お買い物の旅
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:4人
サポート参加人数:2人
冒険期間:03月09日〜03月14日
リプレイ公開日:2008年03月20日
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●オープニング
その日、アルドスキーという貴族の家では兄達と妹とで大喧嘩を繰り広げていた。
「ガリーナが一緒に来てくれないなんて、あの子達を誰がつれて歩くんですの」
「自分でつれて歩いたらよかろう」
「ト リ ス タ お に い さ ま」
誰のせいでこんな話をしていると思っているのかしらと、アルドスキー家当主の末子タチアナが、三男のトリスタに冷たく呼びかけた。長男のミハイル、次男のイヴァンも同席しているが、弟妹のどちらかといえば弟に味方している。
なお、この四人はいずれも同父母から生まれているが、ロシアの特徴を表したようにミハイルがエルフ、イヴァンとタチアナがハーフエルフ、トリスタが人間である。両親がハーフエルフゆえに、種族が異なる兄弟姉妹は、他に人間とハーフエルフの姉妹が二人ずついる。この四名はすでに他家に嫁していた。
それでも兄弟姉妹八名、おおむね仲はいいのだが、今回はタチアナが怒り心頭である。
「せっかく、ソフィアを説き伏せて、ユリアとリディアも楽しみにしていましたのに、肝心のガリーナが来てくれないだなんて‥‥」
「どうしてそこで怒るのかな。考えてもごらんよ、甥か姪が増えるいい機会だろう?」
「お兄様達はそれでよろしいでしょうけれど、ガリーナは結婚していないではありませんのっ」
「そりゃあ、トリスタが結婚しているからね。相手が実家に帰ったきりでも、まあ跡取りは産んだことだし、妻の務めの最低限は果たしたとして大目に見ておやり。こちらも娘達の墓参りを許していないのだしね」
ソフィアのこの四人の従姉妹で、ユリアとリディアはトリスタの養女で双子だ。いずれもハーフエルフ。ガリーナは双子の世話係だが人間で、エルフの妻と長年別居しているトリスタの事実上の妻である。
結婚前の両家の契約上、トリスタが死亡するまで余程のことがなければ妻とは離縁せず、生まれた子供は全てアルドスキー家で養育するとし、トリスタ死亡後は妻の再婚は自由となっている。おかげで妻が実家に帰ったきりで十年あまりになるが、トリスタが離婚してガリーナと再婚するわけにはいかなかった。ジーザス教徒であるから尚更だ。
タチアナは結婚前の娘らしく、そういうことに平然としている兄達の態度にも苛立っているのだが、彼女が怒ったくらいで動じる兄達ではない。そんなに怒るならと、次兄のイヴァンが立ち上がって言うには、
「確かに、これでガリーナをどこぞに世話するわけにはいかなくなったのだから、親に一言断りは入れておくべきだろう。私が行くから、お前も付き合え」
トリスタの事実上の妻で、手放すつもりもないのだから、本来『どこぞに世話する』、つまり貴族の愛人だったことを了解の上で結婚する相手を見付けてやることもありえないのだが、子供が生まれるとなれば、トリスタが仮に来月他界しても、この先結婚されては困る。正確には、アルドスキー家の子供と同じ母の、父親違いの子供が生まれては困るのだ。
よって、ガリーナの年老いた両親にアルドスキー家が娘の面倒は一生見ると挨拶をしに行くから、タチアナも同行しろというのだが、なにゆえトリスタ本人が行かないのかとタチアナはまだおかんむりである。
しかし。
「トリスタはもう挨拶してきたのだろう? 先々のことを約束するのなら、次期当主が適任だよ。さすがに父上が使用人の実家に出向くのは障りがあるからね」
「あぁ、そういうことですのね。お母様の代わりでしたら‥‥何を着て行ったらいいかしら。あまり質素では、ガリーナに苦労させると思われてはいけませんし。そうですわ、姉妹がいるのなら、代わりにあの二人の世話係をしてもらったらどうですの?」
