宝石猫とフェアリー(どっちも偽物)
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:3人
冒険期間:03月29日〜04月08日
リプレイ公開日:2008年04月08日
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●オープニング
天界人、林春香。職業、以前も今も彫金師。
アトランティスに召喚されながら、珍しくも冒険者ギルドに登録せず、最初に縁があった商人の庇護の下に生活している天界人の女性だ。性格、なんとなく偉そう。よく言えばおおらかだが、悪くいうと色々気にかけなさすぎる。
王都に進出してきた商人がこのままで取引相手の前に出したら大変なことになるとでも思ったが、初歩的な教育をしてくれと以前に依頼してきたことがあった。
ちなみに今回、ギルドを訪ねて来た春香の様子を見ると、以前に比べればかなりおとなしやかだ。性格が変わったわけではなく、場を弁えるようになったということだろう。
変わっているのは。
「ジュエリーキャットっていうのを貰ったのね。店長が買ってくれたんだけど」
店長とは、春香のアトランティスでの後見人である。
ジュエリーキャットとは、全身を宝飾品で飾ったように見える猫のこと。魔法を使えるから、ただの猫とはまったく違う。
「そんじょそこらで売っているものではありませんが、どういう伝手です?」
たまに冒険者が連れていることもあるが、それにしたって希少価値だ。買うとしたら如何ほどになるものかと、ギルドの受付が好奇心半分で尋ねてみたところ。
「金貨五十枚。あたしの年収より、多いわよ」
ほらと提げていた籠を開けて見せてくれたところでは、茶色に黒ぶちの猫が、銀細工ではなかろうかという装飾品をつけて座っていた。カウンターの上に出すと、大きく伸びをしたが、その際に銀細工が外れている。
それは、ちょっと知っていれば分かる。どう見ても偽物。本物だったら、身につけている宝石類は外れない。
「あたしの見立てでは、この銀板は銀貨五枚を鋳潰したら作れるわね。細工料は相場が良く分からないけど‥‥この辺りの仕上げが甘いから、たいした仕事じゃないのよ」
「‥‥偽物だって判ったなら、商人ギルドを通じて相手にねじ込むなり、土地のご領主に訴えるなりしないんですか?」
「商人ギルド未登録の、猟師を装った奴が売り手で、森で捕まえたけど生活に困っているから買ってくれって言うらしいのよ。似たようなことを、店長の知り合いにもやっててね」
中の一人が、珍しいエレメンタラーフェアリーだと言われて買い取ったのがシフールの子供だった。これは単なる稀少な生き物とたばかって偽物を売買しているだけではないようだと察した店長と仲間達は、その連中を捕らえるための人手を冒険者ギルドで募集することにしたのである。
いきなりしかるべき筋に訴えないのは、自分達が支払ったものは取り返してから突き出すためだ。特に店長は相手をおびき出すために大枚を出したので、なんとしても取り返したい。
あと、重要なのが。
「なんだかシフールって、本当は親がいないの? でも、その子供は親と一緒だったって言うのよね。だから天界人だろうって話になってるんで、その辺りが分かる人もお願い」
シフールの謎に迫ること、ではなくて、フェアリーだと売り飛ばされたシフールの子供の親を助け出すことらしい。売られる直前まで一緒に捕まっていたことまでは分かっている。
なお、報酬額は前金が金貨一枚。
仕事が終わってから、その成果により追加報酬を支払う予定なので、きっちりと臨んで欲しいとのこと。
●リプレイ本文
今回の依頼人の天界人、林春香は六名集まった冒険者の半数と面識があった。ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)、富島香織(eb4410)、リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)の三人だ。
「ご健勝でなによりです」
リュドミラに挨拶されて、ウィルでよく見掛ける女性用の衣類を着けた春香が小脇に猫を抱えて、反対の手を上げた。性格はあまり変わらないと香織が苦笑しているが、ユラヴィカは前回会った時にしげしげと眺め回されたのが、今度はシフールがディアッカ・ディアボロス(ea5597)とルディ・リトル(eb1158)もいるのに、少しは落ち着いたなと思っていた。
