いままさに、みんなでうもれているのです
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■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:5
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月22日〜04月27日
リプレイ公開日:2008年04月29日
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●オープニング
ウィルには、世界で一番大きなゴーレム工房があります。立派な建物です。
ここにはたくさんの人がお勤めしています。ゴーレムニストさんとか、鍛冶師さんとか、ウィザードさんとか、色々。
その中に、ナージ・プロメさんというゴーレムニストさんがいました。エルフさんの女の人です。派手こいお洋服に、ばっちりお化粧、エルフさんなのにぼんっ・きゅっ・ぼんっな体型の女の人。
こんなナージさんは風信器を作るゴーレムニストさんなのです。お仕事熱心なので、ゴーレム工房のどこかに堂々と家財道具を持ち込んで、自分のお部屋空間を作り出して暮らしています。
もちろん、工房の偉い人には片付けなさいって怒られているのですけれどね。
怒られても全然平気なナージさんですが、ウィルの街の中にもきちんとおうちがあるのです。台所と四つもお部屋があるおうちを、借りているのでした。
そして事件は、家主さんがゴーレム工房までやってきたことで始まります。
「あのねえ、あたしもこんなことは言いたかないんだけどさ。あんたの部屋、相変わらずあのままなんだって?」
「あのままと言うと? 確かにわたくし、お借りしたときから家の中はほとんど変えていませんわよ?」
「そりゃあつまり、あの天井まで積んだ服の山も、どうやって積み重ねたか良くわかんない家具の壁も、そのままってことだね?」
「そうなりますわねぇ」
「ちょっと整理しておくれでないかい? それでなくても、あんたはほとんど家に寄り付かなくて、家の中がどうなっているのか分からなくて困るって二階の住人から言われてるんだよ。食べ物とか置きっぱなしで腐らせてたりすると、床板が傷んだりするんだから」
「あら、それは心配ありませんわね。だってわたくし、あの家で煮炊きしたことは一度もありませんもの。ほら、お隣の通りに美味しいお料理が出るお店がありますでしょ?」
「あんたさ、ウィルに出てくる前は旦那も子供もいたって言ってたよね? 家のことはどうしてたのさ?」
「旦那様のおうちには、料理人と使用人がいましたけど?」
家主さんは呆れながらも、『とにかく一日も早く、家の中を掃除して、少し物も整理しなさい』とナージさんに言い付けて帰りました。早くやらないと、おうちの貸し借りの契約は終わりにするそうです。
いくらゴーレム工房に棲み付いているナージさんでも、おうちがなくなるのは困ります。
困ったときは、人に相談するのが一番です。ナージさんは、困ったことはお仕事の助手のゴーレムニストさんに相談することにしています。なんでもかんでも。
泣きつかれたのは、ユージス・ササイさん。人間さんの男の人です。
「いきなり追い出されても文句が言えないところですよ。この機会にあの家財は処分したらどうです。手入れが多少悪くても、あの家具と服なら一財産作れますから」
ユージスさんは、ナージさんと一緒にウィルに出て来て、ほとんど一緒にゴーレムニストさんになりました。
「でぇもぉ」
「もう少ししたら、例の仕事で家の整理をする暇はなくなりますし、そもそも服も家具もただ積まれていたって役に立ちません。大事に使ってくれる人に譲り渡して、それで作ったお金で工房から出ない仕事絡みの費用にしたらいいでしょうに」
「仕事のお金は、工房から貰ってきて欲しいのよ」
「この間みたいな天界人に話を聞くためだけの謝礼なんて、工房からは出ません。ましてや勝手な仕事の依頼や情報料はなおのことです」
「風信器作りも楽じゃないわぁ。なんだってお金、お金なんですものぉ」
ナージさんが愛用の長椅子の上でぶつぶつ言っていると、ユージスさんが言いました。
「一財産作れば、独自に職人に発注して素体が作れますよ」
「‥‥旦那様も、大事にする人に譲るのは許してくれると思うのよ」
ナージさん、何か決心したようです。
そうして、ある日の冒険者ギルドの入り口で。
「あらぁ、あなたいい体してるわね。うちのお掃除しない?」
ナージさんに誘われた冒険者の人達は、なんだかものすごい勢いでナージさんのおうちまで連れて来られていました。
「ささ、どうぞぉ。この中の荷物を出して、埃を払って、出来れば引き取り手も探して欲しいのだけれどぉ」
進められるままに中に入ってみたならば!