「いるが、とうに結婚しているよ。ガリーナだって二十八だからね。世話係はまた別に雇い入れる算段が必要だな」
妹の攻勢がひとまず収まって、やれやれと息を吐いたトリスタが椅子の肘掛に体重を傾けた。その仕草に、次兄のイヴァンがしばらく考えて。
「お前、今四十いくつだ?」
「四十二になったところですよ、次兄殿。この歳であと何人も子供に恵まれるとは思えないので、兄上達に気に留めていただく子供はもう増えないでしょうが」
「別に何人いてもいいぞ。ハーフエルフだろうが、人間だろうが身内は身内だ。うんと可愛がってやろう」
この中ではもっとも年少に見えるミハイルがにこやかに口にしたのだが、弟妹達は揃って黙ってしまった。次の瞬間にはしまったという顔になったが、ミハイルの表情も変わっている。
「何か、言いたいことがあるか?」
「兄上に可愛がられた記憶が、実は厳しい思い出として残っているもので」
「‥‥いじめっ子なんだもの」
「あなたは、可愛い者ほど厳しくしつけるじゃありませんか」
その後、兄弟間で心温まるのか冷えるのか、判然としない会話が繰り広げられたが‥‥そのくらいはいつものことだった。
それから数日して、冒険者ギルドに持ち込まれた依頼は。
「妹さんと従妹さんと姪御さんが二人で、女性ばかり四人のお買い物三昧に付き人と護衛と道案内と話し相手とお世話係が欲しいと、そういう内容で」
そんな話だった。
●リプレイ本文
アルドスキー家の人々やその部下からの依頼は、時折冒険者ギルドに出される。そして大抵の場合、これでもかというくらいの要求項目が並んでいることが多い。
今回も令嬢四人の買い物付添いのはずだが、求めている人材の要求項目が羅列されていたのを見て、シュテルケ・フェストゥング(eb4341)は言った。
「要求が多いのは血筋だよ、きっと」
彼は何度かアルドスキー家からの依頼を受けたことがある。同様のイリーナ・リピンスキー(ea9740)も多少戸惑い気味ながら、結局は頷いたので、この情報に間違いはないだろう。
でも必要な人手をこれだけと明示してくれたのだから、パラーリア・ゲラー(eb2257)とシャリオラ・ハイアット(eb5076)には文句はない。かろうじて必要最低限の人数も揃ったことだし、護衛がパラーリア、道案内と荷物持ちがイリーナ、子供二人の世話がシャリオラとシュテルケと担当も決めて、初日は朝も早くからキエフの郊外にあるアルドスキー家の別邸に赴いた。馬車を寄越してくれているからいいが、歩いたら半日ほど掛かる距離である。
実はこの移動の間、シュテルケはちょっとどきどきしていた。今を遡ること約一年と八ヶ月前、それまで闘技場で腕を磨いていた彼が初めて冒険者として依頼を受けたのも、やはりアルドスキー家からのものだった。その時に、今回同行する双子の女の子とは面識がある。その後、色々な依頼を受けたが、最初の依頼はなんとも忘れ難いのだ。
そうしたら。
「そのなりはなんですの。連れている者の姿は、こちらの評判に関わりますのよ。お取りなさい」
今回の護衛対象の一、タチアナはパラーリアを見た途端に命じてきた。パラーリア、うさぎの耳を模したラビットバンドを頭に、月桂冠を額にしていたので、確かに装飾過剰の気はあったが、冒険者間では縁起物やマジックアイテム、それと類されるものを色々身につけるのは珍しくないので、ここまでは誰も不自然だと思わなかったのだ。
「血筋だよ、やっぱり」
シュテルケの呟きにも、『なにがですの』とぴしりと言ってくる。彼が素直に『こんな感じ』と説明したら、『わざわざお金を払うのだから、こちらの要求を果たせない人に用はありません』と返された。至極もっともだが、今回はお買い物三昧だ。贅沢だなと、皆思う。
だが。
「お買い物は楽しいですものね。せっかくですから、たくさん見て回りますか? それともじっくりと巡りましょうか?」
