【北海の悪夢】パリまでの危うい海路

■ショートシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:07月10日〜07月15日

リプレイ公開日:2008年07月22日

●オープニング

 ドレスタットの港は、度々津波だモンスターだと騒ぎが起きるようになって、以前ほどの賑わいはなくなっている。
 けれども数年前には港までドラゴンが襲来し、紆余曲折の後に和解したとはいえ、その後平然と暮らしているような人々の住む土地柄だ。船の出入りが減ろうがどうしようが、暮らす人々は多少の心配事は吹き飛ばすように声高に語り、笑いあっている。
 だが、多少は過敏になっているところもあるのか、港から上がった品物を日用品や魚介類から、高級品の仲買まで、色々と扱う店が居並ぶ通りにその人々が現われた時には港の人々が自然と動きを目で追っていた。確かに目立つ組み合わせではあったのだ。
 片方は、壮年、人間の神父とエルフの若い娘達。港町のこととて種族が違う者が肩を並べて歩くことも多々あれど、三人もいる娘が神父の両腕に擦り寄るように掴まっているのは珍しい。三人共に顔立ちが良く似ていて、多分姉妹だろう。大きな街に出てきたのは初めてか、神父から離れないように四人で塊になって歩いていた。
 もう片方は、人間の二十歳かそこらの娘。帯剣している姿から騎士であろうと予想されるが、ドレスタットの騎士ならば誰かが知っていそうな印象深い、凛々しい立ち姿の娘だ。遠目には細身の貴公子に見えなくもないが。こちらの連れは、滅多に見掛けないような体躯も姿も毛並みも素晴らしい馬が一頭。
 この二組が、波止場のあちらとこちらから、それぞれに目指していたのは一隻の船だった。
「若い娘だけ乗せるのかい? そいつはちょっとねえ」
「寝惚けてんなよ、金を払うからには客だぜ。まさか客が若い女だと、不埒な真似を働くような罰当たりばっかり雇ってんのかよ」
 エルフの三人娘は、パリに出向きたい。旅客馬車もあるが、船のほうが天候さえ良ければ快適な旅が出来るので、乗せてくれる船を捜しているところだ。神父は彼女達を、どういう縁でか世話しているようだ。
 船乗り達が、こいつは似非ではなかろうかと思うくらいに伝法で、神父らしからぬ口調だが、言うことは一々ごもっとも。
 けれども、船乗り達にも言い分はある。
「いちおう、モンスターは退治されたと連絡が来たがね」
 少し前、海には若い娘を狙っていると思しきモンスターが現われていた。これは北海では名の知れたカーゴ商会が冒険者も雇って退治したと連絡が回っているが、その後も多種多様なモンスターの目撃情報は後を絶たない。大きな被害が出ていないだけで、いつそうした話が出てくるのか分からない状況だ。
 挙げ句に、こうした時に出る船はどうしても届けねばならない重要な品物や人、または稼ぎが見込める稀少品を積んでいる場合がほとんどだから、それを狙った海賊も出て来ているようだと噂になっていた。こちらは不審な船影の目撃証言からだが、長年海で過ごしてきた人々の推測は聞き逃していいものではない。
 となると、何かの折に身を守る術もなければ、そうしてくれる保護者もない若い娘だけの客は出来れば別の船に行ってはくれまいかと言うのが、正直なところである。
 ちなみに、神父とエルフ娘達は、そういうことで巡り巡って、すでに何隻かに乗船を断られていた。ここでもいい顔をされないとなると、残る手段は陸路か、護衛でも付けるか、
「俺が一緒に乗ればいいのか? ただし、全然戦えないぜ」
「こっちとしては、誰か護衛の一人でも雇ってくれるとありがたいんだけどさ」
 神父と船長が、読み取るなら『てめえ、ふざけてんじゃねえぞ』と『無茶言いやがるな、こいつ』と表された顔付きで、乗船条件をやりあい始めた。
 そこに。
「護衛が一人でいいなら、私を乗せてもらうのではどう?」
 こんな見事な馬と女騎士がいると知れたら、ドレスタット領主のエイリークが見物に出て来るのではないかと思われる、美人だが頼もしげな救いの手が現われたのである。
「‥‥美人だなあ」
「神父がそんなあけすけでいいのかよ」
「誉めてんだからいいじゃねえか。だがね、お姫さん、船の上だと足場が陸と違うから危ないぜ。船旅には慣れているか? そもそも連れはないのか?」
 名乗ることもなく重ねられた質問に、女騎士も『言ってくれるわね』と読み取れる表情で答えた。
「レンヌの生まれだもの。船旅は数えるほどね。でも腕前と経験は、多分貴方よりはあるわよ。連れはね、ここに着くまではパリの冒険者ギルドで雇った人達がいたけれど、さっきお別れしたところ」
「「そいつら連れて来ればいいのに」」
 思わず重なった声に、女騎士はこめかみを押さえて見せた。
「名立たるドレスタットの船なら、護衛がいなくても自分達に任せろと言うのかと思えば、他力本願とは情けない」
「だってさ」
 本気で情けないと思っている風の女騎士と、破天荒でも神父に畳み掛けられて、船長は唸った。
 見るからに旅慣れておらず、絶対に手の掛かりそうな美人三姉妹に少数だがエルフの船乗り達が構いつけると全体が浮き足立つ。この時勢にそういうのは避けたいが、困り果てた風情で立ち尽くしているのを三人を見ると、種族は違っても胸が痛む。
 ならば女騎士が乗るのをこれ幸いと、彼女に任せていまえばいいかと言えば、そんなこともない。仮にも客に剣を抜かせて、他の客を守らせたなど、船長として立つ瀬がなくなる。
「分かった。護衛を頼んでこよう。最近、ものすごく高いんだよ」
 だから船賃はまけられないと言外に匂わせた船長に、神父と女騎士は『冒険者ギルドに頼んでみたらいい』と口を揃えた。
 結局、この三人に、神父に引っ付いた三姉妹の六人で、冒険者ギルドに依頼を出しに出向いたのである。