一の間には、床から天井まで、何重になっているのか分からないけれど、家具がみっちりと積まれていました。崩れないように紐で括ってありますが、なんだか紐が緩んでいるみたい?
二の間も一の間と変わりません。時々子供用の家具があるみたいです。
三の間には、床から天井まで、みっちりと袋が積まれていました。ナージさんが言うところでは、中身は全部服だそうです。
四の間には、床から天井まで服の袋と寝具の袋が詰まれていました。
台所には、台所用具がたくさん、埃避けの布を被せて置いてありました。
ナージさんは簡単に『荷物を出して』と言いましたが、それってもしかしてとっても難しい?
なにしろこの家の中のものを、崩さずに外に出すだけでも大変なこと‥‥
そんなことを思ったら、もちろんです!
「いやぁん、崩れてきたぁ!」
そう、家の中の物があれもこれも崩れてきてしまったのです!
大変、みーんな埋もれてしまっています!
たーすーけーてー!
【緊急事態発生中】
ただ今、ナージ・プロメ宅の異様に大量の家財道具類が室内で崩れた直後です。
皆さんはなんらかの報酬を約束されたか、勢いで引き摺られたか、顔見知りだったので断りきれなかったか、興味本位で一緒に来たのかわかりませんが、埋もれている最中です。まずは脱出してください。
ナージもどこかの部屋の中で、荷物に埋もれていますが、奇跡的に無傷です。自力で這い出す体力はないので、助けてあげましょう。
●リプレイ本文
●うもれたひとたち
ナージ・プロメさんにお誘いを受けた冒険者の人は四人いました。
そうして。
リュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)さんは、ただいま家具と家具の合間に挟まって、床に抱きついています。
「‥‥今、私は埋もれている夢を見ているのですね」
リュドミラさん、家具の下で夢の世界に旅立ってしまいました。夢では全然ありませんけれど、現実逃避というものでしょうか。
お隣の部屋では、晃塁郁(ec4371)さんが服の山の下に転がっています。頭以外は、全部が服の山の下です。動けません。
「なんとか体が抜ければ、外に出て助けを呼べるのですがっ」
素早く体を動かすことには割と自信がある塁郁さんが、逃げる暇もなく埋もれてしまうくらいの大量の服です。なかなか体は抜けません。じたばたしています。
更に奥の部屋では、越野春陽(eb4578)さんが家具と壁と服で出来た三角地帯に閉じ込められていました。あまりの家具の多さに、慌てて被ったヘルメットがこんなにありがたいとは‥‥なんて考えている場合ではありません。
「あの二人は、自力でなんとかする気がないのね」
そして、今回ただ一人の男性のギエーリ・タンデ(ec4600)さんは、ナージさんと一緒に壁に向かった傾いた箪笥の下の隙間にいました。二人して座っています。きつきつですが、座っていました。
「窓が見えるけれど‥‥箪笥を動かさないと開けられないわねぇ」
「確かに。こんなときはエルフにありがちな非力が恨めしいものです。助けを期待して、詩でも吟じると致しましょう」
二人もいるんだから、頑張って窓を開けて助けを呼ぼうなんてことは、二人のどちらも考えていませんでした。
今、五人の人が埋もれています。
●脱出しよう!
