【北海の悪夢】パリからの迎え

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月01日〜07月11日

リプレイ公開日:2008年07月12日

●オープニング

 北海地方で近年目撃例のなかったモンスター、デビルの被害が報告されるようになって半年あまり。沿岸部では津波の多々起きており、その被害も大きいと言われている。
「レンヌの公女様が支援を申し出てくださり、品物も色々と寄付をいただいたのですが、こちらの用件は我々が出向くべきことですので」
 パリ近郊のジーザス教白の教会からの依頼は、支援活動の手伝いと道中の護衛だった。

 沿岸部の町村では津波やモンスターで多くの被害が出ており、中には家族を失った老齢、幼少の者もいる。常ならばその町村で援助されるべきだろう住人だが、場所によりその余力を失っているところもある。また当人が海の近くを避けて、内陸部に避難したいと訴えたり、パリ近郊の親族の元に行くことにやっている場合もあった。
 よって、その地域の教会から連絡を受けたパリ近郊の教会群では受け入れ態勢を整え、これから迎えに行くことになっている。沿岸部までは船で、そこから馬車を借りて三つほどの村を巡り、また船に乗って帰ってくる。パリからは、受け入れ先までの移動方法は確保されていた。
「往復の船はグレイス商会のご協力をいただけることになっています。先方での移動用の馬車は、あちらの教会で手配済み。後足りないのは人手なもので、報酬は些少ですがご協力いただける方をお願いいたします」
 教会の者だけなら、移動先に危険があっても滅多に護衛は雇わない。今回は人を預かって移動するので、万が一にも危険がないようにと配慮しての依頼だ。よって、出来れば経験が豊富なほうがいいのだが、金額的にはまったく見合わない。
 ただし、行く先は被害はあっても治安まで悪くなっているわけではなく、危険はなさそうだ。世の中確実というのは滅多にないが、敵と遭遇する可能性は低いだろう。

 馬車と船での、高齢と幼少の者の移動。しかも慣れない場所に行く不安な旅だ。
 護衛というよりは、そうした不安に寄り添ってくれる者がいるほうが良さそうな依頼ではあった。

●今回の参加者

 ea1787 ウェルス・サルヴィウス(33歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3852 マート・セレスティア(46歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 ec0938 レヨン・ジュイエ(29歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 避難民を迎えに行く依頼に集まった冒険者は三人だった。もう一人来るはずだったが、
「どこぞの料理屋で時間を忘れておるのじゃろうて」
「行き先が分かれば、迎えに行きますが」
 ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)の独白に、レヨン・ジュイエ(ec0938)が申し出た。しかしヘラクレイオスとて行き先までは分からないので、三人で仕事に臨むこと決定。
 ウェルス・サルヴィウス(ea1787)が依頼人である神父達と話をしているが、人数の不足は問題にされていない。宗派は違えどナイトのヘラクレイオスに、白クレリックのレヨンとウェルスが同行するので、なんとか出来るだろうと前向きに考えているようだ。
 ウェルスとレヨンは本人のみだが、ヘラクレイオスが二頭の馬を連れてきたので、そちらに箱を背負ってもらうことで船への荷物の積み降ろしはあまり苦労することなく終えられた。船路はよい陽気の中、始まっている。

 船路は一日半とちょっと。その間にすべきことは特にないが、皆が働いているのにただ座って祈っているだけという聖職者は、余程重要な宗教行事か巡礼の途中でもなければいない。かといって、船を操る技量の持ち主もいなかった。
 よって、聖職者は五人集まって、繕い物に精を出していた。船員達も船具を修繕するのに針を使ったりするが、自分達の服は扱いが適当だったりする。繕いも、とても男らしい縫い目。今回はグレイス商会の厚意で送り迎えしてもらっているので、せめても船員達の世話をさせてもらおうという心栄えだ。船員達は根を詰めると船酔いすると心配していたが、幸いにして全員元気である。
 そういう方面には疎いヘラクレイオスは、当人の得意な鍛冶の技で船内の刃物の手入れを引き受けていた。皆ナイフの一本も持っているが、潮風に吹かれるから傷みがひどいものもある。合間に最近の海の様子を尋ねていた。
 パリにまで人が避難してくるくらいだから、沿岸部はどうなっているものか。
「モンスターも聞いたことがないものばかりじゃの。そんなものが多数現われるようでは、ドレスタットの海戦騎士団も手が回るまい」
「そういう時には、海賊が出張って来るんだよ。後で剣も研いでくれな」
 沿岸部では津波だモンスターだと甚大な被害を受けた集落もあり、場所によっては全滅したとも伝えられる。さすがにパリから出航した船では詳細を見てきた者はいなかったが、船乗り達は津波の襲い方が不自然だと意見が一致している。そうした事象の全てをモンスターのせいにしていいものかどうかは分からないものの、今回の送迎を引き受けたのは船にちょっとは加護を期待している部分もあるらしい。
 その夜は、甲板で航海の無事を祈るミサが開かれたのは、聖職者達が船長の願いに応えたからだ。

