素敵?なお茶会への招待〜上手に踊りたい!
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月08日〜03月13日
リプレイ公開日:2008年03月18日
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●オープニング
冒険者ギルドでお茶会ウィザードと呼ばれるアデラが、その日は珍しく依頼の掲示板を眺めていた。
「何を見てるんです? 依頼を受けない人は、他の人のために避けてあげてください」
「はぁい。今回のお茶会は、ダンスの練習をしたいですのよ」
「‥‥バレンタインパーティーのダンスでこけたからですか?」
「子供のときは、もっと上手に踊れましたのよ」
アデラは、最近は二ヶ月に一回くらいの割合で、冒険者と一緒にお茶会を催している。大抵準備から冒険者に任せているのだが、時折何か教えろとか、あれをやってくれとか要求が付くことがあるのだが、今回は要求付きだった。
ダンスを練習したい。
バレンタインパーティーでのダンスだから、まあ、人が集まって皆で踊り出す‥‥それほど難しいこともなければ、うるさく踊り方を言われるものでもないダンスだ。
だが、しかし、相手がアデラだからして。
「転んでしまうんですのよ。どうしてですかしら」
「よそ見したり、関係ない事を考えているからですよ。ダンスなら旦那に習えばいいでしょうに」
「お仕事でしばらく留守にしますのよ。だからその間に練習して、上手に戻って、驚かせてあげようと思いましたの」
ここで『上手に戻って』と表現するところに無理があるが、アデラは無茶だとも思っていないようだ。そもそも話をしながら、相変わらず掲示板を眺めていたりするから、話に集中していない。
気もそぞろなのは、この人の場合はよくあることなので、受付はたいして気にしないが‥‥一応訊いてみた。
「月道勤務の旦那が、どこに仕事に行くんですって?」
「えぇと、秘密のお仕事なんですの〜。お城の方の呼び出しで、しばらくお出掛け。騎士が秘密と言ったら、妻であろうと詮索してはいけませんのよ」
「なるほど。では、旦那の留守にダンスを練習して、上手になりたいと」
「子供の頃は、皆が誉めてくれるくらいに上手でしたのよ〜」
子供が相手なら、大人は大抵誉めるだろうということは、アデラの頭にはないらしい。事実かどうか分からない、過去の栄光の記憶だけはしっかりと刻まれているようだが‥‥
「どのくらい、踊れるんですか?」
「子供の頃は上手でしたわ」
実際は、多分期待できないだろう。
でも、依頼内容はダンスの練習をしてから、お茶会なのである。
●リプレイ本文
アデラのお茶会、いつもは準備に一日、次の日にお茶会があって、片付けがまた一日で三日間だが、今回はダンスの練習なるものが混じっているので五日間。
けれども今回の参加者は、最終的に四人だけ。
「わたくしの母も踊りの名手でしたの。子供の頃からそれを見て育ちましたのよ。伴奏ももちろんお任せくださいな」
「よかった、伴奏があると憶えやすいんです。どうしようかと思っていたんですけれど」
妙な自信に満ち溢れたニミュエ・ユーノ(ea2446)と、今回確実に踊りの先生役のサーラ・カトレア(ea4078)は和やかに話し込んでいるが‥‥生徒のアデラはただ今お仕事中だ。五日間みっちり練習するつもりかと思えば、仕事はそんなに休めなかったらしい。
故にいつもどおり、家人がいないのに冒険者ばかりでお茶会の準備をすることになっているのだが、今回は何故か静か。
「今回は量もつまみ食いも心配せずに済みますから‥‥それが普通なのでしょうけれど。ともかくもアデラ様が家事に気を取られないように準備いたしますわ」
「バレンタイン前後で寄れなかったからな。そういう雰囲気の料理を希望したいな」
サラフィル・ローズィット(ea3776)とリュヴィア・グラナート(ea9960)は、練習の計画を立てていた。踊る時の曲はサーラとニミュエに任せて、リュヴィアとサラは家の事をまずすることにしたようだ。
