素敵?なお茶会への招待〜エテルネル村訪問
|
■ショートシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:05月02日〜05月09日
リプレイ公開日:2008年05月10日
|
●オープニング
その日、冒険者ギルドにやってきたアデラは、明らかに浮かれていた。
挙げ句に休憩で外に出ようとしていた受付係のシーナを捕まえて、しばらく話し込み、きゃーとかわーとかひとしきり騒いでいる。どちらも結構騒がしい人達なので、あまり気にされていなかった。
そもそもこの二人を繋ぐものは、『お肉の友』の一言だ。あるとき突然思い立ち、エテルネル村というところに豚の飼育を委託してしまった人々の一部をさす言葉である。
別名、食いしん坊。
この時、アデラは今回もお茶会の依頼に来たのだろうと、ギルドの誰もが疑っていなかった。そのくらいには知られた、依頼人常連である。
でも、今回はお茶会だけではなかったのだ。
お茶会ウィザード、アデラ。
本人の家庭環境その他を聞けば、結構有名だったのかも知れないウィザード家系のお嬢さんだ。
復興戦争を経る間に家族運が一度底を付いたらしく、祖父母、両親、兄四人に長兄の連れ合いとも十年くらいの間に次々と死別し、姪四人と暮らしていた。
それでも、家族のつてで月道管理塔に職を得ていたのだし、家も土地も家族が遺してくれていて、周囲からも色々手助けしてもらい、家族運以外の生活ぶりは恵まれていたようだ。なにより本人に、悲壮感がまったくなかった。
あるときから突然に冒険者ギルドを通して趣味のお茶会の参加者を募るようになり、これまた紆余曲折を経て、同僚で亡兄の友人と結婚もし、今では良家の奥さんである。
多分、きっと、そういっても遜色はないと思う。
彼女の問題点は、ありとあらゆる植物でお茶が淹れられないか試さずにはいられない性格にある。
すでに香草の配合具合は本人の知識的に一通り試したのか、それとも雑草に心惹かれるのか、大抵が道端に生えている名前もよく分からない草を引っこ抜いては乾燥させたり、枯らしたりして、お湯を注いで飲めないものかと試している。
困るのは、『このくらいなら刺激になるかも』と毒草を配合したり、『これは見たことがないから』と正体も分からない草を平然とお茶にしようとしたりすること。
一応本人なりに、その時々で『徹夜仕事の時に眠くならないお茶』とか『目覚めがよくなって、頭がすっきりするお茶』などと目標はある。出来上がるものが『淀んだ沼の腐った藻の色をしたお茶』だったり、『焚いてもいないのにぼこぼこと水泡が浮かんでくる深緑色の液体』だったりしていても、アデラだけはめげないのだ。
その不屈の精神を別のところで発揮すればいいのにとあちこちで思われているのだろうが、アデラはいつもまだ見ぬお茶を求めている。
そして季節は春。彼女にとって、新しい素材が芽吹くまたとない季節である。
そんなアデラは今回、遠出を計画していた。
「エテルネル村に子豚ちゃんを見に行きますのよ。聖夜祭のご馳走になる子豚ちゃんですから、ちゃんと大きくなるか観察してこなくてはいけませんわ。今頃は可愛い盛りですわね」
盗賊に襲われて壊滅状態だった村の復興の助けとして、豚の飼育を任せることで双方が利益を得る計画を立てたのは、一応アデラだ。一人で出来たとは思えないから、周囲の人々の助けがあったとしても、言いだしっぺは間違いなくこの人。
多分美味しい豚肉が食べたいからと思って、そこから突っ走ったのだろうと、それは彼女を少しでも知る人なら予想がつくのだが‥‥
「今の言葉の途中と最後が矛盾してない?」
「そうですかしら? だって子豚ちゃんはそろそろ丸まると太りだす時期ですのよ。きっと可愛いですわ。それがどんどん大きくなって、聖夜祭にはご馳走になってくれますのよ。小さいときは可愛くて、大きくなったら美味しいお肉。豚ちゃんは素敵ですわね」