奥から一つ手前の部屋では、フレイムエリベイションまで掛けちゃった春陽さんがごそごそと脱出を試みています。
夢から覚めたリュドミラさんも、これはやっぱり夢ではないと気が付いて、家具の合間を這い進んで外を目指していました。
塁郁さんは、ようやく腕が自由になって、服を体の上から落としているところです。
「‥‥皆さーん、聞こえますかー?」
外から呼んでいるのは、塁郁さんにお手伝いを頼まれたゾーラクさんです。
「ここにおりますー。動けませんー」
「困っておりますわぁ」
自力脱出を試みている人々は、細い声でお返事しました。助けを待っている人達は元気なようです。
とりあえず、三人は脱出しましたよ。
●家主さん達が怒っている
いきなりですが、脱出した三人、塁郁さんとリュドミラさんと春陽さん、更に巻き込まれてゾーラクさんは怒られていました。家主さんがやってきて、あまりの出来事にびっくりして、ついでに怒り出したのです。
それは当然です。四人とも分かっています。だって、倉庫だってこんなに物は入っていないよって思うくらいに、家具と服となんだかよく分からない箱が床から天井まで積んであったのです!
床から天井まで!
しかも部屋の半分以上の床を埋めて!
そりゃあ、家主さんだって怒るというものです。中に借主のナージさんが閉じ込められたままなので、ちょっと知り合いの春陽さんと、人が良くて断りきれなかったリュドミラさんと、無理に誘われた塁郁さんと、頼まれごとをしただけのゾーラクさんに八つ当たり‥‥後ろにいるのは、きっと二階の人。さっき、階段を駆け下りてきたから。
「お怒りはもっともですから、ナージさんを助け出したらきちんとお詫びさせますけれど、まずはご挨拶代わりにこれをどうぞ」
勢い負けした春陽さんとリュドミラさんの合間から、塁郁さんがささっとサクラの蜂蜜を差し出しました。家主さん達はいきなり押し付けられたので、ちょっとだけ黙ります。その隙に、ナージさんとギエーリさんを助け出しに、かつ家主さんのお怒りをかわすべく、四人はすたこらとおうちの中に戻りました。
「大変申し訳ありませんが、このあたりにとにかく家財を出して、中の二人を助けたいのですが‥‥お許しいただけますか?」
「そりゃあまあ、落ち着いて考えたら、あんた達も災難だったんだしね。悪いねぇ」
リュドミラさんが丁寧にお断りを入れたので、家主さんは怒るのを止めて、手伝ってくれ始めました。二階の人も、女の人ばかりなので重い物をどかしてくれるそうです。
皆、せっせと働きます。色々な荷物があって、どれも素敵なものですが、ゆっくり見たりはしません。汚れないように外に出して、まずは中の二人を助け出すために安全な通路を作るのです。
そのお部屋から脱出した春陽さんが先頭です。いろんな荷物の上をよじ登ったりくぐったりして脱出したので、道を作るために傾いたもののバランスを見ながら、運び出しの指示を出します。設計屋さんなので、傾きの見極めには強いらしいです。
力仕事はリュドミラさんと二階の人が頑張ります。二人がかりで大きな家具を持ち上げて、えいやと運び出すのです。ちょうど身長が同じくらいなので、仕事がしやすいのでした。頑張って働いてます。
家具以外のものは、塁郁さんがどんどん運び出しています。あれもこれも抱えて、とにかく外へ。ゾーラクさんが家具を覆っていた布を広げてくれたところに、壊れないように置いたら、また中から床を塞いでいる品物を運びます。大忙し。
皆、みぃんな、頑張っていますよ。
●まだうもれているひとたち
「お怪我がなくて何よりですが、ナージさんはどうやらあまりお体が強くないご様子。国の為に働く大事なお体です。助けが来た後は、どうぞゆっくりと休まれてくださいね」
「あらいいかしら」
「しかしこれらの品物、このような有様で見てもよい品物ですなぁ。物持ちも良くていらっしゃる」
「この箪笥は、結婚した時に旦那様が注文してくれたのでしたわ」
「それはそれは。して、旦那様はご郷里に? 先程子供用のベッドも拝見しましたが」
「ええ、旦那様と娘は精霊界に行ってしまって‥‥ええと、何年前になるのかしら」