反面、ジ・アースから渡ってきたばかりの土御門焔(ec4427)はやや落ち着かない様子だが、連れがいるので心配はないだろう。変わった格好で、春香付きの小間使いアーシャとポーシャに不思議そうに見られているが。
ところで。
「出発前に本物を見ておくといいと思って、時雨君に連れてきてもらったんだよ」
ジュエリーキャットの本物が出てきたので、まるごとしょうきさまはとりあえずさておかれた。ユラヴィカが一瞬落下しかけたからだ。
「本物の宝石にゃんこじゃ〜」
出発は、街中で不審なペットの売り買いの噂がないかを確かめてくれていた焔の友人が顔を出すまでというより、一部の人々がジュエリーキャットを堪能しつくしてからとなった。
移動はリュドミラと焔の二人以外は馬を連れていたので、春香達も馬車なので相乗りして、予定より半日以上も早く目的の街に到着した。と、出迎えた店長を見て香織があらと首を傾げる。先方も彼女の姿を認めると、初対面の冒険者達に対するのとは違う砕けた笑顔になった。香織には面識がある相手だ。
そのおかげか店長は保護されたシフールの子供との面会をすぐに手配してくれた。しかしやってきたもう一人の商人は、こともあろうに腕に止まらせた子供の腰に紐をつけている。
「それはひどいんじゃないかな。こんな着けられたら邪魔だよね」
いかにもむっとした様子で、ルディはさっさと近付くと紐を解き始めている。ディアッカもユラヴィカも心楽しくはなさそうだが、紐が柔らかくて、簡単に解けたので文句を言うまでにはいたらない。
商人は一応恐縮しているが、子供はあまり気にしていない。商人にお菓子をねだったり、懐いているようだ。
こうなると、こちらの世界に渡ってきたばかりの焔も、他の五人もなんとなく察してくる。いずれも、量の差はあっても依頼をこなして来た冒険者だ。
「まだこちらのお子さんは、周りの方にはシフールだとはお話になっていらっしゃらないのですか?」
リュドミラが穏やかに問い掛けると、商人は赤面して頭を掻きつつ。
「それを言ったら、人づてに広まりますからね。あの野郎をとっちめるまでは内緒ですよ。紐はこの間風で飛ばされたものだから着けてみたけど、やっぱり駄目かなぁ」
六人が揃って思ったのは、『この人なら、騙されやすいかも』だ。店長のほうはその辺もう少ししっかりしていそうだが、偽物を掴まされたのだから、相手が上手だったのかもしれない。
これはよくよく用心して掛からねばと、まずは相手のことを知るために、同族のルディ、ディアッカ、ユラヴィカが気分をほぐしながら捕まっていた時のことを尋ね、両親の外見は魔法で記憶を見させてもらうことにした。本人も親も魔法は使わないが、ジ・アースにいた頃に親の友人にバードがいたとかで、抵抗感もなく従ってくれたが。
「ちゃんと親御さんのことを考えてくれませんか」
「おなかすいたよー」
ルディよりも更に小さい子供は集中力がなかった。
結局商人が持ってきていたお菓子で一服することになった。満腹したことで今度は子供がうとうとしかけるところもあったものの、程なく両親の顔立ちはきちんと確かめられた。そして問題の猟師の他に、男女一人ずつ、合計三人を目撃していたことも聞き取っている。
猟師の顔は店長や商人にも協力してもらって、かなり詳しく確かめられた。
街での情報収集を買って出たのは香織とディアッカの二人だった。本来ならもっと大人数が必要だったろうが、金銭授受の後に生活必需品の買出しをしていたはずだと考えた香織に対して、商人が『うちの知り合いを紹介した』と案内してくれたのだ。
ユラヴィカが必要ならウィルのしふ学校に預けるべきかと心配していた子供は、商人に同行だ。両親と引き離されているものの、ユラヴィカも『わしは親から生まれたんじゃったっけかな』と述懐していたくいらだし、たいして危機感はなさそうだ。
そんな呑気な子供はさておき、件の商店で聞き出したところでは、問題の猟師は十日に一度くらい店に現われる。取引先の紹介だから、店側も多少商品を値引くので便利に使っているようだ。いつも来るのは猟師一人で、三人分より少し多いくらいの食料を買っていく。
帰っていくのは、皆が街に入るのに使ったのとは反対方向にある門で、世間話のついでにそこから半日ほど掛かるのだと話していたそうだ。
「そうすると、昼頃に来るのでしょうね」
「いやぁ、それが昼より大分前に来るんですよ」
ディアッカが行き来に掛かる時間を考えて、何気なく口にした言葉に店の者が愛想良く答えた。もちろん、重要な情報だ。