●今回の参加者

 ea9275 昏倒 勇花(51歳・♂・パラディン候補生・ジャイアント・ジャパン)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb7986 ミラン・アレテューズ(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ec4275 アマーリア・フォン・ヴルツ(20歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec5115 リュシエンナ・シュスト(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

タケシ・ダイワ(eb0607)/ 九烏 飛鳥(ec3984

●リプレイ本文

 十名ほどの珍客というか、一部は護衛のはずの人々を乗せた船がドレスタットの港を出港したのは、朝もやが晴れきらぬ頃合だった。しばらくは船乗り達が忙しく立ち働く甲板の、邪魔にならない片隅でのんびり‥‥
「レンヌのマーシーのとこのフローラでいいんだろ?」
「公女様ですのよ。もう少し話し振りを考えてくださらないと」
「その前に、普通はばれないようにするもんじゃないか? 金持ちが乗ってると思われたら、いい餌食じゃないか」
 シャルウィード・ハミルトン(eb5413)がフロリゼル・ラ・フォンテーヌの身分を、乗船前に明かしたことを話し合っていた。アマーリア・フォン・ヴルツ(ec4275)とミラン・アレテューズ(eb7986)は至極真面目だが、シャルウィードが本当のことだからいいじゃないかと取り合わないのと、フロリゼル本人が『ばれたところで出航したし』とのんびりしているので、会話は空しい状態が続いている。たまたま聞いてしまった船長が、それは内密にと念押ししていたのに、肝心の本人がこの調子なのである。
「過ぎたことを言っていても仕方ないわ。そこのお嬢さん達もびっくりしているし、もっと前向きな話をしましょうよ」
 図太い公女より、よほど一般的な感覚を持っているのか、気配りする性格なのか、リュシエンナ・シュスト(ec5115)がどう取り成したものかという顔をしているので、昏倒勇花(ea9275)が空回り中の会話に割って入った。ジャイアントの男性が、シャルウィードやミランよりよほど可愛らしい喋り方をする光景が、乗船前の一番の驚愕事項だったが、本人は気にしない。
 今回護衛対象になっているエルフの三姉妹、カリファ、キルテ、オクタヴィアは、困惑しきりの風情で同行することになった神父の周りに座っている。
 ちなみに神父の旅費は勇花とミランから提供の申し出があり、それならと同乗することになったのだ。一体どこの何者かと神聖騎士のアマーリアは少し悩んでいたが、本人の説明だとかなり内陸にある村の神父であるらしい。ドレスタットには買い出しと知己を訪ねに来ていたそうだ。名前はヴィルヘルム・ヨハネ・エルス。
 こちらは公女よりよほど図々しく出来ていて、パリにいる義弟だか甥だかの顔を見に行けると、他人に費用を出してもらうことに遠慮はない。治癒魔法は使えるからと、まるきり頼りにならないわけではないのが救い。
 三姉妹はといえば、気持ちはどうあれ見た目は間違いなく男性の勇花はさておき、見た目は女性でも態度に柔らかいところがないシャルウィードに距離を置くのも仕方ないとして、同族で年代も近いアマーリアや人間のミランとリュシエンナがあれこれ話しかけても、最初はおどおどしていた。フロリゼルはあまり構わず、海原を眺めて楽しんでいる。
 三姉妹の態度が怯えた様子なので、シャルウィードが誰かに狙われてでもいるのかと尋ねたら、ヴィルヘルムが大丈夫だと思うとは返答したが、
「でも気になることがあればおっしゃってくださいね?」
