我が家を作ろう

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月23日〜07月06日

リプレイ公開日:2008年06月30日

●オープニング

 村を一つ作って欲しい。
 現地は現在の状態が森。泉が一つあるので、水源はしばらくそこで賄うとして、いずれはドワーフの井戸掘り職人をお願いしなくてはならない。
 村の産業は、現地を見て出来そうなものを決定し、どうやって拡大していくのかを考える。
 そういうことも全部、一通り全て、依頼したいという内容だった。

 こういう長期に過ぎる依頼はどうなるかといえば、冒険者ギルドでは断る。
 特に今回は開拓だ。村一つ出来上がって、生活が軌道に乗るまでなんて、一体どれほど掛かることやら。ほとんど冒険者廃業になってしまう。
 どうしても言うなら、冒険者ギルドの近くで志願者を募るとか、自噴のところの家臣として召し抱えるとか、そうした手段をとってもらうべきだろう。
 そう、家臣。依頼人は領地は小さいが貴族なのだから、当然のこととして冒険者ギルドはそういう要求をした。

 すると。
「短期なら受けてもらえるわけじゃな」
 依頼人は、抜け道を見付け出したようだ。
「では、片道三日として、現地で一週間頑張ってもらおうか」
 往復六日、現地七日、合計十三日。依頼期間として長いほうだが、受けられない期間ではない。
「準備はこれだけしてある。現地のものは、商品に出来るなら売り払って、費用の足しにしてもらうなり、報酬を増やすなりしてもらって構わん」
 冒険者がどういうことをするのか、報告書を見るのを楽しみにしていると依頼人は微笑んだ。
 進行具合を見ながら、随時依頼を出すつもりらしい。
 最終的に目指すのは、
「そりゃあ、家を立ててもらわないとな。それから住民を探して、連れて行って、生活が出来るようになるまで‥‥別に十年までは掛かってもよいぞ。最後にわしの隠居所を建ててくれればのう」
 自分の隠居場所を作り上げることらしい。
「冒険者は色々突拍子もないことをしてくれるそうじゃないか。期待が膨らむというものじゃ」
 ちなみに依頼人はエルフ、性格はきっと変わり者。お歳は見たところ人間で五十代半ばだから、十年後でも十分隠居所として役に立つだろう。

 村一つを作る。
 どういうものになるかは、依頼を受けた冒険者達の相談で決めていい。
 更に長期間関わるのなら、村に自宅を構えることも許可してくれるそうだ。
 ただし、いずれもが現在は口約束。実際に村が開拓できるのかどうかは、行って見ないとわからない。
 それでも良ければ、まずは出掛けてみよう。

●今回の参加者

 ea1683 テュール・ヘインツ(21歳・♂・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 eb3445 アタナシウス・コムネノス(34歳・♂・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb4181 フレッド・イースタン(28歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec4270 シリウス・ディスパーダ(27歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

レイン・ヴォルフルーラ(ec4112

●リプレイ本文

 自前の道具は基本的に使用できないので、まず出発前に購入したのは、火打石、調理道具、羊皮紙と筆記用具、それから保存食。普段はそれほど考えないことも多いが、こうやって買い物をするとけして安くはないと思わされる。特に保存食、十三日、五人分で六十五食分。
「案外食費に使いますね。早いうちに収入を確立しないと、先細りしてしまいます」
「えー、まだ金貨いっぱい残ってるよね。そんな心配しなくて大丈夫だよ」
 エリーシャ・メロウ(eb4333)が早くも先行きを憂慮しているのに対し、テュール・ヘインツ(ea1683)はかなり前向きだ。前者は将来勲功を立てて、領地を賜り、自分の領地を開拓したいと考えているから先々のことまで考え込むのだが、後者はとにかく頑張ってみようといった心持ちの上、性格も考え込まないほうなので明るい。
 そんな会話を傍らに、フレッド・イースタン(eb4181)が買ったばかりの筆記用具で、布切れに金額を記している。これは行った先での目印に使うのにテュールが集めてきて、他の四人も自宅などから持ち寄ってきた。お金は使っていないから、多分依頼人も細かいことは言うまい。
「こちらの文字は物珍しく見えるでしょう。言葉は通じるので助かりますが、読み書きは勉強し直しで、これがなかなか」
 セトタ語の読み書きに通じたフレッドが今回の書記を勤め、会計はエリーシャが担っている。その様子を興味深げに眺めているシリウス・ディスパーダ(ec4270)は、最近月道を通ってきたばかりの天界人だ。おかげでこちらの文字はまったく分からないが、真剣に取り組む気持ちは表れていた。
 そんなシリウスにあれこれと説明を加えているのは、態度からして世話好きなのだろうアタナシウス・コムネノス(eb3445)である。アトランティス人には馴染みのないクレリックの彼だが、こちらの世界に来ても博愛の精神は忘れてはいない。
 荷物が全部揃ったところで、荷馬車に積んで、御者はフレッドが勤めることとして出発である。馬を連れていないのは、彼とテュールだけなので、テュールは荷馬車の端に乗り込んだ。その分、他の三人が荷物を少しずつ分担して自分の馬に載せている。
「フェンの餌と毛布は自前なんだけど、許してくれるかなぁ」
 テュールの心配は、他の人々の心配でもある。馬はともかく、エリーシャも犬を一頭連れているし。あいにくと荷物は受け取れるように手配されていたが、依頼人と会えるのは帰り道のことなので詳細はその時に尋ねるしかない。