家人がいない間だろうが、彼女達にためらいなどありえない。アデラとジョリオ、四人姉妹も気にしないのだし、この家が平穏無事に暮らしている何割かはお茶会メンバーの働きによるところがあるだろう。
そんなわけなので、サラは台所の食材の在庫を一通り見て回り、リュヴィアは裏庭の畑や鶏の世話に向かっている。
二人とも思っていたのだ。こういうことを済ませておかないと、アデラの気が散って練習にならないと。受付に言われなくたって知っている。なにしろアデラだし。
そうやって、今回はお茶会も七人だから料理はいつもより少なめ、半分くらいでいいかもとか、暖かくなって鶏がまた卵を産む回数が増えてきたので、増やすのなら小屋の仕切りを外させなきゃとか考えていた。ついでにこのまま、この家で皆で夕飯を食べつもり満々だ。
だって、ジョリオもルイザもシルヴィもいないのだから、少しでも賑やかにしておくのがいいではないか。と、言い訳はちゃんとある。なくても、どうせ居座るけれど。
そんなこんなで、リュヴィアの仕事が一区切りして、夕食の下ごしらえを終えていたサラがお茶にしようかと言い出して、練習の手順を相談していた二人に声を掛けたところ。
「あのぅ、ニュミエさんが‥‥」
サーラが珍しくも弱ってしまったという顔付きで、こそこそっと囁いてきた。
「あらぁ? ここがこうだってことは覚えてますのよ」
三人の視線の先には、踊りのステップを踏んでいるつもりらしいニュミエが、右によろよろ、左にふらふら、前後にそっくり返ったりつんのめったりしていた。
「アデラ様と‥‥」
「きっと同じだろう」
この瞬間、教える相手が二人に増えたことをサラとリュヴィアも察した。
ちなみにサーラも交えたこの三人、あることで意見の一致を見ていた。
『過去は過去だ。今とは違う』
『とにかくひたすら練習して、身体に叩き込む。それでもすぐに忘れそうだけれど、とにかく』
『いかに気を散らさないようにするか。それが大問題』
簡単にまとめるとこんな感じ。誰もアデラが五日間程度で上手に踊れるようになるとは思っていない。ついでに昔の経験は残っているとも考えていなかった。
だが、まさかアデラと負けず劣らずがもう一人増えるとは‥‥誰も予想していなかったのだ。
「おかしいですわね。お母様があんなに踊れるんですもの、わたくしだって」
母の技量は娘とは普通関係ない。ものは試しと踊りだしたニュミエの場合、少し踊ると息が切れるところが余計に問題だ。歌唱能力が高くて、楽器演奏も巧みなのに、その息の長さと筋力が踊ることとはまったくぶち切れているのはなぜなのか。
その後、まずは双子のマリアとアンナが帰って来たので、明日からの予定を尋ねた。翌日と五日目がお休みをもらえているので、お茶会はいつもと違うが五日目にする。アデラは五日目しか、一日休みはないようだ。後は、
「出来るだけ早く帰ってきますわ〜。人手が足りないんですけれど」
練習時間確保に非常な難問を口にした。
とりあえずこの晩は、明日が早番のアデラのためにどのくらい踊れるのかをサーラに見てもらうだけにしたのだが‥‥
「おばちゃん、下手よね」
「下手なのに、認めないのよ」
双子に『駄目よねー』と断言されていたが、サーラは口元を押さえて感想を口にしていない。
サラは目元を押さえているし、リュヴィアはこめかみを押している。
「アデラさん、なんだか足の運びがぎこちないですわよ。明日はよくよく練習いたしましょうね」
「おかしいですわねぇ。昔はとっても上手に踊れましたのよ」
アデラの言い分が、夕方のニュミエの言っていたことに奇妙に重なって‥‥
「「おばちゃん達、平気?」」
双子が先生三人を心配している。
二日目、幾つか調味料に減っているものがあったので、リュヴィアは双子と一緒に午前中は買い物に。その間、残った三人は畑にこの後植える作物の苗の様子を見ていた。
午後からはのんびりと双子を交えて、まずはサラとリュヴィアがダンスの練習だ。どちらも専門外のことにて、アデラに教える前に本人達が間違えないようにしておかなくてはいけない。双子にパーティーで踊ったものを再現してもらったら、同じ振りを皆で輪になって繰り返す、それほど難しいものではなかったので一安心だ。これならリュヴィアもサラも踊ったことがある。