自分も買い物三昧する気が満々のシャリオラが、そんな気配は隠して話題を振る。相手は貴族、多少機嫌を取ってあげたほうが話も早く進むなんてことは考えて‥‥いるが、なによりも、早く話をまとめてお買い物に行きたいではないか。そのためには、まず会話で場を取り持って、和やかな雰囲気作りが大切だ。
そんなそこはかとなく腹黒いシャリオラの考えなど知らず、あまりの勢いにちょっとおたおたしていたパラーリアは、ラビットバンドを外して荷物に入れている。いつもの勢いで『にゃっす!』と挨拶する機会は逃したが、それはそれで良かったかもしれない。また怒られそうな気配が濃厚である。
気を取り直して、行きたいところを良く聞いておこうと身を乗り出したら、イリーナが誰かと話している。見た目でもう一人いる令嬢だと分かるが、びっくりするほど存在感がない女性だった。
ただし、行きたい店の羅列の中では、存在感醸し出しまくり。なぜなら、タチアナが『ソフィアの買い物が』と繰り返すからだ。当人は格別欲しいものがあるわけではないらしい。
「あとお二人いましたよね」
「あの二人は何が欲しいのかしら。‥‥トリスタお兄様とガリーナと、お父様とお母様とおばあ様にお土産は選ばせないといけないけれど」
パラーリアが女の子二人の希望を聞いたが、単にキエフの街を見せてやりたいだけで、こちらも欲しいものがあるわけではない。一度皆と顔は合わせたが、そそくさといなくなってしまって、久し振りの再会のシュテルケを残念がらせていた。
パラーリアも勢いというか、圧力感に満ちているタチアナよりは可愛い子供のほうとまずは仲良くなろうかなと思ったが、いないのでは仕方がない。
「時間帯によるが、この通りには若い女性が好む飲食店が多い。持ち帰り出来る菓子類は、その隣の通りがお勧めだ。最近流行の服飾品を見るのならこちら」
「キエフのナウなヤングにバカウケの品物は、私もご一緒に選びましょう」
イリーナの説明に、シャリオラが胸を張った。タチアナは怪訝な顔で瞬きを繰り返し、
「ナウな?」
「ヤングに?」
「バカウケ?」
シャリオラとほとんど話さないソフィア、呆然としているタチアナ以外の三人が、順次口にしたが‥‥明らかに『そんな言葉使うか?』といった雰囲気が濃厚だ。でもシャリオラはお買い物したいオーラを醸していて、気付いていない。
「なんか、すごいねー」
「でも、時々もっと大変なこともあるからいいのかな」
たいしてよくもなかろうが、タチアナが『最新流行なら見てあげるわよ』と無理やり話をまとめたので、他の人々もいいことにした。シャリオラの勢いに、タチアナも気勢を削がれたようだ。
なお、この後にとことこと戻ってきた双子はタチアナの兄のイヴァンを連れていて、シュテルケと再会を果たした。どうも顔には覚えがあったようだが、どこであったか分からないので伯父を連れてきたものらしい。
「ステルケ?」
名前は教えても、シュテルケになるまでに結構掛かったが。
初日、半日は顔合わせと行く店の選抜に掛けたが、それでもお買い物は決行される。別邸はそれなりに広いが、馬やフィールドドラゴンを飼っている事もあり、他の家とは離れている。双子が退屈して仕方ないので、行く予定の店構えを覗いて実際に立ち寄るかを決め、どこかでお茶を楽しむことになっていた。
幸いにして、パラーリアが心配したような揉め事の気配はアルドスキー家にはなく、わざわざ令嬢達を狙って来る連中がいる可能性は低い。しかしながら、見るからにおのぼりさんなので、すりや引ったくりの類の脅威は減っていない。
そう思って、イヴァンから情報収集したパラーリアは護衛の任に勤しむべく盛り上がっていたのだが、当然のように箱馬車に乗せられてから、あることを知った。
「ずーっと馬車で移動って、それはつまらないんじゃないの? 店先に並んでいる品物にも、結構いいものがあるよ」
「そんな店で買い物など落ち着かないわ」
あくまでもタチアナが求めるのは中堅貴族御用達の店。町をそぞろ歩くことははなから頭にない。それで護衛が必要なのかと思われるような状況だが、半分くらいは見栄なのかもしれなかった。