 歩けば三日、驢馬はたいして足は速くないが、疲れないように配慮しながら進めば、毎日少しずつ時間が稼げる。結果、泉を見付けるのに少しばかり時間が掛かったものの、五人は三日目の昼過ぎに目的地に辿り着いた。
 そうして、しばし立ち尽くす。
「何か足りないと思っていましたが、鎌がありませんでしたね」
 しばらく後にアタナシウスがあごひげの辺りを掻きながら、そう口にした。どういう基準で選んだのか良く分からない道具一式には、確かに鎌が含まれていない。ここまでの道のりも街道を外れてからは草ぼうぼうだったので、これはちょっと痛い。
「テントを張るところくらいは、まず草を何とかしないといけませんね。泉の近くがいいのでしょうか」
 エリーシャが気を取り直して、適当な一株を抜いてみた。それほど苦労せずに引き抜けたので、この調子で寝る場所くらいは早めに確保するべきかと辺りを見渡す。出来れば近くに馬や驢馬を繋いでおけるところが良い。
 ここまでの二泊の間に五人が理解していたのは、馬や驢馬の世話はエリーシャとフレッドに任せておけば心配がないこと。代わりに偵察や夜営の際の周辺の確認は、皆があまり心得がない。さすがにモンスターの種類や外見からの判別は経験がものをいってそれなりに出来るが、多分動物の足跡を見ても即座にそれがなんだと言えるほどの知識は心許ない。
 けれども森を歩くことにはシリウスが長けており、モンスターに会わない為には歌の一つも歌っていれば良いと、オカリナの演奏付きで先導してくれた。地図がいい加減で道に迷いはしたが、おかげで疲れはそれほどでもない。食事も、この中では料理が出来る方のフレッドが調理道具を買い整えておいたおかげで、保存食をそのまま食べる羽目にはならずに済んでいた。
「水源の近くは雨の後にぬかるんだりしやすいので、少し離れた場所がいいでしょう。木の枝の下のほうが、雨風を凌げるのではないかと思いますが、シリウスさん、実際はどうですか」
「後々伐採することを考えても、当座はこの木の周りがいいだろう。周りの潅木を払えば、見通しが利くようになる」
 シリウスはあまり率先して口を開くことはないが、聞かれた事にはきちんと答えてくれる。アトランティスに来たばかりでも、森の様子などは変わりないので少し安堵しているようでもあった。
 出身地が海か河川沿いなのか、漁師の経験があるフレッドと森に詳しいシリウスとが、悪天候でも濡れない場所を選んでいる間に、テュールとアタナシウスは周辺の草木で有用なもの、危険なものがないかを確かめている。時々二人で首を傾げているのは、
「これ、葉っぱはあれだと思うけど、なんか幹が違う気がするんだよね」
「実がなっていれば、すぐに分かりますが」
 記憶にある姿と少し異なる木があったりした時だ。葉っぱ一枚で何の植物と言えるほどには、二人とも森の植物には通じていない。アタナシウスは作物なら大体分かるが、野生となるとちょっと自信がないようだ。
 それでも二人して、これとこれは切らないと目印に布を巻きつけている間に、エリーシャは悪路で荷馬車を引いてくれた驢馬と馬達に水を飲ませている。どちらも怯えず、愛犬達も落ち着き払っているところを見ると、肉食獣が日々の水飲み場にしているようなことはなさそうだ。
 この後、全員で野営地に決めた辺りの草を抜き、テントを張る。その頃には宵闇の気配も降りてきて、道々集めておいた薪で灯りと暖と料理の用を足した。この辺りはシリウスの知恵だ。
「普段の依頼だと、歩きながら薪集めなんてあんまり考えないけど、これだと無駄がないね」
 薪集めもあったら、まだ寝られなかったねと言いながら、テュールは早々と寝入っている。引き続いて、念のための見張り以外は燃料が勿体無いので、とっとと寝た。