「なんと、ではこれらはご遺品ではありませんか。それらを手放しても、なにか為すべきことがおありとは‥‥不肖ギエーリ・タンデ、全力でお手伝いさせていただきますとも」
「大家さんが、家の中のものは生活する分だけにしてくださいって」
「成る程、成る程。確かに家の中に最適の品をすっきり納めてこそ、主人の品の良さを示すとも申します。これは吟味して残すものを選ばねばなりません」
ギエーリさんとナージさんは、お話しするのに忙しいようです。
●働いている人達
家の中と外では、ギエーリさんとナージさん以外の人達がせっせと働いていました。家具も服もあんまりいっぱいあるので、出しても出しても片付きません。
挙げ句に近所の人達が集まってきて、
「これは随分といい服だよね」
「うちの娘が祭りの時くらいはいい服が着たいって言うから」
譲ってもらえないものかしらねと言い始めました。塁郁さんが言われても、リュドミラさんが言われても、春陽さんが言われても、家主さんと二階の人が言われても困ります。持ち主はナージさんなのですから。
時々おうちの奥から、何をお話しているのかきゃっきゃと笑っている声がしますが‥‥お片付けの本当の主役は、ナージさんではなかったでしょうか。
「あの人、子供いたの?」
「あら、この棚は使ってるのかしら」
小山になっている服は、ご近所の皆さんが世間話をしながら畳んでくれています。品定めとも言います。
合間に、荷物を運んでくる春陽さんを捕まえて、『これ欲しい』とか『この家の人の旦那は何をしているのだ』とか『あんた達も何とか工房の人か』などと訊いてきます。
「家財は処分するつもりだと言っていたから、譲ってくれるかもしれないけれど‥‥そもそも私達も頼まれただけで、ナージさんの家族のことは聞いた事がないのよ」
ご近所さん達は、残念そうです。すでに譲って欲しい服を決めてある様子。
合間に塁郁さんも自分の欲しいタイプの服がないか覗いていますが、こちらはなかなか見付かりません。踊り子さん風の衣装は、さすがのナージさんも持っていないでしょう。ひらひらした服はたくさんあるのですが、塁郁さんには少し丈が長いようです。
やけに重い箱があるので開けたら、中にはぎっしりと装飾品が入っていました。塁郁さん、慌てて締めます。こういうものは、あんまり得意ではないのです。
リュドミラさんは黙々とお仕事をしています。ようやく通路を確保したので、最後の箪笥をどかせて、壁との隙間に挟まっている二人を助け出すのです。
「ナージさん、ギエーリさん、お二人ともご無事ですか」
「おお、天から精霊が下り来て助けてくださったかと思いましたよ」
一言無事ですと答えてくれたほうが、リュドミラさんも分かりやすいのですが、ギエーリさんには通じません。座り疲れたというナージさんを支えて、まずはすたこらと外に出ました。
「塁郁さんが何か気になるものがおありのようです。あと、ご近所の皆さんが心配してお集まりですから、良くご挨拶してくださいね」
ご近所の皆さんが相手でも、礼儀は大切ですよとリュドミラさんに言い聞かされたナージさんは、こくこくと頷いていましたが。
「ごめんなさいね。ちょっとうるさくて」
「ちょっと、ではないでしょ。ギエーリさんも、こちらの方にお礼して」
あっさりと用を済ませようとしたので、春陽さんに怒られました。二階の人にもちゃんと謝ってもらいましょう。
さて、ようやくここからお片付け本番です。
「こちらの品物は、皆さんが譲って欲しいそうです。他の品物は、差し支えなければ古道具屋さんと古着屋さんに来てもらっていますけど、どうしますか?」
「旦那様が使っていたものはぁ、手放すのはやっぱり迷うわぁ。あ、旦那様のものでも、他の女の人が使っていた家具は気にならないから」
「‥‥聞けば聞くほど、ご苦労がおありだったように聞こえますが、ご夫君はお幸せです」
ギエーリさんだけが納得していますが、『旦那様のもので、他の女の人が使っていた』ってなんなのでしょう? 塁郁さんは首を傾げています。リュドミラさんは、笑顔のまま固まってしまいました。春陽さんは額を押さえています。
家主さんと二階の人とご近所の皆さんには聞こえていなかったので、あんまり気にしないほうがいいのかもしれません。
「この家具は揃いではありませんか? 椅子がもう一脚あるようですけれど」
