フェアリーが消えた

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月02日〜04月12日

リプレイ公開日:2008年04月13日

●オープニング

 その村の近くには、エレメンタラーフェアリーがちょくちょく現われる場所があるという。
 けれども二十年位前に、その密猟者がやってきて、地元の人々といざこざを起こしたことがあってから、村人は不心得者がやってこないようにフェアリーのことはあまり口にしないように暮らしてきたのだが‥‥
「最近、フェアリーがまったく姿を見せなくなったんだ。理由が分からないので、調べて欲しい」
 エレメンタラフェアリーがいても、それを見に来る客がいるわけでもないし、捕まえて売ったこともないから、村には何の利益もない。せいぜいが、先代の領主が時々眺めに寄ったとか、今の領主の娘さんが来た時に感激したとか、そんなささやかな自慢話の種になるだけだ。
 村人だって滅多に拝めるものではないが、誰しも一度や二度は出会ったことがある。そのくらいにはたくさんいたのに、この二週間ほど、誰一人としてまったく目撃していない。
「またおかしなのが入り込んでいたら、次は村の子供を浚おうなんて考えるかも知れないだろう。そうでなくても気味が悪いからな」
 出来るだけ早めに、フェアリー達が現われない理由を調べて、場合によってはその理由を排除して欲しいとの依頼である。

●今回の参加者

 eb3232 シャリン・シャラン(24歳・♀・志士・シフール・エジプト)
 eb3988 ジル・アイトソープ(33歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5617 レドゥーク・ライヴェン(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5662 カーシャ・ライヴェン(24歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec1051 ウォルター・ガーラント(34歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ec3559 ローラ・アイバーン(34歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ フィニィ・フォルテン(ea9114

●リプレイ本文

 予定より一日早く問題の村まで到着した冒険者は、シフールと人間とエルフが一人ずつ、ハーフエルフが三人、エレメンタラーフェアリーが二体の六人と二体だった。なにやら華美な服装のフェアリーに村人達は最初は子供のシフールかと思ったようだが、フェアリーだと知って感心している。
 中には、フェアリーを連れているような人達なら、簡単にフェアリーがいなくなった理由も見付けてくれるに違いないと安堵する者までいたが、あいにくと世の中はそれほど甘くはない。
 ここまでの道のりで、六名の冒険者が検討した中で、当初は有力だった原因は二つ。ウォルター・ガーラント(ec1051)とローラ・アイバーン(ec3559)が挙げた密猟者の存在と、カーシャ・ライヴェン(eb5662)とレドゥーク・ライヴェン(eb5617)も気にした天敵の出現だ。
 だが、精霊に詳しいシャリン・シャラン(eb3232)とモンスター全般の知識を蓄えたジル・アイトソープ(eb3988)が『そもそも精霊は肉食獣の捕食対象ではないだろう』と言い出したので、後者はいささか心許なくなった。数はいるから、シフール同様に襲われることはあるかもしれないが、そのまま食べられてしまうかといえばそんなことはないだろう。
 故に肉食獣の可能性は低いのではないかと、そこまで話し合った一行は、まずは村人から最近の森と村の様子を訊いていた。
「そもそも肉食獣や猛禽類なら、多少はその痕跡が残るはずですけれど」
 カーシャが村の男達に尋ねてみたが、誰もそんなものは目にしていない。村人だって森に入って罠を仕掛けたりするのだから、目立った変化があれば気付くはずだ。
「夜行性の鳥でも、羽一枚見当たらないのは‥‥どうなのでしょう?」
「あぁ、フェアリーが隠れるほどのものなら大型でありましょうから、あれば目立ちますか」
 ウォルターとローラも首を捻るが、村人はやはりそうしたものも見付けていなかった。
「そういう可能性は?」
「普通はないと思うけど、羽の音はするのよね。精霊には、そういうのもいるけど」
 レッドに尋ねられたシャリンは、空を飛ぶ精霊を考えているらしい。けれども精霊なら、人が何も気付かぬのに、同種のフェアリーが隠れる理由が発生しているとは思い難いのだが‥‥『どう?』と水を向けられたジルは黙考している。
 ちなみに彼女が黙考するのはいつものことで、その後も更に重ねて尋ねないと自分だけが納得していることもある。たまに苦しそうに咳き込んだりする割に、労わられても反応が鈍いというか、薄いというか、愛想と会話に欠けている。なので、その持っている知識を引き出すのも、ちょっと大変だ。出し惜しみしているわけではないので、皆、必要なときはどんどんと尋ねることにしている。
 そんなジルが、それでも答えず、でも何かしら思い付いた様子なので、後程考えは聞くことにして、今度は泉までの道を確認する。これはもう迷いようがないほどの、一本道で、途中で蛇行するところがあるものの道なりに進んでいけば辿り付くそうだ。まめに道の手入れしているらしい。馬も一頭ずつなら通れると聞いて、荷物を持つと飛べないシャリンが安堵していた。
 一安心したので、今度はその周辺の地理状況を教えてもらうことにしたのだが。
「チズなんて、見たことないもんだから‥‥」
 村人は人間ばかりで、読み書きもほとんど出来ない。シフールのシャリンのように、森を上から見て目印を探す経験がないし、地図に頼らず経験で森を歩くし、目印は人間の視点の高さから見えるものになる。地図を作って、異変の原因を探す手掛かりにしたいシャリンの要望は、すぐには叶わなかった。
「ええと、話をまとめるとこんな感じだと思うけれど‥‥私、絵には自信があまり」
「では、私が描いてみましょうか。距離はどうしても確実性が薄れますが」
 カーシャとレッドの夫婦合作で、村人達から聞き取った内容を地面に図にしてみる。村から泉までの道が基準だが、なにしろ蛇行している部分があるから、距離は不正確だが、他の目印を書き込んで分かりやすいものにする。
 それを見ながら、ウォルターとローラが羽音が聞こえた位置をより正確に確かめて、植生はジルが無表情によくあるとか、珍しいとかを簡素な身振りで表していた。
 ここまでしたところで、もうとっぷりと日が暮れようかという時間になってしまったから、本格的な活動は翌日から。密猟者の可能性があるので、そのまま一日ないし二日は戻らないことも村人には説明しておいた。
 そうして、村人と分かれて後。
「‥‥デビル、‥‥羽根がない」
 ジルに天敵の話の折に気付いたことを、仲間内だけで問い直したところ、そんな答えが返ってきた。これは『羽根が見付からないのは、デビルの可能性もあるだろう』という意味だと、ここまでの道のりの間に経験から悟った五人である。
 この発言の後に、全員で装備の再点検を行い、いずれもがデビルが相手であっても対抗できる手段を持っていることは判明したが、荷物の中に聖なる釘があると探し始めたシャリンが目的を達成するには大分時間を要した。荷物が多いのと、彼女の体格には大きいものが多いためだ。
 その間に、彼女のダウジング・ペンデュラムを使って、泉周辺でフェアリー、デビル、密猟者、猛禽類と並べて、交代で調べてみた結果、先の二つには少しばかりの反応があったのだった。