 翌朝から、五人はおおむね二人と三人の二組に分かれて活動を開始した。よく知らない土地での単独行動は危険だが、いつでも五人一緒では何も進まないから自然と二人か三人組。顔触れは臨機応変にその時々でよい組み合わせ。
 今は『これは絶対にいらない』と全員が納得した潅木を、フレッドとエリーシャが切り倒している。潅木の細い枝は材木にはならないが、切り分けて束ねて積んでおけば、次回の開拓、調査の際には燃料として使えるだろう。さすがに、まだこれだけでは売れるほどの量にはなりそうにない。
 問題は、二人ともに武技を持って戦うのには慣れているが、木を切るために斧を振るうことなどあまり経験がないということ。戦斧とは重心も違い、なかなかの難事業である。
「早いうちに長期滞在用に小屋の一つも建てたいと思いましたが‥‥建築となれば、素人仕事では済みませんね。後まで残るものですから、場所もよくよく吟味しないと」
 エリーシャは時々馬、驢馬とその周辺で見張り役を担っている愛犬を見遣るが、大型の獣が近付いてくる様子はない。彼女達がいるせいもあるだろうが、かなり安全な場所のようだし、拠点のひとつも早めに作りたいところである。あいにくとその技術の持ち主がいないので、場合によっては開拓資金で人を雇う必要があるかもしれない。
 フレッドはそこまでの計画は思い描いていないが、泉に大型動物の気配がないことで近くに河川があるのではないかと考えていた。泉一つで村の生活を賄うことは難しいから、川がなければドワーフ達に井戸を掘ってもらわねばならない。井戸の水で農作物を潤うことは、アタナシウスが難しい顔をしたところ。汲み上げの手間を考えたら、少しくらい遠くても、河川があるかどうかは開拓計画立案のためにも確認しておくべきだ。
 そうした事を記しておくために、記録用の羊皮紙ではなく消耗材の木版が欲しいところだが、まだそれを作るまでは手が回っていなかった。先程、昨日のうちに判明したことをはぎれに覚書して、地図は地面に描き込んである。
「地図は出来るだけきちんと書く必要がありますので、大きめの板を用意したほうがいいでしょうね。それに要する木を早く切らないといけません」
 けれども持ち運びに苦労するほど大きくてもいけないし、あまり大きいものは綺麗に面を整えるにもフレッドでは時間が掛かる。いっそ大きな葉でもあって、それに描けたら楽なのだがと二人で冗談を言ったりしている。