 どうにも心配でリュシエンナが声を掛け、
「船旅が心配なのでしょうか? 緊張すると船酔いしやすいそうですよ」
 アマーリアも言葉を添えた。ミランや勇花はヴィルヘルムに本当に大丈夫なのかと詰め寄っている。
 それで他言無用で出て来たのが、三姉妹の事情である。住んでいた村が津波の被害にあって親が亡くなり、パリにいる兄二人の元に向かうはずが、道案内するはずの行商人によってドレスタットの花街に売り飛ばされる寸前で助けられた。行商人は花街の人々が仕置きをしたが、金のない三姉妹をパリまで送る算段はさすがに誰も付けてくれなくて、たまたまドレスタットにいたヴィルヘルムのところに連絡が入ったそうだ。以降は彼が面倒を見ている。
 故に今は誰に狙われていることもないが、娘狙いのモンスターやら、海賊のことを聞いたらすっかり怖気づき、乗る船を捜していた時より意気消沈している模様。などと聞いては、神聖騎士のアマーリアはもちろん、面倒見、または気風がいい女性陣のやる気に今まで以上に火がついた。
 ただ、これが初依頼のリュシエンナは、勢い込みすぎたか午前中は船酔いに掛かり、三姉妹に付き添ってもらう羽目になった。船長は頭を抱えていたが、三姉妹は彼女の世話をしているうちに気分が落ち着いたらしい。午後からはアマーリアも加わって、フロリゼルを囲んでパリの話に花を咲かせていた。
 他の三人は、目の良さを活かして交代で甲板上の見張りを手伝っていたが、この日は航行にちょうど良いくらいの風と向きで、何の問題も起きずに穏やかな一日が過ぎた。

 二日目夕方。
「何でも慣れってのは大事だよな。いざって時に普段以上の力が出るなんてことは滅多にないんだから、日々鍛錬して、経験をちょっとでも増やしておかなきゃ駄目だ」
「その通りね。それで?」
「一手、相手してもらおうか」
「‥‥シャルウィード、どうしてそうなるんだ?」
「退屈で腐りそうだからに決まってるだろ」
 まったく何もない一日が暮れようとしている頃合に、シャルウィードがフロリゼルを捕まえて手合わせを申し込んでいた。たまたまフロリゼルといたミランがなぜと問えば、何の変化もない船旅に飽いている返事が来る。
 ジプシーにして武器もこなすミランは三姉妹のためには何事もないに越したことはないと思うし、フロリゼルは船旅を楽しんでいる風情。勇花は、ようやく彼の巫女装束姿に慣れてきた船員達から、最近の海洋事情を尋ねるのに忙しい。アマーリアとリュシエンナは三姉妹と一緒に夕食の準備を請け負っていて、皆が何が出来上がるかと楽しみにしていたのだが、
「そんなにモンスターに出て欲しいのか」
「どうせ出るなら、あたしが始末してやりたいだけなんだ」
 モンスター退治にこだわりがあるシャルウィードは、今までモンスターが出ていた海域の一つを通り過ぎたのが少し残念らしい。気晴らしに手合わせしようというのが、ファイターらしいというべきかどうか。
「じゃあ、他の皆さんも一緒に」
 フロリゼルがあっけらかんと承知したので、射撃専門のリュシエンナ以外の四人にフロリゼル、船員から数名の希望者が出て、日没までの短時間、手合わせとなったが‥‥
「もうっ、張り切り過ぎですよ。ご飯が冷めるじゃありませんか」
「ごめんなさいねぇ。鍛錬だって言われると、つい張り切っちゃうのよ」
 見張りが終わった後に駆り出された勇花が、食事が出来上がってもまだ打ち合っていたことをリュシエンナに注意されて、手合わせ中は着けていた鉄仮面を拭きながら謝っている。彼とシャルウィードが慣れない足場でも手練れぶりを見せ、かなりの長時間手合わせが続いたのだ。美味しい物を出来立ての状態で食べ貰おうとしていたリュシエンナは、ちょっとご機嫌斜めだ。
 船尾では、経験が違いすぎてまったく歯が立たなかったアマーリアが、ミランとフロリゼルに練習相手になってもらえる時間を確かめている。