 翌日、一行が泉に到着したのは昼前のこと。
「折れた枝とかは見なかったけど、あんまり上の方は、あたい、一人だと心配〜」
「ちゃんと見える位置にいてくれれば、周りの様子は私も見ていますから」
 空を飛べるのはシャリンの他、ジルもいるのだが、ジルはリトルフライを使うと遠くからでも目立つのでブレスセンサーでの警戒中だ。彼女は用心して、フェアリーのオズを村に預けている。その結果、シャリンとフェアリーのフレアだけが枝の合間を移動しながら、目だって大きく折れた枝などがないかを探している。大型猛禽類なら、止まるのも大きな枝でないといけないから、周辺の小枝を折るはずだからだ。可能性は低そうだが、念を入れて確かめておかねばなるまい。
 任されたシャリンは自分の身を守る術を持ち合わせず乗り気ではないが、地上ではレッドが警戒に当たっている。ジルはここまで同行した戦闘馬の手綱を預かりつつの魔法での警戒中だし、他の三名は地上で人ないし動物の痕跡が見つからないかを探しているところ。
 カーシャは猟師の心得があるから、動物の痕跡と小動物用の罠の有無、レンジャーのローラとウォルターは人のいた痕跡に集中して調べていた。
 その結果。
「この引っかき傷は、熊にしては小さいと思うのだが」
 ローラの視線の先だから、地上から一メートル半に少し足らない高さに爪痕が一つ。熊などが縄張りを示すのに立ち木に傷を付けたりするのだが、カーシャは一見しただけで熊ではないと断じた。他に該当しそうな獣も、思いつかないと言う。
「そもそも爪がある動物は、もう少しこう掌が開いていますから」
 自分の手を大きく開いて見せ、爪の合間がもっと開くはずだと付け加えた。跡は小動物の爪ではありえない鋭さ、深さだが、爪の合間は狭い。
「人型のモンスターの可能性が高いのではないですか?」
 ウォルターの問い掛けには、ジルが深く頷いている。
 人の気配も見付からず、これはいよいよ相手も定まったかと、六人は泉から少し離れた場所に早い時間からテントを張って、ローラとウォルター、カーシャが念入りにそれを隠している。夜間も見張るが、こちらの存在が気付かれないように見張るのだから焚き火などは出来ない。それも考慮して、風の当たりにくい、見えにくい場所を更に細工したので、出来上がった頃には日が暮れかけていた。
 この日は交代で見張ったものの、フェアリーもそれ以外の生き物もねずみ程度しか現われず。

