‥‥いえいえ、お友達とは似るものなのです。
シュタールさん達はのんびり歩いていました。すると。
どっかーんっ!
どんがらがっしゃん、ぽーんっ。
これは一体何の音? 何かが壊れて、更に飛んできた音です。
「あいたっ」
これは、いままさに飛んできた瓦礫が頭に当たったシュタールさんの悲鳴です。
●見ちゃった人達
エルトウィン・クリストフ(ea9085)さんとリオリート・オルロフ(ea9517)さんは、あるところを歩いていました。
どうしてこの二人で、昼日中に、お仕事もせずにのんびりうろうろしていたのかは、良く分かりません。きっと何の目的もない正しいお散歩の最中だったのでしょう。ろばちゃんとねこちゃんとうまちゃんも一緒です。
ろばちゃんとねこちゃんはそれがお名前ですが、うまちゃんはちゃんとしたお名前がないのでとりあえずうまちゃん。
エルさんとリオさんとろばちゃんとねこちゃんとうまちゃんがぽくぽく歩いて、とあるところを通り掛かったら。
どっかーんっ。
どんっ、ぺしゃっ、どさっ。
なんだかすごい音がして、色々なものが飛んできて、誰かがばったり倒れたような。
「な、な‥‥」
「リオ君、見た? なんだかすごいよ。爆発したみたいっ! きゃーっ」
これは、いままさに起きた大惨事らしい出来事に呆然としたリオさんと、心がうきうきしてきてしまったエルさんのお声です。
●やっちまった人
ううらかな暖かい日だったので、ソフィア・ファーリーフ(ea3972)さんは朝からご機嫌でした。だって、お天気がいいのです。
「肥料作り日和だわ」
趣味薬草採集に始まる植物全般に関わること。ただ今の目標、神秘の肥料に負けない素敵で無敵な新しい肥料を作ること。ソフィアさんはそういうエルフさんです。
もしかすると、ソフィアさんは『そんなことないわよ』って言うかもしれませんが、それはあれ、自分の事ほど本人は分からないというやつなのです。
そうでなければ、お昼近くまで落ち葉や野菜くずや土や色々を混ぜて、かなりくさ‥‥いやいや、相当ふは‥‥いやいや、程よく熟成した肥料の山をかき混ぜていられるはずはありません。
「もう少し暖かくなったら、これでまた新しい植物を育ててみましょう」
夢見るエルフのソフィアさんが、なんともカグワシイ臭いの中でうっとりしています。ご本人は気にしていませんが、けっこうスゴイ臭いです。
そして、まだソフィアさんには聞こえていませんでした。
かさこそ、かさこそ。
色々混ざっているので、動く姿も見えていません。
ごそごそごそ‥‥っ
そして、それは突然ソフィアさんの前に現れたのです。
しかも飛んで!
一直線にソフィアさんに向かって!
あぁ、この時のソフィアさんが何にも考えずに、グラビィティーキャノンをぶちかましたとして、誰が責めるでしょうか。
なにしろ、Gなのです。G。
「黒い悪魔が、黒い悪魔が‥‥」
これは、いままさに崩れてくる自宅の壁の下敷きになりつつ、ソフィアさんが呟いているのでした。
まあ、いかなる事情はあっても、木下さんとシュタールさん達は言いたいことがあるかもしれませんねっ。
●やられちまった人、現在
木下さんは、ソフィアさんと同じくらいに壁の下敷きになりました。一瞬、気が遠くなっていたようです。そのまま精霊界に召されなくてよかったですね。
「なんで俺、こんな狭いところにひっくり返っているんだろう」
壁と地面に挟まれているからです。
「あれ? 動けないぞ? 足が抜けないっ」
壁と木材の隙間に、がっちり挟まれているからです。
「け、携帯!」
なにを?
「一一九番!」
ひゃくじゅーきゅーばん?
「ないぞ、こんなときに携帯忘れてきたのかよ、俺っ」
携帯なのに、忘れるとはこれいかに?
「‥‥いや、待て待て。ここはアトランティスなんだよ」
木下さん、大丈夫?
●巻き込まれちまった人、見ちゃった人、現在
なんと街中で攻撃魔法、しかも家を崩してまで。
これは事件だわとエルさんは大張り切りです。
「リオ君、見て見て、人が倒れてる! これは見に行かなくっちゃ!!」
力強く宣言して、楽しそうにスキップしながら現場に近付いていきます。その先には、瓦礫を頭にくらって、きゅうとなっているシュタールさんと、危うく難を逃れたトシナミさんが居ました。シュタールさん、トシナミさんに助けてもらって、なんとか気が付いたようです。
「医者はどこだ?」
お医者様ではないですが、トシナミさんは治癒魔法が使えます。なんてありがたいことでしょう。
「わぁお、大惨事だね。犠牲者は一人、二人‥‥うーん、夜逃げの最中?」
リオさんがびっくりしすぎて固まっている間に、エルさんは暴言吐きまくりで辺りをぐるぐる回っています。倒れている人を助けたりは、していません。
だからシュタールさんはふらふらしていて、一人では立ち上がれないままでした。お友達はシフールですから、もちろん支えられません。
「一体何が起きたのかのぅ、あいたたた」
シュタールさん、運動不足でなまっていた腰が痛いみたい。もしかするとぶつけたのかもしれません。トシナミさんに治してもらいましょう。
でも、痛くなくなったからっていきなり立ち上がっては危険です。回りの様子を確かめて、何が起きたのかを確かめなくっちゃ。
今は近くにうろうろしているエルさんと、まだ突っ立っているリオさんがいます。他の人達はカグワシイ代物が一面にぶちまけられてしまったので、遠巻き。
ろばちゃんとうまちゃんが、まだ新しい野菜くずを見つけてもぐもぐし始めました。お散歩の途中でおやつの時間になったようです。
何がなんだか。いったいここでは、何が起きたというのでしょう?