あるのだが。
「そうか。これで転ぶのか‥‥小さい子供ならともかく」
リュヴィアがしみじみと、もはや感心してしまったほどに、難しくない踊りだった。サーラに習うのが、ある意味申し訳ない。音楽もニュミエに頼むのが悪いような、結構簡単なものだ。楽器の心得があれば駆け出し吟遊詩人でも弾けるし、いなくても皆で口ずさんで踊ったりするらしい。手拍子足拍子もあり。
踊りは門外漢だと言っていたサラも普通に踊り、双子も全然平気な顔で付き合っている。リュヴィアも問題はない。
一人だけ。
「おかしいですわ。このくらいの踊り、出来て当然ですのに‥‥こんな簡単な旋律で足がもつれるなんてありえませんわよ」
ぜいはあしながらニュミエが自分で自分に言い聞かせているが、その光景を見て、双子が異口同音に『おばちゃんが増えた』と呟いていた。
夕方からの練習は、あまりに散々だったので、夕食時は全員が無口だった。
「今日はちょっと疲れてましたのよ」
アデラが言い訳していたが、反省しているわけではなかったようだ。疲れているので、その後は彼女も無口だった。
三日目。
家人がいない間に、四人は練習計画の根本的な見直しを行っていた。
「わ、わたくし、伴奏に集中することにいたしますわ。ええ、そちらのほうが向いていますものね」
まずニュミエが『どうやら自分はダンスの才能がないらしい』と自覚して、暗ぁい面持ちで吟遊詩人の本分に邁進することにしている。三人も慰めたいが、踊りに関してはこれがまた見事なほどになんといえばいいのか分からないような有様だったので、
「踊りは音楽がないと覚えにくいんですよ。だからニュミエさんが伴奏してくれると、アデラさんも楽しく踊れると思います」
サーラが無難なことを言って、よろしくお願いと励ましている。それでもニュミエはしばらくうじうじしていたが、性格の根っこは根拠のあったりなかったりする自信に満ち溢れているので、サラとリュヴィアにも音楽の腕を誉められて復活した。
「そうですわよね。やっぱり音楽があってこそ、踊りやすいものですし、目にも耳にも楽しいのですわ。おほほほほほ」
復活しすぎだが、いつもの調子に戻ったのでまあよい。
問題は、
「アデラ様は、まったく自分の実力を自覚していないことですわ」
「最初から分かっていたことだ。身体に染み付くまで、何度でも教える。これしかない」
サラとリュヴィアが驚いたことに、今回のアデラはお茶の葉を用意していなかった。どこにも枯葉の山がなかったので、四人で探してしまったくらいだ。どうやら踊りのことで頭がいっぱいで、お茶のことは忘れているらしい。それでいて、こちらは根拠のどこにもない自信に満ち溢れているのだから始末が悪い。
結局リュヴィアの言う通りなんだと、サーラも交えて再確認して、この日の夕方からはアデラを三人で取り囲んで手取り足取り、踊りの動きの基礎を叩き込んでいる。
サラが言うには、こういう方法で素人に教えると大抵は踊りが嫌いになってしまうのだが、幸いにして相手はアデラ。ニュミエまで揃って、ついでに双子も『きっと大丈夫』と断言したので、手取り足取り。
ものすごく細かいところまで注意されているので、見た目は確かにいびられているようなものだが、アデラは『こんなに教えてもらえて嬉しい』と不可思議な思考をしているのが、今回はありがたい。
ついでにニュミエが楽しそうに、延々と挫けることなく、同じ旋律を繰り返し文句も言わずに演奏し、歌ってくれるのもありがたいことだった。普通の人だったら、とっくの昔に立腹していておかしくない。
そんな似たもの同士の二人が、他の人々をしこたま疲れさせつつ、なんとか形を叩き込んで、この日の練習は終わった。
四日目。
この日は朝から出かけた双子と違い、アデラは昼過ぎからの出勤だったので、午前中に五人で練習をする。ニュミエはもちろん演奏。アデラが昨日の練習の成果を見てくれと言うので、ちょっと小さくてくるくる回るのが大変だが、四人で輪を作って踊りだす。
「アデラ殿、左右が反対だ」
出だしからつまづいた。
「アデラさん、そこで前に出ると転びますよ」
途中ではつんのめった。