この間に、店長が手配した近隣の地図、街道やその他の道だけが簡潔に記されているものをもとに、猟師達の居場所を検討していた残る四名は、ユラヴィカのサンワードが不発で作業が停滞していたところだった。なにしろ三度もかけたのに、結果が『判らない』で出てしまうのだ。これはどこか建物の中に閉じ込められているとみて間違いないだろう。
猟師が使いそうな小屋でもないかと、街道沿いを行き来する商人達の情報網を頼ってみたが、さすがにそこまでは知らない。そこに予想外に素早く香織とディアッカが戻ってきて、
「この地図だと方角はこちらのほう。家まで半日と言っていたそうだけれど、怪しいと思うの」
街に到着する時間から往復六時間範囲だろうと、香織が取りまとめて報告している。ディアッカは子供がまとわり付いてくるので、避けるのに忙しい。
「ここまで連れてこられるのにも半日は掛かってないから三時間くらいだよね。相手って人間でよかったっけ?」
「そう伺いました。もう一度春香さんに確認してみますか?」
ルディが右に左に飛び回りつつ、昨日のうちに子供から聞きだした話を思い出している。確認には焔が答えたが、万事控えめな彼女らしく、再確認の労は自分が引き受けるつもりのようだ。
「四十前後の人間男性で、複数の商人の方々が猟師と名乗られて不自然に思わなかった相手ですから、それなりに森に慣れた健脚だと考えていいでしょうね」
リュドミラも昨日の話をしっかりと覚えていたので、更に皆で捜索の方法と手分けするときの分かれ方を確かめて、今度は六人で森に向かう。
森に入ってからも、シフール三人が率先して動いていた。たまたま森歩きに自信があるのがこの三人だったからだが、他の三人もついて歩くだけではない。リュドミラは連れているフェアリーの魔法で森の様子を確かめてもらい、焔は忍犬に人が通った跡がないのか匂いで追わせている。どちらも具体的にこの人物や匂いという指定がしにくいので成果が上がらないことも少なくないが。
香織は二人と連れ立って歩きつつ、明日に現われる猟師を追うとしたらどこに身を隠すといいのか、確かめている。
そうこうして、夕暮れまでに方角と距離からするとこのあたりだろうと思われるところまで捜索した六名は、森の奥に続く獣道が二本あるところまでは確かめた。
そうして交渉当日、リュドミラが羽振り良く見えるようにと春香にエンゼルティアラと羽ペンを貸しての商談は、それは速やかに進んでいた。相変わらず持ち込まれたジュエリーキャットは偽物だったが、店長はそんなことは気付いた素振りの欠片もなく、大枚を支払っている。今度は茶色の猫だ。
「かなり胡散臭いが、何であれに引っかかるかのう」
「あのおねーちゃんが喜ぶと思って買ったんだって」
ユラヴィカとルディが物陰から様子を見て、そんな会話を繰り広げている。ルディは聞いたままを口にしただけだが、聞いていた香織はそういうことかと納得していた。
「盲目になって騙されちゃったわけですか」
店長が聞いたら、どう答えたか。もちろん聞こえていないし、猟師を追うのに忙しいので、三人は春香達とは顔も合わせずに外に飛び出している。
この頃、他の三人は猟師が通るだろう道に先回りして、待ち伏せしていた。行く方向さえ確かめておけば、見失っても香織やディアッカのパーストで正確なところを確かめられるが、魔力とて無限ではないからしっかりと追跡できるに越したことはない。
『見付けました。そちらに向かっているので、確認をお願いします』
『承知しました。では先回りはお任せします』
焔はテレパシーが使えるので、相手が一番最初に現われそうな通りにいた。発見したらその先にいるリュドミラに連絡して、先回りする。その途中で更に先にいるディアッカにも同じことを伝えるのだが、まだ遠方までは魔法が届かないので彼の担当区域を通り抜け様だ。細かい服装なども、きちんと知らせておく。
ディアッカとルディも月魔法は使えるが、どこまで追っていくことになるのか不明だから、魔力消費は順番に少しずつ。そうやって、街の外までは順調に追いかけ、
『かなり警戒しているので、少し離れました。香織さんの確認をお願いします』
『ユラヴィカ君がサンワードで確かめてくれるって言うけど、どうしよう?』
森の中ではディアッカとルディが別々の班になって、大体二手に分かれて尾行を続けた。途中、猟師がやたらと警戒しつつ、前日見付けた脇道の一つにそれたのでディアッカがテレパシーで香織を呼び、ルディからユラヴィカの提案が返っている。
ディアッカに付かず離れずで付いていた焔の忍犬はいつでも匂いを追える体勢だし、リュドミラもフェアリーを連れているが、確認方法は多数あったほうがいい。