「そうかも。これは確か仕立て屋していた愛人さんの家にあったから、椅子は二つのはずだし」
でも、ナージさんがべらべらお話しするので、そのうちにばれるかもしれません。ま、ご本人が平気ならいいのです。
そういうことにして、塁郁さんは出しておいた家具がお揃いのものなら、全部揃えてから古道具屋さんに見てもらいます。その前に流行の形かどうかも見ますが、家具ですからそれほど流行り廃りはないでしょう。
「さ、必要なものだけにしなきゃ駄目だわ。また埋もれたいの?」
「そうねぇ。お金にしておけば、また必要になったら買えばいいのよねぇ」
春陽さんも、詳しい話は聞かずにどんどんナージさんに家具を見せて、使うかどうかを決めてもらっていました。聞き始めたら、絶対に長くなって、日が暮れても何にも片付かないと判明しているからです。
「こちらの家具は手放すそうなので、見積もりをお願いします」
リュドミラさんも家具の材質を見て、古道具屋さんとお話しています。どれも随分いい木材を使っているので、時々感心したりもしていました。買取が決まったものは、別に避けておきます。
「いやいやこの服など流行に関係なく着られますよ。それに手直しする方がおいでだとか」
家具の扱いは得意ではないギエーリさんは、入らない服の山を前に古着屋さんと長い長いお話に入っています。その後はご近所さん達が待っているので、本当は少し早くしたほうがいいのですけれど。
それでも、家具が少しなくなったら、おうちの中は片付いてきたのでした。
もちろん一日で片付いたのは、全体の四分の一より少ないくらいでしたけれど。
●こんなはずではなかったのでは?
二日目。埋もれなかっただけで、皆さんのやることは同じです。
家具と服を家の外に出して、ナージさんに確かめてもらって、いらないものは古道具屋さんと古着屋さんとご近所さんに引き取ってもらうのです。ナージさんはちっとも働きません。
「ご自分のおうちなのだから、少しは自分でなんとかしようとは思わないの?」
「ん〜、あんまり動くと足が痛くなるんですものぉ」
「大事なお体ですからね、無理はいけませんよ」
「ですが仮にも人の上に立つ立場ですし、見ているだけでは示しが付きませんよ」
「せめて荷物を確かめるのに移動していただかないと、作業も進みませんから」
そう、これはナージさんのおうちの片付けです。春陽さんは『あら、いいところに』と引っ張ってこられましたし、塁郁さんは『欲しいものあげるから、来て』とちょっと騙されちゃった感じですし、リュドミラさんは『とっても困ってるんですのよぅ』と断りきれなかったのです。ギエーリさんだけが、『行きますとも』と来たのでした。
だから、ナージさんにも頑張って欲しいのだけど‥‥
「‥‥こっちの箱はなんですかしらね」
あんまり動きません。とうとう春陽さんが腕を掴んで、歩かせています。塁郁さんとリュドミラさんは、せっせと小物が入った箱を開けては、中身を見てもらうことにしました。ギエーリさんは、業者さんとご近所さんと服や小物のお値段交渉です。
多分これが一番早いのです。きっとね。
「これはいいペンだから駄目。このサンダルは使ってないから駄目。このヴェールも素敵だから駄目。これは旦那様のお守りだから駄目。皆さんに差し上げるのにいいですもの」
ナージさんも見ているうちにどれが誰のものだったか思い出してきて、手早く仕分けられるようになりました。言うだけですけど。
でも、五日間掛けて、おうちの中はすっきりと綺麗に片付いたのです。
「なんでここまでしちゃったのかしら」
春陽さんが、綺麗に家具を並べ直すまでやっちゃったのを不思議がっていますが、そこはそれ、ギエーリさんが皆を上手におだてるからでした。
「二度はやりたくありませんけど」
「ええ。でも、もう増えることはないでしょうから、大丈夫だと思います」
塁郁さんとリュドミラさんも、苦笑しています。
「いやぁ、皆さんのお見立てで素敵な家具の配置ではありませんか」
ギエーリさんは、今日も口がなめらかです。べらべらです。
その例に片付いたおうちに、ナージさんはいっぱい美味しいお料理を取り寄せてご馳走してくれましたけれど‥‥
「誰が片付けるの?」
誰でしょう?