 三日目の午前中は航行順調、前日の憂さが晴れたシャルウィードはご機嫌で見張りに立ち、フロリゼルは皆の馬の様子を確かめている。三姉妹がリュシエンナとアマーリアにくっついて歩くのに、ミランと勇花も加わって、何故かヴィルヘルムに飾り紐の編み方を習っているところだ。
「女の子だけでこういうことするのって、楽しいわよね」
「あんたの自意識はともかく、俺はどういう扱いだ」
「あら、聖職者様は性別なんか気にしないものよ」
 勇花とヴィルヘルムの会話には、本物の花の乙女達はどうしたらいいものか迷っている。ヴィルヘルムは結婚していると聞いたが、それを言うのもおかしいし、年嵩の勇花の言動に意見するのもなかなか‥‥結果、黙々と飾り紐を編む。
「その色より、こちらの方がカリファに合うのではありませんか」
「あ、色も大事ですね。青にしたら、兄にあげても大丈夫でしょうか」
「あたしは踊りのときにつけるのにしようかな」
 最初は黙々とだったが、乙女が寄り集まって静かにしているのも難しい。そのうちにやれ、誰にはどの色が似合うの、端はどうやったら可愛らしいの洒落ているのと始まり、誰にあげるとか自分で使うとか、賑やかさに船員達が振り返るが割っては入れない雰囲気を作り出していた。
 勇花達は弾き出されて、黙々と作業。
「なんだよ、元気ねえな」
 マストの上の見張り台から降りてきたシャルウィードが、乙女の会話から弾き出された勇花がしょんぼりしているのを見て、発破をかける。
 船長いわく、この先は十数年前に海賊が出たことがあり、潮の流れが少しばかり緩くなって船足が落ちている現在、警戒するに越したことはない海域だということだ。そうなれば、皆が編んでいた飾り紐は三姉妹が集めて、船内に避難する。

 三日目昼前。
「風が弱い上に、潮の流れもゆるくなる時間だ。日が昇りきって、今と同じ所まで降りてくると潮が変わって船足が進む。その間を狙われたってのが、今までの話だな」
 海賊が出るかもという海域は、陸地が遠くに見える。その陸地が入り組んでいて隠れ場に困らず、海賊は風向きが自分達に有利だと出てきて、船を襲ったら潮が変わる前に逃げる。
「それってつまり、逃げ切れれば戦わなくてもいいってことか?」
 シャルウィードが『残念』と続けそうな勢いで口にしたら、船長に睨まれた。船を寄せられたら被害が出るのだから、遠距離攻撃で時間を稼いで逃げるのが基本なのだ。どちらかといえばデビルかモンスターが出ると踏んでいたから、冒険者側は射撃が得意な者がリュシエンナしかいない。
「こちらの戦力が大きいように見せればいいのよ」
「そうね、矢は魔法で効果を上げるでしょ。あたしの予備をリューちゃんと得意な人に使ってもらっていいわ」
「船員の皆さんでも弓が使える方がいれば、そちらに優先で配置を」
 責任重大と顔が強張ったリュシエンナの背を、フロリゼルが叩く。勇花が海賊が出た際の対応を、皆が使える魔法を考慮しつつ提案し、アマーリアが補足して攻撃と防御を決めていく。この辺りは戦術をきちんと学んでいる人々が強い。
「あたしもオーラパワーは使えるぜ」
「あれ、ファイターだって言ってなかったか?」
 ミランの疑問に、ちょっと昔の取り柄を出したシャルウィードは『まあ色々』としか言わず、ミランもうるさくは尋ねなかったが、
「それは馬の名前」
 勝手に名前を略す件については、シャルウィードに念を押していた。ミラだけだと、彼女の馬の名前になる。
 そんなことをしつつも、船上は慌しく警戒の色を強めて、
「やれやれ、ほんとに出やがった」
 船長が呟いたのは、岬のどこかから出てきた船に、所属を示すものが一つもないことを船員が確認したからだ。