鶏などをペットにしている冒険者とは絶対に理解しあえないような発言だが、アデラは自分の言う事が矛盾しているなどとは思っていないようだ。小さいときは確かに大抵の生き物は可愛いので、特別変わったことではないのかもしれない。
子豚と豚肉料理を並べても、アデラはきっと気にしないのだろう。どっちも素敵だと言うに違いない。それこそ、ギルドのシーナのように。
それはさておき、今回の用件はエテルネル村に行くことだ。
「馬車で二日掛かるんですのよ。往復で四日ですわね。向こうで二日過ごして、子豚ちゃんを見て、森の中の植物採集もしていいと許可をいただいたのでそれをして、帰ってきてからお茶会をしようと思いますのよ。一緒に行ってくださる方がたくさんいて欲しいですわ」
「村ではやらないんだ、それはいいと思うよ」
エテルネル村はアデラのお茶を振る舞われる危機に見舞われることはないようだ。ギルドの受付係は冒険者のことは心配しない。
アデラのお茶会、雑草茶の仕入先エテルネル村、色々雑用付き。
今回は一週間もアデラとご一緒。
●リプレイ本文
エテルネル村まで豚を見に行こう。仮にも飼育依頼した出資者ならば、時にそうしたことをするのも当然だが、ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)が見たところ。
「遠出がしたかったご様子じゃな」
「陽気が良くなりましたしね」
サーラ・カトレア(ea4078)は旅をしやすい季節になったとうきうきした様子で、出資者のアデラも一緒。
この様子に、アデラのお師匠様サラフィル・ローズィット(ea3776)とご意見番リュヴィア・グラナート(ea9960)はすでに納得していた。
「アデラ様のことですから‥‥」
「ジョリオ殿がしっかりしていればいいだけのこと」
二人の意見は、下手にやる気を出されてエテルネル村の人々に変なお茶を振る舞うくらいなら、自分の目的に夢中になってもらっていたほうがましというものだ。
「この籠も載せてください。零れるといけないので、下がいいです」
アニエス・グラン・クリュ(eb2949)が持ち込んできた野菜の種は、古布で包んで荷物の端に。葡萄の苗もすぐ近くだ。
「種と苗じゃ食べれないや‥‥」
出発前に妙に悲しそうなマート・セレスティア(ea3852)だったが、見送りの姪っ子四人にお弁当を貰って機嫌が直った。もう広げている。
「あらぁ、食いしん坊さんですのね。こぶたさんみたい」
「馬鹿と思われるような発言は止めて、早く乗れ」
変わったものを愛で始めたニミュエ・ユーノ(ea2446)に対して、婚約者との触れ込みのレイル・ステディア(ea4757)は案外と手厳しかった。それでももたもたしているニミュエを抱えて、愛馬の鞍に慣れた様子で乗せている。
「あれあれ」
「お前は身を乗り出すから嫌だ」
アデラが指差して、ジョリオに怒られているが、まあそれはこの際どうでもよい。
姪っ子四人とナオミに見送られて、馬五頭、馬車一台、ババ・ヤガーの空飛ぶ木臼一つに分乗した十名とは出発した。
「ぶた、ブタ、子豚。肩肉、腿肉、おいしそう」
元気よく歌っていた人は、なぜか一人ではない。
行きの道中の第一の事件。
「弁当? 食べちゃったよ。だって、おいらにくれたんだもん」
「あれは皆の分だったと思いますよ」
「それに‥‥マートさんにくれたのではなくて、持っていってしまったのでは」
昼過ぎ、休憩して弁当を広げようかと思ったら、マーちゃんが一人でほとんど食べ尽くしていた。サーラが至極もっともな指摘をし、遠慮がちにアニエスが事実を述べたが、マーちゃんは『自分が貰った』と主張してはばからない。
幸い食べ物はたくさんあったので心得のある人が手早く作れるもので腹ごしらえをした。
第二の事件。
「馬車は問題ないようじゃ。馬はどうかのう」
「落ち着いたから、穴を埋めて引かせようか」
馬車の車輪が道の深い轍にはまって、馬が棹立ちになりかけた。この時の御者はヘラクレイオスで、道を覚えるために御者台にいたジョリオと共に対応したので事なきを得ている。少し、余計に時間が掛かった程度だ。
第三の事件?