でも、馬車の中でもごそごそと動き回り、窓の外を眺めようと椅子から伸び上がっている双子を見ると‥‥乗り降りの際には気をつけないと、事故に遭うかもと心構えを新しくしたパラーリアだった。端から見ると、彼女も子供のようだが、それで実力を見誤ってはいけないのだ。
ちなみにシュテルケは、双子に膝の上に乗られていて、窓をこじ開けようとするのと戦っている。力自慢の彼も、ちょっと叩いたら壊れそうな子供を掴んで座らせたりは出来ず、扱いなれない素振りで窓の止め具を死守していた。間違って転がり落ちたら‥‥別邸にいるイヴァンより、彼女達の養父のトリスタより先に、タチアナに悪口雑言叩き付けられた挙げ句に絞め殺される気がする。
そしてシャリオラは、話しかけないと黙りこくっているソフィアの話し相手をしていた。刺繍糸を買い揃えたいと希望しているソフィアに、何を作るのかとか色々と尋ねていたところ。
「タチアナ様の婚礼衣装を作ることになりましたの」
「布も買わないといけなかったわね。イリーナはいい店を知っているかしら」
イリーナだけは自分の馬で移動しているので、ちょっと訊いてみるという訳にもいかない。途中で小休止した際にパラーリアが馬車から出て、イリーナに要望を伝えている。双子を馬車から出すとどこかに向けて走り出しそうなので、その間はシュテルケとシャリオラでしっかり抱え込んでいた。
「なにかいたのよー」
貴族のお嬢様が、ねずみごときを見たいと騒がれても、彼らとしては困るのである。
まあ、困ったことはその程度で、馬車は無事にキエフに着いた。以降、毎日これが繰り返されることになる。
女性二人は買い物。女の子達はどちらかといえば見物。やりたいことははっきりと決まっているが、あいにくと護衛が一人しかいないのではおいそれと二手に分かれることは出来ない。よって色々と案を練った結果、明らかな安全な大店にタチアナとソフィアがいるときは荷物持ちと案内のイリーナが付き添い、他の三人が双子の街見物に付き合うことにした。後は時間と場所を決めて待ち合わせだ。イリーナの愛犬は、店内に入れないので双子の付き添い。
初日はのんびりとお茶を飲み、街角の大道芸人を小一時間も眺めてから戻った。何事もなかった。
大変なのは、二日目からだった。
最新流行を見たいタチアナとソフィアを連れて、高級な衣料品を仕立てる店に連れて行ったイリーナは‥‥多分、店からいると有り難くない客の一派だった。別に無理難題は言わない。横暴な振る舞いもしない。単に要求が高い。滅茶苦茶高い。
「ご婚礼衣装だそうだ。ご両親はきっと最高級品を望まれると思うのだが」
「家臣に嫁ぐのに、そこまでは望まないわ。でもそうね、下世話な話だけれど、このくらいは使えるかしら」
ずらりと並べられた布地を前に、イリーナが確りした目利きで物を言い、タチアナはさりげなく大金をほのめかす。その横では、最初は店の規模に尻込みしていたソフィアが、黙々と並んだ刺繍糸から染色が最高の物を選り分けている。
これは飛び込みだがごまかしが聞かない客だと判断されて、もてなし方も変わるし、時間も掛かる。何故か、細かい金額の相談はイリーナが代行していた。あまり値切っても外聞が悪いので、こまごましたおまけをつけさせて買い付ける。
でも持ち帰るのは、ごくごく少量。後は全部店に届けさせるのだ。ソフィアがすぐにでも使いたいものと、タチアナが一人で選んだ乳児用の服を作るための柔らかい布がイリーナの愛馬に載せられた。
こちらは、毎日店を変えて、同じことを展開している。
双子を連れている三人は、とてもではないがそんな優雅で熾烈なお時間は過ごせない。基本が熾烈で苛烈で、強烈だ。
「あっち」
「そっち」
双子ゆえに、二人いる。行きたい場所が違っても、二手に分かれられないのに、彼女達はもちろん意見を変えない。いやまあ、シュテルケとパラーリアは街中で出る大抵の悪党など敵ではないが、キエフは最近脱獄もあったりと安全ではない。子供を見る人数は大いに越したことはなかった。