 飛ぶ矢の本数はごまかしが効かないが、弓手が多いように見せておけと甲板上を人が行き来している。向こうははなから戦うつもりで装備も固めているが、こちらは防御を整えながらで甲板上が見えなくもないのを利用する手だ。さすがに射手は先に狙われるから、盾の後ろにいるのだが、撃つ時はそこから身を乗り出すので危険もある。
 よって、勇花やシャルウィードは魔力を矢に込めて、少ない本数で的確に攻撃の効果が上がるように手伝い、ミランは船室への入口を固めつつ、敵船上の動きを観察する。リュシエンナとフロリゼルが近付いた海賊船に小気味良く矢を打ち込み、相手が射返してきたものはアマーリアの張ったホーリーフィールドで弾く。
 ホーリーフィールドは矢の一本が当たると壊れることも多いくらいだが、中空で矢が落ちる、その見た目の効果は大きい。挙げ句に目が良いものだから海賊船で指揮を取っている輩を見つけたシャルウィードが、勇花に止せと言われつつも得物を振り回して威嚇、挑発を行った。装備は明らかに戦士系の二人、片方は巫女装束でジャイアントと目立つ上、アマーリアにミランもいて、船の矢を使い放題のリュシエンナ達が攻撃の手は休めない。
 簡単に近付けない相手だとは分かっただろうが、見えるのが若い女多数というのは余程うまみがあるように見えたか、相手もなかなか諦めず、接舷こそされなかったが近付き、遠のきといった攻防が繰り広げられている。
 途中、あまりに近付いたときにはこれだけでかけりゃ当たるとばかりに、シャルウィードとミランが予備の弓を持って射撃に参加し、ほとんど効果はないながらも気迫の程は見せ付けた。
 そうしてことを二時間ほど続け、いい加減にリュシエンナ達の腕が上がらなくなってきた頃。
「よし、帆をあげろ。逃げるぞ!」
 ようやく変わった潮に乗れと、船長が声を張り上げた。誰かが『撤退すると言え』と叫んだが、言い方はこの際どうでもいい。
「あらまあ、根性なしね」
 潮が変わったところで勝機なしと、あっさりと海賊船も引き上げていくのを見た勇花は零したが、根性出されても弓手はもう働けない。初依頼で前線の半分くらいを担ったリュシエンナは膝が砕けて座り込んでいた。フロリゼルは言わないが、さすがに腕が上がらないようだ。
 一人二人、ちょっと暴れたりない者もいたが、船としては甲板で暴れられずに済んで一安心。海賊の噂が事実だったと警戒は続いたが、その後は何事もなくパリまでの旅路を終えることが出来た。
 問題は、料理上手のリュシエンナがへたばってしまったので、料理をアマーリアと三姉妹とヴィルヘルムで作る羽目になったこと。彼女達の腕前に不足はないが、食堂店員のリュシエンナの綺麗な盛り付けを見てしまった後には家庭料理は物足りなく‥‥そのことをぼやいた店員が多かった。

 そうしてパリに到着したら。
「三日も前から、毎日待ってたよ」
 三姉妹の兄が交代で波止場に通っていたようで、三姉妹はすぐに兄達と会う事が出来た。ヴィルヘルムも繋がりがある教会に出向くと、心配ない。
 となれば、冒険者五名もここで解散していいのだけれども、ちっゃかりした船長は、使いまくった矢の数を戦闘時の報酬と差し引きして、全然現金はくれなかったのである。
「報酬がない分、何かご馳走するわよ」
 フロリゼルのお誘いに乗って、そのまま一晩騒いだり、連れまわされたりした。