 その頃、森の案内と護衛を兼ねたシリウスが同行したテュールとアタナシウスとの地勢植生確認組は、世間話を交えながら木々の様子を見て歩いているところだった。生えているもので実がなるもの、木材にするといいもの、薪にすると燃えやすいものなど、それぞれどのくらい生えているのかを確かめる。その植生で地勢が畑に向いてるものか、それとも果樹園か、住宅にしていいのか変わるから、一番大きなはぎれに地図を描くようにしていた。
 シリウスは友人のレインから動物の縄張りになっている場合に見られるものや、栽培にも向いた自生植物について教えてもらったのだが、森の様子は天界と変わらなくても、植物は付け焼刃では判断に迷うことが多い。ただ熊や狼などが根城にしたりはしていないようだと判明して、皆で一安心だ。
 そして、この日の一番の収穫が。
「こんなの取るの大変だよ。せっかくいっぱい生ってるのに」
 テュールが大分苦労しながら、それでも持っていた袋に半分くらいまで実をもいだのは、木いちごだ。泉から直線距離だと一キロ半くらい離れた場所に、こんもりとした藪を作っていた。そういう種類とはいえ、内部のほうの実はパラのテュールでも手出しが出来ない。
「あまり日持ちしないので、今回は我々が食べる分だけですね。これだけ茂っていると実が太りにくいので、味はどうでしょうね」
 アタナシウスも幾らか実を摘みながら、枝の生え具合などを確かめていた。人の手が入っていれば、枝を伸ばす方向を調整して収穫もしやすく育て、実も美味しくなるようにするものだが、枝は大分絡んでいる。
 試しに泉の周りに挿し木をしてみようと、アタナシウスは実のなっていない葉ばかりが茂る枝を何本か折り取っていた。後日、きちんと剪定して、来年はもっといい実がなるように世話もすべきだろう。と、そんなことまで考えている。
 こういう作業の際にもシリウスは周辺の警戒をするわけだが、木いちごの周りに大型獣の足跡がないのは最初に三人で確認していた。小さいものはあってもよく分からないが、これだけ木いちごがあっても熊等の類の動物は寄ってこないようだ。兎の糞は歩いているときに何度か見たが、現物にはテュールの愛犬が一緒なのでまだお目にかかれない。少なくとも熊がいない様子なのは、ありがたいことだった。
 出掛けに河川の存在もフレッドから指摘されていたので、シリウスはそれらしい地形がないか、テュールは水音がしないか気にしていたが、今日歩いた範囲ではそうした気配はなかった。
 他に、栗の木を二本見付け、あたりをくまなく見て回った結果、リスやネズミはいるだろうとの結論に至っていた。
「どんぐりは食べられるとはいえ、やはりもう少しいい物を作りたいかな」
 幾種類かのどんぐりが拾えたので、シリウスはそれらの木に『木材向き』と『実がなる』の両方を示すはぎれを結んでおいた。ナラ、シイなど、食べてまずいとは言わないが、林檎や桃のほうが村として生産するには向いている。
 ちなみに三人の一致した意見が。
「四キロの円って、案外狭いよね。家と畑を作るとしたら、たくさんは住めないよ」
 最初から大人数は無理でも、ある程度住民がいないと村の生活そのものが回らないので、開拓地域についてはおいおい依頼人の考えも聞きつつ、相談していくことが出来るだろう。
 出来れば、十年ではなく一年か二年くらいで形が出来上がって欲しいものだ。
 この日の収穫である木いちごを、皆がすっぱいと言い合いながらも楽しんで食べている中で、フレッドだけは『このくらいが美味しい』と言葉少なに、せっせと食べていた。

 それから期間中、草刈鎌がないのに四苦八苦したものの、泉の周りの草を抜き終わり、藪も払って、数本の木を切り倒した。こちらも枝は払ったが、木は分割して積むところまで。曲がっていた木だから、次回は小さく切って、薪にするのが一番だろうと話がまとまっている。
 辺りの地図は簡素ながらも、フレッドが作った木版に記された。泉の西と南方向が畑や果樹園に向き、東は家屋を建てるのに良さそう、北のほうは大きめに拓いて広場にして一部は家屋か倉庫、家畜小屋などに出来ればいいだろう。南方向には木いちごや栗、それ以外のどんぐりも採取できるし、どこから種が運ばれたのか林檎も三本ほど見付かった。作物にもよるが果樹園向きの地勢であるようだ。
 あいにくと時間切れで川は見付けられなかったが、泉に来るのが小動物だけ、それを狙う狼などが現われず、でも一度遠吠えは聞こえたことから、どこかに別の水場があるのは間違いないと思われた。
 ともかくも、次があれば絶対に鎌を買わねばと決めた五人が、予定より半日ほど長く作業して、帰路を辿っていたところ、先に言われた場所に依頼人が待っていた。その場で、今回色々記録した羊皮紙を開いての報告会である。
「鎌か。サカイ商店とやらで、野外で活動するのに進める道具を聴いて揃えたんじゃがのう。鎌は入っておらんかったよ」
 冒険者ご用達のサカイ商店が開拓者用の道具立てを尋ねられたとは思うまい。そもそもあの店は皆使ったことがあるが、鎌は大きな武器としてのそれしかなかったように思う。依頼人も身なりからして貴族のようだし、勧められたもの以外を買うことまでは気が回らなかったのだろう。
 けれども、報告書の収支計算を見て。
「報告に用いる羊皮紙くらいは、受け取る側で負担してもよかろうな。毎回買うのも出費じゃろう」
 代わりに使い古しになるとは言ったが、その分は次の依頼のときに用意しておいてくれるそうだ。
 次回がいつだか分からないが、早いうちにして欲しいものだと思ったのが何人か。
 その時には、ぜひとも収入に繋がる何かを見付けたいものである。

●開拓収支報告
当初資金 200G
今回出費 筆記用具20c、調理道具70c、火打石20c、保存食金貨3G25c
繰越資金 金貨195G65c

収入 0