 翌日はもう日中から観察体勢。交代で休憩しつつ、ただひたすらに周辺を見張っているのはなかなか神経が磨り減るものだ。そういうことに慣れているウォルター、ローラ、カーシャに、じっとしているのが苦にならない様子のジルはいいが、レッドは休憩中には時間を持て余し気味。シャリンは休憩に入るとぐったりしている。
 そうして、真っ暗になる少し前に。
「羽の音がするな」
「ええ。ちょっと不自然な動きに聞こえますが」
 ローラとウォルターがほぼ同時に耳を澄ませ、小さな声で互いの聞こえていることを確認した。自然と皆の視線がジルに向かうが、こちらは首を振った。音はすれども、呼吸はしていない。そんな生き物がいるということだ。
 レッドが持参していた剣を持ち、何故か星屑の仮面を着けた。カーシャもキューピットボウにマスカレード。仮面の必要性は他人には分からないが、そんなことを詮索している場合でもないので、ウォルターはルナティックボウを手に、音の方向を伺っている。ジルとローラは魔法を使う間を逃さぬように、出来るだけ目立ちにくい場所に留まっていた。魔法の発光を見られては、居場所がすぐに分かってしまう。
 シャリンは、
「あたいは戦えないのよ〜」
 と繰り返していたが、他の人々は現われた敵に対するのだから、必然的に彼女が聖なる釘を使うことになる。仲間に自分にフェアリーに馬の命も掛かっているので、ずるずると地上を這うようにしながら馬の元まで向かう。そこで聖なる釘を使うことに決まっていたからだ。フェアリー・フレアも一緒にずるずる。
 その頃には、ようやくウォルターが移動していた音から相手の居場所を正確に捉えていた。こうもりのような羽を持つ、見るからに可愛げがない小鬼。
「インプで間違いは?」
「ない」
 今回ばかりは、ジルも返答が歯切れよかった。
 インプは彼らに気付いた様子なく、木々の合間を巡って何か探しているようだ。その隙に、ウォルターとカーシャ、ローラがそれぞれに違う方向に散っていく。彼らほど足音を消せないジルとレッドは、攻撃の間合いを計っていたが、不意に珍しくジルが自ら口を開いた。
「フェアリー狩り」
 密猟者よりたちが悪い相手が来たので、フェアリーは居場所を移したか、それともひたすらに隠れ忍んでいるか。そういうことだろうと言いたいらしい。デビルと精霊は相容れないから攻撃される可能性はあるが、エリメンタラーフェアリー程度では対抗出来ないので逃げても不思議はない。
 ならばあれを倒せば戻ってくるかもしれないと、レッドは皆が展開しているはずの位置から攻撃しやすい場所からそれようとしているインプの前に走り出た。慌てて飛び退ったインプは、周囲で上がった魔法の発動光にぎょっとして上に飛び上がろうとした。
「そんな浅知恵は、この美女仮面が許しません!」
 飛んだ光はホーリー。カーシャの放った魔法だ。インプも台詞は耳に入らなかったようだが、自分を攻撃した相手は良く見えたようだ。そちらに鉤爪を振るおうとする。レッドが割って入れる距離ではない。
 カーシャに向かったインプの羽を、氷のチャクラムが切り裂いた。魔力の籠もった武器の持ち合わせがなかったローラが、スクロールで作り出したもの。これが密猟者であれば、フェアリーが戻ってくるためにも流血は避けたいところだが、デビルなら確実に退治するのがより良かろうと縄ひょうは腰に下げている。
 ウォルターはルナティックボウを鳴らして、必死に避けたインプの足を貫いた。レッドは近付くとかえって他の妨げになるし、ジルの魔法は他人を巻き込みかねないものが多いので、右往左往するインプへの攻撃はもう一手ずつローラとウォルターが担った。
 この間に、カーシャがディテクトアンデッドを唱えて、すぐ近くにはデビルが他にいないことを確認している。と、なれば。
「‥‥‥」
 ジルが手を出しあぐねている間に、ウォルターとローラの飛び道具での攻撃、それで動きが弱ったところでカーシャのコアギュレイトでインプを束縛した。昨今の状況から、デビルが出たら背後関係を疑ったほうがいいだろうと、意見の一致を見たからだ。
 結果、束縛した間に縛り付けて背後関係について証言しろと言い渡し、効果時間が解けた途端に甘言を弄したインプをどやしつけて、手に入れたのが。
『精霊がいるところは潰してしまえ』
 そういう指示を受けていたことだった。誰からかははっきりしない。あまりに下っ端過ぎて、その命令を発したのがどのくらい高位の存在かははっきりと分からないようだ。指示内容がエレメンタラーフェアリーの住処をも対象にしていたのか、それともインプの力量に見合った場所がここだったかも、あまり理性的な物言いが出来ないインプ相手では良く分からない。インプは、ここのフェアリーを根絶やしにするのが自分の役割だと信じてはいたようだ。
「これでフェアリーが戻ってきてくれればいいですが」
 最後の始末をつけたレッドが口にしたが、この時は森は静まり返ったままだった。

 その後日程に余裕があることもあり、皆で他のデビルが現われないかを交代で見回っていた六日目のこと。
 もうデビルは現われなさそうだと、ジルとシャリンがフェアリーを連れ、他にも馬や驢馬に道具を積んでデビルがつけた木々の傷を直したところ。
『あー』
『おー』
 フェアリー二体が、茂みの影に手を振っている。
 六人がそちらに目を向けたときには、蝶の羽のような模様が小枝の合間に透けて見え、茂みの向こう側に隠れていった。
 大きさは、シフールの半分くらい。