「でかい荷物の上に、暴れてすまないが、もう少し頑張ってくれ」
「お荷物ではありませんのよ〜。それに暴れていませんわ。ちょっと珍しいちょうちょが見えただけですの」
レイルが、蝶に浮かれて二人乗り中の馬から転げ落ちそうになったニミュエの腰をがっちり抱え込んで、愛馬に詫びていた。本人の主張とは真逆に、この季節にはどこででも見る蝶なので、ニミュエのことは度々注意していたが、何度も身を乗り出すので馬も迷惑していると感じたのだろう。
馬車の荷台に座るお師匠とご意見番の会話。
「なんだか、どこかで見たような光景ですわ」
「確かに。あぁ、アデラ殿は知らないと思うが」
「あら、ジョリオ様。どうかなさいました?」
「馬と馬車に集中してくれて大丈夫だ。アデラ殿のお目付け役は我々がやるからね」
にっこり笑顔の二人の間に座っているアデラも、つられてにこにこと笑っていた。
エテルネル村への旅路は、おそらく平和だった。
村に到着して、各々村長始め顔見知りの村人がいれば挨拶をし、一行はそれぞれ思っていた仕事に散っていった。
マーちゃんは、
「豚の様子を見てくるねー」
その一言で、木臼に乗って飛び出していくところだったが、それならと豚の餌にするふすまを持たされている。本人も齧ってみたが、二度目の挑戦はしないようだ。直後には、あっという間に姿を消している。
主目的が同じアデラは、さすがに一緒になって消えるわけには行かず、持ってきた布地と糸を村の女性達に渡してから、サラとリュヴィアに連れられて畑の様子を見に行った。
「ご自分が願って植えてもらったものもあるのですから、きちんと様子を見て、来たからにはお手伝いしなくてはいけませんよ」
「茶葉になる香草もあったはずだから、余裕があれば分けてもらおう」
今回のお目付け役も自認するお師匠とご意見番は、さっさと予定を決めてしまっている。この際、ジョリオはどうでもいいらしい。
大事なのは、アデラの動向であり、摘みまくるだろう葉っぱの内容であり、村人に茶を振る舞わないことなのだ。
葡萄の苗は、アニエスとサーラ、ニミュエにレイル、ジョリオの五人ですでに葡萄用に耕された畑に植え付けることになった。苗木はワイン用が七本、そのまま食べる種類が一本だ。
「一本だけ、普通の葡萄なんですか。半々だったらよかったですね」
サーラはレイルの指導で、彼とジョリオが馬車から降ろして、植え付けた苗に土を被せている。一本だけ種類が違うので、それは少し離して、分かりやすいようにした。
「でも全部ワイン用だと、食べる楽しみがありませんから。そのうちに本数も増やせるといいのですが」
アニエスもせっせと土を被せ、倒れないようにまだ細い幹を添え木に藁で結び付けている。二人ともワイン作りに詳しくはないが、たくさんワインを造るなら、当然葡萄の木も多く必要なことは分かる。
今回はアデラが手配できたのがこれだけで、ついでに村側も広大なブドウ畑を作って育てるほどの人手もないので、おいおい増やしていく計画になるらしい。アニエスは来る道々でジョリオとアデラに出資者をもっと募ってみたらどうかと相談していたのだが、受け入れ側の事情もある。デュカスは近々村人も増やしていきたいと言ってはいたが、具体的な方策までは聞けていない。
今も村人は手が空いていないので、彼らだけで植え付けをしているような状態だ。ジョリオは、いずれは醸造所が必要なくらいの畑が出来るといいねとは言ったが、村人にワイン醸造に詳しい人物がいるかどうかは知らないようである。
植え付けそのものは準備がある程度進んでいたので、昼前には終わったのだが、ふと見ると周辺をうろうろしながら歌を歌っていたニミュエがいない。皆できょろきょろと周囲を見渡していたら、
「バジルがありましたのよ。葡萄畑にはやっぱりバジルが必要ですわよね」