 船を降り、最初の目的地まで向かう道中は何の問題もなかった。驢馬達もヘラクレイオスに念入りに世話されて、所々にある悪路にもへこたれずに最初の目的地である村まで到着する。
 村では避難する人々と、村の住人や一時避難先にこの村を選んだ人達がいて、皆の予想より賑わっていた。到着したのが日が暮れて大分経ってからだから、出迎えてくれた人は少ないが、翌朝早くには次々と挨拶と見物にやってきた人々がいる。
 一時的にだが村の人数が増大しているので、村では食事をまとめて作っていた。祭りか何かのようだと立ち働いている女性達の中には、料理好きだというレヨンが混じっている。力があるので重宝されているようだ。
「これがしばらく続いていたのだと、おうちに手が回らなくなってはいませんか。今日は一日ここにお世話になりますので、どうぞ順番におうちの方を」
 レヨンは家事全般にも詳しいので、他の家事が滞っているだろう事も容易に推測できてしまう。聖職者四人のうち、二人は一緒に料理に携われるので、女性達にはこの間に少し家の仕事を勧めていた。
 そうかと思えば、わらわらと子供達が群れてきて、パリのことなど尋ねてきた。中にはドロだらけの手で服の裾を掴んで離さない子供もいたが、それは手を繋いだり、年齢によっては背負ったりと、本人が離れるまでは連れ歩く。
 そんな風に子供の集団で本人の姿があまり見えないのは、ウェルスも同様だった。こちらは体調を崩したり、移動を前に神経が尖っている人々と話し込んでいて、刃物を扱うレヨンより近付きやすかったのもあるだろう。老若男女に取り囲まれて、食事もままならないほどだが、断食にも慣れているので辛い様子など見せない。他の人の食事の世話をしているので、本人だけ食べていないことも気付かせない有様だったが、さすがに同業者はすぐに察して、村の神父が移動前の打ち合わせと称して食事の場を設けてくれた。
 数日でも旅をするのだから、食事はきちんとしておかねばと言われて、ウェルスは感じ入るものもあったようだ。でも何より気になるのは、その数日の天候である。
「私が同じ旅をした時は、曇り空だったので‥‥せめて空は眩しいくらいに輝いているといいのですが」
 老人の心を塞ぐような曇天ではなく、子供達が後に思い出して暗かったと思うことがないような空模様は、聖なる母も用意してくれるようだ。
 後は礼拝堂で皆の心が安らぐようにと、少しの間祈っておく。
 その礼拝堂には、ヘラクレイオスは宗派が違うので足を踏み入れない。わざわざ黒派の者だと言わなくても、近付く暇もないのが事実だった。
 まずは旅に備えて、馬車に傷みがないかを念入りに確かめる。もちろん驢馬と自分の馬達の世話も一手に引き受けていた。そうしたことをしていれば、村人達がやってきて、あれこれ手伝ってくれないかという話になって不思議はない。騎士に力仕事など頼んでいいものかと遠慮がちな者もいたが、ドワーフ族は手仕事が生き甲斐の一つだと言われれば無用な遠慮はしなくなる。
 とはいえ、一日で出来ることに限界はあるわけで。
「その家は明後日来る大工に任せたほうがいい。一時凌ぎはできるが、かえって修理しずらいでな。代わりに必要な道具は全部研いでおくぞ」
 木材、金属、石材いずれも扱えると言ったら、大物から話を持ってこられてしまい、段取りまで付けている。皆が気に掛かることから言う訳だから仕方ないが、中途半端な手出しはかえって危ない。手順を言い聞かせながら、延々と刃物研ぎと農具修理をしていた。
 夜は一緒に移動する人達と同じ家屋で寝ることになったが、夜中に皆の様子を見回っていたウェルスとレヨンが、髭をしっかと握り締められて少し痛そうな、けれども腹の上に子供が二人寄りかかっているのは苦しそうではないヘラクレイオスの姿に、さてどうやって毛布を掛けたものかとしばし悩んでいた。