「やれやれ、何事だか分からんが、そこのお若いの。悪いが手を貸してもらえないかね」
まだどこかが痛いといけないので、シュタールさんがリオさんにお願いしました。
「あっ、はい。もちろん。気が利かなくて申し訳ない」
リオさん、ようやく時間が止まっていたのから解放されたみたい。慌ててシュタールさんを助け起こします。急ぎすぎて引っ張っちゃったのには気付いていません。
シュタールさん、痛たたと言っていますが‥‥これは誰のせいにしたらいいのでしょう。
ところで。
「いったい、これをしたのは誰かしらね」
ひとしきり周りを確認して、後は崩れたい絵の壁の下だけが残っているエルさんが首を傾げました。その近くでは、ねこちゃんが何かをいたずらしています。
ぺしっ、かみかみ、ぺっ、ぴたぴた。
それはなんだか小さくて、黒くて、ぎらぎらした、しぶといもの。
「ねこちゃん、何してる‥‥ひぃっ!」
今度はエルさんが固まりました。
ねこちゃんがいたずらしていたもの、それはこんなときのお約束。あの、G!
エルさんの声にならない悲鳴が、周りの皆さんの鼓膜を乱打します。器用です。でもすっごく耳障り。どこから声が出ているのでしょう。
「むっ、これは一匹見れば三十匹。任せておけ、わしの家にはGパニッシャーがある」
今すぐ取ってこようと、シュタールさんがおうちの方向に向かいます。でも待って、落ち着いて。
良く見たら、Gはシュタールさんの親指くらいの大きさしかありませんのですよ! 大きくないのです、やったね!
「武器なら、自分が持っている。これで足りないか」
リオさん、落ち着きましょう。相手は普通の虫です。どんなにいけ好かなくて、嫌われもので、てらてらした姿が気持ち悪くても、虫。巨大生物ではありません。
ま、それで落ち着けたら、エルさんが足で踏みつけて終わりになるでしょう。全然そんな気配はありませんけれど。
「ねこちゃん、それはご飯じゃないのよー!」
悲鳴が、響き渡っています。
ひゃあ、食べちゃったかも?
●その頃のやっちまった人とやられちまった人
「黒い悪魔が黒い悪魔が黒い悪魔が」
「おーい、誰か〜、この下に人がいるんだよ〜、助けてくれ〜」
この直後、声にならない悲鳴が二つ。
かさこそ、かさこそ。
一匹見たら、三十匹。
それが最後のGとは限らない、第二、第三のGが‥‥
これがGの鉄則。
●頭は冷えました‥‥か?
それからしばらく、ソフィアさんのおうちの周りは大騒ぎでした。
Gの鉄則が遺憾なく発揮され、野次馬さん達はが悲鳴を上げたり、逃げたり、退治に走ったり、可愛いペットがもぐもぐするのを止めたり、大忙しだったのです。
ようやくソフィアさんと木下さんが助けてもらえたのは、もう夜が来るかと思う頃でした。二人とも、あんまり長いこと見つけてもらえなかったので。
「まあ、かわいそう。寒くて震えてるわ。あ、猫ちゃんを抱っこするといいわよ。あったかいから。ほぅら、可愛いでしょう」
瓦礫の中から助け出されたとき、ソフィアさんはしくしく泣いていました。がたぶる震えてもいたので、エルさんがねこちゃんを抱っこさせてあげます。
「わしは体が暖まるハーブティーを淹れて進ぜようか」
シュタールさんは植物にも毒草にも詳しいので、美味しいハーブティーを二人に淹れてあげることにしました。ところでシュタールさん、やっぱりGパニッシャーは取りにいったみたいです。ちゃんと持ってました。
それでぷちゅっとやったのかは、謎。怖いから、訊いてはいけません。
「腹が減った‥‥」
木下さん、今にも倒れそうです。原因はもちろん本人が言ったとおり。昨日の夜ご飯から、ずっと何にも食べていないのです。助けを呼ぶのに大声も出したし、動けないのにGとご対面して辛かったのです。早く美味しいものを、おなかいっぱい食べたい‥‥
「お、そうだな。食べるのものも必要だろう。よし、色々買ってこよう」
木下さんが辛いも苦しいも通り越してとっても悲しそうだったので、リオさんが慌てて屋台がある方向に向かいました。木下さんが何か言い掛けましたが、もう聞こえません。
リオさん、その方向にいつもいる屋台は、日が暮れる前に帰ってしまうのですよ‥‥今からだと、とっても遠くまで行かないと屋台はないのです。反対側だと、すぐのところに出ているのですけれど。
シュタールさんのハーブティーはもうすぐ出来上がりそうですから、それに蜂蜜をいっぱい入れて、ご飯が来るまで我慢しましょう。もう、ソフィアさんも木下さんも何か食べないと動けません。
ところが。
ぺっ。
ソフィアさんの膝の上で、ねこちゃんが何か吐き出しました。
いまさら正体の説明は不要です! いらないったら、いらない!!
ゴキブリですよーっ!!!
遠い遠い屋台まで走って、たくさんお料理を買って、また走ってリオさんが戻ってきたときには、みんなが悲鳴を上げながら、何かをばしばし叩いているところでした。
●片付けとか
明日から、頑張る?
頑張れる?