両手を土で真っ黒にしたニミュエが、根っこの周囲の土ごと掘り返したバジルを持って、戻ってきた。途中で転んだものと見え、服にも泥が付いている。
どうしてバジルなのだろうと首を傾げている人間三人に、レイルは落ち着き払った様子で、葡萄の近くにはバジルを植えると実が甘くなるのだと説明してくれた。
だが、しかし。
「ニム、そのバジルはどこから持ってきた? 持ち主には断ってきたのか?」
「あちらですわ〜。いっぱいありましたから、きっと大丈夫ですわよ」
ニミュエが指差した方向には、香草畑だろう緑と、その近くで不思議そうに彼女を見遣ったまま固まっている村人の姿があった。
少しして、ニミュエを小脇に抱えて畑に向かっていくレイルと、彼らを見送るサーラ、アニエス、ジョリオの姿が見られた。
畑周辺が賑やかなこの頃、ヘラクレイオスは以前に自分が作った柵と豚小屋、空掘等を見て回っていた。必要な道具も携えて、異常があればすぐに直せるよう準備万端である。念のため、アルゴーに修理に必要な板なども積んでいる。
「しばらく縁遠くなっておる間に災難に見舞われておるとはのう。わしが帰った後にまで、修繕箇所があってはドワーフの名折れになるわい」
彼も携わった村の開発で、もちろんちょっとやそっとでは壊れない代物を作り上げた。けれども盗賊団に襲われるようなことがあっては、多少の傷みもあって不思議はない。それらも修繕跡が見えるが、より長く安心して使ってもらえるものにしておかねばと勢い込んでいる。
結果、夕方に皆が探しに来るまで、ヘラクレイオスはほとんど休むことなく細々とした修繕や手入れに時間を費やしていた。
「駄目だよ、おっちゃん。夕ご飯が遅れるだろ」
皆が畑仕事で手を真っ黒にしている中、豚の足跡が服に何箇所も付いているマーちゃんが、元気にヘラクレイオスに文句を垂れていた。
十名もの客人を迎えた形のエテルネル村では、各家からも料理の差し入れがあったりした。そのお礼と言うことで、サーラが夕飯後に踊りを披露している。見惚れていた子供達が前後に揺れ始めた頃合に、それはお開きとなる。
翌日はアデラが豚を観察に行くので、ジョリオも同行する。当然のようにサラとリュヴィアがいて、ニミュエは期待に満ちた様子で、レイルは走り出しそうな彼女を捕まえている。マーちゃんは迷わず走り出していて、サーラが後ろ姿に制止してみたがすたこらと消えた。アニエスが途中まで追いかけていたが、追いつかないで戻ってくる。
豚小屋の場所が明朗に分かる人がヘラクレイオスだけになったので、案内役は彼だ。本来はマーちゃんのはずだった。
「豚は小屋には夜に戻ってきたり、来なかったりじゃよ。元気でやっておるのだろうな」
「以前に食べた腸詰はもっちりしていて美味しかったです」
「いいですわね〜、腸詰。それも外せませんわ」
アニエスが豚肉の様々な加工品などの解説をすると、ニミュエがうっとりと即興で歌いだす。その変な歌詞の数々に、婚約者であるところのレイルは慣れた様子だが、うまいとは言え変なことは承知しているらしい。
「‥‥一緒にいて飽きないのは確かだ。悪気はなく、変な歌を歌ったりするが‥‥ああいうのを一生面倒みられるのは俺くらいだろうな」
「あらまあ、夫婦とは互いに支えあうものですよ」
誰とは言わず、遠慮なく『変な歌』と口走られたことに対して、レイルはそう答えていた。大半が『ああ、そうですか』と思う中で、サラだけはにこにことしている。
と。
「この豚が、一番美味しそうだよ」
マーちゃんが、森の奥から一頭の見事に肥えた豚を追い回して、皆の前まで誘導して来た。興奮した豚に追い掛け回されて、一同大迷惑だ。他の豚も数頭、巻き込まれて走り回っている。
ヘラクレイオスは、昨日直した柵が豚の突進にも負けなかったのに満足してから、ぶつかった豚に怪我がないかを確かめている。彼は押さえる人、診る人はリュヴィアである。豚も無事だったので、一安心だ。