脇道の少し先で、香織が猟師の足取りを確かめる前に忍犬の反応を見て、リュドミラにもフェアリーにグリーンワードを使うように促してもらえば、更に道を進んだところで香織が魔法を使うことが出来る。
だが、猟師の姿が確認出来ていたので、居場所はユラヴィカのサンワードで確かめられた。今度はしっかりと方向が判明したから、そちらに向かう。ただ問題は、彼らのほとんどが、偵察向きの技能の持ち合わせがないことだった。これでは、あそこにいるのだろうという小屋は見付けられても、容易には近付けない。
よって離れた場所から状況確認となるが、焔のスクロールのリーヴィルエネミーは相手にこちらの存在が知られていないのでは役に立たず、ユラヴィカのテレスコープも壁を見落とせない。
仕方なく、この中ではこっそりと近付くのに少し優れたディアッカが、小さな身体を活かして地上を進み、小屋の近くまで向かった。万が一に発見された場合に備えて、他の五人は警戒態勢だ。
幸いにして、ディアッカは発見されることもなく戻ってきて、皆に報告している。
「中から聞こえた声だと、女性が二人。言い争っている内容からして、片方があの子供の母親でしょう。もう一人、子供のことを言い募る声がしたので、親御は無事ですが」
猟師も中に入ったので、最低でも四人いる。もう一人いればこのまま突撃してもいいけれど、あいにくと声だけでは確認が出来なかった。男二人の声が良く似ているのか、それとも一人しかいないのか、はっきりしないのだ。
最後の手段でテレパシーで中のシフール夫婦に連絡を取ることも提案されたが、驚かせた弾みで助けが来たと猟師達にばれても困る。それよりは、少し時間を掛けて様子を確かめたほうがいいだろうかとの流れになったのは、ディアッカがシフール夫婦の声が興奮しているからとしても張りがあったと聞き取ったからだ。
半ば仕方なしに、今度は三手に分かれて、あちらこちらから小屋の様子を見張って二時間。そろそろ宵闇が落ちてきた頃合になって、小屋から出てきた人影があった。大きな籠を下げていて、籠の中からは二人分の声がする。声は男女一人ずつ。シフールが入っているとしたら、詰め込まれているとしか思えない大きさだ。
三方に分かれているシフール三名が、それぞれの性格度合いはあるものの明確に表情を厳しくした。人間の女性三名も、むっとした様子は隠さない。
だが。
『顔が違うから、全員揃ったとみて間違いないだろう』
『やっちゃえー!』
「と、いう話になりました」
その籠を持っている男が猟師とは違ったので、テレパシーでそれが皆に巡って。
最初に香織がムーンアローを籠を持っている男に放った。籠を取り落とさせるのが目的で、相手がよろめいただけだったからルディも加勢する。
この間にリュドミラがディアッカを背に庇う形で、小屋の扉を押し開けていた。まずはディアッカのシャドウバインディングが猟師を名乗っていた男に向かう。
ユラヴィカと焔は、落ちた籠の留め具を壊して、中からシフール夫婦を助け出している。こちらは焔が二人を抱えて、ユラヴィカが早口に事情を説明しつつ、木の影まで全力疾走だ。
「うちの子はっ」
「心配ない。無事じゃ」
「俺の商売道具が中に!」
「ええと、それは‥‥」
振り返れば、ルディと香織、主にルディにぼこぼこにされている男が一人、小屋の中からは二度三度大声や悲鳴がしていたが、今は静かだ。やがてリュドミラが、後ろ手に縄をかけた男を引き摺るようにして連れ出してきた。女は香織が様子を伺いつつ中に入って、やはり縛り上げた女を引き摺ってくる。途中からは焔も手伝った。
「口先だけの輩で助かりましたが、連れて行くとなると重労働ですね」
さてどうするかと、この中では最も力があるリュドミラが悩んでしまったので、ルディが夫婦を連れて先に戻ることになる。ディアッカが食料の予備も持っていたし、皆は夜間に移動は避けて一晩小屋で過ごしてもよかろうとなったが‥‥翌早朝には店長と使用人の腕っ節が強そうな人々がやってきて、賑やかに小屋の中を家捜ししていた。
「あぁ、取り返すものがたくさんおありでしたね」
香織が虚を突かれた顔で呟いたが、金銭のありかの追求としらばくれるのとで交わされた会話からは、彼女でなくても耳を塞いでいる。迫力たっぷりで騒がしい。
その後は街で役人に不心得者三名を突き出し、シフール親子の再会を確認し。
「頂き物もしちゃったから、店長がたっぷりご馳走しなさいって」
リュドミラと焔に珍しいものを貰い受けた春香が、今度はぶち猫と茶猫が入った籠を抱えて、ご馳走の要望を聞きとっている。
にゃんこは飾りが外されて、手提げ籠からの脱出を試みているところだった。