初日、二日目と意見の相違でぴきゃーぴきゃーと泣かれた三人は、双子に『順番』と教え込んだ。普段の世話係のガリーナからも言われていたようで、渋々従うようになってくれたので、なんとかかんとか三日目からは泣かせずに済んでいるが‥‥
「あぁ、私のお買い物計画が‥‥」
シャリオラが、時折うつろな目で空を見上げているのは、吟遊詩人を見て、動物を見て、また吟遊詩人を探して、またまた動物を見付けて‥‥の繰り返しに飽きたから。ナウなヤングにバカウケの最新流行とは、とんとお目にかかれない。いや、一応お目にかかるのだが、それはおなかにしまうものなのだ。見立てる楽しみがない。
たまに『お土産』と双子が言うので、こちらは適当なお店を見繕って、子供が喜びそうで、かつ大人へのお土産に出来そうなものを選ぶのだが、これがまた赤ん坊用の品物ばかりなのでつまらない。
やる気が日々減少していくシャリオラと違い、シュテルケはそういうことにとんと疎いので困っていた。赤ん坊のためのお土産ってなにが向いているのか? しかも相手はまだ生まれていなくて、生別も分からないのだ。これは困った。
挙げ句にどうも聞いていると、双子の養父と妻ではない女性との間に生まれるとか。ジーザス教徒には、耳に快い話ではない。貴族だからとしても、人前では口にしないように言い聞かせる苦労まであったり、シュテルケは神経をすり減らしている。
パラーリアも同様の苦労はあるが、何が一番怖いといって、双子がお守りのシュテルケとシャリオラの手を振り切って飛び出すことがあるからだ。突然やるので、追いかけるために細かく二人の同行を見つつ、周辺も警戒する。けっして楽な仕事ではない。
「結構疲れるよな」
「普段は一人でお世話しているなんて、尊敬しちゃうね」
会ったことがない人に感心しつつ、三人はとりあえず頑張っている。
四日目。
「買い物ですよー」
本格的なお土産を買うために、双子も高級店に連れて行かれて、一番シャリオラが張り切っていた。装飾品を見立てたり、日常使いの小物を全部見分したり、楽しそうだ。
あまりの勢いに店員が気圧されていたが、それは彼女の気に入る品物がなかったことにも起因している。正確には、あったけれど財布の中身にそぐわなかったので、ご機嫌斜めだったのだ。
その分、双子達にはいいお値段の髪飾りを見繕い、それとちょっと似た値段が幾らか落ちるものをガリーナ用に包ませ、その他親族の分はあったことがあるイリーナとタチアナ達に任せていた。
こういう店では、シュテルケは見ているしかないが、パラーリアは革製品を見て、目と心を奪われていたようだ。護衛なので、我慢。
ちなみにこの日、さすがに連日の外出で疲れ気味の双子を慮って早く帰宅したものだから、一同は買い求めた菓子とお茶をご馳走になったのだが、その席で。
「修道院に送り込む方法はないかしらね」
タチアナに真顔で、トリスタの妻を修道院に送り込んで離婚を成立させる方法はないかと問われていた。彼女は自分の結婚までに、なんとか不実な義姉と縁を切りたいようだ。
「さすがに修道院に入っても、すぐに俗世と別れたとはみなされないから」
イリーナの説明に、タチアナが『残念だわ』と地の底から響くような声を出し、ソフィアがおろおろしていた。
他の三人は、うたた寝を始めた双子を部屋に運ぶとして、すたこらさと逃げ出している。
五日目は、大体買い物が済んでいたので、一日目同様に双子の見たいものを優先で観光をした。屋台で売っていた菓子を食べたいと言い出して、シュテルケが美味しいと保障したが、タチアナとソフィアは食べたことがないものは怖かったようで、双子と希望者だけが食べている。
美味しかったのよと繰り返されて、食べなかった二人は少しばかり心残りだったようだ。
でも、帰りの馬車の中にはお土産にするためのお菓子が山積みになっていて、パラーリアは御者台に間借りしていたのだけれど。