 翌日は朝に村を出発して、次の村を目指す。
「なに、たまには歩かないと足腰が鈍るからな。それに、ほれ、子供達の方がケイロンも楽で嬉しかろうよ」
 聖職者達が揃って徒歩なのに、自分だけ騎乗するのは失礼だとヘラクレイオスは考えていたが、馬車に乗ってもらわねばならない老人達が遠慮がちなのには、そうした考えなど口には出さなかった。何人か馬に乗ってみたいという子供がいたのを幸いに、自分は二頭の馬の手綱を引いて歩いている。馬車の驢馬達は、最年長の聖職者が手綱を取っている。こちらも引いて歩いているので、御者台は老人と子供が一人ずつ座っていた。
 レヨンは幼児を一人背負い、その荷物はヘラクレイオスのもう一頭の馬アルゴーの背に載っていた。レヨンの手は背負った幼児の兄弟と繋いでいるから、他の荷物も人に預けることになる。一部は馬車に載せて、乗っている人達に見てもらっていた。荷物はウェルスも馬車に預けて、歩いても苦労が少ないようにしている。そうしておけば、交代で乗ろうと言われても『まだ元気』と言えるし、万が一に何か起きたときにも対応が早いからだ。
 ただし、どうにもならないこともたまにはあって。
「着替えたら?」
「さすがにそうしないと駄目ですね。誰か背中を拭いてくれるかな」
 一歳程度の子供に粗相をするなと怒るのは筋が違うので、背中を濡らされることもある。その後は二人とも着替えが必要になって、子供は老人達に預け、レヨンは年長の子供達に世話を焼かれながら服を取り替えたり。
「靴の具合が悪い人はいませんか。お日様がこのくらいの高さになったら、休憩しますからね」
 その間の時間で、ウェルスは皆の足の様子を見たり、どの位進んで、後どの位歩くのかを教えている。道に咲いている花の名前を諳んじたりするのは、歩いているときからだ。
 ヘラクレイオスは驢馬と馬達の足を見ていたところ、老人の一人が以前は荷運びで馬を使っていたと手伝ってくれたりする。子供達が馬の後ろをうろうろしようとするのを見張ってもらうだけでも有り難い。
 移動する理由が理由だから、誰もが元気とはいかないが、体調を崩したのは途中の悪路で馬車酔いした老人が一人。子供達は皆が気遣って、色々と話し掛けたり、何もなさそうでも名前を呼んで様子を確かめたりしているうちに、緊張がほぐれてきたらしい。
 二つ目の村に到着して、早めの夕食を済ませて、この村では神父が怪我をしていて十分に執り行えずにいた亡くなった人々へのミサを行ったら、日中元気だった子供達も、騎乗に振る舞っていた老人達も声を上げて泣いたり、嗚咽を漏らしたりした。年長の兄弟姉妹が突然泣き出して、驚いて一緒に泣き出したりする子供もいる。
 泣きたくなったのだから、それは悪いことではない。ましてや死者を悼む席でのことだから、誰の迷惑にもならない。
 伝える言葉は幾通りもあったが、突然号泣してもそれを嗜めたり、責めたりする人はいなかった。励ましの言葉もあまりなく、そっと寄り添うようにするのは、やはり白の教義の人々だからだろう。
 翌日、明らかに顔がむくんでぼんやりした風情の者も多数いて、歩く速度も前日に比べれば少し遅かったが、皆正直に疲れた、足が痛いなどと口にしてくれたので、休憩と人数が増えても不測の事態は起きなかった。
「おじさんたちはへーき?」
 まとめておじさん扱いされた人々は、この一言で元気を取り戻している。

 そうして、三箇所目の村で移動する人々が全員揃って、一人も欠けることなく船に乗り込み‥‥
「この魚、しょっぱい」
 年中新鮮な魚にはあまり不足しなかっただろう人々は、レヨンが調理して出した魚料理におおむねそんな感想を述べた。
「精進が足りませんでしたか」
「もっと練習しないと駄目だなあと言っているのですよ」
 大変素直に意見を受け入れたり、反省の弁を子供に分かりやすく伝えたりしている人達の横で、塩漬け魚に慣れた一名は、
「肴にはこのくらいが旨いが」
 と、船乗り達を頷かせている。
 そこから、美味しい料理の話になって、二日近いの船旅は長いと感じる暇もなく過ぎていった。

 いずれ、そんなことがあったとのんびりと思い出してもらえればいいと、その願いは未だ長い祈りの旅路の途中だけれど。