「アデラ様‥‥お仕事のときもそんなにあちこち見ていらっしゃいますの?」
段々アデラが挙動不審になった。
「まあ皆さんったら。なんだか大道芸みたいな動きでしたわ」
ニュミエにはまとめて笑われた。
「あら? おかしいですわね」
さすがのアデラも、困惑したようだ。今頃ようやくかという頃合ではあるが。
でも、そんなぼんやりのアデラでも仕事の時間は忘れずに、散々練習でつまづいたものの、元気に出掛けて行った。しかし一度おかしいなと思うと、昨日までの練習内容はすっぽり抜けてしまったので‥‥明日一日でどのくらい叩き込めるかが、もう不安。
「あんなご様子で、お仕事は大丈夫なのでしょうか‥‥」
アデラのお師匠様が悲痛な表情で心配していたが、今までクビになっていないのだから、多分大丈夫なのだろうと思うしかない。
それについては、他の三人もうっかりしたことは言えなかった。
五日目。それはお茶会の日。
この日は朝から全員揃って、七人とはいえ賑やかだった。食べ物の奪い合いがないので、和やかだ。
双子がリュヴィアから美味しいお茶の葉の選び方を習い、サラはアデラが一心不乱に取り組んでいる煮物の出来に目を光らせ、サーラとニュミエは和やかなお茶会にふさわしいとっときの茶器を磨いている。普段のお茶会では、壊れるのが怖くて出せない逸品。
お茶会の料理はサラが作った春先の葉野菜を混ぜ、香草をきかせた卵料理。色々混ぜ込んだパンに魚の料理、お菓子は家の庭や郊外の畑で取れた果物を干したものを使って色々と。それからアデラの煮物。
お茶はやっぱりアデラが忘れていたので、リュヴィアが食料庫や畑から選んできたものを合わせた、超安心配合。淹れる人はマリアとアンナなので、そこがちょっと心配。まあ、アデラと違って一斉に飲めなどとは言わないので、ごくごく普通にお茶会の雰囲気だ。
「アデラ様、子供の頃は出来ても大人になってやらないでいたら忘れてしまうなんて、よくあることですのよ。初心にかえって、忘れないくらいの感覚で時々練習なさいませ」
さすがに毎日仕事と踊りで疲れた双子がお茶会が先だと言い張り、のんびりまったり、かつてこんなに優雅なひと時があっただろうかと思うような時間を過ごしている最中、サラがアデラに言い聞かせ始めた。アデラがまた、性懲りもなく『子供の頃は』と繰り返し始めたので、ここで一つお説教だ。こんなに苦労してもまだ穏やかな物言いは、さすが聖職者である。
言い聞かせられたアデラも少しは感じ入るものがあったようで、
「でしたら、今度のお茶会でも練習いたしましょうね」
と、いつのことだか分からないくらい先の話をしている。結果として、またお説教だ。
「ジョリオ殿が帰ってきたら、付き合ってもらうしかないだろうな」
双子が『毎日なんか付き合えない』と大合唱なので、リュヴィアがアデラに練習方法を提案している。多分重要任務の最中のジョリオを心配しないわけではないが、当人が心配かけないように行き先を秘密にしていったのなら、知らぬ振りを決め込んでやるのが親切だ。故に、リュヴィアは容赦がない。
「そうですわね、ジョリオさんとご一緒なら、頑張れるでしょうから」
サーラはのんびりと同意しているが、それがジョリオに自分達が味わった苦行を全部押し付けるものだとは気付かないようだ。挙げ句にこの家にバードはいるが、演奏も歌も出来ない月の魔法使いなのである。
「では、次の機会にはわたくしの演奏にふさわしいくらいの踊りを楽しみにしていましてよ」
ニュミエの言い分は、アデラには実現不可能だ。今からでもそれが分かるくらいに、絶対無理。なにしろニュミエの腕前に匹敵する踊りの才能となれば、サーラは持ち合わせているが、彼女に習っても基礎が出来ないアデラには無理難題。でも、本人はそんなことを言ったつもりはないので、アデラと二人で『頑張りなさい』『はーい』とやっている。
その後、ニュミエの演奏で六人で輪になって踊ってみたが‥‥踊りがおかしな具合になるときは、必ずアデラが原因だった。
でも、慣れてきたのかそれも皆で楽しめるようになってきたので、悪くはないのかもしれない。
そういうことにしておかないと切ないから、そう決める。