レイルは、追い回されたサーラやアニエス、サラを助けた後、ニミュエに歌を歌わせている。メロディーで、豚も落ち着いたようだ。
この日のお昼は、いつもより消費量が多かったかもしれない。
午後からは、アデラが号令をかけて草取りである。大抵の人は香草取りとか薬草探しとか思っていたのだが、
「パリで見たことがない草と葉っぱを取るのですわ!」
号令内容はこれだった。
「あぁ、ジョリオ殿は付いてくるだけでいい。森の中は我々に任せておけ」
「アデラ様、お茶にならないものは採るべきではございませんよ」
「なあ、アデラ姉ちゃん、お茶会のご飯は準備、大丈夫?」
「村でのお茶会はなさいませんよね?」
「採ったものは干したりしますか? その準備もしておきましたけど」
そんな感じで始まって、
「アデラ、それは食べられない。ニム、その先は土手だ」
「あ〜れ〜」
色々あって、
「皆楽しんだようで、良かったのう」
「‥‥そうですか?」
こんな感じで終わっている。
この日の収穫は、木陰が連なる場所に生える薬草の群生地を一箇所、挿しておけば勝手に増える香草を二種類、胡桃の木を一本見付けた事と、アデラが手当たり次第にむしって歩いた葉っぱの山である。
薬草と香草と胡桃はエテルネル村の人々に感謝されたが、葉っぱの山は‥‥面白い趣味の人の集まりだと思われたようだった。
帰りの道中は、馬車の中に積み上げられた葉っぱを選別するお師匠様とご意見番がいて、彼女達の許可が出た『毒ではない、食べられるものでもないが、まあ無害』な葉っぱをアニエスとサーラが広げて乾かしてあげ、ヘラクレイオスが御者をしているときは、馬車から捨てられる葉っぱを拾おうとするアデラをジョリオが止めていた。
ニミュエは葉っぱを丸めて笛にして、レイルにも吹かせている。真似をしたマーちゃんは音がならなくて、おやつを食べていた。
まあ、葉っぱ選別の人達の心中はどうであれ、穏やかな道中であろう。
そうして、無事にパリに帰り着いて、一晩ゆっくりと休んだ七日目のこと。
「土産はないが、豚はよく肥えて元気に育っておったよ」
留守番をこなした姪っ子四人がヘラクレイオスに誉められている時分、台所では戦いが起きていた。
いつものようにつまみ食いのマーちゃんを放り出す戦いの他に、久し振りのアデラの変な雑草茶、駄目すぎる配合を見張る戦いもだ。こういう時、もちろんリュヴィアも怖いのだが、なにより料理をして、台所の治安を守り、お茶の準備にまで目を光らすサラに逆らえる人は滅多にいない。
もちろん、逆らうのは一番と二番に言うことを聞いて欲しい人々だ。言うことを聞けばいいのにと、お茶会のためにいい服を選んできたアニエスとサーラに眺められている。
この頃、庭ではリュヴィアに畑の作物の育ち具合を確かめるように託されたニミュエとレイルが、二人並んで仲良く‥‥出来ずに、鶏に突付き回されていた。ニミュエが不用意に巣に手を突っ込んで、鶏達の怒りを買ったのだ。
朝も早くから、アデラの家はとても賑やかである。
やがて。
おなかがすいて元気のないマーちゃんと、鶏に追い回されて疲れたニミュエ、げんなりしたレイル、お茶の出来にどきどきのサーラに、姪っ子達とおしゃれな服でキメたアニエス、それをまた誉めているヘラクレイオスと感心しているジョリオとが揃って、大人はテーブルに着いた。女の子達は給仕役だ。
「本日のお茶は、サラさんとリュヴィアさんがようやく頷いてくださった逸品ですのよ」
アデラは超ご機嫌で、料理が並んで、一部でまた戦いが始まっている中、皆に自信作のお茶を勧めたが。
「ええ、ようやくでしたわ。あの山の中から、何とか使って大丈夫で、味が予測出来て、毒がなく、合わせても問題がないだろうという配合を見付けるのは、本当に大変で」
「この味なら、予想は外れていないな」
飲んだ人々は、ごく少数を除きむせていた。